771 :
左右81:04/08/23 17:19 ID:+ghRnPVZ
「3年A組下川のり、直訴ッ!」
そう叫ぶと下川さんは窓の外に身を躍らせた。
「うわあっ!」
「いやあぁぁぁ!」
生徒たちが悲鳴を上げた。
(パ、パンツ丸見えだッ!)
ちなみにパンチラ400戦無敗を誇るおれの動体視力によってそのパンツは白とグレーのボーダー柄であることが判明した。
すさまじい音とともに下川さん(パンモロ)が着地したのは自転車置き場の屋根の上だった。
無残にへこんだ屋根から飛び降りると、下川さんは姫殿下めがけ突進してきた。
「ぎゃあぁぁぁ」
逃げる人が入り乱れて牛追い祭りのようになっていた。
おれはそれを掻き分けて姫殿下の下へ馳せ参じた。
「藤村、来るぞ!」
姫殿下は衝撃に備えて身構えられた。
下川さんは真っ二つに裂けた人の海の中を一直線に駆けて来る。
エディー・マーフィーのマシンガントーク並みにノンストップ間違いなしだ。
(果たして止められるか?)
おれはプロレスラー永田さんの名著『ちぎっては投げ』(民明書房刊)に書いてあったことを思い出した。
この書は脊椎動物最強の男、永田さんが自らの技をわかりやすく解説した格闘技のバイブルである。
それによると、
タックルの破壊力=体重×速度×覚悟
であるという。
今の状況で言えばおれの方が体重は大きいが速度は完全に下川さんの方が上。
とすればおれは覚悟の面において相手を圧倒するしかない。
(しかし……どうやって今以上の覚悟を決めればよいのだッ!?」)
772 :
左右82:04/08/24 16:49 ID:zTjVOUoQ
「覚悟」という言葉は「あきらめ」と同じ意味で使われているが、原義は「過ちや迷いから覚める」ことであるという。
つまりは物事を正しく認識するということだ。
さて現在の状況を正しく認識すればどうなるであろうか。
この「直訴」というシチュエーションはあくまでも虚構に過ぎない。
実際には女子中学生が訓練された護衛隊隊員に向かってきているのである。
実力は確実におれの方が上だ。
だからおれは若い衆に胸を貸す関取のような心構えで事に臨めばいいのである。
それが覚悟だ。
おれは腕を広げ、足で地を強く踏みしめた。
「よし、来いッ!」
次の瞬間、おれの体は花の終わったあじさいの茂みに突き刺さっていた。
「ゔ〲:〰ゔ〲:〰」
急所のひとつである水月をしたたかに打たれたため、呼吸ができない。
何とか身を起こして茂みから這い出たものの、そこで力尽きてばったりと倒れこんだ。
(ガッツがたりない!)
おれは姫殿下にお助け願おうと、姫殿下のお顔をチラ見し申し上げた。
姫殿下はおれの顔をご覧になり、御眼をかっと見開かれた。
“休まず攻めよ”の合図だ。
(非情ッ…………選挙とはかくも非情なものかッ!)
おれはふらふらと立ち上がり、姫殿下と下川さんの間に割って入って、打ち合わせどおりの台詞を吐いた。
「ギョホギョホ、ギョホ」
言葉にはならなかったが、この状況下では上出来だろう。
「もうよい、藤村。どれ、少し読んでみよう」
姫殿下のお許しをいただくまでもなく、おれは崩れ落ち、地に伏していた。
「何と! 皆が部活動の規制緩和を望んでいるとは知らなんだなあ、あああ」
姫殿下のアレなお芝居が続いていたが、おれはよろめきながら先のベンチに戻った。
773 :
左右83:04/08/24 16:50 ID:zTjVOUoQ
「あれ? 藤村さん、こんなところで何してるの?」堀本先生がおれの前に立っていた。
「眉間から血が出てるけど大丈夫?」
そう言われて眉間に手をやると確かに血が出ていた。
「これは血じゃない……汗だ」
「いや、絶対血だって」
おれの前方では美術部員たちがビラを撒いていて、その中心におられる姫殿下はますます熱のこもった演技をされていた。
「本当にごめんね。つい力が入っちゃって……」
放課後の美術室で下川さんが言った。
「気にしないでください。鍛えてありますから」
とおれは多少の見栄を張りつつ言った。
「今回は部長と藤村が体を張ってくれたおかげで大成功だったな」
と姫殿下がおっしゃった。
「そうね。ビラも100枚全部配れたし」
と平沢さんが言った。
「藤村さん、傷はもういいの?」
と三鷹さんがおれに尋ねてきた。
「大丈夫です。保健室で治療してもらいましたから」
おれがそう言うと、下川さんがおれの胸を拳で軽く突きながら言った。
「本当に心配したんだゾ」
「何で棒読みなんですか?」
この人は内心おれのことを笑っているのだと確信した。
これに民明書房が出てくるとは・・・
ワロタ
左右さん かなり好きです
楽しみにしてます
| ,/^l
|~"゙ ,|
|⊥・ ミ
| ":,
| ⊂ ミ
| 彡
| ,:'
|''''∪
_ ./^l
_,,..i,,_ ヽr'"'~"゙´ | _,,...,,_
ヽ●/ ・ ⊥ ・ ゙';ヽ●/
(ヽ 、/)
゙," ´''ミ
ミ ;:'
'; 彡
(/~"゙''´~"U
778 :
左右84:04/08/25 17:38 ID:hTfIKM/8
この日は姫殿下が美術部に出られたので放課後の選挙運動はお休みだった。
報告書の字が汚いとよく怒られるおれは下川さんに書道を習うことにした。
「そうそう、ゆっくり力を抜いて、払う」
おれは下川さんの書いてくれた手本を真似して筆を動かした。
「こうですか? わかりません!」
「うーん、“辞”はいいけど“表”がね……ちょっとバランス悪いかな」
おれの隣では姫殿下が静物画をお描きになりながら、キャノンさんとかみ合わない会話をされていた。
PCの前では松川さん、三鷹さん、平沢さんが何か議論していた。
部活動に参加した経験のなかったおれは部活動の楽しさに遅ればせながら目覚めつつあった。
土日は休みだったので、下川さんに負けない体を作るためジムに行こうと思っていたのだが、
元同僚たちからのメールに返事を書くのに忙殺されてしまった。
彼らはかつて共に姫殿下を長と戴く部隊で海の向こうでドンパチやらかした仲間である。
当然彼らは熱狂的な姫殿下信者である。
その部隊の解散後、「海蛇会」という一種の同期会が結成された。
会長はもちろん姫殿下であらせられるが、なぜかおれが幹事に任命された。
