「それじゃ私も入ろっかな」
「ぶはっ」
さわやかな行人の鼻血が、澄みきった湯船にこだまする。
オババ様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な
笑顔で、それぞれの仕事に出かけていく。
汚れを知らない心身を包むのは、露出度の高い服。胸のふくらみは
隠さないように、白いパンツはフリルつきであるように、無邪気に迫るのがここでのたしなみ。
もちろん、最新流行衣装と思ってコスプレするなどといった、はしたない勘違いなど存在していようはずもない。
藍蘭島。
百三十年前に流れ着いたこの島の住人は、もとは最新の衣・食・住の技術と医学を学びに渡欧したという、
伝統ある明治使節団の子孫である。
隔絶された世界。無人島の面影を未だに残している変な動植物の多いこの島で、大波に飲まれ、
子供から大人までの一人の男もいなくなった乙女の園。
常識が移り変わり、日本にいたころは女性に縁のなかった行人でさえ、
十二年前から男の存在を知らない純粋培養お嬢さまが先を争って群がってくる、
という仕組みが未だに残っている貴重なハーレムである。
※ながされて藍蘭島(藤代健・少年ガンガン連載)