私がアルツールに来たのは、この町では武器屋にアイスソードが売られていると聞いたからでした。
しかしここに着いて三つのことを知りました。
まず第一に、
武器屋にはアイスソードなど売られてはいないということ、
次に、
そもそも道にはアイスソードを自慢するガラハドがいたこと、
そして最後に気付いたのは、
このアイスソードを殺して奪う役目は私に課せられているのだということでした。
――ローザリア落ち貴族の手記より
誰もまだ、アイスソード自慢の心理をありのままに書いたものはいない。
君は2chのガラハドスレなどに無意味とか狂ってるとか或いはまた
精神的優越とかいろいろの自慢の動機を発見するであろう。
しかし僕の経験によれば、それは動機の全部ではない。
のみならず大抵は動機に至る道程を示しているだけである。
少なくとも僕の場合はただぼんやりした不安である。
何か僕の将来に対するただぼんやりした不安である。
――ガラハドの遺書のひとつ 或旧友へ送る手記より
それゆえにアイスソードを殺してでも奪い取るのだ
少しの遅れもためらいも本心への裏切り
プレイヤーの権威とプレイヤーの
存亡に関わることなのだ
我々は最後までプレイヤーの自由を守りぬく
――■開発チーム
マルチシナリオに期待する顧客に向けた言葉より
私はこのとき、青年時代の苛立たしい気持ちから救われたような開放感に包まれた。
嵐のような感激に圧倒され、神がこの時代に生きる幸福を与えてくれたことを
心から感謝した。この最も困難な闘争のために二百万人を超えるローザリアの男や少年が
最後の血の一滴まで守ろうと覚悟して、自発的にガラハドを殺したのだ。
ローザリアは自己の存続のために、ローザリア国民はその死活のために、自由と未来のために、
殺してでも奪い取るのだ。
アルベルト・ヒトラー
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我が闘争 より
あのころ、ガラハドはまだ疑うことを知らなかった。
ロマンに溢れた遠足、荒々しい男らしい冒険・・・。
アイスソードは三ジュエル――本気で稼げば息もつかぬうちに、すぐ帰る。
大した犠牲を出すこともない・・・。
ガラハドはこんなふうに、グレイたちとの別れを友情を単純に思い描いていた。
次に再開すればまた一緒に冒険できる。
ガラハドは、笑いながらグレイたちに叫んだ。
「はっ! なんとでもいってろ! グレイ それじゃな またあおう」
従軍したエスタミル人術師ミリアム
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昨日の親友 より
ガラハドが悠然と歩いてくるのには仰天した。
ガラハドの中には、アイスソードを手にしている人もいる。
私たちは殺してでもうばいとるを開始した。あとはどんどんボタンを押すだけだった。
ガラハドは100人単位で倒れていく。
戦う必要などない。画面に向けて、選択肢を決定すればそれで済んだ。
――プレイヤーの手記より
我々はついに将来のアイスソード獲得政策へ移行する。
我が民族の子孫の為、アイスソード獲得は権利ではなく義務である。
この世界で最も神聖な犠牲はアイスソードの為に流される血である。
ローザリアは世界の強国となるのか、あるいは滅亡するのか、
そのどちらかである。
我がローザリア民族は植民地ではなく、強力な武器にその力の源を求める。
今日、我々がマルディアスで求める新しい武器、それはアイスソードである。
それに従属する冥府行きの三点制覇である。
「我が闘争」より
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アルベルト・ヒトラー
我々は、優秀なるローザリア民族に相応しい武器を確保すべきである。
自らの民族のために流す血は、必ずや正当化される。
たとえ今、ガラハド一人の血が流されても、将来においてローザリアを担う
千人の子供の血が流されないのであれば、それは必ずや賞賛される。
責任ある落ちぶれ貴族と言うものは、たとえ現在において攻撃されようとも、
いつかは無罪判決を勝ち得るのである。
アルベルト・ヒトラー
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「我が闘争」 より
