臨場感を凌駕(ryのガイドライン子育て3人目

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16水先案名無い人
レオナ   :分かっているわ。約束は約束。私達の真意。貴方達が其処にどんな見解を持とうとも、
 それは私達の知らぬ事。ならば、或る意味で高く掲げるが如く。或いはいささか教授するかの如く。
 この愛を語ろう。この終末の空にて、この愛を此処に在らざる子供達へ…。
 始まりを否定せよ。始まりの在らざる事を知れ。終わりを見据えよ。終わりの在る事を知れ。
 その意義。終わりから終わりへと。それはまるで"彼"の見る夢の様に。
 そして願わくば、この愛が此処に在らざる子供達に届かん事を。
ヴェーネ  :それは確か…。エンデを始末する時の…。
レオナ   :そう。これこそが私達の真意。
 生命の誕生は、"始まり"である。何時、誰が、そう言ったのだろう。何時、誰が、そう認めたのだろう。
 遠い遠い昔の話。それを知る事は最早、叶わない。けれど、それは人々の思想の根底に根付き、
 覆し難い絶対的行使力を持った全事象の前提条件<イデオロギー>と成っている。 
 私は、それを虚偽だと思う。何故ならば、全て生命は永遠でない。何時か必ず死に逝くものだから。
 そして死という終焉を確約されたものだから。誕生の瞬間より始まる、死へのカウントダウン。
 それこそは即ち生きて行く過程。その足で立ち上がり、あらゆるものを乗り越えて、
 自分の墓場を目指して歩いて行く。虚しき骸を、棺に納める為だけに。
 そう…。それが生命。死ぬ為に生まれるという、不毛で、虚無で、馬鹿馬鹿しいファクター。
 そう考えれば結局の所、"始まり"などと言われている誕生もまた、終わりに等しいもの。
 終わる為に始まるなどと…。それは始まりではなく、終わりも同然なのよ。
 例えば単純なベクトル演算として考えた場合、その"総和"はゼロ。
 結果至上主義に於ける、最大の絶望。故に言った。
 始まりを否定せよ。始まりの在らざる事を知れ。終わりを見据えよ。終わりの在る事を知れ
 この世界には始まりなど存在しない。何処までも見渡す限り暗澹と、終わりだけが広がっている。
 終わりから終わりへと。何もかもが虚無の彼方に消えて逝くだけ。
 ならば、こう考えては如何かしら。世界とは、"彼"の夢なのだと。
ヴェーネ  :"彼"の夢…?
17水先案名無い人:2010/11/07(日) 19:52:28 ID:dk1+s2EV0
レオナ   :そう。この世界とは、"無"が見ている夢。有に憧れた無が見た、"有である事"の夢。
 しかし、それは悪夢だった。日々ボトボトと新たな生命が垂れ流されて、
 その一方でバタバタと古い生命が消えて逝く。たったそれだけ。
 最終目標、成就の確証、目指すべき場所。そういったものを持たぬまま…。 
 世界の主体者としての見地、世界の管理運営システムの観測者として…。
 世界の全ては、機械的で味気無く、漫然と生と死を繰り返すだけ。
 その実際<リアル>は憧れを辛辣の下に打ち砕き、無はその夢に魘<うな>されている。
 "隣の芝生は青い"などと言っては、何と俗的で所帯じみた事でしょうけれど…。
 詰まる所は、そういう事なのよ。ほら…。耳を澄まして御覧なさい。
 外ではなく内へ。己の内面に象徴として仮想される"無"へ。
 聞こえないかしら?それはそれは苦しそうな、"彼"のうめきが。
ヴェーネ  :貴女には…聞こえるの?
レオナ   :勿論。貴女にも聞こえている筈よ、ヴェーネ。
ヴェーネ  :………。
ミネルヴァ :だからこの世界を滅ぼすと言うのね…。厭世で滅びを求めるのか…。
 或いは使命感でその夢を醒ますのか…。
レオナ   :いいえ、その何れでもなし。無の夢たるその世界の意味は、私達の行動原理のバックグラウンド。
 真の目的は、その上に在る。
ランサード :それは何だ?
