眞子様を助ける妄想のガイドライン その3

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1 ◆.Mako.rU7E
俺は既にこんな妄想をしているぜ!!


暴漢3人組:《おいねーちゃん、俺たちと付き合えよ!ゲヘー》
(悪のテーマみたいな低音の音楽が流れ続ける)

眞子様:†やっ、やめてください!人を呼びますよ!†

暴漢3人組:《ハハッ、周りを見てみー!みんな見てみぬフリやで〜?誰も助けちゃくれないよ〜ん♪》

俺:「待てィ!!」(ここでヤッターマンのOPテーマの様な正義の音楽に切り替わる)
俺:「か弱き乙女に狼藉を働く悪党は許さん!くらえ!【狼牙風風拳!】(←俺が日々の妄想の中であみだした必殺技)」

暴漢3人組:《何じゃワレァ!野郎共!やっちま‥あべし!ひでぶ!ぱごァ! お、覚えてけつかれこのド阿呆!》

俺:「正義は負けない!」

眞子様:†あ‥ありがとう。あなたのお名前‥†

俺:「名乗る程ではありませんよ、お嬢さん!では!」(去り際にそば屋の自転車にぶつかってバカヤローと言われる、眞子の方を振り返って照れ臭そうに笑う俺)

眞子様:†ステキ!あの御方とお付き合いがしたい†
2水先案名無い人:04/11/22 21:49:52 ID:R5SsZL4Q
↓1+1=?
3水先案名無い人:04/11/22 21:49:57 ID:nUOSB7v1
眞子様を助ける妄想のガイドライン
http://that3.2ch.net/test/read.cgi/gline/1082454048/
眞子様を助ける妄想のガイドライン その2
http://that3.2ch.net/test/read.cgi/gline/1094825439/1-239
4水先案名無い人:04/11/22 21:50:24 ID:IP2TMOe/
また立てたのか、懲りないな。
いいかげんこんな不敬な糞スレは終了するべきだ。

====== 終了 ======
5眞子様を汚すスレを潰す会:04/11/22 21:52:29 ID:AJZ6WApo
眞子様を汚すスレは皆殺しだ。
6 ◆.Mako.rU7E :04/11/22 21:53:56 ID:nUOSB7v1
眞子様を助けるには俺たちの粘り強い忍耐力が必要なのだ。
そう、たとい藤村のような人生負けっぱなし27歳(独身)でも・・・。
7水先案名無い人:04/11/22 21:53:56 ID:AJZ6WApo
俺は既にこんな妄想をしているぜ!!


暴漢3人組:《おいねーちゃん、俺たちと付き合えよ!ゲヘー》
(悪のテーマみたいな低音の音楽が流れ続ける)

眞子様:†やっ、やめてください!人を呼びますよ!†

暴漢3人組:《ハハッ、周りを見てみー!みんな見てみぬフリやで〜?誰も助けちゃくれないよ〜ん♪》

俺:「待てィ!!」(ここでヤッターマンのOPテーマの様な正義の音楽に切り替わる)
俺:「か弱き乙女に狼藉を働く悪党は許さん!くらえ!【狼牙風風拳!】(←俺が日々の妄想の中であみだした必殺技)」

暴漢3人組:《何じゃワレァ!野郎共!やっちま‥あべし!ひでぶ!ぱごァ! お、覚えてけつかれこのド阿呆!》

俺:「正義は負けない!」

眞子様:†あ‥ありがとう。あなたのお名前‥†

俺:「名乗る程ではありませんよ、お嬢さん!では!」(去り際にそば屋の自転車にぶつかってバカヤローと言われる、眞子の方を振り返って照れ臭そうに笑う俺)

眞子様:†ステキ!あの御方とお付き合いがしたい†
8水先案名無い人:04/11/22 21:54:54 ID:AJZ6WApo
俺は既にこんな妄想をしているぜ!!


暴漢3人組:《おいねーちゃん、俺たちと付き合えよ!ゲヘー》
(悪のテーマみたいな低音の音楽が流れ続ける)

眞子様:†やっ、やめてください!人を呼びますよ!†

暴漢3人組:《ハハッ、周りを見てみー!みんな見てみぬフリやで〜?誰も助けちゃくれないよ〜ん♪》

俺:「待てィ!!」(ここでヤッターマンのOPテーマの様な正義の音楽に切り替わる)
俺:「か弱き乙女に狼藉を働く悪党は許さん!くらえ!【狼牙風風拳!】(←俺が日々の妄想の中であみだした必殺技)」

暴漢3人組:《何じゃワレァ!野郎共!やっちま‥あべし!ひでぶ!ぱごァ! お、覚えてけつかれこのド阿呆!》

俺:「正義は負けない!」

眞子様:†あ‥ありがとう。あなたのお名前‥†

俺:「名乗る程ではありませんよ、お嬢さん!では!」(去り際にそば屋の自転車にぶつかってバカヤローと言われる、眞子の方を振り返って照れ臭そうに笑う俺)

眞子様:†ステキ!あの御方とお付き合いがしたい†
9水先案名無い人:04/11/22 21:56:00 ID:IP2TMOe/
>>6
眞子様を助けるにはまずこの不敬な糞スレを潰すことが重要だ。
10水先案名無い人:04/11/22 21:56:26 ID:AJZ6WApo
眞子様を助ける妄想のガイドライン
http://that3.2ch.net/test/read.cgi/gline/1082454048/
11水先案名無い人:04/11/22 21:57:58 ID:AJZ6WApo
ヽ从^▽^从ノ
12水先案名無い人:04/11/22 21:59:29 ID:AJZ6WApo
ここは俺の未来の妻・眞子様に関するSSを書くスレです。
13水先案名無い人:04/11/22 22:01:00 ID:AJZ6WApo
新スレと眞子様に幸あれ
14水先案名無い人:04/11/22 22:01:48 ID:IP2TMOe/
荒らし応援上げ。

眞子様を辱めるスレを全て滅ぼせ。
15水先案名無い人:04/11/22 22:02:30 ID:AJZ6WApo
眞子ってなんて読むの?
16水先案名無い人:04/11/22 22:04:01 ID:AJZ6WApo
まんこ



と答えたくなる衝動を必死で抑えました
17水先案名無い人:04/11/22 22:05:32 ID:AJZ6WApo
【狼牙風風拳!】
>>1 はヤムチャ?
18水先案名無い人:04/11/22 22:07:03 ID:AJZ6WApo
新スレ立ったんですね。>>1乙です。
新スレを祝して久しぶりに何かSS書こうかな、
とか思ったんだが、さしあたってネタが思いつかん…。

実は、以前書いてた「嗚呼!」を連発する長編の後日談とか構想してるんだけど、
なかなか時間がとれんのよ。ええトシこいて受験生なもんで。

とりあえず即死回避パピコ。
19水先案名無い人:04/11/22 22:08:34 ID:AJZ6WApo
左右召喚age
20水先案名無い人:04/11/22 22:09:48 ID:gpEzwUZS
今日女子トイレで女3人組にスカートを切られそうになっている
眞子様を助けました
21水先案名無い人:04/11/22 22:10:06 ID:AJZ6WApo
昨日のTBSの皇室番組で愛子の目にうっすらと二重が
22水先案名無い人:04/11/22 22:11:37 ID:AJZ6WApo
呼び捨てとは失敬な!

昨日脳内の皇室番組で眞子様のほっぺがうっすらとした羽二重餅に見えた
思わず吸い付きたくなった
23水先案名無い人:04/11/22 22:13:10 ID:AJZ6WApo
こっちもよろしく

眞子様のSSを書くスレ Part1.5
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/test/read.cgi/mako/1094828391/
24水先案名無い人:04/11/22 22:14:41 ID:AJZ6WApo
また腐ったスレが一つ増えた。
「これでコテハンデビューだ!」
「メンヘル板の有名人だ!」
「相談にものっちゃうぞ!」
がドキドキしながらたてたスレは、
大方の予想通り(を除く)、どうしようもないレスばかりがついた。

ここではあわてふためく。
1 「ネタだったことにしちゃおうか?」
2 「自作自演で盛り上げようか?」
3 「逃げ出して別のスレでもたてようか?」
さあ、いったい、どれを選んだら良いのでしょ〜か?

1を選んだへ。
それは「ごまかし」です。あなたは「嘘つき」です。

2を選んだへ
それは「まやかし」です。あなたは「嘘つき」です。

3を選んだへ。もう書くのが疲れました。
言いたいことは上と同じです。

そろそろ認めるべきです。
あなたは自己顕示欲だけはいっちょまえだが、 その欲望を満たすだけの能力がない。
努力はしないくせに、注目を浴びている自分ばかり妄想している。卑屈な笑いだけが特徴のつまらない人間だ。

せっかく必至で考えたコテハンが無駄になってしまいましたね(笑)
そして今日も良い天気!
25水先案名無い人:04/11/22 22:16:12 ID:AJZ6WApo
すまん誤爆しました。
26水先案名無い人:04/11/22 22:17:43 ID:AJZ6WApo
「プールの中で走ってはいけないぞ。腰洗い槽だったからまだよかったものの、転んで頭を打ったらどうする」
姫殿下が強い口調でお叱りになった。
「ごめんなさい、お姉様……」
俯かれたカコ様の制服からは水滴が滴り落ちている。
おれは1歩進み出て奏上した。
「姫殿下、私がプールのことを申し上げたのがいけなかったのです。お叱りは全て私が甘受いたします」
姫殿下はおれが頭を下げようとするのをお手でとどめられた。
「いや、そなたに落ち度はない。カコ、藤村の側についていなさい。勝手に走りまわってはいけないぞ」
「はい、お姉様」
カコ様はすっかり小さくなっておられた。
「帰りはわたしの体育着を着て帰りなさい」
「ありがとうございます、お姉様」
姫殿下はひとつため息をつかれると、表情を和らげられた。
「それでは皆さん、演奏をよろしくお願いします」
ひとつ頷いた新井さんがタクトを振ると、バンドは『雨に唄えば』を吹き始めた。
彼女たちを引き連れた姫殿下は更衣室を通ってプールにお入りになった。
カコ様とおれは行列の最後尾についた。
「びしょ濡れになっちゃったわねえ」
カコ様にもいつもの笑顔が戻った。
「御一人だけプールから上がられたみたいですね」
「そうねえ……あっ、そうだ。まめ飴、まめ飴……あーっ、全部びしょびしょになってる!」
カコ様はじっと残りの飴を見つめておられたが、意を決して全てお口の中に放り込まれた。
「塩素くさーい」
顔をしかめられながら、カコ様はがりがりと飴を噛み砕かれた。

プールの中は体育館の中よりも遥かに音を響かせた。
一行が侵入するとすぐに水泳部員が1人飛んできた。
「何なんですか、あなたたちは!?」
姫殿下は丁寧に自己紹介し、来意をご説明あそばされた。
27水先案名無い人:04/11/22 22:19:15 ID:AJZ6WApo
姫殿下のお話を拝聴した水泳部員は露骨に嫌な顔をした。
「いやあ、それはちょっと……」
「ちょっとすいません」おれは先ほどと同じように割りこんだ。

「……わかりました。演説を伺うことにします」
またしてもおれの街宣右翼的論法により敵の野望は打ち砕かれた。
ふと見るとカコ様がやけになられたのか、プールサイドに腰掛けて思いきりバタ足をされていた。
おれは姫殿下に恫喝の成果をご報告申し上げた。
「そうか、それはよかった。では早速演説をしよう」
姫殿下は満足げにおっしゃった。
「演説台はどちらに置けばよろしいでしょうか?」
おれがそうお尋ねすると、姫殿下はあたりをご覧になってからおっしゃった。
「いや、演説台はいい。あのスタート台の上に立って行おう」
姫殿下がスタート台のうえに立たれると、水泳部員たちが水から上がってこちらにやって来た。
プールの向こうではカコ様がコースロープ綱渡りに挑戦されていたが、2mほど進んだところで静かに水没された。

「プール上がりのアイスは最高ねえ、お姉様」
姫殿下のシャツとブルマをお召しになったカコ様がアイス片手に満面の笑みを浮かべられておっしゃった。
「そうだな。ご馳走してくれた藤村に御礼を言いなさい」
「はい。藤村さん、どうもありがとうございます」
カコ様に頭を下げられて、おれは恐縮した。
「いえ、お気になさらずに。大人の経済力にかかればアイスの20個や30個……」
「藤村さん、ご馳走になります」
「まーす」
平沢さんと下川さんがお盆を持っておれの前を通り過ぎていった。
「あっ、あなたたち、何でカレーも頼んでるんですか!?」
「あ、冷と暖のバランスを取ろうと……」
「いいじゃん、カレーの1杯や2杯。あんた公務員でしょ? 給料もらってんでしょ?」
下川さんに完全に逆ギレされたおれは、それ以上の追及はやめて自分のガリガリ君に集中することにした。
28水先案名無い人:04/11/22 22:20:47 ID:AJZ6WApo
左右さん
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
29水先案名無い人:04/11/22 22:22:18 ID:AJZ6WApo
プールサイドでカレー(゚д゚)ウマー
30水先案名無い人:04/11/22 22:23:50 ID:AJZ6WApo
藁板のスレと相互リンクしておこう

こんな眞子さまはイヤだ!!
http://hobby6.2ch.net/test/read.cgi/owarai/1090940317/
31水先案名無い人:04/11/22 22:25:20 ID:AJZ6WApo
32水先案名無い人:04/11/22 22:26:51 ID:AJZ6WApo
空気嫁
33水先案名無い人:04/11/22 22:28:23 ID:AJZ6WApo
姫殿下とカコ様は吹奏楽部員たちとご歓談されていた。
並んで座ったおれと下川さんと新井さんはそれを眺めていた。
「ねえ、下川」と新井さんが言った。
「今日行った部ってさ、昔はもっと活気があったと思わない?」
「うん。私が1年のとき剣道部員はあの倍くらいいたと思う」
下川さんがお茶をすすりながら言った。
「今はどこの部も苦しいのかな……
文化部でちゃんと活動してるのって私のところと下川の美術部くらいじゃない?」
「そうだね。書道部もなくなっちゃったし」
「あなたは何で書道部じゃなくて美術部に入ったの?」
「……やっぱり楽しかったからかな。先輩がよくしてくれたし。雰囲気がよかったの」
そう言って下川さんは姫殿下の方を見て目を細めた。
「ねえ、藤村さんは中学時代何部だったの?」
下川さんがおれの顔を覗きこんで尋ねた。
「私は帰宅部でした」
おれがそう答えると、下川さんは納得した様子で頷いた。
「でも皆さんを見ていると、あの頃部活をやっていればよかったなあって思います」
「何言ってんの? あなたは美術部員よ」
下川さんがおれの肩を叩いて言った。
「え、そうなんですか?」
「そうよ。まあ、身分的には筆洗バケツのやや下くらいだけど」
おれの暗かった学生生活はここに来て埋め合わされ始めたようだ。
吹奏楽部員に混じった姫殿下とカコ様がお顔を真っ赤にして大きな木管楽器を吹いておられるのが見えた。
34水先案名無い人:04/11/22 22:29:56 ID:AJZ6WApo
翌日は朝から曇りだったが、午後になって雨が降り出した。
雨音のせいかいつもより終鈴が遠く聞こえた。
「では木田さん。美術室に行ってきます」
そう意っておれは新聞を折りたたみ、傘を開いて守衛室を出た。
並木道には1人の生徒の姿もなかった。
「何か閑散としてますね」
とおれは言った。
木田さんは守衛室の窓口から顔を出した。
「雨の日の学校は静かなものですよ。静かで美しい。
でもね、この学校で一番すばらしいのは雨上がりの直後です。空気の香りが何とも言えない。
藤村さん、もし雨が上がったら深呼吸してみてください」
おれは手で了解の合図をして美術室に向かった。

美術部員たちは自分の創作に没頭していた。
いつもなら弁当を鬼食いしている下川さんも手鑑を見ながら筆を走らせている。
おれは姫殿下のお側に参った。
「姫殿下、本日の選挙運動はいかがなさいますか?」
「うん、それがなあ……」姫殿下が画筆を休められておっしゃった。
「外でビラを配ろうと思っていたのだが、この雨では無理だな」
近くの机に置かれたビラには「明るい勤王」と書かれていた。
それが具体的にどういう行為を指すのかは定かでないが、
佐幕派暗殺とか画像を集めてハァハァするといった行為とは正反対のものであることだけは確かだ。
「うおおおお、だめだああああ」下川さんが頭をかきむしりながら立ち上がった。
「腹が減って集中できない! 私、ちょっと学食に行ってくる」
「部長、私も行きます」三鷹さんがマウスから手を離して腰を上げた。
「ねえ、マコちゃんも一緒に行かない? もしかしたら学食で雨の上がるのを待っている人がいるかもしれない」
それをお聞きになった姫殿下のお顔がぱっと明るくなった。
「はい、行きます!」
姫殿下はビラの束を引っつかまれると、その側に置いてあったたすきをジャージの上からお召しになった。
35水先案名無い人:04/11/22 22:31:28 ID:AJZ6WApo
いつの間にかその2が…
1さん乙です。
36水先案名無い人:04/11/22 22:33:00 ID:AJZ6WApo
学食は八分くらいの入りだった。
しかしきちんとした食事を採っている生徒は少なく、雨宿りついでにジュースを飲んでいるといった手合いがほとんどだった。
「ここは手堅く月見そばに半ライスと行くか……」
何が手堅いのかはわからないが、下川さんはそう言い残して麺類のカウンターに向かった。
そのとき学食のおばちゃんに注文をしていたジャージ姿の生徒が振り向いた。
「あっ、下川!」
「むっ、獄門島!」
バスケ部部長の獄門島さんは下川さんの姿を認めると凶悪な視線をぶつけてきた。
その横にはバレー部部長の八つ墓村さんにソフト部部長の病院坂さんが立っていて、毒々トロイカ体制を確立している。
おれは立ちすくんでおられる姫殿下にそっと耳打ちし申し上げた。
「姫殿下、何だか雰囲気が悪うございますから、ここは美術室に戻られた方がよろしいかと……」
「そうだな、そうしよう」
下川さんとにらみ合っていた獄門島さんがこのひそひそ話に気付いてこちらをちらりと見た。
「どうしてここに? ……そうか下川は美術部だったね。だからそっちに荷担してるわけだ」
「あんたこそ安藤のパシリやってるんだって?」
どうやらこの2人は非常に仲が悪いらしく、早くも一触即発のムードだ。
おれがそれを無視して姫殿下を先導し申し上げようとしたとき、下川さんがすたすたとご飯類のカウンターに歩いていった。
「獄門島、あんた何頼んだの?」
下川さんの突然に問いに獄門島さんの表情に微かな動揺の色が浮かんだ。
「え……? 掛けうどん半ライスだけど……」
「おばちゃん、かき揚げ丼! 味噌汁・お新香つきで!」
下川さんは食堂中に響き渡る大声で注文した。
かき揚げ丼、味噌汁・お新香つき……何と力強い組み合わせであろうか。
確かに麺類+ライスは炭水化物を摂取するには最適だ。
だがその機能性ゆえにか、それを食する行為は“摂取”とでも呼ぶべき、誤解を恐れずに言えば“餌”的な色彩を帯びる。
しかし丼・味噌汁・お新香とくればそのメニューとしての完全性たるや……
それを食する者は精神的貴族に位置付けられる。
「むむむ……」
獄門島さんが低く唸った。
37水先案名無い人:04/11/22 22:34:38 ID:AJZ6WApo
そのとき八つ墓村さんが1歩進み出て言った。
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り!」
「うっ……」
下川さんがひるんだ。
確かにここまで機能性を追及されれば、そこに志士的な潔さを感じずにはいられない。
(どうする下川さん……)
突然姫殿下が厨房に飛びこまんばかりの勢いでカウンターに駆けて行かれた。
「かき揚げ丼・味噌汁・お新香、それから小カレー!」
「なにィッ!?」
姫殿下の電光石火のご注文に食堂中がどよめいた。
小カレー……それ自体では決して迫力のあるものではない。
だがカレーは回転が速いためご飯類とは別のカウンター。
途中で気が変わったからといって越えることのできぬ、三十八度線にも等しい境界線がそこには存在する。
それを軽々と注文してのけるとは……まさに食のコスモポリタンである。
「病院坂、あんたは何頼む?」
八つ墓村さんが傍観していた病院坂さんに迫った。
「え? いや、私はそんなにおなかも空いてないし……」
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り、小カレー!」
獄門島さんが厨房の奥まで響けとばかりに叫んだ。
それに対抗して下川さんもカウンターにのしかかるような姿勢で怒鳴った。
「おばちゃん、あそこの冴えない男の人にかき揚げ丼・味噌汁・お新香、カレー大盛り、ゆで卵!」
(おれも食うのか……)
おれの隣にいた三鷹さんも自分の運命を悟ったようで、すでに泣きが入っていた。

15分後、おれと三鷹さんはかき揚げ丼を半分空けたあたりでグロッキーになっていた。
「藤村さん、私もう限界……」
三鷹さんがうなだれていった。
「私もです……心苦しいがカレーは残すしか……」
そこへ早々と完食しビラも配り終わった姫殿下と下川さんが戻っておいでになった。
「何だ藤村、カレーが手付かずではないか」
姫殿下のお言葉におれは恐縮するしかなかった。
38水先案名無い人:04/11/22 22:36:11 ID:AJZ6WApo
面白すぎるw♪
39水先案名無い人:04/11/22 22:37:43 ID:AJZ6WApo
ハゲワロタw

毎回毎回GJGJGJ
40水先案名無い人:04/11/22 22:39:13 ID:AJZ6WApo
「三鷹、あんたさっきから全然減ってないじゃん」
下川さんが三鷹さんの肩をもみながら言った。
「すいません…………」
三鷹さんが小さな声で答えた。
「藤村ももっと食べないと大きくなれないぞ」
そうおっしゃる姫殿下におれはご飯を咀嚼しながら頷いた。
「しょうがない、カレーは私が食べてあげる」
「わたしもちょっと手伝ってあげよう」
下川さんと姫殿下がカレーの皿をお手元に引き寄せられた。
「ありがとうございます…………」
そう申し上げたものの、おれは被害者なのではないかという疑念を拭いきれなかった。
「うん、おいしいおいしい。やっぱりカレーは別腹ね、マコちゃん」
「そうですね、部長。それにこのゆで卵が何とも……」
2人はもしゃもしゃとカレーを平らげていった。
ようやくおれのかき揚げ丼もあと一口というところまできたとき、紙の束を抱えた生徒が食堂に飛びこんできた。
「号外でーす。討論会が開催されまーす。生徒会長候補が直接対決しまーす」
そう言いながら、テーブルを回って紙を配り始めた。
「姫殿下、いま生徒会長候補がどうとか言っていましたが……」
「うん。でもそんな話は何も聞いていないぞ」
姫殿下はかりかりと福神漬けをかじりながらおっしゃった。
「ちょっと私、話を聞いてくる」
そう言って下川さんが席を立った。
見ていると下川さんは話を聞くどころか、紙を配る生徒の首根っこを捕らえてこちらに引っ立ててきた。
「さあマコちゃんの前でちゃんと説明しなさい」
組み伏せられた生徒は姫殿下のたすきを拝見してはっと驚いた顔をした。
「わ、私は何も知りません。急に新聞委員は集まれという呼び出しを受けて、行ってみるとこれを配って来いと言われただけで」
弁明する生徒から下川さんが紙を1枚奪い取ってテーブルの上に広げた。
「生徒会長候補討論会 主催 選挙管理委員会 共催 新聞委員会、放送委員会……あんたも関わってるんじゃない」
「いえ、私たち1・2年生は何も知らされていませんでした。本当にさっきこのビラを渡されてはじめて知ったんです」
哀れな新聞部員はすっかり怯えきっていた。
41水先案名無い人:04/11/22 22:40:45 ID:AJZ6WApo
下川さんは納得いかない様子でその新聞部員を解放した。
「28日……来週の月曜日ですね」
「投票は30日だから結構重要なイベントね」
「何か嫌な感じ。マコちゃんに知らせなかったのは絶対嫌がらせだよ」
下川さんが憤慨した顔で言った。
「でもまだ5日ありますから。準備はできます」
姫殿下はいつもの穏やかなお顔でおっしゃった。
ふと食堂の入り口に目をやると、獄門島さんご一行が出て行くのが見えた。
(ん……? あの3人、ビラを持っていない。もしや前から討論会のことを知っていたのでは……)
おれはじっくり観察しようとしたが、獄門島さんと目が合って思いきりにらまれたので、慌てて目を逸らした。

食堂を出ると雨は上がっていた。
「あーあ、何かあいつらのせいで嫌な気分になったから食べた気がしない」
下川さんがそう言う側で三鷹さんが切れそうになっているのをオーラで感じた。
「んー…………」
姫殿下は大きく伸びをされていた。
「姫殿下もあの雰囲気でお疲れですか?」
とおれはお尋ねした。
「いや、ただ雨上がりのいい匂いがするから深呼吸してみたんだ」
「雨上がりの匂い……でございますか?」
木田さんの言っていたことを思い出して、おれも思いきり息を吸い込んでみた。
すると確かに鮮烈でなぜか胸がどきどきするような匂いがした。
「本当だ。森の中にいるみたいですね」
下川さんがおれたちの姿を見て目を細めた。
「ねえ、美術室に帰ったらみんなで散歩しようか。林の中を通って葉っぱから落ちる雫を浴びるの。どう?」25
「賛成! 私は第2グラウンドの芝の上を裸足で歩きたいな」
「藤村、こういうときに池の側に行くとカエルがいっぱいいるんだ。それから百葉箱の下でいつも雨宿りする猫が……」
自分たちの学校の美しさを自然に口に出せる彼女たちを見ていると、
学校の中に居場所がなかったのはおれにそれを見つける目がなかっただけなのかもしれないと思えてきた。
42水先案名無い人:04/11/22 22:42:17 ID:AJZ6WApo
OVA化キボンヌ。
43水先案名無い人:04/11/22 22:43:48 ID:AJZ6WApo
翌日、守衛室待機を命じられていたおれは新聞を読むともなく眺めていた。
1面には「糸己宮さま、ハシジロキツツキを観察 営巣行動の撮影、世界初――キューバ」という見出しが躍っている。
密林を写した写真には「ハシジロキツツキにカメラを向ける糸己宮さま(右から2つ目の茂み)」というキャプションが付けられていた。
おれはその写真をためつすがめつ、裏返したり日光に透かしたりダブルクリックしたりしてみたが糸己宮様のお姿を発見することはできなかった。
「藤村!」
突然姫殿下のお声が聞こえた。
顔を上げると、たすきをお召しになった姫殿下が守衛室の窓口からお顔を覗かせておられた。
「藤村、演劇部に行くぞ!」
「はい!」
おれは新聞を放り出して守衛室から飛び出した。

演劇部室は旧校舎3階の薄暗い廊下を行った突き当たりにあった。
「失礼します」
ノックしてドアを空けると、意外にも室内はまばゆい光に満ちていた。
部屋の中央ではミニチュアの家があり、その前で1人の生徒がうずくまっている。
「あの……わたくしこの度生徒会長に立候補いたしました……」
姫殿下が自己紹介を始められると、その生徒は振り向いてしょぼしょぼした目をこちらに向けた。
「ああ、あなたがマコさんね。吹奏楽部の人から話はきいたわ。私、演劇部のラストサムライ、2年の上杉です」
そう言って上杉さんは姫殿下と握手した。
おれは自己紹介ついでに地べたに置かれた謎の平屋ドールハウスについて尋ねてみた。
「ああ、これ? これはクレイアニメ用のセット」上杉さんは粘土の人形を手に取った。
「なんせ部員が私1人しかいないものだから……」
いきなり辛気臭い話を聞かされてしまった。
「これを少しずつ動かして撮影するんですね」
姫殿下は興味深そうに犬の人形を見つめておられた。
「そう。今『遊星からの物体X』を撮ってるんだけど、なぜかコミカルになっちゃうのよね。何でだろ?」
それはクレイアニメだからではないですかと言おうかと思ったが、空気が余計湿っぽくなりそうなのでやめておくことにした。
44水先案名無い人:04/11/22 22:45:22 ID:AJZ6WApo
「それで……衣装だよね。こっちの部屋へどうぞ」上杉さんが人形を置いて、“準備室”という札のついたドアを開けた。
「昔はいろいろ賞取ったりして力があったから小道具とか衣装とかはたくさんあるのよ」
一歩その部屋に足を踏み入れると、こもった臭いが鼻をついた。
「うわあ、すごい」
五月みどりの衣装部屋さながらの光景に姫殿下がお声を上げられた。
ハンガーにかけられた衣装がびっしりと壁を覆っていて、歩くスペースもないほどだ。
「すごーい! ほら藤村、お姫様だお姫様」
姫殿下はピンクのドレスをお体に当てておられた。
(む、衣装をお召しになって街頭演説をされるおつもりか……)
おれはすばやく周囲に目を走らせ、猫耳メイド服、ミニスカサンタ、地球連邦軍機動歩兵装備などを発見していた。
(まずい……姫殿下があのような下賎な姿に身をやつされることなど想像するだにあさましい。
ここはこのドレスで手を打っていただくしか……)
「なかなかお似合いで」
「うわあ、何ですかこれは?」
姫殿下はすでに部屋の奥へと進まれていた。
「ちょっと出してみようか」
上杉さんが衣装の中に上体を突っ込んで、巨大な黒い物体を引きずり出した。
「うわあ、藤村、クマだクマ」
「クマ!?」
姿を現したのは体長2mはあろうかというハイイログマだった。
「これは20年くらい前にうちの部が『なめとこ山の熊』で使った着ぐるみよ。すごいでしょう」
「クマ……」
姫殿下は上杉さんの説明などお耳に入らぬご様子でクマをうっとりと眺めておられた。
(まずい……猫耳ならともかく全身獣になられるのはいかにもあさましい。せめてこれだけはやめていただかなくては……)
「あのー、姫殿下、せめてお顔はお隠しにならぬ方が」
「藤村、ちょっと着てみないか」
姫殿下がニヤニヤしながらおっしゃった。
(おれかよ…………)
45水先案名無い人:04/11/22 22:46:54 ID:AJZ6WApo
   ∩___∩  ・・・             
   | ノ  u   ヽ               
  /  ●   ● |               
  | u  ( _●_) ミ             
 彡、   |∪|  、ミ       ホヒー・・・クマー       
/ __  ヽノ  _\    ○_○   
(___)___(__)___(´(エ)`)_  
_ _ _ _ _ _ _ U ̄U_ |    
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |  
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |    
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |   
46水先案名無い人:04/11/22 22:48:25 ID:AJZ6WApo
ワラタ
47水先案名無い人:04/11/22 22:49:56 ID:AJZ6WApo
念のためほしゅ
48水先案名無い人:04/11/22 22:51:27 ID:AJZ6WApo
http://academy3.2ch.net/test/read.cgi/history/1093526288/l50
眞子さまの名前があがってるぞ。
49水先案名無い人:04/11/22 22:52:59 ID:AJZ6WApo
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから入ってみないか」
姫殿下が熱っぽい調子でおっしゃった。
(むう、どうしたものか……?)
過去を振り返ると「入らないか」と言われて入ったものは写真同好会、中野のキャバクラ、ホモの先輩の家などろくなものがなかった。
それにおれは『火の鳥 ヤマト編』を読んで以来、閉暗所恐怖症だ。
「ほら、頭を外してから背中のファスナーを開けて着るんですよ」
上杉さんが一方的にレクチャーを始めた。
仕方なくおれは興味があるふりをしてクマの内部を覗きこんだ。
そのとき、まるでナッパ様が「クン」とやった指が直で鼻に突き刺さったような痛みが走った。
「うわあっ、は、鼻が……!?」
「これは着ぐるみに染み付いた先人たちの血と汗と胃液が発酵してこのようなイヴォンヌの香りを……」
「だめだだめだこれはだめだ!」
おれは鼻を押さえながら飛び退った。
「そうか……だめか……」
姫殿下が残念そうなお顔でおっしゃった。
おれの目には涙がにじんでいたが、姫殿下のお手がクマの頭をなでなでされるのを見逃さなかった。
(むっ、なでなで? ということは……)
姫殿下、クマをなでなで

クマの中の人=おれ

姫殿下、おれをなでなで

(゚д゚)クマー
「藤村、入ります!」
おれは靴を脱ぎ捨て、着ぐるみに足を突っ込んだ。
おれが入らなければどこのクマの骨もとい馬の骨とも知れぬ輩が姫殿下のご寵愛を賜ることになってしまうかもしれないのだ。
「おお、やってくれるか!」
姫殿下は破顔一笑された。
50水先案名無い人:04/11/22 22:54:31 ID:AJZ6WApo
「はい、じゃあこれ被って」
上杉さんがクマの頭部をおれに手渡した。
ボディから漂ってくる臭気ですでに小鼻がもげそうだった。
(だが口で呼吸をすれば耐えられないことはないはず……)
「あ、口の部分はふさがってるので鼻で呼吸してくださいね」
「まじっすか!?}
上杉さんの言葉に思わずクマの頭を取り落としそうになった。
そのまま放り出して帰りたくなったが、姫殿下が期待をこめておれの方をご覧になっている。
(うう…………コンボイ司令官! おれに力を貸してください!)
おれは一息にクマの頭を装着した。
「ヘッドオンッ!!」
おれの視界が一瞬にして狭くなった。
「ぐああああ、暗い! 狭い! 臭いッ!」
「上杉さん! クマが唸ってます!」
姫殿下が心配そうに上杉さんの方を振り向いておっしゃった。
「ああ、これ被っちゃうと中の人の言葉はよく聞こえないのよね」
(そんな……じゃあおれは本当の獣になってしまったのか……)
「藤村、こちらの言葉は聞こえるか?」
姫殿下のお尋ねにおれは大きく頷いた。
すると姫殿下はおれの頭をぎゅっと抱きしめられた。
「おお、かわいいのう、おまえは」
(むむむ、これは……)
「ぽこたん、ぽこたん。お前は今日からぽこたんだ。ねえー、ぽこたん」
(ぽ、ぽこたん……)
早速ホーリーネームを頂戴してしまった。
「ぽこたん、いい子だ、よしよし。ふわふわだなあ、お前は」
姫殿下がおれの顔に頬擦りをされている。
(イ、インしてよかったお!)
こんな素晴らしいボディコンタクトを頂戴する私は、きっと特別な存在なのだと感じました。
51水先案名無い人:04/11/22 22:56:03 ID:AJZ6WApo
禿藁!
52水先案名無い人:04/11/22 22:57:33 ID:AJZ6WApo
ヴェルタースオリジナルワロタ
53水先案名無い人:04/11/22 22:59:04 ID:AJZ6WApo
やっべハゲワロタ
54水先案名無い人:04/11/22 23:00:35 ID:AJZ6WApo
これどっかにまとめサイトでも作って著作権主張しとかないと、
バカが同人とかで出しそうだな。
55水先案名無い人:04/11/22 23:02:06 ID:AJZ6WApo
ネタ具現化委員会に提出した者勝ち
56水先案名無い人:04/11/22 23:03:37 ID:AJZ6WApo
ぽこたんむっちゃワロタ
57水先案名無い人:04/11/22 23:05:08 ID:AJZ6WApo
デヴ問題と混ぜちゃダメ!
有毒ガスになるぞ
58水先案名無い人:04/11/22 23:06:39 ID:AJZ6WApo
「おいで、ぽこたん。手の鳴る方へ」
姫殿下のお誘いに従って、クマのおれは準備室を出て演劇部室に戻った。
口がふさがっているせいで少し動いただけで息が切れる。
おまけに鼻の粘膜がやられたのか鼻水が止まらない。
(くそっ、『アビス』の潜水服の方がまだましだぜ)
おれが動かずに呼吸を整えていると、姫殿下がおれの目を覗きこんでおっしゃった。
「ぽこたん、ちょっと掌を見せておくれ」
おれは右手の珍味を差し出した。
姫殿下はそれをぎゅっと握り締めあそばされた。
「おお、肉球……大きいなあ、ぷよぷよだなあ」
特大肉球を突ついておられる姫殿下をおれはクマの中から生暖かく見守っていた。
…………5分後、姫殿下はまだおれの手をお放しにならなかった。
クマの中のおれの体勢は前傾気味なので、床についた左手に強い負荷がかかっている。
(そろそろ手を離してくださらないだろうか……)
だが姫殿下は肉球占いに夢中になっておられた。
「王様、姫様、外人力士、王様、姫様…………」
(待っていてはだめだ。はっきりとおれの意思をお伝えしなくては……)
おれは右手を動かそうとした。
しかし姫殿下が思いの外がっちりとホールドされているので動かせない。
だからといって乱暴に振り払うわけにもいかない。
そこで空いた左手で床を光速タップすることにした。
体重が乗っている左手を屈して上体を沈めてから思いきり跳ねる!
「ああっ、ぽこたんは姫様だ! あはは」
姫殿下が急に右手を引っ張られたのでおれはバランスを崩し、顔面で着地してしまった。
(おっぱァアアーっ)
おれは痛みにのたうち回った。
「あっ! この動きは何を意味しているんですか?」
姫殿下が上杉さんにお尋ねになった。
「甘えてるんじゃない?」
勝手に裁判の原告にされてしまった動物たちの気持ちが少しわかったような気がした。
59水先案名無い人:04/11/22 23:08:12 ID:AJZ6WApo
「ぽこたん、ちょっとだけ外に出てみないか?」
姫殿下のご提案におれは身をすくめた。
この着ぐるみを着て長時間活動するのは体力的に不可能。
それに過去を振り返ると、「出てみないか」と言われて出たものは、登校拒否の自助グループ、
仏教系の勉強会、居酒屋の外(ホモの先輩と)などろくなものがなかった。
そんなことを考えながらもじもじしていると、姫殿下が沈んだ声でおっしゃった。
「そうか、だめか……せっかくみんなに自慢したり、馬乗りになろうと思ったのに……」
(姫殿下がクマ乗り!? いや馬乗り!?)
「クマ――!!」
おれは廊下に踊り出た。

「ちょっとだけ、この階を回るだけだから」
姫殿下はおれが逃げ出さないよう何とか引きとめようとしておられた。
おれはそろそろ汗も出なくなり、体力の限界に近づいていた。
(そろそろ演劇部室に戻ることをかわいらしくおねだりしてみないと……)
おれがクマである自分の魅力を最大限に引き出すポーズを考えていると、突然姫殿下が歩みを止められた。
(ん、何だ? ………………ああっ!)
目の前に足の不自由な生徒用のエレベーターがあった。
(ま、まさか……)
「ぽこたーん、これならぽこたんでも下に下りられるな。階段は怖いだろう?」
そうおっしゃりながら姫殿下は「下」のボタンを押された。
(いや、ちがうんです! 階段との比較の問題ではなくて!)
すぐにエレベーターの扉が開いて、おれはむりやり押し込まれた。
中は狭く、機械音がとても大きく感じられた。
(きっとスペース・ビーグル号のエレベーターに乗ったクァールもこんな恐怖を味わったんだろうなあ)
身をすくめたおれの首元を姫殿下が優しく撫でてくださった。
「もうすぐ外の風に当たれるからな。もう少しの辛抱だぞ、ぽこたん」
(外に出るのか……)
ホント クマの中は地獄だぜ! フゥハハハーハァー、と思った。
60水先案名無い人:04/11/22 23:09:45 ID:AJZ6WApo
歴戦の勇者にふりかかる最大の試練。
毎回手に汗しつつ拝読しております。
がんばれぽこたん!(・∀・)!
61水先案名無い人:04/11/22 23:11:17 ID:AJZ6WApo
          , -''''~"''''-,,,,,_
         /__┐     <:、
       /::/ ,ィ ̄"''-.へ/,rヽ     ←姫様
.       /::// /,∠{. } ト、ヽ"ヽ.ヽ    ↓藤村
     /::イレ ,イ7ニ{i |l十ト、ヽ ヽヽ 
     /::::i {/ 代:ケ.ヤ }ハノ.ヤ、',ヽ',ヽ   _
    /:::::::l  ! ~"'' ,ヤ 'i::ケ、}/__l_l,!,,,,rノノ >、_ヽヽ
   /::/::..::|  l、   r- 、 ~"'/     ヽニ‐-、ヽ) )
  ノ::/::.::::,r-:、|:ヽ Lノ  ,イ       ヽ.  } iノ
/:::/.:::/"  ヽ. >、_,,. ィ"●    ●   ヽク
:::/:://     ヽ、/:::::/ :/▼ ヽ.      i  クマー
/::{:/∧  へ    ヽ.::{、 '、人 ノ     ,/\ 
::::://::::',   ヽ.    ヽ \ ,.-ェ''_,, o,,,,;;;;;;;o  :、
../ l::::::::::::::...... ::\    \ノ   --='/::Д:::::::::::::::ヽ.
62水先案名無い人:04/11/22 23:12:51 ID:AJZ6WApo
誰だよそれ。
63水先案名無い人:04/11/22 23:14:21 ID:AJZ6WApo
なにこのスレ…
っていうかこの書きまくってる人の小説めちゃくちゃ長いな
2ch史上最長じゃないか?
64水先案名無い人:04/11/22 23:15:54 ID:AJZ6WApo
建物から一歩外に出ると確実に体感温度が上昇した。
「クマでーす!」
おれの目の前で姫殿下が叫ばれた。
すると歩いていた何人かの生徒が足を止めてこちらに向かってきた。
「あの、これ……クマ?」
「クマです!」
姫殿下は自信たっぷりにお答えになった。
「触ってもいい?」
「クマですから触ってください!」
こうおっしゃったので生徒たちは恐る恐るおれの毛皮に手を触れた。
「クマ……ふわふわ」
最初のうちは遠慮がちに撫でていた生徒たちも次第にハードペッティングへと移行していった。
(うぅ……何でおれがこんな特殊なプレイをしなきゃならないんだ……)
1人の生徒が喉もとをくすぐり始めたのでおれは顔を上げた。
すると列になってランニングをする運動部員の姿が見えた。
運動部員たちはおれの姿を認めると足を緩め、やがて立ち止まり何やら相談し始めた。
見ていると代表らしき生徒がこちらに歩いてきた。
(あ、あれはソフトボール部の病院坂ククリさん!)
「マコさん……」ククリさんが小さな声で姫殿下に申し上げた。
「あの……このクマは……?」
「わたしのクマです!」
姫殿下はきっぱりとおっしゃった。
「そう……ちょっと触ってみてもいい?」
「わたしのクマですからどうぞ!」
姫殿下のお許しを頂戴したククリさんはおずおずと手を伸ばした。
「クマかあ……」
「クマです!」
「クマ……」
「よかったらソフトボール部の皆さんもどうぞ!」
うれしいことおっしゃってくれるじゃないの、とおれは吐き捨てるように呟いた。
65水先案名無い人:04/11/22 23:17:26 ID:AJZ6WApo
おれは数十人の生徒に入れ代わり立ち代わりまさぐられ続けた。
その間にも人数はどんどん増えていった。
「部長! クマです!」
またマドハンドの仲間を呼ぶ声が聞こえた。
(今の声……どこかで聞いたことが……)
「はい、ごめんよ〜、ごめんよ〜」
群がる生徒たちを掻き分けて下川さんが姿を現した。
(ま、まずい…………)
「ほら、本当にいたでしょ、クマ」
下川さんの後ろから小柄な平沢さんがぴょんと踊り出た。
さらには美術部の他の3人もいる。
「へえ、クマか……」
残忍な笑みを浮かべた下川さんが音もなくおれに近づき、誰にも見えない角度からおれの脇腹に膝蹴りを入れた。
(ぐはっ!)
おれは痛みにのたうち回った。
「あっ、甘えてる!」
姫殿下が叫ばれた。
「マコちゃん、この中に入ってるのは誰?」
松川さんがお尋ね申し上げた。
「藤村です」
「へえ、どうりで姿が見えないと思った」
「ごめん……まさか藤村さんがそんなみじめで暗くてさびしいクマの中にいるとは思わなかったから……
あたし浮かれちゃって……」
下川さんが手で口を覆うようにして言った。
(嘘だ! 絶対嘘だ!)
「藤村さん、クマ系ですね……」
キャノンさんがぽつりと呟いた。
(系をつけるな! 専門用語だ!)
おれはもう限界だと思った。
66水先案名無い人:04/11/22 23:18:58 ID:AJZ6WApo
まさかここで『奪!童貞。』ネタにお目にかかれるとはw。
67水先案名無い人:04/11/22 23:20:29 ID:AJZ6WApo
最近2ちゃんねるネタが多いな
68水先案名無い人:04/11/22 23:22:01 ID:AJZ6WApo
中国板・できちゃってるカップル

右翼海老=中原小麦
大和侍=猫おうえる
シナ人留学生=麦
中国民=秋篠宮眞子内親王
◆r7Y88Tobf2=曲

本物の眞子様が見れるのは中国板だけ!
http://academy3.2ch.net/test/read.cgi/china/1094591968/l50#tag514
69水先案名無い人:04/11/22 23:23:35 ID:AJZ6WApo
それでも(おっぱァアアーっ)とかの2ちゃん以外のネタもある。
(左右は2部好き?)
70水先案名無い人:04/11/22 23:25:06 ID:AJZ6WApo
「ねえ、マコちゃん」下川さんが姫殿下のお側に寄っていった。
「私クマの背中に乗ってみたいんだけど……大丈夫かな?」
「大丈夫です、クマですから!」
姫殿下がそうお答えになると、下川さんはおれの顔を見てにたりと笑った。
(まずい……バックを取られたら防御のしようがない。頭を抱え込んで、格闘技でいう“亀”の状態になるしかなくなる)
“亀”になることの危険性はプロレスラー永田さんがその著書『こねこ』(民明文庫)の中で自らの経験として語っている。
「逃げろ」とおれのゴーストが囁いた。
おれは生徒たちの囲みを突破し、後脚で駆け出した。
「あっ、逃げやがった!」
「追え!」
「誰か、誰かぽこたんを捕まえておくれ!」
背後から生徒たちの大騒ぎが聞こえたが、おれは振り返らずに走り続けた。
(誰かに背中のファスナーを開けてもらわなくては……木田さんのところへ行くか? だめだ……並木道を行くのは目立ちすぎる。
そうだ、上杉さんだ! 校舎の中を通って演劇部室まで戻ればいい。これなら追っ手をまける)
おれが狭い視界の中、校舎への入り口を探していると、追いかけてきた生徒たちの怒号が聞こえてきた。
「逃がすな!」
「目を狙え!」
「ぽこたん、どうして逃げるの、ぽこたん?」
おれはとっさに旧校舎と新校舎をつなぐ廊下の窓に飛びこもうとした。
そのとき首のあたりに強烈なタックルを食らった。
「クマクマクマーッ!」
地面に叩きつけられたおれの体の上で聞き覚えのある声がした。
「あっ、カコ! どうしてここに!?」
「だって中等科にクマが出たって聞いたから……」
「ナイスタックルよ、カコさん!」
たちまちのうちに取り囲まれたおれは無数の手の中で激しく揉みしだかれた。
「ははは……見ろ! クマがごみのようだ!」
恐怖に対する防衛措置として生み出されたおれの中の2人目の人格が笑った。
「君も男なら聞き分けたまえ」
3人目の人格がおれに囁いた。
71水先案名無い人:04/11/22 23:26:37 ID:AJZ6WApo
「臭い」
「いや部長、それは言い過ぎ……やっぱり臭ーい!」
「ははは」
美術部員たちがおれをおもちゃにして笑っている。
クマを脱いだおれの体には着ぐるみの悪臭が染み付いてしまっていた。
おれは美術室の奥に山と積まれた筆洗バケツを流しで洗いながらやり過ごそうとしていた。
「何かまだクマがこの部屋にいるみたいですね」
「現人熊……」
みんな好き勝手なことを言っている。
「でも藤村さん、あまり軽々しくクマになったりしない方がいいわよ」姫殿下のお隣に腰掛けられたカコ様がおっしゃった。
「アイヌのイオマンテでもクマはあくまで外部の存在だし。そこにアクセスしすぎると戻って来れなくなるかも」
「さんざん私の体をもてあそんでおいてそんなことをおっしゃらないでください」
おれがそう申し上げると、カコ様は「おお怖い」とおっしゃいながら謎の糸巻き運動とともに手をぽんぽんと叩かれた。
(む……今のは古事記にある“天の逆手”というやつか? 確か具体的な動作は文献にも記録されていないはずだが……)
おれが日本史の謎をひとつ解明していると、姫殿下がキャンバスの前で深々とため息をつかれた。
「ああ、ぽこたん……」そうおっしゃっておれの方を振り向かれた。
「藤村、いっそのことお屋敷付きのクマにならないか? ちゃんとかわいがるから」
「あ、それいい。学校にも連れて来てね」
「藤村さんのためにもその方がいいかもね。クマの中にいるときは臭くないから」
みんな他人事だと思って好き勝手なことを言っている。
おれはクマとして姫殿下にお仕えする自分の姿を想像してみた。
クマとして姫殿下のお側にいるときはいいが、家に帰り一人きりになったときに自分を保てる自信がなかった。
(絶対酒かギャンブルに溺れてしまうだろうな……)
「少し考えさせてください」
おれは筆洗バケツと雑巾を持ったまま頭を下げた。
「ねるねるねるねはイッヒッヒッヒ……」
カコ様がおれの横で謎の粉製品をかき混ぜておられた。
72水先案名無い人:04/11/22 23:28:10 ID:AJZ6WApo
現人熊てw
腹がよじれるほどワロタ。
73水先案名無い人:04/11/22 23:29:41 ID:AJZ6WApo
誰か同人化希望
74水先案名無い人:04/11/22 23:31:15 ID:AJZ6WApo
次の日になっても鼻水は止まらなかった。
昨日の服はクリーニングに出したが、まだ臭いが体に残っている気がする。
念のためおれは締め切った守衛室には入らず、外で掃き掃除をして1日を過ごした。
生徒たちの下校する時間になると木田さんが門の外に出て交通整理を始めたので、おれは守衛室に入った。
昼に買って結局飲まなかったカフェオレの缶を開けようとしたとき、窓口のガラスをとんとんと叩く音がした。
「藤村、わたしだ」
たすきをお召しになった姫殿下がひょっこりとお顔を覗かせられた。
「あれ、姫殿下、今日は東門でビラをお配りになるのでは……?」
おれが窓口を開けてそうお尋ねすると、姫殿下はうつむき加減でおっしゃった。
「それが……東門に行ったら安藤さんが先にそこでビラを配ってたんだ」
「そうでしたか……」
「だから今日はここで配ることにする」
「御意のままに」
おれは守衛室を出て姫殿下から少し離れたところに立った。
この時間、東門は大変混雑するが、それを嫌ってこの南門から下校する生徒も少なくない。
むしろ一人一人にビラを渡せるのでこちらの方が効果的かもしれない。
大きな声で呼びこみをされている姫殿下を拝見していると、たすきをかけた生徒が並木道を歩いて来るのが見えた。
(う、あの眼鏡は……)
「マコさ〜ん」
「あっ、安藤さん!?」
手を振りながら走って来る安藤さんの姿をみそなわされた姫殿下は硬直しあそばされた。
安藤さんは姫殿下のお側に来るとにっこりと笑った。
「ねえ、一緒にビラを配ってもいい?」
「ど、どうぞ……」
姫殿下が小さな声でおっしゃった。
(何で対立候補が並んで選挙活動しなきゃならないんだ……)
おいたわしいことにその後の姫殿下は安藤さんを意識して萎縮されておられた。
だが一番悲惨だったのはこの異様な状況の中2枚のビラを渡されてしきりに頭を下げる生徒たちだった。
75水先案名無い人:04/11/22 23:33:00 ID:AJZ6WApo
下校する生徒の流れも一段落した頃、校舎の方から新美さんが走ってやって来た。
「マコリン、探したのよ」
そういいながら新美さんは肩で息をしていた。
「どうしたの、リサリン?」
「ご、獄門島さんがマコリンと藤村さんをソフトボール部の部室に連れて来いって……」
「だめです」
おれは即答した。
新美さんは顔をくしゃくしゃにして言った。
「でも……連れて来ないとGOHDA流空手で私をボコボコにするって言ってるの」
「GOHDA流空手!?」
おれは驚きのあまり大声を上げた。
「知っているのか、藤村?」
「はい、GOHDA流空手とはあのロックスターGOHDAがアクションスター千葉県一から伝授されたという伝説の格闘技です。
彼の伝記マンガ『ドラえもん』第29巻の記述によれば、千葉の個人教授を受けたGOHDAがそのあまりの激しさに失神したとか」
「何と!」
「恐るべきは必殺技のつま先蹴り! 正中線上に存在する人間の急所を的確に狙い打つその蹴りはまさに一撃必殺でございます」
「恐ろしげな技だな……」
姫殿下がご尊顔を曇らされた。
「というわけで新美さん、姫殿下と私はご一緒できませんがご健闘をお祈りします」
「いやぁぁああ、見捨てないで!」
新美さんが姫殿下にすがりついた。
「大変ねえ、皆さん」
安藤さんが涼しい顔をして言った。
「ああああ、安藤さん! あなたが、あなたが指示したんでしょ!」
「さあ知らないわルルルー」
安藤さんは顔を真っ赤にして叫ぶ新美さんを無視して明後日の方向を向いた。
(こいつ…………)
「藤村!」新美さんの体を抱きかかえるようにされていた姫殿下がおれの名を呼ばれた。
「行こう……友達を救えないのなら生徒会長になっても意味がない」
姫殿下のお言葉におれは覚悟を決めた。
76水先案名無い人:04/11/22 23:34:32 ID:AJZ6WApo
左右age
77水先案名無い人:04/11/22 23:36:05 ID:AJZ6WApo
「ねえ、藤村さん。あなた護衛隊員なんだから格闘技とかできないの?」
新美さんがおれに尋ねた。
正直な話、格闘技は苦手だ。
訓練学校で柔道、剣道、逮捕術をやったがどれも並以下の成績だった。
だがここでそれをぶっちゃけてしまうのもためらわれる。
(とりあえず適当な名前の格闘技をでっち上げてお茶を濁そう……)
「えー、ふ、藤村式体術というのを(脳内で)主催しておりますが……」
「何それ? 強いの?」
新美さんが必死の形相で言った。
「えー、情報収集と待ち伏せを中心にした総合格闘技です」
「使えねぇッ!」
新美さんが叫んだ。
「あと、ストリート(通学路、廊下)で培った土下座のスピードには自信があります」
ここだけは真実だ。
「でも藤村は強いと護衛隊の皆が言っていたぞ」姫殿下が助け舟を出してくださった。
「なんでも訓練学校時代にはいろいろと奇策を用いて逆転勝利を収めたとか」
(まずい……)おれはかつて自分がやらかした卑劣な行為を思い出した。
(逮捕術の試合でバールのようなものを使って相手をぶん殴ったことか? それともひものようなものの件か……?)
「対戦相手の家族構成のようなものに妙に詳しくて怖かったと誰かが言っていたな」
姫殿下はおれの必勝パターンを完璧にご存知のようだ。
「最低……」
新美さんが吐き捨てるように言った。
「最低……」
安藤さんも言った。
この人にだけは言われたくない。
「まあネット社会の落とし穴とでもいいましょうか……現代が生んだ悲劇ですな」
と世相を斬って平成の落合信彦を気取りつつ(え? まだ生きてんの?)、おれは武器を仕込むために守衛室に戻った。
78水先案名無い人:04/11/22 23:37:41 ID:AJZ6WApo
木田さんに後のことを頼んでから、おれたちは並木道を歩き出した。
ソフトボール部の部室は第2グラウンドのすぐ脇にある小さなプレハブ小屋にある。
3人ともこれからそこで起こる出来事に不安を募らせていた。
「ねえ、もしかして私たちカツアゲとかされるんじゃないかな」
新美さんがうなだれたまま言った。
「カツアゲ……」姫殿下が息を呑んだ。
「どうしよう……今朝お小遣いを貰ったからその半分を持って来てしまった」
「いくら持ってるの、マコリン?」
「1000円……」
「私は虎の子の500円を……藤村さんは?」
新美さんが突然おれに話を振った。
「私ですか? 私は2万ほど……」
「2万!?}
新美さんと姫殿下が声を揃えた。
「いえ、あの……予約していた『三峰徹詩文集』が今日発売なもので帰りに買って帰ろうと……」
「ミミ……ネ? 聞いたことがないな」
「三峰先生はアンダーグラウンド・アート・シーンで活躍されているポストカード・アーティストでございます」
「ふーん、藤村は博識だな」
姫殿下が感心したお口ぶりでおっしゃった。
「じゃあ、藤村さん。もしカツアゲされそうになったらその2万円をばらまいて。その間に私たちは逃げるから」
「そんな……『3枚のお札』みたいに言わないでくださいよ。第一なんで私だけがそんなことを……」
うろたえて言ったおれの肩を新美さんがぽんと叩いた。
「大丈夫、私もブックオフの50円券を撒くから」
「じゃあわたしは千石先生ととったプリクラを……」
姫殿下が決死の覚悟を秘めたお顔つきでおっしゃった。
「で、では私は『サッカー日本リーグ』カードのエバートン(ハゲ)直筆サイン入りを……」
最終的に話はお宝自慢大会に行き着いた。
79水先案名無い人:04/11/22 23:39:15 ID:AJZ6WApo
数日前ガ板のどっかのスレで話題に上がってたけど三峰じゃなくて三峯
80水先案名無い人:04/11/22 23:40:46 ID:AJZ6WApo
『三峰徹詩文集』・・・禿しく( ゚д゚)ホスィ
81水先案名無い人:04/11/22 23:42:17 ID:AJZ6WApo
「し、失礼します」
新美さんがソフトボール部室のドアを恐る恐る開いた。
下駄箱のような臭いが鼻をつく。
明るい太陽の下を歩いてきたので室内の暗さになじむのに時間がかかった。
そこは10畳くらいの正方形の部屋で、窓とドア以外の壁は造り付けの棚で覆われている。
中央にパイプ椅子が3つずつ向かい合わせに並べられていて、その間に高さ50センチほどのテーブルがある。
バスケ部部長の獄門島さんは椅子にどっかりと腰を下ろし、両足をテーブルの上に乗せていた。
「座って」
獄門島さんが向かいの椅子をあごで指し示す。
姫殿下と新美さんはそれに従って腰を下ろした。
入り口付近に立ったおれは獄門島さんやその取り巻きと目を合わせないようにしながら室内を眺め渡した。
部員20人そこそこの部にしてはボールや備品がかなり豊富であるように見える。
近くの棚に置かれていたバットを手に取って重さを確かめていると、誰かがおれの肩を叩いて囁いた
「獄門島が呼んでる」
ソフトボール部の病院坂さんだった。
部屋の中央に目をやると、姫殿下と新美さんの間の席、つまり獄門島さんの真向かいの椅子が空いていた。
「あの……ひょっとしてそこは私の席でしょうか?」
おれが尋ねると獄門島さんは“当然”といった表情で頷いた。
仕方なくおれはバットを戻して指定席に着いた。
「あなた、名前は何だっけ?」
獄門島さんが馬鹿でかい足の裏を見せつけながら言った。
「あ、はい……ご、護衛隊のふ、ふひ、藤村です」
「自分の名前噛んでんじゃねえよ!」
「筑紫哲也か、お前は!」
たちまち周囲から罵声が飛んだ。
おれは落ち着いて答えたかったのだが、緊張やら恥ずかしいやらでもう舌が回らず
「フヒヒヒヒ! すいません!」
もろ変態みたいに言ってしまった。
誰かが「きもッ」と呟いた。
82水先案名無い人:04/11/22 23:43:48 ID:AJZ6WApo
獄門島さんと壁際に立った取り巻きたちがおれをねめつけている。
「あんたがマコさんに入れ知恵してんでしょ?」
獄門島さんが穏やかな口調でおれに尋ねた。
どうやらこの緊急集会はおれを糾弾するために開催されたもののようだ。
「い、いえ、別に入れ知恵というほどのことは……」
おれが小さな声で言うと、獄門島さんは足をテーブルに叩きつけて「どん」と大きな音を立てた。
「おい、護衛隊! 護衛隊の役割は何だ?」
「や、役割ですか……? そ、それは姫殿下をお守りする肉の壁となることで……」
また背後で誰かが「きもッ」と言った。
「あんたは護衛なんだから余計な口挟まずに黙って突っ立ってりゃいいんだよ!」
獄門島さんがどすの利いた声で言うと、姫殿下が勢いよくお立ちになった。
「藤村は……藤村はただの護衛ではありません! わたしを精神的に支えてくれています!」
「姫殿下……」
おれはご尊顔を振り仰いだ。
「それに有事の際にはクマにもなれますし……」
病院坂さんが「クマ……」という声を漏らすのが聞こえた。
獄門島さんはまったく動じた様子もなくおれを睨みつけていた。
「ほら、こんなこと言っちゃってるよ。あんたが空気読まないから悪いのよ。
ここ何年も生徒会長候補は一人だってこと、資料でも読めばわかることでしょう?」
(空気を読まない……)
その言葉で突然中学校のときの忌まわしい記憶がフラッシュバックした。
クラス対抗球技大会の最終試合、おれが上げたオフサイドフラッグのせいで優勝するはずだったチームがまさかの敗戦で2位になり、
その試合で勝ち点を拾ったチームがおれのクラスと入れ代わりで最下位を脱した。
試合の後、おれは2つのクラスの生徒に取り囲まれ、ボコボコにされた。
リンチの開始の合図となったのが「藤村、空気嫁!」という言葉だった。
「ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
頭の中に蘇った恐怖のために、おれは奇声を発した。
83水先案名無い人:04/11/22 23:45:20 ID:AJZ6WApo
何気にコピペネタが織り込んである所が(゚д゚)ウマー
84水先案名無い人:04/11/22 23:46:52 ID:AJZ6WApo
アレか、検尿のネタかw
85水先案名無い人:04/11/22 23:48:23 ID:AJZ6WApo
ここぞというときに入れてるからなぁ。コピペ
86水先案名無い人:04/11/22 23:49:53 ID:AJZ6WApo
一通りの異常行動をとると頭の中がスッキリした。
(おれの精神テンションはいま! 不登校時代にもどっているッ!
冷酷! 残忍! そのおれが貴様たちを倒すぜッ!)
おれはどんッとテーブルの上に手を置き、ポーカーで勝ったコインをさらっていくときのように力強く表面を拭った。
「ああ、ずいぶん汚れてますね」
「は!?」
獄門島さんが顔を歪めて言った。
「きっと部屋中ダニやゴキブリでいっぱいでしょう」
先の見えないおれの行動に部屋中の皆が呆気に取られている。
おれはひとつ大きく息を吸い込むと、かっと目を見開き叫んだ。
「ぜったいに許さんぞ虫ケラども! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」
おれは懐から赤い缶を取り出した。
「そ、それは……」
「ご存知ですか? 最近のは火を使わないんですよ」
おれはそう言いながら缶をテーブルの下に置き、金具を「ガツン」と引っ張った。
「ぷしゅ―――――――――」
白い煙がテーブルの下から噴き出した。
「うわあああ、こいつバルサン焚きやがった!!」
獄門島さんが椅子から転がり落ちた。
「何やってんだあ、藤村さん!」
新美さんが立ち上がって叫んだ。
「新美さん、姫殿下、鼻と口をお押さえください」
おれはそう言いながら逃げ惑う凶悪部員たちの姿を眺めていた。
白煙の噴出が止まった。
部屋の中に残っているのはおれたち3人だけだ。
「もう大丈夫です。終わりました」
そう言って姫殿下に目を向けるとハンケチでお口元を押さえながら肩を震わせておられた。
「マコリン、大丈夫?」
新美さんがお顔を覗きこむと、姫殿下は堰を切ったようにお笑いになった。
「うふふふふ、あははははは」
87水先案名無い人:04/11/22 23:51:26 ID:AJZ6WApo
「ど、どうしたの、マコリン?」
新美さんは姫殿下の肩を揺さぶった。
「大丈夫、大丈夫」姫殿下はそうおっしゃると、おれの方をご覧になった。
「藤村、獄門島さんたちは見事に引っかかったなあ」
「はい、うまく行きました」
「え……?」
新美さんだけが一人蚊帳の外だ。
おれはテーブルの下から先ほどの缶を取り出した。
「あっ、それただの缶……」
「はい、カフェオレの缶に守衛室で見つけた赤のビニールテープを巻いたものです。それから……」
おれは再びテーブルの下に手を伸ばして白い粉を吹いた物体を摘み上げた。
「あの白い煙の正体はこれです」
「ロージンバッグ……」
「はい、さっきそこの棚から拝借しました。カッターで切れ目を入れてあります。これを踏んで粉を撒き散らしました」
「はあ……」新美さんがため息をついた。
「マコリンは気付いてたの?」
その問いに姫殿下が頷かれた。
「藤村が口で“ぷしゅ――――――”って言ってるのが見えたから……」
「えっ!? あれ口で言ってたの?」
「はい。途切れたらばれると思って必死で肺から空気を搾り出しました」
おれがそう言うと姫殿下はにっこりと微笑まれた。
「藤村はいつも一生懸命だな」
その優しいお言葉に、せこい手口ばかり考えている自分を恥ずかしく思った。
「あの……そろそろ引き上げましょうか」
「うん、そうしよう」
獄門島さんたちに見つからないよう、窓から逃げることにした。
「あ、ちょっと待って」
窓枠に一度足をかけた新美さんが戻って、ホワイトボードに「藤村式タイ術さくれつ! GOHDA流敗れたり!」と大書きした。
見なかったことにして、おれは窓枠を飛び越えた。
88水先案名無い人:04/11/22 23:52:58 ID:AJZ6WApo
左右age
89水先案名無い人:04/11/22 23:54:30 ID:AJZ6WApo
姫殿下は窓の外で待っていて下さった。
おれは姫殿下のスカートに白い粉がついているのを見つけた。
「申し訳ございません。お召し物に汚れが……」
そう申し上げると姫殿下はそこではじめてお気づきになったようで、裾を摘み上げられた。
「大丈夫、すぐ落ちる」
そうおっしゃいながらぽんぽんとスカートをはたかれた。
「それより藤村、ビラ配りが途中だったな。急いで戻ればまだ人がいるかもしれない。走ろう」
「はい」
姫殿下はおれのお答えを聞いてまたにっこりとうち笑まれた。
「リサリンも一緒に走ろう!」
「え……?」
新美さんは窓枠から身を乗り出したところだった。
次の瞬間、姫殿下は跳ねるように駆け出された。
おれは慌てて後を追った。
「マコリン、ちょっと待って……ぐわあっ」
背後でどさっと重いものが落ちる音がしたが、おれは振り返らず走り続けた。
姫殿下の走りは軽やかで、おれがいくら強く地面を蹴っても追いつけない。
トラックを走っている陸上部員を次々に抜き去って行かれる。
「マコちゃーん、選挙が終わったら陸上部に来てね!」
部長の青沼さんが手を振った。
姫殿下は大きくお手を振り返された。
そのお姿を拝見して、おれは先ほどのお言葉を思い出していた。
「藤村はいつも一生懸命だな」
違うんです、姫殿下。
いつも一生懸命なのは姫殿下の方です。
私はただ姫殿下の後を追っているだけなんです。
全部姫殿下が教えてくださったことなんです。

「新美、走りこみが足りないぞ!」
陸上部員たちの笑い声がグラウンドに響いていた。
90水先案名無い人:04/11/22 23:56:02 ID:AJZ6WApo
(゚ω゚) ニャンポコー
91水先案名無い人:04/11/22 23:57:33 ID:AJZ6WApo






うんこ
92水先案名無い人:04/11/22 23:59:04 ID:AJZ6WApo
週が開けて月曜日の朝、いつもどおりおれはお車の側で姫殿下のお出ましをお待ち申し上げていた。
(「なにかとれ」>「ふく」、か…………)
お屋敷の方から姫殿下がいらっしゃったので、おれは安めぐみについての妄想を中止してご挨拶申し上げた。
「おはようございます、姫殿下」
「……おはよう」
(あれ? お声にいつもの元気がない……)
姫殿下は全体的にややお疲れのご様子だった。
おれがお車のドアを開けると姫殿下は
「ちょっと待っておくれ。今カコがビラをプリントアウトしているところだから」
とおっしゃった。1
カコ様をお待ち申し上げている間におれは今日の放課後行われる討論会についてお尋ね申し上げた。
そのお答えを伺うとどうやらそこにご不快の原因があるらしかった。
「自分の演説はいいが、討論となると…………
何しろ安藤さんの具体的な政策目標がまったくわからないからなあ。金曜日のビラにも書いてなかったし」
「そうですね。獄門島さんの口ぶりから彼女たち運動部員が擁立した候補であることは間違いないと思いますが……
カコ様とはご相談されましたか?」
「うん。でもあの子は“学園内でのアイスの自給自足”とか変なことばかり言っていた」
アイスの自給自足……それがなされれば氷を配給して兵の士気を高めたというアレキサンダー大王以来の快挙だ。
そこへ大きな茶封筒を持ったカコ様が駆けていらっしゃった。
「お姉様、ようやくビラができました」
「うん、ありがとう」
カコ様は姫殿下に茶封筒を手渡されると、ぴゅーっとお車の方へ駆けて行かれた。
93水先案名無い人:04/11/23 00:00:35 ID:nM56y3Y/
「姫殿下、ビラを見せていただけませんか?」
お屋敷から出て公道を走り出したお車の中でおれは姫殿下にお伺いし申し上げた。
「うん、なかなかの力作だぞ」
姫殿下から拝領した封筒を押し戴きつつ開き、中の紙を取り出した。
「こ、これはッ…………!」
おれの目はそのB5サイズの紙の上に釘付けになった。
姫殿下のお名前とキャッチコピー「和を以って尊しと為しませんか?」がゴシック体で書かれている。
これにも言いたいことはあるが今は措く。
問題は姫殿下の御真影に口ヒゲと長い顎ヒゲが付けられていることである。
(ヒゲ!? 何なんだこれは……笑っていいのか?)
肩を震わせながらおれは頭をフル回転させた。
(待てよ、このヒゲには見覚えが……そうだ、「和を以って尊しと為す」聖徳太子だ!
でもなぜ姫殿下がヒゲを……いや、これをド平民の常識で考えてはいけない。
恐らくお身内だけの独特の聖徳太子観をお持ちなのだ! 笑うのはまずい!)
「いやあ、ご立派なヒ……いや字体でございますなあ」
おれは声の震えるのを必死で押さえながら申し上げた。
「そうだろう、カコもなかなか…………あっ、何だこれは!?」ビラを覗きこまれた姫殿下が叫ばれた。
「このヒゲは何だ!? 昨日はこんなものなかったのに……」
そうおっしゃると姫殿下は突然はっとした表情をなさって車のドアに飛びついた。
「帰る! 帰ってあの子にやり直させる!」
「姫殿下、お止めください! 走行中です!」おれはドアのロックを外そうとする姫殿下を必死で押さえた。
「それにカコ様もきっともうご登校されています!」
「ううぅぅぅ…………」
姫殿下は遺跡捏造がばれた後の記者会見のようにがっくりとうなだれあそばされた。
「こうして拝見いたしますと姫殿下はお父上によく似ておられますな」
おれが何とかフォローしようと明るい声で申し上げたが何のご返事もなかった。
ただ一言「学校、休みたい」と呟かれたきりだった。
94水先案名無い人:04/11/23 00:02:08 ID:nM56y3Y/
左右age
95水先案名無い人:04/11/23 00:03:39 ID:nM56y3Y/
保守
96水先案名無い人:04/11/23 00:05:10 ID:nM56y3Y/
放課後の大掲示板前は討論会に参加しようと集まった生徒たちで溢れていた。
旧校舎と新校舎をつなぐ空中通路も立錐の余地がないほど人で埋まっている。
帰り際にちょっと寄ってみたという感じで鞄を持ったままの生徒が多い。
「選管」の腕章を付けた生徒がせわしなく会場を駆けまわっている。
おれは人の波を掻き分けて歩き回り、特設ステージ脇で美術部員たちとご清談中の姫殿下のお姿を認めた。
「おお、藤村」姫殿下はおれにお気づきになると、お手にされていたビラをおれにくださった。
「ほら、三鷹さんがスキャンしてレタッチしてくださったんだ」
そのビラを拝見すると、確かにヒゲがきれいになくなっていた。
「これは見事なお仕事ですな」
おれは賛嘆の声を上げた。
「よく見たらちょっと残ってるんだけどね。まあそれは剃り残しってことで……冗談よ、マコちゃん。そんな怖い顔しないで」
おれはその場に一瞬だけ漂った険悪なムードに気付かないふりをして空中通路を見上げた。
前列の生徒たちは柵に寄りかかって討論会が始まるのを待っている。
ふと、旧校舎寄りの地点に一人だけ背の低い生徒が柵にぶら下がるようにして立っているのを見つけた。
片手にデジカメを持ち、もう片方の手に握った太巻きをしきりにかじっている。
「姫殿下、あそこにおられるのはカコ様では……」
おれがご注進し申し上げると姫殿下はお顔を上げた。
「あっ、カコ! よくも、よくもヒゲを書いたな……」
姫殿下の怒気を含んだお声に、カコ様はぴゅーっと走ってお逃げになった。
「待てっ!」
姫殿下は走って追いかけて行かれた。
「でも……あのヒゲ結構似合ってわよね」
松川さんがぽつりと呟いた。
「そうですね。あれを見た後では普通の写真だとなんだか物足りなく見えます」
平沢さんの言葉でおれは人間キャンバス・正岡子規を思い出した。
「私もそう思いましてこんなものを書き込んでみました……」
そう言ってキャノンさんがポケットから折りたたまれたビラを取り出した。
そこに印刷された御真影のお鼻の下には黒のマジックで描かれたヒゲがあった。
「マリオです……」
おれは昏倒しそうになった。
97水先案名無い人:04/11/23 00:06:42 ID:nM56y3Y/
「わははははは」
「マリオのヒゲがマコちゃんに!」
美術部員たちが笑い転げている。
「さらに……」キャノンさんがマジックを取り出してそのビラに手を加えた。
「ほら、あっという間に関羽雲長……」
「がははははあ」
「あははは、ひどい! 面影がない!」
(もう勘弁してくれ……)
おれは不敬の洪水に身も心も押し流されそうだった。
突然、高らかな笑い声があたりに響いた。
「あらあら皆さん、ずいぶん楽しそうね」
そんな悪役丸出しの台詞とともに安藤さんが姿を現わした。
後ろに子分らしきぽっちゃりとした生徒を従えている。
「あ、そうだ。紹介します。私の応援演説をしてくれる清見川桐子さんです」
安藤さんの言葉を受けてその生徒は進み出て、ぺこりと頭を下げた。
「あ……はじめまして。安藤さんと同じクラスの清見川です。みんなからはキキって呼ばれてます」
(キキ? 宅急便の? パーヤン運送の間違いだろ?)
キキさんは美術部のメンバーに見つめられるのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしていた。
「あの……私、安藤さんとは初等科の……頃からずっと友達で……
あの……私、人前で話すのは得意……ではないんですけれど……」
言葉を切るタイミングが独特で、聞いていて息が詰まるようだった。
(変な喋り方だな。しゃっくりでもしてるのか?)
なぜかキキさんの後ろに立っている安藤さんも顔を真っ赤にしていた。
だがそれは恥ずかしいというよりも弛緩したような表情だった。
不審に思い視線を落とすと、安藤さんの右手がキキさんの太ももをスカートの上から何度もつねっていた。
「あの……今回マコさんが立候補……されると……うッ……い、いうことで……」
(プレイの真っ最中かよ……)
美術部員たちは初めて目の当たりにする変態に気圧された様子で立ち尽くしていた。
安藤さんはキキさんの反応を見ながら(*゚∀゚)=3 ムッハー と大きく息を吐いた。
98水先案名無い人:04/11/23 00:08:15 ID:nM56y3Y/
>「姫殿下、ビラを見せていただけませんか?」

