559 :
302:
「オデュッセウス」の背景SSです。
「こ、ここは…ララァ?」
アムロが目覚めたのは、ごく簡素な病院の個室に似た場だった。どんな夢を見ていたのか、ララァの声が
耳に残っている。
見回すと全て壁に作りつけのベッド、机と椅子、応接セット。地球程度の重力も感じる。
窓もディスプレイも明かりも見られないが、部屋自体がぼんやりとあかるい。
「おれは死んだ…のか?」
ふと、手を見て、少しつねってみた。痛い。
「アクシスを押して…押し出した覚えがある、光に包まれて」
つい今しがたまでの死闘が思い出され、すさまじいショックに体が包まれる…が、何度も経験しているだ
けに立ち直りも早い。数回慟哭に身を任せた後、制御してとにかく深呼吸…枕元の小机に用意されていた水
を飲む。
ベッドから降りる。体のどこにも異常はない。
「ここはどこなんだ?ラー・カイラムではない。あの世か?」
心に、錯綜した情報が入ってきて、ふらりとベッドの手すりに手をついた。やはり多くの違和感を感じる
。
自分が裸であることに気がつき、近くの壁にクロゼットになっているところを感じたので空けてみた…
「な、なんだ?」
そこには最後に自分が着ていたノーマルスーツだけでなく、何十着も旧世紀の様々な時代の服が並んでい
た。
「これも…これも、ぴったりだ。これは…インドの、これは日本の…どうなっているんだ?見たこともない
服もあるぞ」
ごくっと唾を飲み、念のためノーマルスーツに着替えて銃を身につけ、外に出てみた。
いくつか、似たような病室が並んでいる。
「病院?助かって、地球で入院していたのか?」
そう思いたいが、違和感のほうが強い。
560 :
302:2006/04/03(月) 21:34:03 ID:???
そこで肩を叩かれ、振り向いて銃を抜こうとしたが…手を止めた。
「シャア!」
また、一気に様々な想念と疑念が爆発する。
目の前にいるのは素顔で背広姿のシャア…だが、微妙に違和感がある。
「シャアか?」
「アムロだな、しかし…」
シャアにも戸惑いがあるようだ…いや、違和感は…
「何か手術を受けたのか?」
自分がア・バオア・クーでつけた眉間の傷がない。そして全体の年齢も、最近殴りあった時より若く見える。
「そのようだな。多分全身焼けただれていたんだろう。貴様だって同じだぞ」
と、手鏡を出して突きつけた。
それが一番大きな衝撃だった…少し前の自分がそこにいた。そういえば、シャアと同時についた自分の、肩の傷もなかった。
「ここは、どこなんだ?地球だったら、貴様がこうして外を歩いているはずがない」
「ごあいさつだな。私もつい今、ここで目覚めたばかりだ。どうする…早速殺りあうか?」
「…それは後回しだ、まずここがどこか確認しないと」
「地球でないことは確かだ」
「何?」
自分も薄々わかっていることを確認され、怒りがまず出る。
「じゃあどこだ!」
「知らん。誰にもまだ会っていない」
いくつかの個室をノックしてみたが、どの部屋も一瞬ばたばたし、「少し待ってください」とぼやけた声がかかる。
廊下の突き当たりには大きな部屋があった。
「なんだ?」
非常に機能的な椅子が並んでいるが、地球では見覚えがない様式と素材だ。
「わかっているんじゃないか?」
「わかってはいても、認められないこともある」
「それはわかっているというんだ、ニュータイプのくせに愚かだな」
隅に何種類かのドリンクサーバーにグラス、チーズやドライフルーツ、ナッツ、パンなどが積んである。乾杯はせず一杯ずつ飲んだ。
561 :
302:2006/04/03(月) 21:35:48 ID:???
