親愛なる金田一京助君へ。
研究書の出版おめでとう。君がこれを読むときは、
おそらく俺はもう合わす顔がないだろう。
だから、出版祝いの代わりに聞いて欲しい。
金田一君、いいか、どうか金を貸してくれ。
俺、思うんだ。悲しい句も、幸せな句も、
とにかく俺のどうしようもない生活から生まれたんだって。
悲しいことに、芸術は往々にして生活の足しにならず、
家族が病人に姿を変えることもあるだろう。
そんなわけで、盛岡のころを思い出して欲しい。
自分の名を呼んで涙し、心は空に吸われたあのころを。
どうか、金を貸してくれ、金田一君。
傷つくことを怖れず、真っ直ぐに金を貸してくれ。
あなたに出会えて、本当に幸せだった。
石川啄木、永遠に詩人の心とともに。