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385 名前:三杉淳自伝 『貴公子』 投稿日:02/02/09 04:19
○月×日
高校のサッカー大会が終わった。
岬君や日向はそれぞれに活躍したらしい。
自分の心臓が憎い。最近ではくじけそうだ。
気のせいか、以前より呼吸が苦しい。もう死ぬかもしれない。
胸に手を当ててみた。僕の心臓はまだ動いてる。よかった。
386 名前:三杉淳自伝 『貴公子』 投稿日:02/02/09 04:20
○月△日
岬君たちがワールドユースに向けて合宿に入った。
参加選手に僕の名前は無い。当然だけど欝だ。
心臓病の診察に行く。
彼女は「もしよくなってたらワールドユースに参加できるわね」
とポジティブだったが僕にも自分の体のことぐらいわかる。
最近は特に苦しい。サッカーどころじゃないはずだ。
ところが医者は突然「もう治ってるね」とほざいた。
途端に彼女がはしゃぎだし、僕も『実は苦しいんです』とは言い出せなかった。
しかし手術をしたわけでもないのに心臓病が治ってるはずは無い。
病院を出た後、忘れ物に気付いて戻ると父と母が医者に頭を下げていた。
盗み聞きしていると
「これ以上治療費が出せません」「では治療はここまでで」という会話がされていた。
僕の心臓、もうすぐ止まると思う。
387 名前:三杉淳自伝 『貴公子』 投稿日:02/02/09 04:20
○月♪日
ワールドユースの合宿に合流することになった。
心臓病が治ってない僕にサッカーは無理なのだが彼女はノリノリだ。
ここで『合流しない』と行ったら烈火のごとく怒りそうだ。
幸い、無条件で合流ではなく練習試合の成績で決めるらしい。
僕は朝方の練習試合に出た。顔見知りの皆もこんな朝早くから見に来るはずは無いし
仮に見にきたとしても朝もやの中で顔を識別できないはずだ。
そして一番目立たないDFをやることにした。
さらに他の奴等に命令するだけで自分は動かない。
これなら心臓も大丈夫。さらに合宿にも選ばれずにゆっくり余命を過ごせるはずだ。
ところが外野のデブが「あの統率力、言うことなしタイ」等とほざきだした
これがきっかけになって僕が三杉淳であることがばれてしまい、
ワールドユースメンバーに選ばれてしまった。
心臓が完治していないことを打ち明けようと思ったのだが
「心臓は完治したんだな!」と勝手に決め付けられてしまい、また言い出せなかった。
明日から合宿できつい練習が待っている。
僕の心臓、あと何回動くかな。
388 名前:三杉淳自伝 『貴公子』 投稿日:02/02/09 04:20
×月○日
ガモウとかいうおっさんとリアルジャパン7という奇妙な団体がやってきた。
彼等と試合をして負けたらメンバーから下ろされるらしい。
またとない好機。幸い、日向達もあっさり負けてくれたことだし、
僕も手を抜いて負けることにした。
しかしメンバーから下ろされたのは日向たちだった。
やはり僕は中学の頃から高く評価されすぎてメンバーから外すこともしてもらえないんだろうか?
そうおもっていたら「残る奴等は出て行く奴ら以上の役立たずだ」といわれた。
サルやデブ、カミソリ男にスルーしか出来ないFW。奴等を僕より高く評価する根拠を問い詰めたい。
ガモウが監督になり、合宿内容はスパルタに変わった。
途中、タケシが僕の体を心配していた。半分嬉しいが、脇役に心配される自分が悲しい。
つい意地を張って『リハビリにはちょうどいいさ』と答えてしまう。
その後、また地獄のような練習があったのでやっぱり『もう駄目』と答えればよかったと思う。
僕の心臓、止まりそう。
389 名前:三杉淳自伝 『貴公子』 投稿日:02/02/09 04:21
△月×日
地獄のしごきが終わり、僕の心臓はまだ動いていた。本当によかった。
その後、色々あって試合になった。
僕はせめて後半から交代で出場したいと主張したのだが、
『心臓病治ったんだからいいだろ』と一蹴された。治ってないのに。
しかたなく、またDFでゆっくりすることにした。
不慣れなポジションだが、他のDFたちを見ていると
『何ィッ!?』とか叫んでるだけでよさそうだ。楽な仕事だ。
しかし試合は劣勢。どうせここで負ければ
もうサッカーで心臓に負担をかけずにすむので、わりと安心していたのだが
若林が登場し、「ゴール前に張り付いてるだけがリベロの仕事じゃないぜ」と嫌味を言い出した。
人の気も知らずに、なんて奴だ。動き回ったら死ぬんだよ、心臓破裂して。
嫌味攻撃に耐えかねて僕はゴール前から逃げ出した。
センターサークルを越える。ここなら若林の声も届かない。
すると突然ボールが前線から戻ってきた。思わずドライブシュートを打つとゴールしてしまった。
横からへんなサルが『さすが日本の生んだサッカーの両天才』とか言い出した。
偶然だけど、目立つのは嫌いじゃない。ちょっといい気分になっていると
「実は葵の声が聞こえて三杉君にパスをしたんだ」
「なんだ、じゃあ本当の殊勲者は葵か」
とまた無神経な発言をされた。僕は脇役か。
しかも「三杉も完全復活だな」と言われ、余計に心臓病の事を言い出せなくなった。
僕の心臓、まだ動いてる?
390 名前:三杉淳自伝 『貴公子』 投稿日:02/02/09 04:22
△月○日
翼君が新しいシュートを開発したらしい。
好奇心から聞いてみると『スカイダイブシュート』という名前らしい。
日向の雷獣シュートより少し良い名前だね、と誉めたふりをしていた。
彼はそれがよほど嬉しかったらしく、聞いても無いのにシュートを解説し始めた。
なんでも自分ひとりがボールを持ってゴールまで突き進むシュートらしい。
雷獣シュートよりも現実離れしたシュートだね、というかシュートですらないだろう。
僕がそう言うとまた喜んでいた。彼にとって誉め言葉らしい。
「でも、敵のDFだってとめにくるし、いくらなんでも無理じゃないかな?」と、当然の疑問を投げかけると
「何を言ってるんだよ三杉君。そんな奴等は全て蹴り倒せばいいんだよ」
と、さわやかスマイルで平然と言ってのけた。
彼はそのために無数のハードルを蹴り倒して進む練習までしたという。
さすがに冗談だろうと思ってその時は聞き流した。
ところが試合中、彼が本当にそれをやろうとしていることに僕は気付いた。
例によって敵のDFは一箇所に固まっている。
まさか、と僕は翼君の表情をのぞいた。妙に嬉しそうだ。彼は殺る気だ!
さすがにそんなことは許せない。僕は正義感に燃えた。
空中に翼君にスパイクを向けてスライディング。彼を殺してでもこの愚行を止めなければ!
ところが彼は僕のスパイクを踏み台にしてさらに飛んでいった。
こんな屈辱を味わったのはドム以外では僕だけだろう。
それだけでも鬱なのにアナウンサーは『さすが、天才は天才を知る!』とほざいた。
僕はあの翼君と同類扱いを受けているのか?
僕の心臓、鬱で死にそう。