ローゼンメイデンのガイドライン

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783水先案名無い人
巴「大丈夫。すぐ行くから。先に待ってて」
ジュン「……ああ。早くな」
あの戦いで真紅達がいなくなってから、彼は学校に通い始めた。悲しいはずなのに、決して落胆の色を見せず
こうして私を気遣ってもくれる。まるで真紅の意思――『生きることは戦うこと』という――を受け継いだみたいだ。
私は彼ほど強くなかった。
最初は心に大きな穴が開いたようだった。涙も出ないほどショックで、半年間は夢遊病患者のようだった。
……半年。私は馬鹿みたいに長い時間を無為に過ごしてしまった。
巴「けど……なんとか自分を取り戻すことができたわ、雛苺」
苺大福を取り出し、もう動くことのない雛苺の前に置く。
巴「これ、大好きだったよね」
これから私は、雛苺のいない世界に馴染んでいくんだろう。悲しいけど、それは必要なことだと思う。
学校にも行かねばならない。自分の人生を歩まねばならない。
そんな決意をするため、今日、雛苺を鞄に収めてあげることにした。
巴「じゃあね。おやすみ……私の人生で一番大切だった、雛苺」
そっと鞄を開ける。すると、何やら手紙らしきものが入っていた。……まさか。
そこには、拙い、けれどとても懐かしい字が綴られていた。
『巴へ』
指が震えた。目蓋が震えた。心が震えた。涙腺が一気に崩壊してしまいそうなほどの衝撃だった。
……遺書だ。雛苺の遺書だ!
『雛苺なの。動けなくなる前に伝えておくの。短い間だけど色々ありがとうなの。
巴とお話できなくなるのはつらいけど、雛は大丈夫。巴からたくさん幸せを貰ったから。
だから、絶対に自分を責めないで欲しいの。巴は何も悪くないから。
最後に一つだけ……巴、大大だーい好きなの!』
音も無く、何かが砕けた。
巴「雛苺ぉ……」
小さかった雛苺。甘えん坊だった雛苺。寂しがり屋だった雛苺。かけがえのない……大切な雛苺。
救いたかった。救えなかった。どうしようもないことだとわかっていても、自分を責めずにはいられなかった。
けど、その縛鎖がようやく砕けた……そんな気がした。
ジュン「おーい、まだかーっ?」
桜田君の呼ぶ声がする。私は立ち上がり涙を拭いた。
さあ行こう。足りなかった『何か』は補われ、半年という時間を経て、ようやく、私の時計は動き始める――
 【ローゼンメイデン・トロイメント Fin】