その理由は後になってわかった。
おれの役目は姫殿下ニュースを発信することだったのだ。
そんなわけでおれは姫殿下の御身辺で起きた出来事を文書にしてメールで送っていたのだが、
今回の選挙の件は異常に反響が大きかった。
その多くはなぜ姫殿下がド平民の審査を受けねばならないのか、という怒りのメールだった。
仕方ないので、おれは近所の図書館に行って教育に関する本を借りてきて、中等教育における生徒会選挙の意義について論じた。
日曜日の昼過ぎにようやく全員への返信が終わりほっと一息吐いたとき、電話が鳴った。
それは母からの電話だった。
母はおれがやんごとなき方々の御前で粗相をしていないか常に心配している。
おれは選挙のお手伝いをしていることを話した。
もっとも姫殿下のご学友が出馬したということにしておいたのであるが。
779 :
左右85:04/08/25 17:39 ID:hTfIKM/8
「あんたも立派になったね」
と母がため息混じりに言った。
「そうかな?」
「そうよ。だってあなたのお祖父ちゃん、選挙で物もらって捕まったんだから」
「ええっ!?」
「町長選のときにね、寄り合いに出たら日本酒をもらって、それでそこにいた人が全員捕まってねえ」
「マジかよ……」
「でも連れて行かれて、仕方なく受け取ったんだって怒って警察の人ともめてねえ。
結局厳重注意で済んだんだけど」
日本が高度経済成長を遂げていたときに、おれの祖父は片田舎で警官相手に逆ギレしていたのだ。
「あなたのお父さんのお父さんも共産党の集会で検挙されたことがあるしねえ……」
「…………」
自分が今この職に就いているのはほとんど奇跡なのだということを実感した。
おれはさらなる余罪を追及しようとしたが、玄関のベルが鳴ったので電話を切り、ドアを開けた。
おれ宛の宅急便だった。
送られてきた箱は掛け軸を入れる箱のように細長かった。
差出人は「海蛇会」のメンバーだった。
開けてみると折り鶴が数珠繋ぎになったものが入っていた。
同封の手紙には「ひとつひとつ思いを込めて折りました」と不気味なことが書かれていた。
夜までに同じような折り鶴が10箱と、海外派遣組からの応援メッセージを寄せ書きした日章旗が届いた。
どうやらおれの家を私書箱か何かと勘違いしているようだ。
部屋を占領したこれらの献上物を見ながら、姫殿下のお側にお仕えしたものはこれほどまでに姫殿下をお慕い申し上げているのに、
どうして選挙運動はままならぬのだろうと思った。
780 :
左右86:04/08/26 19:08 ID:FTYD5vkr
月曜日、献上品を待機室のロッカーにしまおうとしたとき、三井隊長が目ざとくそれを発見した。
「藤村、何だそれは?」
おれは海蛇会のことから順を追って話した。
おれの話を聴いている内に隊長はなぜか涙目になっていた。
「お前の戦友は本当に姫殿下をお慕い申し上げているんだな」
「はい、私も含めて皆、姫殿下がいらっしゃったから日本に帰って来られたと思っております」
おれがそう言うと隊長は大きな手で目頭を押さえた。
「感動した!」
「はあ……」
「おれも鶴を折って、お前の戦友たちと同じ思いを分かち合いたい!」
ここまで力強い折り紙宣言も珍しい。
「折り紙を買って来る!」
そう言い残すと隊長は外へ飛び出していった。
あんな強面の男が折り紙を大量に買ったら、文房具屋はきっと悪質な嫌がらせだと思うだろう。
ご登校の車中、海蛇会の仲間たちから届いた献上品のことを申し上げると、姫殿下はことのほかお喜びになった。
「応援してくれる皆のためにも頑張らなくては」
今でさえ全国の恵まれない部員たちのために戦っておられるのに、
このお方はさらに選挙とは何の関係もない成人男子30人を背負いこまれたのだ。
「ところで藤村、昨日リサリンから電話があったのだが、この前バスケ部で痛い目にあっただろう?」
「はい、嫌な思い出です」
「あの時はゆっくり体育館に行ったな」
「はい、姫殿下と新美さんに守衛室までご足労いただきまして、それから体育館に向かいました」
「それがな、リサリンの知り合いのバスケ部員から聞いた話によると、
あの怖い獄門島さんを含め3年生は少し遅れて練習に来るらしいのだ」
「はあ……」
「ところが1、2年生は練習の準備をするために早めに来る。
それに合わせて演説をしに来るのはどうか、というのだ。
1、2年生の中にはわたしの話に興味を持っている人がいるらしい」
781 :
左右87:04/08/26 19:12 ID:FTYD5vkr
バスケ部には明らかに姫殿下に対して敵意を抱く者がいることだし、おれの拙い演技を披露してしまった場所でもある。
できれば二度と足を踏み入れたくないが、姫殿下はお出ましを願う臣民の声を無視することなどおできにならないお方である。
「お供いたします」
「うん、ありがとう」
終鈴がなったらすぐに第1体育館前に集合と決まった。
体育館の前で姫殿下をお待ちしていると、バスケ部員らしき生徒が何人も体育館の中へ駆け込んでいった。
(後輩は大変だなあ……)
皇室と臣民の間に存在するもの以外の身分制を一切認めないおれが平等について考えていると、姫殿下と新美さんがおいでになった。
新美さんは演説台を抱え、姫殿下には白い長手袋にたすきを御着装されていた。
「よし、行くぞ!」
一同 「おー^^」
一向は勇躍体育館に飛び込んだが、靴の脱ぎ履きでその勢いはすぐに削がれた。
体育館の中では15人ほどの部員たちが床やボールを磨いていた。
新美さんがモップをかけている部員の1人に話しかけると、すでに話が通じていたようで
我々を館内でもっとも涼しい、開け放たれた非常扉の前に案内してくれた。
他の部員たちも作業を中断して集まって来た。
「姫殿下、そろそろ出御を……」
「よし」
新美さんが演説台を据え付けると、姫殿下は体育館履きをお脱ぎになり、台に上がられた。
「皆様、こんにちは。わたくしはこの度生徒会長に立候補いたしました、マコでございます」
姫殿下の御演説は順調に進んだ。
「……ですからそうした交流の中で学園生活をより豊かなものに……」
最初の頃よりも御演説が堂に入っておられる。
