卯粗朶鈍怒鼓丼(うそだどんどこどん)
嘗て流裸魏旦によって宋代にその隆盛を極めた温堂流武術、この武術を陰で支えたもう一つの要素が
温堂流道場で門下生に振舞われた鍛錬食、「武黎丼(ぶれいどん)」であった。
当時の食料番・課羅須馬(からすま)によって考案されたこの鍛錬食は、今で言う六大栄養素を過不足なく兼ね備え、
またそれに加えて非常に美味であり、日々の鍛錬に疲れ果てた門人たちを胃袋から癒したという。
しかし時代が下るにつれて武黎丼もいつしか製法を知るものもいなくなり、宋代より時代も下った明代には
温堂流武術自体も衰退の危機に直面していた。
そんな一門の現状を憂えた当時の総師範・卯粗朶(う・そだ)老師はある日、夢の中で課羅須馬に出会い、
夢の言葉を手がかりに武黎丼の作り方の書かれた書物を発見、数十年の研鑽の後に、嘗ての武黎丼に新たな栄養配分、
薬草学などの明代の技術を加え改良し、新たな鍛錬食を開発した。彼はこれを、温堂流の真理のひとつ
「鈍怒鼓心」(怒を鈍し、心を鼓するべし)から取った「鈍怒鼓心丼(どんどこしんどん)」として発表した。
しかし、武術の研鑽を忘れたかのように数十年も料理の研究に励む卯粗朶老師を人々は嘲笑し、
「卯粗朶鈍怒鼓心丼」語呂よく略し、「卯粗朶鈍怒鼓丼」と言って本末転倒な物、嘘八百や愚かな事に血道をあげる人物に対する罵倒の言葉とした。
しかし、後に発表した鈍怒鼓心丼の味と、計算されつくした栄養バランスに驚愕した人々は逆に
侮りがたいもの、ありえないもの、信じられないものに対する驚愕の言葉として「卯粗朶鈍怒鼓丼」と叫ぶようになったという。
2004年現在、日本で絶賛放映中の特撮「仮面ライダー剣」が、仮面ライダーという膜を通して、
分かりやすく温堂流武術の真髄を伝えていることは衆知の通りであるが、主人公・剣崎の叫ぶ
「ウソダドンドコドーン!」という言葉にも温堂流1000年の歴史が秘められていることは驚きである。
また、仮面ライダー剣の「ブレイド」は多くの温堂流戦士を奮い立たせてきた鍛錬食・武黎丼より、
さらにそのブレイドへの変身ベルトを作った烏丸所長が温堂流武黎丼を考案した課羅須馬から取られていることも
賢明なる読者諸氏にとっては明白であろう。
民明書房刊 「温堂流を支えた殊勲者たち」より抜粋