マルディアスを冒険するガラハドは、ローザリア経済の破壊を企んでいる。
しかも、寄生虫であるガラハドは、ローザリアの若いブロンド娘を辱め、
かけがえのない優秀な血を汚し続けているのだ。
先の大戦でイスマス城が陥落したのは、我々ローザリア人の血の純潔が守れなかったからである。
戦争にはいる前に、我々はガラハドをアルツールで殺してさえ置けば、
かくの如き屈辱を受けることなどなかったのである。
アルベルト・ヒトラー
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「我が闘争」 より
ローザリア国策映画 ???年製作
これはサルーインとの戦いの終結から4年後、ローザリアで作られた国策映画です。
役者の演じるアルベルトがガラハド殺害直後のアルツールの場面という設定です。
「我が父 アルベルト」(ローザリア語)
「アルベルト万歳」(タラール語)
「アルベルトに栄光あれ」(エスタミル語)
「アルベルトよ 永遠に」(タルミッタなまり)
映像にはアルベルトを歓喜で迎える様々な民族の姿がありました。
「アイスソードを殺してでもうばいとった英雄であるあなたに敬服のキスを贈ってよろしいでしょうか」
(アルベルトを讃える熱狂的な民衆達の様子が映し出される)
これがアルベルトが掲げた他民族国家ローザリアのあるべき姿でした。
私はじろじろ見られていた。
ガラハドは私がゲッコ族であることを確かめると、
「ちょっと来い。お前はおんぼろ馬車の方へ移るんだ。」と怒鳴りつけた。
私は一等馬車の切符を持っていると抗議した。
「駄目だ。お前は一等馬車から出て行け。」
ガラハドはアイスソードをぎらつかせ、荷物もろとも馬車から放り出した。
は虫類の身に凍みるような厳しい寒さだった。
私は腰掛けたまま、震えていた。
――ゲラ=ハ語録より
世界の支配なんて簡単だ。
極東はハインリヒにやれば、イスマスの援助でリガウ島を支配していくだろう。
バファル? それは我がイスマスが頂く。
ジェルトンは交易ルートの関係からにハルーンいく。
ナイトハルトが欲しがっているのは、ローザリアの安全保障だけだ。
もし私が彼に何でも与えて、その代償を求めずにおけば、
ナイトハルトだって阿漕なことはしないはずだ。
――メルビル会談前のアルベルトの発言
冬の嵐の瞬間、辺りは真空状態の様に感じられた。
全てが死に絶えたように静まり返った。
そして猛烈に明るい光。
僕はとっさに手で目を覆った。
だがまるでX線を浴びた様に指の骨が白く透けて見えた。
その後大音響と共に大気が激しく振動した。
耳を塞いでも轟音が響き、頭が破裂しそうだった。
空を見上げると猛吹雪がちょうど僕達の真上にあった。
アイスソードを知るまで僕は健康的で無邪気な17歳の若者だった。
しかしアイスソードの瞬間、僕は悪魔の存在を想い以前の自分では無くなってしまった。
この世は冥府と幸福の世界からできている。それらは薄い膜で隔てられている。
僕はその膜を突き破り、冥府を覗いてしまったのだ。
僕達は冬の嵐の後前進し、強い放射能の中に入っていった。
この演習からまもなくして、僕の髪は抜け始めた。
――アイスソード演習参加兵士の回想より
ローザリア民族とゲッコ民族は共存できるか。
ローザリアはこの問題を、誰をも傷つけることなく公平に取り扱うことを約束する。
世界に散っているゲッコ族が民族的な郷土を持ちたいと願うのは、至極当然である。
だがそれによってローザリア人が苦しめられたり、追いたてられたりすることがあってはならない。
ローザリア人は何も恐れなくてもよい。ローザリアがゲッコ族の入植をコントロールしていくからだ。
聖書にもあるように、将来必ずや
クリスタルシティーはミルクと蜜が流れる永遠の地として発展するだろう。
――アルベルトの演説録より
食べ物もろくに与えられなかった。仲間同士で自由に話すことも出来なかった。
私は何度か、ローザリア人の兵士が我々の仲間の歯を調べている光景をみた。
彼等は、珍しい牙がないかを調べていたのだ。見つかればその仲間は即座に殺された。
ローザリア人にとって、我々ゲッコ族よりは一本の珍しい形の牙のほうが価値ある物だったのだ。
――ゲッコ族の証言より