これを拝聴すれば皆姫殿下に票を投じたくなるだろう。
「あんたたち! 何やってんの!」
突然、体育館中に怒号が鳴り響いた。
うんこ
age
784 :
水先案名無い人:04/08/28 10:26 ID:WtbpaKFw
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
このスレッドは名物ミジンコ「デブちゃん」のESP訓練の為に
立てたものです。
デブちゃんと研究員とのやり取りに利用するスレッドなので、関係者以外は
書き込まないようお願い申し上げます。
東京特許許可局微細生物研究所
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
785 :
左右88:04/08/28 14:14 ID:URUhExYh
「げっ! 獄門島さん!」
入り口にはリバウンドに強そうな獄門島部長とその取り巻きが立っていた。
「この前言ったことがわからなかったようね……」
「違うんです! 違うんです!」
新美さんが必死で弁解をしているが、動揺し過ぎで何を言っているのかよくわからない。
「姫殿下、ここは私が食い止めますからお逃げください」
おれはそっと囁き申上げた。
「しかし……」
「私にお任せください」
「殺す!」
叫び声に振り返ると獄門島さんが突進してきていた。
「姫殿下、お早く!」
おれは姫殿下の方を振り向かずに申し上げると、藤村式格闘術“誘い涙の構え”を取った。
不退転の意思の現れだ。
(おれの後退のネジは姫殿下にお預けしてあるんだッ!)
「来い!」
だが近付いてきた獄門島さんの顔は変身したフリーザの後ろから2番目のそれ(長いやつ)と同じくらい恐ろしかった。
「うわあっ、駄目です! 姫殿下、ネジを! ネジをお返しください!」
「藤村さんが壊れた!」
「逃げるぞ!」
姫殿下のお声で我に帰ったおれは非常扉に向かって走り出した。
途中で演説台と姫殿下の御靴を拾うことも忘れなかった。
「ぎゃあああああ」
新美さんが半狂乱であさっての方角へ走って行った。
「藤村! リサリンが!」
「彼女は囮になる覚悟です(知らんけど)!
彼女の遺志(死んでないけど)を無駄にせぬためにもお逃げください!」
「わかった!」
姫殿下とおれは再び走り出した。
786 :
左右89:04/08/28 14:15 ID:URUhExYh
開け放たれた非常扉の外は草むらになっていて、1mほど先に金網フェンスがある。
その向こうは初等科のグラウンドだ。
そこまで行けば獄門島さんも追いかけては来ないだろう。
姫殿下とおれは金網に飛びついた。
だがスリッパを履いていたせいで、おれは足を滑らせて地面に落ちた。
「ぎゃっ」
「藤村!」
姫殿下は金網の向こう側に着地しておられた。
「姫殿下、お逃げください……藤村死すとも自由は死せず!」
「藤村、後ろだ!」
振り返ると獄門島さんが鬼の形相でおれに飛びかからんとしていた。
「わあっ」
おれはスリッパを放り出して金網を駆け上り、殉職を免れた。
しかし金網を乗り越えようとしたそのとき、フェンスが揺れておれは『ジュラシック・パーク』のガキンチョよろしく吹き飛ばされた。
グラウンドに叩きつけられて、もと来た方を見ると、獄門島さんの体当たりでおれのいたあたりの金網が大きく凹んでいた。
おれはカカカと笑い、姫殿下にご報告申し上げた。
「姫殿下、ご覧になりましたか?
相手の攻撃を利用して距離を稼ぎました。
これぞ忍法“肉を切らせて骨を断つ”でございます」
「……骨は断てなかったな」
姫殿下がぽつりと呟かれた。
「二度と来んな、ボケッ!」
と獄門島さんが吐き捨てるように言った。
「絶対行く! 今夜にでも!」
とおれは言い返しておいた。
リアルタイム書き込みキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
788 :
左右90:04/08/30 15:25 ID:9/ZK60kL
姫殿下とおれはグラウンドを横切って歩いた。
初等科の通用門は校舎の向こうにあるので、放課後のグラウンドは閑散としていた。
「まさかこんな形で母校に戻って来るとは思わなかったな」
と姫殿下が苦笑いとともにおっしゃった。
「凱旋とはいきませんでしたね」
とおれはひっくり返した演説台の中に靴をしまいながら申し上げた。
姫殿下は俯きながらおれの先を歩いておられたが、突然笑い声を上げられた。
「しまった、靴下のまま来てしまった!」
姫殿下の驚かれぶりにおれも思わず笑ってしまった。
「お靴はお持ちしましたのでご安心を」
「ありがとう。よし、こうなったら靴下も脱いでしまおう」
そうおっしゃると、姫殿下は紺のハイソックスをお脱ぎになり、くすぐったそうに地面に御足をお付けになった。
「ふふふ、くすぐったい」
姫殿下はお首をすくめられながらゆっくりと地を踏みしめられた。
おれも靴下を脱いで裸足になってみた。
「いてててて」
小石が足の裏に突き刺さって痛い。
「藤村、大丈夫か?」
姫殿下が心配そうなお顔をされている。
「大丈夫です……」
そう申し上げたが、内心内蔵でも悪いのではないだろうかと不安になった。
「あのあたりに水道があるからそこで足を洗おう」
姫殿下が初等科の校舎の方を指差された。
おれはおっかなびっくり歩を進めたが、姫殿下はぺたぺたとテンポよく歩いて行かれた。
789 :
左右91:04/08/30 15:26 ID:9/ZK60kL
姫殿下が御足を洗っておられる間、おれは長手袋とハンケチを捧げ持っていた。
おれが演説台に腰掛けられた姫殿下にハンケチをお渡ししたとき、
ランドセルを背負った一群の小国民たちが姫殿下のもとに駆け寄ってきた。
「あーっ、マコ様だマコ様だ」
彼ら彼女らはあっという間に姫殿下を取り囲んだ。
するとそれを見た生徒がさらに寄って来るという悪循環。
みるみるうちに50人ほどの大集団になってしまった。
演説台の上にお立ちになった姫殿下はその中心で頭2つ分くらい突出しておられた。
「マコ様、どうして初等科にいらっしゃるの?」
1人の少女の質問に姫殿下は少し困った顔をされたが、すぐに笑顔に戻られた。
「今日は選挙運動をしに来たのですよ」
