>>699 それは眞子様を一体何から助ける妄想ですか?
>>699 俺の恋人を汚すのはやめてもらいたいですね。
男は酒場で酒をあおっていた。
先ほど見たテレビニュースに憤りを覚えていたのだ。
「クソッこんなことでいいのか日本は」
ニュースはマコ様が行方不明になったことを伝えていたのだ。
人一倍正義感の強い男は自分がマコ様のそばにいたなら
指一本触れさせなかったのにと歯ぎしりしてさらに酒をあおった。
酔いでもうろうとした頭に周囲の雑音に混じって下品な会話が聞こえてきた
『マコを・・・身代金・・・大もうけだ・・・監禁・・・ニダ』
会話の主たちは店を出るようだ。
男は飛び起きると叫んだ。
「オヤジ、水くれ冷たい水だ、それとお勘定」
不審な男たちは彼の尾行には気づかず、さびしい場所にある
一軒の大きな家に入っていった。
「どうする、警察に通報するか。ダメだ、気づかれたらマコ様の身が危ねえ」
彼は意を決して家の中に侵入した。
果たして家の中を調べてみると・・・
いた、奥の音楽室のような部屋にマコ様が幽閉されていた。
別の部屋を調べてみると犯人の男たちは4人。
グチャグチャと下品な音を立てながら食事の最中だ。
おそらく身代金の算段でもしているのだろう。
「許せんっ、たたきのめしてやるっ」
彼は天井を蹴破り、食事中のテーブルに降り立った。
「このクズどもっ、マコ様に何をしやがった」
虚をつかれた男たちはあわてて武器を構えたが、彼の相手ではなかった。
たたきのめされ悲鳴をあげて次々に倒れる男たち。
「ざまあみろ、思い知ったか」
その刹那、彼は背中に鋭い痛みを感じた。
ナイフが刺さっている。側にはブルブルと震える年増の女がいた。
「しまった、女がいたとは」
女は逃げ出した。
「早く、マコ様を助けねえと」
彼は奥の部屋へ行き、マコ様を助け出した。
泣きじゃくり、彼に抱きつくマコ様。
「ああ、何てサラサラの髪なんだ。でもこんなに震えて・・・」
だが、彼は感慨に浸っている場合ではないことをわかっていた。
「さあ、外に出て人を呼んできてください。オレはここを見張ってます。」
「あ、あなたは?」
「オレはいいんです。さあ、早く行きなさい。おっと」
彼はハンカチを出して涙を拭いてやった。
「泣いていたらみんなが余計に心配するでしょう。あなたは
特別な人なのだから、いつも毅然としていてください。さあ早く。」
「え、ええ、わかったわ。本当にありがとう。一生忘れないわ。」
走り去っていくマコ様。
彼女の姿がドアの外に消えると彼の体はゆっくりと崩折れた。
口からは鮮血がほとばしっている。
薄れ行く意識の中で、あまり恵まれなかった自分の人生が
幸せにつつまれて終わりを迎えるのを感じていた。
706 :
水先案名無い人:04/08/02 22:59 ID:efF9dpj7
>『マコを・・・身代金・・・大もうけだ・・・監禁・・・ニダ』
ワラタ
707 :
左右56:04/08/03 15:23 ID:ZmK60Kjl
ソフトボール部は守備練習をしていた。
ノックをしている部員の横に声を張り上げている部員がいる。
「あそこで指示を出しているのがククリさんだ」
ククリさんは小柄だが遠目にもゴツい体であることがわかる。
「よし、行ってくる。そなたはここで待っていてくれ」
「はい、ご武運を」
おれを一塁ベース横に残して、姫殿下はうつむき加減で歩いて行かれた。
「姫殿下!」おれは姫殿下をお呼び申し上げた。
「前をご覧になっていてください。ファールボールが飛んで参ります」
おれがそう申し上げると、姫殿下は振り返られ、わずかな微笑みを浮かべられた。
ククリさんの前に立たれた姫殿下は、まるで憧れの先輩に愛の告白をする後輩のように固くなっておられた。
(うー、逆にオラの元気を分けてあげたい)
お2人が交渉されている間、フィールドに響く音は打球音と土を蹴る音しかなかった。
だがそれも長くは続かなかった。
交渉はすぐに終わり、ククリさんは怒鳴り始めた。
姫殿下はファールグラウンドをてくてくと歩いて来られた。
「どうでしたか?」
とおれはお尋ねした。
「うん、休憩時間になったらやってもよい、と」
「そうですか。ではここで待っていましょう」
おれと姫殿下は芝生の上に腰を下ろした。
普段見る機会のないソフトボールの練習を見るのは、それなりに新鮮な体験だった。
しかしそれも10分が限界である。
20分を過ぎると、退屈が憎悪に変わる。
おれは我慢できなくなり、姫殿下に進言し申し上げた。
「いつになったら休憩時間になるのか、ひとっ走り行って訊いて参ります」
「いや、わたしが行く」
姫殿下はそうおっしゃって、すっくと立ち上げられ、そのまま歩いて行かれた。
(大丈夫だろうか……)
708 :
左右57:04/08/03 15:25 ID:ZmK60Kjl
さっきから何人かの部員がおれたちを盗み見ている。
絶対にこちらと目を合わせようとしない。罪悪感でもあるかのような顔つきだ。
(嫌な予感がする……)
姫殿下がククリさんのところにご到着あそばされた。
さっきはククリさんの声が止んだが、今度は檄と檄の間にひとこと言っただけのようだった。
しかしその言葉は確実に姫殿下に大きなダメージを与えた。
姫殿下はふらふらとククリさんの下を離れられ、そのままスタンディング・ノックダウン状態で一塁線を漂って来られた。
おれは姫殿下のお側に駆け寄った。
「姫殿下、どうなさいました?」
おれがそうお尋ね申し上げると、姫殿下は蚊の鳴くようなお声でおっしゃった。
「ククリさんが……ククリさんが『休憩時間はもう終わった』と……」
「何ですと!?」
おれはきれた。
「お前ら、陰険な真似してんじゃねえッ!精神注入してやるからお前ら全員並べ! 並べ、バカ野郎!」
「もういい、藤村」
姫殿下がお諌めになってもおれは止めなかった。
「お前らソフトボール部じゃなくてスモールボール部に名前変えろ!」
変化球攻めに対応できない外人のようなことを言ったとき、姫殿下がおれの上着の裾を引っ張られた。
「もういい、帰るぞ」
「…………はい」
帰り道、姫殿下は何もおっしゃらなかった。
ただ黙ったままおれの上着の裾を掴んでお放しにならなかった。
おれは姫殿下にもっと引っ張っていただきたかった。
引っ張っていただけたら、おれが力を込めて姫殿下を引っ張っていくことができるのに、と思った。
710 :
左右58:04/08/04 20:33 ID:1HIRQG+j
家に帰るなり、おれはベッドにばったりと倒れこんだ。
(疲れた……)
第2グラウンドを離れてから姫殿下はずっと黙っておられた。
おれも一時の興奮が冷めると、取り乱したことが恥ずかしく思い出されて、何も申し上げることができなかった。
(お別れするときに何とかお詫びを申し上げることはできたが、はたして姫殿下は許してくださるだろうか)
姫殿下はククリさんにひどい仕打ちを受けても怒りを露にはなさらなかった。
それなのにおれは感情に任せて軽率な行動を取ってしまった。
あのとき自分が言ったことを思い出すだけで冷や汗が出る。
ああいった汚い悪口は姫殿下のもっともお嫌いになるところである。
おれの頭は後悔の念でいっぱいになった。
(…………着替えてビールでも飲もう)
上着を脱いでハンガーに掛けようとしたとき、裾の皺に気付いた。
(これは姫殿下の……)
そうだ。姫殿下が最後のところでおれを引き留めてくださったのだ。
おれは先ほどお別れする際に姫殿下が「また明日」とおっしゃったのを思い出した。
(また明日……そうだな。また明日から頑張ろう)
おれはパンツ1枚になると、冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出した。
1本目を一息に飲み干し、2本目を半分くらい空けたところでようやく気持ちがほぐれてきた。
だが選挙のことは頭から消えない。
(なぜソフトボール部はあんな頑なな態度を取ったのだろう?)
711 :
左右59:04/08/04 20:36 ID:1HIRQG+j
姫殿下のご演説をお断りすることでソフトボール部員たちに利益があるとは思えない。
もしかすると姫殿下に敵対する上部組織でも存在するのだろうか?
だがたとえそんなものがあるとしても、付け入る隙はある。
たとえば何人かのソフトボール部員たちは練習をしながら姫殿下の方を気にしていた。
このように個人レベルでは姫殿下にお味方する者はいるのだ。
そうした人々を少しずつ取りこんでいけばいい。
(ああ……考えがみみっちくなってきた)
おれは世間の塵埃から逃れるために本棚から『その柵を飛び越えろ!』を取り出した。
この本は昨年ジャマイカに電撃亡命した活動家のクボヅカさんがおれたちに残したラストメッセージをまとめた本である。
おれはいつものように適当なページを開いた。
「愛のヴァイブスを感じる人は幸いである。愛のヴァイブスを発する人はもっと幸いである」(p.36)
これは恐らく、受身にならず行動せよ、ということであろう。
「大麻はメディアであり、メッセージでもある」(p.213)
ここまで来るとさすがに意味がわからないが、物事には2つの面があるということを言いたいのであろう。
おれは本を閉じ、窓を開け、夜空を見上げた。
(ヅカさん、ジャマイカの風は爽やかですか? こっちじゃ人の心まで湿っぽいです)
遠くの高層ビル街では空に星の見えないことの埋め合わせをするかのように航空障害灯が明滅していた。
しばらくその赤い光を眺めていると、冷たい夜風が吹きこんできた。
おれは風邪をひかないうちに風呂に入って寝ることにした。
今日も乙
713 :
左右60:04/08/05 14:32 ID:tPTbChjI
翌朝、車の前で御待ち申し上げていると、姫殿下がお鞄の他に円筒形の物体を携えておいでになった。
おれは昨日のことがあるので、恐る恐るご挨拶申し上げた。
「おはようございます」
「うん、おはよう」
姫殿下のお顔やお声には昨日のことを引きずっておられるご様子はなかった。
むしろいつもよりご機嫌が麗しだっておられるように見える。
この円筒と何か関係があるのだろうか?
