「キャップが、曲がっていてよ」
「えっ?」
目を開けると、そこには依然として精悍なお顔があった。何と彼は、剛志の帽子を直していたのだ。
「身だしなみは、いつもきちんとね。お客様が見ていらっしゃるわよ」
そう言って、その人は剛志からバットを取り戻すと、
「ごきげんよう」を残して先にブルペンに向かって歩いていった。
(あれは……あのお姿は……)
後に残された剛志は、状況がわかってくるに従って徐々に頭に血が上っていった。
間違いない。
北海道日本ハムファイターズ、小笠原道大さま。ちなみに背番号は二番。
通称『パの首位打者(ソノ・ネンボウハ・ヨン・オクエン)』。
ああ、お名前を口にすることさえももったいない。
私のような者の口で、その名を語ってしまってもいいのでしょうか、
──そんな気持ちになってしまう、全球界のあこがれの的。
って、新庄選手の方が“姉”になっちゃうんだけどね。