そう姫殿下が優しくお答えになると、初等科の生徒たちはざわついた。
「なんで初等科でやるんですか?」
と別の生徒がお尋ねした。
「それはね、皆さんにも関係のある大事なことだからですよ」
と姫殿下はお答えになった。
よく考えてみると姫殿下のここまでのご発言はすべてはったりなのなのだが、
そのように聞こえないのはその鷹揚さゆえであろう。
そんな公開質問会をひとり外から眺めていると、不意に背後から「ほひー」というどこか懐かしい音がした。
振り返るとそこにはカコ様が立っておられた。
「こんなところで何やってるの……?」
カコ様は少々呆れ顔でそうおっしゃった。
いつも乙
791 :
左右92:04/08/31 14:10 ID:PYV3ulJZ
カコ様は姫殿下を中心とした生徒の群れをご覧になりながら、ころりと口の中で何かを転がされた。
それからお口をとんがらかせあそばされて、「ほひー」という謎の音を発せられた。
「あの……それは一体……?」
「笛ラムネ。藤村さんにも1個あげる」
「あ、ありがとうございます」
カコ様が胸の御ポッケから取り出された小さな包みをおれは恭しく拝受した。
「吹いてみて」
「は、はい、それでは失礼して……」
おれはラムネを口の中に放り込むと早速それを唇にあてがい、息を吹いた。
ほひー
カコ様もお吹きになった。
ほひー
しばし君臣の唱和が続いた。
ほひー
ほひー
ほひー(それでどうして初等科に来たの?)
ほひー(実はかくかくしかじかでございまして……)
ほひー(なるほど……)
カコ様はしばし黙考された後、再び妙なる調べを奏でられた。
ほひー(スリッパをなくしたのはよくないわね)
ほひー(そ、そうですね。学校の備品ですからね。後で探して参ります)
ほほひー(駄目よ!)
突然発せられたカコ様の警告音に驚いたおれは恐る恐るお尋ねした。
「な、何か問題でもございましたでしょうか?」
「藤村さん、なくしたものを探しに行くのはとても危険なことなのよ。
そのものがなくなったのは藤村さんの不注意のせいではなくて誰かの悪意によるものかもしれないから」
「はあ……」
カコ様の勢いに押されておれは間抜けな声を出した。
792 :
左右93:04/08/31 14:12 ID:PYV3ulJZ
「たとえばね、こういう話があって……」
http://www.2chkowai.info/2chyama/2chyama.html 「ひ、ひぎぃッ!」
おれの穢れを知らない心が醜く変形していくのがわかった。
「今回のケースでは藤村さんに悪意のある者がいるのは明らかなわけだから、いっそう危険よ」
「うう……」おれはその場に崩れ落ちた。
「カコ様、私はどうすれば……? お守りなどお持ちではありませんか?」
「持ってない。わたしはそういうの信じてないから」
カコ様の意外なお言葉に少し心が軽くなった。
「そ、そうですよね。呪いや霊などやっぱり存在しませんよね」
「いや、わたしの信じてないのはお守りの方」
「え……?」
「神様とか人の悪意とか霊とか、そういうものに対抗できるお守りなんてないってこと」
「…………」
「呪いは絶対あるわよ。間違いなく」
「そ、そんな…………」
絶望に身をよじるおれを尻目にカコ様は笛ラムネにて軽快な音色を発せられた。
ほひー
「これッ!」
突然姫殿下のお声が響いた。
振り返ると演説台の上の姫殿下がこちらをご覧になっていた。
「カコ! 学校帰りにお菓子を食べてはいけないとi言っただろう!」
カコ様はぴゅーっと走って行かれた。
おれが呆然と立ち尽くしていると、姫殿下は演説台をお下りになり、こちらに歩いておいでになった。
「まったくあの子は……どうした? 顔色がよくない」
姫殿下がそうおっしゃるので、おれは慌てて表情を取り繕った。
「いえ、あの……新美さんの安否が気になるものですから……」
おれが適当なことを申し上げると、姫殿下も少しお顔を曇らせられた。
「そうだな。中等部に戻ってリサリンを探そう」
ほひーワラタw
ほひーイイな、ほひー
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
このスレッドは名物おたく「ヒッキー」の社会生活復帰訓練の為に
立てたものです。
ヒッキーと研究員とのやり取りに利用するスレッドなので、関係者以外は
書き込まないようお願い申し上げます。
東京若年者自立研究所
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
796 :
左右94:04/09/01 15:49 ID:G5gAl1Eq
姫殿下とおれは人目につかない物陰のフェンスを越えて中等科の敷地に戻った。
「もしかしたらリサリンは囚われの身になっているかもしれない」
姫殿下のご提案で第1体育館に行って様子をうかがうことにした。
舗装されていない裏道を通って体育館の裏手まで行くと、暗く湿った草むらの上、
雨上がりの道に落ちている軍手のようにぺしゃんこになった生徒が1人転がっていた。
「リサリン!」
それは図らずも人間デコイとなって我々を逃してくれた新美さんの変わり果てた姿だった。
「うう……マコリン……」
新美さんが涙でマスカラがデビルマン化した瞼をうっすらと開けた。
「リサリン、大丈夫?」
「私は大丈夫……マコリンは……?」
「うん、リサリンのおかげで逃げ切れたから……」
起き上がろうとする新美さんを助けながら姫殿下がおっしゃった。
おれはそれをお手伝いしながら、
「一体誰がこんなことを……」
と義憤に燃えるふりをした。
「獄門島さんが……獄門島さんが“ナガタロック17”を私に……」
「“ナガタロック17”!?」
おれは驚きのあまり大声を上げてしまった。
「知っているのか、藤村?」
「はい、ナガタロック17とは最強レスラー永田さんの必殺技でございまして、
首・肩・肘・膝・足の小指を同時に破壊する殺人サブミッションでございます」
「恐ろしげな技だな……」
姫殿下も険しい表情を浮かべられた。
ちなみにナガタロック17はそのあまりの破壊力のため真似をして相手に怪我をさせるチビッコが続出、