(;´Д`)ハァハァ…
99水先案名無い人:04/11/23 00:09:46 ID:nM56y3Y/
安藤さんとキキさんはとろんとした顔のまま立ち去った。
「部長、何だったんですか、今のは?」
「わかんないけど関わらない方がいいと思う……」
美術部員たちは狐につままれたような顔をしていた。
そこへ姫殿下が戻っていらっしゃった。
「藤村、今安藤さんが来ていただろう?」
姫殿下がお尋ねになった。
「はい」
「さっきすれ違ったんだが、なんだかふらふらしていたな。どうしたんだろう?」
「さて…………何かの風土病でしょう」
おれが口篭もりながらごまかしていると、姫殿下の後ろからカコ様がお顔をお出しになり、にやりと笑われた。
「あっ、カコ様」
「そうだそうだ、さっきようやく捕まえたんだ」姫殿下が背後にお手をお回しになり、カコ様を引きずり出された。
「まったくこの子は…………どうしてあんないたずらをしたのだ?」
姫殿下が問いただされると、カコ様は少しお首をすくめあそばされた。
「ごめんなさい、お姉様……なんとなく伝説を作りたくなったの」
(このお年で早くもそのような目標を……伝説だらけのご一族にお生まれになっただけのことはある)
姫殿下はまだお怒りの冷めやらぬご様子だったが、カコ様はカメラを構えた生徒たちの前でムーンウォークを披露しておられた。
「これ、人の話をちゃんと……」
姫殿下がそうおっしゃりかけたとき、選管の腕章をした生徒が駆け寄ってきた。
「マコさん、そろそろスタンバイをお願いします」
「はい!」
姫殿下が表情を引き締められた。
「じゃあマコちゃん、私たちは観客席から応援するわ」
美術部員たちが引き上げていった。
「藤村」ステージに上りかけた姫殿下が振り向いておっしゃった。
「そなたはここにいてくれ」
「かしこまりました」
おれはお側近くに置いていただける感謝の気持ちをこめて頭を下げた
100水先案名無い人:04/11/23 00:11:18 ID:nM56y3Y/
選管委員長による開会の辞がが終わるとすぐに姫殿下の基調演説が始まった。
演壇についた姫殿下は静まりかえった聴衆を見渡しながらゆっくりとお話になった。
「……わたくしはこのような部活動のあり方に疑問を持っています。
現在、部活動への参加方法は、ひとつの部に入部しそれだけをやり続けるという選択肢しかありません。
ですが、本来部活動には個人の持つ興味、関心、目標に応じた様々な参加の形があるはずです。
わたくしは部活動をより自由なものにしていきたいと考えています。
それによってより多くの人と出会い、学校生活を豊かなものに……」
「ふう、やれやれ」いつのまにかおれの横に立っていた安藤さんがため息とともに言った。
「仲良しクラブを作りたいってわけか……」
その言い方にとげがあったのでおれは少しむかっときた。
「あなただって仲良しクラブを作っているじゃないですか。バスケ部やらバレー部やらソフトボール部やらと」
おれがそう言うと安藤さんは鼻で笑った。
「まあ…………この8年間の生徒会長はそうだったわね」
おれは以前カコ様がお作りになった資料を思い出した。
確かにこの8年間実質的に生徒会長選は行われておらず、そのようなもたれ合いが背景にあることは推測できた。
だが安藤さんの言葉には何か引っかかるものがあった。
「あの……“そうだった”ってことは安藤さんは今までとは違うんですか?」
「そう。私はその慣習を消滅させる!」安藤さんは力強く言った。
「実はこういう運動部との関係を作ったのは私の姉なの」
「え……!?」
突然の告白におれは思わず声を上げた。
「姉はちょっとインパクトのある演説をしただけで簡単に当選してしまうような生徒会選挙に変革をもたらしたかった。
それで思いついたのが運動部の組織票によって確実に当選するという方法なの。
あちらの要求した予算を通すことを見返りとすることでね」
「なるほど……」
そう言われてみると至極まともなやり方に思えてきた。
「でもそれももう終わりよ。甘えた奴らに天誅を下すわ。
旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火よ。ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているけどね」
どこかで聞いたような説明だが、おれは安藤さんの発する毒電波にただ圧倒されるばかりだった。
101水先案名無い人:04/11/23 00:12:58 ID:nM56y3Y/
左右乙。
俺は読んでないけどw
102水先案名無い人:04/11/23 00:14:28 ID:nM56y3Y/
      /´  〃三=、      \三二 ヽ
    /    l|    \\ 、、`Y 二ミ ヽ
う  ./      i|  ̄``ヽ、 \ヽ }} jj ! ー ヽ ',
る  l    / |l|、二._  \ヽl j〃ノ  二ミ、ハ
さ  | i i|i  i i|三二= 二.__ヽY∠ 彡 Z彡ハ^ヽ
い  | l 川 { l l_l」=ニ三二ン´_,Y⌒ヾ三乙 ,彡jヾ l '、
!  ヽヽ\ >'´ _,   川 〈 j. |l || ト三Z 彡/ l l | !
    `┴ヘ yぐ゙   {lリ Y ノj || ト三 彡/  l l | |
黙        } ヾ〉    ヽ! T´(l || ドミ,/シ′   | l | |
れ        /           川 l|`Y夭     | l | |!
!      `ヽ        ,  | | l| !  )   | | | l|
        `';=‐       / ||l| l     川|l|!
         `、     ,ィ'   | | l|__」..-─-、lj | l|l|
            ー ´ l __,」 l  l|      ヽ||| l|
              /´ / /   リ       Vl|l|
           ,∠二二./ /   〃          Vl|!
          ,∠二二二./ /   /          Vl_」
          ,イ'´     //  /、         , -ヘ
       /| __∠∠ ___ /ヽ\   , -‐ '´ , -ヘ
        / レ'´     `ヽ、\\\>'´ , -‐ '´ , - >
      /   !         ヽ \\>'´ , -‐ '´ ,イ
       !   ハ          l  \>'´ , -‐ '´  |
103水先案名無い人:04/11/23 00:16:00 ID:nM56y3Y/
「それって何か魔王みたいな発想ですね」
おれがそう言うと安藤さんはおれの顔を指差した。
「それよ! 私は魔王になりたいの」
何気ない一言でこの人の隠れていた願望を言い当ててしまった。
「はあ……ところで安藤魔王」
「羽生名人みたいに言わないで頂戴」
「失礼しました。安藤大魔王」
「何かしら?」
「さっきから眼鏡がくもってますけど……」
「あっ」
安藤さんは慌てて眼鏡を外してハンカチでふいた。
「大丈夫ですか? 額に汗をかいておられるようですが」
「大丈夫です! ちょっと緊張してるだけ」ハンカチで顔を拭いながら安藤さんが言った。
「私、演説嫌いなのよね」
「はあ……そうですか」
13才の魔女っ娘ならずぶぬれになって逃げ帰るところだが、成人男子のおれは余裕で聞き流した。
会場から拍手が起こった。
姫殿下が一礼して演壇から戻って来られた。
「マコさん、お疲れ様」
眼鏡を書けなおした安藤さんはすれ違いざまにそう言ってステージに上った。
「安藤さんと何を話していたのだ?」
姫殿下がお尋ねになった。
「えーと……大魔王の公務について話しておりました」
「そうか」姫殿下はおれのお答えに少し考え込まれてからおっしゃった。
「内親王と大魔王だとどっちが大変かな?」
「ナンバー2次第でしょう」
おれはそうお答えしたが、新美さんと変態キキさんの顔を思い浮かべて、どちらも足を引っ張られそうだな、と思った。
104水先案名無い人:04/11/23 00:17:32 ID:nM56y3Y/
「えー」安藤さんが上ずった声で話し始めた。
「どうもこんにちは、安藤です……」
どうやら本当に緊張しているようだ。
「えー、突然ですが、皆さん、今何かやりたいことはありますか?
私はタワレコに行っておととい出た宇多田ヒカルのシングルを買いたいんですけど……」
会場から少し笑いが起こった
(何の話だ?)
姫殿下はじっと安藤さんを見つめておられた。
「あの……もし私がこんなことを言い出したらどうでしょう。
“宇多田ヒカルのシングルが欲しいけど、お金がないから買えない。そうだ、生徒会に頼んでお金を出してもらおう”
こんなことが通ると思いますか?」
安藤さんはそこで少し間を取った。
「もちろん無理ですよね。ではこういうのはどうでしょう? 私が放送委員だったとします。
“お昼の放送で宇多田ヒカルのシングルを流してみんなに聞かせてあげたい。生徒会にお金を出してもらおう”
これならば正当な要求だと思いませんか?
私は皆さんのそのような要求に応えられる制度作りをしたいと思っています。
委員会やその他有志が公共の福祉のために何か新しいことを始めるための助成金制度を作ります。
そのために現在部活動に割り当てられている予算を削減します!」
会場がどよめいた。
特にジャージ姿の生徒たちが驚いた様子で回りの生徒と話し合っている。
(運動部員を完全に敵に回すつもりだ……)
安藤さんは一息ついて生徒たちを見渡した。
「助成金の割り当て先については皆さんから出された提案を全校生徒の直接投票にかけて決めたいと考えています。
具体的な金額はまだはっきりとはわかりませんが、最大5万円くらいを目安にしたいと思います」
生徒たちが再びどよめいた。
105水先案名無い人:04/11/23 00:19:05 ID:nM56y3Y/
左右乙
これだけが2chの楽しみだよ
106水先案名無い人:04/11/23 00:20:36 ID:nM56y3Y/
漏れも毎日楽しみにしてるよ
107水先案名無い人:04/11/23 00:22:06 ID:nM56y3Y/
よっぽど他に楽しみの無い人生を送ってるんだね。
108水先案名無い人:04/11/23 00:23:38 ID:nM56y3Y/
「藤村、今の話をどう思う?」
お尋ねになる姫殿下のお顔は強張っておられた。
「そうですね……」
そう申し上げながらおれは安藤さんの話を思い出していた。
「お金が絡んできますからね……恐らく紛争の火種になるでしょう。
もしあれを実行に移したら部活の方からは当然反対の声が上がるでしょうし、お金の取り合いでさらにいざこざが起こります」
「そうか……」
姫殿下は厳しい表情のままであられた。
安藤さんの基調演説が終わり、聴衆を交えた討論会の時間になってもそれは変わらなかった。
ステージの左右に別れて座った両候補だったが、生徒たちからの質問は安藤さんの方に集中した。
「生物委員でハムスターを飼ってみたいんですけど、そういうのって認められますか?」
「直接投票って具体的にどうやって行われるんですか?」
「予算委員会を生徒会の下に作ったらどうでしょうか?」
安藤さんは生徒たちが食いついてきたのを感じたのか、応対に余裕があった。
(うーん、確かに生徒たちは興味を持っているし、悪い考えじゃないと思うんだけど……
安藤さんの目的が破壊と混乱と恐怖だからなあ……素直に賛成できない)
姫殿下は議論に入れず小さくなっておられた。
すると突然、一人の生徒が飛び跳ねながら手を上げて発言を求めた。
「はい! はい! はーい!」
(あの声は…………)
選管からマイクを受け取るとその生徒はゲーム脳丸出しの口調で話し出した。
「えーと、私、サッカー部なんですけど、部員が少なくて試合ができなくて……
あ、マコさんに質問なんですけど、他の学校と合同チームを作ったりしたいんですけど……
自由な部活動ってことはそういうのもできるってことですか?」
(新美さん! クウキヨメテネーヨ! だがそれがいい!!)
相棒の姿をお認めになった姫殿下に明るい表情が戻った。
「はい! 合同練習や合同チームの結成などをどんどん行っていきたいと思っています。
また合同チームによる大会参加を認めてもらうよう競技団体に働きかけていくつもりです」
姫殿下はよどみなくお話になった。
109水先案名無い人:04/11/23 00:25:10 ID:nM56y3Y/
「あ、そうですか……」新美さんがわざとらしいくらい納得した様子で言った。
「それを聞けてよかったです。あの……隣の戸山中学のサッカー部がイケメンぞろいなので一緒に練習できたらいいなあと思ってます。
どうもありがとうございました」
会場からは失笑が漏れた。
安藤さんも姫殿下も笑っておられた。
(アホが状況を打開した……)
そこからは運動部員などの質問もあり、姫殿下も議論に加わることができるようになった。

拍手の中ステージを下りられる姫殿下はそのお顔に照れくさそうな笑いを浮かべておられた。
「お疲れ様でございました」
「うん。無事に済んでよかった」
姫殿下はほっとしたご様子だった。
安藤さんもステージから戻ってきた。
「マコさん」たすきを脱ぎながら安藤さんが言った。
「私の演説、どうだった?」
「斬新な意見だと思いました」
姫殿下がお答えになった。
「藤村さんはどう思った?」
「すごく……生々しいです……」
おれがそう言うと安藤さんはにっと笑った。
「でしょう? これから醜い争いが起こるわよククク……
それじゃあ獄門島さんたちに捕まらないうちに私、帰ります。さようなら」
そう言って安藤さんはそそくさと立ち去った。
その後ろ姿をご覧になりながら姫殿下がぽつりとおっしゃった。
「安藤さんも大変だな」
「まあ、でも自分で選んだ修羅の道ですからね……」
おれは肩をすくめながら言った。
遠くから姫殿下をお呼びする新美さんの声が聞こえた。
110水先案名無い人:04/11/23 00:26:41 ID:nM56y3Y/
                /^l
         ,―-y'"'~"゙´  |
         ヽ;   ・ ⊥・ミ
          ミ  ヾ q   ミ;.,
          ミ ゙ .,_,)⊆口⊇ソ
 モフモフモフ〜   i ミ ;,.,   ; |\ ヽ、
      C c ┌\ヽ.,_,,.) \ \_i
          ◎┘  ̄ ̄ ̄ ̄◎
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
111水先案名無い人:04/11/23 00:28:13 ID:nM56y3Y/
討論会の後、おれは姫殿下にお供して美術部室に行った。
今日も下川さんの隣で心穏やかに墨を磨る。
「ここがドイツの変態肉屋のホームページ……?」
「そう、ヨアキムさんは2代目の若旦那なの」
「何この画像……? エビチリ?」
PCの前に座ったカコ様と新美さんと三鷹さんの話し声が聞こえる。
「ここ通販もやってるのよ。ほら、英語でも大丈夫だって」
楽しそうにお話になっているのはカコ様だ。
「か、缶詰…………」
「大丈夫なの、このサプリ?」
新美さんと三鷹さんは完全に引いていた。
血なまぐさいイメージを思い浮かべないよう、おれは目の前のお習字セットに気持ちを集中させた。
トントン……
誰かが美術部のドアをノックして入ってきた。
逆光でシルエットしか見えない。
「獄門島!?」
隣の下川さんが叫んだ。
部屋の中が一気に静まりかえった。
獄門島さんとその取り巻きがずかずかと入ってくる。
(全面戦争勃発か!?)
その数はどんどんと増え、エージェント・スミス並になった。
八墓村さんの姿もあるので、どうやらバスケ部とバレー部の連合軍のようだ。
おれは姫殿下のお側に駆け寄った。
「姫殿下、もしものときはこの藤村がお守りいたします」
カコ様を除くあとのメンバーには集団的自衛権を行使してもらおうと思った。
「何しに来た?」
下川さんが獄門島さんを睨みつけながら言った。
「藤村さんに用がある」
獄門島さんがおれを睨みつけながら言った。
112水先案名無い人:04/11/23 00:29:45 ID:nM56y3Y/
「え……私ですか?」おれはのど自慢のチャンピオンに選ばれた20代の女性のように戸惑った。
「あっ、わかった! これがサプライズ・パーティーというやつですね!」
「ちがうわボケ!」「ここはマイクロソフトか!」
バスケ・バレー部員(以下BB部)たちから罵声が飛んだ。
「ジョークですよ、ジョーク。ここはジョークアベニューでーす!」
おれはアメリカのはすっぱな海軍提督を気取ってみたが、帰ってきたのは舌打ちだけだった。
「藤村に何の用でしょう?」
姫殿下が毅然とした態度でお尋ねになった。
獄門島さんは表情ひとつ変えずに言った。
「藤村さん、あのような卑怯な手を使って“GOHDA流敗れたり”とはいったいどういうことか?」
何のことだか思い出せなかった。
(いったい何を? ……もしかして新美さんがソフトボール部室に書いたあれか?)
「い、いえ、それは新美さんが勝手に書いたことで……」
おれはしどろもどろになりながら答えた。
「GOHDA流空手の歴史を侮辱する言葉だ。ただちに訂正しろ」
そう言って獄門島さんはいっそう強くおれを睨みつけた。
「はい、すぐに訂正いたします! 今回の反省を踏まえまして今後は……」
おれがプライドをかなぐり捨ててへいこらしていると、新美さんが飛び出してきて叫んだ。
「うるせえ馬鹿! 訂正なんかするか、ボケッ!」
(やめてくれ! もとはといえばあんたが悪いんだろうが!)
「そうだ! 何だか知らんが訂正などしない! お前らが訂正して謝罪しろ!」
下川さんもなぜかブチ切れていた。
その様子をカコ様が正面に回りこんで激写された。
「ひ、姫殿下……あの人たちを止めてください」
おれは姫殿下にヨヨヨと泣きついた。
姫殿下はおれをかばうかのように一歩前にお進みになった。
「獄門島さん、藤村はわたしを守るためにベストを尽くしました。決して間違ったことはしていません。
間違ったことをしていないのに謝罪することはできません。お引き取りください」
姫殿下のお声が響き渡った。
神ヨ!藤村ヲ救イタマエ、とおれはロビタみたいに祈った。
113水先案名無い人:04/11/23 00:31:17 ID:nM56y3Y/
職人もいないし退屈なスレだな('A`)
114水先案名無い人:04/11/23 00:32:48 ID:nM56y3Y/
志村〜!!!!上!!上〜!!!!
115水先案名無い人:04/11/23 00:34:19 ID:nM56y3Y/
        _, -‐──- 、
       /,r'"´ ̄` .、三ミ.\
      ,〃´// l | li li 、ヽミミミヽ、
      ////l !l.l!l !l !li !l 、ヽ,三三i、
     !.l !l !l !l !li !l !l !l !l !、ji三彡lヽ    /
.     l l !l !l !l !li !l !l !l !l !lヽ彡彡jノl  /  う
      ! +l+l+l l l l l l l+l+l+l ',彡彡j,/   う し
      ヽl fiコヽ    rti7ヽ  }‐、ノノ/    し ろ
.       ',゚:::''' ,   ''''゚:::: rt,ノノ/     ろ !
      ヽ  `     ,r'ー'i !!、     !
        ヽ、.  ̄  ,.イノ!i l !i !i ',   \
       _,ririコニiニ´  /,r彡アヽ、l    \
    , -'l/r'三三テヽ /イ彡"_, -クヽ、
   /lヽ, | (三三三テl'〃, -'´ /  , >、
    | ',. ',!  , 二 > .lフ   /  /   !
    !  l | ムォ'iヽ  >、‐'´   /     |
.   !  /、\  lノ l  ///>、  /      !
   ! /\\ヾノjj >''///   ヾ、      |
  l//  \ヽノ‐‐、'/     ヽ     |
  /     l!.lr‐ャ' ヽ        `ヽ |
  }      ! |l  ヽ ヽ        |
 {        j' !  ヽ  ヽ        !
 ヽ     ,イ  !   ',  ヽ       l
  ヽ   , / l  l  l     \  _,.r'´
   `j´ ! !   l  !        ̄  ヽ
    <,_ ヽヽ   ',  !     ___/
   /  ̄ ヽjー‐i / ̄ ̄ ̄ l  |
  //  // l j'  / /   |  |
//  // /  / /   |  |
116水先案名無い人:04/11/23 00:35:51 ID:nM56y3Y/
「GOHDA流の受けたこの屈辱は実際に立ち会うことによってしか晴らされない!」
なぜか新美さんが叫んだ。
「あの、それはあなたが言う台詞ではないと思うんですが……」
おれはうろたえて言った。
「まったくその通り」獄門島さんが言った。
「藤村さん、実際に戦ってみましょう。そうすればあなたの言ったことが正しいかどうかはっきりするはずよ」
(まずい……実際にやったら弱いのがばれてしまう。ここは姫殿下に治めていただくしか……)
そう考えたおれは姫殿下に申し上げた。
「姫殿下、このような私闘は護衛隊員の本分からは外れておりますれば……」
「まあ、でも胸を貸してあげたらどうだ?」
姫殿下が軽くおっしゃった。
(うわあ、おれ、信頼されてる……)
「藤村さん、頑張って!」
新美さんが振りかえって言った。
下川さんがおれの顔を覗きこんだ。
「いい面構えだ。ウム……勝てる」
(こいつら……煽るだけ煽っておきながら無責任な……)
「表へ出ましょう」
獄門島さんが部員たちを従えて外へ出ていった。
おれは美術部員たちによって取り囲まれ、パリ解放後のナチス協力者のように突き飛ばされながら歩かされた。
「宮仕えは大変ねえ」
カコ様がカメラを構えながらおっしゃった。
117水先案名無い人:04/11/23 00:37:24 ID:nM56y3Y/
美術部室前の空き地をBB部員と美術部員(以下3B部員)たちが取り囲んだ。
その中心におれと獄門島さんは向かい合って立った。
「藤村、獄門島さんに怪我をさせてはいけないぞ」
姫殿下がお手でメガホンを作っておっしゃった。
(そうか……倒されたら負けなのはもちろんだが、相手に怪我をさせたら社会的に敗北してしまう、まさにハイリスクノーリターン……)
「ルールはどうする?」
獄門島さんがむしろ先ほどより穏やかな顔でおれに尋ねた。
おれとしては笑いあり涙あり暴力なしのちばてつや的ルールで行いたかったがそれは相手に通じないだろう。
「そちらが決めてください」
心・技・体いずれも人並み以下のおれが相手をコントロールする方法はただひとつ。
相手の一番得意な攻撃パターンを引き出す。
おれはそれを避けることだけ考える。
だからルールは相手が有利なものの方がいいのだ。
「わかった。じゃあ、なんでもありで」
獄門島さんはこともなげに言った。
予想していた答えだが実際に聞くとやはり心が沈んだ。
承知の合図におれが頷くと獄門島さんは一礼して言った。
「GOHDA流空手初段、獄門島史子です! よろしくお願いします!」
(中3で初段か……ちゃんと道場とか通ってんだな……)
おれの方は特に自慢できる肩書きはなかったので適当に思いついたことを言った。
「あ、どうも……護衛隊員藤村フジオ、ドラクエ狩り被害者日本最北端です」
美術部員たちから笑いが起こった。
「あはは。本当に?」
おれはいつも財布に入れている新聞の切抜きを取り出して見せた。
「ほら、それが証拠に……」
「あー、ほんとだ。“藤村フジオさん(15)”だって」
「いやあ、このときは大変でしたよ。なにせ犯人が友人の兄貴で……」
「……早くやりましょう」
獄門島さんがいらだった様子で言った。
118水先案名無い人:04/11/23 00:38:55 ID:nM56y3Y/
カコさま・・・何て他人行儀なw
119水先案名無い人:04/11/23 00:40:26 ID:nM56y3Y/

   ノ、_,.ィ     ニダ〜                 平民め!
       ☆                   ノ、_,.ィ    なれなれしいわっ!!
  ∧_∧〃 ☆                 .,,. - 、、 て
  <`A´丶> ========================= ヅ⌒''小   八咫鏡ビ〜ィム!!
 と    ⊃ ☆               (ヽli.‘o‘ ,l|レ'^)
   \  \  く                 |   |
   <_〉<_)
120水先案名無い人:04/11/23 00:41:58 ID:nM56y3Y/
   /  /⌒     ヽ  ヽ 'i  ',
.  /  /  ` `'''" '`  `,  '、l   ',
  l  ,' ./        ',  i    l  
  l  ,' /''""    "''ヽ ハ  l     !i    そんなにおでこ・・・
.  l i ,イ/ / / / / / / /jノ l  l`i  l'iつるつるかなあ。。。
.  l !i l/ /┃/ / /┃/ / ノl l6 l  ,' 'i
  ノrハ, l/ / / / / / / u ノ/ri" /__ l
    ,| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  '//゙ l /  ''-,,__
   r'''''''ー、   r''''''' ̄ヽ / ノ'"  // ヘ
   } 二''-'   冫''' ̄  ヽ    /// ヽ
  (    )    (    )
121水先案名無い人:04/11/23 00:43:29 ID:nM56y3Y/
122水先案名無い人:04/11/23 00:45:00 ID:nM56y3Y/
おれは新聞の切り抜きを懐にしまうと、片足立ちになり、その場でくるくると回り始めた。
姫殿下に敬意を表するムエタイの踊り、ワイクルーだ。
「ふしぎなおどり? どう見ても獄門島のMPは0だけど」
下川さんが怪訝そうな顔をして言った。
「いえ、これは試合前に必ず踊ることになっていまして……」
「まだ〜?」「早くやれ!」
おれの講釈はBB部員たちの罵声にかき消された。
「はあ……それじゃあ始めますか」
おれがそう言うと獄門島さんは無言で構えた。
脇を開き、拳を腰のあたりで握るGOHDA流独特の構えだ。
(思ったより後傾だな。顔面はがら空きだが……)
おれは掌底を相手に見せるムエタイ式の構えを取った。
両者の距離は2mほど。
相手が動かないので、おれは前に出している左足を一歩踏み出した。
獄門島さんの右足の膝から下が一瞬消えた。
次の瞬間、その爪先がおれの鼻先をかすめた。
「うわッ!」
おれは慌ててのけぞった。
ギャラリーがどよめいた。
おれは尻餅を付きそうになったが慌てて飛び退った。
獄門島さんは先ほどより1mほど前方で再び構えた。
(い、今のが爪先蹴り……ノーモーションで飛んでくる……しかも間合いが長い。
相手が踏みこんできたらあれでカウンターを取るのか……)
「藤村さん、いまの調子」
「見えてる、見えてるよ!」
美術部員たちの声援が聞こえた。
(見えてねえよ! 少なくともおれは!)
蹴られていない鼻がなぜかつーんと痛くなってきた。
123水先案名無い人:04/11/23 00:46:31 ID:nM56y3Y/
獄門島さんは構えたまま動かない。
おれは先ほどの蹴りの軌道を頭の中に思い浮かべた。
(おれの鼻あるいは人中めがけてまっすぐ飛んでくる……あれを食らったら間違いなく小生あえなく昇天!
かわすしかない……カウンター狙いなのは明らかだからタイミングだけはコントロールできる)
結局、選択肢は前に出ることしかなさそうだった。
(よし、やられても姫殿下が介抱してくださるだろう……多分……)
おれは覚悟を決めた。
一つ大きく息をして、おもむろに深く踏みこんだ。
「ソエッ」
宝蔵院流の掛け声とともに右肘をぴくりと動かす。
(今だ!)
獄門島さんの蹴りが出るのと、おれの唯一のスキル「光速土下座」が発動するのと同時だった。
唸りを上げる蹴りがおれの頭を掠めていく。
「かわしたッ!」
地に身を投げ出したおれの目にお留守になった獄門島さんの軸足が飛びこんできた。
おれは魚類から進化した両生類が初めて上陸するときのような勢いで這い進み、手で目の前の足を払った。
「……ッ!」
獄門島さんが腰から落ちたときには、おれはすでに立ち上がり残心の構えを取っていた。
「参りました!」
獄門島さんが手で頭をかばいながら身をよじった。
おれはその姿を見下ろしながら構えを解いた。
(高田の光速タップ、曙の光速ダウンに並ぶ三大フィニッシュホールド、光速土下座がなければやられていた……)
ちなみにこの技が逆の意味でフィニッシュになったことはあったが、勝ったのはこれが初めてだった。
BB部員たちは呆然と立ち尽くしている。
仰向けになったままの獄門島さんのもとに八墓村さんが駆け寄った。
「大丈夫!? 怪我はない?」
突然おれの背中に誰かが飛びついた。
「やった! 藤村式最強!」
下川さんがセンタリングを上げた人みたいにおれの背中に乗ったまま歓声を上げた。 
124水先案名無い人:04/11/23 00:48:04 ID:nM56y3Y/
光速ワラ
125水先案名無い人:04/11/23 00:49:35 ID:nM56y3Y/
どうでもいいがバレーボールの頭文字はVだぞ
126水先案名無い人:04/11/23 00:51:06 ID:nM56y3Y/
下川さんに続けとばかりに美術部員たちがおれに体当たりしてきた。
「ウィ〜〜〜〜ッ!!」
数人の生徒を引きずりながらおれはテキサス・ロングホーンを決めた。
だが彼女たちの反応は冷淡で、キャノンさんだけが「ウィ〜……」と力無く手を上げた。
「何それ?」
「それも藤村式ってやつ?」
おれはタッグで負けてもウィ〜〜ッとやって帰ったハンセンの偉大さを改めて認識した。
「藤村さん……」獄門島さんが立ち上がって言った。
「ひとつ教えてください。どうしてあの蹴りがかわせたんですか?」
「え……それは……正中線上を狙ってくる蹴りだから胴体より下には来ないだろうと思いまして……」
我ながら単純な理屈だ。
ところが獄門島さんは何度も頷きながらおれの言葉を反芻していた。
「なるほど……胴体より下か……一瞬でこのような弱点を見破るとは流石……」
「いえ、あの、別に一瞬というわけでは……」
藤村式幻想はもはやおれの手の届かないところにまで行ってしまった。
このままだと弟子入りしたいなどと言い出しかねないので、おれは適当にこの場をまとめようと思った。
「まあ、今回は引き分けということで…………」
獄門島さんは不思議そうな顔をした。
「どうしてですか?」
「あの……我々は本来守るべき人たちに心配をかけてしまいましたから……」
おれがそう言うと獄門島さんははっと後ろを振り向いた。
「そうだ……私、みんなのためにやってるんだって勝手に思いこんで……あの子たちの気持ちを考えもしないで……」
(おお、負けたときに言おうと思っていた台詞が意外にもクリティカルヒット!)
「今藤村さんがいいこと言った!」
下川さんがおれの肩越しにずばっと腕を伸ばした。
「あの、そろそろ背中から下りてもらえませんか……?」
おれがそう言うと下川さんは
「貴様は〜〜〜!!だから美術部で馬鹿にされるというのだ〜〜〜!!この〜〜〜!」
とわけのわからないことを言っておれの首を締め始めた。
127水先案名無い人:04/11/23 00:52:40 ID:nM56y3Y/
(く、苦しい……)
おれは「ぐええぇーー!」などと叫び声を上げることもできず、死の舞踏(ダンス・マカブル)を踊った。
「もう一度みんなと話し合ってみます。選挙のことやバスケ部のこれからのことを」
獄門島さんが神妙な面持ちで言った。
「是非そうしてみてください」
おれは目の前が真っ暗になっていくのを感じながら言った。

獄門島さんたちが立ち去ると下川さんはようやくおれの首から手を離した。
「あいつも別に悪い人間じゃないんだよね。ただ思いこむとこうなっちゃうのよね、こう」
下川さんがおれの肩にひじを置いて何やら手を動かしていた。
「あの、見えないんですけど……ていうか本当に下りてください」
おれは通常の2倍の重力を感じながら姫殿下の御足下へ参上した。
「今回は引き分けという結果に終わりました。どうもご心配をおかけしました」
おれがそうご報告申し上げると姫殿下はおれの上着の埃をはたきながらおっしゃった。
「わたしは心配していなかったぞ。藤村の強さはわたしが一番よく知っているから」15
(ああ、おれの人生負けっぱなしだけど姫殿下の御心の中では連勝中なんだ。
だからおれは今こうしてこの場所に立っていられるんだ……)
おれは深々と一礼した。
その途端、予想以上の重みが上体に掛かり、おれはつんのめって倒れた。
「でも目の中に親指を入れて殴り抜けるところとかも見たかったなあ」
おれの背中の上でカコ様がおっしゃった。
「申し訳ございません、カコ様。速やかにお下りください」
おれは地面にうつぶせになったまま言った。
「こうかな? ウィ〜〜」
「マコちゃん、違う。それだとまことちゃんだよ」
「何で反対の手も同じ形になってるの?」
姫殿下と美術部員たちのご歓談が聞こえた。
128水先案名無い人:04/11/23 00:54:11 ID:nM56y3Y/
前にも言ったが今一度言う。面白杉w
129水先案名無い人:04/11/23 00:55:43 ID:nM56y3Y/
正直unko
130水先案名無い人:04/11/23 00:57:14 ID:nM56y3Y/
立会演説会を翌日に控えた火曜日の放課後、姫殿下とおれは「最後のお願い」をしに校内を回った。
ビラは前日までに使い切ってしまっていたので、姫殿下は生徒たち一人一人にお声をかけられた。
そのお声はお疲れからか幾分嗄れ気味だったが、いつもの笑顔を絶やされることはなかった。
食堂から第一体育館へ通じる小道を歩いているとき、姫殿下がおれの方に振り返っておっしゃった。
「藤村、選挙運動も今日が最後だ。長かったな」
「はい。この2週間本当にいろいろなことがありましたね」
おれは2週間前の自分を頭に思い浮かべながらお答えした。
姫殿下のご指名があるまでおれは護衛隊の一番下っ端だった。
姫殿下のお顔を拝見するだけでどきどきした。
そのおれが今こうして姫殿下とこの美しい学園内を歩いている。
これからの生涯を「働いたら負けかな」と思いながら過ごしても購えないほどの幸運だ。
「ここまでがんばってこられたのも藤村のおかげだ。感謝しているぞ」
姫殿下のありがたいお言葉におれはすっかり恐縮してしまった。
「滅相もございません。私などほんのスライムベスでございまして……」
「そなたの助言にはいつも励まされた。本当にありがとう」
おれは平伏するしかなかった。
「藤村のこともよく知ることができたし、たくさんの人と会うこともこともできた。
みんなのおかげで充実した選挙運動になったことを嬉しく思う」
たとえ安藤さんが同じことを言っても聞いている側は絶対に「ウソ臭さ」みたいなものを感じて
額に手をあててしまうだろう。
(姫殿下は偉カワイイだけでなく、優しくて深く民草を愛しておられる……もういいじゃん、姫殿下が生徒会長で。
「東京都」とかももうやめて「姫殿下グラード」にしようぜ。APECも「姫殿下with APEC」でいいよ。
地球とか銀河系っていう名前も飽きたな。いっそのこと……)
おれが共産主義的誇大妄想に浸っていると、前方に3人の大柄な生徒が立ち塞がった。
獄門島さん、八つ墓村さん、病院坂さんの三役揃い踏みだった。
131水先案名無い人:04/11/23 00:58:48 ID:nM56y3Y/
マコさん……」身構えるおれを尻目に獄門島さんが口を開いた。
「お願いがあって来ました」
「お願い?」
「はい。どうか私たちの部で演説を聴かせてもらえませんか?」
「えっ?」
姫殿下が驚きのお声を上げられた。
「昨日あの後部員たちと話し合いました。
そうしたらいろいろな意見が出まして……一番多かったのはまだ考えがまとまらないという意見でした。
私たちが部長がマコさんの演説を邪魔してしまったから……、
お願いします。部員たちの前で改めてお考えを聴かせてください」
3人が頭を下げた。
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
姫殿下はより深くお辞儀をされた。

バスケ部、バレー部、ソフト部の部員たちが集まる第2体育館へ向かう途中、獄門島さんがおれのそばに寄って来た。
「藤村さん、あの、藤村式体術についてもっと詳しく教えていただけませんか?」
恐れていた質問がついに発せられてしまった。
(まずいな……技術論だとぼろが出るから精神論でお茶を濁しておくか……)
「えー、藤村式の秘密はゆ、勇気にありまして……」
「勇気?」
「そ、そうです。人間賛歌は勇気の賛歌、人間のすばらしさは勇気のすばらしさ、ということでして……」
そう言いながらおれは体中をまさぐって使えるアイテムがないかどうか探した。
「……詳しくはこの書で熟知すべし」
そう言っておれはジャケットの裏ポケットから1冊の文庫本を取り出した。
「中島敦『山月記』……あ、これ知ってます。教科書に載ってました」
「大人になってから読むと泣けます。というか確実にへこみます」
おれは姫殿下に初めてお会いする以前の不遇時代を思い出した。
132水先案名無い人:04/11/23 01:00:20 ID:nM56y3Y/
やりたいことが何一つなかった日々。
軽い気持ちでタイに行く先輩についていった。
そこで置き去りにされ、バンコクひとりぼっち。
帰国の費用を稼ぐための退屈な日々に飽きて、日本から持ってきたこの本を開いてみた。
おまえの人生に何もないのはおまえに勇気がないからだ、と言われている気がした。
李徴のように虎になることすらできなかった自分……
でも今は守りたい人もできたし、クマにもなれた(もうなりたくないけど)。
「あ、「弟子」とか「名人伝」とかそれっぽいタイトルの話もありますね」
獄門島さんがぱらぱらとページをめくりながら言った。
「まあ、軽い気持ちで読んでみてください」
おれがそう言うと獄門島さんは
「ありがとうございます!」と言って頭を下げた。
「中島……アツシってどういう字?」
「わかんない……」
八つ墓村さんと病院坂さんは激しくメモを取っていた。
それをご覧になった姫殿下もなぜか慌てて生徒手帳に何かを記入された。
おれの勇気の源が姫殿下ご自身であることには気づいておられぬご様子だった。
133水先案名無い人:04/11/23 01:01:54 ID:nM56y3Y/
青空文庫で『山月記』読み直して泣いた。
134水先案名無い人:04/11/23 01:03:25 ID:nM56y3Y/
藤村×獄門島フラグon?
135水先案名無い人:04/11/23 01:04:56 ID:nM56y3Y/
工エエェェ(´д`)ェェエエ工
136水先案名無い人:04/11/23 01:06:27 ID:nM56y3Y/
舞台袖のクリーニングを終えたおれは上着に付いた埃を叩きながら舞台の上に出た。
講堂内は薄暗く静寂に満ちている。
2時間ほど後に姫殿下がここに立たれるのだと思うと不思議な気がする。
おれの存じ上げている姫殿下はおれに優しくお声をかけてくださるお方だ。
特にお声が大きいわけではないし、人を惹きつける話術をお持ちなわけでもない。
その姫殿下が全校生徒を前にご演説をなさる。
選挙運動が始まる前なら想像すらできなかったことだ。
でも今なら何となくその光景を思い浮かべることができる。
きっと姫殿下はおれになさるのと同じように優しく生徒たちに語りかけられるだろう。
「藤村」座席を調べていた三井隊長が舞台端から顔をのぞかせた。
「そっちは終わったか?」
「はい。音響調整室、控え室、舞台、舞台袖、天井、すべて異常なしです」
おれがそう報告すると三井隊長は腕時計を見てあごひげをこすった。
「まだ2時間目か……演説会が始まるまであと50分もある……他に何かやることは……」
「いったん持ち場に戻りませんか?」
おれは少々あきれながら提案した。
「いや、だめだ! 何かしていないと緊張の渦に呑み込まれそうだ!」
この人は朝からこの調子だ。
講堂のクリーニングも普通は卒業式など外部の人間が入る時しか行わないのに、急にやろうと言い出したのだ。
「姫殿下がこんな大きな舞台で演説をされるなんて……だめだ……想像が悪いほうに悪いほうに……」
三井隊長が大きなため息をついた。
「まあ我々が思い悩んでも仕方ありませんから……」
おれの言葉に彼はしばらく何か考え込んでいたが、突然舞台に上って来て言った。
「藤村、ずいぶん服が汚れてるな……いいこと思いついた。おまえとおれで舞台袖の掃除をしよう」
「えーっ!? 掃除ですかァ?」
おれがいやな顔をすると、彼はおれの肩に手を置いて
「雑巾をかけよう。な!」
と力強く言った。
137水先案名無い人:04/11/23 01:07:59 ID:nM56y3Y/
2時間目の終わりを告げるチャイムが鳴って少したつと、生徒たちが講堂内に入り始めた。
他の式典とは違ってみな楽しそうな顔をしている。
「選挙はお祭りだ」という木田さんの言葉を思い出した。
おれは舞台脇の控え室前で姫殿下をお待ちしていた。
たすきをかけた他の候補者たちがおれの横を通り過ぎていく。
姫殿下より先に安藤さんとキキさんが姿を現した。
安藤さんはノートパソコンを抱えていた。
「あれ? そのパソコンは何に使うんですか? 仲魔の召還?」
「演説の時にパワーポイントを使うの」
安藤さんはつまらなそうに答えた。
「そうですか。それはなかなか凝ってますね」
おれがそう言うと安藤さんは薄笑いを浮かべながらポケットからレーザーポインターを取り出し、おれの顔に向けた。
おれはとっさに手をかざした。
「何をするんですか!」
安藤さんはおれの言うのも聞かずに赤い光をキキさんの体に這わせていた。
「キキちゃん、ここは何?」
「え……ここは……私の……モモ……」
キキさんは口篭もっている。
「何? もっとはっきり!」
「モモ……モモ肉です」
それを聞いた安藤さんは(;゚∀゚)=3ムッハ、ムッハ、ムッハ-と荒い息をついた。
この人が生徒会長になったら学校全体がジャバ・ザ・ハット様の城みたいになってしまうだろうな、とおれは思った。
(そしておれは氷漬け……ルルー)
138水先案名無い人:04/11/23 01:09:30 ID:nM56y3Y/
姫殿下と新美さんは何がおかしいのかころころと笑いながら歩いて来られた。
その平和な光景におれは目頭が熱くなるのを感じた。
おれに気付いたお二人は不思議そうなお顔をされた。
「藤村さん、どうしたの? 変な顔して」
「藤村、泣いているのか?」
おれは慌てて笑顔を取り繕った。
「いえ、何でもございません」
おれがそう言うと新美さんがおれの肩を叩いて言った。
「聞いてよ、藤村さん。マコリン、チンプイ知らないんだって、チンプイ」
「藤村は知っているか、チンプイ?」
姫殿下の真剣なお顔に噴出しそうになるのをこらえながら、おれはお答えした。
「はい、存じております。毛だらけの宇宙人でございます」
「それはモジャ公。チンプイは耳がまん丸で顔の横にあるやつよ」
新美さんがジェスチャー付きで解説してくれたので思い出すことができた。
「あ、わかりました。あの王子様の命令で地球に来たサルみたいな感じの……」
「そう、それ! 王子様の家来なのよね……家来……そういえば藤村さんもマコリンの家来。
今日から藤村さんのことチンプイって呼ぼうか?」
「えっ?」
おれは新美さんの言葉で高校時代のことを思い出した。
入学して1ヶ月誰とも口を利かないでいたおれは知らぬ間にモンガーというあだ名を付けられていたのだ。
「そ、そ、それはどうですかねえ。み、見た目はあまり似てないと思いますが……」
おれの動揺に気付いたお二人は不思議そうなお顔をされた。
「藤村さん、どうしたの? 変な顔して」
「藤村、泣いているのか?」
「いえ……何でもございません」
おれは慌てて笑顔を取り繕った。
「藤村さん、ごめんね。もう変なあだ名付けたりしないから」
「藤村、機嫌を直して控え室までついてきておくれ」
優しいお言葉におれはただ恐縮するばかりだった。
139水先案名無い人:04/11/23 01:11:04 ID:nM56y3Y/
優しいよ眞子様優しいよ(っдT)
140水先案名無い人:04/11/23 01:12:34 ID:nM56y3Y/
このスレまだあったんだ・・・
141水先案名無い人:04/11/23 01:14:06 ID:nM56y3Y/
控え室は緊迫した空気に包まれていた。
2列に並んだ椅子に向かい合って座った候補者とその応援者はみな表情が強ばっている。
魔王候補の安藤さんも落ち着かない様子でキキさんの太ももを指で叩きながら低く唸っている。
よく聞くとそれは
「燃ーえろよ燃えろーよー 炎よ燃えーろー」
という歌だった。
きっと『巨神兵のテーマ』か何かだろう。
だが室内で一番やばいのは新美さんだった。
顔は土気色で目はうつろ、その上何やらぶつぶつ呟いていた。
「リサリン、だいじょうぶ?」
姫殿下が新美さんの顔を覗きこんでおっしゃった。
「ぁぁ……ゅぅぅっゃゎ……」
新美さんは蚊の鳴くような声で言った。
「藤村、何かいい気分転換の方法はないか?」
姫殿下のお尋ねにおれは知恵を絞った。
「……一流スポーツ選手には"スイッチング・ウィンバック"という精神回復法があるそうですが」
「スイッチング・ウィンバック?」
「はい。試合中に何らかの儀式を行うことによってショックや恐怖を心の隅に追いやってしまうというものです。
かの大横綱・曙もマゲを切ったり円形脱毛症になったりすることによって闘いに牙を取り戻したとか」
「なるほど」そうおっしゃると姫殿下は新美さんのぴょこんと飛び出たピンクの髪をつまんだ。
「リサリン、いこう。ばっさりと」
「いいんだね、切っちゃって?」
「や め て」
新美さんはおれの手だけをはねのけるとゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと外の風に当たってくる……」
そのままふらふらと歩み去った新美さんと入れ違いに1人の生徒が控え室に入ってきた。
バレー部部長の八つ墓村さんだった。
142水先案名無い人:04/11/23 01:15:48 ID:nM56y3Y/
143水先案名無い人:04/11/23 01:17:19 ID:nM56y3Y/
うんこ
144水先案名無い人:04/11/23 01:18:50 ID:nM56y3Y/
控え室の入り口に立つ八つ墓村さんに気付いた安藤さんが立ち上がってそちらに歩いて行った。
その動きには無駄がなく、まるでこの突然の来訪を予期していたかのようだった。
一方の八つ墓村さんは思いつめた顔をしている。
(何だ、また揉め事か?)
2人はしばらく声をひそめて話していたが、やがて興奮した八つ墓村さんの声が大きくなってきた。
「……だから別にバレー部全体があなたに反対してるってわけじゃないの。
そうじゃなくて、もう組織票とかそういうのはやめようって話になって……
とにかくあなたとの約束はなかったっていうことで……」
歯切れの悪い八つ墓村さんの言葉に安藤さんは理屈で対抗するだろうとおれは考えていた。
しかし意外にも安藤さんはがっくりと肩を落として震える声で言った。
「……別にバレー部が私から離れていってもいいんです。そんなの平気。
でも……先輩だけはわたしのことを応援してくれますよね……」
「えっ?」
八つ墓村さんもこの展開に虚を衝かれたようだった。
安藤さんは八つ墓村さんにくるりと背を向けた。
(む……背中を向けているだけなのに堪らないほどの寂しさが漂ってくる!)
おれは全日本演劇コンクールの審査員のごとく感心した。
だが安藤さんはおれと眼が合うと不気味な笑みを浮かべた。
(だめだ、八つ墓村さん! あんた、騙されてる!)
おれは視線を八つ墓村さんに向けた。
普通このような痴話喧嘩で相手に泣かれた場合、うざいと思うか、けなげと思うかの2つの思考パターンがある。
八つ墓村さんは完全に後者だった。
「な……泣いてるの? ねえ、こっち向いて。元子、スマイルアゲイン……」
彼女が安藤さんの肩に優しく手を置いたところで、おれは強烈な熱視線を送った。
まるでいま初めておれたちがここにいるのに気付いたかのように、八つ墓村さんがビクッと反応した。
145水先案名無い人:04/11/23 01:20:23 ID:nM56y3Y/
哀れ八つ墓村さんの心は千々に乱れていた。
安藤さんと姫殿下のお顔を交互に見比べ、立ち尽している。
(逃げろ! 安藤さんの攻性防壁にやられるぞ!)
おれは視線によるさらなるゴーストハックを仕掛けた。
進退極まった八つ墓村さんはしばらくうつむいていたが、突然「ごめん!」と言って走り去った。
(「ごめん」って……半ば告っといて謝るなんて行為が許されるのは小学生までだよねー)
おれ完全に他人事だと思ってみていたが、ニヤニヤ笑いながら帰って来た安藤さんについ意見してしまった。
「あなたはそんなことをして良心が痛まんのですか?」
すると安藤さんは笑顔でこう言った。
「あぁ、サタンだからな」
「サタンじゃあ、仕方ないな( ´∀`)」
とキキさんが言った。
安藤さんはキキさんの隣に腰を下ろして(  ´∀`)σ) ´∀`)プニプニとやった。
(ついていけねえ……)
だが今のやりとりで彼女の限界がわかった。
「サタンだからな」って結局自分を正当化してるだけじゃん。
姫殿下なら「内親王だからな」なんてことは絶対におっしゃらない。
やはり……そこが人を騙すことばかり考えてきた人間の発想――
痩せた考え……
姫殿下のもっとも傑出した才能 資質は……
人を信じる才能……!
優しいお心――
おれがひとり「ざわ……」となっていると、姫殿下がため息とともにおっしゃった。
「うーん。安藤さんの人身把握力はすごいなあ」
       ヽ(・ω・)/   ズコー
      \(.\ ノ
あんな邪悪な人にも長所を見出す姫殿下はやっぱり偉カワイイ! と思った。
146水先案名無い人:04/11/23 01:21:55 ID:nM56y3Y/
自分ででまとめてみました
作りかけですが

http://www8.plala.or.jp/full_base/
147水先案名無い人:04/11/23 01:23:25 ID:nM56y3Y/
高山彦九郎が13ゲットしますた
148水先案名無い人:04/11/23 01:24:56 ID:nM56y3Y/
「サタンじゃあ仕方ない」ワラタw
149水先案名無い人:04/11/23 01:26:27 ID:nM56y3Y/
ここじゃ負荷の迷惑になるから創作文芸でやれよ
150水先案名無い人:04/11/23 01:27:59 ID:nM56y3Y/
つまらないから終了でいいよ
151水先案名無い人:04/11/23 01:29:30 ID:nM56y3Y/
乙!登場人物紹介がよかったよ。
152水先案名無い人:04/11/23 01:31:01 ID:nM56y3Y/
(・∀・)イイヨイイヨー
153水先案名無い人:04/11/23 01:32:32 ID:nM56y3Y/
あれ?
1ゲトと思ったのに…
154水先案名無い人:04/11/23 01:34:03 ID:nM56y3Y/
どう言う結末を迎えるんだろうか・・・
155水先案名無い人:04/11/23 01:35:34 ID:nM56y3Y/
まとめサイトもできたことだし、続きはそこでやってね。
いいかげんスレを私物化されるのもウザイから。
156水先案名無い人:04/11/23 01:37:05 ID:nM56y3Y/
カエレ!
157水先案名無い人:04/11/23 01:38:36 ID:nM56y3Y/
氏ね
158水先案名無い人:04/11/23 01:40:06 ID:nM56y3Y/
立会演説会は粛々と進行していった。
候補者たちが一人、また一人と顔を強ばらせて舞台に向かう。
控え室に戻ってくるときの顔は様々だ。笑顔で帰って来る者、落胆の色を隠せない者。
出番をお待ちになる姫殿下は落ち着いたご様子で演説の原稿をご覧になっている。
その横では新美さんが薬の切れた鉄雄みたいになっていた。
腕章をつけた選管の生徒が控え室に入って来た。
「生徒会長候補と応援演説者の皆さん、舞台袖に集合してください」
ついにその時が来た。
姫殿下はぴょこんとお立ちになった。
「よし、行こう!」
それを聞いた新美さんは「ドクン」となった。
(だいじょうぶか、この人? いきなり覚醒したりしないよな?)
「藤村」姫殿下が優しくおっしゃった。
「舞台袖まで来てくれるか?」
「はい、お伴いたします!」
おれは慌てて立ち上がった。

舞台上の強烈なスポットライトのせいか、舞台袖はとても暗く見えた。
控え室とは違い、講堂に集まった360人の気配を肌で感じ取ることができる。
ここまで来たら後戻りはできない。
「続きまして、生徒会会長候補。1年A組マコさん」
アナウンスの声が鳴り響いた。
「藤村、リサリン、行って来ます」
「ご成功をお祈りしております」
おれがそう申し上げると、姫殿下は天に向けてテキサス・ロングホーンを形作られ、
その人差し指と小指の第1・第2関節を折り曲げられた。
「クマ!」
(おお、オリジナル技! 姫殿下がハンセンを超えられた!)
姫殿下は驚いているおれの顔をご覧になるとにっこりと微笑まれ、まばゆい照明の中に歩んで行かれた。
159水先案名無い人:04/11/23 01:42:02 ID:nM56y3Y/
>>左右、
例の消えたところのSSはあなたの作品じゃないのですか?
160水先案名無い人:04/11/23 01:43:34 ID:nM56y3Y/
姫殿下は舞台中央に掲げられた日の丸に一礼され、演壇の前で聴衆に向けてもう一度礼をされた。
「皆さん、こんにちは。生徒会会長候補、1年A組マコでございます」
こう自己紹介されると、姫殿下はお口を閉ざされた。
しばしの沈黙……
姫殿下は講堂内を見渡されると、こうおっしゃった。
「選挙に出る前のわたしだったら、この場に立つだけで緊張してしまっていたでしょう。
でも、わたしの心はは今とても落ち着いています。
選挙活動中に知り合うことのできた皆さんの顔が舞台の上からはっきり見えるからです」
姫殿下はにっこりと微笑まれた。
「新美さん、皆の顔が見えるそうですよ」
おれがそう囁くと、緊張のあまり一気に老けてしまった新美さんは
「ウェー、ハッハッハ」
とにしこり笑った。
「わたしは今までぼんやりと学校に通っていたのかもしれません」姫殿下は続けられた。
「学校にくれば教室があり、わたしの机がある。
名簿にわたしの名前があり、出席番号がある。
それだけでわたしはこの学校の一員なんだとぼんやり考えていたのです。
でも今回の選挙活動を通じて、その先があることに気付きました。
校内のいろいろなところで演説をして、ビラを配って、挨拶をする。
そうやって皆さん1人1人と知り合うことで、わたしがこの学校にいる意味を知ることができました。
わたしたちがここにいるのは偶然かもしれないけれど、その偶然を生かすも殺すも自分次第なのです。
同じ空間、同じ時間、同じ目標を共有して初めて「わたし」は「わたしたち」になれるのです」
おれは姫殿下のお言葉を特に驚きもせず拝聴していた。
なぜなら今姫殿下がおっしゃっていることは、姫殿下がいつもおれに教えてくださっていることだったからだ。
おれが誰かとともに生きることの意味を知ることができたのは姫殿下のおかげなのだ。
161水先案名無い人:04/11/23 01:45:05 ID:nM56y3Y/
そうです。
あちらは完全に投げ出してしまいましたが。
162水先案名無い人:04/11/23 01:46:36 ID:nM56y3Y/
姫殿下は具体的な政策のお話をされた。
「現在多くの部活では週何回かの活動日が決まっていますが、
そのうちの最低1日を部外の人も参加できるオープン・デーにしたいと考えています。
もう部活に入っているけれど他の種目もやってみたいという人、楽しく運動がしたいという人、
予定があって週1回くらいしか出られないという人、そんな人たちにぜひ来ていただきたいと思います。
ちなみに美術部ではそういうのは関係なくいつでも参加者募集中です。
あ、これは宣伝ですけど……
それから、2つ以上の部活に参加している人でも大会などに参加できるよう、競技団体や文科省などに働きかけていきたいと思います」
姫殿下のご構想は壮大だ。
だがこのようなことをおっしゃるのもご自身が部活動を愛しておられるからだろう。
口先だけの美辞麗句を並べているわけではない。
「みなさん、一緒に緑濃い学園の中を走ったり、歩いたりしましょう」
姫殿下はご演説をそう締めくくられた。
万雷の拍手の中、舞台袖に戻って来られた姫殿下は、おれの顔をご覧になると、ひとつ大きなため息をつかれた。
「終わった……」
「おつかれさまでした」
「まだ終わってないいいいい!」
新美さんが金切り声を上げた。
「続きまして、応援演説。1年A組新美リサさん」
「来たああああああああ!」
「リサリン、がんばって」
姫殿下のエールに送られて新美さんはギクシャクと舞台の方へ歩いて行った。
「マコさん、おつかれさま」
安藤さんがノートパソコンを抱えて立っていた。
「あ、安藤さん」姫殿下はお辞儀をされた。「ありがとうございます」
「皆の顔が見えるってとこ、とてもよかったわ。私はパワーポイント使うから暗くてみえないけどね……」
そう言って安藤さんは照れたような笑いを浮かべた。
163水先案名無い人:04/11/23 01:48:09 ID:nM56y3Y/
それも一応保管されてはどうでしょうか?

眞子様を助ける妄想のガイドライン - トルメキア戦線編 -

あれはあれで結構好きでした。
164水先案名無い人:04/11/23 01:49:40 ID:nM56y3Y/
門の外に一歩出ると、梅雨の終わりの強い日差しに汗がどっと吹き出た。
緑豊かで真夏でも涼しい門の中とは大違いだ。
冷房の効いた守衛室にいたいが、作戦開始時刻になってしまったのでそうもいかない。
終鈴から10分経ったのに下校する生徒の姿はない。
おれは無線機を取り出した。
「こちら7番。これより作戦を開始する」
「4番了解。K地点は混雑が予想される。注意してかかれ」
三井隊長の声がした。
おれは無線を切って、校舎の方へ歩き出した。
なぜ大掲示板を見に行くだけなのに、こんなややこしい連絡をしなければならないのだろう。
それに選挙結果を見て姫殿下が落選されていたらどうする?
何と声をおかけすればいいんだ?
どうせならそういった具体的なことを無線で教えてくれたらいいのに……
おれは現場のつらさを噛み締めながら並木道を歩いて行った。

大掲示板前はやはり凄まじい混雑ぶりだった。
張り出された選挙結果を読み取れる位置まで近付けない。
どこか入りこめる隙間はないかと歩き回っていると、ぼんやり立っている堀本先生の姿を見つけた。
「堀本先生、おつかれさまでした」
「ああ、藤村さん」おれが声をかけると堀本先生がドロンとした目をこちらに向けた。
「即日開票にしてよかった……これが始業前だったら大変だったよ。
誰も教室に入ってくれなかっただろうから」
そういって力無く笑う堀本先生におれは尋ねた。
「それで、結果は?」
堀本先生は眼鏡を取ってごしごしと目をこすった。
「自分の目で確かめて来た方がいいよ。ぼくはもう選管担当――中立の立場じゃないから、
余計なことをしゃべっちゃうかもしれない」
これ以上問い詰めるのもかわいそうなので、おれは礼を言って人ごみの方へ向かった。
165水先案名無い人:04/11/23 01:51:11 ID:nM56y3Y/
ありがとうございます。
こちらが一段落したらやってみようと思います。
166水先案名無い人:04/11/23 01:52:42 ID:nM56y3Y/
「失礼します。失礼します」
群がる生徒たちの間を縫って少しずつ掲示板に近づいていく。
模造紙に書かれた名前と数字。
当選を示す赤い花。
(生徒会長は……)
それは掲示板の一番上にあった。

2年B組 安藤元子 151票
1年A組 マコ   205票 当選
無効          6票

(すげえ中途半端な票数……このご当選だけはガチ!)
おれは姫殿下を探した。
ご当選となれば普段通りに声をおかけすればいい。
姫殿下は掲示板の真下で生徒たちと握手をされていた。
そのお姿は本格的に生徒会長らしく、おれが軽々しく近付いてはいけないような気がして、足を止めた。
だが姫殿下の方が先におれをお認めになった。
「おお、藤村」
姫殿下の笑顔は普段とまるで同じで、おれは何と申し上げればよいのかわからなくなった。
「あの……外でお待ちしております。どうぞごゆっくり」
頭を下げて、もと来た方へ引き返す。
なんてしまりのない台詞だろうと落ちこみながら無線機を取り出す。
「こちら8番。庭はみどり川はブルー。繰り返す。庭はみどり川はブルー」
「4番了解。これよりフェイズBに移行する。おめでとう、よくやった」
お車の中にくす玉と色紙の飾りをつけるだけなのにどうしてこう大袈裟なのだろう、
とお役所仕事に疑問を抱きつつも、誉められたので少し嬉しくなった。
167水先案名無い人:04/11/23 01:54:13 ID:nM56y3Y/
左右様
お誕生日おめでとう御座います。
トルメキア戦線編の再録、楽しみにしております。
168水先案名無い人:04/11/23 01:55:44 ID:nM56y3Y/
>そのお姿は本格的に生徒会長らしく、
>おれが軽々しく近付いてはいけないような気がして、足を止めた。
>だが姫殿下の方が先におれをお認めになった。
>「おお、藤村」
>姫殿下の笑顔は普段とまるで同じで、
>おれは何と申し上げればよいのかわからなくなった。

ここのところ、少しジンときた。
やさしいなあ、妃殿下。
169水先案名無い人:04/11/23 01:57:15 ID:nM56y3Y/
unko
170水先案名無い人:04/11/23 01:58:45 ID:nM56y3Y/
「藤村さん、おつかれ」
振り返ると下川さんと美術部員たちが立っていた。
「あ、おつかれさまでした。」おれは頭を下げた。「皆さんおそろいで……」
「ポスターを回収してたの」
三鷹さんが例のオブジェを頭の上に掲げて見せた。
「祭りの後は早く片付けるのが一番!」
そう言って下川さんが笑った。
「皆さん、姫殿下のところへは行かなくていいんですか?」
おれが言うと部員たちは互いに顔を見合わせた。
「人がいっぱいいるから後でね」
「美術室ならいつでも会えますから。今日もこれから集まりますし」
「アイス持ちこみ可ですので、藤村さんもぜひ……」
この人たちはきっとこれからも姫殿下のお友達でいてくれるだろう、と思った。
そこへ安藤さんとキキさんが通りかかった。なぜか安藤さんはにやにやしていた。
「あ、どうもどうも。落選してしまいたけれどもね」
(軽っ……!)
「藤村さん」
安藤さんがおれに正対した。
「な、何でしょう?」
「私、間違っていたみたい。魔王は選挙で選ばれるものじゃないものね。
これからマコさんのところへ行って、いっしょに働かせてもらえるようお願いしに行くわ。
そしていつか『サタンじゃ仕方ないな』って皆に言われるようになってみせる」
「がんばってください」
おれは人ごみの中心目指して走っていく2人の背中を見つめていた。
「よかった……安藤さんもわかってくれて」
「いや、何にもわかってないと思うよ」
下川さんが吐き捨てるように言った。
上の方で何か連続的な音がしたので見上げると、麩菓子をくわえたカコ様が空中通路から
身を乗り出すようにして眼下の光景を激写しておられた。
171水先案名無い人:04/11/23 02:00:17 ID:nM56y3Y/
あれ?ひょっとして終わりが近い?だとしたらチョットサミ(´д`)スィ。。。

172水先案名無い人:04/11/23 02:01:48 ID:nM56y3Y/
生徒会選挙編は終わっても、
まだ文化祭編があるさ(゚∀゚)
173水先案名無い人:04/11/23 02:03:19 ID:nM56y3Y/
トルメキア戦線第1部、読み終えました。
>子どもの頃から何をするにも人に喜ばれたかった
>全て姫殿下が教えてくれたのだから
いいですね。
まとめサイトの追加も楽しみにしています。
174水先案名無い人:04/11/23 02:04:50 ID:nM56y3Y/
あの場合中島みゆきの曲は「時代」より「世情」がふさわしいと思われますが如何でしょう?>左右殿
175水先案名無い人:04/11/23 02:06:21 ID:nM56y3Y/
土曜日の昼下がりにつきものの眠気を誘うそよ風が頬をくすぐる。
地に落ちる木の影と9月の太陽が作り出すコントラストに目がちかちかする。
その先には青い芝。
G習院中等科第2グラウンドではサッカー部初の対外試合が行われている。
4人だった部員が3年生の引退で2人になり、そこに他の部からの助っ人が加わって7人。
お隣の戸山中からの刺客が3人。
さらにそこの男子サッカー部の女子マネージャー2人を無理矢理引きずりこんで、
ようやく合同チーム、トヤマ・トップチーム(TTT)ができあがった。
対するメグロ・グローリーはかつて都で2位になったことのある名門・白金女学院を中心としたチーム。
新進対古豪の熱戦が期待された。
……が、始まってみれば、お互い密集してボールを奪い前線に放りこむだけの泥試合であった。
両チームともユニフォームがなく、黄色とオレンジのビブスで色分けしてある。
まるで体育の授業で行われる素人サッカーのようだ。
だが貧相な見た目を補うかのように、どの選手も大声を出し、一生懸命にボールを追いかけている。
「がんばってるなあ、リサリン」
木陰のベンチに腰掛けられた姫殿下が笑顔でおっしゃった。
フィールド上では守備的MFの新美さんが相手のFWを後ろから倒してファールを取られていた。
「平沢もがんばってるね。このまま完封できるんじゃない?」
下川さんがそう言った途端、早いリスタートからのいいパスががディフェンスラインの裏に転がった。
「平沢、行ったぞ!」
「出ろ!」
「そこでスライディングですよ……」
美術部員たちが檄を飛ばす。
GKの平沢さんは相手FWのトラップがやや大きくなったのを見逃さず、果敢に飛びこんでボールを奪った。
味方ベンチと美術部員から拍手が起こる。
かわいそうに平沢さんはお兄さんのお下がりのグローブを持っていると話してしまったために
サッカー部に拉致されてGKのポジションを与えられてしまったのだった。
フィールドで一番背が低いのにウェアだけ本格的なその姿をおれはベンチの後ろに立ったまま生暖かく見守っていた。
176水先案名無い人:04/11/23 02:07:54 ID:nM56y3Y/
確かに「時代」だと加藤に悲壮感がない……
修正しておきました。ありがとうございます。
177水先案名無い人:04/11/23 02:09:24 ID:nM56y3Y/
藤村×地獄坂エンドは?
178水先案名無い人:04/11/23 02:10:55 ID:nM56y3Y/
 んー、 終わった?
 ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ∧_∧
    ( ・д⊂ヽ゛
    /    _ノ⌒⌒ヽ.
 ( ̄⊂人  //⌒   ノ
⊂ニニニニニニニニニニニニニ⊃
179水先案名無い人:04/11/23 02:12:26 ID:nM56y3Y/
第1体育館の方から獄門島さんが走ってきた。
「藤村さん、こっちはどうですか?」
「0対0です。バスケ部の方はどんな感じですか?」
今日はバスケ部も新チーム誕生後初の練習試合だ。
「今ハーフタイムなんですけど、ちょっと足が止まってきました」
そう言って獄門島さんは首から提げたタオルで顔の汗を拭った。
ベンチで見ている獄門島さんがこの汗なのだから、初めての試合に臨んだ部員たちは疲れ切っていることだろう。
「ところで藤村さん、この後道場に行こうと思ってるんですけど、藤村さんはどうされますか?」
獄門島さんは護衛隊の道場に出向いて逮捕術の指導を受けているのだった。
はじめは放っておいていたのだが、隊員と訓練生たちに藤村式体術のすばらしさを吹聴して回り、
そのためにおれもさぼりがちだった道場に引っ張り出されるようになってしまった。
「私も出ます。この前言ったように柔軟体操をしっかりやっておいてください。
他の人たちが終わっていても必ず自分のペースを守って最後までやること。いいですね?」
おれがそう言うと獄門島さんは一礼して体育館の方に走って戻っていった。
(今日もまたどつきまわされるのか……参ったな……)
昨日先輩に思い切り蹴られた右脇腹をさすりながらため息をついていると、下川さんが振り返った。
「あなた、まだ藤村式ナントカ続けてるの?」
おれは憐れっぽい顔を浮かべて答えた。
「もう大変なんですよ。ぼろが出ないように練習しないといけませんから。おかげで寝覚めもすっきりして、食べ物もおいしく感じるようになり……」
「いいことずくめじゃん」
そう言って下川さんは笑った。
「藤村、今度道場を見学に行くからな」
と媛殿下も振り返っておっしゃった。
「はい、お待ちしております」
おれはそう言って頭を下げた。
「お姉様!」
そこへゴール裏にいらっしゃったカコ様と、安藤さん・キキさんのはぐれ悪魔生徒コンビがこちらに駈けておいでになった。
180水先案名無い人:04/11/23 02:13:58 ID:nM56y3Y/
トルメキアの話はどこにいけば見れるのだろう?
181水先案名無い人:04/11/23 02:15:29 ID:nM56y3Y/
182水先案名無い人:04/11/23 02:17:00 ID:nM56y3Y/
「お姉様、見て。今のシーンがとてもきれいに撮れたわ」
カコ様が差し出されるデジカメの画面を媛殿下が覗きこまれる。
「おお、本当だ。迫力のある写真だ」
媛殿下がそう評されるとカコ様は鼻息をふはっと吹かれた。
おれはその後ろでにこにこしている安藤さんに声をかけた。
「安藤さん、読みましたよ、この間の朝旗新聞の記事」
安藤さんがおれの方を振り向いた。
「どうだった?」
「とても好意的に取り上げられていたと思います。デンマークのスポーツ事情もよくわかりましたし」
「そうね、いい記事だったわね」
そう言って安藤さんはふふふと笑った。
次のサッカー冬季大会に2校以上にまたがる合同チームの参加が認められたのは、
今や媛殿下の参謀となった安藤さんの活躍に負う部分が大きい。
競技団体にせっせと意見書を送り、マスコミを使って世論にも訴えかけようとしている。
デンマークのスポーツ相から応援メッセージをもらったのも北欧好きな朝旗新聞の読者層にアピールするためだったという。
「次は野球と陸上を狙っているところ。どちらも来年の北京オリンピックに向けて話題が欲しいところだから。
特に陸上は楽しいわよ。投擲系の人たちとトラックの人たちが仲たがいして内紛状態ククク…」
安藤さんは愉快そうに笑った。
(むう、反省の色なし……)
安藤さんは美術部員たちにラムネを配っておられるカコ様のお肩をぽんぽんと叩いて言った。
「カコちゃん、今度は応援している戸山中サッカー部の男子を撮影しましょ。
こういう写真はある筋の人たちにものすごく訴えかけるものがあるから」
「あの……ある筋って?」
おれは念のため尋ねてみた。
「男女同権論者とかよ。藤村さん、変な想像したでしょ?」
「しーましェーン!!」
とおれは棒読みで謝っておいた。
183水先案名無い人:04/11/23 02:18:31 ID:nM56y3Y/
「では行きましょうか、安藤大魔王」
とカコ様がおっしゃった。
「行きましょう、メディア王。キキ運輸大臣も早く」
と言って安藤さんは走り出した。
カコ様と三脚を抱えたキキさんがそれに続いた。
「カコが自分の能力を生かせる場所を見つけられてよかった」その光景をご覧になっていた媛殿下が満足げに頷かれた。
「その場所にカコ様を配置なさったのは姫殿下のご英断でございました」
そういっておれはフィールドを眺めた。ちょうど前半終了のホイッスルが鳴ったところだった。
姫殿下と美術部員たちはサッカー部のベンチの方に走って行った。
前半走りまわった部員たちは案の定グロッキー気味だった。
後半に向けてのミーティングが行われているが、誰も頭に入っていないようだ。
ミーティングが終わると、新美さんと平沢さんが美術部員たちのところへやってきた。
「サッカー最高!」
新美さんが叫んだ。美術部員たちが笑った。
「平沢は?」
「私ですか? そうですねえ……ポジション以外は最高です。天気もいいし……」
姫殿下は汗だくでしゃべっている2人を優しい笑顔で見守っておられた。
「あと、ディフェンダーのファールが多いのはちょっと……」
「いや、あれはしょうがないって」
「しょうがなくありません。出足が遅いんですよ」
ピッチの方へ歩きながら2人は言い合いをしていた。
ところがタッチラインをまたぎ越したところでその新美さんが振り返って言った。
「マコリン!」
お名前を呼ばれた姫殿下はベンチから立ちあがられた。
「わたしが今ピッチに立てるのもみんなマコリンのおかげ!
今ピッチに立つ22人とベンチの選手全員はマコリンに深く感謝してます。マコリン、本当にありがとう!」
フィールド中が拍手の音に包まれた。
184水先案名無い人:04/11/23 02:20:03 ID:nM56y3Y/
「そんな……わたしは何も……」
姫殿下は照れておいでだった。
選手たちは口々に思いを述べた。
「試合できて嬉しいです!」
「芝の上を走るのは最高です」
「合同チームが参加できるようにしてくれてありがとう」
「私たちに大きな夢をくれたことを感謝します」
姫殿下はそれを聞いておられるうちに白玉のごとき涙を落とされた。
おれは慌ててハンケチを出して姫殿下にお貸しした。
姫殿下はそのハンケチを握り締めて泣き崩れられた。
おれは思わず肩をお貸しした。
「藤村、こんなにたくさんの人がわたしに感謝してくれている……」
「はい、姫殿下は彼女たちの夢を作られたのです。さあ、胸をお張りください。
後半に向かう選手たちにお言葉をおかけになってはいかがでしょう」
「そうだな」
姫殿下はハンケチで涙を拭いながら選手たちの方に向かってお立ちになった。
「皆様、ありがとうございます。皆様はわたしにも夢を共有させてくださいました。
これからも皆様と夢を共有していきたいと思っています。
それがともに生きることの意味だからです。
後半も楽しくプレーができるよう祈っております」
姫殿下が一礼された。
選手たちは拍手をした後、ピッチに散っていった。
姫殿下はベンチに腰をおかけになって睫に残る涙の白露を落としておられた。
「藤村」姫殿下が振り返っておっしゃった。「そなたの夢は何だ?」
恥ずかしかったが申し上げることにした。
「はい、私はずっと夢のない人生を送ってきました。ですが姫殿下とお会いして夢ができました。
私の夢はこれからもずっと姫殿下をお守りすることでございます」
「そうか」姫殿下はそっけなくおっしゃった。「そなたはわたしの護衛だ。これからもずっとだぞ」
「ありがとうございます」おれは頭を下げた。
後半の開始を告げるホイッスルが鳴り響き、フィールド上の選手たちが躍動し始めていた。
185水先案名無い人:04/11/23 02:21:35 ID:nM56y3Y/

