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名無しって呼んでいいか? :
2007/10/06(土) 13:42:54 ID:IuR1sKse
今日は私の小学校時代の同窓会が、この廃校舎で行われる。
仲良しだった皆とも久しぶりに会える。楽しみだ。
本当は入り込んじゃいけないんだけど、やっぱりここが一番の思い出の場所。
「早乙女?」懐かしさに周りをきょろきょろ見回していると声をかけられた。
廃校舎のせいか、何処か薄暗くて埃っぽい。空気もひんやりとしている。
振り返ると眼鏡で細身ながら筋肉質の、さわやかな笑顔の男の子が。「あ!キャッチャーの二階堂君?」
私は子供の頃、女子だけどリトルリーグに入ってエースを務めていた。彼はその時のキャッチャーだ。
懐かしい。二階堂君の爽やかな笑顔はあの頃と変わらない。でも少し大人っぽくなった気がする。
二階堂君は地元で一番の大学で医者を目指しているらしい。確かに彼は当時から秀才だった。
二階堂「他のみんなももう来てる。一ノ瀬も来られたらよかったのにな・・・」 一ノ瀬君は私と同じくエースで、昨年の春事故で亡くなってしまった。
一ノ瀬君は野球の推薦で大学に進学し、卒業後はプロになることも夢ではなかったが、それも叶わなくなってしまった…。
二階堂「あいつとバッテリー組んでるときが一番楽しかったな。俺ら親友だったからさ。」
私「知ってるよ。私たちいつも三人で残って練習したもんね。」
いつも笑顔で騒がしくってみんなのムードメーカーだった一ノ瀬君。私は彼のことが大好きだった。
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『早乙女ー!どっちが早く投げられるか勝負しよーぜ、早くこっち来いよ!』彼の少し高くてよく響く声が思い出される。
「おう、二階堂と・・・名無子?わー、女っぽくなったなー!」 大きな声で呼ばれると、大きなくりっとした目が特徴的な男の子がいる。俊足のセンター・八坂だ。
三剣「八坂、耳が痛いからでかい声だすなよ。や、二階堂に早乙女さん。」サードの三剣君だ。相変わらず何を考えているかわからないくらい表情が無い。
三剣「八坂、耳が痛いから近くででかい声だすなよ。や、二階堂に早乙女さん。」それとサードの三剣君だ。相変わらず何を考えているかわからないくらい表情が無い。
↑二重投稿してしまったスマソ
八坂「ワハハハっいいっじゃねーか!久しぶり会ったんだからよぉ!」バンバンと八坂が三剣の背中を叩くと三剣の顔が少し嫌そうに歪んだ
「名無ちゃん」いきなり後ろから抱きすくめられる。サラサラの長髪が目に入る。「ボクだよ、ショートの五島だよ」
三剣が表情を変えぬまま五島にパンチをくらわせた。このふたり、試合中もこんな感じだったなあ。
ワーワー言いながら立て付けの悪いドアを何度か引っ張り、教室の中へ入った。ほこりっぽく、汚れているが懐かしさでいっぱいになる。
八坂「こん中でまだ誕生日来てない奴いないよな?俺、酒持ってきたんだ!」そういえば八坂の家は酒屋だった。
「さすが八坂だな。じゃあ少し片付けてからにしようか?」 こんな埃っぽい中で飲み食いなんか無理、という言葉を二階堂が柔らかく言い換えた。八坂はニコニコしながら頷く。
五島「・・・で、9回裏、名無ちゃんの奇跡のフォーク。あんなに芸術的なフォークをボクは忘れられないね」お菓子を食べながら、話に花が咲く。
三剣「早乙女さんのフォークは落ちすぎてストライクゾーンから外れることもあるけど。悪くないね」
二階堂「それは俺の体格のせいだよ、早乙女は悪くないよ。すごく頑張ってた」
八坂「だよなー!変化球の名無子、ストレートの一ノ瀬だもんな。うちの二枚看板だ」 一ノ瀬、という名前を聞いて皆が身を固くする。
私「そ、そういえば、四谷君と六条君と九衛君は?荷物はそこにあるみたいだけど、どこにいっちゃった?」
三剣「四谷と六条はさっき便所行くって。九衛は何でかいない。」
「うわあああああああああああ!!」その時、廊下から悲鳴が聞こえた。驚いて外へ出る私たち。
四谷と六条がすごい勢いで走ってきた。「早く早く中に入れてくれ!!」
中に入るなり二人は倒れこみ気絶してしまった。三剣はそれを軽々と抱え、教室の隅に寝かせる。細い体に見合わないほどの力持ち。さすがは四番打者。
二階堂「何があったのか気になるな、九衛もまだ帰ってこないし。他の教室を見に行くか?」
三剣「便所に行くって言ってたから、便所のほうを先に見るべきじゃないか?」
五島「いや、じっとしてたほうがいいよ」 八坂「そのうち帰ってくんじゃない?」
意見が割れちゃった。どこに行こう。 1.二階堂と校内探検 2.三剣とトイレを見に行く 3.五島・八坂と教室で様子見
2トイレか、怖いけど三剣君と一緒だったら大丈夫かな
三剣「行こ。早乙女さん。」歩きだした三剣君についていく。三剣君ってほんとに無表情だけど綺麗な顔してるなぁ。
三剣「あ。」廊下の途中でいきなり三剣君が立ち止まったので私はその背中にボスンと頭があたった。
三剣君がはい、と言って手を差し出してきた。三剣「暗いから危ない。」
私がその手を軽くとると、しっかり握り返される。「大丈夫。汚くない」
心なしか三剣君が少し笑ったように見えた。彼は少しも臆さずズンズン暗闇の中を歩いていく。頼りになる4番だ。
私「三剣君は、最近どうしてるの?地元では見かけないんだけど」
三剣「俺は東京の大学に行ってる。だけど、最近はちょっとごたごたしてて大学は休学してるけど。」