車に乗りこんでから、おれはその疑問をお尋ねした。
「姫殿下、お持ちになっているその筒は何なのでございますか?」
「これか」姫殿下は相好を崩された。
「これは選挙のポスターだ」
それで合点が行った。
(なるほど。作品が完成したのをお喜びになっておいでだったのか。
しかし、姫殿下がお描きになるポスターは2枚のはずだが……
こんなに早く出来上がるものなのだろうか)
「見たいか?」
「はい!」
おれは即答し申し上げた。
姫殿下は嬉しそうなお顔で筒の蓋をお開けになり、中から紙を取り出しあそばされた。
「まずはこれだ」
姫殿下の掲げられた紙の上には白と黒しかない世界が広がっていた。
「これは……版画ですか?」
「そう、木版画だ」
よく見ると、白い部分が空で黒い部分は建物である。
その建物には半球状の屋根があり、細長い塔と通路でつながっている。
白と黒の鮮やかなコントラストは南欧の太陽を思い出させた(行ったことないけど)。
「姫殿下……こちらは……」
「フィレンツェの大聖堂だ。旅行したときに見学したんだ。
このクーポラはブルネレスキの設計したもので……」
(ブルネレスキー? ロシア人かな?)
714 :
左右61:04/08/05 14:33 ID:tPTbChjI
おれにもっと美術の知識があれば適切な批評ができるのだろうが、今のおれにはうまい言葉が見つからない。
「藤村、感想を聞かせておくれ」
と姫殿下がおっしゃった。
おれは何も思いつかなかったので、最初に感じたことを申し上げることにした。
「あの……白と黒で……太陽がまぶしいです」
「むむっ」
姫殿下が唸りあそばされた。
(まずい……見当違いだったか)
ご自分の作品をじっとご覧になってから、姫殿下が御口を開かれた。
「わたしの意図していたことと同じだ。
わたしはフィレンツェの太陽と青い空を再現しようと思ったのだ。
それを見ぬくとは……
藤村は見る目があるな」
「恐れ入ります」
何でも言ってみるものだ。
姫殿下はすっかり上機嫌になられた。
「この版画は彫り終えてからそのままにしておいたものだが、やっぱり発表することが大事だな。
今のように意見ももらえるし」
その版画が選挙ポスターとしてどうなのか、という意見は申し上げないことにした。
「それからこれがもう1枚」
姫殿下が広げられた紙を拝見したおれは思わず声を上げた。
「こ、これは……」
これは・・・?
まさか……姫殿下のご開帳写真!?
こ、これは・・・眞子様のパンツじゃねーか!
ぬぅ。エロいのは無しか。
DIDシチュで最後ハッピーエンドなら、スレタイ通りのができると思うんだが。
誰か文才あるひとが書かないかな。
俺と眞子様が結婚するSS書いてくれ。
720 :
左右62:04/08/06 22:55 ID:FR2enaL+
そこにはアニメ絵の少女の立ち姿が描かれていた。
切り揃えられた前髪、少し吊り上がり気味の目。そして見覚えのある制服。
「これは……姫殿下でございますか?」
「うん。叔母宮様が書いてくださったのだ」
「糸己宮様のお筆ですか」
糸己宮様といえば、宮崎パヤオ監督の最新作『ぐりとぐら The Movie』で声優デビューされたことが記憶に新しいが、
その後も舞踊、ラジオのパーソナリティ、『世界遺産』のナレーションなど幅広い分野でご活躍中である。
ふと、ポスター下部の“MAKO”というレタリングの横に小さな字が書いてあるのに気がついた。
「なになに? “イラスト集『ロマンシング・サーヤ』近日発売“? これは何ですか?」
「宣伝……かな?」
なかなかしたたかなお方である。
「それにしてもこの絵は姫殿下の特徴をよく捉えておいでですね」
「似ているかな?」
「はい」
「そうか、似ているか」姫殿下はポスターを見つめておられた。
「このままアニメ化できそうだな」
「さすればブレイク必至でございます」
「さらには映画化、ゲーム化……うふふ」
姫殿下は想像上の近未来に心を奪われておいでだった。
「ふりかけ化、ソーセージ化も夢ではございません」
とおれは付け加えておいたが、お耳には届いていないようだった。
721 :
左右63:04/08/06 22:56 ID:FR2enaL+
姫殿下とおれがアニメ『雷撃! マコリンペン』の原案を練っているうちに、車は学校に着いた。
「今日の放課後は美術部のみんなとポスターを貼りに行く。そなたも来ておくれ」
と姫殿下がおっしゃった。
「はい、かしこまりました」
「演説は1日お休みだ」
「はい」
「また守衛室に電話する」
そう言い残されて、姫殿下は登校された。
終鈴の後、呼び出しの電話を受けて美術部に入ると、やはり下川さんは弁当を食っていた。
「おっ、来た来た」
美術部の6人は輪になって座っていた。
中心にある机にはそれぞれ姫殿下と糸己宮様がお作りになったポスターが広げられていた。
「ここの曲線、すごくきれいね」
と松川さんが姫殿下の版画を指差して言った。
「すごく手間がかかってますね」
と平沢さんが言った。
「細かいところがすごく丁寧で、マコちゃんの人柄が出てると思う。いいポスターね」
と下川さんが言った。
姫殿下が照れくさそうに御頭を下げられた。
「糸己宮様のポスターもかわいいですね……」
キャノンさんが言った。
「すごい……これ印刷してある……どうやったらこんな色を出せるんだろう?」
三鷹さんはしきりに感心していた。
「ところで……」とおれは切り出した。
「皆さんのポスターは……?」
紀宮様が声優・・・?
723 :
水先案名無い人:04/08/09 12:22 ID:Oy0VkAF5
サーヤの声聞いたことないけど綺麗なの?
724 :
左右64:04/08/09 16:09 ID:aEaNzSaJ
おれの目の前には傾斜の緩いハーフパイプの模型のような物体が置かれていた。
「……これがポスターですか?」
「そうです」
三鷹さんが胸を張って答えた。
「これはいったいどういう構造になっているんですか?」
おれが恐る恐る手を伸ばすと、松川さんがすばやく物体をひっくり返した。
「それはですね、熱で曲げた竹の棒を貼りつけることによって紙が反ったままの状態になるのです」
「はあ……」
「それからこの四隅に付けた脚によってこのポスターと壁の間に隙間ができます。
そこに電球を入れます。するとこの紙の真ん中にMAKOという字を切りぬいてありますので、
そこから光が漏れてマコちゃんの名前が浮かび上がるわけです」
「なるほど……」
はたして選挙ポスターを反らしていいのか、他の物質で補強していいのか、光らせていいのか、など
様々な疑問がおれの中に生まれたが、どうせ「規則に違反しているという認識はなかった」だの、
「学校側の対応にも問題があった」だのと人権派弁護士的反論を食らうのは確実なので、黙っていることにした。
「藤村さん、ジャッキーのも面白いですよ」
そう言って平沢さんがおれに手渡したのは、英単語カードのような紙の束だった。
右肩に穴が空けられていて、そこに輪が通してあるところもそっくりだ。
なんとなく予想はしていたことだが、それは完全にポスターの体をなしていなかった。
「これが……件のパラパラまんがですか?」
「はい……」
キャノンさんが伏目がちに答えた。
725 :
左右65:04/08/09 16:12 ID:aEaNzSaJ
おれはその束をパラパラとめくってみた。
はじめにだぶだぶの服を着た人が立っていて、そいつに原始人が飛び蹴りを入れるというストーリー(?)だった。
「あの……これは一体……?」
「これは最近やくみつる先生が力を入れておられる一コマまんが、いわゆるポンチ絵です……」
「ああ、歴史の教科書に載っている奴ですね」
「はい……今回は原点に戻ってそうした風刺の要素を取り入れてみようと思いまして……」
「この前はパラパラまんがが原点だとおっしゃっていましたよね?」
おれはそう尋ねたがキャノンさんは完全黙秘を決め込んだ。
どうやらこの人はあまりおれの話を聴いていないようだ。
「それでこれは何を風刺しているのですか?」
「はい……フレッシュなマコさんの台頭で古い体制が崩壊するという現象を
ゲルマン民族の大移動によるローマ帝国の弱体化になぞらえてみました……」
「宮様を野蛮人にたとえるのはやめてください」
どうもこの人たちは自分の表現したいことを優先させて、選挙のことを忘れているような気がする。
「じゃあ、みんなでポスターを張りに行こう」
下川さんの一声でみんな一斉に美術室の外に飛び出していった。
姫殿下も御作のポスターを手挟んで駆けて行かれた。
おれは慌てて後を追った。
726 :
水先案名無い人:04/08/09 20:43 ID:qVjvRKWF
音無響子さん・・・
727 :
左右66:04/08/10 16:00 ID:ZyZKUdJ7
ポスターを張る場所はあらかじめ選んであったらしく、作業は順調に進んだ。
最後に残った例のオブジェは図書室前の掲示板に設置することになっていた。
「あそこは薄暗いので、光ると目立ちますよ」
と平沢さんは言った。
第1校舎1階の一番奥まったところに図書室はあった。
運動部の喧騒もここには届かない。
平沢さんの言うとおり、ここは薄暗く、涼しい。
木々に遮られて窓から日光が入って来ないのだ。
さっきまでの暑くにぎやかな放課後の空気が遠い昔のもののように思い出された。
「さて、では始めましょう」平沢さんが工具箱をがちゃんと床に置いた。
「皆さん、見張りをよろしく」
そう言うと、平沢さんは工具箱から電動ドリルを取り出し、掲示板に穴を空け始めた。
「な、何を……?」
「これを取り付けます」
平沢さんは電球付きの小箱をねじで掲示板に据え付けた。
「穴を空けてしまってもいいのですか?」
とおれは尋ねた。
「ポスターの張り方を指定する規則はありませんでした」
そう言われると反論しようがない。
次に平沢さんはオブジェの上下それぞれ2本の脚の間に糸を張り、その糸を∩型の釘で掲示板に留めた。
「できました」
平沢さんが例の小箱から垂れているコードのプラグをコンセントに差し込むとオレンジ色の光が灯った。
“MAKO”という文字が掲示板と紙の隙間から漏れる光と同じ色に輝いた。
「きれいねえ」
と下川さんが言った。
「よかった。ちゃんと点いた」
と三鷹さんがため息とともに言った。
姫殿下は嬉しそうにためつすがめつされていた。
728 :
左右67:04/08/10 16:01 ID:ZyZKUdJ7
(しかしかさばるポスターだな……)
おれは他の掲示物を見回した。
ふと、隅のほうに安藤さんの選挙ポスターがあるのに気がついた。
白地に青い字だけの地味なデザインだった。
「姫殿下、ここに安藤さんのポスターがございます」
とおれはご報告申し上げた。
「本当だ。シンプルだな」
と姫殿下はおっしゃった。
「シンプルですね」
「『正義!』と書いてあるぞ」
「『正義!』ははは、そんな大げさな」
「あはは」
「ということは姫殿下は『悪!』でございますな」
「こやつめハハハ!」
おれと姫殿下が中国4000年の歴史に思いを馳せていると、図書室のドアが開いて1人の生徒が出て来た。
「あ、安藤さん……」
と松川さんが言った。
「あら、松川さん」安藤さんと呼ばれた生徒はセルフレームの眼鏡の奥で眩しそうな目つきをして言った。
「何してるの? ……ああ、美術部ね」
(これが安藤さん……?)おれははじめて見る姫殿下の対立候補を前にして思った。
(安藤さんは…………“旧式眼鏡っ娘”なり!)
