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A逃げない
一緒に戦うために、力を手に入れた。
だから……
「周防さん。私、逃げたくありません。一緒に戦い――」
「駄目だ!!」
周防さんの大声で、私はビクッと動きを止めた。
「ごめんな、驚かせて。だけど駄目なんだ、愛菜ちゃん」
「どうして……」
「力の解放はさせるべきじゃなかった。だって、愛菜ちゃんが力を使ったら……」
せっかく力を手にしたのに、使っては駄目だってどういう事だろう。
私はただ呆然と立ちすくむことしか出来なかった。
そんな私の姿を見て、熊谷さんが痺れを切らしたように口を開いた。
「しっかし、この前といい興を削ぐのが好きな小娘だな。
力を使ってみたけれりゃ、使ってみるといいぜ。ただ、無事に済みゃいいがな」
(無事では済まないということ?)
「熊谷の言うとおり、俺も今の愛菜ちゃんが力を使ったら無事では済まないと思う」
「なぜ、そう思うんですか?」
私の質問には答えず、諭すように周防さんは私を見る。
「逃げるのも戦略のうちだよ。どうみてもチンピラだが、紳士的なところもある。熊谷なら抵抗さえしなければ、俺を倒すまで手出ししないだろう」
「周防のは一言余計だがな……いいぜ、逃げたきゃ行けよ。オレは周防と戦えりゃいいからな」
「ほら、熊谷の気が変わらない内にその精霊と……」
「待ってください。せっかくの力を使っちゃいけないなんて、どうしてですか!? 教えてください。周防さん!」
たくさん悩んで、決めたことだったのに。
(まだ、私には何か足りないというっていうの?)
「小さな力だったら使ってもいいんだ、気も回復するからね。だけど、無理に大きな力を使ってしまった時は……。
多分、こよみ……綾と同じことになる」
瀕死の重傷だった周防さんを、すべての力を使って救った綾さん。
綾さんは生命力そのものを削って、それを力に変えて命を落とした。
(綾さんと、同じ……)
「伝承どおりなら、今の君は太極でいうところの陰陽両儀だ。均衡がとれ過ぎていて、気を集めて力とする事ができない。
かといって、伝承の壱与のように、巫女としての修行を積んだわけではないんだ。
神器か神宝を完全に得なければ、愛菜ちゃんは生命力を削るしかないんだよ」
周防さんは何を言っているの…
@「それも高村の伝承ですか?」
A「陰陽両儀?」
B「一郎君たちはそんな事、何も言っていなかった」