「よ、いいもんがあるじゃねぇか」
懐かしい声に、アムロは自然に「一杯飲むか…」注ごうとして、凍りついた。
「カイ!」
「なんでこんなところでお目にかかるんかねぇ、アムロ。とにかく一杯。オレもわけわかんねぇんだ」
カイ・シデンがそこにいた。
「なんでここに…いや、そう、覚えている最後は何をやった?」
「ん、ごく…うめぇ…おれか?ジャーナリストとして特ダネ狙って、古いMSをちょっとアレして戦場を撮影してたら、おまえがバカやってたの手伝って、そこで起きた」
と、ナッツをつかんでほおばりながら後ろの病棟通路を指差す。
三々五々、ざわつきながら見覚えがある人や見覚えのない人が集まってくる…
「大佐!」
明るい声と同時に、弾丸のように一人の少女がシャアに抱きついてきた。
「クェス!無事だったのか」
「う、ううん…」
激しい恐怖がその目にある。
「落ちついて、話してごらん」
と、アムロがホットミルクを差し出すと、それを夢中で飲んで…熱さにむせ、じたばた…
そのアムロに、背中から抱きついてきたぬくもりがあった。
振り向くと、そこには…
「チェーン!」
激しく抱き合い、熱く口づけをかわす。
「無事だったのか…戦場で、キミを感じていた…」
「ち、あの…え!」チェーンがやっとホットミルクを飲み干したクェスを見ると、激しい恐怖に硬直した。「なぜあなたが!」
「…っ!」
クェスがとまどい…というにはあまりに激しい…をとりあえず憎悪にし、コップを床に叩きつけて…割れなかった…チェーンをにらみ返す。
「一体?」
562 :
302:2006/04/03(月) 21:36:24 ID:???
「…報告します」と、チェーンが胸を波打たせ、心を落ち着かせるために軍の言葉使いに戻り、「私は、あなたに…ああ」もう一度深呼吸し、
「失礼しました、研究用のサイコフレーム試料を届けるため、リ・ガズィを修理して発進しました。その途中で、MSで戦場に出ていたハサウェイ・ノアを発見、救助に向かいました。そこでハサウェイが巨大なモビルアーマー」
「α・アジール」
とクェスが、つぶやくように。
「そうね、やっぱりあなたなのね?」
「そう、ハサウェイが寄って来て色々話してきて、あんたがきて…あたしを撃った、それでとっさにハサウェイをかばって…αは爆発した…はず…」
クェスの声が、なまなましい死の恐怖に震える。
「その通りです。直後、怒ったハサウェイが私のリ・ガズィを撃破しました。私の記憶はそれが最後で、気がついたら…そこの、病室に」
「そうだったのか…やはり、ここは天国なのか?」
「だったら私がここにいるはずがないだろう」
「震えている…シャア、何か…シャア?」
チェーンを抱きしめたアムロが見ると、シャアが、一隅を見てショックに呆然としていた…その表情に一瞬、期待と恐怖が爆発し、その視線の先を見た…
「アルテイシア!」
「兄さん…」
違い、セイラ・マスがいた。アムロの全身が、冷や汗でぐっしょりぬれているのがわかる。
アムロは控えめに抱き合う二人を見、嬉しさに手を出そうとしたがやめて、チェーンを座らせて飲み物を用意した。
「兄さん、なぜ…ハヤトの言うとおりにしてくれなかったの…」
「ハヤト・コバヤシか…彼は立派だった。彼のいったとおり、地球で民主的に政権を取るべきだったかもしれない。だが…私は愚民を信じられな…かった」
「ばか…にいさんのばか!」
カイが、シャアの胸で泣き崩れるセイラの頭に手を置き、
「セイラは、シャアを止めようとして無理やり軍にもぐりこんだ…アクシスを押すのを手伝ったんだよ、な?あと」
と、カイが周囲を見回した。
そこで「クェス!」と、ギュネイ・ガスが彼女の手にすがりついたのがかすかに見えた。
それでクェスから解放され、セイラを座らせたシャアが、知っている部下を数人探して一人一人に声をかけていた。
が、彼が一人の、連邦パイロットを見て凍りついた。周囲の、シャアの部下もだ。
「な、なぜあなたが!」
「え!」
シャア以上に、セイラとカイが驚いていた。
「君は…」
アムロやチェーンには見覚えが、ないようで…ある…
「どうしたの、なぜジオンのみんながあの子にあんな反応を」
チェーンがつぶやく。
「ミ・ミネバ様…」
声が口々にもれた。
563 :
302:2006/04/03(月) 21:37:10 ID:???