>中国4000年の歴史
どうでもいいけど、ここは笑うところですか?
( _,, -''" ', __.__ ____
ハ ( l ',____,、 (:::} l l l ,} / \
ハ ( .', ト───‐' l::l ̄ ̄l l │
ハ ( .', | l::|二二l | ハ こ .|
( /ィ h , '´ ̄ ̄ ̄`ヽ | ハ や │
⌒⌒⌒ヽ(⌒ヽ/ ', l.l ,' r──―‐tl. | ハ つ │
 ̄ ', fllJ. { r' ー-、ノ ,r‐l | ! め │
ヾ ル'ノ |ll ,-l l ´~~ ‐ l~`ト,. l |
〉vw'レハノ l.lll ヽl l ', ,_ ! ,'ノ ヽ ____/
l_,,, =====、_ !'lll .ハ. l r'"__゙,,`l| )ノ
_,,ノ※※※※※`ー,,, / lヽノ ´'ー'´ハ
-‐'"´ ヽ※※※※※_,, -''"`''ー-、 _,へ,_', ヽ,,二,,/ .l
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ `''ー-、 l ト、へ
731 :
左右68:04/08/11 15:56 ID:2Uhxb3hL
“眼鏡っ娘”という言葉が“グラサンをかけた女の子”を指すようになってから久しい。
ことの発端は1本のギャルゲーだった。
そのソフトとは「もしかわいい女の子がお昼の人気バラエティー番組の司会だったら……」という
男子なら一度は夢見るシチュエーションをゲーム化した『サークル・オブ・フレンズ』である。
ゲーム中に登場する全ての女の子が何らかのグラサンをかけているという斬新なシステムは熱狂的な支持を受け、
我々の眼鏡っ娘に対する認識を一変させた。
いまではあらゆるゲーム、漫画、アニメにグラサンが取り入れられ、色の入っていないレンズの眼鏡っ娘を見ることはほとんどない。
安藤さんは近年まれに見るオールド・スクールな眼鏡っ娘であったのだ。
「マコさん」安藤さんは姫殿下を見つけるとすぐに声をかけた。
「お話するのははじめてね」
安藤さんは姫殿下の方に歩み寄ると、手を差し出した。
姫殿下は一瞬虚を衝かれたご様子だったが、やがておずおずと御手を伸ばされて、握手をなさった。
「ずっとマコさんとお知り合いになりたいと思ってたのよ」
「はあ……」
姫殿下は少し警戒しておられるようだが、安藤さんはニッコニコだ。
「ねえ、その胸に付けている花は何?」
「あ、これはもっこうばらです。美術部のみんなとお揃いで……」
「そう……」
そう言って安藤さんは美術部の面々を見渡した。
そのときも笑みは絶やさなかったが、おれの顔を見ると目を細め眉根を曇らせた。
(…………何だ?)
安藤さんは視線をおれの顔から反らすと、再び元の笑顔を浮かべた。
「それでは皆さん、ごきげんよう。マコさん、今度ゆっくりお話しましょうね」
安藤さんは最後まで笑顔のまま去っていった。
「ふう」姫殿下がひとつ息を吐かれた。
「緊張した……でもなかなか感じのいい人だったな」
「そうね、悪い人じゃなさそう」
「選挙のことがあるからマコちゃんに敵対心を持ってるんじゃないかと思ってたけど、そんなことはないみたいね」
美術部員たちは安藤さんを褒めそやしていた。
おれと、なぜか下川さんが話の輪に入れずにいた。
732 :
左右69:04/08/11 15:57 ID:2Uhxb3hL
「藤村さん、私安藤さんに嫌われてるみたい」
と下川さんが囁いた。
「私もそれっぽいです」とおれは言った。
「一瞬にらまれたような気がしました」
「私も」と下川さんは言った。
「何かあの人怖い」
おれと下川さんが共通して持っていて、安藤さんの癪に触る要素とはいったい何なのだろうか?
考えてはみたが、結論は出なかった。
結局、その日は美術室でおしゃべりをして終わった。
御屋敷に帰って、おれが姫殿下のために車のドアを空けようとしたとき、カコ様がいらっしゃった。
「藤村さん、お姉様、ビラが完成したの。見てくださる?」
そうおっしゃると、カコ様は姫殿下とおれに1枚ずつ紙を手渡された。
それを拝見したおれの目にまず飛び込んできたのはダブルピースをされている姫殿下のご真影だった。
(姫殿下のご真影は全てチェックしていたつもりだが、これは見たことがない……ひょっとしてプライベートの……?)