レオナ   :子供達への、愛と贈り物。
ヴェーネ  :分からないわね。何故其処で子供達が出て来るのか。
レオナ   :アイシャの死に逝く過程は、余りにも悲愴で凄絶なものだった。幾らケア体制が為されているとは言え、
 結局は家族を離れ施設に隔離されての生活。強いられた得体の知れない病魔との戦い。
 その果てに待ち受けていた、黒い翼。そして尚、悪夢は終わらず。
 グラウンドに棄てられたアイシャは、忌まわしき災厄<ディザスティア>へと変貌した。
 半年にも渡る、嬲り殺しの目に遭った。何百という炎に肌を焼かれ。何百という刃に肉を切られ。
18水先案名無い人:2010/11/07(日) 19:52:44 ID:dk1+s2EV0
 何百という悲鳴と涙を発し。そして死んだ。パーソン共は、その傷だらけの身体を踏み付けて
 歓喜に舞い踊っていた。その日、アイシャは6歳に成った。お誕生日会は、とても盛大だった。
 みんなが御祝いして呉れた。沢山の肉料理が振舞われたわ。何の肉だと思う…。
 あの子に、あんな幼子に、どれだけの苦痛が背負わされたのだろう。
 この子は、こんな苦痛を背負って死ぬ為に生まれたのか?嬲り殺され食べられる為に生まれたのか?
 アイシャが背負わされた苦痛を肩代わりしたくても、それは叶わぬ事。
 私達はあの子を少しも癒す事が出来ず、あの子は小さい身体に全ての辛苦を背負った。
 アイシャの冥福を、大人しく祈る事など出来ようか。
 この身を焼く悲嘆の炎を、消し留める事が出来ようか。
 だから私達は呪った。アイシャの死に関わったあらゆる"もの"を。
 ディスピス。DLG法。パーソン共。そして、私とジョシュア。
ヴェーネ  :………。
ミネルヴァ :貴女とジョシュアが、何故…?
レオナ   :アイシャの親だからよ。私達がアイシャという子供を作ってしまった事。それこそが元凶。
 若し私達がアイシャを産まなければ、彼女の苦しみの全ては回避され、彼女は救われた。
 それでこの世に生を受ける事が無くなろうとも、あの悲愴な末路に比べれば。
 そう。だから私達は結論したのよ。あらゆる悲しみや苦しみから救われる真の救済。それを為す真の愛。
 "生まれて来ない"事と、"生み出さない"事を。故に言った。
 そして願わくば、この愛が此処に在らざる子供達に届かん事を。
 生命を誕生させない事で、全ての悲しみや苦しみから、守り救う事が出来る。
 未来永劫に渡る、"無"に於いての安寧の眠りを与える事が出来る。それが私達の思う、愛と贈り物。
 此処に在らず、未だ生まれず、無と共に在る子供達への…。愛と贈り物…。
 "有"は悪夢です。"有"に憧れてはいけません。"無"の素晴らしきを知りなさい。"無"と共に在りなさい。
 其処にこそ、真にして絶対なる愛と救いが満ちているのですから。
ヴェーネ  :………。
フォクシー :居たよ、そういう奴。ケイオスにも。個人的には賛成も反対もしないけどさ
19水先案名無い人:2010/11/07(日) 19:53:00 ID:dk1+s2EV0
ミネルヴァ :確かに今のこの世界、殊にセラパーソン新生児を取り巻く事情は極めて暗い…。
 アイシャ程極端じゃないにしろ、ディスピスに依って悲しき最期を遂げてしまう子供が居るのは…。 紛れも無い事実だわ。
ニクソン  :私も子供達を失った時は、それに似たような事を考えもしましたが…。
ヤンシー  :でも例えば私は、ドリスと出会えて良かったと思っている。
 ドリスは遅発性ディスピスの所為で、生命こそ取られなかったものの精神に障害を持ち、
 今まで過酷な日々を送って来た。けれど、だからと言って私は
 ドリスが生まれて来なければ云々などとは思わない。
ドリス   :ワタシもそうだよ。おネエちゃんたちに会えて、とっても良かった。
ミネルヴァ :生まれて来ない事で、確かにそういったものは回避出来るわ。
 でもその反面で、色んな喜びや幸せは、生まれて来なければ得る事が出来ない筈よ?
