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上村司イラク臨時代理大使らが、聖職者協会や地元の部族長と接触し、
地道に働きかけた成果だった。
ただ、危うい場面もあった。3人の拘束場所が何度も移った際、
凶悪な「プロのテロ集団」の手に身柄が渡る恐れがあったのだ。
イラクでは日常的に、人質が金で”取引”されていた。
関係者は明かす。
(太字)「10月にバグダッドで拘束・殺害された日本人男性は実は、事件発覚時、
既に、2回も取引され、外国のテロ集団の手に落ちていた。
取引結果が、人質の生死の明暗を分けたと言える」(太字)
自衛隊のイラク派遣はこの年6月末、新たな段階に入った。
国連多国籍軍に初めて参加したのだ。事前調整は簡単ではなかった。
内閣法制局は、過去の国会答弁との整合性から、参加に難色を示した。
(太字)「自衛隊の任務は何も変わらないのだから、
多国籍軍に参加して何が悪い。この論理で突っ張り通せ」(太字)
外務省の西田恒夫総合外交政策局長は、内閣法制局との協議に臨む部下に指示した。
6月8日の日米首脳会談の焦点は、多国籍軍参加に言及するか否かだった。
竹内行夫外務次官らは、
「訪米中に言及すれば、『なぜ先に国民に説明しないのか』と批判される」
と主張した。小泉首相も一度は了承した。
しかし、米国に向かう機中で、「やっぱり言う」と方針を変更した。
(太字)「日本はイラク暫定政府に歓迎される形で、自衛隊派遣を継続する」(太字)
小泉は首脳会談で慎重に言葉を選んだが、新聞、テレビは一斉に
「多国籍軍参加を事実上表明」と報道した。
7月の参院選を前に、野党に格好の攻撃材料を与えた形となった。
小泉にとって、「イラク」は常に、細心の注意が必要な問題だった。
(敬称略。肩書は当時)