三剣「だから今日皆に会えるの楽しみだった。正直。」休学のことが気になって尋ねようとした時、三剣「たぶんここだ。」
「う・・・」ボロだボロだと思っていたけど、本当に汚くて怖い。外から見るだけでも壁が変色しているし、個室のドアも腐っている。きっと水も流れない。
トイレは薄暗い雰囲気でなんだか寒気がした。三剣君が持っていた懐中電灯をゆっくり向けるとそこには
大量の髪の毛の塊が便器からあふれていた。
いきなり私の視界が暗闇に覆われた。三剣君の手が私の後頭部に回り胸に押し付けられた。「早乙女さん、見るな。見ちゃだめだ。」
「きゃあああ!な、何なの、これ……!」悲鳴を上げる私を後ろから支えてくれる腕があった。三剣君だ。
何も見えないが、何かが水の中でうごめくような音が聞こえる。三剣君は私を抱えたまま方向転換をし、「走るぞ」と言った。
もときた道を懸命にひた走る。大学に入ってから運動なんかしてなかったから、心臓が破れそうにドキドキ言う。
「!ちょっと待って」走っている途中、廊下に眼鏡が落ちているのを見つけた。「一ノ瀬の眼鏡だ」三剣君が目を細めて言った。
何度も足がつれかかった私を抱えるようにして三剣君は走ってくれた。それなのに彼はすごく足が速い。
三剣「早乙女さんは別のクラスだったから知らないと思うけど、あいつ遠視なんだ。授業中だけかけてたんだよ」
私「でもこれ、全然古くないよ。子供用だけど」 三剣「遠視のめがねは小学生じゃすごく珍しい。それにこのフレーム、見覚えある」
三剣「俺も同じの持ってたし。でも一ノ瀬がいるはずない。」そうだ、一ノ瀬君は死んだ。それなのに私は彼の影を求めているんだろうか。
私たちはとりあえず教室に戻ることにした。他の皆のことも気になる。
四谷「あーもーだぁからぁ、ほんっとに見たんだってば!」レフトの四谷君の騒いでる声が教室の中から聞こえる
四谷「ほんとほんと!オレの目みてよ!キラキラしてるだろ?じゃなくてー!!あ!名無子・・、げっ!三剣!」
三剣「なんで驚く。起きたばかりで興奮すると体に良くない。水でも飲め」
四谷君は目を白黒させ、口の端からたくさんこぼしながら渡された水を飲んだ。八坂君が水割りを作るために用意した水が役立った。
四谷「ぐえほっげほ!じ、自分で飲めるから!やめ、三剣、ゴボ!」三剣君はきっとわざとだ。四谷君の鼻からも水が出ている。
四谷「・・・ふう・・・そう、便器の中から、人の頭が出てきたんだ・・・こう、ズルズル・・・っと」一息ついた四谷は話を再開した。
二階堂「しかし、四谷。さすがにそれは、俺は信じることはできない。死んだ一之 ノ瀬を見ただなんて悪い冗談にも程があるぞ。」
二階堂「それも便器の中でなんて、また悪ふざけをしているんじゃないのか?」
「ほんとだってば!」とうとう四谷君は涙目になっている。
私「私たちも・・・さっき・・・」私は三剣君と目を合わせた。
三剣君はは私に頷く。「二階堂、それは俺たちもさっき見た。一ノ瀬かどうかはわからないけど。ちなみにふざけてない。」
私「あと、廊下にこんなのが落ちてて・・・それで」私はさっき拾った眼鏡を見せた。
八坂「あ、これ一ノ瀬が授業中にかけてたな。目がでっかくなるってふざけてんの見た」
五島「うーん、四谷はともかく名無ちゃんや三剣がこんな冗談を言うようにはボクは思えないね・・・」
四谷「オレはともかく・・・?」五島「とにかく、確認しに行ってみる?やっぱこの目でみないからにはさ。」
六条「ぼ、僕は絶対行きたくない。ここに残る。」四谷「オレも・・・」
二階堂「早乙女はどうする?女の子は怖いだろ?こういうの」
「私も・・・行く。」三剣「四谷、確認しにいくんだからもちろんお前も行くんだよ。」嫌がる四谷君を三剣君が引きずる。
結局六条君を置いて皆でトイレに向かう。しかしそこには「いない・・・。」一ノ瀬君どころか髪の毛一本落ちていなかった。
五島「脅かさないで欲しいなあ」私たちは再び教室へ折りかえす。渡り廊下を渡っているとき、中庭から水音がした。
ピチャン、ピチャン、ザバザバッ……ピチャン
目を凝らすと、中庭の水道から赤錆を含んだ水が流れている。
私「何……あれ…?」
二階堂「あの水道・・・よく一ノ瀬が練習中に使ってた。蛇口を回すコツがあって、あいつ以外は何でかしらないけど開かなかった」
赤錆はだんだんと濃くなり、ついには血のような赤さに変わった。目を離せないでいると、突然その蛇口が弾けてこちらへ飛んできた。
急に飛んできた破片を五島がキャッチする。ショートの瞬発力だ。赤い水は噴水のように噴き上げ、私たちの服を汚した。
三剣「これ、赤錆じゃない。血だ。」その時むわっと私たちの周りに血臭が漂った。
四谷「オ、オレもう帰るよ!!オレやだったんだ、こんなとこで同窓会とか!」
九衛「出られへんみたいやで俺ら、こっから。」中庭と反対側から歩いてきたのは何と今まで姿が見えなかった九衛君だった。
入り口はいつのまにか南京錠がかけられていた。立ち入り禁止の建物なので、その周りは高いフェンスで囲われている。
八坂「お前っ今までどこにいたんだよ!」九衛「そこで立ちションしててん。けど何か様子が変でな。校内見て回ったんやけど、どっこにも出口がなかったわ。」
二階堂「圏外か・・・」念のため他のキャリアとも見せ合うが、いずれも電波が届かないようだ。
四谷「ま、マジかよ・・・?こんなホラー映画みたいな話・・・」
八坂「サボりぐせ健在だなクソライト!」 九衛「あないな便所で出るもんも出えへんわ!」 外野三人は声が大きい。
私「ねぇ、そういえばファーストの七原君ってどうしてるの?まだ見てないけど今日の同窓会は来ないのかな?」