おわり

第2部「姫殿下バトンリレー」に続く
186水先案名無い人:04/11/23 02:23:06 ID:nM56y3Y/
乙。面白かったYO !
187水先案名無い人:04/11/23 02:24:37 ID:nM56y3Y/
乙!!!!
188水先案名無い人:04/11/23 02:26:08 ID:nM56y3Y/
乙した!
189水先案名無い人:04/11/23 02:27:39 ID:nM56y3Y/
何、まだ続ける気なの?
いいかげんやめてほしいんだけど。ウザ・・・。
190水先案名無い人:04/11/23 02:29:09 ID:nM56y3Y/
毎回、とても楽しく読ませて頂きました。お疲れ様でした!
191水先案名無い人:04/11/23 02:30:40 ID:nM56y3Y/
最後の2話ぐらい少々消化不良気味

ちょっと残念だった。ヽ(`Д´)ノ

オチガついてるようなついてないような・・・次に期待。。
192水先案名無い人:04/11/23 02:32:11 ID:nM56y3Y/
スレタイに即した内容がウザいなら、とっとと去るべきだ
もしくは君が書くか
193水先案名無い人:04/11/23 02:33:42 ID:nM56y3Y/
        /´  〃三=、      \三二 ヽ
    /    l|    \\ 、、`Y 二ミ ヽ   そなたは
   ./      i|  ̄``ヽ、 \ヽ }} jj ! ー ヽ ',   わたしの
   l    / |l|、二._  \ヽl j〃ノ  二ミ、ハ    護衛だ。
   | i i|i  i i|三二= 二.__ヽY∠ 彡 Z彡ハ^ヽ   これからも
   | l 川 { l l_l」=ニ三二ン´_,Y⌒ヾ三乙 ,彡jヾ l '、  ずっとだぞ
   ヽヽ\ >'´ _,   川 〈 j. |l || ト三Z 彡/ l l | !
    `┴ヘ yぐ゙   {lリ Y ノj || ト三 彡/  l l | |
         } ヾ〉    ヽ! T´(l || ドミ,/シ′   | l | |
         /           川 l|`Y夭     | l | |!
       `ヽ        ,  | | l| !  )   | | | l|
        `';=‐       / ||l| l     川|l|!
         `、     ,ィ'   | | l|__」..-─-、lj | l|l|
            ー ´ l __,」 l  l|      ヽ||| l|
              /´ / /   リ       Vl|l|
( '∀`)        ,∠二二./ /   〃          Vl|!
ノ へへ      ,∠二二二./ /   /          Vl_」

ありがとうございます          
194水先案名無い人:04/11/23 02:35:13 ID:nM56y3Y/
まぁ、退官して獄門島さんと道場はじめるんですけどね
そして、何故かロシアで藤村式体術が大人気
北方領土問題で眞子様を狙うロシアの謎のサンボマスター暗殺者に
毒男藤村が今なり行きで立ち向か








わない
195水先案名無い人:04/11/23 02:36:44 ID:nM56y3Y/
遅ればせながら乙です。
196水先案名無い人:04/11/23 02:38:14 ID:nM56y3Y/
1(第1週 木曜日)

深呼吸して手を水の中にずぶりと突き入れると、冷たさで皮膚がびりびり痺れた。
金盥の底に沈む砥石を取り上げ、水も切らずに流しの側にある机に乗せる。
椅子に腰かけ、姫殿下ご愛用の版木刀を一度押し戴いてから砥石の面にあてがう。
「はい、そのままの角度で力を入れて……」
横に座った平沢さんの指示通りにゆっくりと砥いでいく。
すでに指の先は冷たい水で真っ赤になり、感覚がなくなってきている。
全身がぶるんと震えそうになるのをこらえながら刃を前後に動かす。
「う〜、暖かい……極楽……」
弁当を食い終わった下川さんが机に突っ伏したまま呟いた。
彼女と三鷹さん、キャノンさんは部屋の中央に置かれた灯油ストーブを囲んで座っている。
11月に入って急に寒くなってきたので、隣の美術準備室から引っ張り出して来たものだ。
3人はしばらくボーっとしていたが、やがてそれぞれの作品製作に取りかかった。
だがそれも長くは続かず、皆手を止めて頬杖を突いた。
「マコちゃんと松川、遅いね……」
三鷹さんが物憂げな声で言った。
「やっぱり文化祭の件ですかね……」
キャノンさんがいつもの不機嫌そうな声で言った。
「文化祭の件」とはこの間の文化祭で美術部が出した大赤字のことだ。
美術部の今年のテーマはG習院中等科マスコットキャラ「華族ちゃん」だった。
もちろん公式なものではなく、彼女たちが勝手にぶち上げたものだ。
その目玉として来場者全員に「華族ちゃんステッカー」を無料配布した。
最初の見積もりでは予算内に収まっていたのだが、
下川さんが「スノボに貼りたい」と言い出し、急遽塩ビコーティングをすることになった。
それがいけなかった。
納期の都合上、委員会の承認を待たずに発注し、余裕で大赤字をこいてしまったのである。
現在出席されている会議ではこのことが中心議題のひとつとされることになっている。
生徒会長・姫殿下と美術部部長・松川さんはそちらに出席されているのだ。
「まあ、でもこれを乗り切るが部長の仕事よね」
と前部長の下川さんが他人事のように言った。
197水先案名無い人:04/11/23 02:39:46 ID:nM56y3Y/
   /|:: ┌──────┐ ::|
  /.  |:: |「姫殿下     .| ::|
  |.... |:: | バトンリレー」.| ::|
  |.... |:: |    に続く  .| ::|
  |.... |:: └──────┘ ::|
  \_|    ┌────┐   .|     ∧∧
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄     (  _)
             / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄旦 ̄(_,   )
            /             \  `
           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|、_)
             ̄| ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄| ̄

     |           .( ( | |\
     | )           ) ) | | .|
     |________(__| .\|
    /―   ∧ ∧  ――-\≒
  /      (    )       \
  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |
  |______________|

   ∧∧
  (  ・ω・)
  _| ⊃/(___
/ └-(____/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  <⌒/ヽ-、___
/<_/____/
198水先案名無い人:04/11/23 02:41:17 ID:nM56y3Y/
糞スレ終了
199水先案名無い人:04/11/23 02:42:48 ID:nM56y3Y/
前々から思ってたんだけど、ローマの休日?
200水先案名無い人:04/11/23 02:44:19 ID:nM56y3Y/
版木刀の仕上げ砥を平沢さんに任せ、丸刀の砥を始めた頃、松川さんが美術室に戻って来た。
彼女は書類の入ったクリアファイルを机の上に投げ出すと、ため息を吐きながらストーブを囲む輪に加わった。
「参った……安藤さんにめちゃめちゃ怒られた。文化祭のことだけじゃなくて活動計画書とかもボロクソ……」
先の選挙で姫殿下に敗れた安藤さんはいまや姫殿下の腹心となって生徒会を切り盛りしているのだった。
「安藤さん、厳しいからねえ」
三鷹さんが肩をすくめた。
「あの、姫殿下はいつ戻られるのですか?」
おれは手を止めて松川さんに尋ねた。
「うーん、何人かに引き留められてたから、まだしばらくかかると思う」
松川さんが頭を抱えたまま言った。
(姫殿下も大変だなあ……)
姫殿下は会議好きの安藤さんに付き合わされる形で生徒会の会議に参加され、
美術部では連作版画を作成中、さらに週1回陸上部で汗を流されている。
校内でもっとも多忙な生徒のひとりであらせられるのだ。
もっとも護衛のおれにとってみれば、その間姫殿下のお側にいられるのだから喜ばしいことこの上ない。
おれは一度かじかむ指を曲げ伸ばしして、再び版画刀を砥ぐ作業にかかった。

姫殿下が美術室にお戻りになったのはおれと平沢さんがあらかた版画刀を砥ぎ終わった後だった。
「ただいま帰りました」
勢いよくドアを開けて入って来られた姫殿下が元気にお声を発せられた。
「お帰り〜」「お疲れ」
美術部員たちが眠たげな声を上げた。
「あ、みずほちゃんに藤村、砥いでおいてくれたのか。どうもありがとう」
おれの側に歩み寄られた姫殿下は、息を切らせておいでだった。
「姫殿下、駈けておいでになったのですか?」
そうお尋ねすると姫殿下は大きく頷かれて、手にされた書類の束から一枚の紙を取り出された。
201水先案名無い人:04/11/23 02:45:50 ID:nM56y3Y/
「陸上部オープン選考会のお知らせ」
姫殿下の差し出された紙にはそう書かれてあった。
「これは……?」
「うん、今度の冬季大会に出るメンバーを陸上部が公募しているんだ」
姫殿下はこみ上げてくる笑いをこらえながらおっしゃった。「わたしも出る!」
そのお言葉に美術部員たちが色めき立った。
「すごい! 本当に?」
「マコちゃん足速いもんね」
「リレーの選手ですからね……」
確かに姫殿下は体育祭のリレーの選手であられた。
ご自身の脚力に自身をお持ちになるのは当然である。
鈍足のおれにとって「リレーの選手」という称号は夢のまた夢。
当然ながら技術的指導など行えるはずもない。
(残念ながら今回は姫殿下のお役に立てないな……)
とおれが背中を煤けさせていると松川さんがビックリドッキリ情報を漏らした。
「そういえばルナ先生が陸上部の練習見てるらしいわね。
あの人、大学の陸上部に入ってるから……」
(ルナ先生!?)
おれはやおら姫殿下に耳打ちし申し上げた。
「姫殿下、ルナ先生とはどなたですか?」
「教育実習生の先生だ。教科は英語で……」
「すごくかわいい人よね!」
下川さんが姫殿下のお言葉を遮るように言った。
「詳しく!」
おれは思わず立ち上がって叫んだ。
202水先案名無い人:04/11/23 02:47:21 ID:nM56y3Y/
それを聞いた美術部員たちが笑った。
「確かにカワイイ系ですね」
「あのボーイッシュな感じがいいわよね」
「最後の清純派といった風情です……」
「優しくてすごくいい先生だぞ」
姫殿下のお言葉におれは深く頷いた。
「そうでしょう、そうでしょう。名前を聞いたときにそうだと思いました」
おれはモヤモヤ〜ンと未来予想図を頭の中に描いてみた。

おれ全力疾走

遅い

個人指導

個人指導(いけないほう)

「ほっ本当にこんなことしていいの〜っ」
(以下略)

「姫殿下! 私も走ります!」
「えーっ!?」
おれの積極的な意見表明に姫殿下は驚きのお声を上げられた。
「いや、別にそなたは走らなくとも……」
「いえ、走ります!」
「む、そうか……」姫殿下は困惑の表情を浮かべられた。「まあ、そこまで言うのなら……」
「じゃあ、マコちゃんと藤村さんが美術部代表として出走ということで」
松川さんが言うと美術部員たちの間からぱらぱらと拍手が起こった。
203水先案名無い人:04/11/23 02:48:52 ID:nM56y3Y/
放課後のグラウンドはただならぬ緊張感に満ちていた。
「陸上部オープン選考会・受付」という看板の掲げられた机の前に生徒たちが並んでいる。
おれは姫殿下と共に列の中に加わっていた。
姫殿下は辺りを見回されてから、そっとおれに囁かれた。「藤村、本当に走るのか?」
「はい」おれは即答し申し上げた。「実はこれには理由がございまして……」
「理由? どんな理由だ?」
姫殿下のお尋ねに、おれは昨晩思いついた言い訳を申し上げることにした。
「短距離走で隣のレーンに速い選手がいるとそれに引っ張られて好記録が出ることがございます。
今回、私が姫殿下の牽引役となり姫殿下の勝利を確実なものにいたします」
「何と! そのような作戦だったとは」
姫殿下は驚きの声を上げられた。
「私を追いかけるつもりでお駈けになれば自己ベストはおろか代表入りも間違いないかと……」
「むむむ、さすが藤村。こうした策略にかけては天下一品だな」
「恐れ入ります」
お褒めの言葉におれは頭を下げた。
「実は私、大の陸上好きでございまして世界陸上なども毎回全種目テレビ観戦しております」
「なるほど、どうりで陸上競技に造詣が深いわけだ」
姫殿下は感心しきりであられた。
実は世界陸上を全部見るというのは元廃人のおれにとっては容易なこと。
目当てはもちろん織田裕二ウォッチ&TBS公式掲示板に縦読みカキコである。
ようやくそんな無駄な努力が実を結ぶ日が来たようだ。
「受付ではあくまでも護衛目的であることを強調してください」
「うん、わかった」
姫殿下はおれのご献策にすっかり満足されたご様子だった。
204水先案名無い人:04/11/23 02:50:24 ID:nM56y3Y/
姫殿下が受付をされる番になった。
「1年A組マコ、短距離志望です。それからこれが護衛の藤村で……」
おれはルナ先生を求めて辺りを見回した。
(まだ来ていないようだな……)
「……いえ、ですから本人がどうしてもと……はい、わたしの1つ外側のレーンで」
受付の生徒は戸惑っていたが、最終的にはおれの名を名簿に書き入れた。
受付を済ませた生徒たちは芝生の上でウォーミングアップを開始している。
姫殿下とおれがそちらに向かいかけたとき、聞き覚えのある声がした。
「マコちゃん、藤村さん」
振り返ると美術部員たちが立っていた。
「応援しに来たわよ」
「旗も作ってきたんだ。ほら」
全員の手に姫殿下のお名前が書かれた小旗があった。
「皆ありがとう」
姫殿下のご機嫌が麗しいので、おれの応援グッズがないことには目をつぶることにした。

グラウンドには続々と生徒たちが集まってきていた。
その中からいつもの3人組が連れ立ってやって来た。
獄門島さん・八つ墓村さん・病院坂さんの元部長トリオだ
「あれ、藤村さん、応援ですか?」
獄門島さんの問いにおれはこれまでのいきさつを話した。
「はあ、なるほど……護衛ですか。うちからもポイント・ガードの子が出ますんでよろしく」
「バレー部も一番速いのを出します」
「ソフトボール部も」
オープン参加ということでどこの部も代表選手を出しているようだ。
おれが彼女たちから有力な選手たちの情報を聞いていると、1人の生徒が話に割りこんできた。
「何してるんすか? 作戦会議?」
見ると、姫殿下の同級生・新美さんだった。
205水先案名無い人:04/11/23 02:51:55 ID:nM56y3Y/
新美さんは以前のマゲ状の髪型ではなく、ショートカットになっていた。
なぜか髪の毛がべたべたごわごわで、三日くらい洗っていないように見えた。
「どうしたんですか、その髪……? あれ? その髪型、どこかで見たような……」
おれがそう言うと、新美さんは前髪をいじりながら笑った。
「これはNEVADAちゃんのまねで〜す」
「あ、本当だ! NEVADAと同じだ!」
NEVADAとは先月衝撃的なデビューを果たした経歴不詳、弱冠15歳の美少女アーティストである。
独特の陰鬱な歌詞やメロディーが同世代の若者から熱狂的な支持を受けている。
1stアルバム『NEVERDIE』の売上は発売1ヶ月で早くも100万枚に達する勢いだ。
「"Smells Like Teen Blood"のPVがすごくカワイイのよね」
「私はアルバム7曲目の"Territorial Cutting"が好きです」
「あ、藤村さん、アルバム持ってるんだ。うざったてー」
「うざったてー」
おれと新美さんはファンだけにわかるスラングで笑いあった。
「藤村さん、随分楽しそうね」
獄門島さんが、よくわからない、という顔をして言った。
「リサリン!」姫殿下がおれの背後からぴょこんと飛び出された。
「調子はどう?」
「はっきり言って負ける気がしない。周り見ても大して速そうな人はいないし」
新美さんのこの不用意な発言で周囲の生徒たちから人特有の湿った視線が浴びせられた。
おれは、大した奴等じゃない、無視だ、と考えながら言った。
「ところで(むちむちぷりぷりの)ルナ先生はどこにいらっしゃるのでしょうか?」
「え? ルナ先生なら……」
姫殿下のお言葉を遮って笛の音が鳴り響いた。
「選考会に出場される方はグラウンド中央にお集まりください」
クリップボードを持った生徒が触れて回っていた。
「では私は端の方でお待ちしておりますので……」
「藤村も出走するのだから来た方がいいぞ」
そうおっしゃって姫殿下は嫌がるおれの腕を引っ張られた。
206水先案名無い人:04/11/23 02:53:27 ID:nM56y3Y/
何故だろう
育つ雑草が頭に浮かんだ…
207水先案名無い人:04/11/23 02:54:57 ID:nM56y3Y/
ゴミスレ終了
208水先案名無い人:04/11/23 02:56:28 ID:nM56y3Y/
黙れ
209水先案名無い人:04/11/23 02:59:30 ID:nM56y3Y/
セーフモードで起動
210水先案名無い人:04/11/23 03:01:01 ID:nM56y3Y/
誤爆スマソ。
211水先案名無い人:04/11/23 03:02:32 ID:nM56y3Y/
眞子さまのことを想うならこんなゴミスレは終了するべきだ。

=== 終了 ===
212水先案名無い人:04/11/23 03:04:03 ID:nM56y3Y/
そう思うならお前がここに来なければいいだけの話。


と、マジレスしてみるテスト。

こないだからいろんなスレで同じようなのが涌いてるけど全部同一人物なのかな?
暇があるってうらやますぃ。
貧乏暇なしっと。

あ、左右さんいつも乙です。一読者としていつも楽しみにしてるのでがんがってくださいね。
213水先案名無い人:04/11/23 03:05:34 ID:nM56y3Y/
アンチに負けたら許さんぞ左右
214水先案名無い人:04/11/23 03:07:05 ID:nM56y3Y/
俺のことはどうでもいいんだよ。
眞子さまの為だ。
215水先案名無い人:04/11/23 03:08:35 ID:nM56y3Y/
榛名先生はおれが名刺を渡すとしげしげとそれを見つめた。
G習院大学の学生だけあって特に護衛隊という肩書きを珍しがることはなかった。
ただおれの服装を見て
「その格好で走られるのですか?」
と聞いてきただけだった。
おれは、これがユニフォームだから、と答えた。
足元はアディダスのGSG9タクティカル・ローカットを履いているので普通の革靴より走りやすくなっている。
「教育実習は普通夏前にやるものなんですが、大学の陸上部の方で遠征しておりまして、
それで無理を言ってこの時期にこちらでお世話になっているわけです」
榛名先生はそう言って恥ずかしそうに頭を掻いた。
どうやら本格的に体育会系の人のようである。
新美さんと姫殿下はスタートの姿勢について榛名先生に質問しておられた。
そこへデジカメを持ったカコ様がぴゅーっと駈けて来られた。
「お姉様、応援に……」カコ様はそこで突然立ち止まられて、大きなお声で叫ばれた。
「見上げ入道見越したッ!」
それからばったりとお体を地に投げ出された。
そこにいた全員があっけにとられていた。
事情を察したおれはすばやくカコ様のお側に駈け寄り耳打ちし申し上げた。
「カコ様、あれは妖怪見上げ入道ではございません。教育実習生の榛名先生です」
「あら、本当? わたしてっきり妖怪見上げ入道かと……」
「何なんですか、いったい?」
榛名先生が上ずった声で言った。
「ちょっとしたおまじないです。妖怪見上げ入道に出会ったときの」
お召し物についた草を払いながらカコ様がおっしゃった。
216水先案名無い人:04/11/23 03:10:07 ID:nM56y3Y/
>アディダスのGSG9タクティカル・ローカット

ワラタ
217水先案名無い人:04/11/23 03:11:38 ID:nM56y3Y/
第1レースでは陸上部員が余裕を持って1着を取っていた。
姫殿下とおれは100mの第2組に出ることになった。
姫殿下はすでにブルマ姿の臨戦体勢。
一方のおれは護衛隊員にウォーミングアップなど不要! と余裕を見せつけていた。
(まあいくら何でも女子中学生に負けることはあるまい……)
第1組全員のタイムが読み上げられ、第2組の走者がコースに出る番になった。
「よし、行くぞ!」
姫殿下がご自分の頬をぱちんとひとつ打たれてトラックに足を踏み入れられた。
姫殿下は第1レーンを走られる。
「ここで皆さんにお知らせがあります」スターターの横に立った陸上部員が声を張り上げた。
「第2レーンは特別参加、護衛隊の藤村さんが走られます」
「デカカァァァァァいッ説明不要!! 藤村です」
言葉の最後の方は歌丸師匠風に決めてみたが、他の走者たちには完全に無視された。
おれは気を取りなおし、スタート位置についた。
外側のレーンを眺めてみると、第4・6レーンに陸上用のスパイクを履いた選手がいる。
クラウチングの姿勢などなかなか本格的で、素人のおれから見てもその実力のほどが窺える。
おれはひとつ深呼吸してから手を突いた。
「位置について! 用意!」
パン!
おれは勢いよく飛び出した。
(あれっ?)
最初の10mほどですでに第4レーンの選手に先行されている。
おれは体育の授業でやったことを思い出し、脚を高く上げ、地面を強く蹴リ続けた。
だが先頭との距離は縮まらない。
(やばい……)
218水先案名無い人:04/11/23 03:13:09 ID:nM56y3Y/
ガイドライン?
219水先案名無い人:04/11/23 03:14:40 ID:nM56y3Y/
いいかげん↓でやりなよ。
ガイドラインでも何でも無いだろ。

眞子様のSSを書くスレ Part1.5
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/test/read.cgi/mako/1094828391/
220水先案名無い人:04/11/23 03:16:11 ID:nM56y3Y/
(姫殿下、姫殿下は……?)
おれは顔を第1レーンの方に向けた。
(あれれっ?)
姫殿下はおれの真横を走っておられた。
(うそ……ぼく、負けてしまうん?)
病気の子供のようなことを考えながらゴールに飛びこむ。
「1着、第4レーン有藤さん、13秒10。2着、第2レーン藤村さん、13秒33.
3着、第1レーンマコさん、13秒38。4着……」
記録係が着順とタイムを読み上げる。
姫殿下が飛び上がって喜んでおられるのが見えた。
「やった! 自己ベスト!」
おれは膝に手を突き、呼吸を整えながらこの結果について考えていた。
(要人より足が遅い護衛……飛べないブタより価値がない!)
今後の身の振り方を真剣に案じていると、姫殿下がニコニコ顔で歩いて来られた。
「藤村、そなたの言うとおりにしたら本当に記録が……どうした、泣いているのか?」
姫殿下はおれの顔を覗きこまれ、そっと囁かれた。
「せっかく2位になったのにそんな残念そうな顔をしていたら、負けた人に悪いぞ」
「申し訳ございません……」
おれはがっくりと肩を落とした。
美術部員たちのところまで歩いて行く途中でも姫殿下はいつもより饒舌であられた。
「200mもこの調子で頼むぞ。今のように競り合った方がタイムが伸びるかもしれないな」
次のレースは本気で勝ちに行かなくてはならないようだ。
美術部員たちは芝生の上に固まって座っていた。
「藤村さん、もっと腕を振らないと」
「藤村さん、もっとスタートがんばらないと」
「ていうかさ、足が遅い。基本的に」
「まあ苦しいながらもタイム的にはうまくまとめたという感じですね……」
「はあ、そうですか……」
彼女たちのアドバイスもまったく耳に入らなかった。
221水先案名無い人:04/11/23 03:17:42 ID:nM56y3Y/
タイム考証にちょいと疑問有
222水先案名無い人:04/11/23 03:19:13 ID:nM56y3Y/
200mも先ほどの100mと同じ組み合わせで争われる。
おれは真っ先に自分のレーンに入り、精神統一を図った。
200mの場合、スタートしてしばらくは曲線のコースを走ることになる。
徒競走専門(好き好んでなったわけではないが)だったおれにははじめてのスタート位置である。
おれは蹲踞の姿勢で合図を待った。
まっすぐ前を見据えたときに自分の目的地が視界に入ってこないというのはなかなか不安なものだ。
コースの感触を確かめられた姫殿下がゆっくりとスタート地点に戻っておいでになるのが見えた。
フィールドに立つスタート係がゴールの方とジェスチャーで何かやり取りしている。
「それでは第2組の競技を始めます。位置について!」
選手たちが自分の間合いでクラウチングの姿勢に入る。
おれはゆったりと脚の位置を定めた。
姫殿下はおれの後方でいつでも飛び出せる格好だ。
「用意!」
パン!
フライング覚悟で合わせたのが幸いして、いきなり1足分くらいのリードを奪った。
不思議なもので端から見ていると順位がわかりづらい曲線コースでも、走っていると自分の位置がはっきりわかる。
おれはコーナー中盤でさらに2位との距離を広げた。
(いける! そうだ、昔から距離が長い方が得意だったもんな)
勝利を確信したおれはちらりと内側のレーンに目をやった。
姫殿下はおれのほぼ真横を走っておられた。
(さすが姫殿下、このスピードについてこられるとは。
あれ? おかしいぞ。コーナーでこの位置ということは……)
直線への入りでおれの視界に姫殿下のお姿が入ってきた。
(ひ、姫殿下がおれの前におられる!)
223水先案名無い人:04/11/23 03:20:44 ID:nM56y3Y/
速過ぎ? 遅すぎ?
224水先案名無い人:04/11/23 03:22:15 ID:nM56y3Y/
女子で13秒切ると高校の県大会に出られるよ(スパイク使用)
225水先案名無い人:04/11/23 03:23:46 ID:nM56y3Y/
なんか語順がむちゃくちゃでないかい?
226水先案名無い人:04/11/23 03:25:16 ID:nM56y3Y/
姫殿下がぐっと加速をつけられる。
おれは必死で追いかけたが逆に離されるばかり。
コーナーでついたスピードの差がここへ来てさらに広がっている。
その上、脚が思い通りに動かなくなってきた。
ゴール前で力尽きたおれは前のめりにばったりと倒れた。
「1着、第1レーンマコさん、28秒45。2着、第4レーン有藤さん……」
「はっはー! やったやった!」
姫殿下のご歓声が聞こえた。
「第2レーン藤村さんは失格となります」
「ははは、失格だって」
「記録を消そうとしたんじゃない? ほらよくあるでしょ、ハンマー投げとかで」
「いや、あれ勝ってないと意味ないですから」
美術部員たちが勝手な批評をしている。
おれはうつぶせのまま硬質ゴムと敗北の感触を体全体で確かめていた。
「あれ? 藤村さんが起き上がらない」
「ツェツェ蝿を媒介とする眠り病ですかね?」
「蹴伸び……」
「藤村、だいじょうぶか?」姫殿下が息を切らせながらおれを助け起こしてくださった。
「藤村の作戦のおかげで勝てたぞ」
「もったいないお言葉……」
おれはよろよろと立ち上がった。
「藤村さん、おつかれさま。はい、ナッツぎっしり確かな満足・ゴディバのマカデミアナッツ」
カコ様がおれの口にでかいチョコの塊を押しこんでくださった。
それは負け癖がついてしまいそうなほど甘く、柔らかだった。
227水先案名無い人:04/11/23 03:26:47 ID:nM56y3Y/
全国大会の記録を参考にしていたのがいけなかったみたいです。
参考になりました。
どうもありがとうございます。
228水先案名無い人:04/11/23 03:28:18 ID:nM56y3Y/
トラックでは1500mのレースが行われていたが、フィールドでは短距離の結果が発表されていた。
おれは姫殿下と並んで腰掛けながら、村田部長の話を聞いていた。
「皆さん、おつかれさまでした。
今回の選考に当たってはタイム及び技術面を考慮して評価しました」
姫殿下はお膝を抱えてじっと村田さんの言葉にお耳を傾けておいでだった。
姫殿下のタイムは100mが35人中8番、200mは3番だった。
1年生にしてはなかなかのご健闘ぶりだ。
「それでは発表します。
今から名前を呼ぶ12人はこの場に残ってください。
有藤さん、伊藤さん、中嶋さん、高木さん……」
1500mを走る新美さんが集団の中でもみ合いながらおれのすぐ横を通り過ぎて行った。
「……和田さん、マコさん、落合さん。以上です」
おれは姫殿下の方に目を遣った。
「……!」姫殿下はなぜかお指をぴんと伸ばしたまま固まっておられた。
「……やった」
「おめでとうございます」
「やった、やったぞ」
姫殿下は体育座りの姿勢のままごろりと横倒しに倒れられた。
生徒たちが解散すると、姫殿下は村田さんと榛名先生のところへ駈け寄られた。
「ありがとうございます! 一生懸命がんばります!」
そうおっしゃって深々とお辞儀をされる。
「榛名先生の推薦なのよ」
と村田さんが言った。
「うん、マコさんは200mのコーナーがとてもよかったんだ。
だから是非400mリレーのメンバーに入ってもらえないかと思って」
と榛名先生が頭を掻きながら言った。
229水先案名無い人:04/11/23 03:29:49 ID:nM56y3Y/
「400mリレー……」
陸上の花形とも言われるその競技の名前をお聞きになった姫殿下のお顔がパアァッと明るくなった。
「ほら、400mリレーだと第1走者と第3走者はコーナーだけを走ることになるでしょ?
あれって結構難しいのよ。速い人でも意外にスピードに乗れなかったりするから。
そこをマコさんに走ってもらいたいの」
「ぼくも後輩たちから"中等科の400mリレーは伝統的に強い"と聞いています。
この学校の代表としてがんばってください」
村田さんと榛名先生の言葉に姫殿下はお顔を紅潮させてお答えになった。
「はい! がんばります!」
姫殿下のお言葉に榛名先生は満足そうに頷いた。

帰りのお車の中でも姫殿下は未だ興奮覚めやらずといったご様子だった。
お隣のカコ様がデジカメの液晶に映し出される画像を見ながらずっとお体を動かしておいでだった。
「ほら、ここ。ここでトップを走っているのがわかったんだ」
「本当だ。もう顔が笑ってるわね。藤村さんはサンショウウオみたいな顔してるけど」
おれがハンター試験の一次で落ちた奴みたいになっているのもばっちり写っていた。
「これ、安藤さんに頼んで生徒会のHPに載せてもらおうかしら」カコ様がおっしゃった。
「タイトルは"藤 村 必 死 だ な"」
「本当に必死ですのでご再考ください」
とおれは申し上げておいた。
「わたしも藤村みたいに必死で走ろう」
姫殿下が微笑みとともにおっしゃった。
230水先案名無い人:04/11/23 03:31:21 ID:nM56y3Y/
藤村は面白いなぁヽ(´ー`)
231水先案名無い人:04/11/23 03:32:51 ID:nM56y3Y/
藤村はきっと男とでもヤってくれるさ!
232水先案名無い人:04/11/23 03:34:22 ID:nM56y3Y/
翌日、姫殿下が参加される初の練習が行われた。
朝も早いというのにグラウンドは活気に満ちていた。
それというのも毎週土曜日はそれぞれの部が他校と合同練習を行うことになっているのだ。
グラウンド入り口に立つおれの横では安藤さんとカコ様が打ち合わせをしておられた。
「陸上部の写真は戸山中が来てからでいいか……何? あのマッチ棒みたいなのは? 邪魔くさいわね」
安藤さんがとげとげしい口調で言った。
「あ、あれは妖怪見……じゃなくて教育実習生の榛名先生です。あとでレタッチして消しておきますね」
カコ様がにこやかにおっしゃった。
「おーい、藤村さーん」
フィールドの上から下川さんがおれの名を呼んだ。
おれが駈けて行くと、姫殿下と下川さん、それにリレーメンバーの4人が柔軟体操を行っておられた。
「藤村、皆が藤村の柔軟を見たいって」
と姫殿下がおっしゃった。
おれは芝生の上に腰を下ろして脚を180度の角度に開いてみせた。
「げー、すごい」
「げー、キモい」
双子のリー姉妹が声を揃えて言った。
この2人、リー・リーロンさんとリー・リーウォンさんはそれぞれ100m、200mの代表でもある。
「藤村さん、普段どんな運動してるんですか?」
1年生の落合さんが尋ねてきた。
この人は陸上部だが姫殿下と同じくリレーのみのエントリーである。
「毎日就寝前に2時間の股割りを行っております」
とおれは胸を張って答えた。
「それってどうなの? 社会人として」
と下川さんが言った。
233水先案名無い人:04/11/23 03:37:24 ID:nM56y3Y/
他の選手がゴールに駈けこんでくるのを見て、長久手さんはぺろりと舌を出した。
「よし、もう一本!」
そう叫んでスタート地点へと戻って行く。
「じゃ今度は私が行ってきます」
有藤さんが歩きかけたが、すぐに立ち止まった。
今走った選手たちが誰もコースから出ようとしない。皆再びスタート地点へとまっすぐ帰っていく。
「あー、今ので火が着いちゃいましたね」
榛名先生が笑いながら言った。
リー姉妹が何事か激しく言い争いをしている。
落合さんはしきりに首を振り、姫殿下は御頭の後ろでお手を組んで考えこんでおられるご様子。
誰もが「こんなはずじゃない」と言いたげな顔をしていた。

結局メンバーを入れ替えながら50本近く走ったが、誰も長久手さんに追いつけなかった。
そのあまりの快走ぶりに最後の方はフィールドで練習している他の部の生徒たちも集まって観戦していた。
休憩時間に戻って来られた姫殿下はご気色極めて悪しといったお顔だった。
一言も口をお聞きにならず、タオルを被っておれの隣に腰かけられた。
他の選手たちも黙りこくってばらばらに座っている。
リー姉妹の諍う声だけが空しく辺りに響く。
(う……初日から雰囲気最悪)
「リレーの方でがんばりましょう」というアドバイスさえもためらわれる、どす汚れた敗北感が漂っていた。
(でも怒ったお顔もかわいらしい……
やっぱり負けて悔しいのは当たり前だよな。
もし姫殿下が負けてもにこにこしておられるようなお方だったら、逆にいやだ)
そんなことを考えていると、かしましい話し声とともに戸山中の4人がやって来た。
234水先案名無い人:04/11/23 03:38:56 ID:nM56y3Y/
有藤で気がついた。それでリー姉妹かw
235水先案名無い人:04/11/23 03:40:26 ID:nM56y3Y/
それは書く方も気付く方もオヤヂなラインバック
236水先案名無い人:04/11/23 03:43:28 ID:nM56y3Y/
「あれ?」先頭を歩く長久手さんがおれと榛名先生に目を留めた。
「……新しい先生ですか?」
「どうも、教育実習生の榛名です。すばらしい走りでしたね」
彼がそう言うと戸山中の4人はぺこりと頭を下げた。
「はじめまして。護衛隊の藤村と申します」
そう言っておれはお辞儀をした。
「ゴエイタイ? 護衛隊……あーっ!」長久手さんが座っておられる姫殿下を恐れ多くも指差した。
「マコ様だ! テレビで観た! えー、すごーい! 屋島部長、マコ様ですよ」
「ホンマか?」
垂れ目の生徒が驚いているのかどうかよくわからない顔で言った。
「見て、乃江ちゃん。マコ様だって」
「…………」
残り2人の生徒が囁きあっている。
これだけの無礼な行いにも姫殿下は落ち着いた応対をされた。
「はじめまして、マコです」
姫殿下が立ち上がり自己紹介をされる。
「長久手コマキです。はじめまして。100mに出るんですか?」
「いえ、4×100mリレーに出ます」
「リレー?」そう言って長久手さんが目を輝かせた。
「リレー! 走りましょう! リレー!」
「はあ……」
姫殿下はこのテンションの高さに付いて行けずに戸惑っておられる。
そのときカコ様がお声を上げられた。
「わたしもわたしも走る走る!」
237水先案名無い人:04/11/23 03:46:31 ID:nM56y3Y/
そらそうよ、で飯吹いたじゃないかw
238水先案名無い人:04/11/23 03:48:02 ID:nM56y3Y/
「行くぞ、リーウォン!」
「おう、姉さん!」
リー姉妹のジェミニアタックが発動した。
カコ様も競り合いに行かれた。
姫殿下は身構えておられた。
おれはこぼれ球を拾う感覚で割って入っていった。
「まあまあまあ、皆さん少し落ち着いて」おれは場を収めるためにスポーツマン的提案をした。
「勝負は喧嘩じゃなくてトラックの上で……」
「うるせー馬鹿」
「何か(考えが)浅いな」
両陣営から罵声が飛んだ。
そこへ獄門島さんを先頭に八つ墓村さん、病院坂さん、下川さんの4人がやって来た。
「何だ何だ? 喧嘩か?」
この4人は野球サークル「魔球倶楽部」を立ち上げ、公認団体化を目指し日夜キャッチボールをしているのだった。
「あ、さっきの速い奴がいる」
「戸山中4人だろ? 殺っちゃおう。証拠も残らず消せる」
「くっくっくっ……いくらなんでも一度に5人じゃ胃がパンクだよ」
と下川さんが言った。
(? 5人? ……ひょっとしておれも入っているのか?)
「待ってください!」いつのまにか姫殿下がおれの横に立たれていた。
「長久手さん、リレーをしましょう。リレーなら負けませんから」
「そうね、そうしましょう。私たちが勝つと思うけど……」
そう言って長久手さんと戸山中リレーチームは立ち去った。
「絶対勝つ!」
リー姉さん(多分)が言った。
「いいえ、わたしたち"カコさまぁ〜ず"が勝ちます! ねえ、藤村さん?」
「はあ……」
カコ様のお尋ねにおれはあいまいな笑顔を浮かべた。
239水先案名無い人:04/11/23 03:49:33 ID:nM56y3Y/
「安藤さん!」カコ様が鬼気迫る勢いで叫ばれた。
「メンバーが1人足りないから入ってくださらない?」
「いや、私スポーツははちょっと……」
安藤さんが恥ずかしそうに言った。
「じゃあキキさんは?」
「私はデブだからちょっと……」
そう言ってキキさんはぷよぷよと首を振った。
「では中距離の方から新美メンバーを引っ張ってきましょう」
とおれはご献策した。
姫殿下は早くもお体を動かし始めておいでだった。

トラックの中に5チーム、20人の全出走者が入った。
第1走者のところでは第1・第2レーンでカコ様対姫殿下という夢の対決が実現した。
さらに戸山中の何を言っているのかほとんど聞き取れない白村乃絵さんが第3レーン、
中等科四天王チームの下川さんが第4レーン、サッカー部選抜が第5レーンを走る。
おれはカコさまぁ〜ず第3走者を任されていた。
スタートの合図とともに飛び出したのは姫殿下だった。
だがすぐに下川さんが追いつき、そのまま八つ墓村さんにバトンを渡す。
必死に食い下がられたカコ様は新美さんにリレー。
その新美さんは腕を横に振るサッカー部走りでいま一つスピードが上がらない。
戸山中の第2走者・一の谷ヒヨリさんに抜かされて4位に後退した。
新美さんからバトンを渡されたおれは必死で走るが隣のレーンのリーウォンさんに先行されたままだ。
(ルナ先生、後は任せた!)
我らがチームのバトンはスムーズにリレーされ、全てのアンカーが横一線に……
なったと思ったら、あっという間に長久手さんに追い抜かれ、引き離された。
長久手さんは例のごとく辺りを見渡して、舌を出した。
240水先案名無い人:04/11/23 03:51:05 ID:nM56y3Y/
獄門島さんがバトンを地面に叩きつけた。
有藤さんは頭を掻いている。
リー姉妹は責任を擦り付け合い、カコ様はヘビメタのドラムスみたいな地団駄を踏んでおられた。
「藤村」姫殿下がお顔を真っ赤っ赤にして歩み寄っておいでになった。「何なのだ、あの人の態度は?
他の人たちを馬鹿にしているのではないか?」
姫殿下も長久手さんにむかついておられるようだった。
「悪気があってやっているのではないと思いますが……」
「そうか……それなら仕方ないが…………でもなあ……」
姫殿下はお首をかしげながら歩いて行かれた。

次のレースはやはり長久手さんに敵意を抱いたソフトボール部と
陸上部中・長距離チームが加わって、7チームで争われることになった。
姫殿下は第3走者にコンバートされた。
カコさまぁ〜ずも順番を入れ替え、おれと榛名先生が先に走ってリードを奪う作戦に出た。
頭に血が上った獄門島さんもアンカーを下ろされ、第1走者となった。
レース序盤は我らがチームと四天王チームがまずリードした。
どのチームもミスなくリレーしてアンカーまで繋ぐ。
ところがここでアクシデントが起こった。
アンカー・有藤さんにバトンを渡された姫殿下が勢い余って外側の第3レーンに踏み入ってしまわれたのだ。
そこへ遅れを取り戻そうと長久手さんが勢いよく向かって来る。
両者が激突して、姫殿下が突き飛ばされる格好で倒された。
「あっ!」
グラウンド上の誰もが息を呑んだ。
長久手さんはすぐにバランスを取り戻して走り出した。
そこへコースを逆走して行った獄門島さんが飛び蹴りを入れた。
241水先案名無い人:04/11/23 03:52:36 ID:nM56y3Y/
カコ様かわいいなぁ
特攻のカコいいなぁ
242水先案名無い人:04/11/23 03:54:07 ID:nM56y3Y/
>>左右氏
連絡、現在眞子様スレッドが順次攻撃を受けております。
こちらにも被害が及んだ場合、
避難所の避難所、SSスレへの退避をお勧めいたします。
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/mako/
243水先案名無い人:04/11/23 03:55:38 ID:nM56y3Y/
マッチポンプ
244水先案名無い人:04/11/23 04:01:42 ID:nM56y3Y/
運営側も眞子様を汚すスレを潰すという趣旨に賛成なんだよ、きっと
245水先案名無い人:04/11/23 04:03:13 ID:nM56y3Y/
ラウンジも攻撃を受けている最中です
246水先案名無い人:04/11/23 04:04:43 ID:nM56y3Y/
まじで運営さんなんとかしてくれ・・・
2ch内のスレだけでもう17スレやられちゃったよ。
運営側にも既に8人ほど報告しに行ってるんだから、
そろそろ動いてくれないかな?コマッタコマッタ
247水先案名無い人:04/11/23 04:06:14 ID:nM56y3Y/
眞子様を汚すスレは皆殺しだ。
248水先案名無い人:04/11/23 04:07:45 ID:nM56y3Y/
俺は既にこんな妄想をしているぜ!!


暴漢3人組:《おいねーちゃん、俺たちと付き合えよ!ゲヘー》
(悪のテーマみたいな低音の音楽が流れ続ける)

眞子様:†やっ、やめてください!人を呼びますよ!†

暴漢3人組:《ハハッ、周りを見てみー!みんな見てみぬフリやで〜?誰も助けちゃくれないよ〜ん♪》

俺:「待てィ!!」(ここでヤッターマンのOPテーマの様な正義の音楽に切り替わる)
俺:「か弱き乙女に狼藉を働く悪党は許さん!くらえ!【狼牙風風拳!】(←俺が日々の妄想の中であみだした必殺技)」

暴漢3人組:《何じゃワレァ!野郎共!やっちま‥あべし!ひでぶ!ぱごァ! お、覚えてけつかれこのド阿呆!》

俺:「正義は負けない!」

眞子様:†あ‥ありがとう。あなたのお名前‥†

俺:「名乗る程ではありませんよ、お嬢さん!では!」(去り際にそば屋の自転車にぶつかってバカヤローと言われる、眞子の方を振り返って照れ臭そうに笑う俺)

眞子様:†ステキ!あの御方とお付き合いがしたい†
249水先案名無い人:04/11/23 04:09:16 ID:nM56y3Y/
眞子様を助ける妄想のガイドライン
http://that3.2ch.net/test/read.cgi/gline/1082454048/
250水先案名無い人:04/11/23 04:13:48 ID:nM56y3Y/
新スレと眞子様に幸あれ
251水先案名無い人:04/11/23 04:15:19 ID:nM56y3Y/
眞子ってなんて読むの?
252水先案名無い人:04/11/23 04:16:50 ID:nM56y3Y/
まんこ



と答えたくなる衝動を必死で抑えました
253水先案名無い人:04/11/23 04:18:20 ID:nM56y3Y/
【狼牙風風拳!】
>>1 はヤムチャ?
254水先案名無い人:04/11/23 04:19:51 ID:nM56y3Y/
新スレ立ったんですね。>>1乙です。
新スレを祝して久しぶりに何かSS書こうかな、
とか思ったんだが、さしあたってネタが思いつかん…。

実は、以前書いてた「嗚呼!」を連発する長編の後日談とか構想してるんだけど、
なかなか時間がとれんのよ。ええトシこいて受験生なもんで。

とりあえず即死回避パピコ。
255水先案名無い人:04/11/23 04:21:22 ID:nM56y3Y/
左右召喚age
256水先案名無い人:04/11/23 04:25:55 ID:nM56y3Y/
こっちもよろしく

眞子様のSSを書くスレ Part1.5
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/test/read.cgi/mako/1094828391/
257水先案名無い人:04/11/23 04:27:25 ID:nM56y3Y/
また腐ったスレが一つ増えた。
「これでコテハンデビューだ!」
「メンヘル板の有名人だ!」
「相談にものっちゃうぞ!」
がドキドキしながらたてたスレは、
大方の予想通り(を除く)、どうしようもないレスばかりがついた。

ここではあわてふためく。
1 「ネタだったことにしちゃおうか?」
2 「自作自演で盛り上げようか?」
3 「逃げ出して別のスレでもたてようか?」
さあ、いったい、どれを選んだら良いのでしょ〜か?

1を選んだへ。
それは「ごまかし」です。あなたは「嘘つき」です。

2を選んだへ
それは「まやかし」です。あなたは「嘘つき」です。

3を選んだへ。もう書くのが疲れました。
言いたいことは上と同じです。

そろそろ認めるべきです。
あなたは自己顕示欲だけはいっちょまえだが、 その欲望を満たすだけの能力がない。
努力はしないくせに、注目を浴びている自分ばかり妄想している。卑屈な笑いだけが特徴のつまらない人間だ。

せっかく必至で考えたコテハンが無駄になってしまいましたね(笑)
そして今日も良い天気!
258水先案名無い人:04/11/23 04:28:56 ID:nM56y3Y/
すまん誤爆しました。
259水先案名無い人:04/11/23 04:30:27 ID:nM56y3Y/
「プールの中で走ってはいけないぞ。腰洗い槽だったからまだよかったものの、転んで頭を打ったらどうする」
姫殿下が強い口調でお叱りになった。
「ごめんなさい、お姉様……」
俯かれたカコ様の制服からは水滴が滴り落ちている。
おれは1歩進み出て奏上した。
「姫殿下、私がプールのことを申し上げたのがいけなかったのです。お叱りは全て私が甘受いたします」
姫殿下はおれが頭を下げようとするのをお手でとどめられた。
「いや、そなたに落ち度はない。カコ、藤村の側についていなさい。勝手に走りまわってはいけないぞ」
「はい、お姉様」
カコ様はすっかり小さくなっておられた。
「帰りはわたしの体育着を着て帰りなさい」
「ありがとうございます、お姉様」
姫殿下はひとつため息をつかれると、表情を和らげられた。
「それでは皆さん、演奏をよろしくお願いします」
ひとつ頷いた新井さんがタクトを振ると、バンドは『雨に唄えば』を吹き始めた。
彼女たちを引き連れた姫殿下は更衣室を通ってプールにお入りになった。
カコ様とおれは行列の最後尾についた。
「びしょ濡れになっちゃったわねえ」
カコ様にもいつもの笑顔が戻った。
「御一人だけプールから上がられたみたいですね」
「そうねえ……あっ、そうだ。まめ飴、まめ飴……あーっ、全部びしょびしょになってる!」
カコ様はじっと残りの飴を見つめておられたが、意を決して全てお口の中に放り込まれた。
「塩素くさーい」
顔をしかめられながら、カコ様はがりがりと飴を噛み砕かれた。

プールの中は体育館の中よりも遥かに音を響かせた。
一行が侵入するとすぐに水泳部員が1人飛んできた。
「何なんですか、あなたたちは!?」
姫殿下は丁寧に自己紹介し、来意をご説明あそばされた。
260水先案名無い人:04/11/23 04:31:59 ID:nM56y3Y/
姫殿下のお話を拝聴した水泳部員は露骨に嫌な顔をした。
「いやあ、それはちょっと……」
「ちょっとすいません」おれは先ほどと同じように割りこんだ。

「……わかりました。演説を伺うことにします」
またしてもおれの街宣右翼的論法により敵の野望は打ち砕かれた。
ふと見るとカコ様がやけになられたのか、プールサイドに腰掛けて思いきりバタ足をされていた。
おれは姫殿下に恫喝の成果をご報告申し上げた。
「そうか、それはよかった。では早速演説をしよう」
姫殿下は満足げにおっしゃった。
「演説台はどちらに置けばよろしいでしょうか?」
おれがそうお尋ねすると、姫殿下はあたりをご覧になってからおっしゃった。
「いや、演説台はいい。あのスタート台の上に立って行おう」
姫殿下がスタート台のうえに立たれると、水泳部員たちが水から上がってこちらにやって来た。
プールの向こうではカコ様がコースロープ綱渡りに挑戦されていたが、2mほど進んだところで静かに水没された。

「プール上がりのアイスは最高ねえ、お姉様」
姫殿下のシャツとブルマをお召しになったカコ様がアイス片手に満面の笑みを浮かべられておっしゃった。
「そうだな。ご馳走してくれた藤村に御礼を言いなさい」
「はい。藤村さん、どうもありがとうございます」
カコ様に頭を下げられて、おれは恐縮した。
「いえ、お気になさらずに。大人の経済力にかかればアイスの20個や30個……」
「藤村さん、ご馳走になります」
「まーす」
平沢さんと下川さんがお盆を持っておれの前を通り過ぎていった。
「あっ、あなたたち、何でカレーも頼んでるんですか!?」
「あ、冷と暖のバランスを取ろうと……」
「いいじゃん、カレーの1杯や2杯。あんた公務員でしょ? 給料もらってんでしょ?」
下川さんに完全に逆ギレされたおれは、それ以上の追及はやめて自分のガリガリ君に集中することにした。
261水先案名無い人:04/11/23 04:33:30 ID:nM56y3Y/
左右さん
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
262水先案名無い人:04/11/23 04:35:01 ID:nM56y3Y/
プールサイドでカレー(゚д゚)ウマー
263水先案名無い人:04/11/23 04:36:32 ID:nM56y3Y/
藁板のスレと相互リンクしておこう

こんな眞子さまはイヤだ!!
http://hobby6.2ch.net/test/read.cgi/owarai/1090940317/
264水先案名無い人:04/11/23 04:38:03 ID:nM56y3Y/
265水先案名無い人:04/11/23 04:39:34 ID:nM56y3Y/
空気嫁
266水先案名無い人:04/11/23 04:41:04 ID:nM56y3Y/
姫殿下とカコ様は吹奏楽部員たちとご歓談されていた。
並んで座ったおれと下川さんと新井さんはそれを眺めていた。
「ねえ、下川」と新井さんが言った。
「今日行った部ってさ、昔はもっと活気があったと思わない?」
「うん。私が1年のとき剣道部員はあの倍くらいいたと思う」
下川さんがお茶をすすりながら言った。
「今はどこの部も苦しいのかな……
文化部でちゃんと活動してるのって私のところと下川の美術部くらいじゃない?」
「そうだね。書道部もなくなっちゃったし」
「あなたは何で書道部じゃなくて美術部に入ったの?」
「……やっぱり楽しかったからかな。先輩がよくしてくれたし。雰囲気がよかったの」
そう言って下川さんは姫殿下の方を見て目を細めた。
「ねえ、藤村さんは中学時代何部だったの?」
下川さんがおれの顔を覗きこんで尋ねた。
「私は帰宅部でした」
おれがそう答えると、下川さんは納得した様子で頷いた。
「でも皆さんを見ていると、あの頃部活をやっていればよかったなあって思います」
「何言ってんの? あなたは美術部員よ」
下川さんがおれの肩を叩いて言った。
「え、そうなんですか?」
「そうよ。まあ、身分的には筆洗バケツのやや下くらいだけど」
おれの暗かった学生生活はここに来て埋め合わされ始めたようだ。
吹奏楽部員に混じった姫殿下とカコ様がお顔を真っ赤にして大きな木管楽器を吹いておられるのが見えた。
267水先案名無い人:04/11/23 04:42:36 ID:nM56y3Y/
翌日は朝から曇りだったが、午後になって雨が降り出した。
雨音のせいかいつもより終鈴が遠く聞こえた。
「では木田さん。美術室に行ってきます」
そう意っておれは新聞を折りたたみ、傘を開いて守衛室を出た。
並木道には1人の生徒の姿もなかった。
「何か閑散としてますね」
とおれは言った。
木田さんは守衛室の窓口から顔を出した。
「雨の日の学校は静かなものですよ。静かで美しい。
でもね、この学校で一番すばらしいのは雨上がりの直後です。空気の香りが何とも言えない。
藤村さん、もし雨が上がったら深呼吸してみてください」
おれは手で了解の合図をして美術室に向かった。

美術部員たちは自分の創作に没頭していた。
いつもなら弁当を鬼食いしている下川さんも手鑑を見ながら筆を走らせている。
おれは姫殿下のお側に参った。
「姫殿下、本日の選挙運動はいかがなさいますか?」
「うん、それがなあ……」姫殿下が画筆を休められておっしゃった。
「外でビラを配ろうと思っていたのだが、この雨では無理だな」
近くの机に置かれたビラには「明るい勤王」と書かれていた。
それが具体的にどういう行為を指すのかは定かでないが、
佐幕派暗殺とか画像を集めてハァハァするといった行為とは正反対のものであることだけは確かだ。
「うおおおお、だめだああああ」下川さんが頭をかきむしりながら立ち上がった。
「腹が減って集中できない! 私、ちょっと学食に行ってくる」
「部長、私も行きます」三鷹さんがマウスから手を離して腰を上げた。
「ねえ、マコちゃんも一緒に行かない? もしかしたら学食で雨の上がるのを待っている人がいるかもしれない」
それをお聞きになった姫殿下のお顔がぱっと明るくなった。
「はい、行きます!」
姫殿下はビラの束を引っつかまれると、その側に置いてあったたすきをジャージの上からお召しになった。
268水先案名無い人:04/11/23 04:44:07 ID:nM56y3Y/
いつの間にかその2が…
1さん乙です。
269水先案名無い人:04/11/23 04:45:38 ID:nM56y3Y/
学食は八分くらいの入りだった。
しかしきちんとした食事を採っている生徒は少なく、雨宿りついでにジュースを飲んでいるといった手合いがほとんどだった。
「ここは手堅く月見そばに半ライスと行くか……」
何が手堅いのかはわからないが、下川さんはそう言い残して麺類のカウンターに向かった。
そのとき学食のおばちゃんに注文をしていたジャージ姿の生徒が振り向いた。
「あっ、下川!」
「むっ、獄門島!」
バスケ部部長の獄門島さんは下川さんの姿を認めると凶悪な視線をぶつけてきた。
その横にはバレー部部長の八つ墓村さんにソフト部部長の病院坂さんが立っていて、毒々トロイカ体制を確立している。
おれは立ちすくんでおられる姫殿下にそっと耳打ちし申し上げた。
「姫殿下、何だか雰囲気が悪うございますから、ここは美術室に戻られた方がよろしいかと……」
「そうだな、そうしよう」
下川さんとにらみ合っていた獄門島さんがこのひそひそ話に気付いてこちらをちらりと見た。
「どうしてここに? ……そうか下川は美術部だったね。だからそっちに荷担してるわけだ」
「あんたこそ安藤のパシリやってるんだって?」
どうやらこの2人は非常に仲が悪いらしく、早くも一触即発のムードだ。
おれがそれを無視して姫殿下を先導し申し上げようとしたとき、下川さんがすたすたとご飯類のカウンターに歩いていった。
「獄門島、あんた何頼んだの?」
下川さんの突然に問いに獄門島さんの表情に微かな動揺の色が浮かんだ。
「え……? 掛けうどん半ライスだけど……」
「おばちゃん、かき揚げ丼! 味噌汁・お新香つきで!」
下川さんは食堂中に響き渡る大声で注文した。
かき揚げ丼、味噌汁・お新香つき……何と力強い組み合わせであろうか。
確かに麺類+ライスは炭水化物を摂取するには最適だ。
だがその機能性ゆえにか、それを食する行為は“摂取”とでも呼ぶべき、誤解を恐れずに言えば“餌”的な色彩を帯びる。
しかし丼・味噌汁・お新香とくればそのメニューとしての完全性たるや……
それを食する者は精神的貴族に位置付けられる。
「むむむ……」
獄門島さんが低く唸った。
270水先案名無い人:04/11/23 04:47:10 ID:nM56y3Y/
そのとき八つ墓村さんが1歩進み出て言った。
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り!」
「うっ……」
下川さんがひるんだ。
確かにここまで機能性を追及されれば、そこに志士的な潔さを感じずにはいられない。
(どうする下川さん……)
突然姫殿下が厨房に飛びこまんばかりの勢いでカウンターに駆けて行かれた。
「かき揚げ丼・味噌汁・お新香、それから小カレー!」
「なにィッ!?」
姫殿下の電光石火のご注文に食堂中がどよめいた。
小カレー……それ自体では決して迫力のあるものではない。
だがカレーは回転が速いためご飯類とは別のカウンター。
途中で気が変わったからといって越えることのできぬ、三十八度線にも等しい境界線がそこには存在する。
それを軽々と注文してのけるとは……まさに食のコスモポリタンである。
「病院坂、あんたは何頼む?」
八つ墓村さんが傍観していた病院坂さんに迫った。
「え? いや、私はそんなにおなかも空いてないし……」
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り、小カレー!」
獄門島さんが厨房の奥まで響けとばかりに叫んだ。
それに対抗して下川さんもカウンターにのしかかるような姿勢で怒鳴った。
「おばちゃん、あそこの冴えない男の人にかき揚げ丼・味噌汁・お新香、カレー大盛り、ゆで卵!」
(おれも食うのか……)
おれの隣にいた三鷹さんも自分の運命を悟ったようで、すでに泣きが入っていた。

15分後、おれと三鷹さんはかき揚げ丼を半分空けたあたりでグロッキーになっていた。
「藤村さん、私もう限界……」
三鷹さんがうなだれていった。
「私もです……心苦しいがカレーは残すしか……」
そこへ早々と完食しビラも配り終わった姫殿下と下川さんが戻っておいでになった。
「何だ藤村、カレーが手付かずではないか」
姫殿下のお言葉におれは恐縮するしかなかった。
271水先案名無い人:04/11/23 04:48:41 ID:nM56y3Y/
下川さんは納得いかない様子でその新聞部員を解放した。
「28日……来週の月曜日ですね」
「投票は30日だから結構重要なイベントね」
「何か嫌な感じ。マコちゃんに知らせなかったのは絶対嫌がらせだよ」
下川さんが憤慨した顔で言った。
「でもまだ5日ありますから。準備はできます」
姫殿下はいつもの穏やかなお顔でおっしゃった。
ふと食堂の入り口に目をやると、獄門島さんご一行が出て行くのが見えた。
(ん……? あの3人、ビラを持っていない。もしや前から討論会のことを知っていたのでは……)
おれはじっくり観察しようとしたが、獄門島さんと目が合って思いきりにらまれたので、慌てて目を逸らした。

食堂を出ると雨は上がっていた。
「あーあ、何かあいつらのせいで嫌な気分になったから食べた気がしない」
下川さんがそう言う側で三鷹さんが切れそうになっているのをオーラで感じた。
「んー…………」
姫殿下は大きく伸びをされていた。
「姫殿下もあの雰囲気でお疲れですか?」
とおれはお尋ねした。
「いや、ただ雨上がりのいい匂いがするから深呼吸してみたんだ」
「雨上がりの匂い……でございますか?」
木田さんの言っていたことを思い出して、おれも思いきり息を吸い込んでみた。
すると確かに鮮烈でなぜか胸がどきどきするような匂いがした。
「本当だ。森の中にいるみたいですね」
下川さんがおれたちの姿を見て目を細めた。
「ねえ、美術室に帰ったらみんなで散歩しようか。林の中を通って葉っぱから落ちる雫を浴びるの。どう?」25
「賛成! 私は第2グラウンドの芝の上を裸足で歩きたいな」
「藤村、こういうときに池の側に行くとカエルがいっぱいいるんだ。それから百葉箱の下でいつも雨宿りする猫が……」
自分たちの学校の美しさを自然に口に出せる彼女たちを見ていると、
学校の中に居場所がなかったのはおれにそれを見つける目がなかっただけなのかもしれないと思えてきた。
272水先案名無い人:04/11/23 04:50:13 ID:nM56y3Y/
OVA化キボンヌ。
273水先案名無い人:04/11/23 04:51:43 ID:nM56y3Y/
翌日、守衛室待機を命じられていたおれは新聞を読むともなく眺めていた。
1面には「糸己宮さま、ハシジロキツツキを観察 営巣行動の撮影、世界初――キューバ」という見出しが躍っている。
密林を写した写真には「ハシジロキツツキにカメラを向ける糸己宮さま(右から2つ目の茂み)」というキャプションが付けられていた。
おれはその写真をためつすがめつ、裏返したり日光に透かしたりダブルクリックしたりしてみたが糸己宮様のお姿を発見することはできなかった。
「藤村!」
突然姫殿下のお声が聞こえた。
顔を上げると、たすきをお召しになった姫殿下が守衛室の窓口からお顔を覗かせておられた。
「藤村、演劇部に行くぞ!」
「はい!」
おれは新聞を放り出して守衛室から飛び出した。

演劇部室は旧校舎3階の薄暗い廊下を行った突き当たりにあった。
「失礼します」
ノックしてドアを空けると、意外にも室内はまばゆい光に満ちていた。
部屋の中央ではミニチュアの家があり、その前で1人の生徒がうずくまっている。
「あの……わたくしこの度生徒会長に立候補いたしました……」
姫殿下が自己紹介を始められると、その生徒は振り向いてしょぼしょぼした目をこちらに向けた。
「ああ、あなたがマコさんね。吹奏楽部の人から話はきいたわ。私、演劇部のラストサムライ、2年の上杉です」
そう言って上杉さんは姫殿下と握手した。
おれは自己紹介ついでに地べたに置かれた謎の平屋ドールハウスについて尋ねてみた。
「ああ、これ? これはクレイアニメ用のセット」上杉さんは粘土の人形を手に取った。
「なんせ部員が私1人しかいないものだから……」
いきなり辛気臭い話を聞かされてしまった。
「これを少しずつ動かして撮影するんですね」
姫殿下は興味深そうに犬の人形を見つめておられた。
「そう。今『遊星からの物体X』を撮ってるんだけど、なぜかコミカルになっちゃうのよね。何でだろ?」
それはクレイアニメだからではないですかと言おうかと思ったが、空気が余計湿っぽくなりそうなのでやめておくことにした。
274水先案名無い人:04/11/23 04:53:15 ID:nM56y3Y/
ワラタ
275水先案名無い人:04/11/23 04:54:46 ID:nM56y3Y/
念のためほしゅ
276水先案名無い人:04/11/23 04:56:16 ID:nM56y3Y/
http://academy3.2ch.net/test/read.cgi/history/1093526288/l50
眞子さまの名前があがってるぞ。
277水先案名無い人:04/11/23 04:57:47 ID:nM56y3Y/
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから入ってみないか」
姫殿下が熱っぽい調子でおっしゃった。
(むう、どうしたものか……?)
過去を振り返ると「入らないか」と言われて入ったものは写真同好会、中野のキャバクラ、ホモの先輩の家などろくなものがなかった。
それにおれは『火の鳥 ヤマト編』を読んで以来、閉暗所恐怖症だ。
「ほら、頭を外してから背中のファスナーを開けて着るんですよ」
上杉さんが一方的にレクチャーを始めた。
仕方なくおれは興味があるふりをしてクマの内部を覗きこんだ。
そのとき、まるでナッパ様が「クン」とやった指が直で鼻に突き刺さったような痛みが走った。
「うわあっ、は、鼻が……!?」
「これは着ぐるみに染み付いた先人たちの血と汗と胃液が発酵してこのようなイヴォンヌの香りを……」
「だめだだめだこれはだめだ!」
おれは鼻を押さえながら飛び退った。
「そうか……だめか……」
姫殿下が残念そうなお顔でおっしゃった。
おれの目には涙がにじんでいたが、姫殿下のお手がクマの頭をなでなでされるのを見逃さなかった。
(むっ、なでなで? ということは……)
姫殿下、クマをなでなで

クマの中の人=おれ

姫殿下、おれをなでなで

(゚д゚)クマー
「藤村、入ります!」
おれは靴を脱ぎ捨て、着ぐるみに足を突っ込んだ。
おれが入らなければどこのクマの骨もとい馬の骨とも知れぬ輩が姫殿下のご寵愛を賜ることになってしまうかもしれないのだ。
「おお、やってくれるか!」
姫殿下は破顔一笑された。
278水先案名無い人:04/11/23 05:06:53 ID:nM56y3Y/
ネタ具現化委員会に提出した者勝ち
279水先案名無い人:04/11/23 05:08:23 ID:nM56y3Y/
ぽこたんむっちゃワロタ
280水先案名無い人:04/11/23 05:11:25 ID:nM56y3Y/
「おいで、ぽこたん。手の鳴る方へ」
姫殿下のお誘いに従って、クマのおれは準備室を出て演劇部室に戻った。
口がふさがっているせいで少し動いただけで息が切れる。
おまけに鼻の粘膜がやられたのか鼻水が止まらない。
(くそっ、『アビス』の潜水服の方がまだましだぜ)
おれが動かずに呼吸を整えていると、姫殿下がおれの目を覗きこんでおっしゃった。
「ぽこたん、ちょっと掌を見せておくれ」
おれは右手の珍味を差し出した。
姫殿下はそれをぎゅっと握り締めあそばされた。
「おお、肉球……大きいなあ、ぷよぷよだなあ」
特大肉球を突ついておられる姫殿下をおれはクマの中から生暖かく見守っていた。
…………5分後、姫殿下はまだおれの手をお放しにならなかった。
クマの中のおれの体勢は前傾気味なので、床についた左手に強い負荷がかかっている。
(そろそろ手を離してくださらないだろうか……)
だが姫殿下は肉球占いに夢中になっておられた。
「王様、姫様、外人力士、王様、姫様…………」
(待っていてはだめだ。はっきりとおれの意思をお伝えしなくては……)
おれは右手を動かそうとした。
しかし姫殿下が思いの外がっちりとホールドされているので動かせない。
だからといって乱暴に振り払うわけにもいかない。
そこで空いた左手で床を光速タップすることにした。
体重が乗っている左手を屈して上体を沈めてから思いきり跳ねる!
「ああっ、ぽこたんは姫様だ! あはは」
姫殿下が急に右手を引っ張られたのでおれはバランスを崩し、顔面で着地してしまった。
(おっぱァアアーっ)
おれは痛みにのたうち回った。
「あっ! この動きは何を意味しているんですか?」
姫殿下が上杉さんにお尋ねになった。
「甘えてるんじゃない?」
勝手に裁判の原告にされてしまった動物たちの気持ちが少しわかったような気がした。
281水先案名無い人:04/11/23 05:12:56 ID:nM56y3Y/
「ぽこたん、ちょっとだけ外に出てみないか?」
姫殿下のご提案におれは身をすくめた。
この着ぐるみを着て長時間活動するのは体力的に不可能。
それに過去を振り返ると、「出てみないか」と言われて出たものは、登校拒否の自助グループ、
仏教系の勉強会、居酒屋の外(ホモの先輩と)などろくなものがなかった。
そんなことを考えながらもじもじしていると、姫殿下が沈んだ声でおっしゃった。
「そうか、だめか……せっかくみんなに自慢したり、馬乗りになろうと思ったのに……」
(姫殿下がクマ乗り!? いや馬乗り!?)
「クマ――!!」
おれは廊下に踊り出た。

「ちょっとだけ、この階を回るだけだから」
姫殿下はおれが逃げ出さないよう何とか引きとめようとしておられた。
おれはそろそろ汗も出なくなり、体力の限界に近づいていた。
(そろそろ演劇部室に戻ることをかわいらしくおねだりしてみないと……)
おれがクマである自分の魅力を最大限に引き出すポーズを考えていると、突然姫殿下が歩みを止められた。
(ん、何だ? ………………ああっ!)
目の前に足の不自由な生徒用のエレベーターがあった。
(ま、まさか……)
「ぽこたーん、これならぽこたんでも下に下りられるな。階段は怖いだろう?」
そうおっしゃりながら姫殿下は「下」のボタンを押された。
(いや、ちがうんです! 階段との比較の問題ではなくて!)
すぐにエレベーターの扉が開いて、おれはむりやり押し込まれた。
中は狭く、機械音がとても大きく感じられた。
(きっとスペース・ビーグル号のエレベーターに乗ったクァールもこんな恐怖を味わったんだろうなあ)
身をすくめたおれの首元を姫殿下が優しく撫でてくださった。
「もうすぐ外の風に当たれるからな。もう少しの辛抱だぞ、ぽこたん」
(外に出るのか……)
ホント クマの中は地獄だぜ! フゥハハハーハァー、と思った。
282水先案名無い人:04/11/23 05:14:27 ID:nM56y3Y/
歴戦の勇者にふりかかる最大の試練。
毎回手に汗しつつ拝読しております。
がんばれぽこたん!(・∀・)!
283水先案名無い人:04/11/23 05:23:33 ID:nM56y3Y/
まさかここで『奪!童貞。』ネタにお目にかかれるとはw。
284水先案名無い人:04/11/23 05:25:03 ID:nM56y3Y/
最近2ちゃんねるネタが多いな
285水先案名無い人:04/11/23 05:26:34 ID:nM56y3Y/
中国板・できちゃってるカップル

