関口存男について

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215くそ勉強(1)
 くそ勉強に就て

    関口 存男

ただモウとにかく机にかじりついて、遮二無二、馬車馬のよ
うに、人に笑われようが、頭の好い人たちにどう批評されよう
が、そんな事には一切お構いなく、めくら滅法に、とにかく勉
強勉強また勉強、「あの男少し頭がどうかしてやしないか」と云
われるほど勉強に凝ってしまって、友達には少々敬遠され、親
兄弟にはトックの昔に見離され、学校の先生には苦笑とも微笑
ともつかぬ或る種の非常に特殊な表情を以って注目され、役人とか、
警官とか、新聞記者とか、犬とか、自動車とか云うような現実
界の不可抗力からは、時々剣つくを喰ったり、どなられたり、
尋問されたり、吠えつかれたり、突きとばされたりしながら、そ
れでも感心に乗るべき電車にはチャンと乗って、家から学校へ、
学校から家へと、マア大体無事にたどり着き、たとえば決して
列車のホームを間違えたために月世界や火星まで行ってしまっ
って、着いてからはじめて気がついた……なんて失敗はしたこと
がないと云う……(これが実に大変な努力なんで、あらゆる夢遊
病的行住坐臥にもかかわらず、こういう些細なところにも如何
に懸命の努力が払われているかという所にも注目して頂かない
と、私が今から紹介しようとする或る種の特種な市民タイプは、神
にも仏にも見離された上、おまけに同胞人類にまでのけ者にさ
れる危険があるのです!)