八坂「あ。呼ぶの忘れた!!」 幹事なのにこういうところがスッポ抜けている。
二階堂「まあ、こういうことになるなら来なくて良かったのかもしれないし、そうしょげるなよ」
九衛「七原・・・くぅ、何て可哀想な奴なんや。せやけどお前らみんな着てる服赤いけどそれ今年の流行色かなんかか?」
クソライトは相変わらず空気嫁ないところも健在だ。私たちは一気に静まり返った。
二階堂「教室へ、戻ろう・・・六条も心細いだろうし」 九衛君を加え、私たちは再び歩き出した。
重い空気の中、少しでも気を紛らわそうと軽口を叩くが、服についた血の匂いが気になって、怖いという気持ちは消えなかった。
三剣「早乙女さん顔が青い」 彼は私の手を取ると、手も冷たいといって私の目を見てきた。表情はないけどきっと心配されてる。
「大丈夫だよ?」と笑うと、彼は汚れてない袖で私の顔の血を優しく拭ってくれた。
私がくすぐったくてふふっと笑うと彼も少し安心したようだ。無理して笑ってたの気づいていたみたい。本当に不思議な人だ。
「早乙女」気づけばすぐ後ろに二階堂君がいた。彼はゴツいフレームの眼鏡を指で押し上げて言う。「気分が悪そうだったから心配だったんだけど・・・平気かな」
私が笑顔で頷くと、彼は三剣君を一瞥して少し寂しそうに言った。「早乙女の表情がわかるの、マウンドでは俺だけの特権だったのにな」
三剣「俺はいつも背中ばっか見てた。それも好きだったけど。」そういうと彼は私の頭を軽く撫でて行ってしまった。表情は見えなかったけどいつもと同じ無表情だったんだろうか。
二階堂「ごめん、変な事言って。俺どうかしてた」二階堂君は顔を赤くして、そこから一言もしゃべらなくなってしまった。
その後は五島君の髪の束が木の枝にひっかかって根元から抜けた騒動以外は何の問題も無く教室に辿り着くことができた。
五島「ボクのキューティクルヘアーが・・・」 八坂「俺みたいにスポーツ刈りにしちまえよ!」 騒ぎながら教室のドアを開けると・・・
六条君がいない。窓際に服の束が落ちている。 八坂「これ、全部六条の服だ!アイツ、風呂にでも行ったのか?」
三剣「風呂に行くのに全部ここで脱いでいく奴はいないと思う。だいたい風呂ってなんだよ」
九衛「風呂?!どこにあるんや!?俺かてひとっ風呂浴びたいのに六条の奴独り占めしよってからに。」
能天気な約2名を放っておいて私たちは教室の中を探した。「六条くんー?」
二階堂「そうだね、水が出ればの話だけど、理科室の大きな水道なら上半身くらいは洗えると思うよ」
九衛「せやな!」八坂「俺もこの服洗いてえ!」 外野二名は理科室へ行ってしまった。
五島「帰るにしても、裸じゃ無理だろうし・・・いったいどこに行ってしまったんだろう」
四谷「六条が自分から出て行くわけない・・・。だって・・・」「「うわあああぁぁー!」」その時、九衛と八坂の声が響いた。
教室の中にはいないみたい・・・どうしたものかと考えていると、廊下から叫び声が聞こえた。
三剣「八坂と九衛。」そう呟いて急いで教室を飛び出していった三剣君の後を追う。
たどりついた理科室の前に、へたり込んだ八坂と頭だけの九衛が・・・「うわああああ!!」
三剣「早乙女さんよく見て。床が腐ってるんだ。八坂は小柄だから乗っても大丈夫だったみたい」
しかし、青ざめた八坂は理科室の中を震える手で指している。恐る恐る中を覗く。「!!」
理科室の大きな水道台に、間接を外した裸の人間がぎゅうぎゅうに押し込められていた。
「六条だ」 三剣君は耳を近づけ、「息はある。二階堂、五島、手伝ってくれ」
私は九衛君を穴から引っ張り出しに行った。「おおきに。名無子ちゃん・・・なあ」九衛君がニヤリと笑う。「男のアレ見るの初めて?」
私「!!」私はもう一度九衛を穴に埋めて顔をつねった。「痛いイタイイタイ冗談やのに・・・」
二階堂「俺が関節を入れる。一応整体の心得はある」理科室の中では、横たえた六条君の体に二階堂君が手を伸ばしていた。
五島「シロウトがいじっても大丈夫なものなのかな」二階堂「俺、専攻は一応スポーツ医学だから」
二階堂君、こうしてみると本当にお医者さんみたいだ。さすが学校一の秀才。
そういえば、昔もこんなことがあった。六条君が右肩を脱臼して、そのときのキャッチボールの相手は、一ノ瀬君・・・。
私は急に耳鳴りがしてしゃがみこんだ。「大丈夫か?」駆けつけてくれた人を見ると、それは・・・
リトルリーグのユニフォームに、後ろ前にかぶった帽子・・・小学生時代の一ノ瀬君だった
私「いち…の…せ、くん…?」懐古と不思議な気持ちで彼を見つめる。気付くと、私もチームのユニホームを着た小学生に戻っていた。
天気は目もくらむような快晴。 一ノ瀬「水飲んで休んだほうがいいんじゃねえ?」 私「ううん、キャッチボールの続きやろ!」
一ノ瀬君の球は重い。ストレートの球威は定評がある。私はいつも彼には叶わなかった。だから変化球の練習をしたんだ。
一ノ瀬「俺、大きくなったらメジャーリーグ行くんだ!お前も行こうぜ!」 私「女でも大丈夫かな?」 一ノ瀬「平気平気!」
今のこの球威ならメジャーリーガーも夢じゃない。こんなに重い球・・・こんなに・・・そう、まるで鉛みたいな・・・
「早乙女!!」大声で名前を呼ばれ、はっと我に返ると二階堂君が私の肩を掴んでいた。私の手にあるのは、錆びた鉄の天球儀の球の部分だった。
「あ・・・私・・・。」ふと見ると周りの皆も怪訝そうに私を見ていた。
その中でただ一人私を射抜くようなまっすぐな視線を向けていた三剣君と目が合う。
私は何を?そう、校庭で一ノ瀬君と・・・いや、そんなはずはない。頭が混乱する。
三剣君、あなたは何か知っているの・・・?