ニクソン  :お願いです。そんな悲しい事を言わないでください。
 我が子が悲壮な死を遂げた、その悲しみに身も心も焼かれているとしても…。終末を渇望する事だけは…。
レオナ   :分かってないわね。貴女達ならば少しは相手に成るかと思ったけれど、やはり月並みな愚者だったか。失望ね。
ニクソン  :何故です…。
レオナ   :熱弁は有難く頂戴するわ。それが貴女達の熱意だという事も分かる。
 けれど全ては既に聞いた事なのよ。遺族会に居た頃に。
 アイシャを産まない方が幸せだったと嘆くと、呆れる程に画一化された答えが返って来た。
 幸せや喜びは、生まれて来てこそ。何が何でも誕生を信じ意味を持たせようとする、紋切型の幸福論。
 生まれる事と生きる事。それらは素晴らしくて美しい。 
 異論は認めない。そんな奴は、人でなしの罪人。
 それは最早イデオロギーさえも超越した、人類の絶対的責務。或いは、人類を"有"に縛り付ける鎖。
 予め用意された公理の如くして、皆が盲信し、馬鹿の一つ覚えに吹聴してみせる。
 無論、"彼ら"とてディスピスで子供を失った、言わば同胞<はらから>に違いは無い。
 しかし、彼らは骨抜きだった。現世での救いと癒し、傷の舐め合いを求め、
 思考を放棄しイデオロギーに迎合。やがて取り込まれ申し子へと転じた存在.
20水先案名無い人:2010/11/07(日) 19:53:12 ID:dk1+s2EV0
 その声に、聞く価値は無い。何故ならば彼らは主体者を放棄し、
 イデオロギーの随行者に成り下がったのだから。
 その発言は、如何なる人間<マイク>を介しようと、
 本質的にはイデオロギーという唯一人の発言者に依って為されているのだから。
 私達が最も忌み嫌う"奴"の発する言葉など、如何して聞く必要が在るだろうか。まったく…。
 世界で最初にこの思想を流布した人間は、神をも騙し得る最高のペテン師ね。
ヴィルジニー:中々面白い物言いだな。嘗て"ハイディ"の考えが読めずに困ったけれど、
 そんな事を考えていたのね。
ミネルヴァ :それで貴女が曰く、私達もまた忌み嫌うイデオロギーの随行者でしかないと?
レオナ   :私達の価値基準を勘違いしている以上は。
フォクシー :なら説明してみなよ。否定はしないからさ。
レオナ   :不幸をマイナス、幸福をプラス、"何も無い事"をゼロとしようかしら。
 貴女達は今、幸福<プラス>を持ち出し、生命とその誕生の意義を説いた。
 そう、だからこそ何も分かっていない。私達が真に求めている所を。
 求めているのは、"プラスである事"ではなく、"マイナスでない事"。
ランサード :同じ事…でもないな。
レオナ   :そう、ゼロという特異にして極端な存在。"マイナスでない事"には、"プラスである事"の他に、
 "ゼロである事"も含まれている。そしてこの中に於いてゼロはプラスよりも圧倒的な優位性を持つ。
 何故ならば、世界を無<ゼロ>に帰する事で、或いは生命を生み出さず無<ゼロ>に留める事で、
 絶対的且つ普遍的に保証されるから。比してプラスは何の目処も立たない。
 或いは現世の流転の中でマイナスに転じる事が無差別で日常的に起きる。
 そのマイナスとは、例えばアイシャであり、例えばディスピスで死んで逝った子供達とか。
 牧師さんの子供達だって。それらは盤石なるゼロとは一転して、おぞましいまでのハイリスク。
 故に私達は、此処に在らざる子供達への愛と贈り物として…。
 ゼロと言う名のぬいぐるみをプレゼントする。
 誕生と生の意義にまつわるイデオロギー。奴を主体とし。人々をその随行者とし。
21水先案名無い人:2010/11/07(日) 19:53:26 ID:dk1+s2EV0
 人々は己が意志に依りて、しかし実はイデオロギー内に予め用意された公理を無思慮に引用する。
 生まれる事と生きる事。それらは素晴らしくて美しい。
 そして人々は、その生命の美学に胸を満たし、新たなる生命を育む。
 無に於いて永遠の安寧に在った子供達を、自分達の都合で"有"というハイリスクのフィールドに
 引き摺り出して来る。これは最早、暴力なのよ。
 子供は生まれて来た時に泣いているでしょう?あれはそういう事。
 能くも私を産んで呉れたな。ハイリスクを背負わされてまでの不確かな幸せなんて、欲しくなかった。
 真なる愛と救いの中で、永遠の無でありたかった。
 怒りと、嘆きと、悲しみ。それこそが彼らの産声。
 ならば私達は生命を否定し、そして実際に行動を起こそう。
 忌まわしい生命の美学<イデオロギー>の下に振るわれる暴力より、無力な子供達を守る為に。
 世界を無に還す。子供達は永遠の愛と救いを得る。
ヴェーネ  :それが貴方達の信念だと言うのね…。決して交わらぬ、二律背反の根底…。
レオナ   :そう、善悪やら白黒で別たれる事の無い、これは相容れ難い各々の"個性"の相違と衝突。
 さながらエンヴィのカジノで大勝負に出る者と、傍観を決め込む者の"それ"の如く。
 誰も私達を責める事は出来ない。現実として、私達と貴女達が
 共存し得ないという運命が横たわるのみ。この世界のデッドラインで互いに争い、
 何れかが潰える事しか…。
ヤンシー  :でも、貴女はそれで良いの?