「ミネバ?どうして」
そこにいたのは、アムロはジオンのプロパガンダで見たことがある…後に自分たちが殺したと知った…ガルマ・ザビによく似た、ごく若い美女だった。幼い頃の彼女を、何かで見た覚えもあるような気がする。
だが、アムロにはふと違和感があった。
「ミネバ・ラオ・ザビ?で、でも君は…」
「認識番号86486537.ロンド・ベル、ラー・チャター所属ビーズ・ミネ少尉です、アムロ隊長」
その幼いのに複雑な笑顔、敬礼前の微妙な仕草、強い気配には覚えがあった。
「そうだ、君の気配は…訓練の模擬戦でずば抜けた素質を感じた、違和感も…あれは、…そうか、ザビ家の気配だったのか、ソロモンで感じた!でも、顔がぜんぜん違う」
「私の傷と同じ、ということか?」
シャアがつぶやく。
「ああ、そういうことでしょうか。私はあの戦いの後身分を隠して地球に脱出し、その後…いろいろあって」
「わたしが引き取ったの」
と、セイラがミネバの肩を抱いた。
「同じような立場だから…彼女のたっての希望で、整形してロンド・ベルに送ったはずなんだけど」
「私は最後にアクシスを押すのに参加し、機体がオーバーロードで自爆したのを覚えています。その時に整形された体の表面が失われ、遺伝子情報だけから…外見を再現したのでしょう」
「でも、まさか…そんな無茶な治療が、地球圏の技術でできるはずがない!」
「わからないの?ここは地球じゃないからよ」
クェスの声。
アムロはふと思い出した。確かミネバは、ドズル・ザビの娘だ…自分が殺した。あらためて、戦争の重さが胸を貫いてくる。
知っていて、部下として素直に自分に従ってくれていたのか、あの時の表情や言葉…謝ることはできない…謝れるようなことではない。頭を下げるほかなかった。
「ここが地球じゃないなら、なんなんだ?」
見渡すと五十人ばかりの男女がいた。男性が三十、連邦側が…四十ぐらいか。
アムロは頭を集中し、多くの思念とは別に…この、船…そう、船だ…自分の脳?…あった…
壁に歩み寄ると、手を触れた。
「説明してくれ」
と、壁が一瞬で透けた…いや、特殊なディスプレイか…
そこには、数人の美女がいた。
「ラ…」
「ララァ!」
今度こそ、期待と恐怖が。アムロとシャアが声もなく叫ぶ。
「あんたがララァ?シャアはあたしのものよ!」
クェスが怒鳴った。
「あの人が…でも…」
チェーンが消え入るようにつぶやいた。
「ララァ…違う」
「ララァ・スンに、外見と気配はよく似ているが違う。それに君たちは?」
ララァの外見をした女性が口を開いた。
564 :
302:2006/04/03(月) 21:38:56 ID:???
