「ふざけないでください。それに技とかそういったものでは担保になりません。
だいたい安定した収入がないというのがそもそも――」
「時々あるんだよ。大口の顧客がさ。金持ちほどビクビクして生きてる奴が多い。
そういう奴らが泣きついてくるのさ。
誰かに狙われてるんじゃないか――
誰かに呪われてるんじゃないか――
とね。
だいたい、呪いとか呪とかいったものは本来――」
「聞いてません。帰って下さい。」
「あれ?売ってくれないんですか?使いますよ。発剄。」
「いいですよ。使って下さい。発剄とやらを。それで満足したら帰って下さい。」
「ふん。運がよかったな――
今日は、気が乱れちまってしょうがねえ。」
「帰れよ。」
エアコンの効いた店内を出ると、外は、むせ返るような熱さだった。
一瞬にして汗が吹き出してくる。
じりじりと首筋を焦がす日差しの中、乱蔵は歩き出していた。
その後を、一匹の黒猫がついてゆく――
時折、街路樹を抜ける熱風に、かすかな金木犀の香りがまぎれていた。