ハンガリー語ってどうよ?

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56しい坊
 えー、ちと現物を確認できない状況にあるのですが、可能性としては
2つあります。1つは、本当に誤植の場合ですが、想像するに、恐らく
他の部分でも mu'lt は全て mult と短く印刷されているのではないか
と想像します。

 パソコンが普及するまではハンガリー語のタイプライターには i、
u、u: の長母音のキーがありませんでした。キーの数が決まっているた
めに、仕方がない措置だったのですね。で、建物の表示などでもやはり
それらは表示されませんでした。

 その理由は、ハンガリー語においては上段の母音(狭い母音)[i、
u、u:〜i'、u'、u" ]の区別は重要ではないからです。

 日本語では母音の長短の区別があります。(と言うか、本当は日本語
には長母音はなく、単に短母音を2モラに連続して発音しているにすぎ
ないために、日本語の母音数は長短併せて10個ではなく、5個というこ
とになっていますよね。←ちなみに「拍」は日本では一般に「モーラ」
と長母音で表記されることが多いのですが、このラテン語の mora の o
は開音節なのですが、珍しく短母音なので、僕は「モラ」と表記しま
す。)英語やドイツ語などは発音記号などでは長母音と短母音の対立が
あるように見えますが、本当は「曖昧母音」と「緊張母音」の対立で緊
張母音(はっきりと明瞭に発音する母音)の場合は常に長母音となると
いう属性があるに過ぎないのですね。(緊張母音が無標で、曖昧母音が
有標だったかな?←ゲルマン語は専門外 (^^;)。)で、ハンガリー語の
場合は複雑で、一応、現代ハンガリー語では短母音が無標で、長母音が
有標だとされているのですが、起源的には、ハンガリー語の場合は下段
の a と e(広いe [ε])が短母音が無標で、長母音が有標であるのに
対して、中段の o と e:(狭いe [e])、o: では長母音が無標で、実
は緊張母音で、短母音は曖昧母音に起源を発しており、有標なのです
ね。(だから、ハンガリー語の単語の末尾には中段の短母音は立てな
い!)で、上段の母音は実は母音の長短は中和化しているのです!(つ
まり、本当は区別してない (^〜^;)。)段によって全部性質が違うとい
う、とんでもない仕組みを持っているのです。

 そこで、元々ハンガリー語では上段の母音の記述はあまり厳密ではな
かったのです。想像するに、今岡先生が留学してらした時代にはハンガ
リー語の印刷物でも上段の母音の長音記号は省略されている場合が多
かったのかもしれません。それで短母音で表記されているのだと思われ
ます。