魂の話を聞かせてほしいと──
瞳を逸らさず見つめてほしいと──
あいつはそう言っていたのだ。
貴方は、私が、何処にもいないものと思っているのでしょう、と。
木の上にいるのは女だ。
たった一人の女だ。しかも、このジャングルの中でドレスをまとっている。
その女が、俺の部隊の兵士たちを次々に射ち殺している。
部下が一人死ぬたびに、俺の中で、ふつふつと何かが高まっている。
見えない場所まで走る。ただひたすらに走る。
お前はそう言いたかったのだな。
なるほど、それならば、間違っていたのは俺だ。
ガルザの襲撃と見て、甘く見ていたのだ。
いらない飾りを振り捨て、心を剥き出しにしたくらいでは駄目だったのだ。
あの女に立ち向かうには、それでも荷物は重すぎるのだ。
頭。
胸。
額。
こめかみ。
心臓。
水月。
女は上下左右、どこにも避けられない精確さで銃弾をぶち込み、その都度、兵士たちが倒れていく。
そして、無言で告げている。
気づかなければいけないと。
分かっている。
分かっているぞ。
二人を結んでいるのが、吹けば飛ぶような夢だけだということを。
いいだろう。それならば、俺もまっすぐに駆け上がろうではないか。
全てを見せるという星の導きに背き、空にある扉に向かって、何処までも行こうではないか。
行ける。
行けるぞ。
本当のお前と本当の俺が出会える場所まできっといけるはずだ。
運命に背いたのだ。
涙も散らしたのだ。
それでも会いたい。
お前の魂の話を聞かせてくれ。
瞳を逸らさず見つめてくれ。
だが、躊躇っている。
そう思いながら、俺は躊躇っている。
香り立つ金木犀の花びら。その黄色い寂しさにさえ振り向かず、二人は何処まで行くつもりなのだ?
ただならぬ気配に脅えた鳥たちの鳴き声。そして、炎のはぜる音。山鳴り。
そういったものが入り混じり、炎の前で高く手を掲げたドレスの女の背後から、乾いた流行の笑いのように響いてくる。
やあああんまあああああああにいいいいいい
やあああんまあああああああにいいいいいい
やあああんまあああああああにいいいいいい
いけない。
こんなものを聞かされてはいけない。
俺も叫びたくなってしまうではないか。
今だけの慰めなど要らぬ。
お前の真ん中が見たくて、腹の底から、俺も知らぬ獣が答えようとしているではないか。
やああああいいやああああああああああああ
やあああんまあああああああにいいいいいい
やあああんまあああああああにいいいいいい
やあああんまあああああああにいいいいいい
やああああいいやああああああああああああ
たまらぬマドラックスであった。