保存用と観賞用に2枚頂戴して帰ろうと思った。
「ここに書いてある“大義”というのはカコが考えたのか?」
と姫殿下がお尋ねになった。
「はい、お姉様。もうひとつ“せからしか、あんたはわたしの犬や!”というのも考えたんだけど……」
「そのような言葉は個人的には嫌いではありませんが、今のままでよろしいかと存じます」
とおれは申し上げた。
「そうだな。そのほうがいいな」
と姫殿下がおっしゃると、カコ様はズボンのポケットから古びたメモ帳を取り出されて、何か書きこんでおられた。
(しかしこんな立派なビラをよくお作りになったものだ)
おれは何気なくビラを裏返した。
「藤村さん!」突然カコ様が大声を出された。
733 :
左右70:04/08/12 17:18 ID:pi67EHlu
「どうして裏返したの!?」
カコ様はすさまじい勢いでおれに詰め寄られた。
「え……裏にも何か書いてあるのかな、と思いまして……」
おれがびびりながらそうお答えすると、カコ様はすさまじい勢いでメモを取り始められた。
「そうだ、両面印刷だ!」
カコ様はそう言い残されて、お屋敷のほうへぴゅーっと走ってお帰りになった。
「むむむ」姫殿下は唸り声を上げられた
「文字通り“裏をかく”というわけか……」
「えっ!?」おれはびっくりして思わず大きな声を出してしまった。
(ひ、姫殿下がギャグを……)
姫殿下は驚いているおれの顔をご覧になってこうおっしゃった。
「今のはどうだったかな? なかなか面白かっただろう?」
「いやはや……なかなかどうして」
自分でも何を言っているのかわからないが、やんごとなきお方のギャグを批評するのは避けた方が無難だ。
姫殿下は上機嫌でお屋敷にお帰りになった。
翌朝、車のところで姫殿下はお待ち申し上げていると、フラフラになられたカコ様がいらっしゃった。
「藤村さん……これ……」
カコ様の御手には両面印刷されたビラがあった。
おれはそれをお預かりしながらお尋ねした。
「大分お疲れのご様子ですが?」
「うん、出来上がったのが朝方で……」
そうおっしゃいながらカコ様は東鳩ハーベストをポッケから出しあそばされて、重ねたままざくりざくりとお召し上がりになった。
「徹夜するとつい食べちゃうのよね」
「これッ!」突然、背後から大声がした。
「ご飯の後にお菓子を食べてはいけないと言っただろう!」
振り返ると姫殿下がしかめっ面で立っておられた。
カコ様はぴゅーっと走り去られた。
734 :
左右71:04/08/12 17:21 ID:pi67EHlu
放課後のチャイムを聴いても、おれは新聞を読み続けていた。
今日は姫殿下が守衛室においでになることになっていた。
(「糸己宮さま、パナマで行われた国際トローリング選手権で6位入賞」か……)
新聞の1面には体長4.5mのカジキを前にして満面の笑みを浮かべておられる糸己宮様の御写真が掲載されていた。
お側のクルーたちはてんでにショットガンや謎の棒を手にしており、
“キャッチ&リリース”など糞食らえ、というメッセージがびんびんに伝わってくる。
(この“Team SA−YA”Tシャツは姫殿下にお願いして分けていただこう)
おれがカジキの頭をぶん殴る糸己宮様の勇姿を思い浮かべていると、姫殿下と新美さんが守衛室の窓から御頭を覗かされた。
「藤村、今日はバスケ部とバレー部のところに演説をしに行くぞ」
並木道を3人で連れ立って歩いているときに姫殿下はそうおっしゃった。
「バスケ部部長の獄門島さんとバレー部部長の八ッ墓村さんはソフト部のククリさんとつるんでるらしいのよ」
と新美さんさんは言った。
「それなら行かないほうがよいのではないでしょうか?」
とおれはお尋ねした。
「いや、行くだけ行く」姫殿下はおっしゃった。
「だめならすぐに帰ろう。藤村、この前みたいに熱くなってはいけないぞ」
「はい……」
恥ずかしい記憶がよみがえって、おれは恐縮した。
バスケ部が練習をしている第1体育館は講堂の隣りにあった。
ボールを突く音やバッシュの底が床にこすれる音が外に漏れて来ている。
「よし行くぞ」
姫殿下はたすきの位置を確認し、手袋をお召しになった。
入り口で姫殿下と新美さんは体育館履きに、おれはスリッパをに履きかえると、おれたちはそれぞれの靴を持ったまま熱気のこもった空間に乗り込んだ。
左右頑張りすぎ。
左右様
毎日楽しみにさせて頂いております。
まだまだ暑さ厳しき折、御身体にお気をつけて、御執筆下さいませ。
737 :
和宮:04/08/12 23:49 ID:WBQzVOjT
739 :
水先案名無い人:04/08/13 03:26 ID:yFQ8JgTp
>>74から始まった物語。
ここが2chでなければ、眞子様が題材でなければ、ここに公開していなければ、
セカチューなんてメじゃないほどのベストセラーになっただろうに。
でも、そうじゃなかったらこれは世に出てなかったんだろうな。
眼福眼福。いい夏の思い出になった。
すげえ感動し、燃え、また萌えた。
眞子様!眞子様!眞子様!
そして父上への認識が変った。
*「そうか ついにきたか・・・
*「このうえは ぜひもない
えいこうある リゲルきしだんとして
さいごのたたかいを みせてやろう
*「リゲルの ゆうかんなるへいしたちよ
よくぞ ここまで わしとともに
たたかってきてくれた
*「だが・・・ ときすでにおそく
リゲルていこくの めいうんはつきた
*「きけ みなのもの!!!
わしからの さいごのたのみだ
*「もし わしが たおれれば
そのときは かまうことはない
*「のこったものは
いさぎよく こうふくせよ
*「ソフィアの わかいしょうぐんは
なさけあるものと きいている
*「けっして わるいようには
しないだろう
*「よいな むだじにはするな
いのちを そまつにするなよ!
>>742 禿 げ し く 同 意。
最近、常駐の某板某スレから案内されて来た者だが、
本当に来てよかったと思う。
他の職人さんたちも、それぞれ独自の色合いのある世界をお持ちで
とてもいい感じでした。
これからも皆様頑張って下さい。
>常駐の某板某スレ
これどこにあんの?
748 :
左右72:04/08/17 17:07 ID:Xl9h0z3L
体育館の中は暑い・臭い・うるさいの三重苦の世界だった。
窓や扉は全て開かれているのだが、そこから涼しい風が入ってくることはない。
むしろ外気を汚染しているのではないかと思われるほどに、殺人的気体が充満している。
(帰りてェ〜)
おれの気持ちはすでに萎えていたが、姫殿下と新美さんは2面あるバスケットコートの間を突き進まれていた。
仕方なくおれは付き従うことにした。
床に転がっているシャツやタオルや靴が思い思いに毒の胞子を飛ばしている。
(少し肺に入った……)
姫殿下は首からストップウォッチを下げた背の高い生徒のそばに立たれた。
部長と思しきその生徒は姫殿下をぎろりと睨みつけた。
「何?」
それは明らかに「帰れ」を意味する言葉だったが、姫殿下は臆することなく用件をお告げになった。
「わたしは生徒会長候補のマコでございます。今日はこちらで演説をさせていただきたいと」
「ああ、うちはそういうのやらないことになってるから」
微妙に自分の責任を回避しながらその生徒は答えた。
「そうですか……失礼しました」
そうおっしゃって姫殿下は入り口の方を向かれた。
こうなることを予想しておられたのだろう、お顔には落胆の色がなかった。
そうしたところに高潔なお人柄を感じる。
だがおれのような凡俗はこのままで引き下がることはできない。
(この局面、肉体的暴力は許されない。だとすれば精神的ダメージを与えるのが最上!)
おれは入り口の方へ歩いておられる姫殿下を追い抜き、振り返りざまに脚を閉じ膝を曲げた、
いわゆるテキサスコンドルキックの要領で宙に舞い、着地すると同時に上体を床に投げ出した。
「申し訳ございません!」
おれがそう叫ぶと体育館の中から一切の音が消えた。
749 :
左右73:04/08/17 17:09 ID:Xl9h0z3L
しばしの沈黙の後、姫殿下がお声を発せられた。
「ど、どうした、藤村?」
おれは目の端で呆然と立ち尽くすバスケ部員たちを認めつつ、さらに大きな声を出した。
「バスケ、ソフト両部における不敬の横行、そうした輩によって姫殿下のお受けになった恥辱、
全てこの選挙責任者藤村の咎にございます!」
「いや、別に藤村さんのせいじゃなくて」
新美さんがそう言い終わらぬうちにおれは次の台詞を吐いた。
「この上は職を辞し、赤羽の地にて小料理屋を開き余生を過ごす所存でございます!」
そう言って、おれは「あァァァんまりだァァァ」と啼いた。
「藤村、そなたが悪いわけではない。そなたの働きには感謝している。だから泣かないでおくれ」
「ううう……もったいないお言葉」
そんな美しい上意下達に新美さんが割りこんできた。
「ねえ、外に出て風に当たろう」
そう言って新美さんはおれの腕を引っ張った。
姫殿下もおれを立たせようとなさったので、おれはゆっくり立ち上がり、ふらふらと歩き出した。
体育館を出るときに、おれはちらりと後ろを振り返ってみた。
バスケ部員たちはみな一様に不安げな顔をしている。
おれは心の中でクククと笑った。
「あそこのベンチに座ろう」
新美さんの指差した木陰のベンチにおれは連行されていった。
姫殿下と新美さんの間に座らされたおれはすぐにすっくと立ち上がった。
「あれ?」
おれの突然の行動に驚きの声を上げられた姫殿下に向かい、おれはチベットの巡礼者よろしく五体を地に投げ出した。
「申し訳ございません! ただいまのは全てこの藤村の芝居でございました!」
「えッ!?}
「何と!」
おれは面を上げる勇気も湧かなかった。
>(少し肺に入った……)
ワラタ。
>いわゆるテキサスコンドルキックの要領で宙に舞い
字面だけでもワラタ
どんな技か知らなかったからぐぐってみたらキン肉マンか
>「あァァァんまりだァァァ」
これエシディシだよね……
うんこ
左右マジで頑張りすぎだろ・・・
755 :
左右74:04/08/19 01:15 ID:7HGNTSlq
何の予告もなしに芝居を打ったのだから姫殿下が驚かれるのも当然だろう。
だがお叱りを受けるのは覚悟の上だ。
「私がこのような芝居をいたしましたのも、バスケ部員たちの行いに抗議をするためでございます。
彼女たちの仕打ちがいかに人の心を傷つけるものであるかを彼女たちにわかってもらいたかったのです」
こう言うともっともらしく聞こえるが、本当は悪質ないやがらせ目的である。
「むむむ…………」
姫殿下は低く唸りあそばされた。
新美さんはちらちらと姫殿下のお顔色を窺っている。
姫殿下のお怒りを恐れているようだ。
「うーん、本当に藤村が錯乱したのかと思ったぞ」
姫殿下のお言葉におれはいっそう平身低頭した。
「なかなか見事な演技だった」
「はあ……」
なぜかお褒めに与かってしまった。
「次もこの調子で頼むぞ」
「次……とおっしゃいますと?」
「余勢を駆ってバレー部にも行ってみよう」
「…………」
まずい展開になった。
さっきは完全なアドリブだったから思い切った芝居ができた。
だからもう一度やれとおっしゃられてもテンションが上がらないし、第一恥ずかしい。
「姫殿下、先ほどのは非常手段でして、同じことを繰り返しても効果は期待できないかと……」
「では今度はわたしが泣こう」
「う……」
まずい展開になった。
756 :
左右75:04/08/19 01:16 ID:7HGNTSlq
おれが泣くのと姫殿下が泣かれるのとでは周囲に与えるインパクトが違う。
何も知らずに見た人は精神的ダメージどころかトラウマあるいは懲役を覚悟せねばならない。
おれは面を上げ、ご尊顔を拝した。
姫殿下の御眼は芝居への情熱に燃えておられた。
(できない……1人の演劇人としてこの火を消し申し上げることはできない!)
