SisterPrincess[DarkSide]

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僕の12人の妹の一人の四葉。
四葉はイギリスからの帰国子女で、元気いっぱいの可愛い女の子。
生まれがイギリスとあって英語が得意で、よく皆に、持ち前の英語力を
披露している。負けじと春歌がドイツ語を、亞里亞がフランス語を披露する。

僕が笑いながら見ていると、他の妹達も集まって「またやってる」とばかりに、
それを見て笑っている。

「全く・・・・・なんて妬ましいんだ・・・・!!」

僕は三人が妬ましくて仕方が無かった。
日本で大学を出てひたすら勉強を続けて、英会話こそ授業で経験があるものの、
四葉ちゃんのようにスラスラ喋ることは出来ない。


「妬ましいよ・・・」


ドイツ語とフランス語に関しては文字すら見たことが無いし、ましてや喋ったことも無い。
四葉を妬んで、僕は四葉に陰湿ないじめをした。
四葉の制服を隠したり、勝手に私物を捨てたり、
学校では、僕の仕業と分からないように四葉の
机にラクガキしたり、体育着をトイレに投げ込んでおいたり、
放課後に椅子を三階の窓から投げ捨てたりして、四葉のクラスの黒板に
四葉の悪口を書き連ねて、四葉に呼ばれてもそっけない態度をとった。

春歌と亞里亞にもいじめをしたが、大した反応が無くて面白くなかった。
特に亞里亞は、よく僕の所に来て泣いてきたので、煙に巻いてしまいたくなるだけだった。


次第に四葉は喋らなくなっていき、かと思えば「チェキ!チェキ!チェキ!」と叫びだしたり、
「怪盗クローバー参上デス!」「四葉はワタシが誘拐したデス!」とか言い出したりする。
「四葉ちゃん、何やってるの?」「違うデス!私は美少女怪盗クローバーなのデス!」

本人はシラを切っても周りにはバレバレなのに。


探偵になりたいとか言ってたのに怪盗とか言ったりして、一体どっちになりたいんだか。
自分に構ってもらいたいが為の行動なのだろうが、正直言って関わり合いになりたくなかった。
四葉の様子に、他の妹達も、最初は様子を面白がっていたが、
やがて四葉を避けるようになっていった。それは学校の生徒も
同じだった。
同級生の中には「お前の妹に一人だけ変なのがいるな。頭おかしいんじゃねぇの?」
と言ってくる奴もいた。他の妹達も、同じことを言われたらしい。


四葉は、僕や妹達の後を尾け回すなどの行動をとることが多くなっていった。
前に四葉は、僕や妹達について色々と聞いて回っていたが、誰も口を利かなくなったから、
知り得る手段を変えざるを得なくなったが為の結果とも言える。


四葉から皆が離れていく中、鈴凛だけは、陰で周りを説得したり、体裁を繕うとしたが、
それも全て無駄に終わったと知ったき、彼女も四葉から離れていった。
すっかり孤立してしまった四葉は、次第に塞ぎ込みがちになり、
登校も下校も一人でするようになり、食事も一人でするようになった。
コスプレをして騒ぎ出すことも無くなり、静かになったと思ったある日、
四葉の部屋から話し声が聞こえた。誰がいるのだろうと思えば、四葉が
話しかけているのは、 水飲み鳥のおもちゃだった。


「ワトソンくん、四葉はどうして嫌われてるデスカ・・・・」


すすり泣きながら四葉は水飲み鳥に話しかけていた。
相当今の状況が辛いのだろう。それも当然だけど。



ふと、そんな四葉の様子を見て僕は思った。







 
                    もし・・・あの水飲み鳥を壊したら、四葉はどうなるのだろうか、と。








前に四葉から、イギリスにいる頃から大事にしてるおもちゃだと聞いたことがある。
おもちゃの破壊。僕は一週間後にそれを実行することにした。
もしかしたら四葉は自殺するかもしれないし、 それに備えて、この一週間を四葉の
生きている姿の見納め期間とすることにした。


四葉が散歩に出たときを見計らって、僕は水飲み鳥を床に思い切り叩きつけてやった。


パリンと音を立てて水飲み鳥が砕けた。
ガラス片が床に散らばり、無残な姿を晒していた。
そのまま放置して、四葉の反応がどんなものかを
想像すると堪らなくなった。


四葉は散歩から帰ってくると、それきり部屋から一歩も出てこなかった。
夕食も一人でするようになっていたので、周りも心配せず、いつものことと受け止めていた。

大した反応も無いまま終わってしまって残念だったが、 どうでもよくなった。
どうせ部屋の中で水飲み鳥の名前を呼びながら 泣いてるだけだろうし・・・・。
ヒステリックでも起こすんじゃないかと期待してたんだけど。
それから二週間が経った。
四葉は学校にも来なくなった。
学校から先生が来ても部屋からも出ず、引きこもりになった。
部屋のドアを叩いても反応はなく、ノブを回してみると鍵が掛かっている、
四葉の様子を知ることは出来なかった。

「困りましたね。これでは話をすることが出来ない・・・」

さらに一週間が経ったが、四葉は相変わらず反応を見せなかった。
日を追うごとに「部屋の中で首を吊ってるんじゃないか」「手首を切ってるんじゃないかとか」
学校でそんな噂が立ち始め、 強引にでも、四葉を表に出そうということになった。



その話をしているときに、四葉は学校に現れた。






「キャッホゥ〜、オハヨウゴザイマースデース!!チェキィ〜!!」


驚く皆の前で、四葉は叫んだ。

現れた四葉の格好は、怪盗のコスプレより変てこだった。
頭は半分だけ刈り上げ、顔にはインディアンのようなペインティングをし、
泣き笑いの表情だった。四葉はさらに叫び続けた。

「ゴメンナサイ!全てを兄チャマに捧げるつもりデシタガ、半分だけは、
自由気ままなチェキでいさせ続けてクダサイ!!」

そう言うと、チェキチェキチェキと叫びながら教室を走り回り、
口元をぽんぽんと叩いて「はわわわわ」と奇声を発すると、
窓から身を反転させるように消えた。



四葉の葬儀はしめやかに行われた。 その後は、しばらく慌し日々だった。
学校の先生から、家で何があったのかと聞かれたり、とにかく大変だった
島内の出来事だったので、島の外へ事件が漏れることは無かったが、
長い間、四葉のことについて聞かれた。


12人家族となり、食卓からは誰も座っていない椅子が無くなった。
だけど、違和感は感じなかった。




それから、五年が経った。
僕は今日も四葉の墓へ足を運んでいる。
もういない妹。

だけど、時々聞こえる。
「兄チャマ、チェキデス!」と叫ぶ、四葉の声が・・・



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出典元:『東京伝説 死に逝く街の怖い話』
     "ウェス"と言う題名の話から、ネタを一部抜粋。