226 :
水先案名無い人:
彼は一口コーヒーを飲んだ後すぐに僕らのほうに向き返って言った。
「いっていいか?」
彼の少し潰れたような声が教室に響く−彼は返事を待たずに続けた
「念を押す。念を押す。終助して、「ヨ」とか「ネ」、ね
念を押す、終助、「ヨ」とか「ネ」で訳すわけなんだ、いいな、行こう!」
彼は同じことを繰り返す癖がある。いや、悪い癖じゃない。この事は彼の人気に密接に関係しているのかもしれない。
ボクがボヤボヤした思いを頭の中に巡らせている間にも彼のハイテンポな授業は続く
「ね、ああ、このお屋敷の「きだち」は
ちょっとごめんな 、本当はこれ、こだちって読むんだよ。本当はこだちって読むんだけど
わざと、ね、奈良のソウチュウさんは、今から京都のお坊さんをギャフンとな、言わせる為に
わざと、ああこのお屋敷の、こだちを、「きだち」と言ったんだよ。
きだちは、こやそう、他の場所…バ…他の場所には似ていないねぇと。
他の場所には、似ていないねぇと。
ね、他の場所には、似ていないねぇと。
ね、他の場所には、似ていないねぇと。
ちょっといいか、他の場所には、似ていないねぇってのは、似ていないぐらいプラスなんだよ。
だーら他の場所には似ていないねぇ。似ていないねぇをこう意訳しよう。
く ら べ も のにならないねぇと。
比べ物にならないねぇと。他の場所、
他の場所とは、比べ物にならないねぇと。
他の、 場所とは、比べ物にならないねぇと。
ね、他の場所とは、比べ物にならないねぇ、と言いけるの、「ける」に丸して過去、でぇ」
ボクの記憶にはここまでしか残っていない。そしてボクが目覚める時、
それはすなわち彼がボクの頬を思い切り殴る時に等しいのだった