だがよく考えたらおれは演劇人でも何でもないので、少し頭を冷やして、冷静と情熱のあいだ辺り、
ややケリー・チャン寄りのテンションでお答えし申し上げた。
「ではバレー部員がご演説をお断り申し上げた場合は仰せのとおりにいたしましょう」
「うん。その場合わたしが先に泣き、それを見て藤村も泣くと……」
(結局おれは泣くのか……)
「リサリンはどうする?」
「えっ!?」
新美さんはすっとんきょうな声を上げた。
どうやら自分だけ傍観者のままでいられると思っていたらしい。
「そうねえ……私は……」
新美さんの表情からは関わりたくない、というか帰りたいという思いが読み取れた。
だが“開けたら最後、you can't stop”という言葉もある。
もはや後戻りはできないのだ。
おれはデビルアイ(透視力なし)にて新美さんを睨みつけた。
「う……じゃあ2人の様子を見て臨機応変にということで……」
新美さんは消え入りそうな声で言った。
泣かす、泣かしたおす! とおれは思った。
板が分割されたな。
どうする?
758 :
左右76:04/08/19 15:27 ID:7HGNTSlq
バレー部の練習場である第1体育館はやはり腐海の毒に覆われていた。
部員の数はバスケ部より若干少ないようだが、コートに入れずにいる部員が多くて通り道がほとんどない。
おれは先払いをして姫殿下を体育館の奥へご案内し申し上げた。
「う……」
用具室の扉の前で2人の部員が正座させられていた。
両人とも怯え切っていて全体的におばあちゃん化している。
その前に立つのは髪をひとつに結った背の高い生徒、恐らくこれが部長の八つ墓村さんだろう。
その光景の禍々しさに立ちすくむおれに姫殿下が囁かれた。
「今から交渉してくる。そなたたちはあの空いているところで待機しておくれ」
姫殿下の指差されたのはコートの内側だった。
「姫殿下、あそこはバレー部の練習の邪魔になるかと思われます」
「わたしたちの演技が始まれば、みな手を止めて注目するはずだ。そうでなければ意味がない」
なぜか強気のご発言におれと新美さんは引き下がった。
「本当にやるの?」
交渉に向かわれる姫殿下の後姿を見つめながら新美さんが言った。
「私は姫殿下がなさるのであればお供します。
新美さんも1人だけ素のままでいるより弾けちゃった方が楽だと思いますよ」
おれがそう言うと新美さんはうなだれた。
(さて肝心の姫殿下のご首尾はどうだろう?)
おれが体育館の奥に目をやると、ちょうど姫殿下がこちらへ向けて歩いておいでになるところだった。
そのお顔には喜悦の笑みが浮かんでいた。
(やっぱりやるのか……)
おれの側に立たれた姫殿下はもう演劇モードに入っておられた。
「また演説を断わられた!」
あまりのお声の大きさに体育館が一瞬静まりかえった。
759 :
左右77:04/08/19 15:30 ID:7HGNTSlq
「これでもう3回連続だ!」
「はい……」
「だがこの身の辛さはどうでもよい。ただそなたが不憫でならぬ。
ふがいない主君のために要らぬ苦労をかけるなあ、よよよ」
(まずい……)
冷たい汗が背中をつたうのを感じた。
(姫殿下は大根だ!)
お声がはっきり明瞭であらせられることすら欠点に思えてしまうほどのひどさだ。
あらゆる風流を嗜まれる姫殿下にこんな弱点があるとは夢にも思わなかった。
(どうしたらいいんだ……)
最良の手は姫殿下と同じような芝居をすることである。
だがリアリズムに毒されたおれの常識がそれを邪魔する。
常識……
今のおれにそんなものが必要だろうか?
全ての価値基準は姫殿下が中心なのではなかったのか?
姫殿下のご意向に相反する常識などかなぐり捨てろ!
美輪明宏に「天草四郎の生まれ変わりって、あれ嘘でしょ?」と言ってやれ!
おれは謎の怪鳥音を発しながら、市場を駆け抜けるジャッキーのごとく走り出した。
必死でおれの進路から逃れようとしている部員たちは往年のスタン・ハンセンの入場並みにガチだった。
おれは壁の梯子を登り、屋根に近い窓の前に立つと、こう叫んだ。
「姫殿下、姫殿下が宸襟を悩ませておられるのも全てこの藤村の不徳の致すところにございます!
本来ならば死罪を賜るところですが、そのようなお手間をおかけ申し上げることさえ勿体のうございます!
藤村はここから飛び降りて果てます! おろろーん」
ここから飛び降りても死ぬわけがないが、そうした常識的な判断はもうできなくなっている。
「藤村! 死んではならぬ! 死んではならぬぞ! おろおろ」
これまた卒業式の呼びかけ並みにひどい。
(次の展開は新美さんに期待するしかない!)
おれは眼下に見下ろす体育館に新美さんの姿を探した。
続きマダー?
762 :
左右78:04/08/20 16:36 ID:zuIEh4Em
新美さんは姫殿下を遠回しに見ているバレー部員の中に紛れて、ぼんやりとおれの方を見上げていた。
だがおれと目が合うとすばやく視線を逸らした。
(演じるのです! マヤ!)
おれが月影先生的毒電波を発すると、新美さんは頭を抱え、瞼をぎゅっと閉じた。
が、次の瞬間立ち上がって梯子へダッシュした。
「藤村さん、私も死ぬ! 死ぬナリ!」
例のチョンマゲロボの悪影響からか文法的には誤っているが、その熱々の侍スピリッツは充分に伝わってきた。
(そうだ! 姫殿下の演劇空間においては命を絶つのに理由など必要ないのだ!)
新美さんは梯子を駆け上り、おれの隣に立った。
「2人とも死なないでおくれえ、えええ」
姫殿下がそうおっしゃったのは、ダチョウ倶楽部で言えば「押すなよ!」、すなわちGOサインだ。
おれと新美さんは目を合わせた。
もはや打ち合わせなど必要ない。
「2人の恋は清かった。神様だけがご存知よ。姫殿下、藤村はもう走れません!」
「地球は青かった。マコリン、さらばでござる!」
もう設定すら存在しない。
おれと新美さんは虚空に飛び出した。
「あっ」
バレー部員たちが息を呑んだ。
おれたちが飛び降りたのは恐らく建物の3階くらいの高さだ。
北国の血がそうさせたのか、おれはテレマーク姿勢を取っていた。
(いける! これで着地の衝撃を吸収することができる!)
着地した瞬間、膝・腰・首に激痛が走った。
「ぎゃっ」
おれは痛みにのたうちまわった。
どうやらテレマーク姿勢は垂直落下には向かないようだ。
763 :
左右79:04/08/20 16:39 ID:zuIEh4Em
「藤村!」姫殿下がおれの側に駆け寄っておいでになった。
「藤村、死なないでおくれ」
おれはゆっくりと目を開いた。
「おお、藤村!」
「あれ? ここは天国ですか?」
お約束の台詞だ。
「マコリン……」
新美さんがこちらに這い寄ってきた。
「何と! リサリンも!」
「きっと神様が“生きて選挙活動を続けよ”とおっしゃっているのだわ」
「そうとも取れますね」
少しずつ素に戻りつつあったおれはそう言った。
「ご覧、日が昇る……」
姫殿下がおれと新美さんの肩に御手を置かれておっしゃった。
「きれい……」
どうやら新美さんにも見えてしまっているようだ。
「姫殿下」あちら側から戻っておいでにならない姫殿下におれは囁き申し上げた。
「このあたりで舞台をお下りになられた方が余韻を残すことができてよろしいかと……」
「そうしよう」
姫殿下はふわふわした御足取りで体育館の出口に向かわれた。
おれはバレー部員の方を振り向いて言った。
「皆さん、マコ様に清き一票をよろしくお願いいたします!」
ようやくここに来た目的を果たすことができた。
姫殿下は新美さんと何かを囁きあいながらくすくすと笑っておいでだった。
| ∧_∧
| (´∀` ) おめでとう。ホールインワンだ。
| 人 ヽノ、
└―→( ヽ_つ_つ
) ))
(__))
左右の中の人は普段なにやってんだ。
ネタの微妙な加減から年はいってると思う
左右は複数いると見た!
宮内庁の(ry
平日の昼とかに普通に書き込んでるよな。
770 :
左右80:04/08/23 17:18 ID:+ghRnPVZ
次の日の朝、おれは講堂の向かいにある木陰のベンチに座っていた。
こんな早い時間なのに講堂の白い外壁が目に焼きつくほど日差しが強い。
ベンチ横の木では蝉が嫌がらせとしか思えないほどうるさく鳴き、
その声の途切れに校長先生のお話が講堂の中からぼんやりと響いてくる。
中学3年の夏、保健室登校をしていた頃を思い出した。
(それにしても本当にやるのかな、直訴?)