「私はパールヴァティ。本艦、オデュッセウスの指揮統制です…この言葉、古代北方ガリアの変種語、救助した機械にあった原始的な記憶装置にあった辞典の言葉で理解できますか?」
「ああ。ララァじゃないのか?」
彼女はシャアとアムロにとっては狂いそうなほどに、ララァに似た微笑を浮かべ、
「一つの意思と多くの力、ごく原始的な精神感応システムがあなたたちを、時空を越えて本艦のそばに送って来ました。
あらゆる船舶の最優先義務として本艦はあなたがたを救助しました。あなたがたの遺伝子、蛋白質や量子角運動量方向などは本艦を建造した種族と一致していたため、再生治療は容易でした。
あなたたちを助けた意思の主、あなたたち二人の特に強かった記憶イメージを会話のためのアバターとして構成しました」
「なら、その姿でなくてもいいんだな?頼むから変えてくれ」
「そうだ、頼む」
「わかりました、では」
と、彼女が…普通の、よく見かける中東風の美女に姿を変える。
「つまり、オレたちは…ここは、宇宙船なんだな?地球のそばを飛んでいる?」
「どんな状態から治療したの?」
「はい、宇宙船です。ここは私たちの地球から八億光年ほど離れています。皆、乗っていた原始的な宇宙作業機が破壊されており、遺伝子と脳の人格記憶野が無事だった人のみクローンで再生させました」
あまりのことに、全員思考が止まった。
「ば、場所を確認してくれ。救助した残骸に、コンピューターの類があったろう?」
「はい」
「アクセスさせてくれ!」
シャアが言うと、シャアの目の前に床がせりあがり、操作器具が出てきた。
「早めに慣れてください、もうそれは必要ありません。治療時に最低限必要な生体内部品は埋めておきました」
「この周囲の星図…銀河間空間じゃないか、近くに小さな星団がある…え?」
「どうした、シャア?」
「クェーサー定点観測図を見てみろ」
「…あ!ちがう」
「どうやら、あなたがたの宇宙とはどこかで分かれた葉(シート)にあるようですね、ここは」
「シート?」
「複素数の対数関数の、複素平面が何枚も重なって、実軸マイナスの線だけでらせん状につながってるってアレ…なんか頭の中にイメージと数学概念が直接入ってきたぞ」
「どこまで飛ばされたんだ…」
「もう、地球には戻れないのか…」
皆呆然とした…
565 :
302:2006/04/03(月) 21:40:01 ID:???
「で、ねぇちゃん」
と、カイの無遠慮な声が響いた。
「この船ってどれぐらいだ?おれたちみんな、当分食っていけるのか?」
「ご安心を、本艦の資源だけで一兆人は半永久的に生活できます。また、ご希望があれば最寄の居住可能星系にコロニーを作って降ろすこともできます」
「ならいいか、あと…」
「はい?」
「酒や料理の出し方教えてくれ。あと、カメラとレコ」
「はい、ラクシュミー」
立体映像の妖艶な美女が一人出てきて…立体映像とは思えないリアルさ…カイを連れ出した。
シャアが進み出ると、
「まず、この船の船長に会いたい。救助の礼を述べなければ」
「いません。本艦に生きた人間はいません」
「え?」
また、皆びっくりした。
「本艦は古地球年で七十三万八千五百六十二年前年前、小マゼラン・アショーカ第二十六帝国のアーナンダ侯爵が建造し、外宇宙探査、植民のために出発しました。
本艦の航海記録には失われた部分が多くあり、その中の二十五万〜二十一万五千年前の欠損時以降乗員の記録がないため、その間に不明な理由で本艦は放棄されたと思われます。
本艦はプログラムどおりランダムに航行しつつ、この周辺の星図作成と、居住可能星系のスターフォーミングを行っています」
「じゃあ、今のところ…この船に目的はないのか?」
アムロが目を輝かせた。
「はい。故郷帝国への帰還を禁じる以外、特別な命令は残されていません。計算小宇宙のみによる判断、行動は禁止されています」
「計算小宇宙?」
「はい」
と、中央の七歳前後の少女が答えた。
「私が、本艦の…皆さんのデータにあった言語を使うと、エンジンとコンピューターを担当するヘスティアです。
別次元の、一つの特殊な生成の仕方をした超高エネルギーの泡宇宙、宇宙のごく初期の火の玉宇宙に似た、特殊な宇宙をそのために生成してあります。
本艦は構造レベルでその小宇宙と常につながりを持ち、その宇宙での対消滅、対生成をビットとして計算を行うとともにそのエネルギーを得ています。あなた方の範疇から見ればエンジン、コンピューターとして無限といって差し支えないでしょう」
「この船はどんな形をしているんだ?大きさは?」
シャアが言うと、ディスプレイに大きな三面図と立体映像が浮かんだ。
566 :
302:2006/04/03(月) 21:41:20 ID:???
