「予備のバッテリーも忘れるな!!」
「ダラダラしてるヤツは海に叩き込むぞ!!」
情け容赦ない怒鳴り声が、出動前の慌しいハンガーにこだまする。
榊整備班長のお庭に集う整備班員たちが、今日も必死の
形相で、だだっ広いハンガーを駈けずり回っている。
シャバでの生活を忘れた心身を包むのは、機械油の汚れがあちこち目立つツナギ。温室のトマトは
潰さないように、ハゼの干物は腐らせないように、食料自給体制を確保するのがここでのたしなみ。
もちろん、ご禁制品のエロ本を回し読みするなどといった、はしたない整備員など存在していようはずもない。
警視庁警備部特車二課。
1998年設立のこの部署は、もとは倒産した町工場を安く買い取ったという、
伝統ある警視庁の一部門である。
東京都内。首都東京の面影は全く残していないセイダカアワダチソウの多いこの埋め立て地で、榊班長に見守られ、
昨日入りたての新米からシバシゲオまで鉄拳制裁がうけられる野郎共の園。
時が移り変わり、課長が祖父江から二回も交代した南雲課長代理の今日でさえ、
一年通い続ければ温室育ちの純粋培養整備員が箱入りで出荷される、
という仕組みが未だに残っている貴重な部署である。