直訴はこの朝礼が終わった後、講堂から出てくる生徒で出口付近が混雑しているのを見計らって決行されることになっていた。
手順としては、まず直訴役の下川さんが講堂から抜け出して、校舎の陰に隠してある直訴状を持ってスタンバイする。
朝礼が終わると生徒たちは3年→2年→1年の順に講堂を出ることになっているので、
2年生の部員2人は遅れて、姫殿下を含む1年生の3人は早めに出る。
姫殿下以外の4人は下川さんの「直訴」の声を合図に姫殿下を取り囲んで、姫殿下の周りにスペースを作る。
おれはそこに入って、走って来る下川さんを止める。
そこで姫殿下が直訴状をご覧になり、民の声をお聞き入れになるのである。
おれはその行為自体が持つ不穏な性格のためにこの直訴に反対してきたが、
今では姫殿下の演技力に対する懸念の方が大きくなっていた。
(せめて観ている人にヘタウマくらいには思ってもらいたいが……)
おれが観月ありさのレコーディング・スタッフのように悩んでいると、下川さんが扉のわずかな隙間からすべり出て来た。
下川さんはおれと目を合わせると、にっと笑い、校舎の裏手に向かった。
しばらくすると講堂内が騒がしくなり、少しずつ生徒たちが出口から吐き出されていった。
やがて美術部員たちと姫殿下が出ていらっしゃって、不自然にうろうろしておられた。
(そろそろ行くか……)
おれがベンチから腰を上げたそのとき、下川さんのでかい声が響いた。
「直訴ッ!」
おれは即座に下川さんの隠れた場所に目をやった。
しかしそこに下川さんの姿はなかった。
「上だ!」
誰かの声がして、見上げると校舎3階の窓から直訴状を挟んだ棒を手にした下川さんが顔を出していた。
771 :
左右81:04/08/23 17:19 ID:+ghRnPVZ
「3年A組下川のり、直訴ッ!」
そう叫ぶと下川さんは窓の外に身を躍らせた。
「うわあっ!」
「いやあぁぁぁ!」
生徒たちが悲鳴を上げた。
(パ、パンツ丸見えだッ!)
ちなみにパンチラ400戦無敗を誇るおれの動体視力によってそのパンツは白とグレーのボーダー柄であることが判明した。
すさまじい音とともに下川さん(パンモロ)が着地したのは自転車置き場の屋根の上だった。
無残にへこんだ屋根から飛び降りると、下川さんは姫殿下めがけ突進してきた。
「ぎゃあぁぁぁ」
逃げる人が入り乱れて牛追い祭りのようになっていた。
おれはそれを掻き分けて姫殿下の下へ馳せ参じた。
「藤村、来るぞ!」
姫殿下は衝撃に備えて身構えられた。
下川さんは真っ二つに裂けた人の海の中を一直線に駆けて来る。
エディー・マーフィーのマシンガントーク並みにノンストップ間違いなしだ。
(果たして止められるか?)
おれはプロレスラー永田さんの名著『ちぎっては投げ』(民明書房刊)に書いてあったことを思い出した。
この書は脊椎動物最強の男、永田さんが自らの技をわかりやすく解説した格闘技のバイブルである。
それによると、
タックルの破壊力=体重×速度×覚悟
であるという。
今の状況で言えばおれの方が体重は大きいが速度は完全に下川さんの方が上。
とすればおれは覚悟の面において相手を圧倒するしかない。
(しかし……どうやって今以上の覚悟を決めればよいのだッ!?」)
772 :
左右82:04/08/24 16:49 ID:zTjVOUoQ
「覚悟」という言葉は「あきらめ」と同じ意味で使われているが、原義は「過ちや迷いから覚める」ことであるという。
つまりは物事を正しく認識するということだ。
さて現在の状況を正しく認識すればどうなるであろうか。
この「直訴」というシチュエーションはあくまでも虚構に過ぎない。
実際には女子中学生が訓練された護衛隊隊員に向かってきているのである。
実力は確実におれの方が上だ。
だからおれは若い衆に胸を貸す関取のような心構えで事に臨めばいいのである。
それが覚悟だ。
おれは腕を広げ、足で地を強く踏みしめた。
「よし、来いッ!」
次の瞬間、おれの体は花の終わったあじさいの茂みに突き刺さっていた。
「ゔ〲:〰ゔ〲:〰」
急所のひとつである水月をしたたかに打たれたため、呼吸ができない。
何とか身を起こして茂みから這い出たものの、そこで力尽きてばったりと倒れこんだ。
(ガッツがたりない!)
おれは姫殿下にお助け願おうと、姫殿下のお顔をチラ見し申し上げた。
姫殿下はおれの顔をご覧になり、御眼をかっと見開かれた。
“休まず攻めよ”の合図だ。
(非情ッ…………選挙とはかくも非情なものかッ!)
おれはふらふらと立ち上がり、姫殿下と下川さんの間に割って入って、打ち合わせどおりの台詞を吐いた。
「ギョホギョホ、ギョホ」
言葉にはならなかったが、この状況下では上出来だろう。
「もうよい、藤村。どれ、少し読んでみよう」
姫殿下のお許しをいただくまでもなく、おれは崩れ落ち、地に伏していた。
「何と! 皆が部活動の規制緩和を望んでいるとは知らなんだなあ、あああ」
姫殿下のアレなお芝居が続いていたが、おれはよろめきながら先のベンチに戻った。
773 :
左右83:04/08/24 16:50 ID:zTjVOUoQ
「あれ? 藤村さん、こんなところで何してるの?」堀本先生がおれの前に立っていた。
「眉間から血が出てるけど大丈夫?」
そう言われて眉間に手をやると確かに血が出ていた。
「これは血じゃない……汗だ」
「いや、絶対血だって」
おれの前方では美術部員たちがビラを撒いていて、その中心におられる姫殿下はますます熱のこもった演技をされていた。
「本当にごめんね。つい力が入っちゃって……」
放課後の美術室で下川さんが言った。
「気にしないでください。鍛えてありますから」
とおれは多少の見栄を張りつつ言った。
「今回は部長と藤村が体を張ってくれたおかげで大成功だったな」
と姫殿下がおっしゃった。
「そうね。ビラも100枚全部配れたし」
と平沢さんが言った。
「藤村さん、傷はもういいの?」
と三鷹さんがおれに尋ねてきた。
「大丈夫です。保健室で治療してもらいましたから」
おれがそう言うと、下川さんがおれの胸を拳で軽く突きながら言った。
「本当に心配したんだゾ」
「何で棒読みなんですか?」
この人は内心おれのことを笑っているのだと確信した。
これに民明書房が出てくるとは・・・
ワロタ
左右さん かなり好きです
楽しみにしてます
| ,/^l
|~"゙ ,|
|⊥・ ミ
| ":,
| ⊂ ミ
| 彡
| ,:'
|''''∪
_ ./^l
_,,..i,,_ ヽr'"'~"゙´ | _,,...,,_
ヽ●/ ・ ⊥ ・ ゙';ヽ●/
(ヽ 、/)
゙," ´''ミ
ミ ;:'
'; 彡
(/~"゙''´~"U
778 :
左右84:04/08/25 17:38 ID:hTfIKM/8
この日は姫殿下が美術部に出られたので放課後の選挙運動はお休みだった。
報告書の字が汚いとよく怒られるおれは下川さんに書道を習うことにした。
「そうそう、ゆっくり力を抜いて、払う」
おれは下川さんの書いてくれた手本を真似して筆を動かした。
「こうですか? わかりません!」
「うーん、“辞”はいいけど“表”がね……ちょっとバランス悪いかな」
おれの隣では姫殿下が静物画をお描きになりながら、キャノンさんとかみ合わない会話をされていた。
PCの前では松川さん、三鷹さん、平沢さんが何か議論していた。
部活動に参加した経験のなかったおれは部活動の楽しさに遅ればせながら目覚めつつあった。
土日は休みだったので、下川さんに負けない体を作るためジムに行こうと思っていたのだが、
元同僚たちからのメールに返事を書くのに忙殺されてしまった。
彼らはかつて共に姫殿下を長と戴く部隊で海の向こうでドンパチやらかした仲間である。
当然彼らは熱狂的な姫殿下信者である。
その部隊の解散後、「海蛇会」という一種の同期会が結成された。
会長はもちろん姫殿下であらせられるが、なぜかおれが幹事に任命された。
その理由は後になってわかった。
おれの役目は姫殿下ニュースを発信することだったのだ。
そんなわけでおれは姫殿下の御身辺で起きた出来事を文書にしてメールで送っていたのだが、
今回の選挙の件は異常に反響が大きかった。
その多くはなぜ姫殿下がド平民の審査を受けねばならないのか、という怒りのメールだった。
仕方ないので、おれは近所の図書館に行って教育に関する本を借りてきて、中等教育における生徒会選挙の意義について論じた。
日曜日の昼過ぎにようやく全員への返信が終わりほっと一息吐いたとき、電話が鳴った。
それは母からの電話だった。
母はおれがやんごとなき方々の御前で粗相をしていないか常に心配している。
おれは選挙のお手伝いをしていることを話した。
もっとも姫殿下のご学友が出馬したということにしておいたのであるが。