五島「教室へ戻ろう・・・六条の関節もはまったし。」五島君の背中には、暗幕にくるまれた六条君がおぶわれていた。
帰り道、三剣君が私の横に来て言った。「二階堂は、早乙女さんが好きなんだと思う」
私「そんなことないよ、卒業してから全然会ってないし、何でそんなこと思うの」
三剣「早乙女さんを嫌いな男なんかいないから、かな」
三剣「一ノ瀬もそうだった。」私は思わず立ち止まって三剣君をみる。
三剣「さっき一瞬だけど一ノ瀬に会ったよね?」
私「何でそれを?」 三剣君の顔を見る。怖いくらいの無表情だ。
三剣「怖がらせたくなかった。けど早乙女さんから一ノ瀬の気配がどんどん濃くなってるから。」
三剣「今はもうの廃校舎全体が一ノ瀬のテリトリーだ。俺は一応学生だけど本業はこっち。早乙女さん達からしたら気味悪いと思うけど。」
「黙ってて、ごめん。」三剣君は初めて視線を外しながら言った。
スポーツマンのくせに眼鏡の奴が多すぎる、と私は思った。
三剣「だってここは福井県だからね。」さすが眼鏡の産地No1だ。
私は三剣くんに問い詰めた。「一ノ瀬くんの気配ってどういうこと?三剣くんの本業って?……まさか何もかも分かってて、ここに来たの?」
しかしその時、五島「六条?!気がついたのかい?!」
六条「…っあああ!!一ノ瀬っ…!許して…許してくれぇぇ!」私「!?」二階堂「落ち着け六条!何があった?!」
六条「一ノ瀬とキャッチボールしてて・・・俺、肩を外して・・・うずくまってたら、アイツが来て、腕や足をボキボキ・・・」
四谷「う、うわぁぁぁぁ、オレは嫌だ!な、何でこんな目に合わなきゃいけないんだよ!オレたちが一ノ瀬に何したっていうんだよぉ!」
二階堂「それ、昔実際にあったことだよな?」 五島「そういえば水道も、ああいう壊れ方したことあったような」
そうだ。喉の渇いた一ノ瀬君が力任せにひねった蛇口が壊れて、私たちは皆ずぶぬれになった・・・
五島「辿っているのか?一ノ瀬は・・・。」三剣君がこくんとうなずいた。
私・・・私も辿った。二階堂君に呼ばれなければ、鉄の球であのあとどうなっていたんだろう。背筋が凍るような寒気がした。
五島「名無ちゃん寒いの?これ僕のショール。かけておいて。」
四谷「五島!俺も寒いんだけどなんかちょうだい」 五島「キミは六条君と暗幕にでもくるまっていればいいよ」
三剣「四谷、お前の便所の件だけが腑に落ちない。何か隠していることがあるだろう」
四谷が蒼白になる。「・・・一ノ瀬と大喧嘩して・・・あいつのユニフォームとグラブ、便所に突っ込んだ・・・あいつ、泣きながら怒って・・・仲直りしないまま中学で別れちまった」
四谷「あいつ俺を恨んでるんだ!俺を殺しに来たんだよ!!」
八坂「ちょっと待てよ、一ノ瀬がそんなことで怨んだりするかよ」九衛「ほんならこりゃどういうこっちゃ?」
私「…何が起きてるのか分からないけど、これは一ノ瀬くんからのメッセージなんだと思う」私が言うと、皆が息をのんで黙り込む。
三剣「とにかく、ここで立ち話もなんだし教室に入る?」相変わらず飄々とした様子で三剣君が言った。
私たちは教室の中へ戻り席に着く。六条君だけがダメージを受けた体がまだ痛いのか、暗幕に包まったまま横になった。
二階堂「…なあ、もう帰ろうぜ。一ノ瀬のことは気になるけど、普通の状態じゃねえよ、これ」
九衛「せやかて、どっからも出られへんからしゃあないやろ」
皆が口々に不安をこぼす。皆、何か心当たりがあるんだろうか?話を聞いてみよう。 1、八坂と九衛 2、四谷と三剣 3、二階堂と五島
1 八坂君と九衛君か・・・この二人昔っから仲良かったよね
八坂「一ノ瀬の思い出?この三人で集まるとイタズラばっかじゃねえ?」 九衛「校長先生の像を一日5センチずつずらして、南門まで運んだり」
八坂「俺と一ノ瀬は逃げ切れるけど、九衛はよく捕まって泣いてた」 九衛「俺がヘタレみたいにいわんといてくれる。お前らが早すぎやねん」
よくわからないので、二階堂と五島にも聞いておこう。
二階堂「俺は、一ノ瀬がこんなことをするんなんてやっぱり思えないな。根拠はないけど・・・。」二階堂は眼鏡に指を当てて考えこんでいる。
五島「僕にはちょっとわからないな。一ノ瀬のことは名無ちゃん、悔しいけど君が一番詳しいんじゃないのかい?」
五島君は一ノ瀬君のことが好きだったのだろうか…私も胸に手をあてて考えてみる。本当に彼がこんなことをする人だったかどうかを。
三剣「一ノ瀬じゃない。」突然三剣君が私に言った。
三剣「確かにここは一ノ瀬の気が大きい。だから今まで分からなかったけど今は何かもっと大きな他の気配がする。」
三剣「そしてその気配はどんどん大きくなっている。きっとこのままじゃ、終わらない。」
私「私も、私も信じてる。一ノ瀬君は私たちに危害を加えるような人じゃない」
私「三剣君が言うような気配とか全然わかんないけど、私は信じる。大切な友達だった一ノ瀬君のこと」
私がそう言い終わるかどうかのタイミングで、教室の電灯が消えた。
「うわぁ!」「な、なんだ?!」皆口々に動揺の言葉を発した。
電気でも消えたのかな。私は席を立って、おそるおそる電源のほうへ歩く。すると誰かにぶつかって転んでしまった。
ぶつかった相手は、私の背中を抱いて巻き込むように自分が下敷きになった。唇にやわらかい感触がして―ガチッ。歯のあたる音がした。