レオナ   :如何いう意味かしら。
ヤンシー  :アイシャとの思い出は美しい筈。しかしその信念を貫く事は、
 その思い出さえも自らの手で否定するという事。それで良いの?
レオナ   :何度も言わせないで。思い出に意味は無いのよ。
ヤンシー  :でも…そんなの…。
レオナ   :この空の下に生まれて何を得た?何を見付けた?何を残した?思い出が云々などとは、
 所詮は生き残った側の自己整理と自己完結。故人を救わず自らを潤すだけのマスターベーション。
 だが私達は違う。アイシャはどんなに苦しんだ?どんなに悲しんだ?如何すれば彼女を救えた?
 答えは一つ。産まなければ良かった。
22水先案名無い人:2010/11/07(日) 19:53:40 ID:dk1+s2EV0
ヤンシー  :それじゃあ、思い出は…!
レオナ   :要らないわよ!そんなもの!要らないわよ…。そんな思い出など…。
 それと引き換えにして、あの子が救われるのだったら…。あの子から得たどんな喜びも、
 私は棄ててみせる…。笑い掛けて呉れなくても良い…。思い出を呉れなくても良い…。
 だから…。たった一つだけ…。悲しそうな顔を…しないで欲しい…。
 そろそろ…時間のようね。
ミネルヴァ :そんな…!
レオナ   :奇特な女王様。私が消える事が残念なの?
ミネルヴァ :だって…。貴女達は本当は優しい人達だから…。優しさ故にアイシャを思い遣って…。
 その苦しみや悲しみを自分の事の様に思って…。そして悲しみに心を狂わせ、
 非情な世界と現実とを許す事が出来ない…。そうなんでしょう?結局は悲しいだけなんでしょう?
 どんなに理屈を並べていても、心の奥底では今も泣き続けているんでしょう?
 だったら…。その悲しみを私達にも…。たとえ道が排反であろうとも、
 その悲しみを知る事くらいは出来る筈よ…。
レオナ   :知って如何する訳?まさか悲しみを共有する事で、
 排反の道を統合する事が出来るなんて言わないわよね?
ミネルヴァ :それが叶えば、素晴らしい事だとは思っている。
レオナ   :馬鹿馬鹿しい。
フォクシー :おいアンタ。アタシらをナメてんの?御涙頂戴の身の上話なんかしてさ。
 それでミネルヴァが情けを掛ければその言い草。所詮性格は同じだね。
 ラージュのクソババア。
ヴェーネ  :フォクシー。今更何を言っても無駄よ。最早、彼女達には滅びしか見えていない。
 アイシャの影という闇の深遠。その最果てに鼓動していた世界の真実。そして答える救いの在処。
 故に胸を張って、そして力強く、"それ"を目指すだろう。
レオナ   :良く御分かりで。流石は"救世の天使様"。或いは"彼女の原本"とでも言おうかしら?
ヴェーネ  :フォクシーの意見を、一部支持するわ。喋り過ぎなのよ。この糞ババア。