右翼海老=中原小麦
大和侍=猫おうえる
シナ人留学生=麦
中国民=秋篠宮眞子内親王
◆r7Y88Tobf2=曲

本物の眞子様が見れるのは中国板だけ!
http://academy3.2ch.net/test/read.cgi/china/1094591968/l50#tag514
286水先案名無い人:04/11/23 05:28:05 ID:nM56y3Y/
それでも(おっぱァアアーっ)とかの2ちゃん以外のネタもある。
(左右は2部好き?)
287水先案名無い人:04/11/23 05:32:39 ID:nM56y3Y/
現人熊てw
腹がよじれるほどワロタ。
288水先案名無い人:04/11/23 05:35:41 ID:nM56y3Y/
次の日になっても鼻水は止まらなかった。
昨日の服はクリーニングに出したが、まだ臭いが体に残っている気がする。
念のためおれは締め切った守衛室には入らず、外で掃き掃除をして1日を過ごした。
生徒たちの下校する時間になると木田さんが門の外に出て交通整理を始めたので、おれは守衛室に入った。
昼に買って結局飲まなかったカフェオレの缶を開けようとしたとき、窓口のガラスをとんとんと叩く音がした。
「藤村、わたしだ」
たすきをお召しになった姫殿下がひょっこりとお顔を覗かせられた。
「あれ、姫殿下、今日は東門でビラをお配りになるのでは……?」
おれが窓口を開けてそうお尋ねすると、姫殿下はうつむき加減でおっしゃった。
「それが……東門に行ったら安藤さんが先にそこでビラを配ってたんだ」
「そうでしたか……」
「だから今日はここで配ることにする」
「御意のままに」
おれは守衛室を出て姫殿下から少し離れたところに立った。
この時間、東門は大変混雑するが、それを嫌ってこの南門から下校する生徒も少なくない。
むしろ一人一人にビラを渡せるのでこちらの方が効果的かもしれない。
大きな声で呼びこみをされている姫殿下を拝見していると、たすきをかけた生徒が並木道を歩いて来るのが見えた。
(う、あの眼鏡は……)
「マコさ〜ん」
「あっ、安藤さん!?」
手を振りながら走って来る安藤さんの姿をみそなわされた姫殿下は硬直しあそばされた。
安藤さんは姫殿下のお側に来るとにっこりと笑った。
「ねえ、一緒にビラを配ってもいい?」
「ど、どうぞ……」
姫殿下が小さな声でおっしゃった。
(何で対立候補が並んで選挙活動しなきゃならないんだ……)
おいたわしいことにその後の姫殿下は安藤さんを意識して萎縮されておられた。
だが一番悲惨だったのはこの異様な状況の中2枚のビラを渡されてしきりに頭を下げる生徒たちだった。
289水先案名無い人:04/11/23 05:37:13 ID:nM56y3Y/
下校する生徒の流れも一段落した頃、校舎の方から新美さんが走ってやって来た。
「マコリン、探したのよ」
そういいながら新美さんは肩で息をしていた。
「どうしたの、リサリン?」
「ご、獄門島さんがマコリンと藤村さんをソフトボール部の部室に連れて来いって……」
「だめです」
おれは即答した。
新美さんは顔をくしゃくしゃにして言った。
「でも……連れて来ないとGOHDA流空手で私をボコボコにするって言ってるの」
「GOHDA流空手!?」
おれは驚きのあまり大声を上げた。
「知っているのか、藤村?」
「はい、GOHDA流空手とはあのロックスターGOHDAがアクションスター千葉県一から伝授されたという伝説の格闘技です。
彼の伝記マンガ『ドラえもん』第29巻の記述によれば、千葉の個人教授を受けたGOHDAがそのあまりの激しさに失神したとか」
「何と!」
「恐るべきは必殺技のつま先蹴り! 正中線上に存在する人間の急所を的確に狙い打つその蹴りはまさに一撃必殺でございます」
「恐ろしげな技だな……」
姫殿下がご尊顔を曇らされた。
「というわけで新美さん、姫殿下と私はご一緒できませんがご健闘をお祈りします」
「いやぁぁああ、見捨てないで!」
新美さんが姫殿下にすがりついた。
「大変ねえ、皆さん」
安藤さんが涼しい顔をして言った。
「ああああ、安藤さん! あなたが、あなたが指示したんでしょ!」
「さあ知らないわルルルー」
安藤さんは顔を真っ赤にして叫ぶ新美さんを無視して明後日の方向を向いた。
(こいつ…………)
「藤村!」新美さんの体を抱きかかえるようにされていた姫殿下がおれの名を呼ばれた。
「行こう……友達を救えないのなら生徒会長になっても意味がない」
姫殿下のお言葉におれは覚悟を決めた。
290水先案名無い人:04/11/23 05:38:44 ID:nM56y3Y/
左右age
291水先案名無い人:04/11/23 05:40:15 ID:nM56y3Y/
「ねえ、藤村さん。あなた護衛隊員なんだから格闘技とかできないの?」
新美さんがおれに尋ねた。
正直な話、格闘技は苦手だ。
訓練学校で柔道、剣道、逮捕術をやったがどれも並以下の成績だった。
だがここでそれをぶっちゃけてしまうのもためらわれる。
(とりあえず適当な名前の格闘技をでっち上げてお茶を濁そう……)
「えー、ふ、藤村式体術というのを(脳内で)主催しておりますが……」
「何それ? 強いの?」
新美さんが必死の形相で言った。
「えー、情報収集と待ち伏せを中心にした総合格闘技です」
「使えねぇッ!」
新美さんが叫んだ。
「あと、ストリート(通学路、廊下)で培った土下座のスピードには自信があります」
ここだけは真実だ。
「でも藤村は強いと護衛隊の皆が言っていたぞ」姫殿下が助け舟を出してくださった。
「なんでも訓練学校時代にはいろいろと奇策を用いて逆転勝利を収めたとか」
(まずい……)おれはかつて自分がやらかした卑劣な行為を思い出した。
(逮捕術の試合でバールのようなものを使って相手をぶん殴ったことか? それともひものようなものの件か……?)
「対戦相手の家族構成のようなものに妙に詳しくて怖かったと誰かが言っていたな」
姫殿下はおれの必勝パターンを完璧にご存知のようだ。
「最低……」
新美さんが吐き捨てるように言った。
「最低……」
安藤さんも言った。
この人にだけは言われたくない。
「まあネット社会の落とし穴とでもいいましょうか……現代が生んだ悲劇ですな」
と世相を斬って平成の落合信彦を気取りつつ(え? まだ生きてんの?)、おれは武器を仕込むために守衛室に戻った。
292水先案名無い人:04/11/23 05:41:46 ID:nM56y3Y/
木田さんに後のことを頼んでから、おれたちは並木道を歩き出した。
ソフトボール部の部室は第2グラウンドのすぐ脇にある小さなプレハブ小屋にある。
3人ともこれからそこで起こる出来事に不安を募らせていた。
「ねえ、もしかして私たちカツアゲとかされるんじゃないかな」
新美さんがうなだれたまま言った。
「カツアゲ……」姫殿下が息を呑んだ。
「どうしよう……今朝お小遣いを貰ったからその半分を持って来てしまった」
「いくら持ってるの、マコリン?」
「1000円……」
「私は虎の子の500円を……藤村さんは?」
新美さんが突然おれに話を振った。
「私ですか? 私は2万ほど……」
「2万!?}
新美さんと姫殿下が声を揃えた。
「いえ、あの……予約していた『三峰徹詩文集』が今日発売なもので帰りに買って帰ろうと……」
「ミミ……ネ? 聞いたことがないな」
「三峰先生はアンダーグラウンド・アート・シーンで活躍されているポストカード・アーティストでございます」
「ふーん、藤村は博識だな」
姫殿下が感心したお口ぶりでおっしゃった。
「じゃあ、藤村さん。もしカツアゲされそうになったらその2万円をばらまいて。その間に私たちは逃げるから」
「そんな……『3枚のお札』みたいに言わないでくださいよ。第一なんで私だけがそんなことを……」
うろたえて言ったおれの肩を新美さんがぽんと叩いた。
「大丈夫、私もブックオフの50円券を撒くから」
「じゃあわたしは千石先生ととったプリクラを……」
姫殿下が決死の覚悟を秘めたお顔つきでおっしゃった。
「で、では私は『サッカー日本リーグ』カードのエバートン(ハゲ)直筆サイン入りを……」
最終的に話はお宝自慢大会に行き着いた。
293水先案名無い人:04/11/23 05:44:48 ID:nM56y3Y/
『三峰徹詩文集』・・・禿しく( ゚д゚)ホスィ
294水先案名無い人:04/11/23 05:46:19 ID:nM56y3Y/
「し、失礼します」
新美さんがソフトボール部室のドアを恐る恐る開いた。
下駄箱のような臭いが鼻をつく。
明るい太陽の下を歩いてきたので室内の暗さになじむのに時間がかかった。
そこは10畳くらいの正方形の部屋で、窓とドア以外の壁は造り付けの棚で覆われている。
中央にパイプ椅子が3つずつ向かい合わせに並べられていて、その間に高さ50センチほどのテーブルがある。
バスケ部部長の獄門島さんは椅子にどっかりと腰を下ろし、両足をテーブルの上に乗せていた。
「座って」
獄門島さんが向かいの椅子をあごで指し示す。
姫殿下と新美さんはそれに従って腰を下ろした。
入り口付近に立ったおれは獄門島さんやその取り巻きと目を合わせないようにしながら室内を眺め渡した。
部員20人そこそこの部にしてはボールや備品がかなり豊富であるように見える。
近くの棚に置かれていたバットを手に取って重さを確かめていると、誰かがおれの肩を叩いて囁いた
「獄門島が呼んでる」
ソフトボール部の病院坂さんだった。
部屋の中央に目をやると、姫殿下と新美さんの間の席、つまり獄門島さんの真向かいの椅子が空いていた。
「あの……ひょっとしてそこは私の席でしょうか?」
おれが尋ねると獄門島さんは“当然”といった表情で頷いた。
仕方なくおれはバットを戻して指定席に着いた。
「あなた、名前は何だっけ?」
獄門島さんが馬鹿でかい足の裏を見せつけながら言った。
「あ、はい……ご、護衛隊のふ、ふひ、藤村です」
「自分の名前噛んでんじゃねえよ!」
「筑紫哲也か、お前は!」
たちまち周囲から罵声が飛んだ。
おれは落ち着いて答えたかったのだが、緊張やら恥ずかしいやらでもう舌が回らず
「フヒヒヒヒ! すいません!」
もろ変態みたいに言ってしまった。
誰かが「きもッ」と呟いた。
295水先案名無い人:04/11/23 05:47:50 ID:nM56y3Y/
獄門島さんと壁際に立った取り巻きたちがおれをねめつけている。
「あんたがマコさんに入れ知恵してんでしょ?」
獄門島さんが穏やかな口調でおれに尋ねた。
どうやらこの緊急集会はおれを糾弾するために開催されたもののようだ。
「い、いえ、別に入れ知恵というほどのことは……」
おれが小さな声で言うと、獄門島さんは足をテーブルに叩きつけて「どん」と大きな音を立てた。
「おい、護衛隊! 護衛隊の役割は何だ?」
「や、役割ですか……? そ、それは姫殿下をお守りする肉の壁となることで……」
また背後で誰かが「きもッ」と言った。
「あんたは護衛なんだから余計な口挟まずに黙って突っ立ってりゃいいんだよ!」
獄門島さんがどすの利いた声で言うと、姫殿下が勢いよくお立ちになった。
「藤村は……藤村はただの護衛ではありません! わたしを精神的に支えてくれています!」
「姫殿下……」
おれはご尊顔を振り仰いだ。
「それに有事の際にはクマにもなれますし……」
病院坂さんが「クマ……」という声を漏らすのが聞こえた。
獄門島さんはまったく動じた様子もなくおれを睨みつけていた。
「ほら、こんなこと言っちゃってるよ。あんたが空気読まないから悪いのよ。
ここ何年も生徒会長候補は一人だってこと、資料でも読めばわかることでしょう?」
(空気を読まない……)
その言葉で突然中学校のときの忌まわしい記憶がフラッシュバックした。
クラス対抗球技大会の最終試合、おれが上げたオフサイドフラッグのせいで優勝するはずだったチームがまさかの敗戦で2位になり、
その試合で勝ち点を拾ったチームがおれのクラスと入れ代わりで最下位を脱した。
試合の後、おれは2つのクラスの生徒に取り囲まれ、ボコボコにされた。
リンチの開始の合図となったのが「藤村、空気嫁!」という言葉だった。
「ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
頭の中に蘇った恐怖のために、おれは奇声を発した。
296水先案名無い人:04/11/23 05:52:23 ID:nM56y3Y/
ここぞというときに入れてるからなぁ。コピペ
297水先案名無い人:04/11/23 05:53:54 ID:nM56y3Y/
一通りの異常行動をとると頭の中がスッキリした。
(おれの精神テンションはいま! 不登校時代にもどっているッ!
冷酷! 残忍! そのおれが貴様たちを倒すぜッ!)
おれはどんッとテーブルの上に手を置き、ポーカーで勝ったコインをさらっていくときのように力強く表面を拭った。
「ああ、ずいぶん汚れてますね」
「は!?」
獄門島さんが顔を歪めて言った。
「きっと部屋中ダニやゴキブリでいっぱいでしょう」
先の見えないおれの行動に部屋中の皆が呆気に取られている。
おれはひとつ大きく息を吸い込むと、かっと目を見開き叫んだ。
「ぜったいに許さんぞ虫ケラども! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」
おれは懐から赤い缶を取り出した。
「そ、それは……」
「ご存知ですか? 最近のは火を使わないんですよ」
おれはそう言いながら缶をテーブルの下に置き、金具を「ガツン」と引っ張った。
「ぷしゅ―――――――――」
白い煙がテーブルの下から噴き出した。
「うわあああ、こいつバルサン焚きやがった!!」
獄門島さんが椅子から転がり落ちた。
「何やってんだあ、藤村さん!」
新美さんが立ち上がって叫んだ。
「新美さん、姫殿下、鼻と口をお押さえください」
おれはそう言いながら逃げ惑う凶悪部員たちの姿を眺めていた。
白煙の噴出が止まった。
部屋の中に残っているのはおれたち3人だけだ。
「もう大丈夫です。終わりました」
そう言って姫殿下に目を向けるとハンケチでお口元を押さえながら肩を震わせておられた。
「マコリン、大丈夫?」
新美さんがお顔を覗きこむと、姫殿下は堰を切ったようにお笑いになった。
「うふふふふ、あははははは」
298水先案名無い人:04/11/23 05:55:25 ID:nM56y3Y/
「ど、どうしたの、マコリン?」
新美さんは姫殿下の肩を揺さぶった。
「大丈夫、大丈夫」姫殿下はそうおっしゃると、おれの方をご覧になった。
「藤村、獄門島さんたちは見事に引っかかったなあ」
「はい、うまく行きました」
「え……?」
新美さんだけが一人蚊帳の外だ。
おれはテーブルの下から先ほどの缶を取り出した。
「あっ、それただの缶……」
「はい、カフェオレの缶に守衛室で見つけた赤のビニールテープを巻いたものです。それから……」
おれは再びテーブルの下に手を伸ばして白い粉を吹いた物体を摘み上げた。
「あの白い煙の正体はこれです」
「ロージンバッグ……」
「はい、さっきそこの棚から拝借しました。カッターで切れ目を入れてあります。これを踏んで粉を撒き散らしました」
「はあ……」新美さんがため息をついた。
「マコリンは気付いてたの?」
その問いに姫殿下が頷かれた。
「藤村が口で“ぷしゅ――――――”って言ってるのが見えたから……」
「えっ!? あれ口で言ってたの?」
「はい。途切れたらばれると思って必死で肺から空気を搾り出しました」
おれがそう言うと姫殿下はにっこりと微笑まれた。
「藤村はいつも一生懸命だな」
その優しいお言葉に、せこい手口ばかり考えている自分を恥ずかしく思った。
「あの……そろそろ引き上げましょうか」
「うん、そうしよう」
獄門島さんたちに見つからないよう、窓から逃げることにした。
「あ、ちょっと待って」
窓枠に一度足をかけた新美さんが戻って、ホワイトボードに「藤村式タイ術さくれつ! GOHDA流敗れたり!」と大書きした。
見なかったことにして、おれは窓枠を飛び越えた。
299水先案名無い人:04/11/23 05:56:57 ID:nM56y3Y/
左右age
300水先案名無い人:04/11/23 05:58:27 ID:nM56y3Y/
姫殿下は窓の外で待っていて下さった。
おれは姫殿下のスカートに白い粉がついているのを見つけた。
「申し訳ございません。お召し物に汚れが……」
そう申し上げると姫殿下はそこではじめてお気づきになったようで、裾を摘み上げられた。
「大丈夫、すぐ落ちる」
そうおっしゃいながらぽんぽんとスカートをはたかれた。
「それより藤村、ビラ配りが途中だったな。急いで戻ればまだ人がいるかもしれない。走ろう」
「はい」
姫殿下はおれのお答えを聞いてまたにっこりとうち笑まれた。
「リサリンも一緒に走ろう!」
「え……?」
新美さんは窓枠から身を乗り出したところだった。
次の瞬間、姫殿下は跳ねるように駆け出された。
おれは慌てて後を追った。
「マコリン、ちょっと待って……ぐわあっ」
背後でどさっと重いものが落ちる音がしたが、おれは振り返らず走り続けた。
姫殿下の走りは軽やかで、おれがいくら強く地面を蹴っても追いつけない。
トラックを走っている陸上部員を次々に抜き去って行かれる。
「マコちゃーん、選挙が終わったら陸上部に来てね!」
部長の青沼さんが手を振った。
姫殿下は大きくお手を振り返された。
そのお姿を拝見して、おれは先ほどのお言葉を思い出していた。
「藤村はいつも一生懸命だな」
違うんです、姫殿下。
いつも一生懸命なのは姫殿下の方です。
私はただ姫殿下の後を追っているだけなんです。
全部姫殿下が教えてくださったことなんです。

「新美、走りこみが足りないぞ!」
陸上部員たちの笑い声がグラウンドに響いていた。
301水先案名無い人:04/11/23 05:59:58 ID:nM56y3Y/
(゚ω゚) ニャンポコー
302水先案名無い人:04/11/23 06:01:29 ID:nM56y3Y/






うんこ
303水先案名無い人:04/11/23 06:03:00 ID:nM56y3Y/
週が開けて月曜日の朝、いつもどおりおれはお車の側で姫殿下のお出ましをお待ち申し上げていた。
(「なにかとれ」>「ふく」、か…………)
お屋敷の方から姫殿下がいらっしゃったので、おれは安めぐみについての妄想を中止してご挨拶申し上げた。
「おはようございます、姫殿下」
「……おはよう」
(あれ? お声にいつもの元気がない……)
姫殿下は全体的にややお疲れのご様子だった。
おれがお車のドアを開けると姫殿下は
「ちょっと待っておくれ。今カコがビラをプリントアウトしているところだから」
とおっしゃった。1
カコ様をお待ち申し上げている間におれは今日の放課後行われる討論会についてお尋ね申し上げた。
そのお答えを伺うとどうやらそこにご不快の原因があるらしかった。
「自分の演説はいいが、討論となると…………
何しろ安藤さんの具体的な政策目標がまったくわからないからなあ。金曜日のビラにも書いてなかったし」
「そうですね。獄門島さんの口ぶりから彼女たち運動部員が擁立した候補であることは間違いないと思いますが……
カコ様とはご相談されましたか?」
「うん。でもあの子は“学園内でのアイスの自給自足”とか変なことばかり言っていた」
アイスの自給自足……それがなされれば氷を配給して兵の士気を高めたというアレキサンダー大王以来の快挙だ。
そこへ大きな茶封筒を持ったカコ様が駆けていらっしゃった。
「お姉様、ようやくビラができました」
「うん、ありがとう」
カコ様は姫殿下に茶封筒を手渡されると、ぴゅーっとお車の方へ駆けて行かれた。
304水先案名無い人:04/11/23 06:04:32 ID:nM56y3Y/
「姫殿下、ビラを見せていただけませんか?」
お屋敷から出て公道を走り出したお車の中でおれは姫殿下にお伺いし申し上げた。
「うん、なかなかの力作だぞ」
姫殿下から拝領した封筒を押し戴きつつ開き、中の紙を取り出した。
「こ、これはッ…………!」
おれの目はそのB5サイズの紙の上に釘付けになった。
姫殿下のお名前とキャッチコピー「和を以って尊しと為しませんか?」がゴシック体で書かれている。
これにも言いたいことはあるが今は措く。
問題は姫殿下の御真影に口ヒゲと長い顎ヒゲが付けられていることである。
(ヒゲ!? 何なんだこれは……笑っていいのか?)
肩を震わせながらおれは頭をフル回転させた。
(待てよ、このヒゲには見覚えが……そうだ、「和を以って尊しと為す」聖徳太子だ!
でもなぜ姫殿下がヒゲを……いや、これをド平民の常識で考えてはいけない。
恐らくお身内だけの独特の聖徳太子観をお持ちなのだ! 笑うのはまずい!)
「いやあ、ご立派なヒ……いや字体でございますなあ」
おれは声の震えるのを必死で押さえながら申し上げた。
「そうだろう、カコもなかなか…………あっ、何だこれは!?」ビラを覗きこまれた姫殿下が叫ばれた。
「このヒゲは何だ!? 昨日はこんなものなかったのに……」
そうおっしゃると姫殿下は突然はっとした表情をなさって車のドアに飛びついた。
「帰る! 帰ってあの子にやり直させる!」
「姫殿下、お止めください! 走行中です!」おれはドアのロックを外そうとする姫殿下を必死で押さえた。
「それにカコ様もきっともうご登校されています!」
「ううぅぅぅ…………」
姫殿下は遺跡捏造がばれた後の記者会見のようにがっくりとうなだれあそばされた。
「こうして拝見いたしますと姫殿下はお父上によく似ておられますな」
おれが何とかフォローしようと明るい声で申し上げたが何のご返事もなかった。
ただ一言「学校、休みたい」と呟かれたきりだった。
305水先案名無い人:04/11/23 06:07:34 ID:nM56y3Y/
保守
306水先案名無い人:04/11/23 06:09:04 ID:nM56y3Y/
放課後の大掲示板前は討論会に参加しようと集まった生徒たちで溢れていた。
旧校舎と新校舎をつなぐ空中通路も立錐の余地がないほど人で埋まっている。
帰り際にちょっと寄ってみたという感じで鞄を持ったままの生徒が多い。
「選管」の腕章を付けた生徒がせわしなく会場を駆けまわっている。
おれは人の波を掻き分けて歩き回り、特設ステージ脇で美術部員たちとご清談中の姫殿下のお姿を認めた。
「おお、藤村」姫殿下はおれにお気づきになると、お手にされていたビラをおれにくださった。
「ほら、三鷹さんがスキャンしてレタッチしてくださったんだ」
そのビラを拝見すると、確かにヒゲがきれいになくなっていた。
「これは見事なお仕事ですな」
おれは賛嘆の声を上げた。
「よく見たらちょっと残ってるんだけどね。まあそれは剃り残しってことで……冗談よ、マコちゃん。そんな怖い顔しないで」
おれはその場に一瞬だけ漂った険悪なムードに気付かないふりをして空中通路を見上げた。
前列の生徒たちは柵に寄りかかって討論会が始まるのを待っている。
ふと、旧校舎寄りの地点に一人だけ背の低い生徒が柵にぶら下がるようにして立っているのを見つけた。
片手にデジカメを持ち、もう片方の手に握った太巻きをしきりにかじっている。
「姫殿下、あそこにおられるのはカコ様では……」
おれがご注進し申し上げると姫殿下はお顔を上げた。
「あっ、カコ! よくも、よくもヒゲを書いたな……」
姫殿下の怒気を含んだお声に、カコ様はぴゅーっと走ってお逃げになった。
「待てっ!」
姫殿下は走って追いかけて行かれた。
「でも……あのヒゲ結構似合ってわよね」
松川さんがぽつりと呟いた。
「そうですね。あれを見た後では普通の写真だとなんだか物足りなく見えます」
平沢さんの言葉でおれは人間キャンバス・正岡子規を思い出した。
「私もそう思いましてこんなものを書き込んでみました……」
そう言ってキャノンさんがポケットから折りたたまれたビラを取り出した。
そこに印刷された御真影のお鼻の下には黒のマジックで描かれたヒゲがあった。
「マリオです……」
おれは昏倒しそうになった。
307水先案名無い人:04/11/23 06:15:10 ID:nM56y3Y/
選管委員長による開会の辞がが終わるとすぐに姫殿下の基調演説が始まった。
演壇についた姫殿下は静まりかえった聴衆を見渡しながらゆっくりとお話になった。
「……わたくしはこのような部活動のあり方に疑問を持っています。
現在、部活動への参加方法は、ひとつの部に入部しそれだけをやり続けるという選択肢しかありません。
ですが、本来部活動には個人の持つ興味、関心、目標に応じた様々な参加の形があるはずです。
わたくしは部活動をより自由なものにしていきたいと考えています。
それによってより多くの人と出会い、学校生活を豊かなものに……」
「ふう、やれやれ」いつのまにかおれの横に立っていた安藤さんがため息とともに言った。
「仲良しクラブを作りたいってわけか……」
その言い方にとげがあったのでおれは少しむかっときた。
「あなただって仲良しクラブを作っているじゃないですか。バスケ部やらバレー部やらソフトボール部やらと」
おれがそう言うと安藤さんは鼻で笑った。
「まあ…………この8年間の生徒会長はそうだったわね」
おれは以前カコ様がお作りになった資料を思い出した。
確かにこの8年間実質的に生徒会長選は行われておらず、そのようなもたれ合いが背景にあることは推測できた。
だが安藤さんの言葉には何か引っかかるものがあった。
「あの……“そうだった”ってことは安藤さんは今までとは違うんですか?」
「そう。私はその慣習を消滅させる!」安藤さんは力強く言った。
「実はこういう運動部との関係を作ったのは私の姉なの」
「え……!?」
突然の告白におれは思わず声を上げた。
「姉はちょっとインパクトのある演説をしただけで簡単に当選してしまうような生徒会選挙に変革をもたらしたかった。
それで思いついたのが運動部の組織票によって確実に当選するという方法なの。
あちらの要求した予算を通すことを見返りとすることでね」
「なるほど……」
そう言われてみると至極まともなやり方に思えてきた。
「でもそれももう終わりよ。甘えた奴らに天誅を下すわ。
旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火よ。ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているけどね」
どこかで聞いたような説明だが、おれは安藤さんの発する毒電波にただ圧倒されるばかりだった。
308水先案名無い人:04/11/23 06:16:42 ID:nM56y3Y/
左右乙。
俺は読んでないけどw
309水先案名無い人:04/11/23 06:18:12 ID:nM56y3Y/
      /´  〃三=、      \三二 ヽ
    /    l|    \\ 、、`Y 二ミ ヽ
う  ./      i|  ̄``ヽ、 \ヽ }} jj ! ー ヽ ',
る  l    / |l|、二._  \ヽl j〃ノ  二ミ、ハ
さ  | i i|i  i i|三二= 二.__ヽY∠ 彡 Z彡ハ^ヽ
い  | l 川 { l l_l」=ニ三二ン´_,Y⌒ヾ三乙 ,彡jヾ l '、
!  ヽヽ\ >'´ _,   川 〈 j. |l || ト三Z 彡/ l l | !
    `┴ヘ yぐ゙   {lリ Y ノj || ト三 彡/  l l | |
黙        } ヾ〉    ヽ! T´(l || ドミ,/シ′   | l | |
れ        /           川 l|`Y夭     | l | |!
!      `ヽ        ,  | | l| !  )   | | | l|
        `';=‐       / ||l| l     川|l|!
         `、     ,ィ'   | | l|__」..-─-、lj | l|l|
            ー ´ l __,」 l  l|      ヽ||| l|
              /´ / /   リ       Vl|l|
           ,∠二二./ /   〃          Vl|!
          ,∠二二二./ /   /          Vl_」
          ,イ'´     //  /、         , -ヘ
       /| __∠∠ ___ /ヽ\   , -‐ '´ , -ヘ
        / レ'´     `ヽ、\\\>'´ , -‐ '´ , - >
      /   !         ヽ \\>'´ , -‐ '´ ,イ
       !   ハ          l  \>'´ , -‐ '´  |
310水先案名無い人:04/11/23 06:19:43 ID:nM56y3Y/
「それって何か魔王みたいな発想ですね」
おれがそう言うと安藤さんはおれの顔を指差した。
「それよ! 私は魔王になりたいの」
何気ない一言でこの人の隠れていた願望を言い当ててしまった。
「はあ……ところで安藤魔王」
「羽生名人みたいに言わないで頂戴」
「失礼しました。安藤大魔王」
「何かしら?」
「さっきから眼鏡がくもってますけど……」
「あっ」
安藤さんは慌てて眼鏡を外してハンカチでふいた。
「大丈夫ですか? 額に汗をかいておられるようですが」
「大丈夫です! ちょっと緊張してるだけ」ハンカチで顔を拭いながら安藤さんが言った。
「私、演説嫌いなのよね」
「はあ……そうですか」
13才の魔女っ娘ならずぶぬれになって逃げ帰るところだが、成人男子のおれは余裕で聞き流した。
会場から拍手が起こった。
姫殿下が一礼して演壇から戻って来られた。
「マコさん、お疲れ様」
眼鏡を書けなおした安藤さんはすれ違いざまにそう言ってステージに上った。
「安藤さんと何を話していたのだ?」
姫殿下がお尋ねになった。
「えーと……大魔王の公務について話しておりました」
「そうか」姫殿下はおれのお答えに少し考え込まれてからおっしゃった。
「内親王と大魔王だとどっちが大変かな?」
「ナンバー2次第でしょう」
おれはそうお答えしたが、新美さんと変態キキさんの顔を思い浮かべて、どちらも足を引っ張られそうだな、と思った。
311水先案名無い人:04/11/23 06:22:46 ID:nM56y3Y/
左右乙
これだけが2chの楽しみだよ
312水先案名無い人:04/11/23 06:24:17 ID:nM56y3Y/
漏れも毎日楽しみにしてるよ
313水先案名無い人:04/11/23 06:40:59 ID:nM56y3Y/
カコさま・・・何て他人行儀なw
314水先案名無い人:04/11/23 06:42:30 ID:nM56y3Y/

   ノ、_,.ィ     ニダ〜                 平民め!
       ☆                   ノ、_,.ィ    なれなれしいわっ!!
  ∧_∧〃 ☆                 .,,. - 、、 て
  <`A´丶> ========================= ヅ⌒''小   八咫鏡ビ〜ィム!!
 と    ⊃ ☆               (ヽli.‘o‘ ,l|レ'^)
   \  \  く                 |   |
   <_〉<_)
315水先案名無い人:04/11/23 06:44:01 ID:nM56y3Y/
   /  /⌒     ヽ  ヽ 'i  ',
.  /  /  ` `'''" '`  `,  '、l   ',
  l  ,' ./        ',  i    l  
  l  ,' /''""    "''ヽ ハ  l     !i    そんなにおでこ・・・
.  l i ,イ/ / / / / / / /jノ l  l`i  l'iつるつるかなあ。。。
.  l !i l/ /┃/ / /┃/ / ノl l6 l  ,' 'i
  ノrハ, l/ / / / / / / u ノ/ri" /__ l
    ,| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  '//゙ l /  ''-,,__
   r'''''''ー、   r''''''' ̄ヽ / ノ'"  // ヘ
   } 二''-'   冫''' ̄  ヽ    /// ヽ
  (    )    (    )
316水先案名無い人:04/11/23 06:45:32 ID:nM56y3Y/
317水先案名無い人:04/11/23 06:53:07 ID:nM56y3Y/
下川さんに続けとばかりに美術部員たちがおれに体当たりしてきた。
「ウィ〜〜〜〜ッ!!」
数人の生徒を引きずりながらおれはテキサス・ロングホーンを決めた。
だが彼女たちの反応は冷淡で、キャノンさんだけが「ウィ〜……」と力無く手を上げた。
「何それ?」
「それも藤村式ってやつ?」
おれはタッグで負けてもウィ〜〜ッとやって帰ったハンセンの偉大さを改めて認識した。
「藤村さん……」獄門島さんが立ち上がって言った。
「ひとつ教えてください。どうしてあの蹴りがかわせたんですか?」
「え……それは……正中線上を狙ってくる蹴りだから胴体より下には来ないだろうと思いまして……」
我ながら単純な理屈だ。
ところが獄門島さんは何度も頷きながらおれの言葉を反芻していた。
「なるほど……胴体より下か……一瞬でこのような弱点を見破るとは流石……」
「いえ、あの、別に一瞬というわけでは……」
藤村式幻想はもはやおれの手の届かないところにまで行ってしまった。
このままだと弟子入りしたいなどと言い出しかねないので、おれは適当にこの場をまとめようと思った。
「まあ、今回は引き分けということで…………」
獄門島さんは不思議そうな顔をした。
「どうしてですか?」
「あの……我々は本来守るべき人たちに心配をかけてしまいましたから……」
おれがそう言うと獄門島さんははっと後ろを振り向いた。
「そうだ……私、みんなのためにやってるんだって勝手に思いこんで……あの子たちの気持ちを考えもしないで……」
(おお、負けたときに言おうと思っていた台詞が意外にもクリティカルヒット!)
「今藤村さんがいいこと言った!」
下川さんがおれの肩越しにずばっと腕を伸ばした。
「あの、そろそろ背中から下りてもらえませんか……?」
おれがそう言うと下川さんは
「貴様は〜〜〜!!だから美術部で馬鹿にされるというのだ〜〜〜!!この〜〜〜!」
とわけのわからないことを言っておれの首を締め始めた。
318水先案名無い人:04/11/23 06:54:38 ID:nM56y3Y/
(く、苦しい……)
おれは「ぐええぇーー!」などと叫び声を上げることもできず、死の舞踏(ダンス・マカブル)を踊った。
「もう一度みんなと話し合ってみます。選挙のことやバスケ部のこれからのことを」
獄門島さんが神妙な面持ちで言った。
「是非そうしてみてください」
おれは目の前が真っ暗になっていくのを感じながら言った。

獄門島さんたちが立ち去ると下川さんはようやくおれの首から手を離した。
「あいつも別に悪い人間じゃないんだよね。ただ思いこむとこうなっちゃうのよね、こう」
下川さんがおれの肩にひじを置いて何やら手を動かしていた。
「あの、見えないんですけど……ていうか本当に下りてください」
おれは通常の2倍の重力を感じながら姫殿下の御足下へ参上した。
「今回は引き分けという結果に終わりました。どうもご心配をおかけしました」
おれがそうご報告申し上げると姫殿下はおれの上着の埃をはたきながらおっしゃった。
「わたしは心配していなかったぞ。藤村の強さはわたしが一番よく知っているから」15
(ああ、おれの人生負けっぱなしだけど姫殿下の御心の中では連勝中なんだ。
だからおれは今こうしてこの場所に立っていられるんだ……)
おれは深々と一礼した。
その途端、予想以上の重みが上体に掛かり、おれはつんのめって倒れた。
「でも目の中に親指を入れて殴り抜けるところとかも見たかったなあ」
おれの背中の上でカコ様がおっしゃった。
「申し訳ございません、カコ様。速やかにお下りください」
おれは地面にうつぶせになったまま言った。
「こうかな? ウィ〜〜」
「マコちゃん、違う。それだとまことちゃんだよ」
「何で反対の手も同じ形になってるの?」
姫殿下と美術部員たちのご歓談が聞こえた。
319水先案名無い人:04/11/23 06:56:10 ID:nM56y3Y/
前にも言ったが今一度言う。面白杉w
320水先案名無い人:04/11/23 06:57:40 ID:nM56y3Y/
正直unko
321水先案名無い人:04/11/23 06:59:11 ID:nM56y3Y/
立会演説会を翌日に控えた火曜日の放課後、姫殿下とおれは「最後のお願い」をしに校内を回った。
ビラは前日までに使い切ってしまっていたので、姫殿下は生徒たち一人一人にお声をかけられた。
そのお声はお疲れからか幾分嗄れ気味だったが、いつもの笑顔を絶やされることはなかった。
食堂から第一体育館へ通じる小道を歩いているとき、姫殿下がおれの方に振り返っておっしゃった。
「藤村、選挙運動も今日が最後だ。長かったな」
「はい。この2週間本当にいろいろなことがありましたね」
おれは2週間前の自分を頭に思い浮かべながらお答えした。
姫殿下のご指名があるまでおれは護衛隊の一番下っ端だった。
姫殿下のお顔を拝見するだけでどきどきした。
そのおれが今こうして姫殿下とこの美しい学園内を歩いている。
これからの生涯を「働いたら負けかな」と思いながら過ごしても購えないほどの幸運だ。
「ここまでがんばってこられたのも藤村のおかげだ。感謝しているぞ」
姫殿下のありがたいお言葉におれはすっかり恐縮してしまった。
「滅相もございません。私などほんのスライムベスでございまして……」
「そなたの助言にはいつも励まされた。本当にありがとう」
おれは平伏するしかなかった。
「藤村のこともよく知ることができたし、たくさんの人と会うこともこともできた。
みんなのおかげで充実した選挙運動になったことを嬉しく思う」
たとえ安藤さんが同じことを言っても聞いている側は絶対に「ウソ臭さ」みたいなものを感じて
額に手をあててしまうだろう。
(姫殿下は偉カワイイだけでなく、優しくて深く民草を愛しておられる……もういいじゃん、姫殿下が生徒会長で。
「東京都」とかももうやめて「姫殿下グラード」にしようぜ。APECも「姫殿下with APEC」でいいよ。
地球とか銀河系っていう名前も飽きたな。いっそのこと……)
おれが共産主義的誇大妄想に浸っていると、前方に3人の大柄な生徒が立ち塞がった。
獄門島さん、八つ墓村さん、病院坂さんの三役揃い踏みだった。
322水先案名無い人:04/11/23 07:00:43 ID:nM56y3Y/
マコさん……」身構えるおれを尻目に獄門島さんが口を開いた。
「お願いがあって来ました」
「お願い?」
「はい。どうか私たちの部で演説を聴かせてもらえませんか?」
「えっ?」
姫殿下が驚きのお声を上げられた。
「昨日あの後部員たちと話し合いました。
そうしたらいろいろな意見が出まして……一番多かったのはまだ考えがまとまらないという意見でした。
私たちが部長がマコさんの演説を邪魔してしまったから……、
お願いします。部員たちの前で改めてお考えを聴かせてください」
3人が頭を下げた。
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
姫殿下はより深くお辞儀をされた。

バスケ部、バレー部、ソフト部の部員たちが集まる第2体育館へ向かう途中、獄門島さんがおれのそばに寄って来た。
「藤村さん、あの、藤村式体術についてもっと詳しく教えていただけませんか?」
恐れていた質問がついに発せられてしまった。
(まずいな……技術論だとぼろが出るから精神論でお茶を濁しておくか……)
「えー、藤村式の秘密はゆ、勇気にありまして……」
「勇気?」
「そ、そうです。人間賛歌は勇気の賛歌、人間のすばらしさは勇気のすばらしさ、ということでして……」
そう言いながらおれは体中をまさぐって使えるアイテムがないかどうか探した。
「……詳しくはこの書で熟知すべし」
そう言っておれはジャケットの裏ポケットから1冊の文庫本を取り出した。
「中島敦『山月記』……あ、これ知ってます。教科書に載ってました」
「大人になってから読むと泣けます。というか確実にへこみます」
おれは姫殿下に初めてお会いする以前の不遇時代を思い出した。
323水先案名無い人:04/11/23 07:02:14 ID:nM56y3Y/
やりたいことが何一つなかった日々。
軽い気持ちでタイに行く先輩についていった。
そこで置き去りにされ、バンコクひとりぼっち。
帰国の費用を稼ぐための退屈な日々に飽きて、日本から持ってきたこの本を開いてみた。
おまえの人生に何もないのはおまえに勇気がないからだ、と言われている気がした。
李徴のように虎になることすらできなかった自分……
でも今は守りたい人もできたし、クマにもなれた(もうなりたくないけど)。
「あ、「弟子」とか「名人伝」とかそれっぽいタイトルの話もありますね」
獄門島さんがぱらぱらとページをめくりながら言った。
「まあ、軽い気持ちで読んでみてください」
おれがそう言うと獄門島さんは
「ありがとうございます!」と言って頭を下げた。
「中島……アツシってどういう字?」
「わかんない……」
八つ墓村さんと病院坂さんは激しくメモを取っていた。
それをご覧になった姫殿下もなぜか慌てて生徒手帳に何かを記入された。
おれの勇気の源が姫殿下ご自身であることには気づいておられぬご様子だった。
324水先案名無い人:04/11/23 07:03:45 ID:nM56y3Y/
青空文庫で『山月記』読み直して泣いた。
325水先案名無い人:04/11/23 07:05:16 ID:nM56y3Y/
藤村×獄門島フラグon?
326水先案名無い人:04/11/23 07:06:47 ID:nM56y3Y/
工エエェェ(´д`)ェェエエ工
327水先案名無い人:04/11/23 07:08:17 ID:nM56y3Y/
舞台袖のクリーニングを終えたおれは上着に付いた埃を叩きながら舞台の上に出た。
講堂内は薄暗く静寂に満ちている。
2時間ほど後に姫殿下がここに立たれるのだと思うと不思議な気がする。
おれの存じ上げている姫殿下はおれに優しくお声をかけてくださるお方だ。
特にお声が大きいわけではないし、人を惹きつける話術をお持ちなわけでもない。
その姫殿下が全校生徒を前にご演説をなさる。
選挙運動が始まる前なら想像すらできなかったことだ。
でも今なら何となくその光景を思い浮かべることができる。
きっと姫殿下はおれになさるのと同じように優しく生徒たちに語りかけられるだろう。
「藤村」座席を調べていた三井隊長が舞台端から顔をのぞかせた。
「そっちは終わったか?」
「はい。音響調整室、控え室、舞台、舞台袖、天井、すべて異常なしです」
おれがそう報告すると三井隊長は腕時計を見てあごひげをこすった。
「まだ2時間目か……演説会が始まるまであと50分もある……他に何かやることは……」
「いったん持ち場に戻りませんか?」
おれは少々あきれながら提案した。
「いや、だめだ! 何かしていないと緊張の渦に呑み込まれそうだ!」
この人は朝からこの調子だ。
講堂のクリーニングも普通は卒業式など外部の人間が入る時しか行わないのに、急にやろうと言い出したのだ。
「姫殿下がこんな大きな舞台で演説をされるなんて……だめだ……想像が悪いほうに悪いほうに……」
三井隊長が大きなため息をついた。
「まあ我々が思い悩んでも仕方ありませんから……」
おれの言葉に彼はしばらく何か考え込んでいたが、突然舞台に上って来て言った。
「藤村、ずいぶん服が汚れてるな……いいこと思いついた。おまえとおれで舞台袖の掃除をしよう」
「えーっ!? 掃除ですかァ?」
おれがいやな顔をすると、彼はおれの肩に手を置いて
「雑巾をかけよう。な!」
と力強く言った。
328水先案名無い人:04/11/23 07:09:49 ID:nM56y3Y/
2時間目の終わりを告げるチャイムが鳴って少したつと、生徒たちが講堂内に入り始めた。
他の式典とは違ってみな楽しそうな顔をしている。
「選挙はお祭りだ」という木田さんの言葉を思い出した。
おれは舞台脇の控え室前で姫殿下をお待ちしていた。
たすきをかけた他の候補者たちがおれの横を通り過ぎていく。
姫殿下より先に安藤さんとキキさんが姿を現した。
安藤さんはノートパソコンを抱えていた。
「あれ? そのパソコンは何に使うんですか? 仲魔の召還?」
「演説の時にパワーポイントを使うの」
安藤さんはつまらなそうに答えた。
「そうですか。それはなかなか凝ってますね」
おれがそう言うと安藤さんは薄笑いを浮かべながらポケットからレーザーポインターを取り出し、おれの顔に向けた。
おれはとっさに手をかざした。
「何をするんですか!」
安藤さんはおれの言うのも聞かずに赤い光をキキさんの体に這わせていた。
「キキちゃん、ここは何?」
「え……ここは……私の……モモ……」
キキさんは口篭もっている。
「何? もっとはっきり!」
「モモ……モモ肉です」
それを聞いた安藤さんは(;゚∀゚)=3ムッハ、ムッハ、ムッハ-と荒い息をついた。
この人が生徒会長になったら学校全体がジャバ・ザ・ハット様の城みたいになってしまうだろうな、とおれは思った。
(そしておれは氷漬け……ルルー)
329水先案名無い人:04/11/23 07:11:20 ID:nM56y3Y/
姫殿下と新美さんは何がおかしいのかころころと笑いながら歩いて来られた。
その平和な光景におれは目頭が熱くなるのを感じた。
おれに気付いたお二人は不思議そうなお顔をされた。
「藤村さん、どうしたの? 変な顔して」
「藤村、泣いているのか?」
おれは慌てて笑顔を取り繕った。
「いえ、何でもございません」
おれがそう言うと新美さんがおれの肩を叩いて言った。
「聞いてよ、藤村さん。マコリン、チンプイ知らないんだって、チンプイ」
「藤村は知っているか、チンプイ?」
姫殿下の真剣なお顔に噴出しそうになるのをこらえながら、おれはお答えした。
「はい、存じております。毛だらけの宇宙人でございます」
「それはモジャ公。チンプイは耳がまん丸で顔の横にあるやつよ」
新美さんがジェスチャー付きで解説してくれたので思い出すことができた。
「あ、わかりました。あの王子様の命令で地球に来たサルみたいな感じの……」
「そう、それ! 王子様の家来なのよね……家来……そういえば藤村さんもマコリンの家来。
今日から藤村さんのことチンプイって呼ぼうか?」
「えっ?」
おれは新美さんの言葉で高校時代のことを思い出した。
入学して1ヶ月誰とも口を利かないでいたおれは知らぬ間にモンガーというあだ名を付けられていたのだ。
「そ、そ、それはどうですかねえ。み、見た目はあまり似てないと思いますが……」
おれの動揺に気付いたお二人は不思議そうなお顔をされた。
「藤村さん、どうしたの? 変な顔して」
「藤村、泣いているのか?」
「いえ……何でもございません」
おれは慌てて笑顔を取り繕った。
「藤村さん、ごめんね。もう変なあだ名付けたりしないから」
「藤村、機嫌を直して控え室までついてきておくれ」
優しいお言葉におれはただ恐縮するばかりだった。
330水先案名無い人:04/11/23 07:12:52 ID:nM56y3Y/
優しいよ眞子様優しいよ(っдT)
331水先案名無い人:04/11/23 07:14:23 ID:nM56y3Y/
うんこ
332水先案名無い人:04/11/23 07:15:53 ID:nM56y3Y/
控え室の入り口に立つ八つ墓村さんに気付いた安藤さんが立ち上がってそちらに歩いて行った。
その動きには無駄がなく、まるでこの突然の来訪を予期していたかのようだった。
一方の八つ墓村さんは思いつめた顔をしている。
(何だ、また揉め事か?)
2人はしばらく声をひそめて話していたが、やがて興奮した八つ墓村さんの声が大きくなってきた。
「……だから別にバレー部全体があなたに反対してるってわけじゃないの。
そうじゃなくて、もう組織票とかそういうのはやめようって話になって……
とにかくあなたとの約束はなかったっていうことで……」
歯切れの悪い八つ墓村さんの言葉に安藤さんは理屈で対抗するだろうとおれは考えていた。
しかし意外にも安藤さんはがっくりと肩を落として震える声で言った。
「……別にバレー部が私から離れていってもいいんです。そんなの平気。
でも……先輩だけはわたしのことを応援してくれますよね……」
「えっ?」
八つ墓村さんもこの展開に虚を衝かれたようだった。
安藤さんは八つ墓村さんにくるりと背を向けた。
(む……背中を向けているだけなのに堪らないほどの寂しさが漂ってくる!)
おれは全日本演劇コンクールの審査員のごとく感心した。
だが安藤さんはおれと眼が合うと不気味な笑みを浮かべた。
(だめだ、八つ墓村さん! あんた、騙されてる!)
おれは視線を八つ墓村さんに向けた。
普通このような痴話喧嘩で相手に泣かれた場合、うざいと思うか、けなげと思うかの2つの思考パターンがある。
八つ墓村さんは完全に後者だった。
「な……泣いてるの? ねえ、こっち向いて。元子、スマイルアゲイン……」
彼女が安藤さんの肩に優しく手を置いたところで、おれは強烈な熱視線を送った。
まるでいま初めておれたちがここにいるのに気付いたかのように、八つ墓村さんがビクッと反応した。
333水先案名無い人:04/11/23 07:18:55 ID:nM56y3Y/
高山彦九郎が13ゲットしますた
334水先案名無い人:04/11/23 07:20:26 ID:nM56y3Y/
「サタンじゃあ仕方ない」ワラタw
335水先案名無い人:04/11/23 07:21:56 ID:nM56y3Y/
ここじゃ負荷の迷惑になるから創作文芸でやれよ
336水先案名無い人:04/11/23 07:23:27 ID:nM56y3Y/
つまらないから終了でいいよ
337水先案名無い人:04/11/23 07:26:29 ID:nM56y3Y/
(・∀・)イイヨイイヨー
338水先案名無い人:04/11/23 07:34:03 ID:nM56y3Y/
氏ね
339水先案名無い人:04/11/23 07:35:34 ID:nM56y3Y/
立会演説会は粛々と進行していった。
候補者たちが一人、また一人と顔を強ばらせて舞台に向かう。
控え室に戻ってくるときの顔は様々だ。笑顔で帰って来る者、落胆の色を隠せない者。
出番をお待ちになる姫殿下は落ち着いたご様子で演説の原稿をご覧になっている。
その横では新美さんが薬の切れた鉄雄みたいになっていた。
腕章をつけた選管の生徒が控え室に入って来た。
「生徒会長候補と応援演説者の皆さん、舞台袖に集合してください」
ついにその時が来た。
姫殿下はぴょこんとお立ちになった。
「よし、行こう!」
それを聞いた新美さんは「ドクン」となった。
(だいじょうぶか、この人? いきなり覚醒したりしないよな?)
「藤村」姫殿下が優しくおっしゃった。
「舞台袖まで来てくれるか?」
「はい、お伴いたします!」
おれは慌てて立ち上がった。

舞台上の強烈なスポットライトのせいか、舞台袖はとても暗く見えた。
控え室とは違い、講堂に集まった360人の気配を肌で感じ取ることができる。
ここまで来たら後戻りはできない。
「続きまして、生徒会会長候補。1年A組マコさん」
アナウンスの声が鳴り響いた。
「藤村、リサリン、行って来ます」
「ご成功をお祈りしております」
おれがそう申し上げると、姫殿下は天に向けてテキサス・ロングホーンを形作られ、
その人差し指と小指の第1・第2関節を折り曲げられた。
「クマ!」
(おお、オリジナル技! 姫殿下がハンセンを超えられた!)
姫殿下は驚いているおれの顔をご覧になるとにっこりと微笑まれ、まばゆい照明の中に歩んで行かれた。
340水先案名無い人:04/11/23 07:37:05 ID:nM56y3Y/
>>左右、
例の消えたところのSSはあなたの作品じゃないのですか?
341水先案名無い人:04/11/23 07:38:35 ID:nM56y3Y/
姫殿下は具体的な政策のお話をされた。
「現在多くの部活では週何回かの活動日が決まっていますが、
そのうちの最低1日を部外の人も参加できるオープン・デーにしたいと考えています。
もう部活に入っているけれど他の種目もやってみたいという人、楽しく運動がしたいという人、
予定があって週1回くらいしか出られないという人、そんな人たちにぜひ来ていただきたいと思います。
ちなみに美術部ではそういうのは関係なくいつでも参加者募集中です。
あ、これは宣伝ですけど……
それから、2つ以上の部活に参加している人でも大会などに参加できるよう、競技団体や文科省などに働きかけていきたいと思います」
姫殿下のご構想は壮大だ。
だがこのようなことをおっしゃるのもご自身が部活動を愛しておられるからだろう。
口先だけの美辞麗句を並べているわけではない。
「みなさん、一緒に緑濃い学園の中を走ったり、歩いたりしましょう」
姫殿下はご演説をそう締めくくられた。
万雷の拍手の中、舞台袖に戻って来られた姫殿下は、おれの顔をご覧になると、ひとつ大きなため息をつかれた。
「終わった……」
「おつかれさまでした」
「まだ終わってないいいいい!」
新美さんが金切り声を上げた。
「続きまして、応援演説。1年A組新美リサさん」
「来たああああああああ!」
「リサリン、がんばって」
姫殿下のエールに送られて新美さんはギクシャクと舞台の方へ歩いて行った。
「マコさん、おつかれさま」
安藤さんがノートパソコンを抱えて立っていた。
「あ、安藤さん」姫殿下はお辞儀をされた。「ありがとうございます」
「皆の顔が見えるってとこ、とてもよかったわ。私はパワーポイント使うから暗くてみえないけどね……」
そう言って安藤さんは照れたような笑いを浮かべた。
342水先案名無い人:04/11/23 07:40:07 ID:nM56y3Y/
それも一応保管されてはどうでしょうか?

眞子様を助ける妄想のガイドライン - トルメキア戦線編 -

あれはあれで結構好きでした。
343水先案名無い人:04/11/23 07:41:38 ID:nM56y3Y/
門の外に一歩出ると、梅雨の終わりの強い日差しに汗がどっと吹き出た。
緑豊かで真夏でも涼しい門の中とは大違いだ。
冷房の効いた守衛室にいたいが、作戦開始時刻になってしまったのでそうもいかない。
終鈴から10分経ったのに下校する生徒の姿はない。
おれは無線機を取り出した。
「こちら7番。これより作戦を開始する」
「4番了解。K地点は混雑が予想される。注意してかかれ」
三井隊長の声がした。
おれは無線を切って、校舎の方へ歩き出した。
なぜ大掲示板を見に行くだけなのに、こんなややこしい連絡をしなければならないのだろう。
それに選挙結果を見て姫殿下が落選されていたらどうする?
何と声をおかけすればいいんだ?
どうせならそういった具体的なことを無線で教えてくれたらいいのに……
おれは現場のつらさを噛み締めながら並木道を歩いて行った。

大掲示板前はやはり凄まじい混雑ぶりだった。
張り出された選挙結果を読み取れる位置まで近付けない。
どこか入りこめる隙間はないかと歩き回っていると、ぼんやり立っている堀本先生の姿を見つけた。
「堀本先生、おつかれさまでした」
「ああ、藤村さん」おれが声をかけると堀本先生がドロンとした目をこちらに向けた。
「即日開票にしてよかった……これが始業前だったら大変だったよ。
誰も教室に入ってくれなかっただろうから」
そういって力無く笑う堀本先生におれは尋ねた。
「それで、結果は?」
堀本先生は眼鏡を取ってごしごしと目をこすった。
「自分の目で確かめて来た方がいいよ。ぼくはもう選管担当――中立の立場じゃないから、
余計なことをしゃべっちゃうかもしれない」
これ以上問い詰めるのもかわいそうなので、おれは礼を言って人ごみの方へ向かった。
344水先案名無い人:04/11/23 07:43:09 ID:nM56y3Y/
ありがとうございます。
こちらが一段落したらやってみようと思います。
345水先案名無い人:04/11/23 07:44:40 ID:nM56y3Y/
あの場合中島みゆきの曲は「時代」より「世情」がふさわしいと思われますが如何でしょう?>左右殿
346水先案名無い人:04/11/23 07:46:11 ID:nM56y3Y/
確かに「時代」だと加藤に悲壮感がない……
修正しておきました。ありがとうございます。
347水先案名無い人:04/11/23 07:47:41 ID:nM56y3Y/
藤村×地獄坂エンドは?
348水先案名無い人:04/11/23 07:49:12 ID:nM56y3Y/
 んー、 終わった?
 ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ∧_∧
    ( ・д⊂ヽ゛
    /    _ノ⌒⌒ヽ.
 ( ̄⊂人  //⌒   ノ
⊂ニニニニニニニニニニニニニ⊃
349水先案名無い人:04/11/23 07:50:43 ID:nM56y3Y/
「お姉様、見て。今のシーンがとてもきれいに撮れたわ」
カコ様が差し出されるデジカメの画面を媛殿下が覗きこまれる。
「おお、本当だ。迫力のある写真だ」
媛殿下がそう評されるとカコ様は鼻息をふはっと吹かれた。
おれはその後ろでにこにこしている安藤さんに声をかけた。
「安藤さん、読みましたよ、この間の朝旗新聞の記事」
安藤さんがおれの方を振り向いた。
「どうだった?」
「とても好意的に取り上げられていたと思います。デンマークのスポーツ事情もよくわかりましたし」
「そうね、いい記事だったわね」
そう言って安藤さんはふふふと笑った。
次のサッカー冬季大会に2校以上にまたがる合同チームの参加が認められたのは、
今や媛殿下の参謀となった安藤さんの活躍に負う部分が大きい。
競技団体にせっせと意見書を送り、マスコミを使って世論にも訴えかけようとしている。
デンマークのスポーツ相から応援メッセージをもらったのも北欧好きな朝旗新聞の読者層にアピールするためだったという。
「次は野球と陸上を狙っているところ。どちらも来年の北京オリンピックに向けて話題が欲しいところだから。
特に陸上は楽しいわよ。投擲系の人たちとトラックの人たちが仲たがいして内紛状態ククク…」
安藤さんは愉快そうに笑った。
(むう、反省の色なし……)
安藤さんは美術部員たちにラムネを配っておられるカコ様のお肩をぽんぽんと叩いて言った。
「カコちゃん、今度は応援している戸山中サッカー部の男子を撮影しましょ。
こういう写真はある筋の人たちにものすごく訴えかけるものがあるから」
「あの……ある筋って?」
おれは念のため尋ねてみた。
「男女同権論者とかよ。藤村さん、変な想像したでしょ?」
「しーましェーン!!」
とおれは棒読みで謝っておいた。
350水先案名無い人:04/11/23 07:52:15 ID:nM56y3Y/
「そんな……わたしは何も……」
姫殿下は照れておいでだった。
選手たちは口々に思いを述べた。
「試合できて嬉しいです!」
「芝の上を走るのは最高です」
「合同チームが参加できるようにしてくれてありがとう」
「私たちに大きな夢をくれたことを感謝します」
姫殿下はそれを聞いておられるうちに白玉のごとき涙を落とされた。
おれは慌ててハンケチを出して姫殿下にお貸しした。
姫殿下はそのハンケチを握り締めて泣き崩れられた。
おれは思わず肩をお貸しした。
「藤村、こんなにたくさんの人がわたしに感謝してくれている……」
「はい、姫殿下は彼女たちの夢を作られたのです。さあ、胸をお張りください。
後半に向かう選手たちにお言葉をおかけになってはいかがでしょう」
「そうだな」
姫殿下はハンケチで涙を拭いながら選手たちの方に向かってお立ちになった。
「皆様、ありがとうございます。皆様はわたしにも夢を共有させてくださいました。
これからも皆様と夢を共有していきたいと思っています。
それがともに生きることの意味だからです。
後半も楽しくプレーができるよう祈っております」
姫殿下が一礼された。
選手たちは拍手をした後、ピッチに散っていった。
姫殿下はベンチに腰をおかけになって睫に残る涙の白露を落としておられた。
「藤村」姫殿下が振り返っておっしゃった。「そなたの夢は何だ?」
恥ずかしかったが申し上げることにした。
「はい、私はずっと夢のない人生を送ってきました。ですが姫殿下とお会いして夢ができました。
私の夢はこれからもずっと姫殿下をお守りすることでございます」
「そうか」姫殿下はそっけなくおっしゃった。「そなたはわたしの護衛だ。これからもずっとだぞ」
「ありがとうございます」おれは頭を下げた。
後半の開始を告げるホイッスルが鳴り響き、フィールド上の選手たちが躍動し始めていた。
351水先案名無い人:04/11/23 07:53:46 ID:nM56y3Y/

おわり

第2部「姫殿下バトンリレー」に続く
352水先案名無い人:04/11/23 07:55:17 ID:nM56y3Y/
乙。面白かったYO !
353水先案名無い人:04/11/23 07:56:48 ID:nM56y3Y/
乙!!!!
354水先案名無い人:04/11/23 07:58:19 ID:nM56y3Y/
乙した!
355水先案名無い人:04/11/23 07:59:50 ID:nM56y3Y/
スレタイに即した内容がウザいなら、とっとと去るべきだ
もしくは君が書くか
356水先案名無い人:04/11/23 08:01:20 ID:nM56y3Y/
遅ればせながら乙です。
357水先案名無い人:04/11/23 08:02:51 ID:nM56y3Y/
1(第1週 木曜日)

深呼吸して手を水の中にずぶりと突き入れると、冷たさで皮膚がびりびり痺れた。
金盥の底に沈む砥石を取り上げ、水も切らずに流しの側にある机に乗せる。
椅子に腰かけ、姫殿下ご愛用の版木刀を一度押し戴いてから砥石の面にあてがう。
「はい、そのままの角度で力を入れて……」
横に座った平沢さんの指示通りにゆっくりと砥いでいく。
すでに指の先は冷たい水で真っ赤になり、感覚がなくなってきている。
全身がぶるんと震えそうになるのをこらえながら刃を前後に動かす。
「う〜、暖かい……極楽……」
弁当を食い終わった下川さんが机に突っ伏したまま呟いた。
彼女と三鷹さん、キャノンさんは部屋の中央に置かれた灯油ストーブを囲んで座っている。
11月に入って急に寒くなってきたので、隣の美術準備室から引っ張り出して来たものだ。
3人はしばらくボーっとしていたが、やがてそれぞれの作品製作に取りかかった。
だがそれも長くは続かず、皆手を止めて頬杖を突いた。
「マコちゃんと松川、遅いね……」
三鷹さんが物憂げな声で言った。
「やっぱり文化祭の件ですかね……」
キャノンさんがいつもの不機嫌そうな声で言った。
「文化祭の件」とはこの間の文化祭で美術部が出した大赤字のことだ。
美術部の今年のテーマはG習院中等科マスコットキャラ「華族ちゃん」だった。
もちろん公式なものではなく、彼女たちが勝手にぶち上げたものだ。
その目玉として来場者全員に「華族ちゃんステッカー」を無料配布した。
最初の見積もりでは予算内に収まっていたのだが、
下川さんが「スノボに貼りたい」と言い出し、急遽塩ビコーティングをすることになった。
それがいけなかった。
納期の都合上、委員会の承認を待たずに発注し、余裕で大赤字をこいてしまったのである。
現在出席されている会議ではこのことが中心議題のひとつとされることになっている。
生徒会長・姫殿下と美術部部長・松川さんはそちらに出席されているのだ。
「まあ、でもこれを乗り切るが部長の仕事よね」
と前部長の下川さんが他人事のように言った。
358水先案名無い人:04/11/23 08:04:23 ID:nM56y3Y/
   /|:: ┌──────┐ ::|
  /.  |:: |「姫殿下     .| ::|
  |.... |:: | バトンリレー」.| ::|
  |.... |:: |    に続く  .| ::|
  |.... |:: └──────┘ ::|
  \_|    ┌────┐   .|     ∧∧
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄     (  _)
             / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄旦 ̄(_,   )
            /             \  `
           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|、_)
             ̄| ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄| ̄

     |           .( ( | |\
     | )           ) ) | | .|
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   ∧∧
  (  ・ω・)
  _| ⊃/(___
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  <⌒/ヽ-、___
/<_/____/
359水先案名無い人:04/11/23 08:05:54 ID:nM56y3Y/
糞スレ終了
360水先案名無い人:04/11/23 08:07:25 ID:nM56y3Y/
前々から思ってたんだけど、ローマの休日?
361水先案名無い人:04/11/23 08:08:56 ID:nM56y3Y/
版木刀の仕上げ砥を平沢さんに任せ、丸刀の砥を始めた頃、松川さんが美術室に戻って来た。
彼女は書類の入ったクリアファイルを机の上に投げ出すと、ため息を吐きながらストーブを囲む輪に加わった。
「参った……安藤さんにめちゃめちゃ怒られた。文化祭のことだけじゃなくて活動計画書とかもボロクソ……」
先の選挙で姫殿下に敗れた安藤さんはいまや姫殿下の腹心となって生徒会を切り盛りしているのだった。
「安藤さん、厳しいからねえ」
三鷹さんが肩をすくめた。
「あの、姫殿下はいつ戻られるのですか?」
おれは手を止めて松川さんに尋ねた。
「うーん、何人かに引き留められてたから、まだしばらくかかると思う」
松川さんが頭を抱えたまま言った。
(姫殿下も大変だなあ……)
姫殿下は会議好きの安藤さんに付き合わされる形で生徒会の会議に参加され、
美術部では連作版画を作成中、さらに週1回陸上部で汗を流されている。
校内でもっとも多忙な生徒のひとりであらせられるのだ。
もっとも護衛のおれにとってみれば、その間姫殿下のお側にいられるのだから喜ばしいことこの上ない。
おれは一度かじかむ指を曲げ伸ばしして、再び版画刀を砥ぐ作業にかかった。

姫殿下が美術室にお戻りになったのはおれと平沢さんがあらかた版画刀を砥ぎ終わった後だった。
「ただいま帰りました」
勢いよくドアを開けて入って来られた姫殿下が元気にお声を発せられた。
「お帰り〜」「お疲れ」
美術部員たちが眠たげな声を上げた。
「あ、みずほちゃんに藤村、砥いでおいてくれたのか。どうもありがとう」
おれの側に歩み寄られた姫殿下は、息を切らせておいでだった。
「姫殿下、駈けておいでになったのですか?」
そうお尋ねすると姫殿下は大きく頷かれて、手にされた書類の束から一枚の紙を取り出された。
362水先案名無い人:04/11/23 08:10:28 ID:nM56y3Y/
放課後のグラウンドはただならぬ緊張感に満ちていた。
「陸上部オープン選考会・受付」という看板の掲げられた机の前に生徒たちが並んでいる。
おれは姫殿下と共に列の中に加わっていた。
姫殿下は辺りを見回されてから、そっとおれに囁かれた。「藤村、本当に走るのか?」
「はい」おれは即答し申し上げた。「実はこれには理由がございまして……」
「理由? どんな理由だ?」
姫殿下のお尋ねに、おれは昨晩思いついた言い訳を申し上げることにした。
「短距離走で隣のレーンに速い選手がいるとそれに引っ張られて好記録が出ることがございます。
今回、私が姫殿下の牽引役となり姫殿下の勝利を確実なものにいたします」
「何と! そのような作戦だったとは」
姫殿下は驚きの声を上げられた。
「私を追いかけるつもりでお駈けになれば自己ベストはおろか代表入りも間違いないかと……」
「むむむ、さすが藤村。こうした策略にかけては天下一品だな」
「恐れ入ります」
お褒めの言葉におれは頭を下げた。
「実は私、大の陸上好きでございまして世界陸上なども毎回全種目テレビ観戦しております」
「なるほど、どうりで陸上競技に造詣が深いわけだ」
姫殿下は感心しきりであられた。
実は世界陸上を全部見るというのは元廃人のおれにとっては容易なこと。
目当てはもちろん織田裕二ウォッチ&TBS公式掲示板に縦読みカキコである。
ようやくそんな無駄な努力が実を結ぶ日が来たようだ。
「受付ではあくまでも護衛目的であることを強調してください」
「うん、わかった」
姫殿下はおれのご献策にすっかり満足されたご様子だった。
363水先案名無い人:04/11/23 08:12:00 ID:nM56y3Y/
姫殿下が受付をされる番になった。
「1年A組マコ、短距離志望です。それからこれが護衛の藤村で……」
おれはルナ先生を求めて辺りを見回した。
(まだ来ていないようだな……)
「……いえ、ですから本人がどうしてもと……はい、わたしの1つ外側のレーンで」
受付の生徒は戸惑っていたが、最終的にはおれの名を名簿に書き入れた。
受付を済ませた生徒たちは芝生の上でウォーミングアップを開始している。
姫殿下とおれがそちらに向かいかけたとき、聞き覚えのある声がした。
「マコちゃん、藤村さん」
振り返ると美術部員たちが立っていた。
「応援しに来たわよ」
「旗も作ってきたんだ。ほら」
全員の手に姫殿下のお名前が書かれた小旗があった。
「皆ありがとう」
姫殿下のご機嫌が麗しいので、おれの応援グッズがないことには目をつぶることにした。

グラウンドには続々と生徒たちが集まってきていた。
その中からいつもの3人組が連れ立ってやって来た。
獄門島さん・八つ墓村さん・病院坂さんの元部長トリオだ
「あれ、藤村さん、応援ですか?」
獄門島さんの問いにおれはこれまでのいきさつを話した。
「はあ、なるほど……護衛ですか。うちからもポイント・ガードの子が出ますんでよろしく」
「バレー部も一番速いのを出します」
「ソフトボール部も」
オープン参加ということでどこの部も代表選手を出しているようだ。
おれが彼女たちから有力な選手たちの情報を聞いていると、1人の生徒が話に割りこんできた。
「何してるんすか? 作戦会議?」
見ると、姫殿下の同級生・新美さんだった。
364水先案名無い人:04/11/23 08:13:31 ID:nM56y3Y/
新美さんは以前のマゲ状の髪型ではなく、ショートカットになっていた。
なぜか髪の毛がべたべたごわごわで、三日くらい洗っていないように見えた。
「どうしたんですか、その髪……? あれ? その髪型、どこかで見たような……」
おれがそう言うと、新美さんは前髪をいじりながら笑った。
「これはNEVADAちゃんのまねで〜す」
「あ、本当だ! NEVADAと同じだ!」
NEVADAとは先月衝撃的なデビューを果たした経歴不詳、弱冠15歳の美少女アーティストである。
独特の陰鬱な歌詞やメロディーが同世代の若者から熱狂的な支持を受けている。
1stアルバム『NEVERDIE』の売上は発売1ヶ月で早くも100万枚に達する勢いだ。
「"Smells Like Teen Blood"のPVがすごくカワイイのよね」
「私はアルバム7曲目の"Territorial Cutting"が好きです」
「あ、藤村さん、アルバム持ってるんだ。うざったてー」
「うざったてー」
おれと新美さんはファンだけにわかるスラングで笑いあった。
「藤村さん、随分楽しそうね」
獄門島さんが、よくわからない、という顔をして言った。
「リサリン!」姫殿下がおれの背後からぴょこんと飛び出された。
「調子はどう?」
「はっきり言って負ける気がしない。周り見ても大して速そうな人はいないし」
新美さんのこの不用意な発言で周囲の生徒たちから人特有の湿った視線が浴びせられた。
おれは、大した奴等じゃない、無視だ、と考えながら言った。
「ところで(むちむちぷりぷりの)ルナ先生はどこにいらっしゃるのでしょうか?」
「え? ルナ先生なら……」
姫殿下のお言葉を遮って笛の音が鳴り響いた。
「選考会に出場される方はグラウンド中央にお集まりください」
クリップボードを持った生徒が触れて回っていた。
「では私は端の方でお待ちしておりますので……」
「藤村も出走するのだから来た方がいいぞ」
そうおっしゃって姫殿下は嫌がるおれの腕を引っ張られた。
365水先案名無い人:04/11/23 08:15:03 ID:nM56y3Y/
何故だろう
育つ雑草が頭に浮かんだ…
366水先案名無い人:04/11/23 08:16:34 ID:nM56y3Y/
ゴミスレ終了
367水先案名無い人:04/11/23 08:18:04 ID:nM56y3Y/
黙れ
368水先案名無い人:04/11/23 08:19:35 ID:nM56y3Y/
眞子さまのことを想うならこんなゴミスレは終了するべきだ。

=== 終了 ===
369水先案名無い人:04/11/23 08:21:06 ID:nM56y3Y/
そう思うならお前がここに来なければいいだけの話。


と、マジレスしてみるテスト。

こないだからいろんなスレで同じようなのが涌いてるけど全部同一人物なのかな?
暇があるってうらやますぃ。
貧乏暇なしっと。

あ、左右さんいつも乙です。一読者としていつも楽しみにしてるのでがんがってくださいね。
370水先案名無い人:04/11/23 08:22:37 ID:nM56y3Y/
アンチに負けたら許さんぞ左右
371水先案名無い人:04/11/23 08:24:08 ID:nM56y3Y/
俺のことはどうでもいいんだよ。
眞子さまの為だ。
372水先案名無い人:04/11/23 08:25:38 ID:nM56y3Y/
榛名先生はおれが名刺を渡すとしげしげとそれを見つめた。
G習院大学の学生だけあって特に護衛隊という肩書きを珍しがることはなかった。
ただおれの服装を見て
「その格好で走られるのですか?」
と聞いてきただけだった。
おれは、これがユニフォームだから、と答えた。
足元はアディダスのGSG9タクティカル・ローカットを履いているので普通の革靴より走りやすくなっている。
「教育実習は普通夏前にやるものなんですが、大学の陸上部の方で遠征しておりまして、
それで無理を言ってこの時期にこちらでお世話になっているわけです」
榛名先生はそう言って恥ずかしそうに頭を掻いた。
どうやら本格的に体育会系の人のようである。
新美さんと姫殿下はスタートの姿勢について榛名先生に質問しておられた。
そこへデジカメを持ったカコ様がぴゅーっと駈けて来られた。
「お姉様、応援に……」カコ様はそこで突然立ち止まられて、大きなお声で叫ばれた。
「見上げ入道見越したッ!」
それからばったりとお体を地に投げ出された。
そこにいた全員があっけにとられていた。
事情を察したおれはすばやくカコ様のお側に駈け寄り耳打ちし申し上げた。
「カコ様、あれは妖怪見上げ入道ではございません。教育実習生の榛名先生です」
「あら、本当? わたしてっきり妖怪見上げ入道かと……」
「何なんですか、いったい?」
榛名先生が上ずった声で言った。
「ちょっとしたおまじないです。妖怪見上げ入道に出会ったときの」
お召し物についた草を払いながらカコ様がおっしゃった。
373水先案名無い人:04/11/23 08:27:10 ID:nM56y3Y/
第1レースでは陸上部員が余裕を持って1着を取っていた。
姫殿下とおれは100mの第2組に出ることになった。
姫殿下はすでにブルマ姿の臨戦体勢。
一方のおれは護衛隊員にウォーミングアップなど不要! と余裕を見せつけていた。
(まあいくら何でも女子中学生に負けることはあるまい……)
第1組全員のタイムが読み上げられ、第2組の走者がコースに出る番になった。
「よし、行くぞ!」
姫殿下がご自分の頬をぱちんとひとつ打たれてトラックに足を踏み入れられた。
姫殿下は第1レーンを走られる。
「ここで皆さんにお知らせがあります」スターターの横に立った陸上部員が声を張り上げた。
「第2レーンは特別参加、護衛隊の藤村さんが走られます」
「デカカァァァァァいッ説明不要!! 藤村です」
言葉の最後の方は歌丸師匠風に決めてみたが、他の走者たちには完全に無視された。
おれは気を取りなおし、スタート位置についた。
外側のレーンを眺めてみると、第4・6レーンに陸上用のスパイクを履いた選手がいる。
クラウチングの姿勢などなかなか本格的で、素人のおれから見てもその実力のほどが窺える。
おれはひとつ深呼吸してから手を突いた。
「位置について! 用意!」
パン!
おれは勢いよく飛び出した。
(あれっ?)
最初の10mほどですでに第4レーンの選手に先行されている。
おれは体育の授業でやったことを思い出し、脚を高く上げ、地面を強く蹴リ続けた。
だが先頭との距離は縮まらない。
(やばい……)
374水先案名無い人:04/11/23 08:28:41 ID:nM56y3Y/
ガイドライン?
375水先案名無い人:04/11/23 08:30:12 ID:nM56y3Y/
いいかげん↓でやりなよ。
ガイドラインでも何でも無いだろ。