長径二百二十キロに及び、ジャガイモ状小惑星に偽装されている。エンジンのようなものも見えない。皆その巨大さに驚嘆するとともに、一種の失望さえ感じたが、各ハッチ、甲板、砲塔類が開いたときの機能的な美しさにほっとした。
「ただし、ここのゲートから、純粋な物置となる空間につながっています。その容積は発祥地球の月の体積に匹敵しますし、必要があれば拡張できます」
パールヴァティが指し示した。
「装備は?」
くす、と左脇の、気が強い印象のギリシャ風…どこかでそんな彫像を見たことがある…の美女が微笑した。
「あんたたちの原始的な兵器とは、アリとあんたたちの差より離れてるわよ。あたしは戦闘担当のパラス=アテーネー」
「内部には工場もあり、様々な物を再現できます。
救助された残骸やそのデータと、私たちの原始時代の同様な、宇宙進出直後期と比較しても文化がかなり異なりますが、とりあえず、私たちの文明にある古代の記憶や、あなた方のデータから衣類と食料、生活設備をご用意しておきました。
ご不満もあるかと思いますが、できるだけご希望に添わせていただきます。私は生活担当のラクシュミーと申します」
と、カイに色々説明していた女性。
「とりあえず、生きていくだけなら困らないようだな…」
と、シャアがつぶやいた。
「いや、オレたちの地球に帰るんだ!」
アムロが力強く言った。
「非常に困難です。あなたがたがどこから、多元宇宙を隔てる壁すら破って来たかもわかりません。
もちろん、該当する宇宙が発見できればそこの、任意の空間、時間に移動することは時間はかかるものの容易ですが、あなた方の故郷宇宙を発見し、その中からあなた方の故郷銀河を発見するにはどれだけの時間がかかるか見当もつきません。
一つの宇宙であっても、観測可能範囲などは巨大な壁にライトが当たった部分程度でしかないのです」
「だったら、ここでずっと過ごすか?」
「あちこちに植民しても良いかもな、増えすぎたら」
「それとも、この艦を作った文明に接して助けてもらうか?」
「申し訳ありません、それだけは禁止されております。他にも説明することがあります。アムロさん、キャスバルさん」
「え?」
「うえ?」
ラクシュミーにいきなり本名を呼ばれたシャアがびっくりした。
「あなた方がいた操縦室の素材に用いられた、私たちにとっては原始的な精神〜物質感応システムを、あなた方皆さんの新しい頭骨に埋めてあります。必要に応じて、あなたたちは思考だけで本艦や、エミュレートしたあなた方のデータにアクセスできます。
他にも、皆さんの体には補助するための人工物が色々内蔵されています。その大げさな宇宙服も銃も必要ありません、仮に真空に放り出しても平気です」
「ど、どうも」
「サイコフレームを、頭に直接?」
「勝手なことを…発狂しないか?」
とアムロが不安になり、見回したが、ふと気がついた。
「大丈夫だ。ここにいるのは全員、強かれ弱かれニュータイプだな」
「ニュータイプが選ばれて、ここに連れてこられたんじゃないの?」
「人類の革新は、成ってしまっているわけか…」
シャアがつぶやく。
567 :
302:2006/04/03(月) 21:43:00 ID:???