成分の半分が優しさでできている永田さんの申し出により、現在テレビ放送される試合にはモザイクが掛けられている。
「ごめんねマコリン、足手まといになっちゃって……」
声を震わせる新美さんに、姫殿下は帰る前の晩のドラえもんのように黙って肩を貸しておられた。
その後、学食でアイスを食った新美さんは全回復した。
797 :
左右95:04/09/01 15:51 ID:G5gAl1Eq
姫殿下をお屋敷までお送りして離れの待機室に戻ると、そこはただならぬ熱気に包まれていた。
屈強な男たちが汗みどろになりながら小さな折り紙と格闘している。
折り上がった鶴を集めて、目を凝らしながらそれに糸を通している者もいる。
「ペースを上げろ! このままじゃ今日中に終わらんぞ!」
「色のバランスが悪い! 寒色系も混ぜろ! 金を使いすぎるな!」
三井隊長の檄が飛んでいる。
千羽鶴というより「不祥事」「資金繰り」といった表現の方が似つかわしい現場だ。
戸口で立ち尽くすおれの後から交代した門番の隊員が戻ってきた。
手には小さな紙袋を提げている。
「隊長、暇を見てこれだけ折れました」
(暇……? 門番に暇が……?)
おれの当然とも言える疑問も総動員が掛かったこの戦局では無意味なものだ。
「おい藤村、お前も折れ。あと500は欲しい」
おれを見つけた三井隊長が言った。
「私、折り方がわかりませんので……」
「おれが教えてやる。こっちへ来い」
おれは断りきれずに男たちの情熱大陸に足を踏み入れた。
2時間後、3束の千羽鶴を抱えた三井隊長を先頭に隊員たちはお屋敷へと向かった。
玄関までいらっしゃった姫殿下はそれをご覧になると大変お喜びになった。
「ありがとう……みんな……」
折り鶴にお顔を埋められた姫殿下は泣いておられるように見えた。
おれは「海蛇会」からの明らかに千羽に足りない千羽鶴と日章旗をお渡しして、そそくさと罷り出た。
意気揚々と引き上げていく隊員たちの最後尾を行きながら、おれは今日あったことを思い出していた。
(バスケ部はやっぱり駄目かな……ご演説も途中で邪魔が入ったし……)
突然、カコ様のお話が思い出されてきた。
(ああ……一人になるのが怖い……)
宵の闇に包まれたお屋敷の方を振り返って、おれは最近近所にできたコスプレ喫茶を冷やかしに行こうと心に決めた。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
このスレッドは名物おたく「左右95」の不敬活動抑制の為に
立てたものです。
左右95と研究員とのやり取りに利用するスレッドなので、関係者以外は
書き込まないようお願い申し上げます。
東京精神病研究所
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
永田さんがまたキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
毎日楽しみにしております。
螺鈿細工のごとく散りばめられた小ネタがたまりません。
俺はヲタじゃないから小ネタの殆どが理解不能でつまらん
/)・3・(ヽ あっちょんぶりけ☆
802 :
水先案名無い人:04/09/03 18:11 ID:+qg6o3Aj
あげたいる
803 :
デパス:04/09/03 23:43 ID:Eoo5Eckk
o。_。_lコ<o> |l≡≡≡|ミ|_<o>_。≠_〇o
。+ +。。。。。 |l|FFFFFFF|。 。 .。 +|l≡≡≡|ミ|EEEEEEEEEEE|lll| .。+
* o o. |l|FFFFFFF / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
。。oo |l|FFFFFF | なんだか、寂しいです。このスレも終わりかな。
/| ̄ ̄ ̄l ::|FFFFFFF \_
|ミ|:」」:」」:」| ::|FFFFFF, ´<X>  ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|ミ|:」」:」」:」| 〇 FF.。 i (イノハノ))) |l≡o + +! + 。 〇 +
lミl.」」.」〇 ++ + i l,リ ゚ヮ゚ノリ o 〇 。 o + 〇 。 +
__〇___。_゚ ,、_,ノ つ夲と)____o______〇__o___。
二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二Il二
804 :
左右96:04/09/04 15:44 ID:O2XulHLs
次の日の朝、おれは自分のメイド化願望について深く考察しながら、車の前で姫殿下をお待ち申し上げていた。
「おはよう……」
いつもどおりの時刻にお屋敷からおいでになった姫殿下は浮かない顔をしておられた。
「おはようございます…………あの……どこかお加減でも……?」
「うん、実はちょっと心配事があって……」
「なるほど……下校する生徒に向けての街頭演説ですか……」
走り出した車の中でおれは腕を組んだ。
「うん、カコに言わせると『普通の演説では誰も足を止めてくれない』と……」
「そうですねえ……」
確かに駅前などで行われている演説に出勤・退勤する人々が立ち止まるのは見たことがない。
「どうやったら皆に話を聴いてもらえるだろう?」
姫殿下のお尋ねにおれは頭をフル回転させた。
そのときふと以前ニュースで見たさる南米の国の選挙の映像を思い出した。
「姫殿下、外国の話ですが、バンドの演奏と演説がセットになった選挙運動を見たことがございます」
「なるほど、音楽か……それなら確かに皆の耳目を集めるな」
姫殿下は小さく何度も頷かれた。
「候補者がメッセージを歌に乗せて伝えるのかな?」
「いえ……普通のポップソングを演奏したものと記憶しております」
「しかし、人前で歌を歌うのは緊張するな……」
何だか大事な部分で食い違いが生じているようだ。
「姫殿下、別に姫殿下御自ら歌をお歌いになる必要はございませんが……」
「でも、人に頼むわけにもいかないだろう?」
姫殿下の高邁な責任感が発動してしまった。
(ていうか、おれ“歌を歌う”なんて言ったっけ……?)