眞子様のSSを書くスレ Part1.5
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/test/read.cgi/mako/1094828391/
376水先案名無い人:04/11/23 08:34:45 ID:nM56y3Y/
女子で13秒切ると高校の県大会に出られるよ(スパイク使用)
377水先案名無い人:04/11/23 08:36:16 ID:nM56y3Y/
なんか語順がむちゃくちゃでないかい?
378水先案名無い人:04/11/23 08:37:47 ID:nM56y3Y/
姫殿下がぐっと加速をつけられる。
おれは必死で追いかけたが逆に離されるばかり。
コーナーでついたスピードの差がここへ来てさらに広がっている。
その上、脚が思い通りに動かなくなってきた。
ゴール前で力尽きたおれは前のめりにばったりと倒れた。
「1着、第1レーンマコさん、28秒45。2着、第4レーン有藤さん……」
「はっはー! やったやった!」
姫殿下のご歓声が聞こえた。
「第2レーン藤村さんは失格となります」
「ははは、失格だって」
「記録を消そうとしたんじゃない? ほらよくあるでしょ、ハンマー投げとかで」
「いや、あれ勝ってないと意味ないですから」
美術部員たちが勝手な批評をしている。
おれはうつぶせのまま硬質ゴムと敗北の感触を体全体で確かめていた。
「あれ? 藤村さんが起き上がらない」
「ツェツェ蝿を媒介とする眠り病ですかね?」
「蹴伸び……」
「藤村、だいじょうぶか?」姫殿下が息を切らせながらおれを助け起こしてくださった。
「藤村の作戦のおかげで勝てたぞ」
「もったいないお言葉……」
おれはよろよろと立ち上がった。
「藤村さん、おつかれさま。はい、ナッツぎっしり確かな満足・ゴディバのマカデミアナッツ」
カコ様がおれの口にでかいチョコの塊を押しこんでくださった。
それは負け癖がついてしまいそうなほど甘く、柔らかだった。
379水先案名無い人:04/11/23 08:39:18 ID:nM56y3Y/
全国大会の記録を参考にしていたのがいけなかったみたいです。
参考になりました。
どうもありがとうございます。
380水先案名無い人:04/11/23 08:40:50 ID:nM56y3Y/
トラックでは1500mのレースが行われていたが、フィールドでは短距離の結果が発表されていた。
おれは姫殿下と並んで腰掛けながら、村田部長の話を聞いていた。
「皆さん、おつかれさまでした。
今回の選考に当たってはタイム及び技術面を考慮して評価しました」
姫殿下はお膝を抱えてじっと村田さんの言葉にお耳を傾けておいでだった。
姫殿下のタイムは100mが35人中8番、200mは3番だった。
1年生にしてはなかなかのご健闘ぶりだ。
「それでは発表します。
今から名前を呼ぶ12人はこの場に残ってください。
有藤さん、伊藤さん、中嶋さん、高木さん……」
1500mを走る新美さんが集団の中でもみ合いながらおれのすぐ横を通り過ぎて行った。
「……和田さん、マコさん、落合さん。以上です」
おれは姫殿下の方に目を遣った。
「……!」姫殿下はなぜかお指をぴんと伸ばしたまま固まっておられた。
「……やった」
「おめでとうございます」
「やった、やったぞ」
姫殿下は体育座りの姿勢のままごろりと横倒しに倒れられた。
生徒たちが解散すると、姫殿下は村田さんと榛名先生のところへ駈け寄られた。
「ありがとうございます! 一生懸命がんばります!」
そうおっしゃって深々とお辞儀をされる。
「榛名先生の推薦なのよ」
と村田さんが言った。
「うん、マコさんは200mのコーナーがとてもよかったんだ。
だから是非400mリレーのメンバーに入ってもらえないかと思って」
と榛名先生が頭を掻きながら言った。
381水先案名無い人:04/11/23 08:42:21 ID:nM56y3Y/
「400mリレー……」
陸上の花形とも言われるその競技の名前をお聞きになった姫殿下のお顔がパアァッと明るくなった。
「ほら、400mリレーだと第1走者と第3走者はコーナーだけを走ることになるでしょ?
あれって結構難しいのよ。速い人でも意外にスピードに乗れなかったりするから。
そこをマコさんに走ってもらいたいの」
「ぼくも後輩たちから"中等科の400mリレーは伝統的に強い"と聞いています。
この学校の代表としてがんばってください」
村田さんと榛名先生の言葉に姫殿下はお顔を紅潮させてお答えになった。
「はい! がんばります!」
姫殿下のお言葉に榛名先生は満足そうに頷いた。

帰りのお車の中でも姫殿下は未だ興奮覚めやらずといったご様子だった。
お隣のカコ様がデジカメの液晶に映し出される画像を見ながらずっとお体を動かしておいでだった。
「ほら、ここ。ここでトップを走っているのがわかったんだ」
「本当だ。もう顔が笑ってるわね。藤村さんはサンショウウオみたいな顔してるけど」
おれがハンター試験の一次で落ちた奴みたいになっているのもばっちり写っていた。
「これ、安藤さんに頼んで生徒会のHPに載せてもらおうかしら」カコ様がおっしゃった。
「タイトルは"藤 村 必 死 だ な"」
「本当に必死ですのでご再考ください」
とおれは申し上げておいた。
「わたしも藤村みたいに必死で走ろう」
姫殿下が微笑みとともにおっしゃった。
382水先案名無い人:04/11/23 08:43:52 ID:nM56y3Y/
藤村は面白いなぁヽ(´ー`)
383水先案名無い人:04/11/23 08:45:23 ID:nM56y3Y/
他の選手がゴールに駈けこんでくるのを見て、長久手さんはぺろりと舌を出した。
「よし、もう一本!」
そう叫んでスタート地点へと戻って行く。
「じゃ今度は私が行ってきます」
有藤さんが歩きかけたが、すぐに立ち止まった。
今走った選手たちが誰もコースから出ようとしない。皆再びスタート地点へとまっすぐ帰っていく。
「あー、今ので火が着いちゃいましたね」
榛名先生が笑いながら言った。
リー姉妹が何事か激しく言い争いをしている。
落合さんはしきりに首を振り、姫殿下は御頭の後ろでお手を組んで考えこんでおられるご様子。
誰もが「こんなはずじゃない」と言いたげな顔をしていた。

結局メンバーを入れ替えながら50本近く走ったが、誰も長久手さんに追いつけなかった。
そのあまりの快走ぶりに最後の方はフィールドで練習している他の部の生徒たちも集まって観戦していた。
休憩時間に戻って来られた姫殿下はご気色極めて悪しといったお顔だった。
一言も口をお聞きにならず、タオルを被っておれの隣に腰かけられた。
他の選手たちも黙りこくってばらばらに座っている。
リー姉妹の諍う声だけが空しく辺りに響く。
(う……初日から雰囲気最悪)
「リレーの方でがんばりましょう」というアドバイスさえもためらわれる、どす汚れた敗北感が漂っていた。
(でも怒ったお顔もかわいらしい……
やっぱり負けて悔しいのは当たり前だよな。
もし姫殿下が負けてもにこにこしておられるようなお方だったら、逆にいやだ)
そんなことを考えていると、かしましい話し声とともに戸山中の4人がやって来た。
384水先案名無い人:04/11/23 08:46:54 ID:nM56y3Y/
有藤で気がついた。それでリー姉妹かw
385水先案名無い人:04/11/23 08:48:25 ID:nM56y3Y/
それは書く方も気付く方もオヤヂなラインバック
386水先案名無い人:04/11/23 08:49:56 ID:nM56y3Y/
「あれ?」先頭を歩く長久手さんがおれと榛名先生に目を留めた。
「……新しい先生ですか?」
「どうも、教育実習生の榛名です。すばらしい走りでしたね」
彼がそう言うと戸山中の4人はぺこりと頭を下げた。
「はじめまして。護衛隊の藤村と申します」
そう言っておれはお辞儀をした。
「ゴエイタイ? 護衛隊……あーっ!」長久手さんが座っておられる姫殿下を恐れ多くも指差した。
「マコ様だ! テレビで観た! えー、すごーい! 屋島部長、マコ様ですよ」
「ホンマか?」
垂れ目の生徒が驚いているのかどうかよくわからない顔で言った。
「見て、乃江ちゃん。マコ様だって」
「…………」
残り2人の生徒が囁きあっている。
これだけの無礼な行いにも姫殿下は落ち着いた応対をされた。
「はじめまして、マコです」
姫殿下が立ち上がり自己紹介をされる。
「長久手コマキです。はじめまして。100mに出るんですか?」
「いえ、4×100mリレーに出ます」
「リレー?」そう言って長久手さんが目を輝かせた。
「リレー! 走りましょう! リレー!」
「はあ……」
姫殿下はこのテンションの高さに付いて行けずに戸惑っておられる。
そのときカコ様がお声を上げられた。
「わたしもわたしも走る走る!」
387水先案名無い人:04/11/23 08:51:28 ID:nM56y3Y/
長久手さんはちらりとカコ様の方を見て言った。
「あら、あなたも走るの? だったら榛名先生とチームを組んだらどう?
それからそこの……何だっけ? フヒモリさん……?」
「藤村です」
「そうそう藤村さん。藤村さんも一緒に走ったら?」
「でも……」榛名先生が言葉を挟んだ。「さすがに大人2人が入ってしまうとねえ……」
「いいわよ、別に。だってそっちにはハンデがあるから」
長久手さんの言葉にその場にいた皆がカコ様の方を見た。カコ様のお顔が紅潮する。
「ハ、ハ、ハンデですって? わ、わたしはこう見えても"特攻のカコ"って呼ばれてますよ、センパイ達……!?」
「あっ、怒った」
と長久手さんが言った。
「そらそうよ」
と屋島さんが言った。
「おい、長久手コマキ」リー姉妹が凄い形相で長久手さんを睨みつけている。
「おまえ、東京都最速だか何だか知らないけど、あんまり調子に乗るなよ」
言われた長久手さんはきょとんとした顔をしている。
「あなた誰だっけ?」
「てめぇ……」リー姉さん(と思われる方)が長久手さんの襟首を掴んだ。
「さっき隣のレーンを走ってただろうが……」
「あっ、そうそう。思い出した。でも私の隣はそっちの人だったと思うけど?」
姉妹は顔を見合わせた。
「何で…………わかった?」
「えー!? 顔が全然違うじゃん。声だってあなたの方が少し高くて細い感じだし」
妹のリーウォンさんと思しき方が笑った。
「ふーん、何年振りかねェ、私たち姉妹を一目で見分けた奴は」
「うそだよ、バーカ」
舌を出した長久手さんにリー姉妹が襲いかかった。
388水先案名無い人:04/11/23 08:52:59 ID:nM56y3Y/
そらそうよ、で飯吹いたじゃないかw
389水先案名無い人:04/11/23 08:54:30 ID:nM56y3Y/
「行くぞ、リーウォン!」
「おう、姉さん!」
リー姉妹のジェミニアタックが発動した。
カコ様も競り合いに行かれた。
姫殿下は身構えておられた。
おれはこぼれ球を拾う感覚で割って入っていった。
「まあまあまあ、皆さん少し落ち着いて」おれは場を収めるためにスポーツマン的提案をした。
「勝負は喧嘩じゃなくてトラックの上で……」
「うるせー馬鹿」
「何か(考えが)浅いな」
両陣営から罵声が飛んだ。
そこへ獄門島さんを先頭に八つ墓村さん、病院坂さん、下川さんの4人がやって来た。
「何だ何だ? 喧嘩か?」
この4人は野球サークル「魔球倶楽部」を立ち上げ、公認団体化を目指し日夜キャッチボールをしているのだった。
「あ、さっきの速い奴がいる」
「戸山中4人だろ? 殺っちゃおう。証拠も残らず消せる」
「くっくっくっ……いくらなんでも一度に5人じゃ胃がパンクだよ」
と下川さんが言った。
(? 5人? ……ひょっとしておれも入っているのか?)
「待ってください!」いつのまにか姫殿下がおれの横に立たれていた。
「長久手さん、リレーをしましょう。リレーなら負けませんから」
「そうね、そうしましょう。私たちが勝つと思うけど……」
そう言って長久手さんと戸山中リレーチームは立ち去った。
「絶対勝つ!」
リー姉さん(多分)が言った。
「いいえ、わたしたち"カコさまぁ〜ず"が勝ちます! ねえ、藤村さん?」
「はあ……」
カコ様のお尋ねにおれはあいまいな笑顔を浮かべた。
390水先案名無い人:04/11/23 08:56:02 ID:nM56y3Y/
「安藤さん!」カコ様が鬼気迫る勢いで叫ばれた。
「メンバーが1人足りないから入ってくださらない?」
「いや、私スポーツははちょっと……」
安藤さんが恥ずかしそうに言った。
「じゃあキキさんは?」
「私はデブだからちょっと……」
そう言ってキキさんはぷよぷよと首を振った。
「では中距離の方から新美メンバーを引っ張ってきましょう」
とおれはご献策した。
姫殿下は早くもお体を動かし始めておいでだった。

トラックの中に5チーム、20人の全出走者が入った。
第1走者のところでは第1・第2レーンでカコ様対姫殿下という夢の対決が実現した。
さらに戸山中の何を言っているのかほとんど聞き取れない白村乃絵さんが第3レーン、
中等科四天王チームの下川さんが第4レーン、サッカー部選抜が第5レーンを走る。
おれはカコさまぁ〜ず第3走者を任されていた。
スタートの合図とともに飛び出したのは姫殿下だった。
だがすぐに下川さんが追いつき、そのまま八つ墓村さんにバトンを渡す。
必死に食い下がられたカコ様は新美さんにリレー。
その新美さんは腕を横に振るサッカー部走りでいま一つスピードが上がらない。
戸山中の第2走者・一の谷ヒヨリさんに抜かされて4位に後退した。
新美さんからバトンを渡されたおれは必死で走るが隣のレーンのリーウォンさんに先行されたままだ。
(ルナ先生、後は任せた!)
我らがチームのバトンはスムーズにリレーされ、全てのアンカーが横一線に……
なったと思ったら、あっという間に長久手さんに追い抜かれ、引き離された。
長久手さんは例のごとく辺りを見渡して、舌を出した。
391水先案名無い人:04/11/23 08:57:33 ID:nM56y3Y/
カコ様かわいいなぁ
特攻のカコいいなぁ
392水先案名無い人:04/11/23 08:59:04 ID:nM56y3Y/
>>左右氏
連絡、現在眞子様スレッドが順次攻撃を受けております。
こちらにも被害が及んだ場合、
避難所の避難所、SSスレへの退避をお勧めいたします。
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/mako/
393水先案名無い人:04/11/23 09:00:35 ID:nM56y3Y/
マッチポンプ
394水先案名無い人:04/11/23 09:02:06 ID:nM56y3Y/
〔和製語。自分でマッチを擦って火をつけておいて消火ポンプで消す意〕
自分で起こしたもめごとを鎮めてやると関係者にもちかけて、金品を脅し
取ったり利益を得たりすること。
395水先案名無い人:04/11/23 09:03:37 ID:nM56y3Y/
「生意気な長久手をしめてやる!」
ビダァァァン!! と仰向けに倒れた長久手さんに獄門島さんがのしかかる。
だが長久手さんはすぐに立ちあがり、獄門島さんにローキックを入れた。
「やってみろ、コラ!」
両者がもみ合うところに中等科・戸山中両校の生徒たちがわっと集まり、たちまち大乱闘が始まった。
おれは姫殿下の下へ馳せ参じようとしたが、この修羅場を見過ごすわけにもいかず、
第1コーナー付近で立ち往生してしまった。
姫殿下の方に目をやると、姫殿下が新美さんの肩を借りて起き上がられるのが見えた。
(姫殿下はご無事か……)
おれは目標を喧嘩の仲裁に切り替えて、暴徒と化した生徒たちの間に分け入った。
掴み合いをする両校の生徒たちにモンゴリアンチョップを叩きこみながら争いの中心へと向かう。
そこでは案の定、獄門島さんと長久手さんがシバキ合いをしていた。
密集しているため距離が取れず、お互いの打撃は有効打となっていない。
おれは2人の間に体を入れて叫んだ。
「喧嘩はやめてください!」
「藤村さん、どいて! そいつ殺せない!」
おれの背後で獄門島さんが怒鳴った。
長久手さんはおれの体を盾にしながら蹴りを繰り出した。
突然、周囲の生徒を抑えようと広げていた右手に鋭い痛みが走った。
(痛っ! 刃物!?)
手を慌てて引っこめて顔の前にかざすと、掌にくっきりと歯型がついていた。
「うわあああ、誰だ!?」
「誰!? 今藤村さんを噛んだのは!?」
カコ様の大きなお声が聞こえた。
(あれ? おれ、"噛まれた"って言ったっけ?)
おれの心はぼんやりとした疑念に包まれたが、周囲の生徒たちからの圧力ですぐに現実に引き戻された。
396水先案名無い人:04/11/23 09:05:08 ID:nM56y3Y/
おいおい、このスレの1だぞ俺は。

スレ立てたけど左右氏がしばらく来なくって(´・ω・`)ショボーンだったので
もし荒らしが来た場合に避難場所を案内しただけなんだが・・・。

時間割いて削除依頼とか荒らし報告とかしているのに
ああいうマルチ荒らしに対処するのが遅くなったな<運営
鯖が強くなったので一時期のような即断は期待できないのかな?
397水先案名無い人:04/11/23 09:06:39 ID:nM56y3Y/
運営側も眞子様を汚すスレを潰すという趣旨に賛成なんだよ、きっと
398水先案名無い人:04/11/23 09:08:10 ID:nM56y3Y/
ラウンジも攻撃を受けている最中です
399水先案名無い人:04/11/23 09:09:41 ID:nM56y3Y/
まじで運営さんなんとかしてくれ・・・
2ch内のスレだけでもう17スレやられちゃったよ。
運営側にも既に8人ほど報告しに行ってるんだから、
そろそろ動いてくれないかな?コマッタコマッタ
400水先案名無い人:04/11/23 09:11:11 ID:nM56y3Y/
眞子様を汚すスレは皆殺しだ。
401水先案名無い人:04/11/23 09:12:43 ID:nM56y3Y/
俺は既にこんな妄想をしているぜ!!


暴漢3人組:《おいねーちゃん、俺たちと付き合えよ!ゲヘー》
(悪のテーマみたいな低音の音楽が流れ続ける)

眞子様:†やっ、やめてください!人を呼びますよ!†

暴漢3人組:《ハハッ、周りを見てみー!みんな見てみぬフリやで〜?誰も助けちゃくれないよ〜ん♪》

俺:「待てィ!!」(ここでヤッターマンのOPテーマの様な正義の音楽に切り替わる)
俺:「か弱き乙女に狼藉を働く悪党は許さん!くらえ!【狼牙風風拳!】(←俺が日々の妄想の中であみだした必殺技)」

暴漢3人組:《何じゃワレァ!野郎共!やっちま‥あべし!ひでぶ!ぱごァ! お、覚えてけつかれこのド阿呆!》

俺:「正義は負けない!」

眞子様:†あ‥ありがとう。あなたのお名前‥†

俺:「名乗る程ではありませんよ、お嬢さん!では!」(去り際にそば屋の自転車にぶつかってバカヤローと言われる、眞子の方を振り返って照れ臭そうに笑う俺)

眞子様:†ステキ!あの御方とお付き合いがしたい†
402水先案名無い人:04/11/23 09:14:14 ID:nM56y3Y/
眞子様を助ける妄想のガイドライン
http://that3.2ch.net/test/read.cgi/gline/1082454048/
403水先案名無い人:04/11/23 09:15:45 ID:nM56y3Y/
ヽ从^▽^从ノ
404水先案名無い人:04/11/23 09:17:16 ID:nM56y3Y/
眞子ってなんて読むの?
405水先案名無い人:04/11/23 09:18:46 ID:nM56y3Y/
まんこ



と答えたくなる衝動を必死で抑えました
406水先案名無い人:04/11/23 09:20:17 ID:nM56y3Y/
【狼牙風風拳!】
>>1 はヤムチャ?
407水先案名無い人:04/11/23 09:21:49 ID:nM56y3Y/
新スレ立ったんですね。>>1乙です。
新スレを祝して久しぶりに何かSS書こうかな、
とか思ったんだが、さしあたってネタが思いつかん…。

実は、以前書いてた「嗚呼!」を連発する長編の後日談とか構想してるんだけど、
なかなか時間がとれんのよ。ええトシこいて受験生なもんで。

とりあえず即死回避パピコ。
408水先案名無い人:04/11/23 09:23:20 ID:nM56y3Y/
また腐ったスレが一つ増えた。
「これでコテハンデビューだ!」
「メンヘル板の有名人だ!」
「相談にものっちゃうぞ!」
がドキドキしながらたてたスレは、
大方の予想通り(を除く)、どうしようもないレスばかりがついた。

ここではあわてふためく。
1 「ネタだったことにしちゃおうか?」
2 「自作自演で盛り上げようか?」
3 「逃げ出して別のスレでもたてようか?」
さあ、いったい、どれを選んだら良いのでしょ〜か?

1を選んだへ。
それは「ごまかし」です。あなたは「嘘つき」です。

2を選んだへ
それは「まやかし」です。あなたは「嘘つき」です。

3を選んだへ。もう書くのが疲れました。
言いたいことは上と同じです。

そろそろ認めるべきです。
あなたは自己顕示欲だけはいっちょまえだが、 その欲望を満たすだけの能力がない。
努力はしないくせに、注目を浴びている自分ばかり妄想している。卑屈な笑いだけが特徴のつまらない人間だ。

せっかく必至で考えたコテハンが無駄になってしまいましたね(笑)
そして今日も良い天気!
409水先案名無い人:04/11/23 09:24:51 ID:nM56y3Y/
すまん誤爆しました。
410水先案名無い人:04/11/23 09:26:22 ID:nM56y3Y/
「プールの中で走ってはいけないぞ。腰洗い槽だったからまだよかったものの、転んで頭を打ったらどうする」
姫殿下が強い口調でお叱りになった。
「ごめんなさい、お姉様……」
俯かれたカコ様の制服からは水滴が滴り落ちている。
おれは1歩進み出て奏上した。
「姫殿下、私がプールのことを申し上げたのがいけなかったのです。お叱りは全て私が甘受いたします」
姫殿下はおれが頭を下げようとするのをお手でとどめられた。
「いや、そなたに落ち度はない。カコ、藤村の側についていなさい。勝手に走りまわってはいけないぞ」
「はい、お姉様」
カコ様はすっかり小さくなっておられた。
「帰りはわたしの体育着を着て帰りなさい」
「ありがとうございます、お姉様」
姫殿下はひとつため息をつかれると、表情を和らげられた。
「それでは皆さん、演奏をよろしくお願いします」
ひとつ頷いた新井さんがタクトを振ると、バンドは『雨に唄えば』を吹き始めた。
彼女たちを引き連れた姫殿下は更衣室を通ってプールにお入りになった。
カコ様とおれは行列の最後尾についた。
「びしょ濡れになっちゃったわねえ」
カコ様にもいつもの笑顔が戻った。
「御一人だけプールから上がられたみたいですね」
「そうねえ……あっ、そうだ。まめ飴、まめ飴……あーっ、全部びしょびしょになってる!」
カコ様はじっと残りの飴を見つめておられたが、意を決して全てお口の中に放り込まれた。
「塩素くさーい」
顔をしかめられながら、カコ様はがりがりと飴を噛み砕かれた。

プールの中は体育館の中よりも遥かに音を響かせた。
一行が侵入するとすぐに水泳部員が1人飛んできた。
「何なんですか、あなたたちは!?」
姫殿下は丁寧に自己紹介し、来意をご説明あそばされた。
411水先案名無い人:04/11/23 09:27:53 ID:nM56y3Y/
姫殿下のお話を拝聴した水泳部員は露骨に嫌な顔をした。
「いやあ、それはちょっと……」
「ちょっとすいません」おれは先ほどと同じように割りこんだ。

「……わかりました。演説を伺うことにします」
またしてもおれの街宣右翼的論法により敵の野望は打ち砕かれた。
ふと見るとカコ様がやけになられたのか、プールサイドに腰掛けて思いきりバタ足をされていた。
おれは姫殿下に恫喝の成果をご報告申し上げた。
「そうか、それはよかった。では早速演説をしよう」
姫殿下は満足げにおっしゃった。
「演説台はどちらに置けばよろしいでしょうか?」
おれがそうお尋ねすると、姫殿下はあたりをご覧になってからおっしゃった。
「いや、演説台はいい。あのスタート台の上に立って行おう」
姫殿下がスタート台のうえに立たれると、水泳部員たちが水から上がってこちらにやって来た。
プールの向こうではカコ様がコースロープ綱渡りに挑戦されていたが、2mほど進んだところで静かに水没された。

「プール上がりのアイスは最高ねえ、お姉様」
姫殿下のシャツとブルマをお召しになったカコ様がアイス片手に満面の笑みを浮かべられておっしゃった。
「そうだな。ご馳走してくれた藤村に御礼を言いなさい」
「はい。藤村さん、どうもありがとうございます」
カコ様に頭を下げられて、おれは恐縮した。
「いえ、お気になさらずに。大人の経済力にかかればアイスの20個や30個……」
「藤村さん、ご馳走になります」
「まーす」
平沢さんと下川さんがお盆を持っておれの前を通り過ぎていった。
「あっ、あなたたち、何でカレーも頼んでるんですか!?」
「あ、冷と暖のバランスを取ろうと……」
「いいじゃん、カレーの1杯や2杯。あんた公務員でしょ? 給料もらってんでしょ?」
下川さんに完全に逆ギレされたおれは、それ以上の追及はやめて自分のガリガリ君に集中することにした。
412水先案名無い人:04/11/23 09:29:25 ID:nM56y3Y/
左右さん
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
413水先案名無い人:04/11/23 09:30:56 ID:nM56y3Y/
プールサイドでカレー(゚д゚)ウマー
414水先案名無い人:04/11/23 09:31:24 ID:o7h/R3uG
荒らし氏ね
415水先案名無い人:04/11/23 09:32:27 ID:nM56y3Y/
416水先案名無い人:04/11/23 09:33:57 ID:nM56y3Y/
空気嫁
417水先案名無い人:04/11/23 09:35:28 ID:nM56y3Y/
姫殿下とカコ様は吹奏楽部員たちとご歓談されていた。
並んで座ったおれと下川さんと新井さんはそれを眺めていた。
「ねえ、下川」と新井さんが言った。
「今日行った部ってさ、昔はもっと活気があったと思わない?」
「うん。私が1年のとき剣道部員はあの倍くらいいたと思う」
下川さんがお茶をすすりながら言った。
「今はどこの部も苦しいのかな……
文化部でちゃんと活動してるのって私のところと下川の美術部くらいじゃない?」
「そうだね。書道部もなくなっちゃったし」
「あなたは何で書道部じゃなくて美術部に入ったの?」
「……やっぱり楽しかったからかな。先輩がよくしてくれたし。雰囲気がよかったの」
そう言って下川さんは姫殿下の方を見て目を細めた。
「ねえ、藤村さんは中学時代何部だったの?」
下川さんがおれの顔を覗きこんで尋ねた。
「私は帰宅部でした」
おれがそう答えると、下川さんは納得した様子で頷いた。
「でも皆さんを見ていると、あの頃部活をやっていればよかったなあって思います」
「何言ってんの? あなたは美術部員よ」
下川さんがおれの肩を叩いて言った。
「え、そうなんですか?」
「そうよ。まあ、身分的には筆洗バケツのやや下くらいだけど」
おれの暗かった学生生活はここに来て埋め合わされ始めたようだ。
吹奏楽部員に混じった姫殿下とカコ様がお顔を真っ赤にして大きな木管楽器を吹いておられるのが見えた。
418水先案名無い人:04/11/23 09:37:00 ID:nM56y3Y/
翌日は朝から曇りだったが、午後になって雨が降り出した。
雨音のせいかいつもより終鈴が遠く聞こえた。
「では木田さん。美術室に行ってきます」
そう意っておれは新聞を折りたたみ、傘を開いて守衛室を出た。
並木道には1人の生徒の姿もなかった。
「何か閑散としてますね」
とおれは言った。
木田さんは守衛室の窓口から顔を出した。
「雨の日の学校は静かなものですよ。静かで美しい。
でもね、この学校で一番すばらしいのは雨上がりの直後です。空気の香りが何とも言えない。
藤村さん、もし雨が上がったら深呼吸してみてください」
おれは手で了解の合図をして美術室に向かった。

美術部員たちは自分の創作に没頭していた。
いつもなら弁当を鬼食いしている下川さんも手鑑を見ながら筆を走らせている。
おれは姫殿下のお側に参った。
「姫殿下、本日の選挙運動はいかがなさいますか?」
「うん、それがなあ……」姫殿下が画筆を休められておっしゃった。
「外でビラを配ろうと思っていたのだが、この雨では無理だな」
近くの机に置かれたビラには「明るい勤王」と書かれていた。
それが具体的にどういう行為を指すのかは定かでないが、
佐幕派暗殺とか画像を集めてハァハァするといった行為とは正反対のものであることだけは確かだ。
「うおおおお、だめだああああ」下川さんが頭をかきむしりながら立ち上がった。
「腹が減って集中できない! 私、ちょっと学食に行ってくる」
「部長、私も行きます」三鷹さんがマウスから手を離して腰を上げた。
「ねえ、マコちゃんも一緒に行かない? もしかしたら学食で雨の上がるのを待っている人がいるかもしれない」
それをお聞きになった姫殿下のお顔がぱっと明るくなった。
「はい、行きます!」
姫殿下はビラの束を引っつかまれると、その側に置いてあったたすきをジャージの上からお召しになった。
419水先案名無い人:04/11/23 09:38:31 ID:nM56y3Y/
いつの間にかその2が…
1さん乙です。
420水先案名無い人:04/11/23 09:40:02 ID:nM56y3Y/
学食は八分くらいの入りだった。
しかしきちんとした食事を採っている生徒は少なく、雨宿りついでにジュースを飲んでいるといった手合いがほとんどだった。
「ここは手堅く月見そばに半ライスと行くか……」
何が手堅いのかはわからないが、下川さんはそう言い残して麺類のカウンターに向かった。
そのとき学食のおばちゃんに注文をしていたジャージ姿の生徒が振り向いた。
「あっ、下川!」
「むっ、獄門島!」
バスケ部部長の獄門島さんは下川さんの姿を認めると凶悪な視線をぶつけてきた。
その横にはバレー部部長の八つ墓村さんにソフト部部長の病院坂さんが立っていて、毒々トロイカ体制を確立している。
おれは立ちすくんでおられる姫殿下にそっと耳打ちし申し上げた。
「姫殿下、何だか雰囲気が悪うございますから、ここは美術室に戻られた方がよろしいかと……」
「そうだな、そうしよう」
下川さんとにらみ合っていた獄門島さんがこのひそひそ話に気付いてこちらをちらりと見た。
「どうしてここに? ……そうか下川は美術部だったね。だからそっちに荷担してるわけだ」
「あんたこそ安藤のパシリやってるんだって?」
どうやらこの2人は非常に仲が悪いらしく、早くも一触即発のムードだ。
おれがそれを無視して姫殿下を先導し申し上げようとしたとき、下川さんがすたすたとご飯類のカウンターに歩いていった。
「獄門島、あんた何頼んだの?」
下川さんの突然に問いに獄門島さんの表情に微かな動揺の色が浮かんだ。
「え……? 掛けうどん半ライスだけど……」
「おばちゃん、かき揚げ丼! 味噌汁・お新香つきで!」
下川さんは食堂中に響き渡る大声で注文した。
かき揚げ丼、味噌汁・お新香つき……何と力強い組み合わせであろうか。
確かに麺類+ライスは炭水化物を摂取するには最適だ。
だがその機能性ゆえにか、それを食する行為は“摂取”とでも呼ぶべき、誤解を恐れずに言えば“餌”的な色彩を帯びる。
しかし丼・味噌汁・お新香とくればそのメニューとしての完全性たるや……
それを食する者は精神的貴族に位置付けられる。
「むむむ……」
獄門島さんが低く唸った。
421水先案名無い人:04/11/23 09:41:35 ID:nM56y3Y/
そのとき八つ墓村さんが1歩進み出て言った。
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り!」
「うっ……」
下川さんがひるんだ。
確かにここまで機能性を追及されれば、そこに志士的な潔さを感じずにはいられない。
(どうする下川さん……)
突然姫殿下が厨房に飛びこまんばかりの勢いでカウンターに駆けて行かれた。
「かき揚げ丼・味噌汁・お新香、それから小カレー!」
「なにィッ!?」
姫殿下の電光石火のご注文に食堂中がどよめいた。
小カレー……それ自体では決して迫力のあるものではない。
だがカレーは回転が速いためご飯類とは別のカウンター。
途中で気が変わったからといって越えることのできぬ、三十八度線にも等しい境界線がそこには存在する。
それを軽々と注文してのけるとは……まさに食のコスモポリタンである。
「病院坂、あんたは何頼む?」
八つ墓村さんが傍観していた病院坂さんに迫った。
「え? いや、私はそんなにおなかも空いてないし……」
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り、小カレー!」
獄門島さんが厨房の奥まで響けとばかりに叫んだ。
それに対抗して下川さんもカウンターにのしかかるような姿勢で怒鳴った。
「おばちゃん、あそこの冴えない男の人にかき揚げ丼・味噌汁・お新香、カレー大盛り、ゆで卵!」
(おれも食うのか……)
おれの隣にいた三鷹さんも自分の運命を悟ったようで、すでに泣きが入っていた。

15分後、おれと三鷹さんはかき揚げ丼を半分空けたあたりでグロッキーになっていた。
「藤村さん、私もう限界……」
三鷹さんがうなだれていった。
「私もです……心苦しいがカレーは残すしか……」
そこへ早々と完食しビラも配り終わった姫殿下と下川さんが戻っておいでになった。
「何だ藤村、カレーが手付かずではないか」
姫殿下のお言葉におれは恐縮するしかなかった。
422水先案名無い人:04/11/23 09:43:06 ID:nM56y3Y/
面白すぎるw♪
423水先案名無い人:04/11/23 09:44:37 ID:nM56y3Y/
ハゲワロタw

毎回毎回GJGJGJ
424水先案名無い人:04/11/23 09:46:08 ID:nM56y3Y/
「三鷹、あんたさっきから全然減ってないじゃん」
下川さんが三鷹さんの肩をもみながら言った。
「すいません…………」
三鷹さんが小さな声で答えた。
「藤村ももっと食べないと大きくなれないぞ」
そうおっしゃる姫殿下におれはご飯を咀嚼しながら頷いた。
「しょうがない、カレーは私が食べてあげる」
「わたしもちょっと手伝ってあげよう」
下川さんと姫殿下がカレーの皿をお手元に引き寄せられた。
「ありがとうございます…………」
そう申し上げたものの、おれは被害者なのではないかという疑念を拭いきれなかった。
「うん、おいしいおいしい。やっぱりカレーは別腹ね、マコちゃん」
「そうですね、部長。それにこのゆで卵が何とも……」
2人はもしゃもしゃとカレーを平らげていった。
ようやくおれのかき揚げ丼もあと一口というところまできたとき、紙の束を抱えた生徒が食堂に飛びこんできた。
「号外でーす。討論会が開催されまーす。生徒会長候補が直接対決しまーす」
そう言いながら、テーブルを回って紙を配り始めた。
「姫殿下、いま生徒会長候補がどうとか言っていましたが……」
「うん。でもそんな話は何も聞いていないぞ」
姫殿下はかりかりと福神漬けをかじりながらおっしゃった。
「ちょっと私、話を聞いてくる」
そう言って下川さんが席を立った。
見ていると下川さんは話を聞くどころか、紙を配る生徒の首根っこを捕らえてこちらに引っ立ててきた。
「さあマコちゃんの前でちゃんと説明しなさい」
組み伏せられた生徒は姫殿下のたすきを拝見してはっと驚いた顔をした。
「わ、私は何も知りません。急に新聞委員は集まれという呼び出しを受けて、行ってみるとこれを配って来いと言われただけで」
弁明する生徒から下川さんが紙を1枚奪い取ってテーブルの上に広げた。
「生徒会長候補討論会 主催 選挙管理委員会 共催 新聞委員会、放送委員会……あんたも関わってるんじゃない」
「いえ、私たち1・2年生は何も知らされていませんでした。本当にさっきこのビラを渡されてはじめて知ったんです」
哀れな新聞部員はすっかり怯えきっていた。
425水先案名無い人:04/11/23 09:47:40 ID:nM56y3Y/
下川さんは納得いかない様子でその新聞部員を解放した。
「28日……来週の月曜日ですね」
「投票は30日だから結構重要なイベントね」
「何か嫌な感じ。マコちゃんに知らせなかったのは絶対嫌がらせだよ」
下川さんが憤慨した顔で言った。
「でもまだ5日ありますから。準備はできます」
姫殿下はいつもの穏やかなお顔でおっしゃった。
ふと食堂の入り口に目をやると、獄門島さんご一行が出て行くのが見えた。
(ん……? あの3人、ビラを持っていない。もしや前から討論会のことを知っていたのでは……)
おれはじっくり観察しようとしたが、獄門島さんと目が合って思いきりにらまれたので、慌てて目を逸らした。

食堂を出ると雨は上がっていた。
「あーあ、何かあいつらのせいで嫌な気分になったから食べた気がしない」
下川さんがそう言う側で三鷹さんが切れそうになっているのをオーラで感じた。
「んー…………」
姫殿下は大きく伸びをされていた。
「姫殿下もあの雰囲気でお疲れですか?」
とおれはお尋ねした。
「いや、ただ雨上がりのいい匂いがするから深呼吸してみたんだ」
「雨上がりの匂い……でございますか?」
木田さんの言っていたことを思い出して、おれも思いきり息を吸い込んでみた。
すると確かに鮮烈でなぜか胸がどきどきするような匂いがした。
「本当だ。森の中にいるみたいですね」
下川さんがおれたちの姿を見て目を細めた。
「ねえ、美術室に帰ったらみんなで散歩しようか。林の中を通って葉っぱから落ちる雫を浴びるの。どう?」25
「賛成! 私は第2グラウンドの芝の上を裸足で歩きたいな」
「藤村、こういうときに池の側に行くとカエルがいっぱいいるんだ。それから百葉箱の下でいつも雨宿りする猫が……」
自分たちの学校の美しさを自然に口に出せる彼女たちを見ていると、
学校の中に居場所がなかったのはおれにそれを見つける目がなかっただけなのかもしれないと思えてきた。
426水先案名無い人:04/11/23 09:49:12 ID:nM56y3Y/
OVA化キボンヌ。
427水先案名無い人:04/11/23 09:50:43 ID:nM56y3Y/
翌日、守衛室待機を命じられていたおれは新聞を読むともなく眺めていた。
1面には「糸己宮さま、ハシジロキツツキを観察 営巣行動の撮影、世界初――キューバ」という見出しが躍っている。
密林を写した写真には「ハシジロキツツキにカメラを向ける糸己宮さま(右から2つ目の茂み)」というキャプションが付けられていた。
おれはその写真をためつすがめつ、裏返したり日光に透かしたりダブルクリックしたりしてみたが糸己宮様のお姿を発見することはできなかった。
「藤村!」
突然姫殿下のお声が聞こえた。
顔を上げると、たすきをお召しになった姫殿下が守衛室の窓口からお顔を覗かせておられた。
「藤村、演劇部に行くぞ!」
「はい!」
おれは新聞を放り出して守衛室から飛び出した。

演劇部室は旧校舎3階の薄暗い廊下を行った突き当たりにあった。
「失礼します」
ノックしてドアを空けると、意外にも室内はまばゆい光に満ちていた。
部屋の中央ではミニチュアの家があり、その前で1人の生徒がうずくまっている。
「あの……わたくしこの度生徒会長に立候補いたしました……」
姫殿下が自己紹介を始められると、その生徒は振り向いてしょぼしょぼした目をこちらに向けた。
「ああ、あなたがマコさんね。吹奏楽部の人から話はきいたわ。私、演劇部のラストサムライ、2年の上杉です」
そう言って上杉さんは姫殿下と握手した。
おれは自己紹介ついでに地べたに置かれた謎の平屋ドールハウスについて尋ねてみた。
「ああ、これ? これはクレイアニメ用のセット」上杉さんは粘土の人形を手に取った。
「なんせ部員が私1人しかいないものだから……」
いきなり辛気臭い話を聞かされてしまった。
「これを少しずつ動かして撮影するんですね」
姫殿下は興味深そうに犬の人形を見つめておられた。
「そう。今『遊星からの物体X』を撮ってるんだけど、なぜかコミカルになっちゃうのよね。何でだろ?」
それはクレイアニメだからではないですかと言おうかと思ったが、空気が余計湿っぽくなりそうなのでやめておくことにした。
428水先案名無い人:04/11/23 09:52:15 ID:nM56y3Y/
「それで……衣装だよね。こっちの部屋へどうぞ」上杉さんが人形を置いて、“準備室”という札のついたドアを開けた。
「昔はいろいろ賞取ったりして力があったから小道具とか衣装とかはたくさんあるのよ」
一歩その部屋に足を踏み入れると、こもった臭いが鼻をついた。
「うわあ、すごい」
五月みどりの衣装部屋さながらの光景に姫殿下がお声を上げられた。
ハンガーにかけられた衣装がびっしりと壁を覆っていて、歩くスペースもないほどだ。
「すごーい! ほら藤村、お姫様だお姫様」
姫殿下はピンクのドレスをお体に当てておられた。
(む、衣装をお召しになって街頭演説をされるおつもりか……)
おれはすばやく周囲に目を走らせ、猫耳メイド服、ミニスカサンタ、地球連邦軍機動歩兵装備などを発見していた。
(まずい……姫殿下があのような下賎な姿に身をやつされることなど想像するだにあさましい。
ここはこのドレスで手を打っていただくしか……)
「なかなかお似合いで」
「うわあ、何ですかこれは?」
姫殿下はすでに部屋の奥へと進まれていた。
「ちょっと出してみようか」
上杉さんが衣装の中に上体を突っ込んで、巨大な黒い物体を引きずり出した。
「うわあ、藤村、クマだクマ」
「クマ!?」
姿を現したのは体長2mはあろうかというハイイログマだった。
「これは20年くらい前にうちの部が『なめとこ山の熊』で使った着ぐるみよ。すごいでしょう」
「クマ……」
姫殿下は上杉さんの説明などお耳に入らぬご様子でクマをうっとりと眺めておられた。
(まずい……猫耳ならともかく全身獣になられるのはいかにもあさましい。せめてこれだけはやめていただかなくては……)
「あのー、姫殿下、せめてお顔はお隠しにならぬ方が」
「藤村、ちょっと着てみないか」
姫殿下がニヤニヤしながらおっしゃった。
(おれかよ…………)
429水先案名無い人:04/11/23 09:53:47 ID:nM56y3Y/
   ∩___∩  ・・・             
   | ノ  u   ヽ               
  /  ●   ● |               
  | u  ( _●_) ミ             
 彡、   |∪|  、ミ       ホヒー・・・クマー       
/ __  ヽノ  _\    ○_○   
(___)___(__)___(´(エ)`)_  
_ _ _ _ _ _ _ U ̄U_ |    
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |  
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |    
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |   
430水先案名無い人:04/11/23 09:55:18 ID:nM56y3Y/
ワラタ
431水先案名無い人:04/11/23 09:56:48 ID:nM56y3Y/
念のためほしゅ
432水先案名無い人:04/11/23 09:58:20 ID:nM56y3Y/
http://academy3.2ch.net/test/read.cgi/history/1093526288/l50
眞子さまの名前があがってるぞ。
433水先案名無い人:04/11/23 09:59:51 ID:nM56y3Y/
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから入ってみないか」
姫殿下が熱っぽい調子でおっしゃった。
(むう、どうしたものか……?)
過去を振り返ると「入らないか」と言われて入ったものは写真同好会、中野のキャバクラ、ホモの先輩の家などろくなものがなかった。
それにおれは『火の鳥 ヤマト編』を読んで以来、閉暗所恐怖症だ。
「ほら、頭を外してから背中のファスナーを開けて着るんですよ」
上杉さんが一方的にレクチャーを始めた。
仕方なくおれは興味があるふりをしてクマの内部を覗きこんだ。
そのとき、まるでナッパ様が「クン」とやった指が直で鼻に突き刺さったような痛みが走った。
「うわあっ、は、鼻が……!?」
「これは着ぐるみに染み付いた先人たちの血と汗と胃液が発酵してこのようなイヴォンヌの香りを……」
「だめだだめだこれはだめだ!」
おれは鼻を押さえながら飛び退った。
「そうか……だめか……」
姫殿下が残念そうなお顔でおっしゃった。
おれの目には涙がにじんでいたが、姫殿下のお手がクマの頭をなでなでされるのを見逃さなかった。
(むっ、なでなで? ということは……)
姫殿下、クマをなでなで

クマの中の人=おれ

姫殿下、おれをなでなで

(゚д゚)クマー
「藤村、入ります!」
おれは靴を脱ぎ捨て、着ぐるみに足を突っ込んだ。
おれが入らなければどこのクマの骨もとい馬の骨とも知れぬ輩が姫殿下のご寵愛を賜ることになってしまうかもしれないのだ。
「おお、やってくれるか!」
姫殿下は破顔一笑された。
434水先案名無い人:04/11/23 10:01:22 ID:nM56y3Y/
「はい、じゃあこれ被って」
上杉さんがクマの頭部をおれに手渡した。
ボディから漂ってくる臭気ですでに小鼻がもげそうだった。
(だが口で呼吸をすれば耐えられないことはないはず……)
「あ、口の部分はふさがってるので鼻で呼吸してくださいね」
「まじっすか!?}
上杉さんの言葉に思わずクマの頭を取り落としそうになった。
そのまま放り出して帰りたくなったが、姫殿下が期待をこめておれの方をご覧になっている。
(うう…………コンボイ司令官! おれに力を貸してください!)
おれは一息にクマの頭を装着した。
「ヘッドオンッ!!」
おれの視界が一瞬にして狭くなった。
「ぐああああ、暗い! 狭い! 臭いッ!」
「上杉さん! クマが唸ってます!」
姫殿下が心配そうに上杉さんの方を振り向いておっしゃった。
「ああ、これ被っちゃうと中の人の言葉はよく聞こえないのよね」
(そんな……じゃあおれは本当の獣になってしまったのか……)
「藤村、こちらの言葉は聞こえるか?」
姫殿下のお尋ねにおれは大きく頷いた。
すると姫殿下はおれの頭をぎゅっと抱きしめられた。
「おお、かわいいのう、おまえは」
(むむむ、これは……)
「ぽこたん、ぽこたん。お前は今日からぽこたんだ。ねえー、ぽこたん」
(ぽ、ぽこたん……)
早速ホーリーネームを頂戴してしまった。
「ぽこたん、いい子だ、よしよし。ふわふわだなあ、お前は」
姫殿下がおれの顔に頬擦りをされている。
(イ、インしてよかったお!)
こんな素晴らしいボディコンタクトを頂戴する私は、きっと特別な存在なのだと感じました。
435水先案名無い人:04/11/23 10:02:54 ID:nM56y3Y/
禿藁!
436水先案名無い人:04/11/23 10:05:56 ID:nM56y3Y/
やっべハゲワロタ
437水先案名無い人:04/11/23 10:07:26 ID:nM56y3Y/
これどっかにまとめサイトでも作って著作権主張しとかないと、
バカが同人とかで出しそうだな。
438水先案名無い人:04/11/23 10:08:57 ID:nM56y3Y/
ネタ具現化委員会に提出した者勝ち
439水先案名無い人:04/11/23 10:10:28 ID:nM56y3Y/
ぽこたんむっちゃワロタ
440水先案名無い人:04/11/23 10:11:58 ID:nM56y3Y/
デヴ問題と混ぜちゃダメ!
有毒ガスになるぞ
441水先案名無い人:04/11/23 10:13:29 ID:nM56y3Y/
「おいで、ぽこたん。手の鳴る方へ」
姫殿下のお誘いに従って、クマのおれは準備室を出て演劇部室に戻った。
口がふさがっているせいで少し動いただけで息が切れる。
おまけに鼻の粘膜がやられたのか鼻水が止まらない。
(くそっ、『アビス』の潜水服の方がまだましだぜ)
おれが動かずに呼吸を整えていると、姫殿下がおれの目を覗きこんでおっしゃった。
「ぽこたん、ちょっと掌を見せておくれ」
おれは右手の珍味を差し出した。
姫殿下はそれをぎゅっと握り締めあそばされた。
「おお、肉球……大きいなあ、ぷよぷよだなあ」
特大肉球を突ついておられる姫殿下をおれはクマの中から生暖かく見守っていた。
…………5分後、姫殿下はまだおれの手をお放しにならなかった。
クマの中のおれの体勢は前傾気味なので、床についた左手に強い負荷がかかっている。
(そろそろ手を離してくださらないだろうか……)
だが姫殿下は肉球占いに夢中になっておられた。
「王様、姫様、外人力士、王様、姫様…………」
(待っていてはだめだ。はっきりとおれの意思をお伝えしなくては……)
おれは右手を動かそうとした。
しかし姫殿下が思いの外がっちりとホールドされているので動かせない。
だからといって乱暴に振り払うわけにもいかない。
そこで空いた左手で床を光速タップすることにした。
体重が乗っている左手を屈して上体を沈めてから思いきり跳ねる!
「ああっ、ぽこたんは姫様だ! あはは」
姫殿下が急に右手を引っ張られたのでおれはバランスを崩し、顔面で着地してしまった。
(おっぱァアアーっ)
おれは痛みにのたうち回った。
「あっ! この動きは何を意味しているんですか?」
姫殿下が上杉さんにお尋ねになった。
「甘えてるんじゃない?」
勝手に裁判の原告にされてしまった動物たちの気持ちが少しわかったような気がした。
442水先案名無い人:04/11/23 10:16:32 ID:nM56y3Y/
歴戦の勇者にふりかかる最大の試練。
毎回手に汗しつつ拝読しております。
がんばれぽこたん!(・∀・)!
443水先案名無い人:04/11/23 10:18:04 ID:nM56y3Y/
          , -''''~"''''-,,,,,_
         /__┐     <:、
       /::/ ,ィ ̄"''-.へ/,rヽ     ←姫様
.       /::// /,∠{. } ト、ヽ"ヽ.ヽ    ↓藤村
     /::イレ ,イ7ニ{i |l十ト、ヽ ヽヽ 
     /::::i {/ 代:ケ.ヤ }ハノ.ヤ、',ヽ',ヽ   _
    /:::::::l  ! ~"'' ,ヤ 'i::ケ、}/__l_l,!,,,,rノノ >、_ヽヽ
   /::/::..::|  l、   r- 、 ~"'/     ヽニ‐-、ヽ) )
  ノ::/::.::::,r-:、|:ヽ Lノ  ,イ       ヽ.  } iノ
/:::/.:::/"  ヽ. >、_,,. ィ"●    ●   ヽク
:::/:://     ヽ、/:::::/ :/▼ ヽ.      i  クマー
/::{:/∧  へ    ヽ.::{、 '、人 ノ     ,/\ 
::::://::::',   ヽ.    ヽ \ ,.-ェ''_,, o,,,,;;;;;;;o  :、
../ l::::::::::::::...... ::\    \ノ   --='/::Д:::::::::::::::ヽ.
444水先案名無い人:04/11/23 10:19:34 ID:nM56y3Y/
誰だよそれ。
445水先案名無い人:04/11/23 10:21:05 ID:nM56y3Y/
建物から一歩外に出ると確実に体感温度が上昇した。
「クマでーす!」
おれの目の前で姫殿下が叫ばれた。
すると歩いていた何人かの生徒が足を止めてこちらに向かってきた。
「あの、これ……クマ?」
「クマです!」
姫殿下は自信たっぷりにお答えになった。
「触ってもいい?」
「クマですから触ってください!」
こうおっしゃったので生徒たちは恐る恐るおれの毛皮に手を触れた。
「クマ……ふわふわ」
最初のうちは遠慮がちに撫でていた生徒たちも次第にハードペッティングへと移行していった。
(うぅ……何でおれがこんな特殊なプレイをしなきゃならないんだ……)
1人の生徒が喉もとをくすぐり始めたのでおれは顔を上げた。
すると列になってランニングをする運動部員の姿が見えた。
運動部員たちはおれの姿を認めると足を緩め、やがて立ち止まり何やら相談し始めた。
見ていると代表らしき生徒がこちらに歩いてきた。
(あ、あれはソフトボール部の病院坂ククリさん!)
「マコさん……」ククリさんが小さな声で姫殿下に申し上げた。
「あの……このクマは……?」
「わたしのクマです!」
姫殿下はきっぱりとおっしゃった。
「そう……ちょっと触ってみてもいい?」
「わたしのクマですからどうぞ!」
姫殿下のお許しを頂戴したククリさんはおずおずと手を伸ばした。
「クマかあ……」
「クマです!」
「クマ……」
「よかったらソフトボール部の皆さんもどうぞ!」
うれしいことおっしゃってくれるじゃないの、とおれは吐き捨てるように呟いた。
446水先案名無い人:04/11/23 10:22:37 ID:nM56y3Y/
おれは数十人の生徒に入れ代わり立ち代わりまさぐられ続けた。
その間にも人数はどんどん増えていった。
「部長! クマです!」
またマドハンドの仲間を呼ぶ声が聞こえた。
(今の声……どこかで聞いたことが……)
「はい、ごめんよ〜、ごめんよ〜」
群がる生徒たちを掻き分けて下川さんが姿を現した。
(ま、まずい…………)
「ほら、本当にいたでしょ、クマ」
下川さんの後ろから小柄な平沢さんがぴょんと踊り出た。
さらには美術部の他の3人もいる。
「へえ、クマか……」
残忍な笑みを浮かべた下川さんが音もなくおれに近づき、誰にも見えない角度からおれの脇腹に膝蹴りを入れた。
(ぐはっ!)
おれは痛みにのたうち回った。
「あっ、甘えてる!」
姫殿下が叫ばれた。
「マコちゃん、この中に入ってるのは誰?」
松川さんがお尋ね申し上げた。
「藤村です」
「へえ、どうりで姿が見えないと思った」
「ごめん……まさか藤村さんがそんなみじめで暗くてさびしいクマの中にいるとは思わなかったから……
あたし浮かれちゃって……」
下川さんが手で口を覆うようにして言った。
(嘘だ! 絶対嘘だ!)
「藤村さん、クマ系ですね……」
キャノンさんがぽつりと呟いた。
(系をつけるな! 専門用語だ!)
おれはもう限界だと思った。
447水先案名無い人:04/11/23 10:24:08 ID:nM56y3Y/
まさかここで『奪!童貞。』ネタにお目にかかれるとはw。
448水先案名無い人:04/11/23 10:25:39 ID:nM56y3Y/
最近2ちゃんねるネタが多いな
449水先案名無い人:04/11/23 10:27:09 ID:nM56y3Y/
中国板・できちゃってるカップル

右翼海老=中原小麦
大和侍=猫おうえる
シナ人留学生=麦
中国民=秋篠宮眞子内親王
◆r7Y88Tobf2=曲

本物の眞子様が見れるのは中国板だけ!
http://academy3.2ch.net/test/read.cgi/china/1094591968/l50#tag514
450水先案名無い人:04/11/23 10:28:41 ID:nM56y3Y/
それでも(おっぱァアアーっ)とかの2ちゃん以外のネタもある。
(左右は2部好き?)
451水先案名無い人:04/11/23 10:30:12 ID:nM56y3Y/
「ねえ、マコちゃん」下川さんが姫殿下のお側に寄っていった。
「私クマの背中に乗ってみたいんだけど……大丈夫かな?」
「大丈夫です、クマですから!」
姫殿下がそうお答えになると、下川さんはおれの顔を見てにたりと笑った。
(まずい……バックを取られたら防御のしようがない。頭を抱え込んで、格闘技でいう“亀”の状態になるしかなくなる)
“亀”になることの危険性はプロレスラー永田さんがその著書『こねこ』(民明文庫)の中で自らの経験として語っている。
「逃げろ」とおれのゴーストが囁いた。
おれは生徒たちの囲みを突破し、後脚で駆け出した。
「あっ、逃げやがった!」
「追え!」
「誰か、誰かぽこたんを捕まえておくれ!」
背後から生徒たちの大騒ぎが聞こえたが、おれは振り返らずに走り続けた。
(誰かに背中のファスナーを開けてもらわなくては……木田さんのところへ行くか? だめだ……並木道を行くのは目立ちすぎる。
そうだ、上杉さんだ! 校舎の中を通って演劇部室まで戻ればいい。これなら追っ手をまける)
おれが狭い視界の中、校舎への入り口を探していると、追いかけてきた生徒たちの怒号が聞こえてきた。
「逃がすな!」
「目を狙え!」
「ぽこたん、どうして逃げるの、ぽこたん?」
おれはとっさに旧校舎と新校舎をつなぐ廊下の窓に飛びこもうとした。
そのとき首のあたりに強烈なタックルを食らった。
「クマクマクマーッ!」
地面に叩きつけられたおれの体の上で聞き覚えのある声がした。
「あっ、カコ! どうしてここに!?」
「だって中等科にクマが出たって聞いたから……」
「ナイスタックルよ、カコさん!」
たちまちのうちに取り囲まれたおれは無数の手の中で激しく揉みしだかれた。
「ははは……見ろ! クマがごみのようだ!」
恐怖に対する防衛措置として生み出されたおれの中の2人目の人格が笑った。
「君も男なら聞き分けたまえ」
3人目の人格がおれに囁いた。
452水先案名無い人:04/11/23 10:31:44 ID:nM56y3Y/
「臭い」
「いや部長、それは言い過ぎ……やっぱり臭ーい!」
「ははは」
美術部員たちがおれをおもちゃにして笑っている。
クマを脱いだおれの体には着ぐるみの悪臭が染み付いてしまっていた。
おれは美術室の奥に山と積まれた筆洗バケツを流しで洗いながらやり過ごそうとしていた。
「何かまだクマがこの部屋にいるみたいですね」
「現人熊……」
みんな好き勝手なことを言っている。
「でも藤村さん、あまり軽々しくクマになったりしない方がいいわよ」姫殿下のお隣に腰掛けられたカコ様がおっしゃった。
「アイヌのイオマンテでもクマはあくまで外部の存在だし。そこにアクセスしすぎると戻って来れなくなるかも」
「さんざん私の体をもてあそんでおいてそんなことをおっしゃらないでください」
おれがそう申し上げると、カコ様は「おお怖い」とおっしゃいながら謎の糸巻き運動とともに手をぽんぽんと叩かれた。
(む……今のは古事記にある“天の逆手”というやつか? 確か具体的な動作は文献にも記録されていないはずだが……)
おれが日本史の謎をひとつ解明していると、姫殿下がキャンバスの前で深々とため息をつかれた。
「ああ、ぽこたん……」そうおっしゃっておれの方を振り向かれた。
「藤村、いっそのことお屋敷付きのクマにならないか? ちゃんとかわいがるから」
「あ、それいい。学校にも連れて来てね」
「藤村さんのためにもその方がいいかもね。クマの中にいるときは臭くないから」
みんな他人事だと思って好き勝手なことを言っている。
おれはクマとして姫殿下にお仕えする自分の姿を想像してみた。
クマとして姫殿下のお側にいるときはいいが、家に帰り一人きりになったときに自分を保てる自信がなかった。
(絶対酒かギャンブルに溺れてしまうだろうな……)
「少し考えさせてください」
おれは筆洗バケツと雑巾を持ったまま頭を下げた。
「ねるねるねるねはイッヒッヒッヒ……」
カコ様がおれの横で謎の粉製品をかき混ぜておられた。
453水先案名無い人:04/11/23 10:33:16 ID:nM56y3Y/
現人熊てw
腹がよじれるほどワロタ。
454水先案名無い人:04/11/23 10:34:47 ID:nM56y3Y/
誰か同人化希望
455水先案名無い人:04/11/23 10:36:18 ID:nM56y3Y/
次の日になっても鼻水は止まらなかった。
昨日の服はクリーニングに出したが、まだ臭いが体に残っている気がする。
念のためおれは締め切った守衛室には入らず、外で掃き掃除をして1日を過ごした。
生徒たちの下校する時間になると木田さんが門の外に出て交通整理を始めたので、おれは守衛室に入った。
昼に買って結局飲まなかったカフェオレの缶を開けようとしたとき、窓口のガラスをとんとんと叩く音がした。
「藤村、わたしだ」
たすきをお召しになった姫殿下がひょっこりとお顔を覗かせられた。
「あれ、姫殿下、今日は東門でビラをお配りになるのでは……?」
おれが窓口を開けてそうお尋ねすると、姫殿下はうつむき加減でおっしゃった。
「それが……東門に行ったら安藤さんが先にそこでビラを配ってたんだ」
「そうでしたか……」
「だから今日はここで配ることにする」
「御意のままに」
おれは守衛室を出て姫殿下から少し離れたところに立った。
この時間、東門は大変混雑するが、それを嫌ってこの南門から下校する生徒も少なくない。
むしろ一人一人にビラを渡せるのでこちらの方が効果的かもしれない。
大きな声で呼びこみをされている姫殿下を拝見していると、たすきをかけた生徒が並木道を歩いて来るのが見えた。
(う、あの眼鏡は……)
「マコさ〜ん」
「あっ、安藤さん!?」
手を振りながら走って来る安藤さんの姿をみそなわされた姫殿下は硬直しあそばされた。
安藤さんは姫殿下のお側に来るとにっこりと笑った。
「ねえ、一緒にビラを配ってもいい?」
「ど、どうぞ……」
姫殿下が小さな声でおっしゃった。
(何で対立候補が並んで選挙活動しなきゃならないんだ……)
おいたわしいことにその後の姫殿下は安藤さんを意識して萎縮されておられた。
だが一番悲惨だったのはこの異様な状況の中2枚のビラを渡されてしきりに頭を下げる生徒たちだった。
456水先案名無い人:04/11/23 10:37:50 ID:nM56y3Y/
「ねえ、藤村さん。あなた護衛隊員なんだから格闘技とかできないの?」
新美さんがおれに尋ねた。
正直な話、格闘技は苦手だ。
訓練学校で柔道、剣道、逮捕術をやったがどれも並以下の成績だった。
だがここでそれをぶっちゃけてしまうのもためらわれる。
(とりあえず適当な名前の格闘技をでっち上げてお茶を濁そう……)
「えー、ふ、藤村式体術というのを(脳内で)主催しておりますが……」
「何それ? 強いの?」
新美さんが必死の形相で言った。
「えー、情報収集と待ち伏せを中心にした総合格闘技です」
「使えねぇッ!」
新美さんが叫んだ。
「あと、ストリート(通学路、廊下)で培った土下座のスピードには自信があります」
ここだけは真実だ。
「でも藤村は強いと護衛隊の皆が言っていたぞ」姫殿下が助け舟を出してくださった。
「なんでも訓練学校時代にはいろいろと奇策を用いて逆転勝利を収めたとか」
(まずい……)おれはかつて自分がやらかした卑劣な行為を思い出した。
(逮捕術の試合でバールのようなものを使って相手をぶん殴ったことか? それともひものようなものの件か……?)
「対戦相手の家族構成のようなものに妙に詳しくて怖かったと誰かが言っていたな」
姫殿下はおれの必勝パターンを完璧にご存知のようだ。
「最低……」
新美さんが吐き捨てるように言った。
「最低……」
安藤さんも言った。
この人にだけは言われたくない。
「まあネット社会の落とし穴とでもいいましょうか……現代が生んだ悲劇ですな」
と世相を斬って平成の落合信彦を気取りつつ(え? まだ生きてんの?)、おれは武器を仕込むために守衛室に戻った。
457水先案名無い人:04/11/23 10:39:21 ID:nM56y3Y/
木田さんに後のことを頼んでから、おれたちは並木道を歩き出した。
ソフトボール部の部室は第2グラウンドのすぐ脇にある小さなプレハブ小屋にある。
3人ともこれからそこで起こる出来事に不安を募らせていた。
「ねえ、もしかして私たちカツアゲとかされるんじゃないかな」
新美さんがうなだれたまま言った。
「カツアゲ……」姫殿下が息を呑んだ。
「どうしよう……今朝お小遣いを貰ったからその半分を持って来てしまった」
「いくら持ってるの、マコリン?」
「1000円……」
「私は虎の子の500円を……藤村さんは?」
新美さんが突然おれに話を振った。
「私ですか? 私は2万ほど……」
「2万!?}
新美さんと姫殿下が声を揃えた。
「いえ、あの……予約していた『三峰徹詩文集』が今日発売なもので帰りに買って帰ろうと……」
「ミミ……ネ? 聞いたことがないな」
「三峰先生はアンダーグラウンド・アート・シーンで活躍されているポストカード・アーティストでございます」
「ふーん、藤村は博識だな」
姫殿下が感心したお口ぶりでおっしゃった。
「じゃあ、藤村さん。もしカツアゲされそうになったらその2万円をばらまいて。その間に私たちは逃げるから」
「そんな……『3枚のお札』みたいに言わないでくださいよ。第一なんで私だけがそんなことを……」
うろたえて言ったおれの肩を新美さんがぽんと叩いた。
「大丈夫、私もブックオフの50円券を撒くから」
「じゃあわたしは千石先生ととったプリクラを……」
姫殿下が決死の覚悟を秘めたお顔つきでおっしゃった。
「で、では私は『サッカー日本リーグ』カードのエバートン(ハゲ)直筆サイン入りを……」
最終的に話はお宝自慢大会に行き着いた。
458水先案名無い人:04/11/23 10:40:54 ID:nM56y3Y/
数日前ガ板のどっかのスレで話題に上がってたけど三峰じゃなくて三峯
459水先案名無い人:04/11/23 10:42:24 ID:nM56y3Y/
『三峰徹詩文集』・・・禿しく( ゚д゚)ホスィ
460水先案名無い人:04/11/23 10:43:55 ID:nM56y3Y/
「し、失礼します」
新美さんがソフトボール部室のドアを恐る恐る開いた。
下駄箱のような臭いが鼻をつく。
明るい太陽の下を歩いてきたので室内の暗さになじむのに時間がかかった。
そこは10畳くらいの正方形の部屋で、窓とドア以外の壁は造り付けの棚で覆われている。
中央にパイプ椅子が3つずつ向かい合わせに並べられていて、その間に高さ50センチほどのテーブルがある。
バスケ部部長の獄門島さんは椅子にどっかりと腰を下ろし、両足をテーブルの上に乗せていた。
「座って」
獄門島さんが向かいの椅子をあごで指し示す。
姫殿下と新美さんはそれに従って腰を下ろした。
入り口付近に立ったおれは獄門島さんやその取り巻きと目を合わせないようにしながら室内を眺め渡した。
部員20人そこそこの部にしてはボールや備品がかなり豊富であるように見える。
近くの棚に置かれていたバットを手に取って重さを確かめていると、誰かがおれの肩を叩いて囁いた
「獄門島が呼んでる」
ソフトボール部の病院坂さんだった。
部屋の中央に目をやると、姫殿下と新美さんの間の席、つまり獄門島さんの真向かいの椅子が空いていた。
「あの……ひょっとしてそこは私の席でしょうか?」
おれが尋ねると獄門島さんは“当然”といった表情で頷いた。
仕方なくおれはバットを戻して指定席に着いた。
「あなた、名前は何だっけ?」
獄門島さんが馬鹿でかい足の裏を見せつけながら言った。
「あ、はい……ご、護衛隊のふ、ふひ、藤村です」
「自分の名前噛んでんじゃねえよ!」
「筑紫哲也か、お前は!」
たちまち周囲から罵声が飛んだ。
おれは落ち着いて答えたかったのだが、緊張やら恥ずかしいやらでもう舌が回らず
「フヒヒヒヒ! すいません!」
もろ変態みたいに言ってしまった。
誰かが「きもッ」と呟いた。
461水先案名無い人:04/11/23 10:45:26 ID:nM56y3Y/
獄門島さんと壁際に立った取り巻きたちがおれをねめつけている。
「あんたがマコさんに入れ知恵してんでしょ?」
獄門島さんが穏やかな口調でおれに尋ねた。
どうやらこの緊急集会はおれを糾弾するために開催されたもののようだ。
「い、いえ、別に入れ知恵というほどのことは……」
おれが小さな声で言うと、獄門島さんは足をテーブルに叩きつけて「どん」と大きな音を立てた。
「おい、護衛隊! 護衛隊の役割は何だ?」
「や、役割ですか……? そ、それは姫殿下をお守りする肉の壁となることで……」
また背後で誰かが「きもッ」と言った。
「あんたは護衛なんだから余計な口挟まずに黙って突っ立ってりゃいいんだよ!」
獄門島さんがどすの利いた声で言うと、姫殿下が勢いよくお立ちになった。
「藤村は……藤村はただの護衛ではありません! わたしを精神的に支えてくれています!」
「姫殿下……」
おれはご尊顔を振り仰いだ。
「それに有事の際にはクマにもなれますし……」
病院坂さんが「クマ……」という声を漏らすのが聞こえた。
獄門島さんはまったく動じた様子もなくおれを睨みつけていた。
「ほら、こんなこと言っちゃってるよ。あんたが空気読まないから悪いのよ。
ここ何年も生徒会長候補は一人だってこと、資料でも読めばわかることでしょう?」
(空気を読まない……)
その言葉で突然中学校のときの忌まわしい記憶がフラッシュバックした。
クラス対抗球技大会の最終試合、おれが上げたオフサイドフラッグのせいで優勝するはずだったチームがまさかの敗戦で2位になり、
その試合で勝ち点を拾ったチームがおれのクラスと入れ代わりで最下位を脱した。
試合の後、おれは2つのクラスの生徒に取り囲まれ、ボコボコにされた。
リンチの開始の合図となったのが「藤村、空気嫁!」という言葉だった。
「ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
頭の中に蘇った恐怖のために、おれは奇声を発した。
462水先案名無い人:04/11/23 10:46:59 ID:nM56y3Y/
何気にコピペネタが織り込んである所が(゚д゚)ウマー
463水先案名無い人:04/11/23 10:48:29 ID:nM56y3Y/
アレか、検尿のネタかw
464水先案名無い人:04/11/23 10:50:01 ID:nM56y3Y/
ここぞというときに入れてるからなぁ。コピペ
465水先案名無い人:04/11/23 10:51:31 ID:nM56y3Y/
一通りの異常行動をとると頭の中がスッキリした。
(おれの精神テンションはいま! 不登校時代にもどっているッ!
冷酷! 残忍! そのおれが貴様たちを倒すぜッ!)
おれはどんッとテーブルの上に手を置き、ポーカーで勝ったコインをさらっていくときのように力強く表面を拭った。
「ああ、ずいぶん汚れてますね」
「は!?」
獄門島さんが顔を歪めて言った。
「きっと部屋中ダニやゴキブリでいっぱいでしょう」
先の見えないおれの行動に部屋中の皆が呆気に取られている。
おれはひとつ大きく息を吸い込むと、かっと目を見開き叫んだ。
「ぜったいに許さんぞ虫ケラども! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」
おれは懐から赤い缶を取り出した。
「そ、それは……」
「ご存知ですか? 最近のは火を使わないんですよ」
おれはそう言いながら缶をテーブルの下に置き、金具を「ガツン」と引っ張った。
「ぷしゅ―――――――――」
白い煙がテーブルの下から噴き出した。
「うわあああ、こいつバルサン焚きやがった!!」
獄門島さんが椅子から転がり落ちた。
「何やってんだあ、藤村さん!」
新美さんが立ち上がって叫んだ。
「新美さん、姫殿下、鼻と口をお押さえください」
おれはそう言いながら逃げ惑う凶悪部員たちの姿を眺めていた。
白煙の噴出が止まった。
部屋の中に残っているのはおれたち3人だけだ。
「もう大丈夫です。終わりました」
そう言って姫殿下に目を向けるとハンケチでお口元を押さえながら肩を震わせておられた。
「マコリン、大丈夫?」
新美さんがお顔を覗きこむと、姫殿下は堰を切ったようにお笑いになった。
「うふふふふ、あははははは」
466水先案名無い人:04/11/23 10:53:03 ID:nM56y3Y/
「ど、どうしたの、マコリン?」
新美さんは姫殿下の肩を揺さぶった。
「大丈夫、大丈夫」姫殿下はそうおっしゃると、おれの方をご覧になった。
「藤村、獄門島さんたちは見事に引っかかったなあ」
「はい、うまく行きました」
「え……?」
新美さんだけが一人蚊帳の外だ。
おれはテーブルの下から先ほどの缶を取り出した。
「あっ、それただの缶……」
「はい、カフェオレの缶に守衛室で見つけた赤のビニールテープを巻いたものです。それから……」
おれは再びテーブルの下に手を伸ばして白い粉を吹いた物体を摘み上げた。
「あの白い煙の正体はこれです」
「ロージンバッグ……」
「はい、さっきそこの棚から拝借しました。カッターで切れ目を入れてあります。これを踏んで粉を撒き散らしました」
「はあ……」新美さんがため息をついた。
「マコリンは気付いてたの?」
その問いに姫殿下が頷かれた。
「藤村が口で“ぷしゅ――――――”って言ってるのが見えたから……」
「えっ!? あれ口で言ってたの?」
「はい。途切れたらばれると思って必死で肺から空気を搾り出しました」
おれがそう言うと姫殿下はにっこりと微笑まれた。
「藤村はいつも一生懸命だな」
その優しいお言葉に、せこい手口ばかり考えている自分を恥ずかしく思った。
「あの……そろそろ引き上げましょうか」
「うん、そうしよう」
獄門島さんたちに見つからないよう、窓から逃げることにした。
「あ、ちょっと待って」
窓枠に一度足をかけた新美さんが戻って、ホワイトボードに「藤村式タイ術さくれつ! GOHDA流敗れたり!」と大書きした。
見なかったことにして、おれは窓枠を飛び越えた。
467水先案名無い人:04/11/23 10:54:34 ID:nM56y3Y/
左右age
468水先案名無い人:04/11/23 10:56:05 ID:nM56y3Y/
姫殿下は窓の外で待っていて下さった。
おれは姫殿下のスカートに白い粉がついているのを見つけた。
「申し訳ございません。お召し物に汚れが……」
そう申し上げると姫殿下はそこではじめてお気づきになったようで、裾を摘み上げられた。
「大丈夫、すぐ落ちる」
そうおっしゃいながらぽんぽんとスカートをはたかれた。
「それより藤村、ビラ配りが途中だったな。急いで戻ればまだ人がいるかもしれない。走ろう」
「はい」
姫殿下はおれのお答えを聞いてまたにっこりとうち笑まれた。
「リサリンも一緒に走ろう!」
「え……?」
新美さんは窓枠から身を乗り出したところだった。
次の瞬間、姫殿下は跳ねるように駆け出された。
おれは慌てて後を追った。
「マコリン、ちょっと待って……ぐわあっ」
背後でどさっと重いものが落ちる音がしたが、おれは振り返らず走り続けた。
姫殿下の走りは軽やかで、おれがいくら強く地面を蹴っても追いつけない。
トラックを走っている陸上部員を次々に抜き去って行かれる。
「マコちゃーん、選挙が終わったら陸上部に来てね!」
部長の青沼さんが手を振った。
姫殿下は大きくお手を振り返された。
そのお姿を拝見して、おれは先ほどのお言葉を思い出していた。
「藤村はいつも一生懸命だな」
違うんです、姫殿下。
いつも一生懸命なのは姫殿下の方です。
私はただ姫殿下の後を追っているだけなんです。
全部姫殿下が教えてくださったことなんです。

