揺らぐ家電販売の“常識” 流通とメーカー、デジタル家電巡る対立 (日経流通04/02/17)
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(前略)
「今後のデジタル家電の流通を占う分水嶺になるかもしれない」とメーカー、流通業界
関係者がかたずをのんで見守っている「事件」がある。それはある大手流通業者と大手家
電メーカーの間で起きたトラブルである。
対象は、年末に大手家電メーカーが昨年十二月に鳴り物入りで投入したデジタル家電製
品。この流通はそれを三万台仕入れた。しかし、実際に売れたのは半数にも満たない一万
二千台程度。大手流通業者は残りを引き取るか処分するための報奨金をつけるかを要求、
これに対しメーカーがいずれも拒否したために、蜜月といわれた両者の関係に大きなひび
がはいろうとしているというものだ。
この種のトラブルは決して珍しいことではない。にもかかわらずこの事件が注目される
のは、デジタル家電でしか起こりえない問題を内在しているからだ。
ことの発端はこのデジタル家電の出荷時点での完成度にあった。メーカーは発表時に予
告した機能を全て実現できないままに出荷したのである実際マニュアルに書いてある機能
のうち少なくとも十個以上の機能が実現できていなかった。
しかし、メーカーは後からその製品をインターネットに接続すればメーカー側からネッ
ト経由で製品に搭載しているソフトウェアを自動更新することで、ネットにつなげない人
には後から機能更新用のCDを配布することで足りない機能を実現するからまったく問題
ないとした。同時に数ヶ月以内に完全な機能を搭載した製品を出荷すると発表した。
(中略)
しかし、消費者の反応は冷たかった。実現できていない機能があり、しかも数ヵ月後に
完璧な機能の製品が投入されるのを分かっているのにわざわざ購入する人はマニア以外に
はほとんどなかった。
理由は二つある。一つは消費者側の論理を読み誤ったことだ。消費者にすればパソコン
のような面倒な手間がないから家電を購入するのであって、買った後で更新するような手
間のかかるものをわざわざ購入する道理はない。いくら鳴り物入りの製品でも、きちんと
したものが出るまで待てばいいというのは当然の論理だ。
もう一つはこのメーカーへの不信感だ。このメーカーのトップはそれまで「使いにくい」
「不完全製品を出荷するのはおかしい」などパソコンを否定したうえで、家電メーカーが
作る製品にはそうした問題は一切ないと主張していた。にもかかわらずいざ自社製品の出
荷時点ではパソコン以上に不完全ともいえる製品を出荷した。
しかも、そこに持ち込んだのは散々に否定したパソコンの販売手法である。製品の不完
全さとメーカーの言動不一致を問う声がインターネット上の掲示板などを通じて広がり、
あっという間にその製品は「今買ってはいけないもの」の代表として指定された。これで
は普通の人は手を出さない。
(後略)