「バンドは……そうだ、同じクラスに吹奏楽部の子がいるからそこに頼んで……曲は何がいいかな……?」
姫殿下リサイタルの計画はもう固まってしまったようなので、おれは黙って姫殿下のファンタジーをお聴きすることにした。
805 :
左右97:04/09/04 15:47 ID:O2XulHLs
姫殿下が演説会場に指定された大掲示板前広場は騒然としていた。
もともと放課後になるとこの場所は下校する生徒で溢れるのだが、今日は立ち止まっている生徒が多いせいでいつもより混雑している。
彼女たちはみな音合わせをしている吹奏楽部の動向を注目しているのだ。
吹奏楽部員は姫殿下の演説台をぐるりと囲む格好でスタンバイしている。
金管楽器の輝きは禍禍しい妖気を放ち、これから出来する事態を暗示しているかのようである。
おれが離れた場所からその光景を眺めていると、楽団の隅におられた姫殿下がおれを手招きされた。
走ってそちらに向かうと、それを見た指揮者役の生徒がおれの後からやって来た。
「新井さん、先ほどお話した護衛隊の藤村です。藤村、こちら吹奏楽部部長の新井さん」
姫殿下のご紹介に与かり、おれは一礼した。
指揮者の生徒はぺこぺこと頭を下げながら自己紹介した。
「私、吹奏楽部部長を務めさせていただいております新井でございます。
この度は私たちに貴重な機会を与えていただきまして部員一同心より感謝しております次第でございまして……」
最後の方はしどろもどろになっていたが、おれの思いつきに付き合わされて迷惑している様子ではなかったのでほっとした。
「藤村さんは何か楽器やるの?」
聞き覚えのある声がしたので振り返ると、小太鼓を抱えた下川さんとシンバルを両手に持った平沢さんが立っていた。
「またあなたたちですか……」
「“また”って何よ!? “また”って!?」
下川さんがそう言いながら小太鼓を「たたんっ」と叩き、下川さんが「じゃーん」とシンバルを鳴らした。
「打楽器で威圧するのは止めてください」
言い返したおれの言葉に下川さんが舌打ちしたのをおれは聞き逃さなかった。
「あの……よろしかったらこれを……」
吹奏楽部の新井さんがおずおずとトライアングルを差し出せた。
だがおれはサッカーの試合終了の笛さえ吹けないほど音楽センスがアレなので、丁重にお断りした。
「ねえ、そろそろやらかしちゃおうよ」
下川さんの言葉に新井さんはひとつ頷いた。
姫殿下はいつもの長手袋を装着された。
806 :
左右98:04/09/06 17:17 ID:2DvFBtl4
姫殿下が演説台の方へ向かわれたので、おれはその勇姿を正面から拝見しようと広場を横切りイチョウの木陰に立った。
指揮者の新井さんがタクトを振ると、軽快なメロディが奏でられる。
(む、このイントロは……)
「わーらーべーはーみぃーたーりぃー、のーなーかーのーばぁーらぁー」
大熱唱である。
手をおなかのあたりで組むその姿勢は、今ではボディビルの大会でしかお目にかかれない古式ゆかしいスタイルである。
また左右に伸び上がるようにするリズムの取り方のダイナミズムも奥ゆかしい。
ワンコーラス目中盤で早くもお顔は汗だくだ。
けだるい放課後の空気の中にぽっかりと空いたブラックホールとでも呼ぶべきそのお姿に道行く生徒たちはみな足を止めた。
そして苦笑いすら許さぬ姫殿下の真剣さに誰もが立ち去れずにいた。
ワンコーラスお歌いになると、姫殿下は一礼してご演説を始められた。
「拙い歌をお聞きいただき、まことにありがとうございます。
わたくし生徒会長候補マコでございます。今日は皆様に……」
ご演説が始まっても帰る人はほとんどいない。
姫殿下の唱歌大作戦は見事成功したようだ。
おれが安堵のため息をついたとき、背後から聞き覚えのある声がした。
「あれ? お姉様の歌、もう終わっちゃったの?」
振り返るとランドセルを背負ったカコ様が立っておられた。
「カ、カコ様、どうしてここに……?」
「友達から“あなたのお姉様が歌っている”て聞いたものだから」
やはりこのお方はの情報網はかなり広く張り巡らされているようだ。
「お姉様、とても堂々としていらっしゃるわねえ」
カコ様が姫殿下を見つめながらおっしゃった。
「はい、姫殿下は非常に雄弁にあらせられます」
それに聴衆の数が多くても少なくても同じ態度でご演説をなさる。
普段はとても物静かなお方なのに、ここぞというときに堂々としたお話ぶりお見せになる。
姫殿下のそういうところにおれは心ひかれているのだ。
807 :
左右99:04/09/06 17:19 ID:2DvFBtl4
ご演説も終盤にさしかかった頃、おれの傍らにおられるカコ様に誰かがなれなれしく話し掛けてきた。
「カコさん? あなたカコさんじゃない?」
声の主は安藤さんだった。
「私はあなたのお姉さんと一緒に生徒会長に立候補している安藤です」
“一緒に”という表現は間違っている気がする。
「はじめまして、初等科4年A組のカコです」
カコ様は毅然とした態度で自己紹介をされた。
だが安藤さんはそのカコ様を突然ぎゅっと抱きしめた。
「かわいいー! 私、あなたみたいなかわいい妹が欲しかったわ」
カコ様は驚いたご様子で御腕をばたつかせておられたが、次の瞬間その御拳を強く握られた。
お顔は拝見できないが明らかにお怒りのご様子だ。
(まずい…………)
おれは無理矢理安藤さんの腕を解いてカコ様をお助けした。
「安藤さん、急にそんなことをされてはカコ様もびっくりされますので……」
おれはそうたしなめたが、安藤さんはおれの話などまったく耳に入らないようだ。
「中等科にはいつも来るの?」
安藤さんの問いかけにカコ様は俯いたままお答えになった。
「いえ、めったに来ません」
「これからも遊びに来てね。私が案内してあげる」
そう言い残して安藤さんは軽やかなステップで立ち去った。
後には呆然とするおれと俯いたままのカコ様が残された。
(どうやってフォローするんだ、この状況……!?)