「新美、走りこみが足りないぞ!」
陸上部員たちの笑い声がグラウンドに響いていた。
469水先案名無い人:04/11/23 10:57:37 ID:nM56y3Y/
(゚ω゚) ニャンポコー
470水先案名無い人:04/11/23 10:59:07 ID:nM56y3Y/
週が開けて月曜日の朝、いつもどおりおれはお車の側で姫殿下のお出ましをお待ち申し上げていた。
(「なにかとれ」>「ふく」、か…………)
お屋敷の方から姫殿下がいらっしゃったので、おれは安めぐみについての妄想を中止してご挨拶申し上げた。
「おはようございます、姫殿下」
「……おはよう」
(あれ? お声にいつもの元気がない……)
姫殿下は全体的にややお疲れのご様子だった。
おれがお車のドアを開けると姫殿下は
「ちょっと待っておくれ。今カコがビラをプリントアウトしているところだから」
とおっしゃった。1
カコ様をお待ち申し上げている間におれは今日の放課後行われる討論会についてお尋ね申し上げた。
そのお答えを伺うとどうやらそこにご不快の原因があるらしかった。
「自分の演説はいいが、討論となると…………
何しろ安藤さんの具体的な政策目標がまったくわからないからなあ。金曜日のビラにも書いてなかったし」
「そうですね。獄門島さんの口ぶりから彼女たち運動部員が擁立した候補であることは間違いないと思いますが……
カコ様とはご相談されましたか?」
「うん。でもあの子は“学園内でのアイスの自給自足”とか変なことばかり言っていた」
アイスの自給自足……それがなされれば氷を配給して兵の士気を高めたというアレキサンダー大王以来の快挙だ。
そこへ大きな茶封筒を持ったカコ様が駆けていらっしゃった。
「お姉様、ようやくビラができました」
「うん、ありがとう」
カコ様は姫殿下に茶封筒を手渡されると、ぴゅーっとお車の方へ駆けて行かれた。
471水先案名無い人:04/11/23 11:00:39 ID:nM56y3Y/
「姫殿下、ビラを見せていただけませんか?」
お屋敷から出て公道を走り出したお車の中でおれは姫殿下にお伺いし申し上げた。
「うん、なかなかの力作だぞ」
姫殿下から拝領した封筒を押し戴きつつ開き、中の紙を取り出した。
「こ、これはッ…………!」
おれの目はそのB5サイズの紙の上に釘付けになった。
姫殿下のお名前とキャッチコピー「和を以って尊しと為しませんか?」がゴシック体で書かれている。
これにも言いたいことはあるが今は措く。
問題は姫殿下の御真影に口ヒゲと長い顎ヒゲが付けられていることである。
(ヒゲ!? 何なんだこれは……笑っていいのか?)
肩を震わせながらおれは頭をフル回転させた。
(待てよ、このヒゲには見覚えが……そうだ、「和を以って尊しと為す」聖徳太子だ!
でもなぜ姫殿下がヒゲを……いや、これをド平民の常識で考えてはいけない。
恐らくお身内だけの独特の聖徳太子観をお持ちなのだ! 笑うのはまずい!)
「いやあ、ご立派なヒ……いや字体でございますなあ」
おれは声の震えるのを必死で押さえながら申し上げた。
「そうだろう、カコもなかなか…………あっ、何だこれは!?」ビラを覗きこまれた姫殿下が叫ばれた。
「このヒゲは何だ!? 昨日はこんなものなかったのに……」
そうおっしゃると姫殿下は突然はっとした表情をなさって車のドアに飛びついた。
「帰る! 帰ってあの子にやり直させる!」
「姫殿下、お止めください! 走行中です!」おれはドアのロックを外そうとする姫殿下を必死で押さえた。
「それにカコ様もきっともうご登校されています!」
「ううぅぅぅ…………」
姫殿下は遺跡捏造がばれた後の記者会見のようにがっくりとうなだれあそばされた。
「こうして拝見いたしますと姫殿下はお父上によく似ておられますな」
おれが何とかフォローしようと明るい声で申し上げたが何のご返事もなかった。
ただ一言「学校、休みたい」と呟かれたきりだった。
472水先案名無い人:04/11/23 11:02:10 ID:nM56y3Y/
左右age
473水先案名無い人:04/11/23 11:03:41 ID:nM56y3Y/
保守
474水先案名無い人:04/11/23 11:05:12 ID:nM56y3Y/
放課後の大掲示板前は討論会に参加しようと集まった生徒たちで溢れていた。
旧校舎と新校舎をつなぐ空中通路も立錐の余地がないほど人で埋まっている。
帰り際にちょっと寄ってみたという感じで鞄を持ったままの生徒が多い。
「選管」の腕章を付けた生徒がせわしなく会場を駆けまわっている。
おれは人の波を掻き分けて歩き回り、特設ステージ脇で美術部員たちとご清談中の姫殿下のお姿を認めた。
「おお、藤村」姫殿下はおれにお気づきになると、お手にされていたビラをおれにくださった。
「ほら、三鷹さんがスキャンしてレタッチしてくださったんだ」
そのビラを拝見すると、確かにヒゲがきれいになくなっていた。
「これは見事なお仕事ですな」
おれは賛嘆の声を上げた。
「よく見たらちょっと残ってるんだけどね。まあそれは剃り残しってことで……冗談よ、マコちゃん。そんな怖い顔しないで」
おれはその場に一瞬だけ漂った険悪なムードに気付かないふりをして空中通路を見上げた。
前列の生徒たちは柵に寄りかかって討論会が始まるのを待っている。
ふと、旧校舎寄りの地点に一人だけ背の低い生徒が柵にぶら下がるようにして立っているのを見つけた。
片手にデジカメを持ち、もう片方の手に握った太巻きをしきりにかじっている。
「姫殿下、あそこにおられるのはカコ様では……」
おれがご注進し申し上げると姫殿下はお顔を上げた。
「あっ、カコ! よくも、よくもヒゲを書いたな……」
姫殿下の怒気を含んだお声に、カコ様はぴゅーっと走ってお逃げになった。
「待てっ!」
姫殿下は走って追いかけて行かれた。
「でも……あのヒゲ結構似合ってわよね」
松川さんがぽつりと呟いた。
「そうですね。あれを見た後では普通の写真だとなんだか物足りなく見えます」
平沢さんの言葉でおれは人間キャンバス・正岡子規を思い出した。
「私もそう思いましてこんなものを書き込んでみました……」
そう言ってキャノンさんがポケットから折りたたまれたビラを取り出した。
そこに印刷された御真影のお鼻の下には黒のマジックで描かれたヒゲがあった。
「マリオです……」
おれは昏倒しそうになった。
475水先案名無い人:04/11/23 11:06:44 ID:nM56y3Y/
「わははははは」
「マリオのヒゲがマコちゃんに!」
美術部員たちが笑い転げている。
「さらに……」キャノンさんがマジックを取り出してそのビラに手を加えた。
「ほら、あっという間に関羽雲長……」
「がははははあ」
「あははは、ひどい! 面影がない!」
(もう勘弁してくれ……)
おれは不敬の洪水に身も心も押し流されそうだった。
突然、高らかな笑い声があたりに響いた。
「あらあら皆さん、ずいぶん楽しそうね」
そんな悪役丸出しの台詞とともに安藤さんが姿を現わした。
後ろに子分らしきぽっちゃりとした生徒を従えている。
「あ、そうだ。紹介します。私の応援演説をしてくれる清見川桐子さんです」
安藤さんの言葉を受けてその生徒は進み出て、ぺこりと頭を下げた。
「あ……はじめまして。安藤さんと同じクラスの清見川です。みんなからはキキって呼ばれてます」
(キキ? 宅急便の? パーヤン運送の間違いだろ?)
キキさんは美術部のメンバーに見つめられるのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしていた。
「あの……私、安藤さんとは初等科の……頃からずっと友達で……
あの……私、人前で話すのは得意……ではないんですけれど……」
言葉を切るタイミングが独特で、聞いていて息が詰まるようだった。
(変な喋り方だな。しゃっくりでもしてるのか?)
なぜかキキさんの後ろに立っている安藤さんも顔を真っ赤にしていた。
だがそれは恥ずかしいというよりも弛緩したような表情だった。
不審に思い視線を落とすと、安藤さんの右手がキキさんの太ももをスカートの上から何度もつねっていた。
「あの……今回マコさんが立候補……されると……うッ……い、いうことで……」
(プレイの真っ最中かよ……)
美術部員たちは初めて目の当たりにする変態に気圧された様子で立ち尽くしていた。
安藤さんはキキさんの反応を見ながら(*゚∀゚)=3 ムッハー と大きく息を吐いた。
476水先案名無い人:04/11/23 11:08:16 ID:nM56y3Y/
>「姫殿下、ビラを見せていただけませんか?」

(;´Д`)ハァハァ…
477水先案名無い人:04/11/23 11:09:47 ID:nM56y3Y/
安藤さんとキキさんはとろんとした顔のまま立ち去った。
「部長、何だったんですか、今のは?」
「わかんないけど関わらない方がいいと思う……」
美術部員たちは狐につままれたような顔をしていた。
そこへ姫殿下が戻っていらっしゃった。
「藤村、今安藤さんが来ていただろう?」
姫殿下がお尋ねになった。
「はい」
「さっきすれ違ったんだが、なんだかふらふらしていたな。どうしたんだろう?」
「さて…………何かの風土病でしょう」
おれが口篭もりながらごまかしていると、姫殿下の後ろからカコ様がお顔をお出しになり、にやりと笑われた。
「あっ、カコ様」
「そうだそうだ、さっきようやく捕まえたんだ」姫殿下が背後にお手をお回しになり、カコ様を引きずり出された。
「まったくこの子は…………どうしてあんないたずらをしたのだ?」
姫殿下が問いただされると、カコ様は少しお首をすくめあそばされた。
「ごめんなさい、お姉様……なんとなく伝説を作りたくなったの」
(このお年で早くもそのような目標を……伝説だらけのご一族にお生まれになっただけのことはある)
姫殿下はまだお怒りの冷めやらぬご様子だったが、カコ様はカメラを構えた生徒たちの前でムーンウォークを披露しておられた。
「これ、人の話をちゃんと……」
姫殿下がそうおっしゃりかけたとき、選管の腕章をした生徒が駆け寄ってきた。
「マコさん、そろそろスタンバイをお願いします」
「はい!」
姫殿下が表情を引き締められた。
「じゃあマコちゃん、私たちは観客席から応援するわ」
美術部員たちが引き上げていった。
「藤村」ステージに上りかけた姫殿下が振り向いておっしゃった。
「そなたはここにいてくれ」
「かしこまりました」
おれはお側近くに置いていただける感謝の気持ちをこめて頭を下げた
478水先案名無い人:04/11/23 11:11:20 ID:nM56y3Y/
選管委員長による開会の辞がが終わるとすぐに姫殿下の基調演説が始まった。
演壇についた姫殿下は静まりかえった聴衆を見渡しながらゆっくりとお話になった。
「……わたくしはこのような部活動のあり方に疑問を持っています。
現在、部活動への参加方法は、ひとつの部に入部しそれだけをやり続けるという選択肢しかありません。
ですが、本来部活動には個人の持つ興味、関心、目標に応じた様々な参加の形があるはずです。
わたくしは部活動をより自由なものにしていきたいと考えています。
それによってより多くの人と出会い、学校生活を豊かなものに……」
「ふう、やれやれ」いつのまにかおれの横に立っていた安藤さんがため息とともに言った。
「仲良しクラブを作りたいってわけか……」
その言い方にとげがあったのでおれは少しむかっときた。
「あなただって仲良しクラブを作っているじゃないですか。バスケ部やらバレー部やらソフトボール部やらと」
おれがそう言うと安藤さんは鼻で笑った。
「まあ…………この8年間の生徒会長はそうだったわね」
おれは以前カコ様がお作りになった資料を思い出した。
確かにこの8年間実質的に生徒会長選は行われておらず、そのようなもたれ合いが背景にあることは推測できた。
だが安藤さんの言葉には何か引っかかるものがあった。
「あの……“そうだった”ってことは安藤さんは今までとは違うんですか?」
「そう。私はその慣習を消滅させる!」安藤さんは力強く言った。
「実はこういう運動部との関係を作ったのは私の姉なの」
「え……!?」
突然の告白におれは思わず声を上げた。
「姉はちょっとインパクトのある演説をしただけで簡単に当選してしまうような生徒会選挙に変革をもたらしたかった。
それで思いついたのが運動部の組織票によって確実に当選するという方法なの。
あちらの要求した予算を通すことを見返りとすることでね」
「なるほど……」
そう言われてみると至極まともなやり方に思えてきた。
「でもそれももう終わりよ。甘えた奴らに天誅を下すわ。
旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火よ。ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているけどね」
どこかで聞いたような説明だが、おれは安藤さんの発する毒電波にただ圧倒されるばかりだった。
479水先案名無い人:04/11/23 11:12:51 ID:nM56y3Y/
左右乙。
俺は読んでないけどw
480水先案名無い人:04/11/23 11:14:22 ID:nM56y3Y/
      /´  〃三=、      \三二 ヽ
    /    l|    \\ 、、`Y 二ミ ヽ
う  ./      i|  ̄``ヽ、 \ヽ }} jj ! ー ヽ ',
る  l    / |l|、二._  \ヽl j〃ノ  二ミ、ハ
さ  | i i|i  i i|三二= 二.__ヽY∠ 彡 Z彡ハ^ヽ
い  | l 川 { l l_l」=ニ三二ン´_,Y⌒ヾ三乙 ,彡jヾ l '、
!  ヽヽ\ >'´ _,   川 〈 j. |l || ト三Z 彡/ l l | !
    `┴ヘ yぐ゙   {lリ Y ノj || ト三 彡/  l l | |
黙        } ヾ〉    ヽ! T´(l || ドミ,/シ′   | l | |
れ        /           川 l|`Y夭     | l | |!
!      `ヽ        ,  | | l| !  )   | | | l|
        `';=‐       / ||l| l     川|l|!
         `、     ,ィ'   | | l|__」..-─-、lj | l|l|
            ー ´ l __,」 l  l|      ヽ||| l|
              /´ / /   リ       Vl|l|
           ,∠二二./ /   〃          Vl|!
          ,∠二二二./ /   /          Vl_」
          ,イ'´     //  /、         , -ヘ
       /| __∠∠ ___ /ヽ\   , -‐ '´ , -ヘ
        / レ'´     `ヽ、\\\>'´ , -‐ '´ , - >
      /   !         ヽ \\>'´ , -‐ '´ ,イ
       !   ハ          l  \>'´ , -‐ '´  |
481水先案名無い人:04/11/23 11:15:53 ID:nM56y3Y/
「それって何か魔王みたいな発想ですね」
おれがそう言うと安藤さんはおれの顔を指差した。
「それよ! 私は魔王になりたいの」
何気ない一言でこの人の隠れていた願望を言い当ててしまった。
「はあ……ところで安藤魔王」
「羽生名人みたいに言わないで頂戴」
「失礼しました。安藤大魔王」
「何かしら?」
「さっきから眼鏡がくもってますけど……」
「あっ」
安藤さんは慌てて眼鏡を外してハンカチでふいた。
「大丈夫ですか? 額に汗をかいておられるようですが」
「大丈夫です! ちょっと緊張してるだけ」ハンカチで顔を拭いながら安藤さんが言った。
「私、演説嫌いなのよね」
「はあ……そうですか」
13才の魔女っ娘ならずぶぬれになって逃げ帰るところだが、成人男子のおれは余裕で聞き流した。
会場から拍手が起こった。
姫殿下が一礼して演壇から戻って来られた。
「マコさん、お疲れ様」
眼鏡を書けなおした安藤さんはすれ違いざまにそう言ってステージに上った。
「安藤さんと何を話していたのだ?」
姫殿下がお尋ねになった。
「えーと……大魔王の公務について話しておりました」
「そうか」姫殿下はおれのお答えに少し考え込まれてからおっしゃった。
「内親王と大魔王だとどっちが大変かな?」
「ナンバー2次第でしょう」
おれはそうお答えしたが、新美さんと変態キキさんの顔を思い浮かべて、どちらも足を引っ張られそうだな、と思った。
482水先案名無い人:04/11/23 11:17:25 ID:nM56y3Y/
「えー」安藤さんが上ずった声で話し始めた。
「どうもこんにちは、安藤です……」
どうやら本当に緊張しているようだ。
「えー、突然ですが、皆さん、今何かやりたいことはありますか?
私はタワレコに行っておととい出た宇多田ヒカルのシングルを買いたいんですけど……」
会場から少し笑いが起こった
(何の話だ?)
姫殿下はじっと安藤さんを見つめておられた。
「あの……もし私がこんなことを言い出したらどうでしょう。
“宇多田ヒカルのシングルが欲しいけど、お金がないから買えない。そうだ、生徒会に頼んでお金を出してもらおう”
こんなことが通ると思いますか?」
安藤さんはそこで少し間を取った。
「もちろん無理ですよね。ではこういうのはどうでしょう? 私が放送委員だったとします。
“お昼の放送で宇多田ヒカルのシングルを流してみんなに聞かせてあげたい。生徒会にお金を出してもらおう”
これならば正当な要求だと思いませんか?
私は皆さんのそのような要求に応えられる制度作りをしたいと思っています。
委員会やその他有志が公共の福祉のために何か新しいことを始めるための助成金制度を作ります。
そのために現在部活動に割り当てられている予算を削減します!」
会場がどよめいた。
特にジャージ姿の生徒たちが驚いた様子で回りの生徒と話し合っている。
(運動部員を完全に敵に回すつもりだ……)
安藤さんは一息ついて生徒たちを見渡した。
「助成金の割り当て先については皆さんから出された提案を全校生徒の直接投票にかけて決めたいと考えています。
具体的な金額はまだはっきりとはわかりませんが、最大5万円くらいを目安にしたいと思います」
生徒たちが再びどよめいた。
483水先案名無い人:04/11/23 11:18:57 ID:nM56y3Y/
左右乙
これだけが2chの楽しみだよ
484水先案名無い人:04/11/23 11:20:28 ID:nM56y3Y/
漏れも毎日楽しみにしてるよ
485水先案名無い人:04/11/23 11:21:59 ID:nM56y3Y/
よっぽど他に楽しみの無い人生を送ってるんだね。
486水先案名無い人:04/11/23 11:23:30 ID:nM56y3Y/
「藤村、今の話をどう思う?」
お尋ねになる姫殿下のお顔は強張っておられた。
「そうですね……」
そう申し上げながらおれは安藤さんの話を思い出していた。
「お金が絡んできますからね……恐らく紛争の火種になるでしょう。
もしあれを実行に移したら部活の方からは当然反対の声が上がるでしょうし、お金の取り合いでさらにいざこざが起こります」
「そうか……」
姫殿下は厳しい表情のままであられた。
安藤さんの基調演説が終わり、聴衆を交えた討論会の時間になってもそれは変わらなかった。
ステージの左右に別れて座った両候補だったが、生徒たちからの質問は安藤さんの方に集中した。
「生物委員でハムスターを飼ってみたいんですけど、そういうのって認められますか?」
「直接投票って具体的にどうやって行われるんですか?」
「予算委員会を生徒会の下に作ったらどうでしょうか?」
安藤さんは生徒たちが食いついてきたのを感じたのか、応対に余裕があった。
(うーん、確かに生徒たちは興味を持っているし、悪い考えじゃないと思うんだけど……
安藤さんの目的が破壊と混乱と恐怖だからなあ……素直に賛成できない)
姫殿下は議論に入れず小さくなっておられた。
すると突然、一人の生徒が飛び跳ねながら手を上げて発言を求めた。
「はい! はい! はーい!」
(あの声は…………)
選管からマイクを受け取るとその生徒はゲーム脳丸出しの口調で話し出した。
「えーと、私、サッカー部なんですけど、部員が少なくて試合ができなくて……
あ、マコさんに質問なんですけど、他の学校と合同チームを作ったりしたいんですけど……
自由な部活動ってことはそういうのもできるってことですか?」
(新美さん! クウキヨメテネーヨ! だがそれがいい!!)
相棒の姿をお認めになった姫殿下に明るい表情が戻った。
「はい! 合同練習や合同チームの結成などをどんどん行っていきたいと思っています。
また合同チームによる大会参加を認めてもらうよう競技団体に働きかけていくつもりです」
姫殿下はよどみなくお話になった。
487水先案名無い人:04/11/23 11:25:01 ID:nM56y3Y/
「あ、そうですか……」新美さんがわざとらしいくらい納得した様子で言った。
「それを聞けてよかったです。あの……隣の戸山中学のサッカー部がイケメンぞろいなので一緒に練習できたらいいなあと思ってます。
どうもありがとうございました」
会場からは失笑が漏れた。
安藤さんも姫殿下も笑っておられた。
(アホが状況を打開した……)
そこからは運動部員などの質問もあり、姫殿下も議論に加わることができるようになった。

拍手の中ステージを下りられる姫殿下はそのお顔に照れくさそうな笑いを浮かべておられた。
「お疲れ様でございました」
「うん。無事に済んでよかった」
姫殿下はほっとしたご様子だった。
安藤さんもステージから戻ってきた。
「マコさん」たすきを脱ぎながら安藤さんが言った。
「私の演説、どうだった?」
「斬新な意見だと思いました」
姫殿下がお答えになった。
「藤村さんはどう思った?」
「すごく……生々しいです……」
おれがそう言うと安藤さんはにっと笑った。
「でしょう? これから醜い争いが起こるわよククク……
それじゃあ獄門島さんたちに捕まらないうちに私、帰ります。さようなら」
そう言って安藤さんはそそくさと立ち去った。
その後ろ姿をご覧になりながら姫殿下がぽつりとおっしゃった。
「安藤さんも大変だな」
「まあ、でも自分で選んだ修羅の道ですからね……」
おれは肩をすくめながら言った。
遠くから姫殿下をお呼びする新美さんの声が聞こえた。
488水先案名無い人:04/11/23 11:26:33 ID:nM56y3Y/
                /^l
         ,―-y'"'~"゙´  |
         ヽ;   ・ ⊥・ミ
          ミ  ヾ q   ミ;.,
          ミ ゙ .,_,)⊆口⊇ソ
 モフモフモフ〜   i ミ ;,.,   ; |\ ヽ、
      C c ┌\ヽ.,_,,.) \ \_i
          ◎┘  ̄ ̄ ̄ ̄◎
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
489水先案名無い人:04/11/23 11:28:03 ID:nM56y3Y/
討論会の後、おれは姫殿下にお供して美術部室に行った。
今日も下川さんの隣で心穏やかに墨を磨る。
「ここがドイツの変態肉屋のホームページ……?」
「そう、ヨアキムさんは2代目の若旦那なの」
「何この画像……? エビチリ?」
PCの前に座ったカコ様と新美さんと三鷹さんの話し声が聞こえる。
「ここ通販もやってるのよ。ほら、英語でも大丈夫だって」
楽しそうにお話になっているのはカコ様だ。
「か、缶詰…………」
「大丈夫なの、このサプリ?」
新美さんと三鷹さんは完全に引いていた。
血なまぐさいイメージを思い浮かべないよう、おれは目の前のお習字セットに気持ちを集中させた。
トントン……
誰かが美術部のドアをノックして入ってきた。
逆光でシルエットしか見えない。
「獄門島!?」
隣の下川さんが叫んだ。
部屋の中が一気に静まりかえった。
獄門島さんとその取り巻きがずかずかと入ってくる。
(全面戦争勃発か!?)
その数はどんどんと増え、エージェント・スミス並になった。
八墓村さんの姿もあるので、どうやらバスケ部とバレー部の連合軍のようだ。
おれは姫殿下のお側に駆け寄った。
「姫殿下、もしものときはこの藤村がお守りいたします」
カコ様を除くあとのメンバーには集団的自衛権を行使してもらおうと思った。
「何しに来た?」
下川さんが獄門島さんを睨みつけながら言った。
「藤村さんに用がある」
獄門島さんがおれを睨みつけながら言った。
490水先案名無い人:04/11/23 11:29:35 ID:nM56y3Y/
「え……私ですか?」おれはのど自慢のチャンピオンに選ばれた20代の女性のように戸惑った。
「あっ、わかった! これがサプライズ・パーティーというやつですね!」
「ちがうわボケ!」「ここはマイクロソフトか!」
バスケ・バレー部員(以下BB部)たちから罵声が飛んだ。
「ジョークですよ、ジョーク。ここはジョークアベニューでーす!」
おれはアメリカのはすっぱな海軍提督を気取ってみたが、帰ってきたのは舌打ちだけだった。
「藤村に何の用でしょう?」
姫殿下が毅然とした態度でお尋ねになった。
獄門島さんは表情ひとつ変えずに言った。
「藤村さん、あのような卑怯な手を使って“GOHDA流敗れたり”とはいったいどういうことか?」
何のことだか思い出せなかった。
(いったい何を? ……もしかして新美さんがソフトボール部室に書いたあれか?)
「い、いえ、それは新美さんが勝手に書いたことで……」
おれはしどろもどろになりながら答えた。
「GOHDA流空手の歴史を侮辱する言葉だ。ただちに訂正しろ」
そう言って獄門島さんはいっそう強くおれを睨みつけた。
「はい、すぐに訂正いたします! 今回の反省を踏まえまして今後は……」
おれがプライドをかなぐり捨ててへいこらしていると、新美さんが飛び出してきて叫んだ。
「うるせえ馬鹿! 訂正なんかするか、ボケッ!」
(やめてくれ! もとはといえばあんたが悪いんだろうが!)
「そうだ! 何だか知らんが訂正などしない! お前らが訂正して謝罪しろ!」
下川さんもなぜかブチ切れていた。
その様子をカコ様が正面に回りこんで激写された。
「ひ、姫殿下……あの人たちを止めてください」
おれは姫殿下にヨヨヨと泣きついた。
姫殿下はおれをかばうかのように一歩前にお進みになった。
「獄門島さん、藤村はわたしを守るためにベストを尽くしました。決して間違ったことはしていません。
間違ったことをしていないのに謝罪することはできません。お引き取りください」
姫殿下のお声が響き渡った。
神ヨ!藤村ヲ救イタマエ、とおれはロビタみたいに祈った。
491水先案名無い人:04/11/23 11:31:07 ID:nM56y3Y/
職人もいないし退屈なスレだな('A`)
492水先案名無い人:04/11/23 11:32:38 ID:nM56y3Y/
志村〜!!!!上!!上〜!!!!
493水先案名無い人:04/11/23 11:34:09 ID:nM56y3Y/
        _, -‐──- 、
       /,r'"´ ̄` .、三ミ.\
      ,〃´// l | li li 、ヽミミミヽ、
      ////l !l.l!l !l !li !l 、ヽ,三三i、
     !.l !l !l !l !li !l !l !l !l !、ji三彡lヽ    /
.     l l !l !l !l !li !l !l !l !l !lヽ彡彡jノl  /  う
      ! +l+l+l l l l l l l+l+l+l ',彡彡j,/   う し
      ヽl fiコヽ    rti7ヽ  }‐、ノノ/    し ろ
.       ',゚:::''' ,   ''''゚:::: rt,ノノ/     ろ !
      ヽ  `     ,r'ー'i !!、     !
        ヽ、.  ̄  ,.イノ!i l !i !i ',   \
       _,ririコニiニ´  /,r彡アヽ、l    \
    , -'l/r'三三テヽ /イ彡"_, -クヽ、
   /lヽ, | (三三三テl'〃, -'´ /  , >、
    | ',. ',!  , 二 > .lフ   /  /   !
    !  l | ムォ'iヽ  >、‐'´   /     |
.   !  /、\  lノ l  ///>、  /      !
   ! /\\ヾノjj >''///   ヾ、      |
  l//  \ヽノ‐‐、'/     ヽ     |
  /     l!.lr‐ャ' ヽ        `ヽ |
  }      ! |l  ヽ ヽ        |
 {        j' !  ヽ  ヽ        !
 ヽ     ,イ  !   ',  ヽ       l
  ヽ   , / l  l  l     \  _,.r'´
   `j´ ! !   l  !        ̄  ヽ
    <,_ ヽヽ   ',  !     ___/
   /  ̄ ヽjー‐i / ̄ ̄ ̄ l  |
  //  // l j'  / /   |  |
//  // /  / /   |  |
494水先案名無い人:04/11/23 11:35:40 ID:nM56y3Y/
「GOHDA流の受けたこの屈辱は実際に立ち会うことによってしか晴らされない!」
なぜか新美さんが叫んだ。
「あの、それはあなたが言う台詞ではないと思うんですが……」
おれはうろたえて言った。
「まったくその通り」獄門島さんが言った。
「藤村さん、実際に戦ってみましょう。そうすればあなたの言ったことが正しいかどうかはっきりするはずよ」
(まずい……実際にやったら弱いのがばれてしまう。ここは姫殿下に治めていただくしか……)
そう考えたおれは姫殿下に申し上げた。
「姫殿下、このような私闘は護衛隊員の本分からは外れておりますれば……」
「まあ、でも胸を貸してあげたらどうだ?」
姫殿下が軽くおっしゃった。
(うわあ、おれ、信頼されてる……)
「藤村さん、頑張って!」
新美さんが振りかえって言った。
下川さんがおれの顔を覗きこんだ。
「いい面構えだ。ウム……勝てる」
(こいつら……煽るだけ煽っておきながら無責任な……)
「表へ出ましょう」
獄門島さんが部員たちを従えて外へ出ていった。
おれは美術部員たちによって取り囲まれ、パリ解放後のナチス協力者のように突き飛ばされながら歩かされた。
「宮仕えは大変ねえ」
カコ様がカメラを構えながらおっしゃった。
495水先案名無い人:04/11/23 11:37:11 ID:nM56y3Y/
美術部室前の空き地をBB部員と美術部員(以下3B部員)たちが取り囲んだ。
その中心におれと獄門島さんは向かい合って立った。
「藤村、獄門島さんに怪我をさせてはいけないぞ」
姫殿下がお手でメガホンを作っておっしゃった。
(そうか……倒されたら負けなのはもちろんだが、相手に怪我をさせたら社会的に敗北してしまう、まさにハイリスクノーリターン……)
「ルールはどうする?」
獄門島さんがむしろ先ほどより穏やかな顔でおれに尋ねた。
おれとしては笑いあり涙あり暴力なしのちばてつや的ルールで行いたかったがそれは相手に通じないだろう。
「そちらが決めてください」
心・技・体いずれも人並み以下のおれが相手をコントロールする方法はただひとつ。
相手の一番得意な攻撃パターンを引き出す。
おれはそれを避けることだけ考える。
だからルールは相手が有利なものの方がいいのだ。
「わかった。じゃあ、なんでもありで」
獄門島さんはこともなげに言った。
予想していた答えだが実際に聞くとやはり心が沈んだ。
承知の合図におれが頷くと獄門島さんは一礼して言った。
「GOHDA流空手初段、獄門島史子です! よろしくお願いします!」
(中3で初段か……ちゃんと道場とか通ってんだな……)
おれの方は特に自慢できる肩書きはなかったので適当に思いついたことを言った。
「あ、どうも……護衛隊員藤村フジオ、ドラクエ狩り被害者日本最北端です」
美術部員たちから笑いが起こった。
「あはは。本当に?」
おれはいつも財布に入れている新聞の切抜きを取り出して見せた。
「ほら、それが証拠に……」
「あー、ほんとだ。“藤村フジオさん(15)”だって」
「いやあ、このときは大変でしたよ。なにせ犯人が友人の兄貴で……」
「……早くやりましょう」
獄門島さんがいらだった様子で言った。
496水先案名無い人:04/11/23 11:38:43 ID:nM56y3Y/
カコさま・・・何て他人行儀なw
497水先案名無い人:04/11/23 11:40:14 ID:nM56y3Y/

   ノ、_,.ィ     ニダ〜                 平民め!
       ☆                   ノ、_,.ィ    なれなれしいわっ!!
  ∧_∧〃 ☆                 .,,. - 、、 て
  <`A´丶> ========================= ヅ⌒''小   八咫鏡ビ〜ィム!!
 と    ⊃ ☆               (ヽli.‘o‘ ,l|レ'^)
   \  \  く                 |   |
   <_〉<_)
498水先案名無い人:04/11/23 11:41:45 ID:nM56y3Y/
   /  /⌒     ヽ  ヽ 'i  ',
.  /  /  ` `'''" '`  `,  '、l   ',
  l  ,' ./        ',  i    l  
  l  ,' /''""    "''ヽ ハ  l     !i    そんなにおでこ・・・
.  l i ,イ/ / / / / / / /jノ l  l`i  l'iつるつるかなあ。。。
.  l !i l/ /┃/ / /┃/ / ノl l6 l  ,' 'i
  ノrハ, l/ / / / / / / u ノ/ri" /__ l
    ,| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  '//゙ l /  ''-,,__
   r'''''''ー、   r''''''' ̄ヽ / ノ'"  // ヘ
   } 二''-'   冫''' ̄  ヽ    /// ヽ
  (    )    (    )
499水先案名無い人:04/11/23 11:43:16 ID:nM56y3Y/
500水先案名無い人:04/11/23 11:44:46 ID:nM56y3Y/
おれは新聞の切り抜きを懐にしまうと、片足立ちになり、その場でくるくると回り始めた。
姫殿下に敬意を表するムエタイの踊り、ワイクルーだ。
「ふしぎなおどり? どう見ても獄門島のMPは0だけど」
下川さんが怪訝そうな顔をして言った。
「いえ、これは試合前に必ず踊ることになっていまして……」
「まだ〜?」「早くやれ!」
おれの講釈はBB部員たちの罵声にかき消された。
「はあ……それじゃあ始めますか」
おれがそう言うと獄門島さんは無言で構えた。
脇を開き、拳を腰のあたりで握るGOHDA流独特の構えだ。
(思ったより後傾だな。顔面はがら空きだが……)
おれは掌底を相手に見せるムエタイ式の構えを取った。
両者の距離は2mほど。
相手が動かないので、おれは前に出している左足を一歩踏み出した。
獄門島さんの右足の膝から下が一瞬消えた。
次の瞬間、その爪先がおれの鼻先をかすめた。
「うわッ!」
おれは慌ててのけぞった。
ギャラリーがどよめいた。
おれは尻餅を付きそうになったが慌てて飛び退った。
獄門島さんは先ほどより1mほど前方で再び構えた。
(い、今のが爪先蹴り……ノーモーションで飛んでくる……しかも間合いが長い。
相手が踏みこんできたらあれでカウンターを取るのか……)
「藤村さん、いまの調子」
「見えてる、見えてるよ!」
美術部員たちの声援が聞こえた。
(見えてねえよ! 少なくともおれは!)
蹴られていない鼻がなぜかつーんと痛くなってきた。
501水先案名無い人:04/11/23 11:46:19 ID:nM56y3Y/
獄門島さんは構えたまま動かない。
おれは先ほどの蹴りの軌道を頭の中に思い浮かべた。
(おれの鼻あるいは人中めがけてまっすぐ飛んでくる……あれを食らったら間違いなく小生あえなく昇天!
かわすしかない……カウンター狙いなのは明らかだからタイミングだけはコントロールできる)
結局、選択肢は前に出ることしかなさそうだった。
(よし、やられても姫殿下が介抱してくださるだろう……多分……)
おれは覚悟を決めた。
一つ大きく息をして、おもむろに深く踏みこんだ。
「ソエッ」
宝蔵院流の掛け声とともに右肘をぴくりと動かす。
(今だ!)
獄門島さんの蹴りが出るのと、おれの唯一のスキル「光速土下座」が発動するのと同時だった。
唸りを上げる蹴りがおれの頭を掠めていく。
「かわしたッ!」
地に身を投げ出したおれの目にお留守になった獄門島さんの軸足が飛びこんできた。
おれは魚類から進化した両生類が初めて上陸するときのような勢いで這い進み、手で目の前の足を払った。
「……ッ!」
獄門島さんが腰から落ちたときには、おれはすでに立ち上がり残心の構えを取っていた。
「参りました!」
獄門島さんが手で頭をかばいながら身をよじった。
おれはその姿を見下ろしながら構えを解いた。
(高田の光速タップ、曙の光速ダウンに並ぶ三大フィニッシュホールド、光速土下座がなければやられていた……)
ちなみにこの技が逆の意味でフィニッシュになったことはあったが、勝ったのはこれが初めてだった。
BB部員たちは呆然と立ち尽くしている。
仰向けになったままの獄門島さんのもとに八墓村さんが駆け寄った。
「大丈夫!? 怪我はない?」
突然おれの背中に誰かが飛びついた。
「やった! 藤村式最強!」
下川さんがセンタリングを上げた人みたいにおれの背中に乗ったまま歓声を上げた。 
502水先案名無い人:04/11/23 11:47:50 ID:nM56y3Y/
光速ワラ
503水先案名無い人:04/11/23 11:49:21 ID:nM56y3Y/
どうでもいいがバレーボールの頭文字はVだぞ
504水先案名無い人:04/11/23 11:50:52 ID:nM56y3Y/
下川さんに続けとばかりに美術部員たちがおれに体当たりしてきた。
「ウィ〜〜〜〜ッ!!」
数人の生徒を引きずりながらおれはテキサス・ロングホーンを決めた。
だが彼女たちの反応は冷淡で、キャノンさんだけが「ウィ〜……」と力無く手を上げた。
「何それ?」
「それも藤村式ってやつ?」
おれはタッグで負けてもウィ〜〜ッとやって帰ったハンセンの偉大さを改めて認識した。
「藤村さん……」獄門島さんが立ち上がって言った。
「ひとつ教えてください。どうしてあの蹴りがかわせたんですか?」
「え……それは……正中線上を狙ってくる蹴りだから胴体より下には来ないだろうと思いまして……」
我ながら単純な理屈だ。
ところが獄門島さんは何度も頷きながらおれの言葉を反芻していた。
「なるほど……胴体より下か……一瞬でこのような弱点を見破るとは流石……」
「いえ、あの、別に一瞬というわけでは……」
藤村式幻想はもはやおれの手の届かないところにまで行ってしまった。
このままだと弟子入りしたいなどと言い出しかねないので、おれは適当にこの場をまとめようと思った。
「まあ、今回は引き分けということで…………」
獄門島さんは不思議そうな顔をした。
「どうしてですか?」
「あの……我々は本来守るべき人たちに心配をかけてしまいましたから……」
おれがそう言うと獄門島さんははっと後ろを振り向いた。
「そうだ……私、みんなのためにやってるんだって勝手に思いこんで……あの子たちの気持ちを考えもしないで……」
(おお、負けたときに言おうと思っていた台詞が意外にもクリティカルヒット!)
「今藤村さんがいいこと言った!」
下川さんがおれの肩越しにずばっと腕を伸ばした。
「あの、そろそろ背中から下りてもらえませんか……?」
おれがそう言うと下川さんは
「貴様は〜〜〜!!だから美術部で馬鹿にされるというのだ〜〜〜!!この〜〜〜!」
とわけのわからないことを言っておれの首を締め始めた。
505水先案名無い人:04/11/23 11:52:25 ID:nM56y3Y/
(く、苦しい……)
おれは「ぐええぇーー!」などと叫び声を上げることもできず、死の舞踏(ダンス・マカブル)を踊った。
「もう一度みんなと話し合ってみます。選挙のことやバスケ部のこれからのことを」
獄門島さんが神妙な面持ちで言った。
「是非そうしてみてください」
おれは目の前が真っ暗になっていくのを感じながら言った。

獄門島さんたちが立ち去ると下川さんはようやくおれの首から手を離した。
「あいつも別に悪い人間じゃないんだよね。ただ思いこむとこうなっちゃうのよね、こう」
下川さんがおれの肩にひじを置いて何やら手を動かしていた。
「あの、見えないんですけど……ていうか本当に下りてください」
おれは通常の2倍の重力を感じながら姫殿下の御足下へ参上した。
「今回は引き分けという結果に終わりました。どうもご心配をおかけしました」
おれがそうご報告申し上げると姫殿下はおれの上着の埃をはたきながらおっしゃった。
「わたしは心配していなかったぞ。藤村の強さはわたしが一番よく知っているから」15
(ああ、おれの人生負けっぱなしだけど姫殿下の御心の中では連勝中なんだ。
だからおれは今こうしてこの場所に立っていられるんだ……)
おれは深々と一礼した。
その途端、予想以上の重みが上体に掛かり、おれはつんのめって倒れた。
「でも目の中に親指を入れて殴り抜けるところとかも見たかったなあ」
おれの背中の上でカコ様がおっしゃった。
「申し訳ございません、カコ様。速やかにお下りください」
おれは地面にうつぶせになったまま言った。
「こうかな? ウィ〜〜」
「マコちゃん、違う。それだとまことちゃんだよ」
「何で反対の手も同じ形になってるの?」
姫殿下と美術部員たちのご歓談が聞こえた。
506水先案名無い人:04/11/23 11:53:57 ID:nM56y3Y/
前にも言ったが今一度言う。面白杉w
507水先案名無い人:04/11/23 11:55:28 ID:nM56y3Y/
正直unko
508水先案名無い人:04/11/23 11:56:58 ID:nM56y3Y/
立会演説会を翌日に控えた火曜日の放課後、姫殿下とおれは「最後のお願い」をしに校内を回った。
ビラは前日までに使い切ってしまっていたので、姫殿下は生徒たち一人一人にお声をかけられた。
そのお声はお疲れからか幾分嗄れ気味だったが、いつもの笑顔を絶やされることはなかった。
食堂から第一体育館へ通じる小道を歩いているとき、姫殿下がおれの方に振り返っておっしゃった。
「藤村、選挙運動も今日が最後だ。長かったな」
「はい。この2週間本当にいろいろなことがありましたね」
おれは2週間前の自分を頭に思い浮かべながらお答えした。
姫殿下のご指名があるまでおれは護衛隊の一番下っ端だった。
姫殿下のお顔を拝見するだけでどきどきした。
そのおれが今こうして姫殿下とこの美しい学園内を歩いている。
これからの生涯を「働いたら負けかな」と思いながら過ごしても購えないほどの幸運だ。
「ここまでがんばってこられたのも藤村のおかげだ。感謝しているぞ」
姫殿下のありがたいお言葉におれはすっかり恐縮してしまった。
「滅相もございません。私などほんのスライムベスでございまして……」
「そなたの助言にはいつも励まされた。本当にありがとう」
おれは平伏するしかなかった。
「藤村のこともよく知ることができたし、たくさんの人と会うこともこともできた。
みんなのおかげで充実した選挙運動になったことを嬉しく思う」
たとえ安藤さんが同じことを言っても聞いている側は絶対に「ウソ臭さ」みたいなものを感じて
額に手をあててしまうだろう。
(姫殿下は偉カワイイだけでなく、優しくて深く民草を愛しておられる……もういいじゃん、姫殿下が生徒会長で。
「東京都」とかももうやめて「姫殿下グラード」にしようぜ。APECも「姫殿下with APEC」でいいよ。
地球とか銀河系っていう名前も飽きたな。いっそのこと……)
おれが共産主義的誇大妄想に浸っていると、前方に3人の大柄な生徒が立ち塞がった。
獄門島さん、八つ墓村さん、病院坂さんの三役揃い踏みだった。
509水先案名無い人:04/11/23 11:58:30 ID:nM56y3Y/
マコさん……」身構えるおれを尻目に獄門島さんが口を開いた。
「お願いがあって来ました」
「お願い?」
「はい。どうか私たちの部で演説を聴かせてもらえませんか?」
「えっ?」
姫殿下が驚きのお声を上げられた。
「昨日あの後部員たちと話し合いました。
そうしたらいろいろな意見が出まして……一番多かったのはまだ考えがまとまらないという意見でした。
私たちが部長がマコさんの演説を邪魔してしまったから……、
お願いします。部員たちの前で改めてお考えを聴かせてください」
3人が頭を下げた。
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
姫殿下はより深くお辞儀をされた。

バスケ部、バレー部、ソフト部の部員たちが集まる第2体育館へ向かう途中、獄門島さんがおれのそばに寄って来た。
「藤村さん、あの、藤村式体術についてもっと詳しく教えていただけませんか?」
恐れていた質問がついに発せられてしまった。
(まずいな……技術論だとぼろが出るから精神論でお茶を濁しておくか……)
「えー、藤村式の秘密はゆ、勇気にありまして……」
「勇気?」
「そ、そうです。人間賛歌は勇気の賛歌、人間のすばらしさは勇気のすばらしさ、ということでして……」
そう言いながらおれは体中をまさぐって使えるアイテムがないかどうか探した。
「……詳しくはこの書で熟知すべし」
そう言っておれはジャケットの裏ポケットから1冊の文庫本を取り出した。
「中島敦『山月記』……あ、これ知ってます。教科書に載ってました」
「大人になってから読むと泣けます。というか確実にへこみます」
おれは姫殿下に初めてお会いする以前の不遇時代を思い出した。
510水先案名無い人:04/11/23 12:00:02 ID:nM56y3Y/
やりたいことが何一つなかった日々。
軽い気持ちでタイに行く先輩についていった。
そこで置き去りにされ、バンコクひとりぼっち。
帰国の費用を稼ぐための退屈な日々に飽きて、日本から持ってきたこの本を開いてみた。
おまえの人生に何もないのはおまえに勇気がないからだ、と言われている気がした。
李徴のように虎になることすらできなかった自分……
でも今は守りたい人もできたし、クマにもなれた(もうなりたくないけど)。
「あ、「弟子」とか「名人伝」とかそれっぽいタイトルの話もありますね」
獄門島さんがぱらぱらとページをめくりながら言った。
「まあ、軽い気持ちで読んでみてください」
おれがそう言うと獄門島さんは
「ありがとうございます!」と言って頭を下げた。
「中島……アツシってどういう字?」
「わかんない……」
八つ墓村さんと病院坂さんは激しくメモを取っていた。
それをご覧になった姫殿下もなぜか慌てて生徒手帳に何かを記入された。
おれの勇気の源が姫殿下ご自身であることには気づいておられぬご様子だった。
511水先案名無い人:04/11/23 12:01:33 ID:nM56y3Y/
青空文庫で『山月記』読み直して泣いた。
512水先案名無い人:04/11/23 12:03:04 ID:nM56y3Y/
藤村×獄門島フラグon?
513水先案名無い人:04/11/23 12:04:35 ID:nM56y3Y/
工エエェェ(´д`)ェェエエ工
514水先案名無い人:04/11/23 12:06:06 ID:nM56y3Y/
舞台袖のクリーニングを終えたおれは上着に付いた埃を叩きながら舞台の上に出た。
講堂内は薄暗く静寂に満ちている。
2時間ほど後に姫殿下がここに立たれるのだと思うと不思議な気がする。
おれの存じ上げている姫殿下はおれに優しくお声をかけてくださるお方だ。
特にお声が大きいわけではないし、人を惹きつける話術をお持ちなわけでもない。
その姫殿下が全校生徒を前にご演説をなさる。
選挙運動が始まる前なら想像すらできなかったことだ。
でも今なら何となくその光景を思い浮かべることができる。
きっと姫殿下はおれになさるのと同じように優しく生徒たちに語りかけられるだろう。
「藤村」座席を調べていた三井隊長が舞台端から顔をのぞかせた。
「そっちは終わったか?」
「はい。音響調整室、控え室、舞台、舞台袖、天井、すべて異常なしです」
おれがそう報告すると三井隊長は腕時計を見てあごひげをこすった。
「まだ2時間目か……演説会が始まるまであと50分もある……他に何かやることは……」
「いったん持ち場に戻りませんか?」
おれは少々あきれながら提案した。
「いや、だめだ! 何かしていないと緊張の渦に呑み込まれそうだ!」
この人は朝からこの調子だ。
講堂のクリーニングも普通は卒業式など外部の人間が入る時しか行わないのに、急にやろうと言い出したのだ。
「姫殿下がこんな大きな舞台で演説をされるなんて……だめだ……想像が悪いほうに悪いほうに……」
三井隊長が大きなため息をついた。
「まあ我々が思い悩んでも仕方ありませんから……」
おれの言葉に彼はしばらく何か考え込んでいたが、突然舞台に上って来て言った。
「藤村、ずいぶん服が汚れてるな……いいこと思いついた。おまえとおれで舞台袖の掃除をしよう」
「えーっ!? 掃除ですかァ?」
おれがいやな顔をすると、彼はおれの肩に手を置いて
「雑巾をかけよう。な!」
と力強く言った。
515水先案名無い人:04/11/23 12:07:37 ID:nM56y3Y/
2時間目の終わりを告げるチャイムが鳴って少したつと、生徒たちが講堂内に入り始めた。
他の式典とは違ってみな楽しそうな顔をしている。
「選挙はお祭りだ」という木田さんの言葉を思い出した。
おれは舞台脇の控え室前で姫殿下をお待ちしていた。
たすきをかけた他の候補者たちがおれの横を通り過ぎていく。
姫殿下より先に安藤さんとキキさんが姿を現した。
安藤さんはノートパソコンを抱えていた。
「あれ? そのパソコンは何に使うんですか? 仲魔の召還?」
「演説の時にパワーポイントを使うの」
安藤さんはつまらなそうに答えた。
「そうですか。それはなかなか凝ってますね」
おれがそう言うと安藤さんは薄笑いを浮かべながらポケットからレーザーポインターを取り出し、おれの顔に向けた。
おれはとっさに手をかざした。
「何をするんですか!」
安藤さんはおれの言うのも聞かずに赤い光をキキさんの体に這わせていた。
「キキちゃん、ここは何?」
「え……ここは……私の……モモ……」
キキさんは口篭もっている。
「何? もっとはっきり!」
「モモ……モモ肉です」
それを聞いた安藤さんは(;゚∀゚)=3ムッハ、ムッハ、ムッハ-と荒い息をついた。
この人が生徒会長になったら学校全体がジャバ・ザ・ハット様の城みたいになってしまうだろうな、とおれは思った。
(そしておれは氷漬け……ルルー)
516水先案名無い人:04/11/23 12:09:09 ID:nM56y3Y/
姫殿下と新美さんは何がおかしいのかころころと笑いながら歩いて来られた。
その平和な光景におれは目頭が熱くなるのを感じた。
おれに気付いたお二人は不思議そうなお顔をされた。
「藤村さん、どうしたの? 変な顔して」
「藤村、泣いているのか?」
おれは慌てて笑顔を取り繕った。
「いえ、何でもございません」
おれがそう言うと新美さんがおれの肩を叩いて言った。
「聞いてよ、藤村さん。マコリン、チンプイ知らないんだって、チンプイ」
「藤村は知っているか、チンプイ?」
姫殿下の真剣なお顔に噴出しそうになるのをこらえながら、おれはお答えした。
「はい、存じております。毛だらけの宇宙人でございます」
「それはモジャ公。チンプイは耳がまん丸で顔の横にあるやつよ」
新美さんがジェスチャー付きで解説してくれたので思い出すことができた。
「あ、わかりました。あの王子様の命令で地球に来たサルみたいな感じの……」
「そう、それ! 王子様の家来なのよね……家来……そういえば藤村さんもマコリンの家来。
今日から藤村さんのことチンプイって呼ぼうか?」
「えっ?」
おれは新美さんの言葉で高校時代のことを思い出した。
入学して1ヶ月誰とも口を利かないでいたおれは知らぬ間にモンガーというあだ名を付けられていたのだ。
「そ、そ、それはどうですかねえ。み、見た目はあまり似てないと思いますが……」
おれの動揺に気付いたお二人は不思議そうなお顔をされた。
「藤村さん、どうしたの? 変な顔して」
「藤村、泣いているのか?」
「いえ……何でもございません」
おれは慌てて笑顔を取り繕った。
「藤村さん、ごめんね。もう変なあだ名付けたりしないから」
「藤村、機嫌を直して控え室までついてきておくれ」
優しいお言葉におれはただ恐縮するばかりだった。
517水先案名無い人:04/11/23 12:10:41 ID:nM56y3Y/
優しいよ眞子様優しいよ(っдT)
518水先案名無い人:04/11/23 12:12:12 ID:nM56y3Y/
このスレまだあったんだ・・・
519水先案名無い人:04/11/23 12:13:43 ID:nM56y3Y/
控え室は緊迫した空気に包まれていた。
2列に並んだ椅子に向かい合って座った候補者とその応援者はみな表情が強ばっている。
魔王候補の安藤さんも落ち着かない様子でキキさんの太ももを指で叩きながら低く唸っている。
よく聞くとそれは
「燃ーえろよ燃えろーよー 炎よ燃えーろー」
という歌だった。
きっと『巨神兵のテーマ』か何かだろう。
だが室内で一番やばいのは新美さんだった。
顔は土気色で目はうつろ、その上何やらぶつぶつ呟いていた。
「リサリン、だいじょうぶ?」
姫殿下が新美さんの顔を覗きこんでおっしゃった。
「ぁぁ……ゅぅぅっゃゎ……」
新美さんは蚊の鳴くような声で言った。
「藤村、何かいい気分転換の方法はないか?」
姫殿下のお尋ねにおれは知恵を絞った。
「……一流スポーツ選手には"スイッチング・ウィンバック"という精神回復法があるそうですが」
「スイッチング・ウィンバック?」
「はい。試合中に何らかの儀式を行うことによってショックや恐怖を心の隅に追いやってしまうというものです。
かの大横綱・曙もマゲを切ったり円形脱毛症になったりすることによって闘いに牙を取り戻したとか」
「なるほど」そうおっしゃると姫殿下は新美さんのぴょこんと飛び出たピンクの髪をつまんだ。
「リサリン、いこう。ばっさりと」
「いいんだね、切っちゃって?」
「や め て」
新美さんはおれの手だけをはねのけるとゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと外の風に当たってくる……」
そのままふらふらと歩み去った新美さんと入れ違いに1人の生徒が控え室に入ってきた。
バレー部部長の八つ墓村さんだった。
520水先案名無い人:04/11/23 12:15:14 ID:nM56y3Y/
521水先案名無い人:04/11/23 12:16:45 ID:nM56y3Y/
うんこ
522水先案名無い人:04/11/23 12:18:16 ID:nM56y3Y/
控え室の入り口に立つ八つ墓村さんに気付いた安藤さんが立ち上がってそちらに歩いて行った。
その動きには無駄がなく、まるでこの突然の来訪を予期していたかのようだった。
一方の八つ墓村さんは思いつめた顔をしている。
(何だ、また揉め事か?)
2人はしばらく声をひそめて話していたが、やがて興奮した八つ墓村さんの声が大きくなってきた。
「……だから別にバレー部全体があなたに反対してるってわけじゃないの。
そうじゃなくて、もう組織票とかそういうのはやめようって話になって……
とにかくあなたとの約束はなかったっていうことで……」
歯切れの悪い八つ墓村さんの言葉に安藤さんは理屈で対抗するだろうとおれは考えていた。
しかし意外にも安藤さんはがっくりと肩を落として震える声で言った。
「……別にバレー部が私から離れていってもいいんです。そんなの平気。
でも……先輩だけはわたしのことを応援してくれますよね……」
「えっ?」
八つ墓村さんもこの展開に虚を衝かれたようだった。
安藤さんは八つ墓村さんにくるりと背を向けた。
(む……背中を向けているだけなのに堪らないほどの寂しさが漂ってくる!)
おれは全日本演劇コンクールの審査員のごとく感心した。
だが安藤さんはおれと眼が合うと不気味な笑みを浮かべた。
(だめだ、八つ墓村さん! あんた、騙されてる!)
おれは視線を八つ墓村さんに向けた。
普通このような痴話喧嘩で相手に泣かれた場合、うざいと思うか、けなげと思うかの2つの思考パターンがある。
八つ墓村さんは完全に後者だった。
「な……泣いてるの? ねえ、こっち向いて。元子、スマイルアゲイン……」
彼女が安藤さんの肩に優しく手を置いたところで、おれは強烈な熱視線を送った。
まるでいま初めておれたちがここにいるのに気付いたかのように、八つ墓村さんがビクッと反応した。
523水先案名無い人:04/11/23 12:19:48 ID:nM56y3Y/
哀れ八つ墓村さんの心は千々に乱れていた。
安藤さんと姫殿下のお顔を交互に見比べ、立ち尽している。
(逃げろ! 安藤さんの攻性防壁にやられるぞ!)
おれは視線によるさらなるゴーストハックを仕掛けた。
進退極まった八つ墓村さんはしばらくうつむいていたが、突然「ごめん!」と言って走り去った。
(「ごめん」って……半ば告っといて謝るなんて行為が許されるのは小学生までだよねー)
おれ完全に他人事だと思ってみていたが、ニヤニヤ笑いながら帰って来た安藤さんについ意見してしまった。
「あなたはそんなことをして良心が痛まんのですか?」
すると安藤さんは笑顔でこう言った。
「あぁ、サタンだからな」
「サタンじゃあ、仕方ないな( ´∀`)」
とキキさんが言った。
安藤さんはキキさんの隣に腰を下ろして(  ´∀`)σ) ´∀`)プニプニとやった。
(ついていけねえ……)
だが今のやりとりで彼女の限界がわかった。
「サタンだからな」って結局自分を正当化してるだけじゃん。
姫殿下なら「内親王だからな」なんてことは絶対におっしゃらない。
やはり……そこが人を騙すことばかり考えてきた人間の発想――
痩せた考え……
姫殿下のもっとも傑出した才能 資質は……
人を信じる才能……!
優しいお心――
おれがひとり「ざわ……」となっていると、姫殿下がため息とともにおっしゃった。
「うーん。安藤さんの人身把握力はすごいなあ」
       ヽ(・ω・)/   ズコー
      \(.\ ノ
あんな邪悪な人にも長所を見出す姫殿下はやっぱり偉カワイイ! と思った。
524水先案名無い人:04/11/23 12:21:20 ID:nM56y3Y/
自分ででまとめてみました
作りかけですが

http://www8.plala.or.jp/full_base/
525水先案名無い人:04/11/23 12:22:51 ID:nM56y3Y/
高山彦九郎が13ゲットしますた
526水先案名無い人:04/11/23 12:24:22 ID:nM56y3Y/
「サタンじゃあ仕方ない」ワラタw
527水先案名無い人:04/11/23 12:25:53 ID:nM56y3Y/
ここじゃ負荷の迷惑になるから創作文芸でやれよ
528水先案名無い人:04/11/23 12:27:23 ID:nM56y3Y/
つまらないから終了でいいよ
529水先案名無い人:04/11/23 12:28:54 ID:nM56y3Y/
乙!登場人物紹介がよかったよ。
530水先案名無い人:04/11/23 12:30:25 ID:nM56y3Y/
(・∀・)イイヨイイヨー
531水先案名無い人:04/11/23 12:31:55 ID:nM56y3Y/
あれ?
1ゲトと思ったのに…
532水先案名無い人:04/11/23 12:33:26 ID:nM56y3Y/
どう言う結末を迎えるんだろうか・・・
533水先案名無い人:04/11/23 12:34:57 ID:nM56y3Y/
まとめサイトもできたことだし、続きはそこでやってね。
いいかげんスレを私物化されるのもウザイから。
534水先案名無い人:04/11/23 12:36:28 ID:nM56y3Y/
カエレ!
535水先案名無い人:04/11/23 12:37:59 ID:nM56y3Y/
氏ね
536水先案名無い人:04/11/23 12:39:29 ID:nM56y3Y/
立会演説会は粛々と進行していった。
候補者たちが一人、また一人と顔を強ばらせて舞台に向かう。
控え室に戻ってくるときの顔は様々だ。笑顔で帰って来る者、落胆の色を隠せない者。
出番をお待ちになる姫殿下は落ち着いたご様子で演説の原稿をご覧になっている。
その横では新美さんが薬の切れた鉄雄みたいになっていた。
腕章をつけた選管の生徒が控え室に入って来た。
「生徒会長候補と応援演説者の皆さん、舞台袖に集合してください」
ついにその時が来た。
姫殿下はぴょこんとお立ちになった。
「よし、行こう!」
それを聞いた新美さんは「ドクン」となった。
(だいじょうぶか、この人? いきなり覚醒したりしないよな?)
「藤村」姫殿下が優しくおっしゃった。
「舞台袖まで来てくれるか?」
「はい、お伴いたします!」
おれは慌てて立ち上がった。

舞台上の強烈なスポットライトのせいか、舞台袖はとても暗く見えた。
控え室とは違い、講堂に集まった360人の気配を肌で感じ取ることができる。
ここまで来たら後戻りはできない。
「続きまして、生徒会会長候補。1年A組マコさん」
アナウンスの声が鳴り響いた。
「藤村、リサリン、行って来ます」
「ご成功をお祈りしております」
おれがそう申し上げると、姫殿下は天に向けてテキサス・ロングホーンを形作られ、
その人差し指と小指の第1・第2関節を折り曲げられた。
「クマ!」
(おお、オリジナル技! 姫殿下がハンセンを超えられた!)
姫殿下は驚いているおれの顔をご覧になるとにっこりと微笑まれ、まばゆい照明の中に歩んで行かれた。
537水先案名無い人:04/11/23 12:41:01 ID:nM56y3Y/
>>左右、
例の消えたところのSSはあなたの作品じゃないのですか?
538水先案名無い人:04/11/23 12:42:32 ID:nM56y3Y/
姫殿下は舞台中央に掲げられた日の丸に一礼され、演壇の前で聴衆に向けてもう一度礼をされた。
「皆さん、こんにちは。生徒会会長候補、1年A組マコでございます」
こう自己紹介されると、姫殿下はお口を閉ざされた。
しばしの沈黙……
姫殿下は講堂内を見渡されると、こうおっしゃった。
「選挙に出る前のわたしだったら、この場に立つだけで緊張してしまっていたでしょう。
でも、わたしの心はは今とても落ち着いています。
選挙活動中に知り合うことのできた皆さんの顔が舞台の上からはっきり見えるからです」
姫殿下はにっこりと微笑まれた。
「新美さん、皆の顔が見えるそうですよ」
おれがそう囁くと、緊張のあまり一気に老けてしまった新美さんは
「ウェー、ハッハッハ」
とにしこり笑った。
「わたしは今までぼんやりと学校に通っていたのかもしれません」姫殿下は続けられた。
「学校にくれば教室があり、わたしの机がある。
名簿にわたしの名前があり、出席番号がある。
それだけでわたしはこの学校の一員なんだとぼんやり考えていたのです。
でも今回の選挙活動を通じて、その先があることに気付きました。
校内のいろいろなところで演説をして、ビラを配って、挨拶をする。
そうやって皆さん1人1人と知り合うことで、わたしがこの学校にいる意味を知ることができました。
わたしたちがここにいるのは偶然かもしれないけれど、その偶然を生かすも殺すも自分次第なのです。
同じ空間、同じ時間、同じ目標を共有して初めて「わたし」は「わたしたち」になれるのです」
おれは姫殿下のお言葉を特に驚きもせず拝聴していた。
なぜなら今姫殿下がおっしゃっていることは、姫殿下がいつもおれに教えてくださっていることだったからだ。
おれが誰かとともに生きることの意味を知ることができたのは姫殿下のおかげなのだ。
539水先案名無い人:04/11/23 12:44:03 ID:nM56y3Y/
そうです。
あちらは完全に投げ出してしまいましたが。
540水先案名無い人:04/11/23 12:45:34 ID:nM56y3Y/
姫殿下は具体的な政策のお話をされた。
「現在多くの部活では週何回かの活動日が決まっていますが、
そのうちの最低1日を部外の人も参加できるオープン・デーにしたいと考えています。
もう部活に入っているけれど他の種目もやってみたいという人、楽しく運動がしたいという人、
予定があって週1回くらいしか出られないという人、そんな人たちにぜひ来ていただきたいと思います。
ちなみに美術部ではそういうのは関係なくいつでも参加者募集中です。
あ、これは宣伝ですけど……
それから、2つ以上の部活に参加している人でも大会などに参加できるよう、競技団体や文科省などに働きかけていきたいと思います」
姫殿下のご構想は壮大だ。
だがこのようなことをおっしゃるのもご自身が部活動を愛しておられるからだろう。
口先だけの美辞麗句を並べているわけではない。
「みなさん、一緒に緑濃い学園の中を走ったり、歩いたりしましょう」
姫殿下はご演説をそう締めくくられた。
万雷の拍手の中、舞台袖に戻って来られた姫殿下は、おれの顔をご覧になると、ひとつ大きなため息をつかれた。
「終わった……」
「おつかれさまでした」
「まだ終わってないいいいい!」
新美さんが金切り声を上げた。
「続きまして、応援演説。1年A組新美リサさん」
「来たああああああああ!」
「リサリン、がんばって」
姫殿下のエールに送られて新美さんはギクシャクと舞台の方へ歩いて行った。
「マコさん、おつかれさま」
安藤さんがノートパソコンを抱えて立っていた。
「あ、安藤さん」姫殿下はお辞儀をされた。「ありがとうございます」
「皆の顔が見えるってとこ、とてもよかったわ。私はパワーポイント使うから暗くてみえないけどね……」
そう言って安藤さんは照れたような笑いを浮かべた。
541水先案名無い人:04/11/23 12:47:06 ID:nM56y3Y/
それも一応保管されてはどうでしょうか?

