あえて問う!中国語に学ぶ価値はあるか?

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中国 国交30年の現実(35)
第4部 交流の虚と実(5)
減る日本語学習者
優秀な人材は英語圏を目指す

 「本当は大学で物理を勉強したかったんですよ。でも志望学部に入れなくて。日本語
をやるなんて思いもよりませんでした」

 二十三日夜、北京の人民大会堂で開かれた夕食会。日中国交正常化記念ツアーの
日本人客一万三千人のうち、約二千人が大宴会場のテーブルに着いた。日本の代理
店の企画で、三十年前、正常化交渉で訪中した故田中角栄首相歓迎宴でのメニューを
再現−がウリ。

 その接待役には北京各大学の日本語学部学生数百人が動員された。そのうちの一
人、北京外国語大学三年の男子に「なぜ日本語を勉強してるの」と質問したところ、返
ってきたのが冒頭の言葉だった。
 中国では統一入試の成績によって大学や学部が割り振られる。志望先には届かなく
とも、大学の募集定員枠に入る成績をとった受験生は、どこかの大学、学部をあてが
われる。理系志望者が文系へ、ということも起こるわけだ。

         ◇

 中国の日本語学習者が減り続けている。国際交流基金日本語センターの一九九八
年調査では、海外百十五カ国の日本語学習者数は、五年前より三割増の二百十万人
だが、中国では1.8%減の二十四万五千余人。現在は二十二万人と推計されている。
二億人以上ともいわれる英語学習者数との差は決定的だ。

 中国の大学統一入試では、外国語の選択科目に英語、ロシア語と並んで日本語も入
っている。日本語に近い言語構造の母語を持つ朝鮮族やモンゴル族は、習得しやすい
日本語を統一入試で選択することが少なくないという。

 とりわけ東北・吉林省の朝鮮族地域、延辺朝鮮自治州では、中等教育に日本語をと
り入れている学校が百校近くあるという。ところが最近、異変が起こった。「日本語より
英語」という大波のせいである。
 同自治州の琿春市や安図県の教育委員会は昨年、中学の新入生から日本語選択コ
ースを廃止する方針を決めた。国際協力事業団(JICA)はこれまで中国全土に二百七
人の青年海外協力隊員を日本語教師として派遣してきたが、延辺は重点地区の一つ
で、二年前には四人を派遣した。

 しかし彼らは、着任後間もなく思いがけない反応に面食らう。「日本語教師は間に合っ
ているから、次から派遣しないでくれ」「英語の教師が足りないので、英語を教えてほし
い」

 国際交流基金派遣の吉林省教育学院の日本語教師、中新井綾子氏(二九)は、こう
説明する。「英語を必須受験科目にする大学が増えてきたし、就職にも英語力が要求
される。日本語は役に立たない言語になってきたのです」

 北京の某大学日本語学部教師によると、日本語学部を第一志望にして入学してくる
学生は十人に一人もいないという。中には、大卒の資格を取った後は、英語圏へ留学
しようと考え、英語学習に励んでいる学生が少なくないそうだ。

         ◇

 さまざまな要素があるに違いない。基本的には、日本が学生たちにとって魅力がなく
なったということだ、と関係者は言う。
 日本語学習熱が一気に高まったことがあった。中国が改革開放に転じた後の八〇年
代前半だ。当時、高度成長を続けていた日本は、経済発展のモデルとなり、故胡耀邦
総書記の対日友好関係促進策もあって日本語ブームが起こった。日本への留学・就学
熱も八〇年代半ばから高まっている。

 九〇年代が進むにつれ、日本語熱は冷めだす。日本の低迷などの影響もあるが、英
語万能時代の到来のせいだった。中国の国際化やインターネットの普及で、英語が不
可欠になり、小学校から義務教科になった。

 ところが日本への留学者は増えている。昨年度は前年度比一万人増の約四万五千
人。「中国の大学に入れない学生が多い」(中新井さん)としたら、喜んではいられない。
優秀な人材は、日本に見向きもしないというのだから。(中国取材班)

平成14(2002)年 9月 30日[月]
http://www.sankei.co.jp/news/020930/morning/30int002.htm