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俺も作ってみた。
ブラスターを喰らった連休明け、私は妻とともに散歩に出かけた。
もう残暑の季節だというのに空は寒々としている。
人々の表情は疲労と後悔に満ち、額から流れる労働者の汗がディスプレイを反射していた。
「不審なメールをチェックしてさえいればいい時代は終わったのだな」
昨日までとある一流企業に勤めていた元シスアドの斎藤さんが、打ちひしがれたように私たち夫婦に泣きついた。
「ええ、これからはウイルスが勝手に入ってくる時代なんですよ」
普段は滅多に話に加わらない妻の靖子が、斎藤さんの肩に手を置いて冷たく言った。
「感染したPCをネットにつないで御覧なさい。ウチのサイトが地球規模で攻撃されるじゃないですか」
通りがかりの眼鏡を掛けた大富豪の中年男がそう言って歯ぎしりした。
小心者は一昨日買ってきたXP機を質に入れ、4年前の中古PCを購入した。
「最新型はもう不安だ。これからは日本中に9xの素晴らしさを伝道しよう」
進化を拒絶したカブトガニの表情で男は言った。
警告ダイアログのなかで再起動のカウントダウンだけが動いていた。