「くたばれカイザー!」
「くたばれカイザー!」
さわやかな朝の挨拶が、イゼルローン要塞にこだまする。
ヤン・ウェンリー提督のお庭に集う将兵たちが、今日も皮肉たっぷりの舌戦を
交えながら、流体金属の要塞外壁をくぐり抜けていく。
権力志向を知らない心身を包むのは、モスグリーンの同盟軍制服。
退却の艦列は乱さないように、トゥール・ハンマーの閃光はなるべく翻らせないように、
奇策を弄するのがここでのたしなみ。
もちろん、補給もなしに戦争に勝てるなどと思っている、
はしたない将官など存在していようはずもない。
イゼルローン駐留艦隊。
宇宙暦七九六年創立のこの艦隊は、もとは第十・第十三艦隊を合してつくられたという、
ともすればヤン・ウェンリーの私兵と揶揄される艦隊である。
イゼルローン回廊。戦略上の要衝としての価値を未だに残している危険宙域の多いこの回廊で、
国祖アーレ・ハイネセンに見守られ、
救国軍事会議のクーデターからバーミリオン星域会戦までの一連の軍事行動に参加できるヤン艦隊。
時代が移り変わり、元号が西暦から改まった宇宙暦の今日でさえ、
ヤン提督を十八年慕い続ければ温室育ちの純粋培養ユリアン・ミンツが箱入りで出荷される、
という仕組みが未だに残っている貴重な艦隊である。