「ちくりと蚊にさされたわい」
「やってくれた喃」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
虎眼様のお庭に集う乙女たちが、今日も鬼神のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない三重を襲うのは、正気を無くした虎眼。
いくとは一緒に風呂に入らないように、お奉行はおおだなに訪ね無いように、
呉服屋の許婚はゆっくりと歩くのがここでの七丁念仏。
もちろん、彼奴め天凛がありおる。否、やつはすくたれ者にござる。など存在していようはずもない。
虎眼流指南岩本道場。
元和8年にはすでにあったこの道場は、もとは濃尾無双の岩本虎眼がつくった、
剣術道場である。
遠江国。道場破りは伊達にして帰すという面影を未だに残しているこの地区で、
涎小豆から秘剣星流れまでの一貫教育が受けられる狂気の場所。
時代は移り変わろうとしていても、辻斬りを行い、
いくに手を出せば仕置きつかまつります。奥方様をかかる破目におとしいれた伊良子清玄を仕置きつかまつります。
仕置きという名の宴が始まる貴重な道場である。