渡部恒三「もっと先輩をだいずにすろ」

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226無党派さん
激録!総理への道(大下英治)


(消費税を通すために野党の要求する一兆三千億の減税を先行することについて)

党の幹部会で、この減税法案の冒頭決議の採決をとると、九対一で圧倒的に反対であった。
もちろん、安倍も反対した。
 ひとりだけ賛成したのは、国対委員長の渡部恒三であった。渡部の論理は、単純明快である。
「先の臨時国会で、一兆三千億円の減税をやるときまっとるんだから、やるのが当然です」
 すると、よってたかって非難をあびせられた。
「野党に食い逃げされたら、どうするんだ!」
が、渡部は、反論した。
「自民党は、三百議席ももっとるじゃありませんか。食い逃げなんて、されるわけがない」
幹部会が終わると、渡部は安倍に耳打ちした。
「幹事長、野党の要求を、まず呑んだほうがいいですよ。減税はいずれにせよ先にやるという
ことで決まっているわけです。冒頭でやってしまえば、野党も税制審議に乗らざるをえない
状態になります」
が、安倍は渡部をギロリと睨み返した。
「そんなこと、こんな状態で、どうしてできるんだ!」
一喝されたが、渡部は心の中で、冒頭決議にもっていくしかない、と確信していた。
<国対委員長は、ボクシングのサンドバッグのようなもんだ>
 与党の国対委員長というのは、与党、野党の両方から叩かれる。与党がよろこんで
野党の要求を呑んでは、野党側はそれを勝ち取ったことにはならない。野党側と妥協
したことで、党内から袋叩きにあうからこそ、野党は優越感を持つのだ。
<だから、国対委員長は、カッコよくっては駄目なんだ>
渡部は、そう思っている。要は、結果オーライである。それだからこそ、幹部会で
非難をあびようが、安倍から一喝されようが、平気であった。