歯と歯がぶつかってる・・・これって。 「おーい、おっきい音したけど大丈夫か?」遠くで四谷の声がする。
離れようと動くと、鼻に硬いものを感じた。これは・・・眼鏡?「廊下の電気も消えてる。スイッチじゃない。ブレーカーが落ちたみたいだ」廊下の外から三剣君の声がした。
眼鏡で三剣君じゃない・・・じゃあこれは・・・私はドキドキしながら、私を支えてくれるその人から離れた。
三剣君はブレーカーを直しに一人で行ってしまった。私たちは暗がりの中、不安な気持ちでいっぱいになる。
八坂「じゃ、じゃあよ!椅子取りゲームやろうぜ。えーと今、三剣がいないから全部で8人。椅子は7個だ!!」
私たちは椅子を並べた。暗いのでお互い誰が誰だかわからないけど、目がなれてなんとなくどこに何があるかはわかる。
適当な歌を歌い、円状に並べた椅子のまわりをグルグルと回っていく。フレーズが切れたときに座る。これをひたすら繰り返す。
怖いという気持ちが消えるように。私たちは繰り返す。「あ、今俺負けた」いよいよ残りの椅子はひとつになった。私との一騎打ち。
歌い終わり、急いで座ろうとするがはじきとばされる。「負けちゃった。今負けたの私!」「おー。じゃあ優勝は誰?」
「・・・」誰も返事がない。 四谷「なあ、俺思ったんだけど、今日七原来てないよな?」 六条「僕も参加してないんだけど・・・」
九衛「イス、2つも多いやん・・・」
「え?」背中にぞわぞわと毛虫が這うような悪寒を感じる。
そのとき、教室の明かりがついた。「あ・・・三剣くんが電源をもどしてくれたんだ」安心しつつも、目は人数を確認している。やはり椅子が多い。
五島「…僕、八坂が人数を7人て言った時、疑問に思わなかった…」四谷「そう言えば俺も…」九衛「お前は計算がでけへんだけやろ」
「それはこの部屋の気が確かに8人分あるからだよ」いつのまにか戻ってきた三剣君が言う。
三剣「俺を抜かして・・・二階堂、四谷、五島、六条、八坂、九衛、早乙女さん。7人分だ。だけど、もう一人ぶん・・・一ノ瀬がいた」
三剣「そして一ノ瀬にぴったりくっつくように、もう一つの気配があるんだ。だから2つも椅子の多いゲームが成立した」
三剣「今まで起こっていたことは一見一ノ瀬が起こしているように見えた。けどそれは違う。」
三剣「一ノ瀬は今まで起こったこと全てを抑えてくれてたんだ。だからいつも一ノ瀬の気配がそこにあった。俺たちが今まで無事だったのはあいつのおかげだったんだ。」
そう言った後三剣君は私を見た。「早乙女さん、一ノ瀬が今どこにいるかわかるよね。」
私は驚く。・・・一ノ瀬君が、ここにいる?彼にまた会える?
彼が死んだと聞いたのは突然だった。10年後に絶対また会おうって約束していたのに逝ってしまった一ノ瀬君。
彼の笑顔が好きだった。私を呼ぶ大きな声も。照れるように笑うその仕草も。私はいつの間にか走り出していた。
練習の後彼が私に引っ越すと言った時、子供だった私は泣きながら彼を詰った。「一緒にメジャーリーグに行くっていったのに!うそつき!」
本当は彼にどこに行って欲しくないだけだったなのにどうにもならないことが悔しくて悲しくて思わず彼にぶつけてしまった。
彼は私の言葉を何も言わずに聞いていた。そして泣きながらマウンドに佇む私の方にゆっくり歩いてくるとこう言った。
一ノ瀬「目標が同じなら、絶対にまた会えるから。だから泣くな」
一ノ瀬「俺たちが全員二十歳になる日・・・またここでみんなで集まろう。それまで、お互い頑張ろう」
一ノ瀬「それと俺、お前の笑った顔好きなんだからな!」そう言うと私の頬にキスすると照れたように「約束だ。」そう言って私たちは指を絡めた。
私と彼の約束の場所。一ノ瀬君、私・・・あなたに会いたいよ
気づけば私は、夜のマウンドまで走ってきていた。
私「一ノ瀬君!一ノ瀬君!!いるんでしょう?」
私は大声で一ノ瀬君の名前を叫ぶ。しかしマウンドは静寂に包まれたままだ。
あれ?さっき校舎から出れないって言ったのに何で私出れるてるの?
きっと校庭は学校の一部だからだな。と私は一人納得した。
ふいに、後ろから誰かに見られているような視線を感じた
「一ノ瀬君?!」振り向こうとしたその時
一ノ瀬「名無・・・子?」視線を感じた逆側から小さいがしっかりした声が聞こえた。懐かしい彼の声・・・。
そこには、もう見るはずのない二十歳の一ノ瀬くんが立っていた。
一ノ瀬「…れ…俺…まだ…生きたかっ…誰か……に……」懸命に何かを訴える彼の声は、ノイズ混じりで途切れる。私「何?何を伝えたいの一ノ瀬くん…!?」
私は思わず彼の手を握り締めた。するとどんどん彼の身体がはっきりしていき、手のひらも温かさを取り戻していく。
そしてとうとう彼の身体は生きている私たちと変わらなくなった。まさかこんなことが起こるなんて。
「一ノ瀬君・・・私・・・。」胸がいっぱいで上手く言葉にならない。すると一ノ瀬君の変わらないきらきらした瞳が私を捉えた。
「名無子・・・だよな?どうしてここにいるんだ?俺、引っ越したはずじゃ・・・あれ・・・」
私「一ノ瀬君?何言ってるの?・・・もしかして、何も覚えていないの?あれから何年もたっていることも?それに・・・」あなた自身事故で死んでしまったことも?
