小3の頃、まだ母と一緒に風呂に入ってたときのこと。
この時期僕は「ちんぽ」だの「肛門」だの下劣な言葉を非常に
好んでいたので、いつもの如く風呂の中でマリオの音程に合わせながら
「ちち、ちんぽぽっぽ。っぽ。ちんぽっぽ、ぽっぽっぽぽぽぽぽ」
無邪気な笑顔で水鉄砲を打ちながら歌っていた。母はそれを聞いて、突然
「ねえ」とにんまりとした笑顔で「チンポマリオ」を歌ってる僕を呼びかけた。
「そんな汚い歌歌わないでさ、あのね…ひひひひひひひ」
何か興味津々、みたいな非常ににやけた顔で僕の顔を見ながら言った。
いつもだったら軽く注意するのに…。かつてない笑顔と態度を現した母をかなり
不気味に思った僕は歌うことを止め、「な、何」と恐る恐る反応した。
「あのね、男の子のアソコって、ちんちんでしょう」
「う、うん」
「じゃあさ、女の子ね、あそこのことなんていうか知ってる?」
「え? ちんぽじゃないの?」
「違うよ。もう一つ呼び名があるのよ」
なんと! もう一つ呼び名があるとな! 脳天に稲妻が落ちてきたかのような
強い衝撃を受け、その呼び名を早く知りたい一心で「えっ、な、なんなのそれそれそれ」
短時間でしつこく聞いた。
「えっとね、これ誰にも言ったらダメよ」
「うんうん!」
「女の子のちんちんは…」
「……」
「まんこって言うのよ」
まんこ……。なんだか光が世界に溢れ出したような、希望に満ちた素晴らしい言葉のように思えた。
東から太陽が昇る……日の出……そんな想像をした。
「まんこ!」 暗記するように呟いた。
「そう、まんこっていうんだけど、これ人に言っちゃだめよ。皆知らないからね」
「まんこ皆知らないの?!」
「うん」
み、皆知らない。。。僕とお母さんだけが知ってる秘密の言葉ナノカア。
しかも女の子のちんちんの呼び方があっただなんて…。数分で数々の感動を与えて
くれた「まんこ。」 なんだか凄まじく嬉しくなり、風呂場で勢いよくこの喜びを抑えきれず体で表した。
つまり浴槽の中で暴れだしたのである。
「うひょーーーーーー! まんこー! まんこちんぽまんこちんぽまんこちんぽ!!」
暴れながら大声で卑猥な言葉がこだまする。母は周囲が心配になったのか、「声が大きいよさっちゃん」
と注意した。だが狂気乱舞している僕の耳にはそんな蚊の鳴くような注意は全く入らず、ますます
叫びはヒートアップした。面白い! なんて面白い言葉なんだ、まんこって! もっと叫ぼう! まんこ!
「まんこおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「黙れええええええええええええええええええ!!!」
母は昔からキレやすい。注意を聞かない僕にキレた母は僕を浴槽に頭から抑え付け、
お湯の中でガボガボ溺れそうになっている僕の頭を水中でゴツゴツと叩きまくり、「愛の躾」をした。
僕は小さい時から体が弱く、この時点までに20回ほど入院経験がある。このショックで翌日、39度の高熱が出てしまった。
母はハアハアと意識朦朧としている僕の看病をしながら、泣いて謝った。「ごめんね。私親失格よね」
高熱が出た今はそんなことなんてどうでもよく、食欲がなくて何も食べれないから僕の大好きな
棒キャンディのアイスクリームが食べたい、と頼んだ。すると母は泣きながら急いで買いに行き、ほんの十数分で戻ってきた。
「わあ」と視界が定まらない状態で棒型のアイスクリームをゆっくりと齧った。だが大好きな棒キャンデーの
アイスクリームも食べれず、「べえ」と吐き出し、あまりに自分が悲惨な状態だったので「うえぇぇええ」と泣き出した。
何も食べれずこのままだと死んじゃうかと思ったからだ。
それを見て母は良心が更に傷ついたのか、「おおおおおお」とゾンビみたいな怖い泣き声を僕の枕元であげた。
―――馬鹿親子の悲しいおもいで。