アイラ島のウイスキーといえば、島の男達が、伝統を守って造り続ける、
勇壮なシングルモルトウイスキーとして、世界に知られている。
発芽のあと、麦芽達はモルティング室に集められ、熱と煙で燻され、乾燥させられる。
麦芽は、激しい煙で臭くなるから、そのままの臭いで、ウイスキーとして出される。
俺はいつもそれが狙いだ。
売られているウイスキーの、できるだけ臭い奴を10数本ほど、
こっそり買って家に持ち帰る。
そして、深夜、俺一人のアイラモルト飲み比べが始まる。
ppmの高いアイラモルトは、ピートの臭いがムンムン強烈で、俺の性感を刺激する。
グラスの中のウイスキーは、もうすでに痛いほど臭いを放っている。
グラスの中に鼻を埋める。臭ぇ。
ピート臭、フェノール臭や、シェリー樽独特の甘酸っぱい臭を、胸一杯に吸い込む。溜まんねえ。
臭ぇぜ、ワッショイ! アイラモルトワッショイ!と叫びながら、グラスの臭いを嗅ぐ。
嗅ぎ比べ、一番ピート臭がキツイやつを主食に選ぶ。
そのウイスキーには、樽の粕までくっきり沈んで、ツーンと臭って臭って堪らない。
そのウイスキーを造った奴は、アイラ島で一番威勢が良かった、五分刈りで髭の、40代の、
ガチムチ野郎だろうと、勝手に想像して、鼻と口に一番臭いグラスを押し当て、
思いきり嗅ぎながら、ガチムチ野郎臭ぇぜ!俺が飲干しててやるぜ!と絶叫し、
臭いをいっそう激しく嗅ぐ。
他のウイスキーは、ブレンダーのようにテイスティンググラスに注ぎ、
ガチムチ野郎のウイスキーを口に含みながら、ウオッ!ウオッ!と唸りながら飲む。
そろそろ限界だ。
俺は一気にグラスからウイスキーを引き出し、ガチムチ野郎のシングルモルトを、思いっきり飲む。
どうだ!ピート臭いか!俺も臭いぜ!と叫びながら飲み続ける。
本当にアイラ島に居る気分で、ムチャクチャ気持ち良い。
ガチムチ野郎のシングルモルトは、俺の肝臓で小便に分解される。
アイラモルト、貴様はもう俺のもんだぜ!
俺のテイスティングが済んだあと、他のウイスキーとまとめて、押し入れにしまい込む。
押し入れにはそんなアイラモルトがいくつも仕舞ってあるんだぜ。