一ノ瀬「何年も・・・嘘・・・だろ?俺・・・記憶が無いみたいだ。何もわからない。名無子、俺は何でここにいるんだ?」
一ノ瀬君に全ての真実を・・・ 1、教える 2、彼が既に死んでいるなんて言えない 3、怖いので三剣君に払ってもらう
1.「信じられないかもしれないけど…」と前置きして、私はこれまで彼に起こったことを全て話した。
一ノ瀬「嘘だろ?そんなつまんない話やめてくれよ!だいたい・・・」そう言いながら彼は、自分の体を見て驚いた顔をする。
小学校時代、チームでは八坂の次に小柄だった彼は、180を優に超えるほどの長身になっていた。逞しく、長い手足。
「一ノ瀬」振り返ると三剣君がいた。「そういうわけだ。今は2007年。俺たちは今日、全員20歳になったんだ。お前の誕生日が来たから」
一ノ瀬「お前・・・三剣か?・・・ははっでっかくなっても飄々としたツラしやがって・・・マジで言ってるんだな?」
一ノ瀬君は泣き笑いのような表情を見せた後、少し伸びた自分の髪の毛をグシャっと握ると静かにうつむいた。
私がもし、彼の立場だったら。当然あると思っていた道が自分の前だけなくて、仲間だけが進んでいると知ったら?考えるだけで胸が苦しい。
三剣「一ノ瀬。なんと言ったらいいかわからないけど、今日お前に出会えたのには理由があると思う」
私は言う。「私は一ノ瀬君がどういう状態でも大切な友達だと思ってる。今日会えた理由があるとすれば、私が一ノ瀬くんに会いたくてたまらなかったから」
私「みんなだってそう。ずっとあなたに会いたかった。私たちはあなたと一緒にいたい。約束のこの日を、一緒に過ごしたいの」
一ノ瀬君の切れ長の大きな瞳が私と三剣君を順番に見つめる。しばらくの沈黙の後、彼は視線を地面に落として言った。
一ノ瀬「正直、そんなの認めたくないよ。だけど、俺もお前らと一緒にいたい。細かいことは後にして、合流してもいいか?」
「もちろん」 私は一ノ瀬君の手を取った。大きくて温かい手。死んでしまったなんて考えられないような・・・
教室へ戻る途中の廊下で、三剣君が私に囁いた。「早乙女さん、忘れないで。一ノ瀬は死んでしまったんだ」
私はその言葉にはっとする。一ノ瀬君の精悍な横顔を見つめる。わかってる。けれど今日は、この奇跡に感謝したいんだ。
「…分かってるよ。忘れたくても、忘れられないもの。会えること自体が奇跡、なんて友達、そうそういないもの」 そう言って、私は少し自嘲気味に笑った。
三剣「それならいいんだ。死者に魅入られた者は闇へ落ちてしまうんだ。気をつけてくれ」
それでも私はこの温かい手を今は離したくない。三剣君が私をすごく心配してくれていることは痛いほどわかる・・・でも
私が不安そうに一ノ瀬君をみると「ん?どうした」といってにっこり笑って手をぎゅっと握り返してくれる。
私は何でもない、と言って教室のドアを開けた。みんな、どんな顔をするだろう。
五島「名無ちゃん!」 二階堂「早乙女、大丈夫だったか?怪我は・・・」歩み寄った二階堂君が私の連れてきた人・・・一ノ瀬君に目を留めた。
二階堂「お前は・・・・まさか・・・」 一ノ瀬「・・・二階堂か?」
八坂「一ノ瀬お前ー!生きてたのか!?」九衛「なんやなんやこれ!どうしたんや!」
六条「どういうことだよ、これ・・・名無ちゃん、三剣、冗談にしても趣味悪すぎるだろ」
一ノ瀬「冗談じゃない。俺は一ノ瀬だ。南波リトルリーグの投手で三番打者の、一ノ瀬だ」
「・・・お前が一ノ瀬なら」二階堂君が窓を開け、校庭を見せる。「この窓から、あの的を狙えるかな。本物の一ノ瀬は、10球放っても真ん中に当てられた」
八坂君がデイパックから硬球を出し、一ノ瀬君に握らせた。一ノ瀬君は縫い目をじっと見つめ、窓際まで寄ると大きく振りかぶった。
背中を大きく反らす豪快なフォーム。そう、彼はいつも、魂のすべてを込めるような投球をしていた。私はいつもそれがうらやましかった。
その場にいた誰もが目を奪われる投球。彼の放った球は、的の真ん中を捉えた。鋭くまっすぐに、迷うことなく。
一ノ瀬「何度でも当ててやるよ。」振り返って、不適に微笑む。八坂君がもう一度硬球を探ろうとするのを、二階堂君が止める。
二階堂「もう充分だ。そのフォームも、その球も・・・一ノ瀬のものだ。お前は、俺たちのエースだ」
一ノ瀬「俺がほんものだってわかったろ?」一ノ瀬君君がどこか寂しそうに皆に向かって笑いかける。
四谷「何でお前・・・バケて出て・・・」言いかけた四谷の口を五島がふさぐ。
五島「まあ、いいじゃないか。一ノ瀬も同窓会に参加しにきたってことじゃないかな。そう、今日はキミのバースデーだろう?」
八坂「あっ!そうだよな!!ほら、一ノ瀬も来いよ。」八坂はすばやく駆け寄ると、一ノ瀬の後ろに回りこみ、部屋の中へ押した。
八坂「でもさー、お前、俺と変わんないくらいちっちゃかったのに、もう今10センチは違うな。なんか悔しいぜ」
九衛「・・・アホか。10センチどころか20センチ近いわ。お前165そこそこやんか」
八坂「166.5だぜ!でも、足だけは誰にも負けねえ。一ノ瀬にもな!なんなら勝負するか?」子犬のようなひとなつっこい笑顔。八坂のこういう明るさに、私たちはいつも救われる。
「ちょっと待ってよ!」 六条くんが叫ぶ。「こんなのどう考えたっておかしいよ!さっきまで立て続けに変なことが起こってて…僕の服はまだ乾いてもいない。それで一ノ瀬の存在を受け入れろって?」
