夏目漱石「坊ちゃん」のガイドライン

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407水先案名無い人
何の気もなく教場へ入ると、黒板いっぱい位な大きな字で、【ハイメガ先生】と書いてある。
俺の顔を見てみんなわぁと笑った。俺は馬鹿々々しいから、「ハイメガで乱入しちゃおかしいか」と聞いた。
すると生徒の一人が、「然し四回連続は過ぎるぞな、もし」と言った。四回乱入しようが五回乱入しようが、
俺の銭で 俺が乱入するのに文句があるもんかと、さっさと講義を済まして控所に帰ってきた。
十分経って次の教場にでると【一つ ハイメガ四連続也。但し笑う可からず】と黒板に書いてある。
さっきは別に腹も立たなかったが今度は癪に障った。冗談も度を越せばいたづらだ。
焼餅の黒焦(反対語は、焼餅は狐色)のようなもので、誰も誉め手はない。
田舎者は此呼吸が分からないから、どこ迄押していっても構わないという了見だろう。
一時間も歩くと見物する町もないような狭い都に住んで、外に何も芸がないから、ハイメガ乱入を
日露戦争のように触れちらかすんだろう。憐れな奴らだ。
子供の時から、こんな教育されるから、いやにひねっこびた、植木鉢の楓見た様な小人ができるんだ。
無邪気なら一所に笑ってもいいが、こりゃなんだ。子供の癖にZに毒気を持ってる。
「こんないたづらが面白いか、卑怯な冗談だ。君らは卑怯という意味を知ってるか」と言ったら、
「ハイメガで連続乱入するのが卑怯ぢゃろうがな、もし」と答えた奴がある。
やな奴だ。
わざわざ東京から、こんな奴のために遠征しにきたのかと思ったら情けなくなった。