眞子様を助ける妄想のガイドライン - トルメキア戦線編 -

あれはあれで結構好きでした。
542水先案名無い人:04/11/23 12:48:37 ID:nM56y3Y/
門の外に一歩出ると、梅雨の終わりの強い日差しに汗がどっと吹き出た。
緑豊かで真夏でも涼しい門の中とは大違いだ。
冷房の効いた守衛室にいたいが、作戦開始時刻になってしまったのでそうもいかない。
終鈴から10分経ったのに下校する生徒の姿はない。
おれは無線機を取り出した。
「こちら7番。これより作戦を開始する」
「4番了解。K地点は混雑が予想される。注意してかかれ」
三井隊長の声がした。
おれは無線を切って、校舎の方へ歩き出した。
なぜ大掲示板を見に行くだけなのに、こんなややこしい連絡をしなければならないのだろう。
それに選挙結果を見て姫殿下が落選されていたらどうする?
何と声をおかけすればいいんだ?
どうせならそういった具体的なことを無線で教えてくれたらいいのに……
おれは現場のつらさを噛み締めながら並木道を歩いて行った。

大掲示板前はやはり凄まじい混雑ぶりだった。
張り出された選挙結果を読み取れる位置まで近付けない。
どこか入りこめる隙間はないかと歩き回っていると、ぼんやり立っている堀本先生の姿を見つけた。
「堀本先生、おつかれさまでした」
「ああ、藤村さん」おれが声をかけると堀本先生がドロンとした目をこちらに向けた。
「即日開票にしてよかった……これが始業前だったら大変だったよ。
誰も教室に入ってくれなかっただろうから」
そういって力無く笑う堀本先生におれは尋ねた。
「それで、結果は?」
堀本先生は眼鏡を取ってごしごしと目をこすった。
「自分の目で確かめて来た方がいいよ。ぼくはもう選管担当――中立の立場じゃないから、
余計なことをしゃべっちゃうかもしれない」
これ以上問い詰めるのもかわいそうなので、おれは礼を言って人ごみの方へ向かった。
543水先案名無い人:04/11/23 12:50:09 ID:nM56y3Y/
ありがとうございます。
こちらが一段落したらやってみようと思います。
544水先案名無い人:04/11/23 12:51:40 ID:nM56y3Y/
「失礼します。失礼します」
群がる生徒たちの間を縫って少しずつ掲示板に近づいていく。
模造紙に書かれた名前と数字。
当選を示す赤い花。
(生徒会長は……)
それは掲示板の一番上にあった。

2年B組 安藤元子 151票
1年A組 マコ   205票 当選
無効          6票

(すげえ中途半端な票数……このご当選だけはガチ!)
おれは姫殿下を探した。
ご当選となれば普段通りに声をおかけすればいい。
姫殿下は掲示板の真下で生徒たちと握手をされていた。
そのお姿は本格的に生徒会長らしく、おれが軽々しく近付いてはいけないような気がして、足を止めた。
だが姫殿下の方が先におれをお認めになった。
「おお、藤村」
姫殿下の笑顔は普段とまるで同じで、おれは何と申し上げればよいのかわからなくなった。
「あの……外でお待ちしております。どうぞごゆっくり」
頭を下げて、もと来た方へ引き返す。
なんてしまりのない台詞だろうと落ちこみながら無線機を取り出す。
「こちら8番。庭はみどり川はブルー。繰り返す。庭はみどり川はブルー」
「4番了解。これよりフェイズBに移行する。おめでとう、よくやった」
お車の中にくす玉と色紙の飾りをつけるだけなのにどうしてこう大袈裟なのだろう、
とお役所仕事に疑問を抱きつつも、誉められたので少し嬉しくなった。
545水先案名無い人:04/11/23 12:53:11 ID:nM56y3Y/
左右様
お誕生日おめでとう御座います。
トルメキア戦線編の再録、楽しみにしております。
546水先案名無い人:04/11/23 12:54:42 ID:nM56y3Y/
>そのお姿は本格的に生徒会長らしく、
>おれが軽々しく近付いてはいけないような気がして、足を止めた。
>だが姫殿下の方が先におれをお認めになった。
>「おお、藤村」
>姫殿下の笑顔は普段とまるで同じで、
>おれは何と申し上げればよいのかわからなくなった。

ここのところ、少しジンときた。
やさしいなあ、妃殿下。
547水先案名無い人:04/11/23 12:56:13 ID:nM56y3Y/
unko
548水先案名無い人:04/11/23 12:57:43 ID:nM56y3Y/
「藤村さん、おつかれ」
振り返ると下川さんと美術部員たちが立っていた。
「あ、おつかれさまでした。」おれは頭を下げた。「皆さんおそろいで……」
「ポスターを回収してたの」
三鷹さんが例のオブジェを頭の上に掲げて見せた。
「祭りの後は早く片付けるのが一番!」
そう言って下川さんが笑った。
「皆さん、姫殿下のところへは行かなくていいんですか?」
おれが言うと部員たちは互いに顔を見合わせた。
「人がいっぱいいるから後でね」
「美術室ならいつでも会えますから。今日もこれから集まりますし」
「アイス持ちこみ可ですので、藤村さんもぜひ……」
この人たちはきっとこれからも姫殿下のお友達でいてくれるだろう、と思った。
そこへ安藤さんとキキさんが通りかかった。なぜか安藤さんはにやにやしていた。
「あ、どうもどうも。落選してしまいたけれどもね」
(軽っ……!)
「藤村さん」
安藤さんがおれに正対した。
「な、何でしょう?」
「私、間違っていたみたい。魔王は選挙で選ばれるものじゃないものね。
これからマコさんのところへ行って、いっしょに働かせてもらえるようお願いしに行くわ。
そしていつか『サタンじゃ仕方ないな』って皆に言われるようになってみせる」
「がんばってください」
おれは人ごみの中心目指して走っていく2人の背中を見つめていた。
「よかった……安藤さんもわかってくれて」
「いや、何にもわかってないと思うよ」
下川さんが吐き捨てるように言った。
上の方で何か連続的な音がしたので見上げると、麩菓子をくわえたカコ様が空中通路から
身を乗り出すようにして眼下の光景を激写しておられた。
549水先案名無い人:04/11/23 12:59:15 ID:nM56y3Y/
あれ?ひょっとして終わりが近い?だとしたらチョットサミ(´д`)スィ。。。

550水先案名無い人:04/11/23 13:00:46 ID:nM56y3Y/
生徒会選挙編は終わっても、
まだ文化祭編があるさ(゚∀゚)
551水先案名無い人:04/11/23 13:02:17 ID:nM56y3Y/
トルメキア戦線第1部、読み終えました。
>子どもの頃から何をするにも人に喜ばれたかった
>全て姫殿下が教えてくれたのだから
いいですね。
まとめサイトの追加も楽しみにしています。
552水先案名無い人:04/11/23 13:03:48 ID:nM56y3Y/
あの場合中島みゆきの曲は「時代」より「世情」がふさわしいと思われますが如何でしょう?>左右殿
553水先案名無い人:04/11/23 13:05:19 ID:nM56y3Y/
土曜日の昼下がりにつきものの眠気を誘うそよ風が頬をくすぐる。
地に落ちる木の影と9月の太陽が作り出すコントラストに目がちかちかする。
その先には青い芝。
G習院中等科第2グラウンドではサッカー部初の対外試合が行われている。
4人だった部員が3年生の引退で2人になり、そこに他の部からの助っ人が加わって7人。
お隣の戸山中からの刺客が3人。
さらにそこの男子サッカー部の女子マネージャー2人を無理矢理引きずりこんで、
ようやく合同チーム、トヤマ・トップチーム(TTT)ができあがった。
対するメグロ・グローリーはかつて都で2位になったことのある名門・白金女学院を中心としたチーム。
新進対古豪の熱戦が期待された。
……が、始まってみれば、お互い密集してボールを奪い前線に放りこむだけの泥試合であった。
両チームともユニフォームがなく、黄色とオレンジのビブスで色分けしてある。
まるで体育の授業で行われる素人サッカーのようだ。
だが貧相な見た目を補うかのように、どの選手も大声を出し、一生懸命にボールを追いかけている。
「がんばってるなあ、リサリン」
木陰のベンチに腰掛けられた姫殿下が笑顔でおっしゃった。
フィールド上では守備的MFの新美さんが相手のFWを後ろから倒してファールを取られていた。
「平沢もがんばってるね。このまま完封できるんじゃない?」
下川さんがそう言った途端、早いリスタートからのいいパスががディフェンスラインの裏に転がった。
「平沢、行ったぞ!」
「出ろ!」
「そこでスライディングですよ……」
美術部員たちが檄を飛ばす。
GKの平沢さんは相手FWのトラップがやや大きくなったのを見逃さず、果敢に飛びこんでボールを奪った。
味方ベンチと美術部員から拍手が起こる。
かわいそうに平沢さんはお兄さんのお下がりのグローブを持っていると話してしまったために
サッカー部に拉致されてGKのポジションを与えられてしまったのだった。
フィールドで一番背が低いのにウェアだけ本格的なその姿をおれはベンチの後ろに立ったまま生暖かく見守っていた。
554水先案名無い人:04/11/23 13:06:52 ID:nM56y3Y/
確かに「時代」だと加藤に悲壮感がない……
修正しておきました。ありがとうございます。
555水先案名無い人:04/11/23 13:08:23 ID:nM56y3Y/
藤村×地獄坂エンドは?
556水先案名無い人:04/11/23 13:09:54 ID:nM56y3Y/
 んー、 終わった?
 ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ∧_∧
    ( ・д⊂ヽ゛
    /    _ノ⌒⌒ヽ.
 ( ̄⊂人  //⌒   ノ
⊂ニニニニニニニニニニニニニ⊃
557水先案名無い人:04/11/23 13:11:26 ID:nM56y3Y/
第1体育館の方から獄門島さんが走ってきた。
「藤村さん、こっちはどうですか?」
「0対0です。バスケ部の方はどんな感じですか?」
今日はバスケ部も新チーム誕生後初の練習試合だ。
「今ハーフタイムなんですけど、ちょっと足が止まってきました」
そう言って獄門島さんは首から提げたタオルで顔の汗を拭った。
ベンチで見ている獄門島さんがこの汗なのだから、初めての試合に臨んだ部員たちは疲れ切っていることだろう。
「ところで藤村さん、この後道場に行こうと思ってるんですけど、藤村さんはどうされますか?」
獄門島さんは護衛隊の道場に出向いて逮捕術の指導を受けているのだった。
はじめは放っておいていたのだが、隊員と訓練生たちに藤村式体術のすばらしさを吹聴して回り、
そのためにおれもさぼりがちだった道場に引っ張り出されるようになってしまった。
「私も出ます。この前言ったように柔軟体操をしっかりやっておいてください。
他の人たちが終わっていても必ず自分のペースを守って最後までやること。いいですね?」
おれがそう言うと獄門島さんは一礼して体育館の方に走って戻っていった。
(今日もまたどつきまわされるのか……参ったな……)
昨日先輩に思い切り蹴られた右脇腹をさすりながらため息をついていると、下川さんが振り返った。
「あなた、まだ藤村式ナントカ続けてるの?」
おれは憐れっぽい顔を浮かべて答えた。
「もう大変なんですよ。ぼろが出ないように練習しないといけませんから。おかげで寝覚めもすっきりして、食べ物もおいしく感じるようになり……」
「いいことずくめじゃん」
そう言って下川さんは笑った。
「藤村、今度道場を見学に行くからな」
と媛殿下も振り返っておっしゃった。
「はい、お待ちしております」
おれはそう言って頭を下げた。
「お姉様!」
そこへゴール裏にいらっしゃったカコ様と、安藤さん・キキさんのはぐれ悪魔生徒コンビがこちらに駈けておいでになった。
558水先案名無い人:04/11/23 13:12:58 ID:nM56y3Y/
トルメキアの話はどこにいけば見れるのだろう?
559水先案名無い人:04/11/23 13:14:29 ID:nM56y3Y/
560水先案名無い人:04/11/23 13:16:00 ID:nM56y3Y/
「お姉様、見て。今のシーンがとてもきれいに撮れたわ」
カコ様が差し出されるデジカメの画面を媛殿下が覗きこまれる。
「おお、本当だ。迫力のある写真だ」
媛殿下がそう評されるとカコ様は鼻息をふはっと吹かれた。
おれはその後ろでにこにこしている安藤さんに声をかけた。
「安藤さん、読みましたよ、この間の朝旗新聞の記事」
安藤さんがおれの方を振り向いた。
「どうだった?」
「とても好意的に取り上げられていたと思います。デンマークのスポーツ事情もよくわかりましたし」
「そうね、いい記事だったわね」
そう言って安藤さんはふふふと笑った。
次のサッカー冬季大会に2校以上にまたがる合同チームの参加が認められたのは、
今や媛殿下の参謀となった安藤さんの活躍に負う部分が大きい。
競技団体にせっせと意見書を送り、マスコミを使って世論にも訴えかけようとしている。
デンマークのスポーツ相から応援メッセージをもらったのも北欧好きな朝旗新聞の読者層にアピールするためだったという。
「次は野球と陸上を狙っているところ。どちらも来年の北京オリンピックに向けて話題が欲しいところだから。
特に陸上は楽しいわよ。投擲系の人たちとトラックの人たちが仲たがいして内紛状態ククク…」
安藤さんは愉快そうに笑った。
(むう、反省の色なし……)
安藤さんは美術部員たちにラムネを配っておられるカコ様のお肩をぽんぽんと叩いて言った。
「カコちゃん、今度は応援している戸山中サッカー部の男子を撮影しましょ。
こういう写真はある筋の人たちにものすごく訴えかけるものがあるから」
「あの……ある筋って?」
おれは念のため尋ねてみた。
「男女同権論者とかよ。藤村さん、変な想像したでしょ?」
「しーましェーン!!」
とおれは棒読みで謝っておいた。
561水先案名無い人:04/11/23 13:17:32 ID:nM56y3Y/
「では行きましょうか、安藤大魔王」
とカコ様がおっしゃった。
「行きましょう、メディア王。キキ運輸大臣も早く」
と言って安藤さんは走り出した。
カコ様と三脚を抱えたキキさんがそれに続いた。
「カコが自分の能力を生かせる場所を見つけられてよかった」その光景をご覧になっていた媛殿下が満足げに頷かれた。
「その場所にカコ様を配置なさったのは姫殿下のご英断でございました」
そういっておれはフィールドを眺めた。ちょうど前半終了のホイッスルが鳴ったところだった。
姫殿下と美術部員たちはサッカー部のベンチの方に走って行った。
前半走りまわった部員たちは案の定グロッキー気味だった。
後半に向けてのミーティングが行われているが、誰も頭に入っていないようだ。
ミーティングが終わると、新美さんと平沢さんが美術部員たちのところへやってきた。
「サッカー最高!」
新美さんが叫んだ。美術部員たちが笑った。
「平沢は?」
「私ですか? そうですねえ……ポジション以外は最高です。天気もいいし……」
姫殿下は汗だくでしゃべっている2人を優しい笑顔で見守っておられた。
「あと、ディフェンダーのファールが多いのはちょっと……」
「いや、あれはしょうがないって」
「しょうがなくありません。出足が遅いんですよ」
ピッチの方へ歩きながら2人は言い合いをしていた。
ところがタッチラインをまたぎ越したところでその新美さんが振り返って言った。
「マコリン!」
お名前を呼ばれた姫殿下はベンチから立ちあがられた。
「わたしが今ピッチに立てるのもみんなマコリンのおかげ!
今ピッチに立つ22人とベンチの選手全員はマコリンに深く感謝してます。マコリン、本当にありがとう!」
フィールド中が拍手の音に包まれた。
562水先案名無い人:04/11/23 13:19:03 ID:nM56y3Y/
「そんな……わたしは何も……」
姫殿下は照れておいでだった。
選手たちは口々に思いを述べた。
「試合できて嬉しいです!」
「芝の上を走るのは最高です」
「合同チームが参加できるようにしてくれてありがとう」
「私たちに大きな夢をくれたことを感謝します」
姫殿下はそれを聞いておられるうちに白玉のごとき涙を落とされた。
おれは慌ててハンケチを出して姫殿下にお貸しした。
姫殿下はそのハンケチを握り締めて泣き崩れられた。
おれは思わず肩をお貸しした。
「藤村、こんなにたくさんの人がわたしに感謝してくれている……」
「はい、姫殿下は彼女たちの夢を作られたのです。さあ、胸をお張りください。
後半に向かう選手たちにお言葉をおかけになってはいかがでしょう」
「そうだな」
姫殿下はハンケチで涙を拭いながら選手たちの方に向かってお立ちになった。
「皆様、ありがとうございます。皆様はわたしにも夢を共有させてくださいました。
これからも皆様と夢を共有していきたいと思っています。
それがともに生きることの意味だからです。
後半も楽しくプレーができるよう祈っております」
姫殿下が一礼された。
選手たちは拍手をした後、ピッチに散っていった。
姫殿下はベンチに腰をおかけになって睫に残る涙の白露を落としておられた。
「藤村」姫殿下が振り返っておっしゃった。「そなたの夢は何だ?」
恥ずかしかったが申し上げることにした。
「はい、私はずっと夢のない人生を送ってきました。ですが姫殿下とお会いして夢ができました。
私の夢はこれからもずっと姫殿下をお守りすることでございます」
「そうか」姫殿下はそっけなくおっしゃった。「そなたはわたしの護衛だ。これからもずっとだぞ」
「ありがとうございます」おれは頭を下げた。
後半の開始を告げるホイッスルが鳴り響き、フィールド上の選手たちが躍動し始めていた。
563水先案名無い人:04/11/23 13:20:35 ID:nM56y3Y/

おわり

第2部「姫殿下バトンリレー」に続く
564水先案名無い人:04/11/23 13:22:06 ID:nM56y3Y/
乙。面白かったYO !
565水先案名無い人:04/11/23 13:23:37 ID:nM56y3Y/
乙!!!!
566水先案名無い人:04/11/23 13:25:07 ID:nM56y3Y/
乙した!
567水先案名無い人:04/11/23 13:26:38 ID:nM56y3Y/
何、まだ続ける気なの?
いいかげんやめてほしいんだけど。ウザ・・・。
568水先案名無い人:04/11/23 13:28:10 ID:nM56y3Y/
毎回、とても楽しく読ませて頂きました。お疲れ様でした!
569水先案名無い人:04/11/23 13:29:41 ID:nM56y3Y/
最後の2話ぐらい少々消化不良気味

ちょっと残念だった。ヽ(`Д´)ノ

オチガついてるようなついてないような・・・次に期待。。
570水先案名無い人:04/11/23 13:31:11 ID:nM56y3Y/
スレタイに即した内容がウザいなら、とっとと去るべきだ
もしくは君が書くか
571水先案名無い人:04/11/23 13:32:43 ID:nM56y3Y/
        /´  〃三=、      \三二 ヽ
    /    l|    \\ 、、`Y 二ミ ヽ   そなたは
   ./      i|  ̄``ヽ、 \ヽ }} jj ! ー ヽ ',   わたしの
   l    / |l|、二._  \ヽl j〃ノ  二ミ、ハ    護衛だ。
   | i i|i  i i|三二= 二.__ヽY∠ 彡 Z彡ハ^ヽ   これからも
   | l 川 { l l_l」=ニ三二ン´_,Y⌒ヾ三乙 ,彡jヾ l '、  ずっとだぞ
   ヽヽ\ >'´ _,   川 〈 j. |l || ト三Z 彡/ l l | !
    `┴ヘ yぐ゙   {lリ Y ノj || ト三 彡/  l l | |
         } ヾ〉    ヽ! T´(l || ドミ,/シ′   | l | |
         /           川 l|`Y夭     | l | |!
       `ヽ        ,  | | l| !  )   | | | l|
        `';=‐       / ||l| l     川|l|!
         `、     ,ィ'   | | l|__」..-─-、lj | l|l|
            ー ´ l __,」 l  l|      ヽ||| l|
              /´ / /   リ       Vl|l|
( '∀`)        ,∠二二./ /   〃          Vl|!
ノ へへ      ,∠二二二./ /   /          Vl_」

ありがとうございます          
572水先案名無い人:04/11/23 13:34:14 ID:nM56y3Y/
まぁ、退官して獄門島さんと道場はじめるんですけどね
そして、何故かロシアで藤村式体術が大人気
北方領土問題で眞子様を狙うロシアの謎のサンボマスター暗殺者に
毒男藤村が今なり行きで立ち向か








わない
573水先案名無い人:04/11/23 13:35:44 ID:nM56y3Y/
遅ればせながら乙です。
574水先案名無い人:04/11/23 13:37:16 ID:nM56y3Y/
1(第1週 木曜日)

深呼吸して手を水の中にずぶりと突き入れると、冷たさで皮膚がびりびり痺れた。
金盥の底に沈む砥石を取り上げ、水も切らずに流しの側にある机に乗せる。
椅子に腰かけ、姫殿下ご愛用の版木刀を一度押し戴いてから砥石の面にあてがう。
「はい、そのままの角度で力を入れて……」
横に座った平沢さんの指示通りにゆっくりと砥いでいく。
すでに指の先は冷たい水で真っ赤になり、感覚がなくなってきている。
全身がぶるんと震えそうになるのをこらえながら刃を前後に動かす。
「う〜、暖かい……極楽……」
弁当を食い終わった下川さんが机に突っ伏したまま呟いた。
彼女と三鷹さん、キャノンさんは部屋の中央に置かれた灯油ストーブを囲んで座っている。
11月に入って急に寒くなってきたので、隣の美術準備室から引っ張り出して来たものだ。
3人はしばらくボーっとしていたが、やがてそれぞれの作品製作に取りかかった。
だがそれも長くは続かず、皆手を止めて頬杖を突いた。
「マコちゃんと松川、遅いね……」
三鷹さんが物憂げな声で言った。
「やっぱり文化祭の件ですかね……」
キャノンさんがいつもの不機嫌そうな声で言った。
「文化祭の件」とはこの間の文化祭で美術部が出した大赤字のことだ。
美術部の今年のテーマはG習院中等科マスコットキャラ「華族ちゃん」だった。
もちろん公式なものではなく、彼女たちが勝手にぶち上げたものだ。
その目玉として来場者全員に「華族ちゃんステッカー」を無料配布した。
最初の見積もりでは予算内に収まっていたのだが、
下川さんが「スノボに貼りたい」と言い出し、急遽塩ビコーティングをすることになった。
それがいけなかった。
納期の都合上、委員会の承認を待たずに発注し、余裕で大赤字をこいてしまったのである。
現在出席されている会議ではこのことが中心議題のひとつとされることになっている。
生徒会長・姫殿下と美術部部長・松川さんはそちらに出席されているのだ。
「まあ、でもこれを乗り切るが部長の仕事よね」
と前部長の下川さんが他人事のように言った。
575水先案名無い人:04/11/23 13:38:48 ID:nM56y3Y/
   /|:: ┌──────┐ ::|
  /.  |:: |「姫殿下     .| ::|
  |.... |:: | バトンリレー」.| ::|
  |.... |:: |    に続く  .| ::|
  |.... |:: └──────┘ ::|
  \_|    ┌────┐   .|     ∧∧
      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄     (  _)
             / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄旦 ̄(_,   )
            /             \  `
           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|、_)
             ̄| ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄| ̄

     |           .( ( | |\
     | )           ) ) | | .|
     |________(__| .\|
    /―   ∧ ∧  ――-\≒
  /      (    )       \
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  |______________|

   ∧∧
  (  ・ω・)
  _| ⊃/(___
/ └-(____/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  <⌒/ヽ-、___
/<_/____/
576水先案名無い人:04/11/23 13:40:20 ID:nM56y3Y/
糞スレ終了
577水先案名無い人:04/11/23 13:41:51 ID:nM56y3Y/
前々から思ってたんだけど、ローマの休日?
578水先案名無い人:04/11/23 13:43:22 ID:nM56y3Y/
版木刀の仕上げ砥を平沢さんに任せ、丸刀の砥を始めた頃、松川さんが美術室に戻って来た。
彼女は書類の入ったクリアファイルを机の上に投げ出すと、ため息を吐きながらストーブを囲む輪に加わった。
「参った……安藤さんにめちゃめちゃ怒られた。文化祭のことだけじゃなくて活動計画書とかもボロクソ……」
先の選挙で姫殿下に敗れた安藤さんはいまや姫殿下の腹心となって生徒会を切り盛りしているのだった。
「安藤さん、厳しいからねえ」
三鷹さんが肩をすくめた。
「あの、姫殿下はいつ戻られるのですか?」
おれは手を止めて松川さんに尋ねた。
「うーん、何人かに引き留められてたから、まだしばらくかかると思う」
松川さんが頭を抱えたまま言った。
(姫殿下も大変だなあ……)
姫殿下は会議好きの安藤さんに付き合わされる形で生徒会の会議に参加され、
美術部では連作版画を作成中、さらに週1回陸上部で汗を流されている。
校内でもっとも多忙な生徒のひとりであらせられるのだ。
もっとも護衛のおれにとってみれば、その間姫殿下のお側にいられるのだから喜ばしいことこの上ない。
おれは一度かじかむ指を曲げ伸ばしして、再び版画刀を砥ぐ作業にかかった。

姫殿下が美術室にお戻りになったのはおれと平沢さんがあらかた版画刀を砥ぎ終わった後だった。
「ただいま帰りました」
勢いよくドアを開けて入って来られた姫殿下が元気にお声を発せられた。
「お帰り〜」「お疲れ」
美術部員たちが眠たげな声を上げた。
「あ、みずほちゃんに藤村、砥いでおいてくれたのか。どうもありがとう」
おれの側に歩み寄られた姫殿下は、息を切らせておいでだった。
「姫殿下、駈けておいでになったのですか?」
そうお尋ねすると姫殿下は大きく頷かれて、手にされた書類の束から一枚の紙を取り出された。
579水先案名無い人:04/11/23 13:44:54 ID:nM56y3Y/
「陸上部オープン選考会のお知らせ」
姫殿下の差し出された紙にはそう書かれてあった。
「これは……?」
「うん、今度の冬季大会に出るメンバーを陸上部が公募しているんだ」
姫殿下はこみ上げてくる笑いをこらえながらおっしゃった。「わたしも出る!」
そのお言葉に美術部員たちが色めき立った。
「すごい! 本当に?」
「マコちゃん足速いもんね」
「リレーの選手ですからね……」
確かに姫殿下は体育祭のリレーの選手であられた。
ご自身の脚力に自身をお持ちになるのは当然である。
鈍足のおれにとって「リレーの選手」という称号は夢のまた夢。
当然ながら技術的指導など行えるはずもない。
(残念ながら今回は姫殿下のお役に立てないな……)
とおれが背中を煤けさせていると松川さんがビックリドッキリ情報を漏らした。
「そういえばルナ先生が陸上部の練習見てるらしいわね。
あの人、大学の陸上部に入ってるから……」
(ルナ先生!?)
おれはやおら姫殿下に耳打ちし申し上げた。
「姫殿下、ルナ先生とはどなたですか?」
「教育実習生の先生だ。教科は英語で……」
「すごくかわいい人よね!」
下川さんが姫殿下のお言葉を遮るように言った。
「詳しく!」
おれは思わず立ち上がって叫んだ。
580水先案名無い人:04/11/23 13:46:25 ID:nM56y3Y/
それを聞いた美術部員たちが笑った。
「確かにカワイイ系ですね」
「あのボーイッシュな感じがいいわよね」
「最後の清純派といった風情です……」
「優しくてすごくいい先生だぞ」
姫殿下のお言葉におれは深く頷いた。
「そうでしょう、そうでしょう。名前を聞いたときにそうだと思いました」
おれはモヤモヤ〜ンと未来予想図を頭の中に描いてみた。

おれ全力疾走

遅い

個人指導

個人指導(いけないほう)

「ほっ本当にこんなことしていいの〜っ」
(以下略)

「姫殿下! 私も走ります!」
「えーっ!?」
おれの積極的な意見表明に姫殿下は驚きのお声を上げられた。
「いや、別にそなたは走らなくとも……」
「いえ、走ります!」
「む、そうか……」姫殿下は困惑の表情を浮かべられた。「まあ、そこまで言うのなら……」
「じゃあ、マコちゃんと藤村さんが美術部代表として出走ということで」
松川さんが言うと美術部員たちの間からぱらぱらと拍手が起こった。
581水先案名無い人:04/11/23 13:47:58 ID:nM56y3Y/
放課後のグラウンドはただならぬ緊張感に満ちていた。
「陸上部オープン選考会・受付」という看板の掲げられた机の前に生徒たちが並んでいる。
おれは姫殿下と共に列の中に加わっていた。
姫殿下は辺りを見回されてから、そっとおれに囁かれた。「藤村、本当に走るのか?」
「はい」おれは即答し申し上げた。「実はこれには理由がございまして……」
「理由? どんな理由だ?」
姫殿下のお尋ねに、おれは昨晩思いついた言い訳を申し上げることにした。
「短距離走で隣のレーンに速い選手がいるとそれに引っ張られて好記録が出ることがございます。
今回、私が姫殿下の牽引役となり姫殿下の勝利を確実なものにいたします」
「何と! そのような作戦だったとは」
姫殿下は驚きの声を上げられた。
「私を追いかけるつもりでお駈けになれば自己ベストはおろか代表入りも間違いないかと……」
「むむむ、さすが藤村。こうした策略にかけては天下一品だな」
「恐れ入ります」
お褒めの言葉におれは頭を下げた。
「実は私、大の陸上好きでございまして世界陸上なども毎回全種目テレビ観戦しております」
「なるほど、どうりで陸上競技に造詣が深いわけだ」
姫殿下は感心しきりであられた。
実は世界陸上を全部見るというのは元廃人のおれにとっては容易なこと。
目当てはもちろん織田裕二ウォッチ&TBS公式掲示板に縦読みカキコである。
ようやくそんな無駄な努力が実を結ぶ日が来たようだ。
「受付ではあくまでも護衛目的であることを強調してください」
「うん、わかった」
姫殿下はおれのご献策にすっかり満足されたご様子だった。
582水先案名無い人:04/11/23 13:49:30 ID:nM56y3Y/
姫殿下が受付をされる番になった。
「1年A組マコ、短距離志望です。それからこれが護衛の藤村で……」
おれはルナ先生を求めて辺りを見回した。
(まだ来ていないようだな……)
「……いえ、ですから本人がどうしてもと……はい、わたしの1つ外側のレーンで」
受付の生徒は戸惑っていたが、最終的にはおれの名を名簿に書き入れた。
受付を済ませた生徒たちは芝生の上でウォーミングアップを開始している。
姫殿下とおれがそちらに向かいかけたとき、聞き覚えのある声がした。
「マコちゃん、藤村さん」
振り返ると美術部員たちが立っていた。
「応援しに来たわよ」
「旗も作ってきたんだ。ほら」
全員の手に姫殿下のお名前が書かれた小旗があった。
「皆ありがとう」
姫殿下のご機嫌が麗しいので、おれの応援グッズがないことには目をつぶることにした。

グラウンドには続々と生徒たちが集まってきていた。
その中からいつもの3人組が連れ立ってやって来た。
獄門島さん・八つ墓村さん・病院坂さんの元部長トリオだ
「あれ、藤村さん、応援ですか?」
獄門島さんの問いにおれはこれまでのいきさつを話した。
「はあ、なるほど……護衛ですか。うちからもポイント・ガードの子が出ますんでよろしく」
「バレー部も一番速いのを出します」
「ソフトボール部も」
オープン参加ということでどこの部も代表選手を出しているようだ。
おれが彼女たちから有力な選手たちの情報を聞いていると、1人の生徒が話に割りこんできた。
「何してるんすか? 作戦会議?」
見ると、姫殿下の同級生・新美さんだった。
583水先案名無い人:04/11/23 13:51:02 ID:nM56y3Y/
新美さんは以前のマゲ状の髪型ではなく、ショートカットになっていた。
なぜか髪の毛がべたべたごわごわで、三日くらい洗っていないように見えた。
「どうしたんですか、その髪……? あれ? その髪型、どこかで見たような……」
おれがそう言うと、新美さんは前髪をいじりながら笑った。
「これはNEVADAちゃんのまねで〜す」
「あ、本当だ! NEVADAと同じだ!」
NEVADAとは先月衝撃的なデビューを果たした経歴不詳、弱冠15歳の美少女アーティストである。
独特の陰鬱な歌詞やメロディーが同世代の若者から熱狂的な支持を受けている。
1stアルバム『NEVERDIE』の売上は発売1ヶ月で早くも100万枚に達する勢いだ。
「"Smells Like Teen Blood"のPVがすごくカワイイのよね」
「私はアルバム7曲目の"Territorial Cutting"が好きです」
「あ、藤村さん、アルバム持ってるんだ。うざったてー」
「うざったてー」
おれと新美さんはファンだけにわかるスラングで笑いあった。
「藤村さん、随分楽しそうね」
獄門島さんが、よくわからない、という顔をして言った。
「リサリン!」姫殿下がおれの背後からぴょこんと飛び出された。
「調子はどう?」
「はっきり言って負ける気がしない。周り見ても大して速そうな人はいないし」
新美さんのこの不用意な発言で周囲の生徒たちから人特有の湿った視線が浴びせられた。
おれは、大した奴等じゃない、無視だ、と考えながら言った。
「ところで(むちむちぷりぷりの)ルナ先生はどこにいらっしゃるのでしょうか?」
「え? ルナ先生なら……」
姫殿下のお言葉を遮って笛の音が鳴り響いた。
「選考会に出場される方はグラウンド中央にお集まりください」
クリップボードを持った生徒が触れて回っていた。
「では私は端の方でお待ちしておりますので……」
「藤村も出走するのだから来た方がいいぞ」
そうおっしゃって姫殿下は嫌がるおれの腕を引っ張られた。
584水先案名無い人:04/11/23 13:52:34 ID:nM56y3Y/
何故だろう
育つ雑草が頭に浮かんだ…
585水先案名無い人:04/11/23 13:54:05 ID:nM56y3Y/
ゴミスレ終了
586水先案名無い人:04/11/23 13:55:36 ID:nM56y3Y/
黙れ
587水先案名無い人:04/11/23 13:57:07 ID:nM56y3Y/
陸上部部長・村田さんの競技説明をおれは生徒たちに混じって体育座りをして聞いていた。
「短距離の出場者には100mと200mをそれぞれ1本ずつ走ってもらいます。
中距離の人は800と1500を1本ずつ。跳躍の人は……」
姫殿下はなぜかメモを取りながら聞いておられた。
おれはぼんやりとグラウンドを見渡していた。
総天然芝のフィールドに舗装された400mトラック。
その周りをうっそうとした林が囲んでいる。
都心にあることを忘れてしまいそうなほど静かで美しい場所だ。
ふと校舎の陰からジャージ姿の男が小走りにやって来るのが目に入った。
首からストップウォッチをレイのようにたくさんぶら下げている。
(こんな先生いたっけ……? 髪を切ったのかな? ちょっと思い出せない)
そこまで刈ったら負けかな、と思ってしまうほどきれいな丸坊主だった。
彼に気付いた村田さんが説明を止めて言った。
「今日は教育実習生の榛名先生が審判部長を務めてくださいます」
榛名先生と呼ばれた男はぺこりと頭を下げた。
「榛名です。よろしく」
姫殿下がおれの肩を叩いておっしゃった。
「藤村、ほら、あれがルナ先生……」
「えっ!?」おれは鋭く姫殿下の方を振り向いた。「ルナ先生はあんな人じゃありません!」
「いや"あんな人じゃない"と言われても……」
「あの人のどこがルナ先生なんですか?」
「ハルナだからルナ先生」
「申し訳ございませんが私、棄k」
おれが途中まで言いかけたところで村田さんの話は終わり、生徒たちが一斉に立ち上がった。
588水先案名無い人:04/11/23 13:58:38 ID:nM56y3Y/
セーフモードで起動
589水先案名無い人:04/11/23 14:00:09 ID:nM56y3Y/
誤爆スマソ。
590水先案名無い人:04/11/23 14:01:40 ID:nM56y3Y/
眞子さまのことを想うならこんなゴミスレは終了するべきだ。

=== 終了 ===
591水先案名無い人:04/11/23 14:03:12 ID:nM56y3Y/
そう思うならお前がここに来なければいいだけの話。


と、マジレスしてみるテスト。

こないだからいろんなスレで同じようなのが涌いてるけど全部同一人物なのかな?
暇があるってうらやますぃ。
貧乏暇なしっと。

あ、左右さんいつも乙です。一読者としていつも楽しみにしてるのでがんがってくださいね。
592水先案名無い人:04/11/23 14:04:42 ID:nM56y3Y/
アンチに負けたら許さんぞ左右
593水先案名無い人:04/11/23 14:06:13 ID:nM56y3Y/
俺のことはどうでもいいんだよ。
眞子さまの為だ。
594水先案名無い人:04/11/23 14:07:45 ID:nM56y3Y/
榛名先生はおれが名刺を渡すとしげしげとそれを見つめた。
G習院大学の学生だけあって特に護衛隊という肩書きを珍しがることはなかった。
ただおれの服装を見て
「その格好で走られるのですか?」
と聞いてきただけだった。
おれは、これがユニフォームだから、と答えた。
足元はアディダスのGSG9タクティカル・ローカットを履いているので普通の革靴より走りやすくなっている。
「教育実習は普通夏前にやるものなんですが、大学の陸上部の方で遠征しておりまして、
それで無理を言ってこの時期にこちらでお世話になっているわけです」
榛名先生はそう言って恥ずかしそうに頭を掻いた。
どうやら本格的に体育会系の人のようである。
新美さんと姫殿下はスタートの姿勢について榛名先生に質問しておられた。
そこへデジカメを持ったカコ様がぴゅーっと駈けて来られた。
「お姉様、応援に……」カコ様はそこで突然立ち止まられて、大きなお声で叫ばれた。
「見上げ入道見越したッ!」
それからばったりとお体を地に投げ出された。
そこにいた全員があっけにとられていた。
事情を察したおれはすばやくカコ様のお側に駈け寄り耳打ちし申し上げた。
「カコ様、あれは妖怪見上げ入道ではございません。教育実習生の榛名先生です」
「あら、本当? わたしてっきり妖怪見上げ入道かと……」
「何なんですか、いったい?」
榛名先生が上ずった声で言った。
「ちょっとしたおまじないです。妖怪見上げ入道に出会ったときの」
お召し物についた草を払いながらカコ様がおっしゃった。
595水先案名無い人:04/11/23 14:09:16 ID:nM56y3Y/
>アディダスのGSG9タクティカル・ローカット

ワラタ
596水先案名無い人:04/11/23 14:10:47 ID:nM56y3Y/
第1レースでは陸上部員が余裕を持って1着を取っていた。
姫殿下とおれは100mの第2組に出ることになった。
姫殿下はすでにブルマ姿の臨戦体勢。
一方のおれは護衛隊員にウォーミングアップなど不要! と余裕を見せつけていた。
(まあいくら何でも女子中学生に負けることはあるまい……)
第1組全員のタイムが読み上げられ、第2組の走者がコースに出る番になった。
「よし、行くぞ!」
姫殿下がご自分の頬をぱちんとひとつ打たれてトラックに足を踏み入れられた。
姫殿下は第1レーンを走られる。
「ここで皆さんにお知らせがあります」スターターの横に立った陸上部員が声を張り上げた。
「第2レーンは特別参加、護衛隊の藤村さんが走られます」
「デカカァァァァァいッ説明不要!! 藤村です」
言葉の最後の方は歌丸師匠風に決めてみたが、他の走者たちには完全に無視された。
おれは気を取りなおし、スタート位置についた。
外側のレーンを眺めてみると、第4・6レーンに陸上用のスパイクを履いた選手がいる。
クラウチングの姿勢などなかなか本格的で、素人のおれから見てもその実力のほどが窺える。
おれはひとつ深呼吸してから手を突いた。
「位置について! 用意!」
パン!
おれは勢いよく飛び出した。
(あれっ?)
最初の10mほどですでに第4レーンの選手に先行されている。
おれは体育の授業でやったことを思い出し、脚を高く上げ、地面を強く蹴リ続けた。
だが先頭との距離は縮まらない。
(やばい……)
597水先案名無い人:04/11/23 14:12:20 ID:nM56y3Y/
ガイドライン?
598水先案名無い人:04/11/23 14:13:51 ID:nM56y3Y/
いいかげん↓でやりなよ。
ガイドラインでも何でも無いだろ。

眞子様のSSを書くスレ Part1.5
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/test/read.cgi/mako/1094828391/
599水先案名無い人:04/11/23 14:15:22 ID:nM56y3Y/
(姫殿下、姫殿下は……?)
おれは顔を第1レーンの方に向けた。
(あれれっ?)
姫殿下はおれの真横を走っておられた。
(うそ……ぼく、負けてしまうん?)
病気の子供のようなことを考えながらゴールに飛びこむ。
「1着、第4レーン有藤さん、13秒10。2着、第2レーン藤村さん、13秒33.
3着、第1レーンマコさん、13秒38。4着……」
記録係が着順とタイムを読み上げる。
姫殿下が飛び上がって喜んでおられるのが見えた。
「やった! 自己ベスト!」
おれは膝に手を突き、呼吸を整えながらこの結果について考えていた。
(要人より足が遅い護衛……飛べないブタより価値がない!)
今後の身の振り方を真剣に案じていると、姫殿下がニコニコ顔で歩いて来られた。
「藤村、そなたの言うとおりにしたら本当に記録が……どうした、泣いているのか?」
姫殿下はおれの顔を覗きこまれ、そっと囁かれた。
「せっかく2位になったのにそんな残念そうな顔をしていたら、負けた人に悪いぞ」
「申し訳ございません……」
おれはがっくりと肩を落とした。
美術部員たちのところまで歩いて行く途中でも姫殿下はいつもより饒舌であられた。
「200mもこの調子で頼むぞ。今のように競り合った方がタイムが伸びるかもしれないな」
次のレースは本気で勝ちに行かなくてはならないようだ。
美術部員たちは芝生の上に固まって座っていた。
「藤村さん、もっと腕を振らないと」
「藤村さん、もっとスタートがんばらないと」
「ていうかさ、足が遅い。基本的に」
「まあ苦しいながらもタイム的にはうまくまとめたという感じですね……」
「はあ、そうですか……」
彼女たちのアドバイスもまったく耳に入らなかった。
600水先案名無い人:04/11/23 14:16:55 ID:nM56y3Y/
タイム考証にちょいと疑問有
601水先案名無い人:04/11/23 14:18:27 ID:nM56y3Y/
200mも先ほどの100mと同じ組み合わせで争われる。
おれは真っ先に自分のレーンに入り、精神統一を図った。
200mの場合、スタートしてしばらくは曲線のコースを走ることになる。
徒競走専門(好き好んでなったわけではないが)だったおれにははじめてのスタート位置である。
おれは蹲踞の姿勢で合図を待った。
まっすぐ前を見据えたときに自分の目的地が視界に入ってこないというのはなかなか不安なものだ。
コースの感触を確かめられた姫殿下がゆっくりとスタート地点に戻っておいでになるのが見えた。
フィールドに立つスタート係がゴールの方とジェスチャーで何かやり取りしている。
「それでは第2組の競技を始めます。位置について!」
選手たちが自分の間合いでクラウチングの姿勢に入る。
おれはゆったりと脚の位置を定めた。
姫殿下はおれの後方でいつでも飛び出せる格好だ。
「用意!」
パン!
フライング覚悟で合わせたのが幸いして、いきなり1足分くらいのリードを奪った。
不思議なもので端から見ていると順位がわかりづらい曲線コースでも、走っていると自分の位置がはっきりわかる。
おれはコーナー中盤でさらに2位との距離を広げた。
(いける! そうだ、昔から距離が長い方が得意だったもんな)
勝利を確信したおれはちらりと内側のレーンに目をやった。
姫殿下はおれのほぼ真横を走っておられた。
(さすが姫殿下、このスピードについてこられるとは。
あれ? おかしいぞ。コーナーでこの位置ということは……)
直線への入りでおれの視界に姫殿下のお姿が入ってきた。
(ひ、姫殿下がおれの前におられる!)
602水先案名無い人:04/11/23 14:19:58 ID:nM56y3Y/
速過ぎ? 遅すぎ?
603水先案名無い人:04/11/23 14:21:29 ID:nM56y3Y/
女子で13秒切ると高校の県大会に出られるよ(スパイク使用)
604水先案名無い人:04/11/23 14:23:01 ID:nM56y3Y/
なんか語順がむちゃくちゃでないかい?
605水先案名無い人:04/11/23 14:24:32 ID:nM56y3Y/
本物の荒らしが来たw
↓他のスレとともにこちらに報告あり

【単独スレ】スクリプト・コピペ報告スレッド12【全板共通
http://qb5.2ch.net/test/read.cgi/sec2chd/1098590728/

荒らしの中の人はsageがデフォなのかな?
606水先案名無い人:04/11/23 14:26:02 ID:nM56y3Y/
姫殿下がぐっと加速をつけられる。
おれは必死で追いかけたが逆に離されるばかり。
コーナーでついたスピードの差がここへ来てさらに広がっている。
その上、脚が思い通りに動かなくなってきた。
ゴール前で力尽きたおれは前のめりにばったりと倒れた。
「1着、第1レーンマコさん、28秒45。2着、第4レーン有藤さん……」
「はっはー! やったやった!」
姫殿下のご歓声が聞こえた。
「第2レーン藤村さんは失格となります」
「ははは、失格だって」
「記録を消そうとしたんじゃない? ほらよくあるでしょ、ハンマー投げとかで」
「いや、あれ勝ってないと意味ないですから」
美術部員たちが勝手な批評をしている。
おれはうつぶせのまま硬質ゴムと敗北の感触を体全体で確かめていた。
「あれ? 藤村さんが起き上がらない」
「ツェツェ蝿を媒介とする眠り病ですかね?」
「蹴伸び……」
「藤村、だいじょうぶか?」姫殿下が息を切らせながらおれを助け起こしてくださった。
「藤村の作戦のおかげで勝てたぞ」
「もったいないお言葉……」
おれはよろよろと立ち上がった。
「藤村さん、おつかれさま。はい、ナッツぎっしり確かな満足・ゴディバのマカデミアナッツ」
カコ様がおれの口にでかいチョコの塊を押しこんでくださった。
それは負け癖がついてしまいそうなほど甘く、柔らかだった。
607水先案名無い人:04/11/23 14:27:34 ID:nM56y3Y/
全国大会の記録を参考にしていたのがいけなかったみたいです。
参考になりました。
どうもありがとうございます。
608水先案名無い人:04/11/23 14:29:05 ID:nM56y3Y/
トラックでは1500mのレースが行われていたが、フィールドでは短距離の結果が発表されていた。
おれは姫殿下と並んで腰掛けながら、村田部長の話を聞いていた。
「皆さん、おつかれさまでした。
今回の選考に当たってはタイム及び技術面を考慮して評価しました」
姫殿下はお膝を抱えてじっと村田さんの言葉にお耳を傾けておいでだった。
姫殿下のタイムは100mが35人中8番、200mは3番だった。
1年生にしてはなかなかのご健闘ぶりだ。
「それでは発表します。
今から名前を呼ぶ12人はこの場に残ってください。
有藤さん、伊藤さん、中嶋さん、高木さん……」
1500mを走る新美さんが集団の中でもみ合いながらおれのすぐ横を通り過ぎて行った。
「……和田さん、マコさん、落合さん。以上です」
おれは姫殿下の方に目を遣った。
「……!」姫殿下はなぜかお指をぴんと伸ばしたまま固まっておられた。
「……やった」
「おめでとうございます」
「やった、やったぞ」
姫殿下は体育座りの姿勢のままごろりと横倒しに倒れられた。
生徒たちが解散すると、姫殿下は村田さんと榛名先生のところへ駈け寄られた。
「ありがとうございます! 一生懸命がんばります!」
そうおっしゃって深々とお辞儀をされる。
「榛名先生の推薦なのよ」
と村田さんが言った。
「うん、マコさんは200mのコーナーがとてもよかったんだ。
だから是非400mリレーのメンバーに入ってもらえないかと思って」
と榛名先生が頭を掻きながら言った。
609水先案名無い人:04/11/23 14:30:37 ID:nM56y3Y/
「400mリレー……」
陸上の花形とも言われるその競技の名前をお聞きになった姫殿下のお顔がパアァッと明るくなった。
「ほら、400mリレーだと第1走者と第3走者はコーナーだけを走ることになるでしょ?
あれって結構難しいのよ。速い人でも意外にスピードに乗れなかったりするから。
そこをマコさんに走ってもらいたいの」
「ぼくも後輩たちから"中等科の400mリレーは伝統的に強い"と聞いています。
この学校の代表としてがんばってください」
村田さんと榛名先生の言葉に姫殿下はお顔を紅潮させてお答えになった。
「はい! がんばります!」
姫殿下のお言葉に榛名先生は満足そうに頷いた。

帰りのお車の中でも姫殿下は未だ興奮覚めやらずといったご様子だった。
お隣のカコ様がデジカメの液晶に映し出される画像を見ながらずっとお体を動かしておいでだった。
「ほら、ここ。ここでトップを走っているのがわかったんだ」
「本当だ。もう顔が笑ってるわね。藤村さんはサンショウウオみたいな顔してるけど」
おれがハンター試験の一次で落ちた奴みたいになっているのもばっちり写っていた。
「これ、安藤さんに頼んで生徒会のHPに載せてもらおうかしら」カコ様がおっしゃった。
「タイトルは"藤 村 必 死 だ な"」
「本当に必死ですのでご再考ください」
とおれは申し上げておいた。
「わたしも藤村みたいに必死で走ろう」
姫殿下が微笑みとともにおっしゃった。
610水先案名無い人:04/11/23 14:32:09 ID:nM56y3Y/
藤村は面白いなぁヽ(´ー`)
611水先案名無い人:04/11/23 14:33:40 ID:nM56y3Y/
藤村はきっと男とでもヤってくれるさ!
612水先案名無い人:04/11/23 14:35:10 ID:nM56y3Y/
翌日、姫殿下が参加される初の練習が行われた。
朝も早いというのにグラウンドは活気に満ちていた。
それというのも毎週土曜日はそれぞれの部が他校と合同練習を行うことになっているのだ。
グラウンド入り口に立つおれの横では安藤さんとカコ様が打ち合わせをしておられた。
「陸上部の写真は戸山中が来てからでいいか……何? あのマッチ棒みたいなのは? 邪魔くさいわね」
安藤さんがとげとげしい口調で言った。
「あ、あれは妖怪見……じゃなくて教育実習生の榛名先生です。あとでレタッチして消しておきますね」
カコ様がにこやかにおっしゃった。
「おーい、藤村さーん」
フィールドの上から下川さんがおれの名を呼んだ。
おれが駈けて行くと、姫殿下と下川さん、それにリレーメンバーの4人が柔軟体操を行っておられた。
「藤村、皆が藤村の柔軟を見たいって」
と姫殿下がおっしゃった。
おれは芝生の上に腰を下ろして脚を180度の角度に開いてみせた。
「げー、すごい」
「げー、キモい」
双子のリー姉妹が声を揃えて言った。
この2人、リー・リーロンさんとリー・リーウォンさんはそれぞれ100m、200mの代表でもある。
「藤村さん、普段どんな運動してるんですか?」
1年生の落合さんが尋ねてきた。
この人は陸上部だが姫殿下と同じくリレーのみのエントリーである。
「毎日就寝前に2時間の股割りを行っております」
とおれは胸を張って答えた。
「それってどうなの? 社会人として」
と下川さんが言った。
613水先案名無い人:04/11/23 14:36:42 ID:nM56y3Y/
ミーティングが終わると短距離の選手たちはすぐに走ることになった。
最初のレースは姫殿下、落合さん、リー姉妹、そして戸山中陸上部の4人が出走する。
「藤村さん、戸山中のリレーチームは夏の都大会で決勝まで行ってるのよ」
と有藤さんが言った。
彼女は100mの代表でリレーのアンカー候補だ。
「特にあの4レーンの長久手コマキ、あの子は1年生だけど自己ベスト100m12秒52」
「速い……」
「夏は全国で4位だったの。自称"東京都最速"だけど確かにそうだと思う」
有藤さんの評価が異常に高い長久手さんはスタートの練習をしていた。
見た目には他の選手と特に変わりない。
華奢で顔が小さくてかわいらしい感じの女の子だ。
「お、あれが長久手さんですか」榛名先生がやって来た。
「ぱっと見は普通ですね」
ところが長久手さんがジャージを脱ぎ、ショートパンツ姿になると彼は目を丸くした。
「……すごい。すごい脚だ」
腿の真中から脚の付け根にかけての筋肉の発達が著しい。
その個所と膝から下の細く長い部分との対比で、脚が後方に反っているように見える。
「これはトレーニングで作れる脚じゃない。陸上をやってる人間からすると羨ましくなりますよ」
「でしょー。本当に速いんですから」
有藤さんが自分のことのように胸を張って言った。
「いや、ですが姫殿下だって……」
おれがそう言っている間にレースが始まり、あっという間に長久手さんは他の選手に2m以上の差をつけた。
「早っ! ていうか速っ!」
長久手さんは周りを見渡して力を抜き、そのままトップでゴールした。
そのあまりの速さに姫殿下も走りながらあっけに取られているご様子だった。
614水先案名無い人:04/11/23 14:38:13 ID:nM56y3Y/
他の選手がゴールに駈けこんでくるのを見て、長久手さんはぺろりと舌を出した。
「よし、もう一本!」
そう叫んでスタート地点へと戻って行く。
「じゃ今度は私が行ってきます」
有藤さんが歩きかけたが、すぐに立ち止まった。
今走った選手たちが誰もコースから出ようとしない。皆再びスタート地点へとまっすぐ帰っていく。
「あー、今ので火が着いちゃいましたね」
榛名先生が笑いながら言った。
リー姉妹が何事か激しく言い争いをしている。
落合さんはしきりに首を振り、姫殿下は御頭の後ろでお手を組んで考えこんでおられるご様子。
誰もが「こんなはずじゃない」と言いたげな顔をしていた。

結局メンバーを入れ替えながら50本近く走ったが、誰も長久手さんに追いつけなかった。
そのあまりの快走ぶりに最後の方はフィールドで練習している他の部の生徒たちも集まって観戦していた。
休憩時間に戻って来られた姫殿下はご気色極めて悪しといったお顔だった。
一言も口をお聞きにならず、タオルを被っておれの隣に腰かけられた。
他の選手たちも黙りこくってばらばらに座っている。
リー姉妹の諍う声だけが空しく辺りに響く。
(う……初日から雰囲気最悪)
「リレーの方でがんばりましょう」というアドバイスさえもためらわれる、どす汚れた敗北感が漂っていた。
(でも怒ったお顔もかわいらしい……
やっぱり負けて悔しいのは当たり前だよな。
もし姫殿下が負けてもにこにこしておられるようなお方だったら、逆にいやだ)
そんなことを考えていると、かしましい話し声とともに戸山中の4人がやって来た。
615水先案名無い人:04/11/23 14:39:45 ID:nM56y3Y/
有藤で気がついた。それでリー姉妹かw
616水先案名無い人:04/11/23 14:41:16 ID:nM56y3Y/
それは書く方も気付く方もオヤヂなラインバック
617水先案名無い人:04/11/23 14:42:47 ID:nM56y3Y/
「あれ?」先頭を歩く長久手さんがおれと榛名先生に目を留めた。
「……新しい先生ですか?」
「どうも、教育実習生の榛名です。すばらしい走りでしたね」
彼がそう言うと戸山中の4人はぺこりと頭を下げた。
「はじめまして。護衛隊の藤村と申します」
そう言っておれはお辞儀をした。
「ゴエイタイ? 護衛隊……あーっ!」長久手さんが座っておられる姫殿下を恐れ多くも指差した。
「マコ様だ! テレビで観た! えー、すごーい! 屋島部長、マコ様ですよ」
「ホンマか?」
垂れ目の生徒が驚いているのかどうかよくわからない顔で言った。
「見て、乃江ちゃん。マコ様だって」
「…………」
残り2人の生徒が囁きあっている。
これだけの無礼な行いにも姫殿下は落ち着いた応対をされた。
「はじめまして、マコです」
姫殿下が立ち上がり自己紹介をされる。
「長久手コマキです。はじめまして。100mに出るんですか?」
「いえ、4×100mリレーに出ます」
「リレー?」そう言って長久手さんが目を輝かせた。
「リレー! 走りましょう! リレー!」
「はあ……」
姫殿下はこのテンションの高さに付いて行けずに戸惑っておられる。
そのときカコ様がお声を上げられた。
「わたしもわたしも走る走る!」
618水先案名無い人:04/11/23 14:44:18 ID:nM56y3Y/
長久手さんはちらりとカコ様の方を見て言った。
「あら、あなたも走るの? だったら榛名先生とチームを組んだらどう?
それからそこの……何だっけ? フヒモリさん……?」
「藤村です」
「そうそう藤村さん。藤村さんも一緒に走ったら?」
「でも……」榛名先生が言葉を挟んだ。「さすがに大人2人が入ってしまうとねえ……」
「いいわよ、別に。だってそっちにはハンデがあるから」
長久手さんの言葉にその場にいた皆がカコ様の方を見た。カコ様のお顔が紅潮する。
「ハ、ハ、ハンデですって? わ、わたしはこう見えても"特攻のカコ"って呼ばれてますよ、センパイ達……!?」
「あっ、怒った」
と長久手さんが言った。
「そらそうよ」
と屋島さんが言った。
「おい、長久手コマキ」リー姉妹が凄い形相で長久手さんを睨みつけている。
「おまえ、東京都最速だか何だか知らないけど、あんまり調子に乗るなよ」
言われた長久手さんはきょとんとした顔をしている。
「あなた誰だっけ?」
「てめぇ……」リー姉さん(と思われる方)が長久手さんの襟首を掴んだ。
「さっき隣のレーンを走ってただろうが……」
「あっ、そうそう。思い出した。でも私の隣はそっちの人だったと思うけど?」
姉妹は顔を見合わせた。
「何で…………わかった?」
「えー!? 顔が全然違うじゃん。声だってあなたの方が少し高くて細い感じだし」
妹のリーウォンさんと思しき方が笑った。
「ふーん、何年振りかねェ、私たち姉妹を一目で見分けた奴は」
「うそだよ、バーカ」
舌を出した長久手さんにリー姉妹が襲いかかった。
619水先案名無い人:04/11/23 14:45:50 ID:nM56y3Y/
そらそうよ、で飯吹いたじゃないかw
620水先案名無い人:04/11/23 14:47:21 ID:nM56y3Y/
「行くぞ、リーウォン!」
「おう、姉さん!」
リー姉妹のジェミニアタックが発動した。
カコ様も競り合いに行かれた。
姫殿下は身構えておられた。
おれはこぼれ球を拾う感覚で割って入っていった。
「まあまあまあ、皆さん少し落ち着いて」おれは場を収めるためにスポーツマン的提案をした。
「勝負は喧嘩じゃなくてトラックの上で……」
「うるせー馬鹿」
「何か(考えが)浅いな」
両陣営から罵声が飛んだ。
そこへ獄門島さんを先頭に八つ墓村さん、病院坂さん、下川さんの4人がやって来た。
「何だ何だ? 喧嘩か?」
この4人は野球サークル「魔球倶楽部」を立ち上げ、公認団体化を目指し日夜キャッチボールをしているのだった。
「あ、さっきの速い奴がいる」
「戸山中4人だろ? 殺っちゃおう。証拠も残らず消せる」
「くっくっくっ……いくらなんでも一度に5人じゃ胃がパンクだよ」
と下川さんが言った。
(? 5人? ……ひょっとしておれも入っているのか?)
「待ってください!」いつのまにか姫殿下がおれの横に立たれていた。
「長久手さん、リレーをしましょう。リレーなら負けませんから」
「そうね、そうしましょう。私たちが勝つと思うけど……」
そう言って長久手さんと戸山中リレーチームは立ち去った。
「絶対勝つ!」
リー姉さん(多分)が言った。
「いいえ、わたしたち"カコさまぁ〜ず"が勝ちます! ねえ、藤村さん?」
「はあ……」
カコ様のお尋ねにおれはあいまいな笑顔を浮かべた。
621水先案名無い人:04/11/23 14:48:53 ID:nM56y3Y/
「安藤さん!」カコ様が鬼気迫る勢いで叫ばれた。
「メンバーが1人足りないから入ってくださらない?」
「いや、私スポーツははちょっと……」
安藤さんが恥ずかしそうに言った。
「じゃあキキさんは?」
「私はデブだからちょっと……」
そう言ってキキさんはぷよぷよと首を振った。
「では中距離の方から新美メンバーを引っ張ってきましょう」
とおれはご献策した。
姫殿下は早くもお体を動かし始めておいでだった。

トラックの中に5チーム、20人の全出走者が入った。
第1走者のところでは第1・第2レーンでカコ様対姫殿下という夢の対決が実現した。
さらに戸山中の何を言っているのかほとんど聞き取れない白村乃絵さんが第3レーン、
中等科四天王チームの下川さんが第4レーン、サッカー部選抜が第5レーンを走る。
おれはカコさまぁ〜ず第3走者を任されていた。
スタートの合図とともに飛び出したのは姫殿下だった。
だがすぐに下川さんが追いつき、そのまま八つ墓村さんにバトンを渡す。
必死に食い下がられたカコ様は新美さんにリレー。
その新美さんは腕を横に振るサッカー部走りでいま一つスピードが上がらない。
戸山中の第2走者・一の谷ヒヨリさんに抜かされて4位に後退した。
新美さんからバトンを渡されたおれは必死で走るが隣のレーンのリーウォンさんに先行されたままだ。
(ルナ先生、後は任せた!)
我らがチームのバトンはスムーズにリレーされ、全てのアンカーが横一線に……
なったと思ったら、あっという間に長久手さんに追い抜かれ、引き離された。
長久手さんは例のごとく辺りを見渡して、舌を出した。
622水先案名無い人:04/11/23 14:50:24 ID:nM56y3Y/
獄門島さんがバトンを地面に叩きつけた。
有藤さんは頭を掻いている。
リー姉妹は責任を擦り付け合い、カコ様はヘビメタのドラムスみたいな地団駄を踏んでおられた。
「藤村」姫殿下がお顔を真っ赤っ赤にして歩み寄っておいでになった。「何なのだ、あの人の態度は?
他の人たちを馬鹿にしているのではないか?」
姫殿下も長久手さんにむかついておられるようだった。
「悪気があってやっているのではないと思いますが……」
「そうか……それなら仕方ないが…………でもなあ……」
姫殿下はお首をかしげながら歩いて行かれた。

次のレースはやはり長久手さんに敵意を抱いたソフトボール部と
陸上部中・長距離チームが加わって、7チームで争われることになった。
姫殿下は第3走者にコンバートされた。
カコさまぁ〜ずも順番を入れ替え、おれと榛名先生が先に走ってリードを奪う作戦に出た。
頭に血が上った獄門島さんもアンカーを下ろされ、第1走者となった。
レース序盤は我らがチームと四天王チームがまずリードした。
どのチームもミスなくリレーしてアンカーまで繋ぐ。
ところがここでアクシデントが起こった。
アンカー・有藤さんにバトンを渡された姫殿下が勢い余って外側の第3レーンに踏み入ってしまわれたのだ。
そこへ遅れを取り戻そうと長久手さんが勢いよく向かって来る。
両者が激突して、姫殿下が突き飛ばされる格好で倒された。
「あっ!」
グラウンド上の誰もが息を呑んだ。
長久手さんはすぐにバランスを取り戻して走り出した。
そこへコースを逆走して行った獄門島さんが飛び蹴りを入れた。
623水先案名無い人:04/11/23 14:51:55 ID:nM56y3Y/
カコ様かわいいなぁ
特攻のカコいいなぁ
624水先案名無い人:04/11/23 14:53:27 ID:nM56y3Y/
>>左右氏
連絡、現在眞子様スレッドが順次攻撃を受けております。
こちらにも被害が及んだ場合、
避難所の避難所、SSスレへの退避をお勧めいたします。
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/mako/
625水先案名無い人:04/11/23 14:54:58 ID:nM56y3Y/
マッチポンプ
626水先案名無い人:04/11/23 14:56:29 ID:nM56y3Y/
〔和製語。自分でマッチを擦って火をつけておいて消火ポンプで消す意〕
自分で起こしたもめごとを鎮めてやると関係者にもちかけて、金品を脅し
取ったり利益を得たりすること。
627水先案名無い人:04/11/23 14:58:00 ID:nM56y3Y/
「生意気な長久手をしめてやる!」
ビダァァァン!! と仰向けに倒れた長久手さんに獄門島さんがのしかかる。
だが長久手さんはすぐに立ちあがり、獄門島さんにローキックを入れた。
「やってみろ、コラ!」
両者がもみ合うところに中等科・戸山中両校の生徒たちがわっと集まり、たちまち大乱闘が始まった。
おれは姫殿下の下へ馳せ参じようとしたが、この修羅場を見過ごすわけにもいかず、
第1コーナー付近で立ち往生してしまった。
姫殿下の方に目をやると、姫殿下が新美さんの肩を借りて起き上がられるのが見えた。
(姫殿下はご無事か……)
おれは目標を喧嘩の仲裁に切り替えて、暴徒と化した生徒たちの間に分け入った。
掴み合いをする両校の生徒たちにモンゴリアンチョップを叩きこみながら争いの中心へと向かう。
そこでは案の定、獄門島さんと長久手さんがシバキ合いをしていた。
密集しているため距離が取れず、お互いの打撃は有効打となっていない。
おれは2人の間に体を入れて叫んだ。
「喧嘩はやめてください!」
「藤村さん、どいて! そいつ殺せない!」
おれの背後で獄門島さんが怒鳴った。
長久手さんはおれの体を盾にしながら蹴りを繰り出した。
突然、周囲の生徒を抑えようと広げていた右手に鋭い痛みが走った。
(痛っ! 刃物!?)
手を慌てて引っこめて顔の前にかざすと、掌にくっきりと歯型がついていた。
「うわあああ、誰だ!?」
「誰!? 今藤村さんを噛んだのは!?」
カコ様の大きなお声が聞こえた。
(あれ? おれ、"噛まれた"って言ったっけ?)
おれの心はぼんやりとした疑念に包まれたが、周囲の生徒たちからの圧力ですぐに現実に引き戻された。
628水先案名無い人:04/11/23 14:59:32 ID:nM56y3Y/
おいおい、このスレの1だぞ俺は。

スレ立てたけど左右氏がしばらく来なくって(´・ω・`)ショボーンだったので
もし荒らしが来た場合に避難場所を案内しただけなんだが・・・。

時間割いて削除依頼とか荒らし報告とかしているのに
ああいうマルチ荒らしに対処するのが遅くなったな<運営
鯖が強くなったので一時期のような即断は期待できないのかな?
629水先案名無い人:04/11/23 15:01:03 ID:nM56y3Y/
運営側も眞子様を汚すスレを潰すという趣旨に賛成なんだよ、きっと
630水先案名無い人:04/11/23 15:02:34 ID:nM56y3Y/
ラウンジも攻撃を受けている最中です
631水先案名無い人:04/11/23 15:04:04 ID:nM56y3Y/
まじで運営さんなんとかしてくれ・・・
2ch内のスレだけでもう17スレやられちゃったよ。
運営側にも既に8人ほど報告しに行ってるんだから、
そろそろ動いてくれないかな?コマッタコマッタ
632水先案名無い人:04/11/23 15:05:35 ID:nM56y3Y/
眞子様を汚すスレは皆殺しだ。
633水先案名無い人:04/11/23 15:07:06 ID:nM56y3Y/
俺は既にこんな妄想をしているぜ!!


暴漢3人組:《おいねーちゃん、俺たちと付き合えよ!ゲヘー》
(悪のテーマみたいな低音の音楽が流れ続ける)

眞子様:†やっ、やめてください!人を呼びますよ!†

暴漢3人組:《ハハッ、周りを見てみー!みんな見てみぬフリやで〜?誰も助けちゃくれないよ〜ん♪》

俺:「待てィ!!」(ここでヤッターマンのOPテーマの様な正義の音楽に切り替わる)
俺:「か弱き乙女に狼藉を働く悪党は許さん!くらえ!【狼牙風風拳!】(←俺が日々の妄想の中であみだした必殺技)」

暴漢3人組:《何じゃワレァ!野郎共!やっちま‥あべし!ひでぶ!ぱごァ! お、覚えてけつかれこのド阿呆!》

俺:「正義は負けない!」

眞子様:†あ‥ありがとう。あなたのお名前‥†

俺:「名乗る程ではありませんよ、お嬢さん!では!」(去り際にそば屋の自転車にぶつかってバカヤローと言われる、眞子の方を振り返って照れ臭そうに笑う俺)

眞子様:†ステキ!あの御方とお付き合いがしたい†
634水先案名無い人:04/11/23 15:08:37 ID:nM56y3Y/
眞子様を助ける妄想のガイドライン
http://that3.2ch.net/test/read.cgi/gline/1082454048/
635水先案名無い人:04/11/23 15:10:08 ID:nM56y3Y/
ヽ从^▽^从ノ
636水先案名無い人:04/11/23 15:11:39 ID:nM56y3Y/
ここは俺の未来の妻・眞子様に関するSSを書くスレです。
637水先案名無い人:04/11/23 15:13:10 ID:nM56y3Y/
新スレと眞子様に幸あれ
638水先案名無い人:04/11/23 15:14:41 ID:nM56y3Y/
眞子ってなんて読むの?
639水先案名無い人:04/11/23 15:16:12 ID:nM56y3Y/
まんこ



と答えたくなる衝動を必死で抑えました
640水先案名無い人:04/11/23 15:17:43 ID:nM56y3Y/
【狼牙風風拳!】
>>1 はヤムチャ?
641水先案名無い人:04/11/23 15:19:14 ID:nM56y3Y/
新スレ立ったんですね。>>1乙です。
新スレを祝して久しぶりに何かSS書こうかな、
とか思ったんだが、さしあたってネタが思いつかん…。

実は、以前書いてた「嗚呼!」を連発する長編の後日談とか構想してるんだけど、
なかなか時間がとれんのよ。ええトシこいて受験生なもんで。

とりあえず即死回避パピコ。
642水先案名無い人:04/11/23 15:20:46 ID:nM56y3Y/
左右召喚age
643水先案名無い人:04/11/23 15:22:17 ID:nM56y3Y/
昨日のTBSの皇室番組で愛子の目にうっすらと二重が
644水先案名無い人:04/11/23 15:23:47 ID:nM56y3Y/
呼び捨てとは失敬な!

昨日脳内の皇室番組で眞子様のほっぺがうっすらとした羽二重餅に見えた
思わず吸い付きたくなった
645水先案名無い人:04/11/23 15:25:19 ID:nM56y3Y/
こっちもよろしく

眞子様のSSを書くスレ Part1.5
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/test/read.cgi/mako/1094828391/
646水先案名無い人:04/11/23 15:26:49 ID:nM56y3Y/
また腐ったスレが一つ増えた。
「これでコテハンデビューだ!」
「メンヘル板の有名人だ!」
「相談にものっちゃうぞ!」
がドキドキしながらたてたスレは、
大方の予想通り(を除く)、どうしようもないレスばかりがついた。

ここではあわてふためく。
1 「ネタだったことにしちゃおうか?」
2 「自作自演で盛り上げようか?」
3 「逃げ出して別のスレでもたてようか?」
さあ、いったい、どれを選んだら良いのでしょ〜か?

1を選んだへ。
それは「ごまかし」です。あなたは「嘘つき」です。

2を選んだへ
それは「まやかし」です。あなたは「嘘つき」です。

3を選んだへ。もう書くのが疲れました。
言いたいことは上と同じです。

そろそろ認めるべきです。
あなたは自己顕示欲だけはいっちょまえだが、 その欲望を満たすだけの能力がない。
努力はしないくせに、注目を浴びている自分ばかり妄想している。卑屈な笑いだけが特徴のつまらない人間だ。

せっかく必至で考えたコテハンが無駄になってしまいましたね(笑)
そして今日も良い天気!
647水先案名無い人:04/11/23 15:28:21 ID:nM56y3Y/
すまん誤爆しました。
648水先案名無い人:04/11/23 15:29:52 ID:nM56y3Y/
「プールの中で走ってはいけないぞ。腰洗い槽だったからまだよかったものの、転んで頭を打ったらどうする」
姫殿下が強い口調でお叱りになった。
「ごめんなさい、お姉様……」
俯かれたカコ様の制服からは水滴が滴り落ちている。
おれは1歩進み出て奏上した。
「姫殿下、私がプールのことを申し上げたのがいけなかったのです。お叱りは全て私が甘受いたします」
姫殿下はおれが頭を下げようとするのをお手でとどめられた。
「いや、そなたに落ち度はない。カコ、藤村の側についていなさい。勝手に走りまわってはいけないぞ」
「はい、お姉様」
カコ様はすっかり小さくなっておられた。
「帰りはわたしの体育着を着て帰りなさい」
「ありがとうございます、お姉様」
姫殿下はひとつため息をつかれると、表情を和らげられた。
「それでは皆さん、演奏をよろしくお願いします」
ひとつ頷いた新井さんがタクトを振ると、バンドは『雨に唄えば』を吹き始めた。
彼女たちを引き連れた姫殿下は更衣室を通ってプールにお入りになった。
カコ様とおれは行列の最後尾についた。
「びしょ濡れになっちゃったわねえ」
カコ様にもいつもの笑顔が戻った。
「御一人だけプールから上がられたみたいですね」
「そうねえ……あっ、そうだ。まめ飴、まめ飴……あーっ、全部びしょびしょになってる!」
カコ様はじっと残りの飴を見つめておられたが、意を決して全てお口の中に放り込まれた。
「塩素くさーい」
顔をしかめられながら、カコ様はがりがりと飴を噛み砕かれた。

プールの中は体育館の中よりも遥かに音を響かせた。
一行が侵入するとすぐに水泳部員が1人飛んできた。
「何なんですか、あなたたちは!?」
姫殿下は丁寧に自己紹介し、来意をご説明あそばされた。
649水先案名無い人:04/11/23 15:31:23 ID:nM56y3Y/
姫殿下のお話を拝聴した水泳部員は露骨に嫌な顔をした。
「いやあ、それはちょっと……」
「ちょっとすいません」おれは先ほどと同じように割りこんだ。

「……わかりました。演説を伺うことにします」
またしてもおれの街宣右翼的論法により敵の野望は打ち砕かれた。
ふと見るとカコ様がやけになられたのか、プールサイドに腰掛けて思いきりバタ足をされていた。
おれは姫殿下に恫喝の成果をご報告申し上げた。
「そうか、それはよかった。では早速演説をしよう」
姫殿下は満足げにおっしゃった。
「演説台はどちらに置けばよろしいでしょうか?」
おれがそうお尋ねすると、姫殿下はあたりをご覧になってからおっしゃった。
「いや、演説台はいい。あのスタート台の上に立って行おう」
姫殿下がスタート台のうえに立たれると、水泳部員たちが水から上がってこちらにやって来た。
プールの向こうではカコ様がコースロープ綱渡りに挑戦されていたが、2mほど進んだところで静かに水没された。

「プール上がりのアイスは最高ねえ、お姉様」
姫殿下のシャツとブルマをお召しになったカコ様がアイス片手に満面の笑みを浮かべられておっしゃった。
「そうだな。ご馳走してくれた藤村に御礼を言いなさい」
「はい。藤村さん、どうもありがとうございます」
カコ様に頭を下げられて、おれは恐縮した。
「いえ、お気になさらずに。大人の経済力にかかればアイスの20個や30個……」
「藤村さん、ご馳走になります」
「まーす」
平沢さんと下川さんがお盆を持っておれの前を通り過ぎていった。
「あっ、あなたたち、何でカレーも頼んでるんですか!?」
「あ、冷と暖のバランスを取ろうと……」
「いいじゃん、カレーの1杯や2杯。あんた公務員でしょ? 給料もらってんでしょ?」
下川さんに完全に逆ギレされたおれは、それ以上の追及はやめて自分のガリガリ君に集中することにした。
650水先案名無い人:04/11/23 15:32:56 ID:nM56y3Y/
左右さん
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
651水先案名無い人:04/11/23 15:34:26 ID:nM56y3Y/
プールサイドでカレー(゚д゚)ウマー
652水先案名無い人:04/11/23 15:35:57 ID:nM56y3Y/
藁板のスレと相互リンクしておこう

こんな眞子さまはイヤだ!!
http://hobby6.2ch.net/test/read.cgi/owarai/1090940317/
653水先案名無い人:04/11/23 15:37:28 ID:nM56y3Y/
654水先案名無い人:04/11/23 15:38:59 ID:nM56y3Y/
空気嫁
655水先案名無い人:04/11/23 15:40:31 ID:nM56y3Y/
姫殿下とカコ様は吹奏楽部員たちとご歓談されていた。
並んで座ったおれと下川さんと新井さんはそれを眺めていた。
「ねえ、下川」と新井さんが言った。
「今日行った部ってさ、昔はもっと活気があったと思わない?」
「うん。私が1年のとき剣道部員はあの倍くらいいたと思う」
下川さんがお茶をすすりながら言った。
「今はどこの部も苦しいのかな……
文化部でちゃんと活動してるのって私のところと下川の美術部くらいじゃない?」
「そうだね。書道部もなくなっちゃったし」
「あなたは何で書道部じゃなくて美術部に入ったの?」
「……やっぱり楽しかったからかな。先輩がよくしてくれたし。雰囲気がよかったの」
そう言って下川さんは姫殿下の方を見て目を細めた。
「ねえ、藤村さんは中学時代何部だったの?」
下川さんがおれの顔を覗きこんで尋ねた。
「私は帰宅部でした」
おれがそう答えると、下川さんは納得した様子で頷いた。
「でも皆さんを見ていると、あの頃部活をやっていればよかったなあって思います」
「何言ってんの? あなたは美術部員よ」
下川さんがおれの肩を叩いて言った。
「え、そうなんですか?」
「そうよ。まあ、身分的には筆洗バケツのやや下くらいだけど」
おれの暗かった学生生活はここに来て埋め合わされ始めたようだ。
吹奏楽部員に混じった姫殿下とカコ様がお顔を真っ赤にして大きな木管楽器を吹いておられるのが見えた。
656水先案名無い人:04/11/23 15:42:06 ID:nM56y3Y/
翌日は朝から曇りだったが、午後になって雨が降り出した。
雨音のせいかいつもより終鈴が遠く聞こえた。
「では木田さん。美術室に行ってきます」
そう意っておれは新聞を折りたたみ、傘を開いて守衛室を出た。
並木道には1人の生徒の姿もなかった。
「何か閑散としてますね」
とおれは言った。
木田さんは守衛室の窓口から顔を出した。
「雨の日の学校は静かなものですよ。静かで美しい。
でもね、この学校で一番すばらしいのは雨上がりの直後です。空気の香りが何とも言えない。
藤村さん、もし雨が上がったら深呼吸してみてください」
おれは手で了解の合図をして美術室に向かった。

美術部員たちは自分の創作に没頭していた。
いつもなら弁当を鬼食いしている下川さんも手鑑を見ながら筆を走らせている。
おれは姫殿下のお側に参った。
「姫殿下、本日の選挙運動はいかがなさいますか?」
「うん、それがなあ……」姫殿下が画筆を休められておっしゃった。
「外でビラを配ろうと思っていたのだが、この雨では無理だな」
近くの机に置かれたビラには「明るい勤王」と書かれていた。
それが具体的にどういう行為を指すのかは定かでないが、
佐幕派暗殺とか画像を集めてハァハァするといった行為とは正反対のものであることだけは確かだ。
「うおおおお、だめだああああ」下川さんが頭をかきむしりながら立ち上がった。
「腹が減って集中できない! 私、ちょっと学食に行ってくる」
「部長、私も行きます」三鷹さんがマウスから手を離して腰を上げた。
「ねえ、マコちゃんも一緒に行かない? もしかしたら学食で雨の上がるのを待っている人がいるかもしれない」
それをお聞きになった姫殿下のお顔がぱっと明るくなった。
「はい、行きます!」
姫殿下はビラの束を引っつかまれると、その側に置いてあったたすきをジャージの上からお召しになった。
657水先案名無い人:04/11/23 15:43:39 ID:nM56y3Y/
いつの間にかその2が…
1さん乙です。
658水先案名無い人:04/11/23 15:45:10 ID:nM56y3Y/
学食は八分くらいの入りだった。
しかしきちんとした食事を採っている生徒は少なく、雨宿りついでにジュースを飲んでいるといった手合いがほとんどだった。
「ここは手堅く月見そばに半ライスと行くか……」
何が手堅いのかはわからないが、下川さんはそう言い残して麺類のカウンターに向かった。
そのとき学食のおばちゃんに注文をしていたジャージ姿の生徒が振り向いた。
「あっ、下川!」
「むっ、獄門島!」
バスケ部部長の獄門島さんは下川さんの姿を認めると凶悪な視線をぶつけてきた。
その横にはバレー部部長の八つ墓村さんにソフト部部長の病院坂さんが立っていて、毒々トロイカ体制を確立している。
おれは立ちすくんでおられる姫殿下にそっと耳打ちし申し上げた。
「姫殿下、何だか雰囲気が悪うございますから、ここは美術室に戻られた方がよろしいかと……」
「そうだな、そうしよう」
下川さんとにらみ合っていた獄門島さんがこのひそひそ話に気付いてこちらをちらりと見た。
「どうしてここに? ……そうか下川は美術部だったね。だからそっちに荷担してるわけだ」
「あんたこそ安藤のパシリやってるんだって?」
どうやらこの2人は非常に仲が悪いらしく、早くも一触即発のムードだ。
おれがそれを無視して姫殿下を先導し申し上げようとしたとき、下川さんがすたすたとご飯類のカウンターに歩いていった。
「獄門島、あんた何頼んだの?」
下川さんの突然に問いに獄門島さんの表情に微かな動揺の色が浮かんだ。
「え……? 掛けうどん半ライスだけど……」
「おばちゃん、かき揚げ丼! 味噌汁・お新香つきで!」
下川さんは食堂中に響き渡る大声で注文した。
かき揚げ丼、味噌汁・お新香つき……何と力強い組み合わせであろうか。
確かに麺類+ライスは炭水化物を摂取するには最適だ。
だがその機能性ゆえにか、それを食する行為は“摂取”とでも呼ぶべき、誤解を恐れずに言えば“餌”的な色彩を帯びる。
しかし丼・味噌汁・お新香とくればそのメニューとしての完全性たるや……
それを食する者は精神的貴族に位置付けられる。
「むむむ……」
獄門島さんが低く唸った。
659水先案名無い人:04/11/23 15:46:41 ID:nM56y3Y/
そのとき八つ墓村さんが1歩進み出て言った。
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り!」
「うっ……」
下川さんがひるんだ。
確かにここまで機能性を追及されれば、そこに志士的な潔さを感じずにはいられない。
(どうする下川さん……)
突然姫殿下が厨房に飛びこまんばかりの勢いでカウンターに駆けて行かれた。
「かき揚げ丼・味噌汁・お新香、それから小カレー!」
「なにィッ!?」
姫殿下の電光石火のご注文に食堂中がどよめいた。
小カレー……それ自体では決して迫力のあるものではない。
だがカレーは回転が速いためご飯類とは別のカウンター。
途中で気が変わったからといって越えることのできぬ、三十八度線にも等しい境界線がそこには存在する。
それを軽々と注文してのけるとは……まさに食のコスモポリタンである。
「病院坂、あんたは何頼む?」
八つ墓村さんが傍観していた病院坂さんに迫った。
「え? いや、私はそんなにおなかも空いてないし……」
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り、小カレー!」
獄門島さんが厨房の奥まで響けとばかりに叫んだ。
それに対抗して下川さんもカウンターにのしかかるような姿勢で怒鳴った。
「おばちゃん、あそこの冴えない男の人にかき揚げ丼・味噌汁・お新香、カレー大盛り、ゆで卵!」
(おれも食うのか……)
おれの隣にいた三鷹さんも自分の運命を悟ったようで、すでに泣きが入っていた。

