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Aこの言葉は自分自身がしゃべっているのだと気づく
(な、何……)
指先に痛みが走った後、私は耳元で聞きなれた自分の声を聞いた。
それが自分自身が言葉を発している――そこまで理解するのには少し時間が掛かってしまった。
最初は奇妙な違和感だったのが段々と、薄気味悪い実感に変わっていく。
その事実がなんだか無性に怖くなって、思わず、私は口を両手で塞ぐ。
(私、今なんてしゃべったの?)
突然のことで、自分が何を話していたのかすら思い出せない。
何か意味を含んだ言葉を発していたりだろうけど、内容は全然覚えていない。
ただ自分の話し言葉ではない、大仰そうな言葉を使っていたような気がする。
「……菜。愛菜」
霧散していた思考が冬馬先輩の声で、一気に私の元に戻ってきた。
「冬馬、先輩……?」
さっきまで目を閉じて苦しそうにしていた冬馬先輩と目が合う。