西武株が上場廃止になった翌日、私は妻とともにプリンスホテルに出かけた。
優勝セールだというのに店内は閑散としている。
店員の表情は絶望と不安に満ち、通路にこぼれた水滴が蛍光灯の光を反射していた。
「株主の声に一喜一憂する時代は終わったのだな」
昨日までコクドに勤めていた斎藤さんが、ほっとしたように私たち夫婦に言った。
「ええ、これからは自分たちの利益だけを追求できるんですよ」
普段は滅多に話に加わらない妻の靖子が、斎藤さんの肩に手を置いて優しく言った。
「ライオンズを御覧なさい。パリーグで2位なのに日本一なんてインチキ球団じゃないですか」
通りがかりの髪の長いホークスファンが吐き捨てるように言った。
堤会長はライオンズを質に入れ、騙した会社から西武株を買い戻した。
「他の株主などもう不要だ。グループは私のものだ、私のものだ、グゥーワッハッハッハ…」
狂った独裁者の表情で男は言った。
青空のなかをを松坂夫妻が横切っていった。