307 :
水先案名無い人:
「2番線 電車が到着します ご注意ください」
「大宮 大宮です ご乗車ありがとうございます JR線はお乗換えです」
決まりきった放送が、澄みきった青空にこだまする。
大宮駅に集う8000系たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、お客を吐き出してていく。
使い込まれた車体を包むのは、白地に青の帯。
スカートに肉片は付けないように、ゲロは吐かれないように、
ゆっくりと走るのがここでのたしなみ。
もちろん、今は5070系などといった、吊り掛け電車など存在していようはずもない。
東武野田線。
明治四十四年創立のこの路線は、もとは千葉県が野田のしょうゆを運ぶためにつくられたという、
伝統ある私鉄路線である。
埼玉県下。武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、
ピカピカ塗装から激しい色あせまでの8000系が見られる8000系の園。
時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、
十年以上走り続ければ伊勢崎線や東上線などから温室育ちの古い車両が箱入りで入荷される、
という仕組みが未だ残っている貴重な路線である。