関口存男について

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220くそ勉強(5)

 泥坊や人殺しばかりではありません。金を溜めて出世する、い
わゆるガッチリした男に云わせても同じで、世の中というやつ
は実に隙だらけで甘いもんだそうです。もっとも、御自分が隙
だらけでお甘い人間は、儲けただけで直ぐ飲んじゃったり、「旦
那」と云われて喜んで飲み屋へ引っぱり込んで振舞ったりなん
かするから金の溜まりようがありませんが、本当に金を溜める男
は「旦那」ぐらいでグニャッとならない。「おれは旦那じゃねえ
んだ、何をこきやがる!!」と思って掛かっているから、料見が
全然ちがいます。普通の人間みたいな顔をしているから普通の
人間だろうなどと思って尻尾を振りながら附いて行くと、何処
へも寄らないで、市電の停留場でさよならとくる。一緒に乗っ
たってダメです。切符を二枚買わされるぐらいなもんですから
な。こんなのが社長になったら大変、――そういう会社に使わ
れている社員らしいのがよくおでん屋で飲んで社長の悪口を云
っているのに出くわしますが、私は隣で聞いていて、「君がたは
甘いね……」と云ってやりたくなる……
 これを『頭でやる仕事』の世界へ置き移して考えてみても、這
般の関係は全然同じで、その事をこれから書いてみたいと思う
のです。