111 :
原文:
「タイが、曲がっていてよ」
「えっ?」
目を開けると、そこには依然として美しいお顔があった。何と彼女は、祐巳のタイを直していたのだ。
「身だしなみは、いつもきちんとね。マリア様が見ていらっしゃるわよ」
そう言って、その人は祐巳から鞄を取り戻すと、「ごきげんよう」を残して先に校舎に向かって歩いていった。
(あれは……あのお姿は……)
後に残された祐巳は、状況がわかってくるに従って徐々に頭に血が上っていった。
間違いない。
二年松組、小笠原祥子さま。ちなみに出席番号は七番。
通称『紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)』。
ああ、お名前を口にすることさえももったいない。私のような者の口で、その名を語ってしまってもいいのでしょうか、
──そんな気持ちになってしまう、全校生徒のあこがれの的。