「さて、それでこれからどうするんだ?」
アムロがシャアに話しかけた。
「もう、戦争なんて無意味だな…アムロが言ったとおり、協力して地球に帰るか?皆まず地球に帰りたいだろう?」
全員がためらいがちにうなずく。
「でも兄さん、あなたは…」
「帰ったら死刑だ。だがそれはかまわんよ、私は何人殺したか忘れているわけではない。ラサに落としたあれだけで億単位だろう…」
「一つだけ約束してくれ」
アムロが、銃に手をかけてシャアに。
「この艦なら、簡単に地球を破壊できる…だがそれはやるな、だろう?」
「そうだ!」
「私は地球を愛しているのだ。不安なら、そうだな…私は地球近くまで同行する、だが地球から比較的離れた星に植民地を作り、そこで暮らすさ」
「互いに攻撃しないという保証は?」
「同時に互いに、バカをやらないという抑止にもなる。
では…双方軍としては解散し、今後は一致協力して地球を目指し、同時に希望者はその道上で好きな星があったらそこに植民することにしよう」
シャアの言葉に、あらためて皆が戦争が、軍歴が終わったことを感じ、衝撃を受けていた。
「パールヴァティ、協力いただけますか?それとも、どこかで同様の艦を建造することは」
「私の命令は人間の命令に従うことです。どうぞ本艦をご利用ください」
アムロはブルっと震えた。彼女たち…この艦には、無限の力と知能があるが意思はない。自分たち人間の、意志があるが故の責任の重さがのしかかる。
「で、オレたちのリーダーはだれにするんだ?」
皆が一瞬で固まった。
「ミネバ様?」
「そんな、こんな宇宙の果てのさらに彼方まで来て、ザビ家の亡霊はもう必要ありません!」
ミネバの表情は悲鳴に近かった。
「そうよ…兄さん、責任を取って」
セイラの一言に、シャアは一瞬苦悩を浮かべ、
「わかった。責任を取る…皆を地球に帰すため、全力で働こう。だがアムロ、私に勝ったおまえ」
「よしてくれ、オレは指導者なんてガラじゃない」
「そうだな、わかった…だが原則として民主的、いや皆ニュータイプだ、何事も即座に合意できよう…
じゃあみんな、乾杯しよう。これで軍としては解散だ…もう階級呼称も何も必要ない」
シャアの言葉に、皆…もう、この艦と新しい体、脳に慣れてきたのか、床がグラスを載せてせりあがる…
「母なる地球へ、乾杯!」
「乾杯!」
568 :
302:2006/04/03(月) 21:47:05 ID:???
長々と失礼しました。559、やり直しです
「こ、ここは…ララァ?」
アムロが目覚めたのは、ごく簡素な病院の個室に似た場だった。どんな夢を見ていたのか、ララァの声が耳に残っている。
見回すと全て壁に作りつけのベッド、机と椅子、応接セット。地球程度の重力も感じる。
窓もディスプレイも明かりも見られないが、部屋自体がぼんやりとあかるい。
「おれは死んだ…のか?」
ふと、手を見て、少しつねってみた。痛い。
「アクシスを押して…押し出した覚えがある、光に包まれて」
つい今しがたまでの死闘が思い出され、すさまじいショックに体が包まれる…が、何度も経験しているだけに立ち直りも早い。
数回慟哭に身を任せた後、制御してとにかく深呼吸…枕元の小机に用意されていた水を飲む。
ベッドから降りる。体のどこにも異常はない。
「ここはどこなんだ?ラー・カイラムではない。あの世か?」
心に、錯綜した情報が入ってきて、ふらりとベッドの手すりに手をついた。やはり多くの違和感を感じる。
自分が裸であることに気がつき、近くの壁にクロゼットになっているところを感じたので空けてみた…
「な、なんだ?」
そこには最後に自分が着ていたノーマルスーツだけでなく、何十着も旧世紀の様々な時代の服が並んでいた。
「これも…これも、ぴったりだ。これは…インドの、これは日本の…どうなっているんだ?見たこともない服もあるぞ」
ごくっと唾を飲み、念のためノーマルスーツに着替えて銃を身につけ、外に出てみた。
いくつか、似たような病室が並んでいる。
「病院?助かって、地球で入院していたのか?」
そう思いたいが、違和感のほうが強い。
まだ続きも考えています。基本的にはバーサーカーのような
凶悪な敵に襲われている他作品の漂流者――日本語版現段階の
ローダン、「タイラー」のイツァーク・ハイフェッツ、
「スター・トレック」のボイジャー、ヤマト3の探索艦など――を
拾う展開や、「星界」で星霧化した地球を見て絶望するエピソード
などを考えています。読みたい方はいますか?