>>1 ●寧ろ滑稽投票を可とす
議員選擧に就いて妙な投票をする者がある、それは現在の人物に投票せずして、
佐倉宗五郎とか加藤清正とか、又石川五右衛門、鼠小僧、菅原道眞、などゝ
歴史上又は稗史中の人物に投票するのであるが、苟も立憲國の選擧人たる者が、
斯の如き不眞面目なる投票を敢えてするのは、國民の義務たり權利たる選擧の神聖を
侮蔑したものであつて、實に愚劣極まる悪戯である、と云つて新聞雜誌などは、大に此を批難して居る
然し投票する者の精~から云へば、選擧權は固より尊重すべきものに違ひないが、
現在に於て候補者だと自分で名乗る奴には、一匹としてロクな者はない、而も外に
立派な理想的人物を求めて、それに投票しやうとしても、三人や五人の少數投票
では、到底醜運動に麻痺した衆愚の惡勢力に勝ち得べくもないから、真面目に投票
して見す\/惡魔の爲に敗を取るよりも、どうせダメなものなら、寧ろ諷刺的に
昔の人物に投票して天下を馬鹿にしてやらうと、糞ヤケ半分に右の如き滑稽投票を
やるのである
イヤ選擧權の神聖を無視する不心得の奴だとか、そんなに不眞面目な事をするのは
立憲国民の態度ではないなどと云つた所で、世間には徒に棄權する者さへあるぢや
ないか、それに比べればまだ諷刺になるだけの價値がある、不心得なのは右の如き
滑稽投票をやる者よりも、寧ろ他の多数者である、彼等が金錢若しくは情實の爲に、
惡政黨の醜候補者を選擧するやうな不心得をやるから、良心ある有權者等は、そんな
惡人共を選擧するやうならば、寧ろ鼠小僧や石川五右衛門を選んだ方がマシだと
いふ氣に成つて、態とそんな投票をするのである、腐敗極まる現政界の諷刺としては
頗る振つて居る
故に我輩は多数の有權者が皆この種の妙手段を採り、大に擧つて滑稽投票をやつた
ならば、天下の惡候補者や醜運動屋共を驚かす種となつて、國家の爲大に有益だらうと思ふ
(1908年(明治41年)隔週刊『滑稽新聞』より、筆者は宮武外骨。PCで使えない旧字体など一部改変)