三剣「落ち着け六条。俺には考えがある」教室に入り、後ろ手にドアを閉めながら三剣君が表情も変えずに言う。
三剣「この校舎には禍々しい呪いのようなものが立ち込めている。それを抑えてくれているのは一ノ瀬なんだ。もしものことがあったとして、対抗できるのは一ノ瀬しかない」
三剣君はすっと一ノ瀬君のほうを向き直ると言った。「利用、っていう言い方はよくないけど、俺たちが助かるためにはきっとお前の力が必要なんだ」
一ノ瀬はじっと三剣を見つめたあと、軽く息を吐いた。「ああ、それは何となく感じてる。まだはっきりとは思い出せないけどな。俺がここにいる理由……もうこの世に存在しない俺が…」
「お、俺・・・」それまで黙っていた四谷が口を開く。「オバケとか幽霊とか、ダメなんだけど・・・一ノ瀬は、そんな感じがしない」
「オレ酷いこといってごめんな!」そういって涙目になりながら四谷は一ノ瀬に抱きつく。
びっくりしながらも一ノ瀬は「いいよ」と笑ってぽんぽんっと四谷の頭を軽く叩いた
六条はそんな二人と三剣の顔を見比べてうつむいている。私は六条に聞く。「一ノ瀬君が怖い?」
六条「・・・僕こういう説明のつかないようなことが苦手で、混乱してるんだ。別に怖いとか、一ノ瀬が嫌いとかじゃないよ」
暗幕に包まった六条君は青ざめた顔をしている。無理もない。来て早々、トイレで怖い目にあい、理科室では関節を外されて流しにつめこまれてしまったのだ。
私「ごめんね、理科室のこと。一人で怖かったでしょ?」 六条「ううん。…名無ちゃん優しいね。昔からそうだったね」
私「だって六条君は大事なチームメイトだもん!私だって六条君にはいつも助けてもらってたし!」
そう、一見小心に見えるこの冷静さが、彼のセカンドとしての資質。どこに球をさばけばいいのか、瞬時に見分けられる。
六条「そうだよね・・・チームメイト・・・だからだよね。・・・そろそろ服、着てくるよ」彼は私から目をそらすと、隅のほうへ行ってしまった。
二階堂「だけどよ、三剣は何でそんなこと知ってんだ?一ノ瀬が現れる前も、何かおかしなこと言ってたよな。確か…もうひとつの気配がどうとか」
三剣「俺の家は妖怪や霊を退治する家系にある。苗字は三種の神器、草薙の剣によるものだ。お前たちからすれば気味が悪いかもしれないが、・・・俺も見えるんだ」
八坂「あ!もしかしてあの寺、三剣んち?配達のときいつも通ってくんだけど、縁の下で三剣がいつも猫と遊んでるの見るよ俺!」
三剣「ああ・・・あの寺だ。・・・遊んでるというか、猫はどうしても入ってきてしまうんだ。仕方がないだろ」表情は変わらないが少し赤くなったように見える。
これまでのあらすじ 早乙女名無子は「南波リトルリーグ」の出身のメンバーでの同窓会のため、出身の小学校へ訪れた。 そこで数々の怪奇現象が起こる。それはいずれも死んでしまったエース・一ノ瀬の影を思わせるものばかり。 しかし霊感のあるメンバーの三剣は、一連の事件は一ノ瀬のせいではなく、 もっと大きな力のためであり、一ノ瀬はそれを抑えてくれているのだという。 名無子が呼びかけると、死んだはずの一ノ瀬が復活。素直に再会を喜ぶ名無子に対して 三剣は一ノ瀬を「学校の呪いに対抗するための力」として考えていると言う。 メンバーたちはそれぞれの想いを抱えながらも、 一ノ瀬を受け入れて学校の呪いに立ち向かおうとするが・・・。 早乙女 名無子・・・投手。変化球が得意。主人公。 一ノ瀬・・・投手。ストレートに定評がある。明るい人気者。野球の推薦で大学に入るが事故死。 二階堂・・・捕手。学校一の秀才。現在は地元の医大でスポーツ医学を専攻。眼鏡がトレードマーク。 三剣 ・・・三塁手。四番打者。飄々としたクールな性格。東京の大学生だが、本業はゴーストハンター。 四谷 ・・・左翼手。涙もろくやや小心でアクションが大きいお調子者。 五島 ・・・遊撃手。細やかな気遣いと優しい物腰で、少しキザ。長い髪の毛が自慢らしい。 六条 ・・・二塁手。慎重で超常現象などは苦手。来て早々間接を外されるなど色々不憫な人。 七原 ・・・一塁手。幹事の八坂に忘れられてしまったため、同窓会に不参加。 八坂 ・・・中堅手。小柄だがチーム一の俊足を誇る。脳天気で人懐っこい。実家は酒屋。 九衛 ・・・右翼手。軽いノリで単独行動を好み、サボりぐせがあるらしい。関西弁。
二階堂「俺は、幽霊とかそういったものは信じないよ。一ノ瀬のことも、この目で見てなきゃ信じてないね。だけど一ノ瀬。お前がそういう存在だって言うなら」
二階堂「この学校から俺たちを出さない力ってなんだ?何が原因だと思う?」
「俺にも漠然としかわかんないけど、たぶん」自分の鼻先でも見るような目つきで考え込んだあと、一ノ瀬君は視線を上げて言う。
一ノ瀬「もっと長くからこの場所にいたような・・・それが目覚めさせられて怒っているような、そんな力だ」
三剣「そうだね。それでいてすごく悲しい感情と凄まじい恨みを感じる。本当は今皆が無事なのは奇跡みたいなものだよ。」
三剣「一ノ瀬、今は自覚が無いかもしれないが皆を守ってくれていたのは紛れもなくお前だ。けど俺たちはなんとしても生きてここから出ていかなければならない。」
私はその言葉を聞いて三剣君を冷淡な人だと思った。死を自覚仕切れていない一ノ瀬君に追い討ちをかけるような言葉をあんな冷静に吐けるなんて。しかし三剣君は少しも一ノ瀬君から視線を逸らさなかった。
