「諸君 私は〜が好きだ」をはって <2>

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43水先案名無い人
 諸君、私は検定が好きだ。
 諸君、私は検定が好きだ。
 諸君、私は検定が大好きだ。

 交差点が好きだ 直線が好きだ 緩いカーブが好きだ 信号が好きだ
 連続進路転換が好きだ 坂道発進が好きだ S字コースが好きだ 踏切が好きだ 一本橋が好きだ。
 場内で、路上で、砂利道で、悪路で、高速道路で
 この教習所で行われるありとあらゆる検定試験が大好きだ。

 列を並べた路上検定のマニュアル車が、ノッキングと共に路上に出発していくのが好きだ。
 クランクに突入した二輪車がコントロールをミスして暴走し、パイロンがバラバラになった時など、心がおどる。
 教習生を乗せたCB750のタンデムで8の字を走破するのが好きだ。
 タイヤが路側帯に乗り上げて交差点に飛び出してきた普通車を、二輪車で追い抜いていった時など、
胸がすくような気持ちだった。

 法定速度で走る教習車が一般道の交通を蹂躙するのが好きだ。
 恐慌状態の新人が、既に補助ブレーキで止まっている車のブレーキを力一杯踏みつけている様など、
感動すら覚える。
 減点オーバーの受験者たちに、再検定を宣言していく様などはもうたまらない。
 泣き叫ぶ不合格者が、わたしの渡した教習原簿とともにばたばたと泣き崩れていくのも最高だ。
 あわれな抵抗者たちが、様々なセリフでけなげにも検定合格を懇願してくるのを、「なんと言ってもダメ」と
木っ端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える。

 タクシーの運転手に無茶苦茶煽られるのが好きだ。
 必死に守るはずだった交通法規が蹂躙され、追い越し禁止の道路でひたすら追い越されていくのは、
とてもとても悲しいものだ。
 車道の自転車に接近されて、反対車線はみ出し(大)を取られのが好きだ。
 トラックに追い回され、害虫のようにクラクションを鳴らされるのは、屈辱の極みだ。

 諸君、私は検定を、地獄のような検定を望んでいる。
 諸君、私に付き従う教習生諸君、君たちは一体何を望んでいる?
 さらなるみきわめを望むか?
 情け容赦のない、糞のような検定中止を望むか?
 鉄風雷火の運転の限りを尽くし、三千回もの再検定を食らう、嵐のような運転を望むか?

 検定!! 検定!! 検定!!

 よろしい、ならば検定だ。
 我々は満身の力をこめて、今まさに走り出そうとする初心者ライダーだ。
 だが、この狭い教習所のなかで、17時間もの間耐えつづけてきた我々に、ただの検定ではもはや足りない!!

 卒業検定を!! 一心不乱の所内検定を!!

 我らはわずかに一教習所、10人に満たぬ中途半端な時期の教習生に過ぎない。
 だが諸君らは、一騎当千のベテラン教習生だとわたしは信仰している。
 ならば我らは諸君と私で、教習生1万人と1人の検定担当教官となる。

 我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中をたたき起こそう。
 煽る車の目の前でブレーキを踏み、急ブレーキを踏ませ、クラクションとともに思い出させよう。
 連中に恐怖の味を思い出させてやる。
 連中に我々の、教習生であった時代を思い出させてやる。

 公道と教習所のはざまには、奴らの運転常識では思いも寄らぬ事がある事を思い出させてやる。
 一千人の教習生の検定車で、一般道を燃やし尽くしてやる。

 第二次「マッハライダー」作戦。
 状況を開始せよ。

 征くぞ、諸君。