15分後、おれと三鷹さんはかき揚げ丼を半分空けたあたりでグロッキーになっていた。
「藤村さん、私もう限界……」
三鷹さんがうなだれていった。
「私もです……心苦しいがカレーは残すしか……」
そこへ早々と完食しビラも配り終わった姫殿下と下川さんが戻っておいでになった。
「何だ藤村、カレーが手付かずではないか」
姫殿下のお言葉におれは恐縮するしかなかった。
660水先案名無い人:04/11/23 15:48:13 ID:nM56y3Y/
面白すぎるw♪
661水先案名無い人:04/11/23 15:49:44 ID:nM56y3Y/
ハゲワロタw

毎回毎回GJGJGJ
662水先案名無い人:04/11/23 15:51:15 ID:nM56y3Y/
「三鷹、あんたさっきから全然減ってないじゃん」
下川さんが三鷹さんの肩をもみながら言った。
「すいません…………」
三鷹さんが小さな声で答えた。
「藤村ももっと食べないと大きくなれないぞ」
そうおっしゃる姫殿下におれはご飯を咀嚼しながら頷いた。
「しょうがない、カレーは私が食べてあげる」
「わたしもちょっと手伝ってあげよう」
下川さんと姫殿下がカレーの皿をお手元に引き寄せられた。
「ありがとうございます…………」
そう申し上げたものの、おれは被害者なのではないかという疑念を拭いきれなかった。
「うん、おいしいおいしい。やっぱりカレーは別腹ね、マコちゃん」
「そうですね、部長。それにこのゆで卵が何とも……」
2人はもしゃもしゃとカレーを平らげていった。
ようやくおれのかき揚げ丼もあと一口というところまできたとき、紙の束を抱えた生徒が食堂に飛びこんできた。
「号外でーす。討論会が開催されまーす。生徒会長候補が直接対決しまーす」
そう言いながら、テーブルを回って紙を配り始めた。
「姫殿下、いま生徒会長候補がどうとか言っていましたが……」
「うん。でもそんな話は何も聞いていないぞ」
姫殿下はかりかりと福神漬けをかじりながらおっしゃった。
「ちょっと私、話を聞いてくる」
そう言って下川さんが席を立った。
見ていると下川さんは話を聞くどころか、紙を配る生徒の首根っこを捕らえてこちらに引っ立ててきた。
「さあマコちゃんの前でちゃんと説明しなさい」
組み伏せられた生徒は姫殿下のたすきを拝見してはっと驚いた顔をした。
「わ、私は何も知りません。急に新聞委員は集まれという呼び出しを受けて、行ってみるとこれを配って来いと言われただけで」
弁明する生徒から下川さんが紙を1枚奪い取ってテーブルの上に広げた。
「生徒会長候補討論会 主催 選挙管理委員会 共催 新聞委員会、放送委員会……あんたも関わってるんじゃない」
「いえ、私たち1・2年生は何も知らされていませんでした。本当にさっきこのビラを渡されてはじめて知ったんです」
哀れな新聞部員はすっかり怯えきっていた。
663水先案名無い人:04/11/23 15:52:50 ID:nM56y3Y/
下川さんは納得いかない様子でその新聞部員を解放した。
「28日……来週の月曜日ですね」
「投票は30日だから結構重要なイベントね」
「何か嫌な感じ。マコちゃんに知らせなかったのは絶対嫌がらせだよ」
下川さんが憤慨した顔で言った。
「でもまだ5日ありますから。準備はできます」
姫殿下はいつもの穏やかなお顔でおっしゃった。
ふと食堂の入り口に目をやると、獄門島さんご一行が出て行くのが見えた。
(ん……? あの3人、ビラを持っていない。もしや前から討論会のことを知っていたのでは……)
おれはじっくり観察しようとしたが、獄門島さんと目が合って思いきりにらまれたので、慌てて目を逸らした。

食堂を出ると雨は上がっていた。
「あーあ、何かあいつらのせいで嫌な気分になったから食べた気がしない」
下川さんがそう言う側で三鷹さんが切れそうになっているのをオーラで感じた。
「んー…………」
姫殿下は大きく伸びをされていた。
「姫殿下もあの雰囲気でお疲れですか?」
とおれはお尋ねした。
「いや、ただ雨上がりのいい匂いがするから深呼吸してみたんだ」
「雨上がりの匂い……でございますか?」
木田さんの言っていたことを思い出して、おれも思いきり息を吸い込んでみた。
すると確かに鮮烈でなぜか胸がどきどきするような匂いがした。
「本当だ。森の中にいるみたいですね」
下川さんがおれたちの姿を見て目を細めた。
「ねえ、美術室に帰ったらみんなで散歩しようか。林の中を通って葉っぱから落ちる雫を浴びるの。どう?」25
「賛成! 私は第2グラウンドの芝の上を裸足で歩きたいな」
「藤村、こういうときに池の側に行くとカエルがいっぱいいるんだ。それから百葉箱の下でいつも雨宿りする猫が……」
自分たちの学校の美しさを自然に口に出せる彼女たちを見ていると、
学校の中に居場所がなかったのはおれにそれを見つける目がなかっただけなのかもしれないと思えてきた。
664水先案名無い人:04/11/23 15:54:22 ID:nM56y3Y/
OVA化キボンヌ。
665水先案名無い人:04/11/23 15:55:54 ID:nM56y3Y/
翌日、守衛室待機を命じられていたおれは新聞を読むともなく眺めていた。
1面には「糸己宮さま、ハシジロキツツキを観察 営巣行動の撮影、世界初――キューバ」という見出しが躍っている。
密林を写した写真には「ハシジロキツツキにカメラを向ける糸己宮さま(右から2つ目の茂み)」というキャプションが付けられていた。
おれはその写真をためつすがめつ、裏返したり日光に透かしたりダブルクリックしたりしてみたが糸己宮様のお姿を発見することはできなかった。
「藤村!」
突然姫殿下のお声が聞こえた。
顔を上げると、たすきをお召しになった姫殿下が守衛室の窓口からお顔を覗かせておられた。
「藤村、演劇部に行くぞ!」
「はい!」
おれは新聞を放り出して守衛室から飛び出した。

演劇部室は旧校舎3階の薄暗い廊下を行った突き当たりにあった。
「失礼します」
ノックしてドアを空けると、意外にも室内はまばゆい光に満ちていた。
部屋の中央ではミニチュアの家があり、その前で1人の生徒がうずくまっている。
「あの……わたくしこの度生徒会長に立候補いたしました……」
姫殿下が自己紹介を始められると、その生徒は振り向いてしょぼしょぼした目をこちらに向けた。
「ああ、あなたがマコさんね。吹奏楽部の人から話はきいたわ。私、演劇部のラストサムライ、2年の上杉です」
そう言って上杉さんは姫殿下と握手した。
おれは自己紹介ついでに地べたに置かれた謎の平屋ドールハウスについて尋ねてみた。
「ああ、これ? これはクレイアニメ用のセット」上杉さんは粘土の人形を手に取った。
「なんせ部員が私1人しかいないものだから……」
いきなり辛気臭い話を聞かされてしまった。
「これを少しずつ動かして撮影するんですね」
姫殿下は興味深そうに犬の人形を見つめておられた。
「そう。今『遊星からの物体X』を撮ってるんだけど、なぜかコミカルになっちゃうのよね。何でだろ?」
それはクレイアニメだからではないですかと言おうかと思ったが、空気が余計湿っぽくなりそうなのでやめておくことにした。
666水先案名無い人:04/11/23 15:57:26 ID:nM56y3Y/
「それで……衣装だよね。こっちの部屋へどうぞ」上杉さんが人形を置いて、“準備室”という札のついたドアを開けた。
「昔はいろいろ賞取ったりして力があったから小道具とか衣装とかはたくさんあるのよ」
一歩その部屋に足を踏み入れると、こもった臭いが鼻をついた。
「うわあ、すごい」
五月みどりの衣装部屋さながらの光景に姫殿下がお声を上げられた。
ハンガーにかけられた衣装がびっしりと壁を覆っていて、歩くスペースもないほどだ。
「すごーい! ほら藤村、お姫様だお姫様」
姫殿下はピンクのドレスをお体に当てておられた。
(む、衣装をお召しになって街頭演説をされるおつもりか……)
おれはすばやく周囲に目を走らせ、猫耳メイド服、ミニスカサンタ、地球連邦軍機動歩兵装備などを発見していた。
(まずい……姫殿下があのような下賎な姿に身をやつされることなど想像するだにあさましい。
ここはこのドレスで手を打っていただくしか……)
「なかなかお似合いで」
「うわあ、何ですかこれは?」
姫殿下はすでに部屋の奥へと進まれていた。
「ちょっと出してみようか」
上杉さんが衣装の中に上体を突っ込んで、巨大な黒い物体を引きずり出した。
「うわあ、藤村、クマだクマ」
「クマ!?」
姿を現したのは体長2mはあろうかというハイイログマだった。
「これは20年くらい前にうちの部が『なめとこ山の熊』で使った着ぐるみよ。すごいでしょう」
「クマ……」
姫殿下は上杉さんの説明などお耳に入らぬご様子でクマをうっとりと眺めておられた。
(まずい……猫耳ならともかく全身獣になられるのはいかにもあさましい。せめてこれだけはやめていただかなくては……)
「あのー、姫殿下、せめてお顔はお隠しにならぬ方が」
「藤村、ちょっと着てみないか」
姫殿下がニヤニヤしながらおっしゃった。
(おれかよ…………)
667水先案名無い人:04/11/23 15:58:58 ID:nM56y3Y/
   ∩___∩  ・・・             
   | ノ  u   ヽ               
  /  ●   ● |               
  | u  ( _●_) ミ             
 彡、   |∪|  、ミ       ホヒー・・・クマー       
/ __  ヽノ  _\    ○_○   
(___)___(__)___(´(エ)`)_  
_ _ _ _ _ _ _ U ̄U_ |    
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |  
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |    
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |   
668水先案名無い人:04/11/23 16:00:29 ID:nM56y3Y/
ワラタ
669水先案名無い人:04/11/23 16:02:00 ID:nM56y3Y/
念のためほしゅ
670水先案名無い人:04/11/23 16:03:31 ID:nM56y3Y/
http://academy3.2ch.net/test/read.cgi/history/1093526288/l50
眞子さまの名前があがってるぞ。
671水先案名無い人:04/11/23 16:05:01 ID:nM56y3Y/
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから入ってみないか」
姫殿下が熱っぽい調子でおっしゃった。
(むう、どうしたものか……?)
過去を振り返ると「入らないか」と言われて入ったものは写真同好会、中野のキャバクラ、ホモの先輩の家などろくなものがなかった。
それにおれは『火の鳥 ヤマト編』を読んで以来、閉暗所恐怖症だ。
「ほら、頭を外してから背中のファスナーを開けて着るんですよ」
上杉さんが一方的にレクチャーを始めた。
仕方なくおれは興味があるふりをしてクマの内部を覗きこんだ。
そのとき、まるでナッパ様が「クン」とやった指が直で鼻に突き刺さったような痛みが走った。
「うわあっ、は、鼻が……!?」
「これは着ぐるみに染み付いた先人たちの血と汗と胃液が発酵してこのようなイヴォンヌの香りを……」
「だめだだめだこれはだめだ!」
おれは鼻を押さえながら飛び退った。
「そうか……だめか……」
姫殿下が残念そうなお顔でおっしゃった。
おれの目には涙がにじんでいたが、姫殿下のお手がクマの頭をなでなでされるのを見逃さなかった。
(むっ、なでなで? ということは……)
姫殿下、クマをなでなで

クマの中の人=おれ

姫殿下、おれをなでなで

(゚д゚)クマー
「藤村、入ります!」
おれは靴を脱ぎ捨て、着ぐるみに足を突っ込んだ。
おれが入らなければどこのクマの骨もとい馬の骨とも知れぬ輩が姫殿下のご寵愛を賜ることになってしまうかもしれないのだ。
「おお、やってくれるか!」
姫殿下は破顔一笑された。
672水先案名無い人:04/11/23 16:06:33 ID:nM56y3Y/
「はい、じゃあこれ被って」
上杉さんがクマの頭部をおれに手渡した。
ボディから漂ってくる臭気ですでに小鼻がもげそうだった。
(だが口で呼吸をすれば耐えられないことはないはず……)
「あ、口の部分はふさがってるので鼻で呼吸してくださいね」
「まじっすか!?}
上杉さんの言葉に思わずクマの頭を取り落としそうになった。
そのまま放り出して帰りたくなったが、姫殿下が期待をこめておれの方をご覧になっている。
(うう…………コンボイ司令官! おれに力を貸してください!)
おれは一息にクマの頭を装着した。
「ヘッドオンッ!!」
おれの視界が一瞬にして狭くなった。
「ぐああああ、暗い! 狭い! 臭いッ!」
「上杉さん! クマが唸ってます!」
姫殿下が心配そうに上杉さんの方を振り向いておっしゃった。
「ああ、これ被っちゃうと中の人の言葉はよく聞こえないのよね」
(そんな……じゃあおれは本当の獣になってしまったのか……)
「藤村、こちらの言葉は聞こえるか?」
姫殿下のお尋ねにおれは大きく頷いた。
すると姫殿下はおれの頭をぎゅっと抱きしめられた。
「おお、かわいいのう、おまえは」
(むむむ、これは……)
「ぽこたん、ぽこたん。お前は今日からぽこたんだ。ねえー、ぽこたん」
(ぽ、ぽこたん……)
早速ホーリーネームを頂戴してしまった。
「ぽこたん、いい子だ、よしよし。ふわふわだなあ、お前は」
姫殿下がおれの顔に頬擦りをされている。
(イ、インしてよかったお!)
こんな素晴らしいボディコンタクトを頂戴する私は、きっと特別な存在なのだと感じました。
673水先案名無い人:04/11/23 16:08:05 ID:nM56y3Y/
禿藁!
674水先案名無い人:04/11/23 16:09:36 ID:nM56y3Y/
ヴェルタースオリジナルワロタ
675水先案名無い人:04/11/23 16:11:07 ID:nM56y3Y/
やっべハゲワロタ
676水先案名無い人:04/11/23 16:12:39 ID:nM56y3Y/
これどっかにまとめサイトでも作って著作権主張しとかないと、
バカが同人とかで出しそうだな。
677水先案名無い人:04/11/23 16:14:10 ID:nM56y3Y/
ネタ具現化委員会に提出した者勝ち
678水先案名無い人:04/11/23 16:15:41 ID:nM56y3Y/
ぽこたんむっちゃワロタ
679水先案名無い人:04/11/23 16:17:11 ID:nM56y3Y/
デヴ問題と混ぜちゃダメ!
有毒ガスになるぞ
680水先案名無い人:04/11/23 16:18:42 ID:nM56y3Y/
「おいで、ぽこたん。手の鳴る方へ」
姫殿下のお誘いに従って、クマのおれは準備室を出て演劇部室に戻った。
口がふさがっているせいで少し動いただけで息が切れる。
おまけに鼻の粘膜がやられたのか鼻水が止まらない。
(くそっ、『アビス』の潜水服の方がまだましだぜ)
おれが動かずに呼吸を整えていると、姫殿下がおれの目を覗きこんでおっしゃった。
「ぽこたん、ちょっと掌を見せておくれ」
おれは右手の珍味を差し出した。
姫殿下はそれをぎゅっと握り締めあそばされた。
「おお、肉球……大きいなあ、ぷよぷよだなあ」
特大肉球を突ついておられる姫殿下をおれはクマの中から生暖かく見守っていた。
…………5分後、姫殿下はまだおれの手をお放しにならなかった。
クマの中のおれの体勢は前傾気味なので、床についた左手に強い負荷がかかっている。
(そろそろ手を離してくださらないだろうか……)
だが姫殿下は肉球占いに夢中になっておられた。
「王様、姫様、外人力士、王様、姫様…………」
(待っていてはだめだ。はっきりとおれの意思をお伝えしなくては……)
おれは右手を動かそうとした。
しかし姫殿下が思いの外がっちりとホールドされているので動かせない。
だからといって乱暴に振り払うわけにもいかない。
そこで空いた左手で床を光速タップすることにした。
体重が乗っている左手を屈して上体を沈めてから思いきり跳ねる!
「ああっ、ぽこたんは姫様だ! あはは」
姫殿下が急に右手を引っ張られたのでおれはバランスを崩し、顔面で着地してしまった。
(おっぱァアアーっ)
おれは痛みにのたうち回った。
「あっ! この動きは何を意味しているんですか?」
姫殿下が上杉さんにお尋ねになった。
「甘えてるんじゃない?」
勝手に裁判の原告にされてしまった動物たちの気持ちが少しわかったような気がした。
681水先案名無い人:04/11/23 16:20:14 ID:nM56y3Y/
「ぽこたん、ちょっとだけ外に出てみないか?」
姫殿下のご提案におれは身をすくめた。
この着ぐるみを着て長時間活動するのは体力的に不可能。
それに過去を振り返ると、「出てみないか」と言われて出たものは、登校拒否の自助グループ、
仏教系の勉強会、居酒屋の外(ホモの先輩と)などろくなものがなかった。
そんなことを考えながらもじもじしていると、姫殿下が沈んだ声でおっしゃった。
「そうか、だめか……せっかくみんなに自慢したり、馬乗りになろうと思ったのに……」
(姫殿下がクマ乗り!? いや馬乗り!?)
「クマ――!!」
おれは廊下に踊り出た。

「ちょっとだけ、この階を回るだけだから」
姫殿下はおれが逃げ出さないよう何とか引きとめようとしておられた。
おれはそろそろ汗も出なくなり、体力の限界に近づいていた。
(そろそろ演劇部室に戻ることをかわいらしくおねだりしてみないと……)
おれがクマである自分の魅力を最大限に引き出すポーズを考えていると、突然姫殿下が歩みを止められた。
(ん、何だ? ………………ああっ!)
目の前に足の不自由な生徒用のエレベーターがあった。
(ま、まさか……)
「ぽこたーん、これならぽこたんでも下に下りられるな。階段は怖いだろう?」
そうおっしゃりながら姫殿下は「下」のボタンを押された。
(いや、ちがうんです! 階段との比較の問題ではなくて!)
すぐにエレベーターの扉が開いて、おれはむりやり押し込まれた。
中は狭く、機械音がとても大きく感じられた。
(きっとスペース・ビーグル号のエレベーターに乗ったクァールもこんな恐怖を味わったんだろうなあ)
身をすくめたおれの首元を姫殿下が優しく撫でてくださった。
「もうすぐ外の風に当たれるからな。もう少しの辛抱だぞ、ぽこたん」
(外に出るのか……)
ホント クマの中は地獄だぜ! フゥハハハーハァー、と思った。
682水先案名無い人:04/11/23 16:21:46 ID:nM56y3Y/
歴戦の勇者にふりかかる最大の試練。
毎回手に汗しつつ拝読しております。
がんばれぽこたん!(・∀・)!
683水先案名無い人:04/11/23 16:23:17 ID:nM56y3Y/
          , -''''~"''''-,,,,,_
         /__┐     <:、
       /::/ ,ィ ̄"''-.へ/,rヽ     ←姫様
.       /::// /,∠{. } ト、ヽ"ヽ.ヽ    ↓藤村
     /::イレ ,イ7ニ{i |l十ト、ヽ ヽヽ 
     /::::i {/ 代:ケ.ヤ }ハノ.ヤ、',ヽ',ヽ   _
    /:::::::l  ! ~"'' ,ヤ 'i::ケ、}/__l_l,!,,,,rノノ >、_ヽヽ
   /::/::..::|  l、   r- 、 ~"'/     ヽニ‐-、ヽ) )
  ノ::/::.::::,r-:、|:ヽ Lノ  ,イ       ヽ.  } iノ
/:::/.:::/"  ヽ. >、_,,. ィ"●    ●   ヽク
:::/:://     ヽ、/:::::/ :/▼ ヽ.      i  クマー
/::{:/∧  へ    ヽ.::{、 '、人 ノ     ,/\ 
::::://::::',   ヽ.    ヽ \ ,.-ェ''_,, o,,,,;;;;;;;o  :、
../ l::::::::::::::...... ::\    \ノ   --='/::Д:::::::::::::::ヽ.
684水先案名無い人:04/11/23 16:24:48 ID:nM56y3Y/
誰だよそれ。
685水先案名無い人:04/11/23 16:26:19 ID:nM56y3Y/
なにこのスレ…
っていうかこの書きまくってる人の小説めちゃくちゃ長いな
2ch史上最長じゃないか?
686水先案名無い人:04/11/23 16:27:50 ID:nM56y3Y/
建物から一歩外に出ると確実に体感温度が上昇した。
「クマでーす!」
おれの目の前で姫殿下が叫ばれた。
すると歩いていた何人かの生徒が足を止めてこちらに向かってきた。
「あの、これ……クマ?」
「クマです!」
姫殿下は自信たっぷりにお答えになった。
「触ってもいい?」
「クマですから触ってください!」
こうおっしゃったので生徒たちは恐る恐るおれの毛皮に手を触れた。
「クマ……ふわふわ」
最初のうちは遠慮がちに撫でていた生徒たちも次第にハードペッティングへと移行していった。
(うぅ……何でおれがこんな特殊なプレイをしなきゃならないんだ……)
1人の生徒が喉もとをくすぐり始めたのでおれは顔を上げた。
すると列になってランニングをする運動部員の姿が見えた。
運動部員たちはおれの姿を認めると足を緩め、やがて立ち止まり何やら相談し始めた。
見ていると代表らしき生徒がこちらに歩いてきた。
(あ、あれはソフトボール部の病院坂ククリさん!)
「マコさん……」ククリさんが小さな声で姫殿下に申し上げた。
「あの……このクマは……?」
「わたしのクマです!」
姫殿下はきっぱりとおっしゃった。
「そう……ちょっと触ってみてもいい?」
「わたしのクマですからどうぞ!」
姫殿下のお許しを頂戴したククリさんはおずおずと手を伸ばした。
「クマかあ……」
「クマです!」
「クマ……」
「よかったらソフトボール部の皆さんもどうぞ!」
うれしいことおっしゃってくれるじゃないの、とおれは吐き捨てるように呟いた。
687水先案名無い人:04/11/23 16:29:22 ID:nM56y3Y/
おれは数十人の生徒に入れ代わり立ち代わりまさぐられ続けた。
その間にも人数はどんどん増えていった。
「部長! クマです!」
またマドハンドの仲間を呼ぶ声が聞こえた。
(今の声……どこかで聞いたことが……)
「はい、ごめんよ〜、ごめんよ〜」
群がる生徒たちを掻き分けて下川さんが姿を現した。
(ま、まずい…………)
「ほら、本当にいたでしょ、クマ」
下川さんの後ろから小柄な平沢さんがぴょんと踊り出た。
さらには美術部の他の3人もいる。
「へえ、クマか……」
残忍な笑みを浮かべた下川さんが音もなくおれに近づき、誰にも見えない角度からおれの脇腹に膝蹴りを入れた。
(ぐはっ!)
おれは痛みにのたうち回った。
「あっ、甘えてる!」
姫殿下が叫ばれた。
「マコちゃん、この中に入ってるのは誰?」
松川さんがお尋ね申し上げた。
「藤村です」
「へえ、どうりで姿が見えないと思った」
「ごめん……まさか藤村さんがそんなみじめで暗くてさびしいクマの中にいるとは思わなかったから……
あたし浮かれちゃって……」
下川さんが手で口を覆うようにして言った。
(嘘だ! 絶対嘘だ!)
「藤村さん、クマ系ですね……」
キャノンさんがぽつりと呟いた。
(系をつけるな! 専門用語だ!)
おれはもう限界だと思った。
688水先案名無い人:04/11/23 16:30:53 ID:nM56y3Y/
俺は既にこんな妄想をしているぜ!!


暴漢3人組:《おいねーちゃん、俺たちと付き合えよ!ゲヘー》
(悪のテーマみたいな低音の音楽が流れ続ける)

眞子様:†やっ、やめてください!人を呼びますよ!†

暴漢3人組:《ハハッ、周りを見てみー!みんな見てみぬフリやで〜?誰も助けちゃくれないよ〜ん♪》

俺:「待てィ!!」(ここでヤッターマンのOPテーマの様な正義の音楽に切り替わる)
俺:「か弱き乙女に狼藉を働く悪党は許さん!くらえ!【狼牙風風拳!】(←俺が日々の妄想の中であみだした必殺技)」

暴漢3人組:《何じゃワレァ!野郎共!やっちま‥あべし!ひでぶ!ぱごァ! お、覚えてけつかれこのド阿呆!》

俺:「正義は負けない!」

眞子様:†あ‥ありがとう。あなたのお名前‥†

俺:「名乗る程ではありませんよ、お嬢さん!では!」(去り際にそば屋の自転車にぶつかってバカヤローと言われる、眞子の方を振り返って照れ臭そうに笑う俺)

眞子様:†ステキ!あの御方とお付き合いがしたい†
689水先案名無い人:04/11/23 16:32:26 ID:nM56y3Y/
眞子様を助ける妄想のガイドライン
http://that3.2ch.net/test/read.cgi/gline/1082454048/
690水先案名無い人:04/11/23 16:33:57 ID:nM56y3Y/
ヽ从^▽^从ノ
691水先案名無い人:04/11/23 16:35:28 ID:nM56y3Y/
ここは俺の未来の妻・眞子様に関するSSを書くスレです。
692水先案名無い人:04/11/23 16:36:59 ID:nM56y3Y/
新スレと眞子様に幸あれ
693水先案名無い人:04/11/23 16:38:30 ID:nM56y3Y/
眞子ってなんて読むの?
694水先案名無い人:04/11/23 16:40:01 ID:nM56y3Y/
まんこ



と答えたくなる衝動を必死で抑えました
695水先案名無い人:04/11/23 16:41:32 ID:nM56y3Y/
【狼牙風風拳!】
>>1 はヤムチャ?
696水先案名無い人:04/11/23 16:43:03 ID:nM56y3Y/
新スレ立ったんですね。>>1乙です。
新スレを祝して久しぶりに何かSS書こうかな、
とか思ったんだが、さしあたってネタが思いつかん…。

実は、以前書いてた「嗚呼!」を連発する長編の後日談とか構想してるんだけど、
なかなか時間がとれんのよ。ええトシこいて受験生なもんで。

とりあえず即死回避パピコ。
697水先案名無い人:04/11/23 16:44:34 ID:nM56y3Y/
左右召喚age
698水先案名無い人:04/11/23 16:46:05 ID:nM56y3Y/
昨日のTBSの皇室番組で愛子の目にうっすらと二重が
699水先案名無い人:04/11/23 16:47:35 ID:nM56y3Y/
呼び捨てとは失敬な!

昨日脳内の皇室番組で眞子様のほっぺがうっすらとした羽二重餅に見えた
思わず吸い付きたくなった
700水先案名無い人:04/11/23 16:49:06 ID:nM56y3Y/
こっちもよろしく

眞子様のSSを書くスレ Part1.5
http://temporarypage.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/test/test/read.cgi/mako/1094828391/
701水先案名無い人:04/11/23 16:50:37 ID:nM56y3Y/
また腐ったスレが一つ増えた。
「これでコテハンデビューだ!」
「メンヘル板の有名人だ!」
「相談にものっちゃうぞ!」
がドキドキしながらたてたスレは、
大方の予想通り(を除く)、どうしようもないレスばかりがついた。

ここではあわてふためく。
1 「ネタだったことにしちゃおうか?」
2 「自作自演で盛り上げようか?」
3 「逃げ出して別のスレでもたてようか?」
さあ、いったい、どれを選んだら良いのでしょ〜か?

1を選んだへ。
それは「ごまかし」です。あなたは「嘘つき」です。

2を選んだへ
それは「まやかし」です。あなたは「嘘つき」です。

3を選んだへ。もう書くのが疲れました。
言いたいことは上と同じです。

そろそろ認めるべきです。
あなたは自己顕示欲だけはいっちょまえだが、 その欲望を満たすだけの能力がない。
努力はしないくせに、注目を浴びている自分ばかり妄想している。卑屈な笑いだけが特徴のつまらない人間だ。

せっかく必至で考えたコテハンが無駄になってしまいましたね(笑)
そして今日も良い天気!
702水先案名無い人:04/11/23 16:52:09 ID:nM56y3Y/
すまん誤爆しました。
703水先案名無い人:04/11/23 16:53:40 ID:nM56y3Y/
「プールの中で走ってはいけないぞ。腰洗い槽だったからまだよかったものの、転んで頭を打ったらどうする」
姫殿下が強い口調でお叱りになった。
「ごめんなさい、お姉様……」
俯かれたカコ様の制服からは水滴が滴り落ちている。
おれは1歩進み出て奏上した。
「姫殿下、私がプールのことを申し上げたのがいけなかったのです。お叱りは全て私が甘受いたします」
姫殿下はおれが頭を下げようとするのをお手でとどめられた。
「いや、そなたに落ち度はない。カコ、藤村の側についていなさい。勝手に走りまわってはいけないぞ」
「はい、お姉様」
カコ様はすっかり小さくなっておられた。
「帰りはわたしの体育着を着て帰りなさい」
「ありがとうございます、お姉様」
姫殿下はひとつため息をつかれると、表情を和らげられた。
「それでは皆さん、演奏をよろしくお願いします」
ひとつ頷いた新井さんがタクトを振ると、バンドは『雨に唄えば』を吹き始めた。
彼女たちを引き連れた姫殿下は更衣室を通ってプールにお入りになった。
カコ様とおれは行列の最後尾についた。
「びしょ濡れになっちゃったわねえ」
カコ様にもいつもの笑顔が戻った。
「御一人だけプールから上がられたみたいですね」
「そうねえ……あっ、そうだ。まめ飴、まめ飴……あーっ、全部びしょびしょになってる!」
カコ様はじっと残りの飴を見つめておられたが、意を決して全てお口の中に放り込まれた。
「塩素くさーい」
顔をしかめられながら、カコ様はがりがりと飴を噛み砕かれた。

プールの中は体育館の中よりも遥かに音を響かせた。
一行が侵入するとすぐに水泳部員が1人飛んできた。
「何なんですか、あなたたちは!?」
姫殿下は丁寧に自己紹介し、来意をご説明あそばされた。
704水先案名無い人:04/11/23 16:55:12 ID:nM56y3Y/
姫殿下のお話を拝聴した水泳部員は露骨に嫌な顔をした。
「いやあ、それはちょっと……」
「ちょっとすいません」おれは先ほどと同じように割りこんだ。

「……わかりました。演説を伺うことにします」
またしてもおれの街宣右翼的論法により敵の野望は打ち砕かれた。
ふと見るとカコ様がやけになられたのか、プールサイドに腰掛けて思いきりバタ足をされていた。
おれは姫殿下に恫喝の成果をご報告申し上げた。
「そうか、それはよかった。では早速演説をしよう」
姫殿下は満足げにおっしゃった。
「演説台はどちらに置けばよろしいでしょうか?」
おれがそうお尋ねすると、姫殿下はあたりをご覧になってからおっしゃった。
「いや、演説台はいい。あのスタート台の上に立って行おう」
姫殿下がスタート台のうえに立たれると、水泳部員たちが水から上がってこちらにやって来た。
プールの向こうではカコ様がコースロープ綱渡りに挑戦されていたが、2mほど進んだところで静かに水没された。

「プール上がりのアイスは最高ねえ、お姉様」
姫殿下のシャツとブルマをお召しになったカコ様がアイス片手に満面の笑みを浮かべられておっしゃった。
「そうだな。ご馳走してくれた藤村に御礼を言いなさい」
「はい。藤村さん、どうもありがとうございます」
カコ様に頭を下げられて、おれは恐縮した。
「いえ、お気になさらずに。大人の経済力にかかればアイスの20個や30個……」
「藤村さん、ご馳走になります」
「まーす」
平沢さんと下川さんがお盆を持っておれの前を通り過ぎていった。
「あっ、あなたたち、何でカレーも頼んでるんですか!?」
「あ、冷と暖のバランスを取ろうと……」
「いいじゃん、カレーの1杯や2杯。あんた公務員でしょ? 給料もらってんでしょ?」
下川さんに完全に逆ギレされたおれは、それ以上の追及はやめて自分のガリガリ君に集中することにした。
705水先案名無い人:04/11/23 16:56:46 ID:nM56y3Y/
左右さん
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
706水先案名無い人:04/11/23 16:58:16 ID:nM56y3Y/
プールサイドでカレー(゚д゚)ウマー
707水先案名無い人:04/11/23 16:59:47 ID:nM56y3Y/
藁板のスレと相互リンクしておこう

こんな眞子さまはイヤだ!!
http://hobby6.2ch.net/test/read.cgi/owarai/1090940317/
708水先案名無い人:04/11/23 17:01:18 ID:nM56y3Y/
709水先案名無い人:04/11/23 17:02:49 ID:nM56y3Y/
空気嫁
710水先案名無い人:04/11/23 17:04:20 ID:nM56y3Y/
姫殿下とカコ様は吹奏楽部員たちとご歓談されていた。
並んで座ったおれと下川さんと新井さんはそれを眺めていた。
「ねえ、下川」と新井さんが言った。
「今日行った部ってさ、昔はもっと活気があったと思わない?」
「うん。私が1年のとき剣道部員はあの倍くらいいたと思う」
下川さんがお茶をすすりながら言った。
「今はどこの部も苦しいのかな……
文化部でちゃんと活動してるのって私のところと下川の美術部くらいじゃない?」
「そうだね。書道部もなくなっちゃったし」
「あなたは何で書道部じゃなくて美術部に入ったの?」
「……やっぱり楽しかったからかな。先輩がよくしてくれたし。雰囲気がよかったの」
そう言って下川さんは姫殿下の方を見て目を細めた。
「ねえ、藤村さんは中学時代何部だったの?」
下川さんがおれの顔を覗きこんで尋ねた。
「私は帰宅部でした」
おれがそう答えると、下川さんは納得した様子で頷いた。
「でも皆さんを見ていると、あの頃部活をやっていればよかったなあって思います」
「何言ってんの? あなたは美術部員よ」
下川さんがおれの肩を叩いて言った。
「え、そうなんですか?」
「そうよ。まあ、身分的には筆洗バケツのやや下くらいだけど」
おれの暗かった学生生活はここに来て埋め合わされ始めたようだ。
吹奏楽部員に混じった姫殿下とカコ様がお顔を真っ赤にして大きな木管楽器を吹いておられるのが見えた。
711水先案名無い人:04/11/23 17:05:52 ID:nM56y3Y/
翌日は朝から曇りだったが、午後になって雨が降り出した。
雨音のせいかいつもより終鈴が遠く聞こえた。
「では木田さん。美術室に行ってきます」
そう意っておれは新聞を折りたたみ、傘を開いて守衛室を出た。
並木道には1人の生徒の姿もなかった。
「何か閑散としてますね」
とおれは言った。
木田さんは守衛室の窓口から顔を出した。
「雨の日の学校は静かなものですよ。静かで美しい。
でもね、この学校で一番すばらしいのは雨上がりの直後です。空気の香りが何とも言えない。
藤村さん、もし雨が上がったら深呼吸してみてください」
おれは手で了解の合図をして美術室に向かった。

美術部員たちは自分の創作に没頭していた。
いつもなら弁当を鬼食いしている下川さんも手鑑を見ながら筆を走らせている。
おれは姫殿下のお側に参った。
「姫殿下、本日の選挙運動はいかがなさいますか?」
「うん、それがなあ……」姫殿下が画筆を休められておっしゃった。
「外でビラを配ろうと思っていたのだが、この雨では無理だな」
近くの机に置かれたビラには「明るい勤王」と書かれていた。
それが具体的にどういう行為を指すのかは定かでないが、
佐幕派暗殺とか画像を集めてハァハァするといった行為とは正反対のものであることだけは確かだ。
「うおおおお、だめだああああ」下川さんが頭をかきむしりながら立ち上がった。
「腹が減って集中できない! 私、ちょっと学食に行ってくる」
「部長、私も行きます」三鷹さんがマウスから手を離して腰を上げた。
「ねえ、マコちゃんも一緒に行かない? もしかしたら学食で雨の上がるのを待っている人がいるかもしれない」
それをお聞きになった姫殿下のお顔がぱっと明るくなった。
「はい、行きます!」
姫殿下はビラの束を引っつかまれると、その側に置いてあったたすきをジャージの上からお召しになった。
712水先案名無い人:04/11/23 17:07:24 ID:nM56y3Y/
いつの間にかその2が…
1さん乙です。
713水先案名無い人:04/11/23 17:08:55 ID:nM56y3Y/
学食は八分くらいの入りだった。
しかしきちんとした食事を採っている生徒は少なく、雨宿りついでにジュースを飲んでいるといった手合いがほとんどだった。
「ここは手堅く月見そばに半ライスと行くか……」
何が手堅いのかはわからないが、下川さんはそう言い残して麺類のカウンターに向かった。
そのとき学食のおばちゃんに注文をしていたジャージ姿の生徒が振り向いた。
「あっ、下川!」
「むっ、獄門島!」
バスケ部部長の獄門島さんは下川さんの姿を認めると凶悪な視線をぶつけてきた。
その横にはバレー部部長の八つ墓村さんにソフト部部長の病院坂さんが立っていて、毒々トロイカ体制を確立している。
おれは立ちすくんでおられる姫殿下にそっと耳打ちし申し上げた。
「姫殿下、何だか雰囲気が悪うございますから、ここは美術室に戻られた方がよろしいかと……」
「そうだな、そうしよう」
下川さんとにらみ合っていた獄門島さんがこのひそひそ話に気付いてこちらをちらりと見た。
「どうしてここに? ……そうか下川は美術部だったね。だからそっちに荷担してるわけだ」
「あんたこそ安藤のパシリやってるんだって?」
どうやらこの2人は非常に仲が悪いらしく、早くも一触即発のムードだ。
おれがそれを無視して姫殿下を先導し申し上げようとしたとき、下川さんがすたすたとご飯類のカウンターに歩いていった。
「獄門島、あんた何頼んだの?」
下川さんの突然に問いに獄門島さんの表情に微かな動揺の色が浮かんだ。
「え……? 掛けうどん半ライスだけど……」
「おばちゃん、かき揚げ丼! 味噌汁・お新香つきで!」
下川さんは食堂中に響き渡る大声で注文した。
かき揚げ丼、味噌汁・お新香つき……何と力強い組み合わせであろうか。
確かに麺類+ライスは炭水化物を摂取するには最適だ。
だがその機能性ゆえにか、それを食する行為は“摂取”とでも呼ぶべき、誤解を恐れずに言えば“餌”的な色彩を帯びる。
しかし丼・味噌汁・お新香とくればそのメニューとしての完全性たるや……
それを食する者は精神的貴族に位置付けられる。
「むむむ……」
獄門島さんが低く唸った。
714水先案名無い人:04/11/23 17:10:27 ID:nM56y3Y/
そのとき八つ墓村さんが1歩進み出て言った。
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り!」
「うっ……」
下川さんがひるんだ。
確かにここまで機能性を追及されれば、そこに志士的な潔さを感じずにはいられない。
(どうする下川さん……)
突然姫殿下が厨房に飛びこまんばかりの勢いでカウンターに駆けて行かれた。
「かき揚げ丼・味噌汁・お新香、それから小カレー!」
「なにィッ!?」
姫殿下の電光石火のご注文に食堂中がどよめいた。
小カレー……それ自体では決して迫力のあるものではない。
だがカレーは回転が速いためご飯類とは別のカウンター。
途中で気が変わったからといって越えることのできぬ、三十八度線にも等しい境界線がそこには存在する。
それを軽々と注文してのけるとは……まさに食のコスモポリタンである。
「病院坂、あんたは何頼む?」
八つ墓村さんが傍観していた病院坂さんに迫った。
「え? いや、私はそんなにおなかも空いてないし……」
「ラーメン、掛けそば、ライス大盛り、小カレー!」
獄門島さんが厨房の奥まで響けとばかりに叫んだ。
それに対抗して下川さんもカウンターにのしかかるような姿勢で怒鳴った。
「おばちゃん、あそこの冴えない男の人にかき揚げ丼・味噌汁・お新香、カレー大盛り、ゆで卵!」
(おれも食うのか……)
おれの隣にいた三鷹さんも自分の運命を悟ったようで、すでに泣きが入っていた。

15分後、おれと三鷹さんはかき揚げ丼を半分空けたあたりでグロッキーになっていた。
「藤村さん、私もう限界……」
三鷹さんがうなだれていった。
「私もです……心苦しいがカレーは残すしか……」
そこへ早々と完食しビラも配り終わった姫殿下と下川さんが戻っておいでになった。
「何だ藤村、カレーが手付かずではないか」
姫殿下のお言葉におれは恐縮するしかなかった。
715水先案名無い人:04/11/23 17:11:59 ID:nM56y3Y/
面白すぎるw♪
716水先案名無い人:04/11/23 17:13:30 ID:nM56y3Y/
ハゲワロタw

毎回毎回GJGJGJ
717水先案名無い人:04/11/23 17:15:02 ID:nM56y3Y/
「三鷹、あんたさっきから全然減ってないじゃん」
下川さんが三鷹さんの肩をもみながら言った。
「すいません…………」
三鷹さんが小さな声で答えた。
「藤村ももっと食べないと大きくなれないぞ」
そうおっしゃる姫殿下におれはご飯を咀嚼しながら頷いた。
「しょうがない、カレーは私が食べてあげる」
「わたしもちょっと手伝ってあげよう」
下川さんと姫殿下がカレーの皿をお手元に引き寄せられた。
「ありがとうございます…………」
そう申し上げたものの、おれは被害者なのではないかという疑念を拭いきれなかった。
「うん、おいしいおいしい。やっぱりカレーは別腹ね、マコちゃん」
「そうですね、部長。それにこのゆで卵が何とも……」
2人はもしゃもしゃとカレーを平らげていった。
ようやくおれのかき揚げ丼もあと一口というところまできたとき、紙の束を抱えた生徒が食堂に飛びこんできた。
「号外でーす。討論会が開催されまーす。生徒会長候補が直接対決しまーす」
そう言いながら、テーブルを回って紙を配り始めた。
「姫殿下、いま生徒会長候補がどうとか言っていましたが……」
「うん。でもそんな話は何も聞いていないぞ」
姫殿下はかりかりと福神漬けをかじりながらおっしゃった。
「ちょっと私、話を聞いてくる」
そう言って下川さんが席を立った。
見ていると下川さんは話を聞くどころか、紙を配る生徒の首根っこを捕らえてこちらに引っ立ててきた。
「さあマコちゃんの前でちゃんと説明しなさい」
組み伏せられた生徒は姫殿下のたすきを拝見してはっと驚いた顔をした。
「わ、私は何も知りません。急に新聞委員は集まれという呼び出しを受けて、行ってみるとこれを配って来いと言われただけで」
弁明する生徒から下川さんが紙を1枚奪い取ってテーブルの上に広げた。
「生徒会長候補討論会 主催 選挙管理委員会 共催 新聞委員会、放送委員会……あんたも関わってるんじゃない」
「いえ、私たち1・2年生は何も知らされていませんでした。本当にさっきこのビラを渡されてはじめて知ったんです」
哀れな新聞部員はすっかり怯えきっていた。
718水先案名無い人:04/11/23 17:16:34 ID:nM56y3Y/
下川さんは納得いかない様子でその新聞部員を解放した。
「28日……来週の月曜日ですね」
「投票は30日だから結構重要なイベントね」
「何か嫌な感じ。マコちゃんに知らせなかったのは絶対嫌がらせだよ」
下川さんが憤慨した顔で言った。
「でもまだ5日ありますから。準備はできます」
姫殿下はいつもの穏やかなお顔でおっしゃった。
ふと食堂の入り口に目をやると、獄門島さんご一行が出て行くのが見えた。
(ん……? あの3人、ビラを持っていない。もしや前から討論会のことを知っていたのでは……)
おれはじっくり観察しようとしたが、獄門島さんと目が合って思いきりにらまれたので、慌てて目を逸らした。

食堂を出ると雨は上がっていた。
「あーあ、何かあいつらのせいで嫌な気分になったから食べた気がしない」
下川さんがそう言う側で三鷹さんが切れそうになっているのをオーラで感じた。
「んー…………」
姫殿下は大きく伸びをされていた。
「姫殿下もあの雰囲気でお疲れですか?」
とおれはお尋ねした。
「いや、ただ雨上がりのいい匂いがするから深呼吸してみたんだ」
「雨上がりの匂い……でございますか?」
木田さんの言っていたことを思い出して、おれも思いきり息を吸い込んでみた。
すると確かに鮮烈でなぜか胸がどきどきするような匂いがした。
「本当だ。森の中にいるみたいですね」
下川さんがおれたちの姿を見て目を細めた。
「ねえ、美術室に帰ったらみんなで散歩しようか。林の中を通って葉っぱから落ちる雫を浴びるの。どう?」25
「賛成! 私は第2グラウンドの芝の上を裸足で歩きたいな」
「藤村、こういうときに池の側に行くとカエルがいっぱいいるんだ。それから百葉箱の下でいつも雨宿りする猫が……」
自分たちの学校の美しさを自然に口に出せる彼女たちを見ていると、
学校の中に居場所がなかったのはおれにそれを見つける目がなかっただけなのかもしれないと思えてきた。
719水先案名無い人:04/11/23 17:18:07 ID:nM56y3Y/
OVA化キボンヌ。
720水先案名無い人:04/11/23 17:19:38 ID:nM56y3Y/
翌日、守衛室待機を命じられていたおれは新聞を読むともなく眺めていた。
1面には「糸己宮さま、ハシジロキツツキを観察 営巣行動の撮影、世界初――キューバ」という見出しが躍っている。
密林を写した写真には「ハシジロキツツキにカメラを向ける糸己宮さま(右から2つ目の茂み)」というキャプションが付けられていた。
おれはその写真をためつすがめつ、裏返したり日光に透かしたりダブルクリックしたりしてみたが糸己宮様のお姿を発見することはできなかった。
「藤村!」
突然姫殿下のお声が聞こえた。
顔を上げると、たすきをお召しになった姫殿下が守衛室の窓口からお顔を覗かせておられた。
「藤村、演劇部に行くぞ!」
「はい!」
おれは新聞を放り出して守衛室から飛び出した。

演劇部室は旧校舎3階の薄暗い廊下を行った突き当たりにあった。
「失礼します」
ノックしてドアを空けると、意外にも室内はまばゆい光に満ちていた。
部屋の中央ではミニチュアの家があり、その前で1人の生徒がうずくまっている。
「あの……わたくしこの度生徒会長に立候補いたしました……」
姫殿下が自己紹介を始められると、その生徒は振り向いてしょぼしょぼした目をこちらに向けた。
「ああ、あなたがマコさんね。吹奏楽部の人から話はきいたわ。私、演劇部のラストサムライ、2年の上杉です」
そう言って上杉さんは姫殿下と握手した。
おれは自己紹介ついでに地べたに置かれた謎の平屋ドールハウスについて尋ねてみた。
「ああ、これ? これはクレイアニメ用のセット」上杉さんは粘土の人形を手に取った。
「なんせ部員が私1人しかいないものだから……」
いきなり辛気臭い話を聞かされてしまった。
「これを少しずつ動かして撮影するんですね」
姫殿下は興味深そうに犬の人形を見つめておられた。
「そう。今『遊星からの物体X』を撮ってるんだけど、なぜかコミカルになっちゃうのよね。何でだろ?」
それはクレイアニメだからではないですかと言おうかと思ったが、空気が余計湿っぽくなりそうなのでやめておくことにした。
721水先案名無い人:04/11/23 17:21:10 ID:nM56y3Y/
「それで……衣装だよね。こっちの部屋へどうぞ」上杉さんが人形を置いて、“準備室”という札のついたドアを開けた。
「昔はいろいろ賞取ったりして力があったから小道具とか衣装とかはたくさんあるのよ」
一歩その部屋に足を踏み入れると、こもった臭いが鼻をついた。
「うわあ、すごい」
五月みどりの衣装部屋さながらの光景に姫殿下がお声を上げられた。
ハンガーにかけられた衣装がびっしりと壁を覆っていて、歩くスペースもないほどだ。
「すごーい! ほら藤村、お姫様だお姫様」
姫殿下はピンクのドレスをお体に当てておられた。
(む、衣装をお召しになって街頭演説をされるおつもりか……)
おれはすばやく周囲に目を走らせ、猫耳メイド服、ミニスカサンタ、地球連邦軍機動歩兵装備などを発見していた。
(まずい……姫殿下があのような下賎な姿に身をやつされることなど想像するだにあさましい。
ここはこのドレスで手を打っていただくしか……)
「なかなかお似合いで」
「うわあ、何ですかこれは?」
姫殿下はすでに部屋の奥へと進まれていた。
「ちょっと出してみようか」
上杉さんが衣装の中に上体を突っ込んで、巨大な黒い物体を引きずり出した。
「うわあ、藤村、クマだクマ」
「クマ!?」
姿を現したのは体長2mはあろうかというハイイログマだった。
「これは20年くらい前にうちの部が『なめとこ山の熊』で使った着ぐるみよ。すごいでしょう」
「クマ……」
姫殿下は上杉さんの説明などお耳に入らぬご様子でクマをうっとりと眺めておられた。
(まずい……猫耳ならともかく全身獣になられるのはいかにもあさましい。せめてこれだけはやめていただかなくては……)
「あのー、姫殿下、せめてお顔はお隠しにならぬ方が」
「藤村、ちょっと着てみないか」
姫殿下がニヤニヤしながらおっしゃった。
(おれかよ…………)
722水先案名無い人:04/11/23 17:22:45 ID:nM56y3Y/
   ∩___∩  ・・・             
   | ノ  u   ヽ               
  /  ●   ● |               
  | u  ( _●_) ミ             
 彡、   |∪|  、ミ       ホヒー・・・クマー       
/ __  ヽノ  _\    ○_○   
(___)___(__)___(´(エ)`)_  
_ _ _ _ _ _ _ U ̄U_ |    
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |  
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |    
 | |  | | | |  | | | |  | |  | |  | |  | |   
723水先案名無い人:04/11/23 17:24:16 ID:nM56y3Y/
ワラタ
724水先案名無い人:04/11/23 17:25:47 ID:nM56y3Y/
念のためほしゅ
725水先案名無い人:04/11/23 17:27:18 ID:nM56y3Y/
http://academy3.2ch.net/test/read.cgi/history/1093526288/l50
眞子さまの名前があがってるぞ。
726水先案名無い人:04/11/23 17:28:50 ID:nM56y3Y/
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから入ってみないか」
姫殿下が熱っぽい調子でおっしゃった。
(むう、どうしたものか……?)
過去を振り返ると「入らないか」と言われて入ったものは写真同好会、中野のキャバクラ、ホモの先輩の家などろくなものがなかった。
それにおれは『火の鳥 ヤマト編』を読んで以来、閉暗所恐怖症だ。
「ほら、頭を外してから背中のファスナーを開けて着るんですよ」
上杉さんが一方的にレクチャーを始めた。
仕方なくおれは興味があるふりをしてクマの内部を覗きこんだ。
そのとき、まるでナッパ様が「クン」とやった指が直で鼻に突き刺さったような痛みが走った。
「うわあっ、は、鼻が……!?」
「これは着ぐるみに染み付いた先人たちの血と汗と胃液が発酵してこのようなイヴォンヌの香りを……」
「だめだだめだこれはだめだ!」
おれは鼻を押さえながら飛び退った。
「そうか……だめか……」
姫殿下が残念そうなお顔でおっしゃった。
おれの目には涙がにじんでいたが、姫殿下のお手がクマの頭をなでなでされるのを見逃さなかった。
(むっ、なでなで? ということは……)
姫殿下、クマをなでなで

クマの中の人=おれ

姫殿下、おれをなでなで

(゚д゚)クマー
「藤村、入ります!」
おれは靴を脱ぎ捨て、着ぐるみに足を突っ込んだ。
おれが入らなければどこのクマの骨もとい馬の骨とも知れぬ輩が姫殿下のご寵愛を賜ることになってしまうかもしれないのだ。
「おお、やってくれるか!」
姫殿下は破顔一笑された。
727水先案名無い人:04/11/23 17:30:21 ID:nM56y3Y/
「はい、じゃあこれ被って」
上杉さんがクマの頭部をおれに手渡した。
ボディから漂ってくる臭気ですでに小鼻がもげそうだった。
(だが口で呼吸をすれば耐えられないことはないはず……)
「あ、口の部分はふさがってるので鼻で呼吸してくださいね」
「まじっすか!?}
上杉さんの言葉に思わずクマの頭を取り落としそうになった。
そのまま放り出して帰りたくなったが、姫殿下が期待をこめておれの方をご覧になっている。
(うう…………コンボイ司令官! おれに力を貸してください!)
おれは一息にクマの頭を装着した。
「ヘッドオンッ!!」
おれの視界が一瞬にして狭くなった。
「ぐああああ、暗い! 狭い! 臭いッ!」
「上杉さん! クマが唸ってます!」
姫殿下が心配そうに上杉さんの方を振り向いておっしゃった。
「ああ、これ被っちゃうと中の人の言葉はよく聞こえないのよね」
(そんな……じゃあおれは本当の獣になってしまったのか……)
「藤村、こちらの言葉は聞こえるか?」
姫殿下のお尋ねにおれは大きく頷いた。
すると姫殿下はおれの頭をぎゅっと抱きしめられた。
「おお、かわいいのう、おまえは」
(むむむ、これは……)
「ぽこたん、ぽこたん。お前は今日からぽこたんだ。ねえー、ぽこたん」
(ぽ、ぽこたん……)
早速ホーリーネームを頂戴してしまった。
「ぽこたん、いい子だ、よしよし。ふわふわだなあ、お前は」
姫殿下がおれの顔に頬擦りをされている。
(イ、インしてよかったお!)
こんな素晴らしいボディコンタクトを頂戴する私は、きっと特別な存在なのだと感じました。
728水先案名無い人:04/11/23 17:31:53 ID:nM56y3Y/
禿藁!
729水先案名無い人:04/11/23 17:33:24 ID:nM56y3Y/
ヴェルタースオリジナルワロタ
730水先案名無い人:04/11/23 17:34:55 ID:nM56y3Y/
やっべハゲワロタ
731水先案名無い人:04/11/23 17:36:26 ID:nM56y3Y/
これどっかにまとめサイトでも作って著作権主張しとかないと、
バカが同人とかで出しそうだな。
732水先案名無い人:04/11/23 17:37:58 ID:nM56y3Y/
ネタ具現化委員会に提出した者勝ち
733水先案名無い人:04/11/23 17:39:29 ID:nM56y3Y/
ぽこたんむっちゃワロタ
734水先案名無い人:04/11/23 17:41:00 ID:nM56y3Y/
デヴ問題と混ぜちゃダメ!
有毒ガスになるぞ
735水先案名無い人:04/11/23 17:42:32 ID:nM56y3Y/
「おいで、ぽこたん。手の鳴る方へ」
姫殿下のお誘いに従って、クマのおれは準備室を出て演劇部室に戻った。
口がふさがっているせいで少し動いただけで息が切れる。
おまけに鼻の粘膜がやられたのか鼻水が止まらない。
(くそっ、『アビス』の潜水服の方がまだましだぜ)
おれが動かずに呼吸を整えていると、姫殿下がおれの目を覗きこんでおっしゃった。
「ぽこたん、ちょっと掌を見せておくれ」
おれは右手の珍味を差し出した。
姫殿下はそれをぎゅっと握り締めあそばされた。
「おお、肉球……大きいなあ、ぷよぷよだなあ」
特大肉球を突ついておられる姫殿下をおれはクマの中から生暖かく見守っていた。
…………5分後、姫殿下はまだおれの手をお放しにならなかった。
クマの中のおれの体勢は前傾気味なので、床についた左手に強い負荷がかかっている。
(そろそろ手を離してくださらないだろうか……)
だが姫殿下は肉球占いに夢中になっておられた。
「王様、姫様、外人力士、王様、姫様…………」
(待っていてはだめだ。はっきりとおれの意思をお伝えしなくては……)
おれは右手を動かそうとした。
しかし姫殿下が思いの外がっちりとホールドされているので動かせない。
だからといって乱暴に振り払うわけにもいかない。
そこで空いた左手で床を光速タップすることにした。
体重が乗っている左手を屈して上体を沈めてから思いきり跳ねる!
「ああっ、ぽこたんは姫様だ! あはは」
姫殿下が急に右手を引っ張られたのでおれはバランスを崩し、顔面で着地してしまった。
(おっぱァアアーっ)
おれは痛みにのたうち回った。
「あっ! この動きは何を意味しているんですか?」
姫殿下が上杉さんにお尋ねになった。
「甘えてるんじゃない?」
勝手に裁判の原告にされてしまった動物たちの気持ちが少しわかったような気がした。
736水先案名無い人:04/11/23 17:44:04 ID:nM56y3Y/
「ぽこたん、ちょっとだけ外に出てみないか?」
姫殿下のご提案におれは身をすくめた。
この着ぐるみを着て長時間活動するのは体力的に不可能。
それに過去を振り返ると、「出てみないか」と言われて出たものは、登校拒否の自助グループ、
仏教系の勉強会、居酒屋の外(ホモの先輩と)などろくなものがなかった。
そんなことを考えながらもじもじしていると、姫殿下が沈んだ声でおっしゃった。
「そうか、だめか……せっかくみんなに自慢したり、馬乗りになろうと思ったのに……」
(姫殿下がクマ乗り!? いや馬乗り!?)
「クマ――!!」
おれは廊下に踊り出た。

「ちょっとだけ、この階を回るだけだから」
姫殿下はおれが逃げ出さないよう何とか引きとめようとしておられた。
おれはそろそろ汗も出なくなり、体力の限界に近づいていた。
(そろそろ演劇部室に戻ることをかわいらしくおねだりしてみないと……)
おれがクマである自分の魅力を最大限に引き出すポーズを考えていると、突然姫殿下が歩みを止められた。
(ん、何だ? ………………ああっ!)
目の前に足の不自由な生徒用のエレベーターがあった。
(ま、まさか……)
「ぽこたーん、これならぽこたんでも下に下りられるな。階段は怖いだろう?」
そうおっしゃりながら姫殿下は「下」のボタンを押された。
(いや、ちがうんです! 階段との比較の問題ではなくて!)
すぐにエレベーターの扉が開いて、おれはむりやり押し込まれた。
中は狭く、機械音がとても大きく感じられた。
(きっとスペース・ビーグル号のエレベーターに乗ったクァールもこんな恐怖を味わったんだろうなあ)
身をすくめたおれの首元を姫殿下が優しく撫でてくださった。
「もうすぐ外の風に当たれるからな。もう少しの辛抱だぞ、ぽこたん」
(外に出るのか……)
ホント クマの中は地獄だぜ! フゥハハハーハァー、と思った。
737水先案名無い人:04/11/23 17:45:36 ID:nM56y3Y/
歴戦の勇者にふりかかる最大の試練。
毎回手に汗しつつ拝読しております。
がんばれぽこたん!(・∀・)!
738水先案名無い人:04/11/23 17:47:07 ID:nM56y3Y/
          , -''''~"''''-,,,,,_
         /__┐     <:、
       /::/ ,ィ ̄"''-.へ/,rヽ     ←姫様
.       /::// /,∠{. } ト、ヽ"ヽ.ヽ    ↓藤村
     /::イレ ,イ7ニ{i |l十ト、ヽ ヽヽ 
     /::::i {/ 代:ケ.ヤ }ハノ.ヤ、',ヽ',ヽ   _
    /:::::::l  ! ~"'' ,ヤ 'i::ケ、}/__l_l,!,,,,rノノ >、_ヽヽ
   /::/::..::|  l、   r- 、 ~"'/     ヽニ‐-、ヽ) )
  ノ::/::.::::,r-:、|:ヽ Lノ  ,イ       ヽ.  } iノ
/:::/.:::/"  ヽ. >、_,,. ィ"●    ●   ヽク
:::/:://     ヽ、/:::::/ :/▼ ヽ.      i  クマー
/::{:/∧  へ    ヽ.::{、 '、人 ノ     ,/\ 
::::://::::',   ヽ.    ヽ \ ,.-ェ''_,, o,,,,;;;;;;;o  :、
../ l::::::::::::::...... ::\    \ノ   --='/::Д:::::::::::::::ヽ.
739水先案名無い人:04/11/23 17:48:38 ID:nM56y3Y/
誰だよそれ。
740水先案名無い人:04/11/23 17:50:08 ID:nM56y3Y/
なにこのスレ…
っていうかこの書きまくってる人の小説めちゃくちゃ長いな
2ch史上最長じゃないか?
741水先案名無い人:04/11/23 17:51:39 ID:nM56y3Y/
建物から一歩外に出ると確実に体感温度が上昇した。
「クマでーす!」
おれの目の前で姫殿下が叫ばれた。
すると歩いていた何人かの生徒が足を止めてこちらに向かってきた。
「あの、これ……クマ?」
「クマです!」
姫殿下は自信たっぷりにお答えになった。
「触ってもいい?」
「クマですから触ってください!」
こうおっしゃったので生徒たちは恐る恐るおれの毛皮に手を触れた。
「クマ……ふわふわ」
最初のうちは遠慮がちに撫でていた生徒たちも次第にハードペッティングへと移行していった。
(うぅ……何でおれがこんな特殊なプレイをしなきゃならないんだ……)
1人の生徒が喉もとをくすぐり始めたのでおれは顔を上げた。
すると列になってランニングをする運動部員の姿が見えた。
運動部員たちはおれの姿を認めると足を緩め、やがて立ち止まり何やら相談し始めた。
見ていると代表らしき生徒がこちらに歩いてきた。
(あ、あれはソフトボール部の病院坂ククリさん!)
「マコさん……」ククリさんが小さな声で姫殿下に申し上げた。
「あの……このクマは……?」
「わたしのクマです!」
姫殿下はきっぱりとおっしゃった。
「そう……ちょっと触ってみてもいい?」
「わたしのクマですからどうぞ!」
姫殿下のお許しを頂戴したククリさんはおずおずと手を伸ばした。
「クマかあ……」
「クマです!」
「クマ……」
「よかったらソフトボール部の皆さんもどうぞ!」
うれしいことおっしゃってくれるじゃないの、とおれは吐き捨てるように呟いた。
742水先案名無い人:04/11/23 17:53:13 ID:nM56y3Y/
おれは数十人の生徒に入れ代わり立ち代わりまさぐられ続けた。
その間にも人数はどんどん増えていった。
「部長! クマです!」
またマドハンドの仲間を呼ぶ声が聞こえた。
(今の声……どこかで聞いたことが……)
「はい、ごめんよ〜、ごめんよ〜」
群がる生徒たちを掻き分けて下川さんが姿を現した。
(ま、まずい…………)
「ほら、本当にいたでしょ、クマ」
下川さんの後ろから小柄な平沢さんがぴょんと踊り出た。
さらには美術部の他の3人もいる。
「へえ、クマか……」
残忍な笑みを浮かべた下川さんが音もなくおれに近づき、誰にも見えない角度からおれの脇腹に膝蹴りを入れた。
(ぐはっ!)
おれは痛みにのたうち回った。
「あっ、甘えてる!」
姫殿下が叫ばれた。
「マコちゃん、この中に入ってるのは誰?」
松川さんがお尋ね申し上げた。
「藤村です」
「へえ、どうりで姿が見えないと思った」
「ごめん……まさか藤村さんがそんなみじめで暗くてさびしいクマの中にいるとは思わなかったから……
あたし浮かれちゃって……」
下川さんが手で口を覆うようにして言った。
(嘘だ! 絶対嘘だ!)
「藤村さん、クマ系ですね……」
キャノンさんがぽつりと呟いた。
(系をつけるな! 専門用語だ!)
おれはもう限界だと思った。
743水先案名無い人:04/11/23 17:54:44 ID:nM56y3Y/
まさかここで『奪!童貞。』ネタにお目にかかれるとはw。
744水先案名無い人:04/11/23 17:56:15 ID:nM56y3Y/
最近2ちゃんねるネタが多いな
745水先案名無い人:04/11/23 17:57:46 ID:nM56y3Y/
中国板・できちゃってるカップル

右翼海老=中原小麦
大和侍=猫おうえる
シナ人留学生=麦
中国民=秋篠宮眞子内親王
◆r7Y88Tobf2=曲

本物の眞子様が見れるのは中国板だけ!
http://academy3.2ch.net/test/read.cgi/china/1094591968/l50#tag514
746水先案名無い人:04/11/23 17:59:17 ID:nM56y3Y/
それでも(おっぱァアアーっ)とかの2ちゃん以外のネタもある。
(左右は2部好き?)
747水先案名無い人:04/11/23 18:00:48 ID:nM56y3Y/
「ねえ、マコちゃん」下川さんが姫殿下のお側に寄っていった。
「私クマの背中に乗ってみたいんだけど……大丈夫かな?」
「大丈夫です、クマですから!」
姫殿下がそうお答えになると、下川さんはおれの顔を見てにたりと笑った。
(まずい……バックを取られたら防御のしようがない。頭を抱え込んで、格闘技でいう“亀”の状態になるしかなくなる)
“亀”になることの危険性はプロレスラー永田さんがその著書『こねこ』(民明文庫)の中で自らの経験として語っている。
「逃げろ」とおれのゴーストが囁いた。
おれは生徒たちの囲みを突破し、後脚で駆け出した。
「あっ、逃げやがった!」
「追え!」
「誰か、誰かぽこたんを捕まえておくれ!」
背後から生徒たちの大騒ぎが聞こえたが、おれは振り返らずに走り続けた。
(誰かに背中のファスナーを開けてもらわなくては……木田さんのところへ行くか? だめだ……並木道を行くのは目立ちすぎる。
そうだ、上杉さんだ! 校舎の中を通って演劇部室まで戻ればいい。これなら追っ手をまける)
おれが狭い視界の中、校舎への入り口を探していると、追いかけてきた生徒たちの怒号が聞こえてきた。
「逃がすな!」
「目を狙え!」
「ぽこたん、どうして逃げるの、ぽこたん?」
おれはとっさに旧校舎と新校舎をつなぐ廊下の窓に飛びこもうとした。
そのとき首のあたりに強烈なタックルを食らった。
「クマクマクマーッ!」
地面に叩きつけられたおれの体の上で聞き覚えのある声がした。
「あっ、カコ! どうしてここに!?」
「だって中等科にクマが出たって聞いたから……」
「ナイスタックルよ、カコさん!」
たちまちのうちに取り囲まれたおれは無数の手の中で激しく揉みしだかれた。
「ははは……見ろ! クマがごみのようだ!」
恐怖に対する防衛措置として生み出されたおれの中の2人目の人格が笑った。
「君も男なら聞き分けたまえ」
3人目の人格がおれに囁いた。
748水先案名無い人:04/11/23 18:02:25 ID:nM56y3Y/
「臭い」
「いや部長、それは言い過ぎ……やっぱり臭ーい!」
「ははは」
美術部員たちがおれをおもちゃにして笑っている。
クマを脱いだおれの体には着ぐるみの悪臭が染み付いてしまっていた。
おれは美術室の奥に山と積まれた筆洗バケツを流しで洗いながらやり過ごそうとしていた。
「何かまだクマがこの部屋にいるみたいですね」
「現人熊……」
みんな好き勝手なことを言っている。
「でも藤村さん、あまり軽々しくクマになったりしない方がいいわよ」姫殿下のお隣に腰掛けられたカコ様がおっしゃった。
「アイヌのイオマンテでもクマはあくまで外部の存在だし。そこにアクセスしすぎると戻って来れなくなるかも」
「さんざん私の体をもてあそんでおいてそんなことをおっしゃらないでください」
おれがそう申し上げると、カコ様は「おお怖い」とおっしゃいながら謎の糸巻き運動とともに手をぽんぽんと叩かれた。
(む……今のは古事記にある“天の逆手”というやつか? 確か具体的な動作は文献にも記録されていないはずだが……)
おれが日本史の謎をひとつ解明していると、姫殿下がキャンバスの前で深々とため息をつかれた。
「ああ、ぽこたん……」そうおっしゃっておれの方を振り向かれた。
「藤村、いっそのことお屋敷付きのクマにならないか? ちゃんとかわいがるから」
「あ、それいい。学校にも連れて来てね」
「藤村さんのためにもその方がいいかもね。クマの中にいるときは臭くないから」
みんな他人事だと思って好き勝手なことを言っている。
おれはクマとして姫殿下にお仕えする自分の姿を想像してみた。
クマとして姫殿下のお側にいるときはいいが、家に帰り一人きりになったときに自分を保てる自信がなかった。
(絶対酒かギャンブルに溺れてしまうだろうな……)
「少し考えさせてください」
おれは筆洗バケツと雑巾を持ったまま頭を下げた。
「ねるねるねるねはイッヒッヒッヒ……」
カコ様がおれの横で謎の粉製品をかき混ぜておられた。
749水先案名無い人:04/11/23 18:03:58 ID:nM56y3Y/
現人熊てw
腹がよじれるほどワロタ。
750水先案名無い人:04/11/23 18:05:29 ID:nM56y3Y/
誰か同人化希望
751水先案名無い人:04/11/23 18:07:00 ID:nM56y3Y/
次の日になっても鼻水は止まらなかった。
昨日の服はクリーニングに出したが、まだ臭いが体に残っている気がする。
念のためおれは締め切った守衛室には入らず、外で掃き掃除をして1日を過ごした。
生徒たちの下校する時間になると木田さんが門の外に出て交通整理を始めたので、おれは守衛室に入った。
昼に買って結局飲まなかったカフェオレの缶を開けようとしたとき、窓口のガラスをとんとんと叩く音がした。
「藤村、わたしだ」
たすきをお召しになった姫殿下がひょっこりとお顔を覗かせられた。
「あれ、姫殿下、今日は東門でビラをお配りになるのでは……?」
おれが窓口を開けてそうお尋ねすると、姫殿下はうつむき加減でおっしゃった。
「それが……東門に行ったら安藤さんが先にそこでビラを配ってたんだ」
「そうでしたか……」
「だから今日はここで配ることにする」
「御意のままに」
おれは守衛室を出て姫殿下から少し離れたところに立った。
この時間、東門は大変混雑するが、それを嫌ってこの南門から下校する生徒も少なくない。
むしろ一人一人にビラを渡せるのでこちらの方が効果的かもしれない。
大きな声で呼びこみをされている姫殿下を拝見していると、たすきをかけた生徒が並木道を歩いて来るのが見えた。
(う、あの眼鏡は……)
「マコさ〜ん」
「あっ、安藤さん!?」
手を振りながら走って来る安藤さんの姿をみそなわされた姫殿下は硬直しあそばされた。
安藤さんは姫殿下のお側に来るとにっこりと笑った。
「ねえ、一緒にビラを配ってもいい?」
「ど、どうぞ……」
姫殿下が小さな声でおっしゃった。
(何で対立候補が並んで選挙活動しなきゃならないんだ……)
おいたわしいことにその後の姫殿下は安藤さんを意識して萎縮されておられた。
だが一番悲惨だったのはこの異様な状況の中2枚のビラを渡されてしきりに頭を下げる生徒たちだった。
752水先案名無い人
下校する生徒の流れも一段落した頃、校舎の方から新美さんが走ってやって来た。
「マコリン、探したのよ」
そういいながら新美さんは肩で息をしていた。
「どうしたの、リサリン?」
「ご、獄門島さんがマコリンと藤村さんをソフトボール部の部室に連れて来いって……」
「だめです」
おれは即答した。
新美さんは顔をくしゃくしゃにして言った。
「でも……連れて来ないとGOHDA流空手で私をボコボコにするって言ってるの」
「GOHDA流空手!?」
おれは驚きのあまり大声を上げた。
「知っているのか、藤村?」
「はい、GOHDA流空手とはあのロックスターGOHDAがアクションスター千葉県一から伝授されたという伝説の格闘技です。
彼の伝記マンガ『ドラえもん』第29巻の記述によれば、千葉の個人教授を受けたGOHDAがそのあまりの激しさに失神したとか」
「何と!」
「恐るべきは必殺技のつま先蹴り! 正中線上に存在する人間の急所を的確に狙い打つその蹴りはまさに一撃必殺でございます」
「恐ろしげな技だな……」
姫殿下がご尊顔を曇らされた。
「というわけで新美さん、姫殿下と私はご一緒できませんがご健闘をお祈りします」
「いやぁぁああ、見捨てないで!」
新美さんが姫殿下にすがりついた。
「大変ねえ、皆さん」
安藤さんが涼しい顔をして言った。
「ああああ、安藤さん! あなたが、あなたが指示したんでしょ!」
「さあ知らないわルルルー」
安藤さんは顔を真っ赤にして叫ぶ新美さんを無視して明後日の方向を向いた。
(こいつ…………)
「藤村!」新美さんの体を抱きかかえるようにされていた姫殿下がおれの名を呼ばれた。
「行こう……友達を救えないのなら生徒会長になっても意味がない」
姫殿下のお言葉におれは覚悟を決めた。