とりあえずカコ様に声をおかけすることにした。
「あの……お気に触りましたでしょうか……?」
それがそうお尋ねすると、カコ様はさっとお顔を上げられた。
(ゲーーーーーッ、阿修羅面怒り!?)
カコ様のかわいらしい御眉頭がきゅっと寄り、その間には深いしわが刻まれている。
お顔は紅潮し、お体はピグピグと震えておいでだった。
おれは心の中でキン肉マンビックボディ様の助けを呼んだ。
左右も次で100回ですか。
いつも乙です。
アシュラマンワロタw
これからもがんばってください。
810 :
水先案名無い人:04/09/07 01:45 ID:f9de3NFt
-----ここまで読んだ-----
-----====
>>453====-----
「むむむむむ…………」
カコ様が低い唸り声を上げられた。
(怒りに我を忘れておられる! 攻撃衝動をしずめなくては……)
おれは上着の内ポケットから昨日コンビニで大人買いした笛ラムネをひとつ取り出した。
「カコ様、これをどうぞ」
「むむ……」
カコ様はおれの献上したラムネをお手に取られると、すばやく袋を開け、お口の中に放り込まれた。
やがて力強い響きが鳴り渡った。
ほひーっ、ほひーっ、ほひーっ
ほひー、ほひー
ほひー……
笛を吹かれているうちに、カコ様のお顔色は元に戻った。
おれも笛ラムネを口にした。
ほひー
ほひー
しばし君臣の和楽が続いた。
ほひー(何なの、あの人!? わたしを子供扱いして!)
ほひー(うーん、安藤さんってよくわからない人なんですよね。私は無視されっぱなしですし)
ほひー(もう怒った! あの人についての怪文書を作ってばらまいてやる!)
ほひー(それは勘弁してください……)
「おーとーうさん、おとうさん、まーおーうがいーまー」
姫殿下のお歌は佳境に入っていた。
「お姉様、素敵だったわ」
魅惑のステージを終えられた姫殿下の下にカコ様が駆け寄られた。
「カコ、来ていたのか」姫殿下は恥ずかしそうに微笑まれた。
「言ってくれればよかったのに……」
「お疲れ様でございました。堂々たるお歌いぶり、感服いたしました」
おれがそう申し上げると姫殿下はいっそう恥ずかしそうなお顔をされた。
「ねえ、わたしも楽器やってみたいなあ」
カコ様が甘えた声でおっしゃった。
「楽器? うーん、でも部活のない人はみんな帰ってしまったからなあ……」
見回してみると、確かにさっきまでいたギャラリーは去ってしまい、掲示板広場は閑散としている。
だが吹奏楽部は士気高く、まだまだ吹き足りないといった様子だった。
(この編成で部活を回ってみるのも面白いかもしれないな……)
「ねえ、巡幸しましょう、巡幸」
カコ様はそうおっしゃるがこれまでの遊説は巡幸というよりドサ回りとでも呼ぶべき厳しい旅路だった。
「うーん、でもなあ……藤村はどう思う?」
「姫殿下さえよろしければ……」
姫殿下のお尋ねにおれはそうお答えした。
「そうか……では少し歩いてみようか」
「わあい、やったあ」
カコ様は小躍りして喜ばれた。
ちょっと黒いカコ様可愛いなあ
>>254 とかにのってるURLの眞子様のSSを書くスレが表示されないのですが、
消えてしまったのか、一時的なのか、もし消えてしまったのならどこか読める場所はないものでしょうか
姫殿下と愉快な仲間たちはサザエさんのエンディング・テーマにのって軽やかに進んだ。
先頭を行かれるのは姫殿下、その後ろにトライアングル担当のカコ様。
3番目のおれは演説台を抱え、1人だけ田舎の葬式みたいだ。
バンドの音に圧倒されたのか道行く人は皆我々を見てはっと驚いたような顔をする。
姫殿下はそれにお手を振ってお応えになった。
カコ様はトライアングルで熱狂的な16ビートを刻んでおられた。
楽器を持たないおれも何だか心が弾んでくる。
音楽にのって練り歩くのがこんなに楽しいものだとは思わなかった。
(音楽には偉大な力があるんだなあ……)
だがおれはすぐにその力を悪用する方法について考え始めていた。
RPGの約95%が採用している、“強すぎる力は時に人間に害をなす”という例の法則である。
(リテ・ラトバリタ・ウルス……)
おれが祖母から教えられた呪文を思い出そうとしているうちに、一行は第2グラウンド横の剣道場の前を通りすぎようとしていた。
剣道場の中からは素振りをしているのだろうか、断続的な掛け声が聞こえてくる。
(む、何かひらめきそうだ……)
おれは姫殿下のお側に駆け寄った。
「姫殿下、剣道部でご演説をされてはいかがでしょうか?」
おれのご献策に姫殿下は少し考えこまれた。
「剣道部か……聴いてもらえるだろうか?」
「はい、必ずや。私に策がございます」
「そうか、では行ってみよう」
カコ様が先陣を切って道場内に飛びこまれると、姫殿下以下十数人が入り口に殺到した。
「皆さん、演奏は続けてください」
おれがそう言ったので皆楽器を手にしたまま、靴を放り出してどかどかと踏みこむ。
姫殿下だけはゆっくりお靴と、なぜか靴下までも脱がれて裸足になられた。
2列になって素振りをしていた剣道部員たちの視線が一斉におれたちに注がれた。
部員たちの前で号令をかけていた生徒が竹刀を手にしたままこちらに歩いてきた。
「何かご用でしょうか?」
とその生徒は落ち着き払った様子で言った。
「わたくし、生徒会長候補のマコでございます。
今日は剣道部の皆さんにわたくしの演説を聴いていただきたいと思って伺いました」
姫殿下もまた冷静であられた。
剣道部員は表情ひとつ変えなかった。
「私は剣道部副部長の岡田です。
申し訳ございませんが、部長が来ておりませんので、そういったことは私の一存では……」
「あー、すいません」いつもの展開になりかけたところでおれは口を挟んだ。
