ガチムチの六尺兄貴のガイドライン 11尺目

このエントリーをはてなブックマークに追加
44水先案名無い人
「コミケ行くかぁ」
室内着を脱ぎ捨てると、シンプルで黒のジャケットを整えた。電車の前に立ち窓が開く。
既に車内にはヲタが乗り、俺のサイフは新刊の精算を待つ。
新木場に着き国際展示場に降りると、朝日に反射して、ピラミッドがそこにあった。
「俺の年二回のコミケだぜ」声に出していう。「男はやっぱコミケ」
やおら肩掛けの鞄から、ズルムケ状態のサークルリストを取り出す、手にボールペンをたっぷり取り、逆手でリストをこね回す、
「ザッ、ザッ」音が俺の勃起中枢を更に刺激する。
「人込みたまんねぇ」列の動きに合わせて、身体を上下させる。
「男のコミケにゃあこれだよ」ラッシュを吸い込む。「スッ、スッ、スッ、スッ」顔から熱くなり、やがて頭の中が真っ白になる。
「マリみて、マリみて」「東館の4・5・6ホール」
頃合いをみてサイフを引き抜く。俺は自分のこの格好が好きだ。
白い新刊だけが手に残り、グレーの肩掛けのバックに、クリアファイルを取り出し、本を仕舞い、左手でリストを引っ張り、右手でヌルヌルと戦果を記入する。
コミケの中の俺は、日本一の同人男になっていた。
「ちきしょう新刊売り切れてるよ」完売が近付くと、いつもそう思った。ラッシュをもう一度効かせ、近隣サークルを追加すると、男へ向かってまっしぐらだ。
「男になってやる」「コミケ一本のほんまもんの男」
「うりゃ、そりゃ」「ザッ、ザッ」しぶきを飛ばしながら、クライマックスをめざす。
「たまんねぇよ」会場の奥から、激しい拍手が起こった。やがて奔流となり、俺を悩ます。
―疲れた― ―もっと買いてぇ―相反する気持ちがせめぎあい、俺はりんかい線のホームに立つ。
「きたっ」俺は切符を手に取り、電車に備える。電車は新木場に向かおうとしていた。
「男一匹!」「ぶちっ」
窓を押し分けて、キモいヲタがしゃくり出される。
夢のような時間が過ぎ、目の前が現実に戻る。