779 :
左右85:04/08/25 17:39 ID:hTfIKM/8
「あんたも立派になったね」
と母がため息混じりに言った。
「そうかな?」
「そうよ。だってあなたのお祖父ちゃん、選挙で物もらって捕まったんだから」
「ええっ!?」
「町長選のときにね、寄り合いに出たら日本酒をもらって、それでそこにいた人が全員捕まってねえ」
「マジかよ……」
「でも連れて行かれて、仕方なく受け取ったんだって怒って警察の人ともめてねえ。
結局厳重注意で済んだんだけど」
日本が高度経済成長を遂げていたときに、おれの祖父は片田舎で警官相手に逆ギレしていたのだ。
「あなたのお父さんのお父さんも共産党の集会で検挙されたことがあるしねえ……」
「…………」
自分が今この職に就いているのはほとんど奇跡なのだということを実感した。
おれはさらなる余罪を追及しようとしたが、玄関のベルが鳴ったので電話を切り、ドアを開けた。
おれ宛の宅急便だった。
送られてきた箱は掛け軸を入れる箱のように細長かった。
差出人は「海蛇会」のメンバーだった。
開けてみると折り鶴が数珠繋ぎになったものが入っていた。
同封の手紙には「ひとつひとつ思いを込めて折りました」と不気味なことが書かれていた。
夜までに同じような折り鶴が10箱と、海外派遣組からの応援メッセージを寄せ書きした日章旗が届いた。
どうやらおれの家を私書箱か何かと勘違いしているようだ。
部屋を占領したこれらの献上物を見ながら、姫殿下のお側にお仕えしたものはこれほどまでに姫殿下をお慕い申し上げているのに、
どうして選挙運動はままならぬのだろうと思った。
780 :
左右86:04/08/26 19:08 ID:FTYD5vkr
月曜日、献上品を待機室のロッカーにしまおうとしたとき、三井隊長が目ざとくそれを発見した。
「藤村、何だそれは?」
おれは海蛇会のことから順を追って話した。
おれの話を聴いている内に隊長はなぜか涙目になっていた。
「お前の戦友は本当に姫殿下をお慕い申し上げているんだな」
「はい、私も含めて皆、姫殿下がいらっしゃったから日本に帰って来られたと思っております」
おれがそう言うと隊長は大きな手で目頭を押さえた。
「感動した!」
「はあ……」
「おれも鶴を折って、お前の戦友たちと同じ思いを分かち合いたい!」
ここまで力強い折り紙宣言も珍しい。
「折り紙を買って来る!」
そう言い残すと隊長は外へ飛び出していった。
あんな強面の男が折り紙を大量に買ったら、文房具屋はきっと悪質な嫌がらせだと思うだろう。
ご登校の車中、海蛇会の仲間たちから届いた献上品のことを申し上げると、姫殿下はことのほかお喜びになった。
「応援してくれる皆のためにも頑張らなくては」
今でさえ全国の恵まれない部員たちのために戦っておられるのに、
このお方はさらに選挙とは何の関係もない成人男子30人を背負いこまれたのだ。
「ところで藤村、昨日リサリンから電話があったのだが、この前バスケ部で痛い目にあっただろう?」
「はい、嫌な思い出です」
「あの時はゆっくり体育館に行ったな」
「はい、姫殿下と新美さんに守衛室までご足労いただきまして、それから体育館に向かいました」
「それがな、リサリンの知り合いのバスケ部員から聞いた話によると、
あの怖い獄門島さんを含め3年生は少し遅れて練習に来るらしいのだ」
「はあ……」
「ところが1、2年生は練習の準備をするために早めに来る。
それに合わせて演説をしに来るのはどうか、というのだ。
1、2年生の中にはわたしの話に興味を持っている人がいるらしい」
781 :
左右87:04/08/26 19:12 ID:FTYD5vkr
バスケ部には明らかに姫殿下に対して敵意を抱く者がいることだし、おれの拙い演技を披露してしまった場所でもある。
できれば二度と足を踏み入れたくないが、姫殿下はお出ましを願う臣民の声を無視することなどおできにならないお方である。
「お供いたします」
「うん、ありがとう」
終鈴がなったらすぐに第1体育館前に集合と決まった。
体育館の前で姫殿下をお待ちしていると、バスケ部員らしき生徒が何人も体育館の中へ駆け込んでいった。
(後輩は大変だなあ……)
皇室と臣民の間に存在するもの以外の身分制を一切認めないおれが平等について考えていると、姫殿下と新美さんがおいでになった。
新美さんは演説台を抱え、姫殿下には白い長手袋にたすきを御着装されていた。
「よし、行くぞ!」
一同 「おー^^」
一向は勇躍体育館に飛び込んだが、靴の脱ぎ履きでその勢いはすぐに削がれた。
体育館の中では15人ほどの部員たちが床やボールを磨いていた。
新美さんがモップをかけている部員の1人に話しかけると、すでに話が通じていたようで
我々を館内でもっとも涼しい、開け放たれた非常扉の前に案内してくれた。
他の部員たちも作業を中断して集まって来た。
「姫殿下、そろそろ出御を……」
「よし」
新美さんが演説台を据え付けると、姫殿下は体育館履きをお脱ぎになり、台に上がられた。
「皆様、こんにちは。わたくしはこの度生徒会長に立候補いたしました、マコでございます」
姫殿下の御演説は順調に進んだ。
「……ですからそうした交流の中で学園生活をより豊かなものに……」
最初の頃よりも御演説が堂に入っておられる。
これを拝聴すれば皆姫殿下に票を投じたくなるだろう。
「あんたたち! 何やってんの!」
突然、体育館中に怒号が鳴り響いた。
うんこ
age
784 :
水先案名無い人:04/08/28 10:26 ID:WtbpaKFw
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
このスレッドは名物ミジンコ「デブちゃん」のESP訓練の為に
立てたものです。
デブちゃんと研究員とのやり取りに利用するスレッドなので、関係者以外は
書き込まないようお願い申し上げます。
東京特許許可局微細生物研究所
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
785 :
左右88:04/08/28 14:14 ID:URUhExYh
「げっ! 獄門島さん!」
入り口にはリバウンドに強そうな獄門島部長とその取り巻きが立っていた。
「この前言ったことがわからなかったようね……」
「違うんです! 違うんです!」
新美さんが必死で弁解をしているが、動揺し過ぎで何を言っているのかよくわからない。
「姫殿下、ここは私が食い止めますからお逃げください」
おれはそっと囁き申上げた。
「しかし……」
「私にお任せください」
「殺す!」
叫び声に振り返ると獄門島さんが突進してきていた。
「姫殿下、お早く!」
おれは姫殿下の方を振り向かずに申し上げると、藤村式格闘術“誘い涙の構え”を取った。
不退転の意思の現れだ。
(おれの後退のネジは姫殿下にお預けしてあるんだッ!)
「来い!」
だが近付いてきた獄門島さんの顔は変身したフリーザの後ろから2番目のそれ(長いやつ)と同じくらい恐ろしかった。
「うわあっ、駄目です! 姫殿下、ネジを! ネジをお返しください!」
「藤村さんが壊れた!」
「逃げるぞ!」
姫殿下のお声で我に帰ったおれは非常扉に向かって走り出した。
途中で演説台と姫殿下の御靴を拾うことも忘れなかった。
「ぎゃあああああ」
新美さんが半狂乱であさっての方角へ走って行った。
「藤村! リサリンが!」
「彼女は囮になる覚悟です(知らんけど)!
彼女の遺志(死んでないけど)を無駄にせぬためにもお逃げください!」
「わかった!」
姫殿下とおれは再び走り出した。
786 :
左右89:04/08/28 14:15 ID:URUhExYh
開け放たれた非常扉の外は草むらになっていて、1mほど先に金網フェンスがある。
その向こうは初等科のグラウンドだ。
そこまで行けば獄門島さんも追いかけては来ないだろう。
姫殿下とおれは金網に飛びついた。
だがスリッパを履いていたせいで、おれは足を滑らせて地面に落ちた。
「ぎゃっ」
「藤村!」
姫殿下は金網の向こう側に着地しておられた。
「姫殿下、お逃げください……藤村死すとも自由は死せず!」
「藤村、後ろだ!」
振り返ると獄門島さんが鬼の形相でおれに飛びかからんとしていた。
「わあっ」
おれはスリッパを放り出して金網を駆け上り、殉職を免れた。
しかし金網を乗り越えようとしたそのとき、フェンスが揺れておれは『ジュラシック・パーク』のガキンチョよろしく吹き飛ばされた。
グラウンドに叩きつけられて、もと来た方を見ると、獄門島さんの体当たりでおれのいたあたりの金網が大きく凹んでいた。
おれはカカカと笑い、姫殿下にご報告申し上げた。
「姫殿下、ご覧になりましたか?
