45 :
水先案名無い人:
「失礼」
ぎょっとして、身体が硬直する。声の方向へ動く眼球が、さび付いた装置のようにきしみをあげる感触を生じさせた。
差し込む夕日で真っ赤になった窓辺。そこにぽっかりと黒い穴が空いていた。
丸いシルエット。……生き物? まさか。
「ゆっくり……?!」
「お察しの通り」
球体の身体。人語を発する人面。確かにゆっくりの特徴を備えている。
だがその姿は異様だった。
黒いと感じたのは夕日を背にしていたからではなかった。目が慣れてきてわかったが、身体そのものが墨汁をぶちまけたように真っ黒だった。
頭髪も同様に墨一色であり、ところどころからブラシ状の先端が突出していた。害虫であるイラムシの棘を連想させる。
そして片目だった。右目だけが開けられて、真っ直ぐこちらを見ている。左目側は長く伸ばされた髪が垂れており、恐らくは不自由なそれを隠しているのだろう。
見たことがないゆっくりだった。稀少種だろうか。いや、畸形?
「ずいぶん手間をかけたもんだ」