「やあやあ!」
「来てくれて実に嬉しいよ様刻くん!」
さわやかな昼の挨拶が、澄みきった保健室にこだまする。
保健室の真ん中のベッドを占領する病院坂黒猫が、今日も天使のような無垢な
笑顔で、たいして背の高いわけでもない櫃内様刻を呼び出していく。
学園のあらゆる情報を知る心身を包むのは、色気もへったくれもないジャージ。様刻の手を
借りないように、踊り場でへたり込まないように、自らに発破をかけて階段を登るのが彼女のたしなみ。
もちろん、体力を気遣われながらゆっくりと亀のようなのろいスピードで階段を登りきるといった、はしたない姿など晒していようはずもない。
病院坂黒猫。
三年七組出席番号二十四番のこの保健室登校の生徒は、もとは登校拒否であったという、
伝統あるわけでもない人間恐怖系社会不適合者である。
保健室。五床の内、常に彼女が占領する真ん中のベッドの上で、留守の多い校医の国府田先生に見守られることもなく、
体調不良者から怪我人まで治療してしまう。
時代が移り変わり、殺人事件で一週間休校になった今日でさえ、
事件の話を詳しく聞き続ければ保健室育ちの純粋培養素人探偵が分からない分からない分からない分からない分からない分からない、
という仕組みが未だに残っている女生徒である。