相手の攻撃を利用して距離を稼ぎました。
これぞ忍法“肉を切らせて骨を断つ”でございます」
「……骨は断てなかったな」
姫殿下がぽつりと呟かれた。
「二度と来んな、ボケッ!」
と獄門島さんが吐き捨てるように言った。
「絶対行く! 今夜にでも!」
とおれは言い返しておいた。
リアルタイム書き込みキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
788 :
左右90:04/08/30 15:25 ID:9/ZK60kL
姫殿下とおれはグラウンドを横切って歩いた。
初等科の通用門は校舎の向こうにあるので、放課後のグラウンドは閑散としていた。
「まさかこんな形で母校に戻って来るとは思わなかったな」
と姫殿下が苦笑いとともにおっしゃった。
「凱旋とはいきませんでしたね」
とおれはひっくり返した演説台の中に靴をしまいながら申し上げた。
姫殿下は俯きながらおれの先を歩いておられたが、突然笑い声を上げられた。
「しまった、靴下のまま来てしまった!」
姫殿下の驚かれぶりにおれも思わず笑ってしまった。
「お靴はお持ちしましたのでご安心を」
「ありがとう。よし、こうなったら靴下も脱いでしまおう」
そうおっしゃると、姫殿下は紺のハイソックスをお脱ぎになり、くすぐったそうに地面に御足をお付けになった。
「ふふふ、くすぐったい」
姫殿下はお首をすくめられながらゆっくりと地を踏みしめられた。
おれも靴下を脱いで裸足になってみた。
「いてててて」
小石が足の裏に突き刺さって痛い。
「藤村、大丈夫か?」
姫殿下が心配そうなお顔をされている。
「大丈夫です……」
そう申し上げたが、内心内蔵でも悪いのではないだろうかと不安になった。
「あのあたりに水道があるからそこで足を洗おう」
姫殿下が初等科の校舎の方を指差された。
おれはおっかなびっくり歩を進めたが、姫殿下はぺたぺたとテンポよく歩いて行かれた。
789 :
左右91:04/08/30 15:26 ID:9/ZK60kL
姫殿下が御足を洗っておられる間、おれは長手袋とハンケチを捧げ持っていた。
おれが演説台に腰掛けられた姫殿下にハンケチをお渡ししたとき、
ランドセルを背負った一群の小国民たちが姫殿下のもとに駆け寄ってきた。
「あーっ、マコ様だマコ様だ」
彼ら彼女らはあっという間に姫殿下を取り囲んだ。
するとそれを見た生徒がさらに寄って来るという悪循環。
みるみるうちに50人ほどの大集団になってしまった。
演説台の上にお立ちになった姫殿下はその中心で頭2つ分くらい突出しておられた。
「マコ様、どうして初等科にいらっしゃるの?」
1人の少女の質問に姫殿下は少し困った顔をされたが、すぐに笑顔に戻られた。
「今日は選挙運動をしに来たのですよ」
そう姫殿下が優しくお答えになると、初等科の生徒たちはざわついた。
「なんで初等科でやるんですか?」
と別の生徒がお尋ねした。
「それはね、皆さんにも関係のある大事なことだからですよ」
と姫殿下はお答えになった。
よく考えてみると姫殿下のここまでのご発言はすべてはったりなのなのだが、
そのように聞こえないのはその鷹揚さゆえであろう。
そんな公開質問会をひとり外から眺めていると、不意に背後から「ほひー」というどこか懐かしい音がした。
振り返るとそこにはカコ様が立っておられた。
「こんなところで何やってるの……?」
カコ様は少々呆れ顔でそうおっしゃった。
いつも乙
791 :
左右92:04/08/31 14:10 ID:PYV3ulJZ
カコ様は姫殿下を中心とした生徒の群れをご覧になりながら、ころりと口の中で何かを転がされた。
それからお口をとんがらかせあそばされて、「ほひー」という謎の音を発せられた。
「あの……それは一体……?」
「笛ラムネ。藤村さんにも1個あげる」
「あ、ありがとうございます」
カコ様が胸の御ポッケから取り出された小さな包みをおれは恭しく拝受した。
「吹いてみて」
「は、はい、それでは失礼して……」
おれはラムネを口の中に放り込むと早速それを唇にあてがい、息を吹いた。
ほひー
カコ様もお吹きになった。
ほひー
しばし君臣の唱和が続いた。
ほひー
ほひー
ほひー(それでどうして初等科に来たの?)
ほひー(実はかくかくしかじかでございまして……)
ほひー(なるほど……)
カコ様はしばし黙考された後、再び妙なる調べを奏でられた。
ほひー(スリッパをなくしたのはよくないわね)
ほひー(そ、そうですね。学校の備品ですからね。後で探して参ります)
ほほひー(駄目よ!)
突然発せられたカコ様の警告音に驚いたおれは恐る恐るお尋ねした。
「な、何か問題でもございましたでしょうか?」
「藤村さん、なくしたものを探しに行くのはとても危険なことなのよ。
そのものがなくなったのは藤村さんの不注意のせいではなくて誰かの悪意によるものかもしれないから」
「はあ……」
カコ様の勢いに押されておれは間抜けな声を出した。
792 :
左右93:04/08/31 14:12 ID:PYV3ulJZ
「たとえばね、こういう話があって……」
http://www.2chkowai.info/2chyama/2chyama.html 「ひ、ひぎぃッ!」
おれの穢れを知らない心が醜く変形していくのがわかった。
「今回のケースでは藤村さんに悪意のある者がいるのは明らかなわけだから、いっそう危険よ」
「うう……」おれはその場に崩れ落ちた。
「カコ様、私はどうすれば……? お守りなどお持ちではありませんか?」
「持ってない。わたしはそういうの信じてないから」
カコ様の意外なお言葉に少し心が軽くなった。
「そ、そうですよね。呪いや霊などやっぱり存在しませんよね」
「いや、わたしの信じてないのはお守りの方」
「え……?」
「神様とか人の悪意とか霊とか、そういうものに対抗できるお守りなんてないってこと」
「…………」
「呪いは絶対あるわよ。間違いなく」
「そ、そんな…………」
絶望に身をよじるおれを尻目にカコ様は笛ラムネにて軽快な音色を発せられた。
ほひー
「これッ!」
突然姫殿下のお声が響いた。
振り返ると演説台の上の姫殿下がこちらをご覧になっていた。
「カコ! 学校帰りにお菓子を食べてはいけないとi言っただろう!」
カコ様はぴゅーっと走って行かれた。
おれが呆然と立ち尽くしていると、姫殿下は演説台をお下りになり、こちらに歩いておいでになった。
「まったくあの子は……どうした? 顔色がよくない」
姫殿下がそうおっしゃるので、おれは慌てて表情を取り繕った。
「いえ、あの……新美さんの安否が気になるものですから……」
おれが適当なことを申し上げると、姫殿下も少しお顔を曇らせられた。
「そうだな。中等部に戻ってリサリンを探そう」
ほひーワラタw
ほひーイイな、ほひー
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
このスレッドは名物おたく「ヒッキー」の社会生活復帰訓練の為に
立てたものです。
ヒッキーと研究員とのやり取りに利用するスレッドなので、関係者以外は
書き込まないようお願い申し上げます。
東京若年者自立研究所
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
796 :
左右94:04/09/01 15:49 ID:G5gAl1Eq
姫殿下とおれは人目につかない物陰のフェンスを越えて中等科の敷地に戻った。
「もしかしたらリサリンは囚われの身になっているかもしれない」
姫殿下のご提案で第1体育館に行って様子をうかがうことにした。
舗装されていない裏道を通って体育館の裏手まで行くと、暗く湿った草むらの上、
雨上がりの道に落ちている軍手のようにぺしゃんこになった生徒が1人転がっていた。
「リサリン!」
それは図らずも人間デコイとなって我々を逃してくれた新美さんの変わり果てた姿だった。
「うう……マコリン……」
新美さんが涙でマスカラがデビルマン化した瞼をうっすらと開けた。
「リサリン、大丈夫?」
「私は大丈夫……マコリンは……?」
「うん、リサリンのおかげで逃げ切れたから……」
起き上がろうとする新美さんを助けながら姫殿下がおっしゃった。
おれはそれをお手伝いしながら、
「一体誰がこんなことを……」
と義憤に燃えるふりをした。
「獄門島さんが……獄門島さんが“ナガタロック17”を私に……」
「“ナガタロック17”!?」
おれは驚きのあまり大声を上げてしまった。
「知っているのか、藤村?」
「はい、ナガタロック17とは最強レスラー永田さんの必殺技でございまして、
首・肩・肘・膝・足の小指を同時に破壊する殺人サブミッションでございます」
「恐ろしげな技だな……」
姫殿下も険しい表情を浮かべられた。
ちなみにナガタロック17はそのあまりの破壊力のため真似をして相手に怪我をさせるチビッコが続出、
成分の半分が優しさでできている永田さんの申し出により、現在テレビ放送される試合にはモザイクが掛けられている。
「ごめんねマコリン、足手まといになっちゃって……」
声を震わせる新美さんに、姫殿下は帰る前の晩のドラえもんのように黙って肩を貸しておられた。
その後、学食でアイスを食った新美さんは全回復した。
797 :
左右95:04/09/01 15:51 ID:G5gAl1Eq
姫殿下をお屋敷までお送りして離れの待機室に戻ると、そこはただならぬ熱気に包まれていた。
屈強な男たちが汗みどろになりながら小さな折り紙と格闘している。
折り上がった鶴を集めて、目を凝らしながらそれに糸を通している者もいる。
「ペースを上げろ! このままじゃ今日中に終わらんぞ!」
「色のバランスが悪い! 寒色系も混ぜろ! 金を使いすぎるな!」
三井隊長の檄が飛んでいる。
千羽鶴というより「不祥事」「資金繰り」といった表現の方が似つかわしい現場だ。
戸口で立ち尽くすおれの後から交代した門番の隊員が戻ってきた。
手には小さな紙袋を提げている。
「隊長、暇を見てこれだけ折れました」
(暇……? 門番に暇が……?)
おれの当然とも言える疑問も総動員が掛かったこの戦局では無意味なものだ。
「おい藤村、お前も折れ。あと500は欲しい」
おれを見つけた三井隊長が言った。
「私、折り方がわかりませんので……」
「おれが教えてやる。こっちへ来い」
おれは断りきれずに男たちの情熱大陸に足を踏み入れた。
2時間後、3束の千羽鶴を抱えた三井隊長を先頭に隊員たちはお屋敷へと向かった。
玄関までいらっしゃった姫殿下はそれをご覧になると大変お喜びになった。
「ありがとう……みんな……」
折り鶴にお顔を埋められた姫殿下は泣いておられるように見えた。
おれは「海蛇会」からの明らかに千羽に足りない千羽鶴と日章旗をお渡しして、そそくさと罷り出た。
意気揚々と引き上げていく隊員たちの最後尾を行きながら、おれは今日あったことを思い出していた。
(バスケ部はやっぱり駄目かな……ご演説も途中で邪魔が入ったし……)
突然、カコ様のお話が思い出されてきた。
(ああ……一人になるのが怖い……)
宵の闇に包まれたお屋敷の方を振り返って、おれは最近近所にできたコスプレ喫茶を冷やかしに行こうと心に決めた。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
このスレッドは名物おたく「左右95」の不敬活動抑制の為に
立てたものです。
左右95と研究員とのやり取りに利用するスレッドなので、関係者以外は
書き込まないようお願い申し上げます。
東京精神病研究所
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
永田さんがまたキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
毎日楽しみにしております。
螺鈿細工のごとく散りばめられた小ネタがたまりません。
俺はヲタじゃないから小ネタの殆どが理解不能でつまらん