「えーと、岡田……さん。ちょっとご相談したいことがあるのですが……」
「何でしょう?」
「まあ、ここでは何ですから、ちょっと人のいないところで……」
おれは岡田さんを道場の隅まで誘い出した。
なぜかカコ様もついておいでになった。
「なんですか、相談って?」
岡田さんは少し不安げな顔をした。
おれは毒々しい作り笑いを浮かべた。
「ご挨拶が遅れました。私、護衛隊の藤村と申します。
実はですね……その……マコ様とそのバックバンドがこの道場に興味をもたれたようです」
「はあっ?」
岡田さんは怪訝そうな顔をした。
「ちりりりりん」
とカコ様がトライアングルを叩かれた。
「まあ姫殿下はともかくとしてバンドの方がですね……できればここで演奏活動を続けていきたいと申しております」
「えっ、だってここは私たちの……」
「ちりりりりりん」
カコ様のトライアングルが鳴り響いた。
「もちろん皆さんの邪魔にならないよう剣道場に入るかは入らないかのあたりで演奏は行いますが、ただ音が少々うるさいかもしれませんな」
「そ、そんな……」
818 :
水先案名無い人:04/09/08 23:10 ID:vsvkl81f
*皇室御用達栞
/|_
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ / __/
┃ .〆'.⌒^ヽ ___ ┃( ( ̄
┃ ||ヾ|_!ノLl」! ジ( )))ヽ 本 日 は ┃/)
┃ |ヽd,,゚ ー゚ノ (‘- ‘,,リl| C<ニン
┃ノノ(ヽVノiつとティ彳) こ こ ま で 読 み ま し た。 ┃
┃ く/_i|_i〉 ぐ/ノハ ┃
┃ し'ノ U`J .左右33 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
岡田さんは稽古着の袖でしきりに額の汗を拭っている。
「しかしここは私たち剣道部が使うことになっていますから……」
「あの人たちはそういうことを気にしない人たちです」岡田さんの言葉をさえぎっておれは言った。
「彼女たちにとって音楽とは会話をするのと同じように自然なことなのです。
“やあ、調子はどう?”の代りにセッションし、“タラちゃん、ちょっとそれ取って”の代りにジャムるのです。
そのような人たちがお気に入りの場所に集まって合奏するのを誰が止められましょう?」
「うう……」岡田さんは半泣きだった。
「それでは私はどうしたら……」
「姫殿下がここでご演説を無事終えられたならば、バンドも次のご訪問先にお供するためにここを離れるでしょう」
おれは再びの作り笑いを浮かべた。
カコ様が岡田さんの腕をお取りになった。
「岡田さん、わたしたちは別に脅しているわけではないんです。
あなた方が安藤さんを応援されていることは知っています。
でもお姉様のお話を聴いてみることも必要だと思うんです。
両方の主張を理解した上でどちらに投票すべきかを決めるのが選挙権の正しい使い方ではないでしょうか」
カコ様のお言葉に岡田さんはしきりに頷いた。
「そうですね……おっしゃるとおりです。では皆を集めてきますのでご演説をお聞かせください」
そういって岡田さんは部員たちのところへ走って戻っていった。
おれとカコ様も姫殿下の下へ帰参した。
「姫殿下、剣道部の皆さんがぜひご演説を拝聴したいと申しております」
おれがそうご報告申し上げると、姫殿下は満足げに頷かれた。
「そうか。それはよかった。3人で長いこと話し合っていたから、何か問題でもあるのかと思った」
「えー、それはですね……姫殿下のお出ましをむさくるしい格好でお迎えして申し訳ないと言うものですから……」
「それは急に押しかけたわたしが悪いのだ。かえって気を使わせてしまったな」
「私の方からもそのように言っておきました」
「そうか。ありがとう。では一席ぶってくる」
「よろしくお願いいたします」
吹奏楽部の演奏による唱歌『日の丸の旗』とともに姫殿下は演説台へと向かわれた。
姫殿下が剣道部員たちの前でご演説なさるのを、おれとカコ様は道場の入り口前で見守っていた。
「藤村さん、あなた悪人ね」
カコ様が視線はそのままでおっしゃった。
「悪いことをしたという意識はございません」おれは小さな声で申し上げた。
「剣道部員たちに姫殿下のご演説を拝聴するチャンスを与えたのですから、むしろ感謝してもらいたいくらいです」
「確信犯ってやつね……」
カコ様が力強く頷かれた。
「カコ様こそ岡田さんの味方であるふりをして、おいしいところを全部持って行かれたではありませんか」
「あれはねえ……あめとムチよ。あ、そうだ。能登銘菓「まめ飴」食べる?」
カコ様が御ポッケから小さな箱を取り出された。
「いやあ、演説大成功だったわね」
小太鼓を抱えた下川さんがむりやり靴を履きながら言った。
「次はどこに行きましょうか?」
一足先に道場を出た平沢さんが言った。
おれは学園の地図を頭に思い浮かべた。
「道場の地下はプールでしたよね? 水泳部が練習しているかもしれません」
「プール行きたいプール!」
カコ様がそう主張されたので一行は階段を降りて地下温水プールへと向かった。
「うわあプールプール!」
カコ様は靴下を脱ぐのももどかしいご様子で脱衣場を駆け抜けて行かれた。
それをご覧になっていた姫殿下がお声を上げられた。
「あっ、カコ! そっちは……」
「ぎゃあああ!」
カコ様が腰洗い槽におはまりになった。
「うわあああ、カコ様!」
急いで引き上げ申し上げると、濡れ鼠のカコ様はぐったりしておられた。
「宮様を消毒するとはなんて部活だ! 女将を呼べいッ!」
おれは初期の海原雄山先生のごとく吠えた。