笑えるア刈カンジョークのガイドライン - ブ6ンド

このエントリーをはてなブックマークに追加
491世界の蝶番はうめく1
 エイジンハートの著書によると、世界の蝶番のひとつは、
イザルコ川の北、グロックナー高地に近いカルニケ・アルプスの山中にあり
(注:北イタリアにあるヨーロッパ最大の山脈の一部。東部アルプス)、
もふひとつの蝶番はベーザー川の河口の沖合いに連なるフリージア諸島のバンゲローゲ島
(オランダに程近いドイツ北西の半島に連なる諸島群の最北の島。ヴァンガーオーゲ島)にある。
どちらの蝶番も鉄製だ。
 そして、長い時代または短い時代を経たあと、両側の蝶番の回転でくるり、
とひっくりかえるのは、『ドイツ』という巨大な国ぜんたいだ、と彼は書いている。

 この反転が起きる前兆といえば、世界の蝶番がうめきをあげる音だけであり、
しかもその音に人びとがおびえるいとまもなく、短時間でやんでしまう。
それまでにあった土地と交替して、大地の底から新しく持ち上がった山も、川も、町も、その住人も、
以前とまったく同じ外見をしている。
その土地とそこの住人は、自分たちが新しく交替したことを知らないが、隣人たちはいずれ気がつくかもしれない。
どんでん返しのあと、よその人々が新しい土地を見ても、どこかに違いがあるはずなのに、
古い土地とまったくちがいがないように見える。その土地も、そこの住人も、交代する前とおなじ名前を持ち、
同じ外見をしているからだ。
492世界の蝶番はうめく2:2005/06/10(金) 23:06:08 ID:/aihKtLs0
ところで、エイジンハートよりも八百年前に書かれたストラーボの著書によると、
世界の蝶番はアルメニア高原にある、とされている。
そのひとつは、古代アルメニアのカスピ海への突起部、いまのアゼルバイジャンの一部であり、
もうひとつはアララト山そのものの上にある(この山は、最古の時代から”世界の蝶番”として知られていた)。
ストラーボによると、カフカス山脈(http://nishimoto.ddo.jp/cokasasu.gif)ぜんたいが、
そこの住人とか山羊とかそんなものを乗せたまま、くるりとひっくりかえるらしい。
そして、この地方を回転させる蝶番は青銅だという。

 一方、エルピディウスの説によると、世界の蝶番のひとつはアンドラのアネト山
(別名、アンシアーノ・ゴスネ・デル・ムンド)にあり、もうひとつはピスケー湾のアンダイエにある。
ここでひっくりかえるのはピレネー山脈(フランスとスペインの国境をなす山脈、アネト山は最高峰である)であり、
このどんでんがえしは常に長い時代を経たあとで起こる、という。
また、現在この地方を占有しているバスク人は地下からきた人びとであり、交代する以前に比べて、
よりいっそうバスク人的である、という。この蝶番は水晶であるらしい。

 これら三人の著作家は、こうしたどんでんがえしを『レボリューション』と名付けたが、
後世の小著述家たちは、この名称にもっと違った意味のひねりを加えた。この三人の報告はきわめて首尾一貫した要素が認められるし、
また彼らの記述には、あまりにも奇々怪々ではあるが、しかし、到底作りごととは思えない側面も多々見受けられる。

が、この三人の記述はぜんぶ、嘘だ。

 三つの地域のどれをとっても、どうしてそれを蝶番でひっくりかえせる、というのだろう?
ひっくり返った後も、ある人間がおなじ名前を持ち、おなじ外見をしているのであれば、前とおなじ人間のはずではないか。
そして、三人の専門家が三人とも、どんでんがえしの際に世界の蝶番が苦しそうなうめきを上げる、と書いているが、
この世界ではそんなうめきは始終聞こえているではないか。
493世界の蝶番はうめく3:2005/06/10(金) 23:07:06 ID:/aihKtLs0
 だから、この広い世界で本当にどんでんがえしが起こる唯一の地域は、これら三つの地域から地球を半周した先にある。
つまり、西マルク諸島(http://www.bali.co.jp/indoesiamap/indonesia.htm、インドネシア東部の島)だ。
蝶番の一つはモロタイ島のベレベレのすぐ北にあり、もうひとつはジロロ島、別名ハルマヘラ島のガネディダレムにある。
このふたつこそ正真正銘の世界の蝶番であり、硬木のカボックで作られていて、しかもたっぷり油までさしてある。

(中略)

 この広い世界を見渡しても、世界の蝶番が実際に反転して、あたり一帯が『レボリューション』を経験する場所は、
西マルク諸島のここだけである。
ほかの土地の話はおそらく作り話だろう。
 最近アルメニア高原から帰ったばかりの男に聞いた。彼はそこの蝶番を調べてみたが、
長年のあいだに青銅はすっかり緑青を吹いていたという。おそらくノアの洪水が引いて以後、
どうやら一度も反転したことがないらしいのだ。まあ、もっとも、仮にアルメニアでどんでん返しがおきたとして、
誰がそれに気がつくだろう。
アルメニア人をさかさにしても、ちがいはわからない。頭の先も足の先もおなじように見える。
494世界の蝶番はうめく4:2005/06/10(金) 23:08:22 ID:/aihKtLs0
 それにドイツだが、カルニケアルプス―ワンガーオーゲ島の蝶番はどちらも鉄で、赤錆に覆われている。
その蝶番が最後に反転したのがいつだったのか、だれも知らない。
だが、もしいま反転したならば赤錆の状態から察して、きっと世界中に聞こえるほどのうめきを立てることだろう。
それに、もしこのヨーロッパの中心にある大国がこの二〜三世紀のあいだに反転したとすれば、
きっとなにかそれらしい気配があるはずである。
ジロロ島の『レボリューション』に比べられるほどのそれは恐ろしい事件が起きたはずだ。
なぜなら、そこの住人と土地は、おなじ名前を持ち、おなじ外見をしていても、
それほど微妙ではない流儀で、計り知れないほど違ったになり、ぞっとするほど暴力的なことをしでかしたはずだからだ。

われわれの時代や、父の時代、祖父の時代にそんな出来事が起きたという報告が果たしてあっただろうか?

 そしてピレネー山中だが、最近であれ、大昔であれ、ここの蝶番が反転した様子がどこにうかがえるのだろう?
水晶は錆びはしないが、ほうっておけば曇りが付くものだと。

ところで、カニグー山についてこんなことを言った人間がいて、
ワタシはそれがもしかしたらピレネー山脈全体とそこに住むすべての人々に当てはまるかもしれない、と考えている。

つまり、その山は永久に変わらず、朝ごとに新しく作り出されるというのだ。
アネト山とアンダイエの蝶番はだから、まったく反転しないか、毎朝反転しているかのどちらなのだろう。

おわり