「帰ってくるよ」
「うん、まってる」
せつない別れの挨拶が、澄みきった夕空にこだまする。
どこか地方都市の高校に集う少年少女たちが、今日も天使のような無垢な
笑顔で、徒歩や自転車やバスや電車で通学してくる。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。定食のから揚げは
奪われないように、噴水広場の神風は見逃さないように、幼馴染とはならんで歩くのがここでのたしなみ。
もちろん、遅刻ギリギリで自転車でぶつかってくるなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
私立青葉台高校。
昭和中期創立のこの学校は、もとは新興住宅地のベビーブーマーのためにつくられたという、
伝統も面白みも無い普通の学校である。
自然の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、ゆげ(猫)に見守られ、
妹の同級生からのほほん先輩までいろいろな生徒が集う青春の園。
時代が移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、
2年ちょっと通うと団地育ちの純粋培養主人公が箱入りで転校して行く、
という仕組みが未だに残っている貴重な学園である。