3年前の1月。
12月の初めに契約してから待つこと7週間。
ようやく待望の新車が納車された。
初めて運転席に座ってエンジンをかけ、走り出した時、免許取り立ての頃
のように緊張した。
雑誌の誌面で噂されたほど操縦性はシャープではなく、毎朝アイスバーン
の上を走って通勤する身としては、それが逆に有りがたかった。
それから5日後のことだった。
「○○くん。」
秘書課に書類を渡して帰ろうとした時、春美(仮名)が僕を呼び止めた。
「・・・なにか?」
(つづく)
勝手に連載小説「なにか?じゃねーよ、バーーーカ!!」 第2話
「なにか?じゃねーよ、バーーーカ!!」
・・・なんて汚い言葉を吐くわけはなく、返ってきたのは、
「新車買ったんでしょ、その車でちょっと買い物につきあってくれない?」
という言葉だった。
車を買い換えた事は以前に話していた。だが、女の子にしては車に詳しい
はずの春美が、その車の名前を聞いてもいまいちピンと来ないような反応を
示していた。
だから、こんな風に春美の方から誘って来るなんて、意外だった。
買い物と言ってもここは田舎だから、一番近い市でも片道1時間半はかかる。
ちょっとしたデートみたいなものだ。
迷わず僕はOKした。
・・・今思えば、これがすべての失敗の始まりだった。
勝手に連載小説「なにか?じゃねーよ、バーーーカ!!」第3話
僕は春美の事が好きだった。
春美は特別美人でもなかったが、不細工でもなく、小柄で痩せ気味の割り
に出るところは出ていた。
そして、なによりも声が可愛らしかった。
前にも共通の友人と一緒に食事やカラオケに行ったことはあったが、二人
きりで出かけるのは今夜が初めてだ。
しかし、彼女は実家暮らしなので、過度の期待はしないことにした。
「お待たせ〜」
冬場にしては薄着の格好で、春美は現れた。彼女を乗せ、いざ出発。
ところが。
春美が乗り込んだのは後部座席だった。
そりゃないだろうよと思いながらも、そのまま僕は車を発進させた。
勝手に連載小説「なにか?じゃねーよ、バーーーカ!!」第4話
隣町に入った頃、春美が助手席に移動してきた。
車内のどことなくぎこちない雰囲気がようやく解け出した。
本当は慣らしを口実に出来るだけゆっくり走りたかったが、店が
閉店してしまうのでそうもいかない。
春美の目的の店に着いたのは閉店10分前だった。
買い物を済ませると、営業時間の長いデパートに移動し、閉店まで
二人で見て歩いた。
車に戻ると、当然、中は冷えきっている。
車内が暖まるまでの時間、春美は僕に、本当は東京か札幌に就職した
かった事を打ち明けた。
勝手に連載小説「なにか?じゃねーよ、バーーーカ!!」第5話
春美の話によると、彼女はもともと秘書になるのが夢だったらしい。
しかし、東京・札幌で彼女を採用してくれる企業はなく、仕方なしに
地元へ戻った。数年後に秘書に配属され、夢の半分は叶えられたが、
都会で暮らしたいという思いは未だ断ち切れないらしい。
「○○くんはなんでこの町にきたの?」
そんな彼女にしてみれば、北海道の中では都会といえる所で生まれた
僕が、なぜこんな小さな町に就職したのか信じられない様子だった。
まさか、大学に掲示してあった就職案内の中から適当に選びました、
そして受けたら受かっちゃいました、なんて言えない。
なんとかもっともらしい理由をつけてその場をやり過ごすと、僕は
再び車を走らせた。