165 :
こんな感じ:
夕暮れの屋上。
「懐かしいメロディーと思ったら、貴女だったのね」
みなもはハーモニカを吹くのを止め、入り口のほうを振り返った。
「やっほー!元気だった?」
声をかけてきた女子生徒はみなもの知らない人だった。その女子生徒は
微笑みながらみなもに近づいてきた。
「もう、あれから何年たったかな?」
みなもは困惑していた。目の前の女子に見覚えはないはずなのに、その
女の子は親しい友人のように話しかけてくるのだ。一生懸命頭を回転さ
せても目の前にいる女の子の名前はおろか、顔さえも浮かび上がってこ
なかった。
気づいて時には、その女の子はみなもの手を握りハーモニカに触ってい
た。
「本当に大事にしてくれていたんだね、ありがとう」
女の子は目を細め、ハーモニカを懐かしそうに見つめていた。みなもと
真との約束の証を、見知らぬ人、しかも女の子に遠慮なく触れていた。
大事な約束、まこちゃんとの大事な約束なのに!!みなもは気づいたと
きには、そのなれなれしい女の子を突き飛ばしていた。
「なんなんですか!?貴女は!これは大切な約束の証なのに!」
怒りの混じった叫びに、さきほどの表情は吹き飛んでいた。
「みなも、どうしたの?」
女の子の心配した瞳に射抜かれながらも、みなもは怒りに任せて風を呼
んでいた。
「まこちゃんとの思い出を汚さないで!」
この声とともに、その女の子は吹き飛ばされていた。
166 :
こんな感じ:05/01/23 16:58:54 ID:4+CJE32p0
「まことおねーちゃん、どこなの〜?」
開け放たれた扉の隅に赤い毛が揺れていた。みなもの風に吹き飛ばされた
女の子は声の主の目の前にたたき付けられていた。
「うにゃ。お、お姉ちゃん!」
先ほどの声の主、赤い髪が揺れる女の子は、叩きつけられた女の子に近づき
介抱を始めた。外傷はないようだ。呼吸もしっかりとしている。ひとまず安
心した赤い髪の女の子は、お姉ちゃんの飛んできた方向を見た。そこには夕
日を背にした青髪の女子生徒が立っていた。青髪の女子生徒は夕日を背に近
づいてきていた。手をかざすと、その顔には見覚えがあった。
「みなもお姉ちゃんなの?」
その一言は怒りに染まったみなもの心に染み渡り、正気に戻させた。
「ひなたちゃん?」
「うん。それよりも、真お姉ちゃんはどうしてここに叩きつけられ理由を、み
なもお姉ちゃんは知ってる?」
「『真』お姉ちゃん?」
「うん」
みなもはもう一度、自分が吹き飛ばした女の子の顔を見た。じっくり見た。
優しそうなあの顔、あの色の髪……、知っていた。しかしみなもは否定した。
そんなはずはない。この娘は女の子で、みなもの知っているあの人は男の子
のはずだ。でもあの人の妹のひなたちゃんはこの娘をお姉ちゃんと呼んでいる。
そうだ同名の誰かに違いない。それを確かめようとした。
167 :
こんな感じ:05/01/23 16:59:43 ID:4+CJE32p0
「ひなたちゃん、この娘ってひなたちゃんの先輩とかなの?」
「え、何言ってるのみなもお姉ちゃん。真お姉ちゃんはひなたのたった一人の
私のお姉ちゃんだよ」
みなもの思いは届かなかった。もう一度問いかけた。
「え、ひなたちゃんってお兄さんとの2人兄妹でしょ?」
みなもの問いにひなたは少しあきれた顔で。
「え、違うよ〜。ひなたは真お姉ちゃんとの2人姉妹だよ。ま確かに真お姉ちゃ
んは小さいころはズボンとかばっか着て、スカートはほとんど履いてなかったけ
ど……」
望みは絶たれた。みなもは自分の手からハーモニカが零れ落ちるのを感じた。全
身から力が抜ける……。ハーモニカが床に転がるきれいな金属音が聞こえていた。
暗い、落ちる寸前、ひなたちゃんが自分に向かって走りこんでいる姿を見た気がし
た。
「みなもお姉ちゃーーん!!」