夢枕獏の文体のガイドライン 3っ

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836水先案名無い人
誰が、決めたというのだ。
貴族――
平民――
同じ、人間ではないのか。
「何故、わたしたちだけが、ひもじい想いをしなければならないのか」
「ふふん」
あるがすは、野良犬でも見るような、哀れみの視線で、答えた。
「同じ、人間だと?」
あるがすの眼が、蔑んだものに変わっていた。
糞でも見るかのような、そういう眼である。
「おまえたち平民は、生まれたときから、貴族に尽くさねばならない――
おまえたち平民は、生まれたときから、貴族の家畜なのだ」
みるうーだは、あるがすの視線を受けながらも、なお、問うた。
「誰が、決めた!? そんな、理不尽なことを、誰が、決めたというのだ」
あるがすは、天を仰いだ。その眼には、もはや、悲しみすらうつっていた。
あるがすは、ごろりと、重いものを転がすように、言った。
「天の、意志だ――」
837水先案名無い人:2007/01/19(金) 19:20:17 ID:RNqfuukx0
みるうーだは、絶望した。
もはや、駄目かも知れぬ――
しかし、その絶望が、疲れきったみるうーだに、更なる問いを生んだ。
それは、消え入りそうな声で、閉じかけた端正な唇から漏れた。
「神は、平等のはず」
独り言のように、みるうーだは、続けた。
その眼は、あるがすを見てはいなかった。
みるうーだは、神に問うていた。
「神の前では、何人たりとも、平等のはず。神は、そのようなことを、お許しにはならない。
なる筈は、ないのだ」
みるうーだの頬に、流れるものがあった。
それは、透明な温度をもっていた。
みるうーだは、泣いていた。
幻の神に、縋る様な笑みを浮かべ、泣いているのだ。
あるがすは、それを、金属質の冷たい目で見ていた。
ああ――
こいつは、正しい。
そうだ。
神は、平等であるのだ。
だからこそ、許せぬものがある。
何人に対しても平等な、海よりも深い懐を持つ、そういう神であるからこそ、
訂正をしなければならない。
神に対する、冒涜を、抹殺しなければならない。
あるがすは、出来る限りの皮肉と憎しみをもって、みるうーだに言った。
「家畜に、神はいない――」
みるうーだの神は、その言葉で、みるうーだの前から、姿を消した。
838水先案名無い人:2007/01/19(金) 19:25:16 ID:RNqfuukx0
「おきゃああああああああああああ!!!!!!」
みるうーだは、剣を滅茶苦茶に振り回しながら、あるがすに突進した。
「おけえっ!!」
あるがすは、それに合わせるようにして、剣を抜いた。
勝負は、三秒でついた。