日経エレクトロニクス2006年6月6日号より
SCEのY崎の頭には、できるだけ単純なコアを数多く集積した東芝の案を推したい気持ちが
こびりついていた。しかしJim KahleをはじめとするIBM社の担当者の熱意に圧倒される形
で、プロジェクトチームとしてはPOWER4を集積したアーキテクチャを提案することになった。
プロジェクトを開始してから初めての節目となるミーティングである。いつもにもまして多い
出席者が見守る中、報告が始まった。
「えーっ、以上の理由から、POWER4をベースにしたマルチコア構成が適切であると判断
しました。プロジェクトチームとしては、この方向で細部を詰めていきたいと。。。」
担当者が一通り説明を終えようとすると、その言葉を遮って久多良木が口を開いた。
「分かった、分かった。もういい。至急、別のアーキテクチャを検討してほしい。」
既に基本設計を終えていたPOWER4をベースとするアイデアが、世界を変えるマイクロ
プロセッサを創りたい久多良木の琴線に触れなかったことは誰の目にも明らかだった。