気ままに連載小説「なにか?じゃねーよ、バーーーカ!」第13話
話の内容は、要するに春美が急な用事で温泉に行けなくなったと
いうことだった。それだけなら別によくある話だが、その理由が
あまりにもフザけていた。
なんでも、祖母の友人が霊か何かに取り憑かれたみたいになって
頭がおかしくなっているので、祖母と一緒にお見舞いに行くという
ことだった。
しかも、それは明らかに嘘をついている口調だった。正直言って呆
れた。せめてもう少しマシな言い訳はなかったのだろうか?
その上、何故か「旅館のキャンセル料」としてお金を要求された。
僕は「なんとか別の日にずらしてでも行けないの?」と聞いてみ
たが、この先ずっと土日は仕事が入っていて、次に休みを取れる
のはいつになるかわからない、と言われた。具体的に行事名まで
出して説明してくれたから、これは本当なのだろう。
春美が行かないのなら私もやめる、とゆり子は言った。
恐らくこの二人は最初から僕と旅行に行く気など無かったのだ。
小遣い稼ぎのためにまんまと利用されたわけだ。
それでも僕は、春美を責める気にはなれなかった。
(つづく)
気ままに連載小説「なにか?じゃねーよ、バーーーカ!」第14話
この件をきっかけに、僕は春美に不信感を抱くようになっていった。
ただ、春美は秘書をやっているだけあって、職場ではすこぶる評判が
いい。誰かに相談したところで、「あの子がそんな詐欺みたいなこと
するわけないだろう」と言って笑われるのがオチだろうと思った。
エンジンの慣らしが終わり、僕は次第に車にのめり込んでいった。
低回転の時こそ、わずかに車体の重さを感じるものの、高回転まで
回した時の感覚はそれまで味わったことのないものだったし、コー
ナリングの限界も、自分の腕では引き出せないのではと思うくらい
高かった。
・・・まあ、前の車がカリーナだったからと言ってしまえばそれまで
なのだが。
ただ、この車に乗っている時だけはすべてを忘れられる、そんな気が
したのは確かだった。
連載小説「なにか?じゃねーよ、バーーーカ!」第15話
それから3か月が過ぎた。
あれ以来、僕と春美が職場の外で会うことはなくなっていた。
職場で会った時は普通に話もするし、別に気まずくなった訳では
なかったが、何となく誘いにくかった。
ほかに女友達のいなかった僕は、そろそろ退屈し始めていた。
そんなある日の晩のことだった。
午前零時を回ったころ、突然電話が鳴った。
「もしもし○○くん、まだ起きてた?」
連載小説「なにか?じゃねーよ、バーーーカ!」第16話
電話は春美からだった。
前にも書いた通り、僕は春美の声が大好きだった。
嬉しくなって、平日の夜中だというのに話に夢中になった。
久しぶりに食事に行く約束もした。
その時ふと、ある考えが頭の中をよぎった。
(今なら、言えるかもしれない・・・)
しばらく話した後、春美が電話を切ろうとした。
「ちょっと待って。」
「え、まだなにか?」
僕は意を決して告白した。
「前から春美ちゃんのことが好きだった。だから、付き合って
欲しいんだ。」
「え〜っ、なんで?どうして?」
最初に返ってきた言葉がこれだった。
甘い期待は一瞬にして打ち砕かれた。