「俺は誰も失いたくない。」最後にそういった三剣君の瞳にはとても強い光が宿っているように私には見えた。
九衛「そんなら、その原因ちゅう奴はどこにおんねん。ちゃちゃっと払って、家に帰してえな」茶化すような、手品が始まるのを待つ子供のような顔だ。
三剣「体育館」 一ノ瀬「音楽室と・・・プール」 いくつかあるみたい。どこに行こう? 1.体育館 2.音楽室 3.プール
1.この教室から一番近い体育館へ向かおう。バラバラになるのは危険かもしれないとの事で、私達はぞろぞろと教室を出た。
八坂「一ノ瀬一ノ瀬!あとで競争しようぜ」 二階堂「八坂、遊びに来たんじゃないだろう。一ノ瀬も困ってるじゃないか」 八坂「だってさ、他の奴らじゃ相手になんないし」
一ノ瀬「ああ、いいよ。八坂は元気だな・・・俺は見ての通りだけど、今は何やってるんだ?」 八坂「オレは実家の酒屋の手伝い!あ、でも野球もやってるよ。商店街のチームでね」
一ノ瀬「他の奴らは?」 五島「ボクは美大で写真を専攻してるよ。大学からはテニスをはじめたんだ」 一ノ瀬「合ってるかもな。お前のイメージにも、瞬発力にも」
一ノ瀬「早乙女は?もう結婚とかしちゃった?」 私「まさか!地元の大学生だよ。野球は・・・やめちゃった」 そういうと一ノ瀬くんは少し寂しそうな顔をした。
だって仕方がないじゃない。シニアは私を受け入れてくれなかったし、ソフトボールもしっくり来ない。ソフトをやっても、メジャーリーグなんか行けない。そんなの意味ない…。
二階堂君が私の表情を察して口を開く。「それぞれ理由があるんだよ。でも今も野球は好きだよ。それは変わらない」
九衛「俺も今は野球やってへん。仕事が忙しいっちゅーのもあるけど、メンバーが集まらんのもある。たまに思うんや。またこのメンバーで出来たら…なんてな」
毎日ボールが見えなくなるまで練習していた。野球をしなくなる日が来るなんて、あの頃は考えもしなかった。
私たちは全員二十歳を超えた。本気で野球をやっている者など、この場には一人もいない。私たちは大人になったのだ。ただ一人、一ノ瀬くんを除いて。
速くて強い球。誰にでも好かれる性格。いつも彼は私の羨望の的だ。・・・こんなときでさえも。
「早乙女?」 二階堂君が私を覗き込んでいる。私は笑顔を作って何でもない、と言う。そう、今はこんなことを考えているときじゃないんだ。
そして私達は体育館の前に着いた。当然ながら、扉には鍵がかかっていて入れそうにない。私は一ノ瀬くんと三剣くんに聞いた。「…何もなさそうだけど、二人は何か感じる?」
三剣「引きずられるみたいな嫌な感じがする」 一ノ瀬「・・・誰かいると思う。なんとなく」
九衛「中に入るなら俺に任せてえな」 そういうと九衛は助走をつけて高く飛び上がり、扉の上部にある窓枠につかまった。
九衛「垂直飛びなら負けへん」彼はダラダラしてるようでも、フェンス際の捕球は得意だった。そのおかげで何度も私たちは失点を防ぐことができた。
「せっ・・・」懸垂の要領で腕を曲げ、小窓を数回引く。はめ殺しではないようで、埃をたてながらも窓は開いた。
九衛「八坂、出番や。肩車するからあの窓から中に入ってカギ開けてくれへん?」
八坂「ええっ俺?なんでだよ!」九衛「あの窓通れるんジブンだけやねん」八坂「名無子のほうがちっちゃいだろ!」九衛「女の子はいろんなとこがつっかえるねんて!」
私は九衛の顔を左右に思い切り引っ張り黙らせた。まったくとんでもないセクハラ野郎だ。
八坂「確かに、女にそんなことさせられねーか。よしっ」 八坂は九衛の肩に掴まると、ひょいっと背中を乗り越え、窓枠を乗り越えていった。身軽なのは変わってないらしい。
内側からカタン、という音がして扉が開き、子犬のような表情で八坂が現れる。「へへー。どうぞ」
九衛「おー開いたな。開かんかったら閉じ込められるとこやったけど、よかったな」 八坂「お、お前!ざっけんなよ!!」
九衛はカラカラ笑って八坂のパンチを受け止める。昔から一見ヤンキーのような外見をしている九衛だがこの中で一番長身な上喧嘩も強かった。
学校でも番長のような存在だった彼だが、私には九衛君は野球をしているときが一番純粋に楽しそうだった。
九衛は、大阪から転校してきてしばらく友達もできず、ずっと一人でいたのだが監督の紹介でリトルリーグに来ることになった。
練習が嫌いでいつもどこかに行ってしまう九衛は、六条や四谷とはソリが合わず、なにかと衝突することが多かった。
最初はダルそうに練習に参加していた九衛だったが、試合で最初にフライをとった日から、何かのスイッチが入ったかのようにめきめきと上達していった。
「野球・・・楽しいもんやなぁー・・・」 子供のくせに亜麻色に脱色した髪が、風に揺れていた。あの日の嬉しそうな顔を、私は今も思い出せる。
四谷「おーい、誰か・・・いるかぁー・・・」おそるおそる扉を覗き込んだところを八坂君が「ホラ早く入っちゃえよ!」と内側から引きずり込む。
体育館の中は真っ暗で、電気もつかない状態だった。何も見えない上ひどく埃っぽく、私は入ったことを少し後悔した。
三剣「誰か、閉じ込められないように扉を支えておいてくれ。あと、早乙女はここから動くな。入り口近くで、いつでも逃げられるようにしておくんだ」
本当に大丈夫なの・・・?私はとても彼らのことが心配になり思わず三剣君の袖を掴んだ。
三剣「俺は心配ない。慣れてるし。・・・扉は、一ノ瀬がいいかな。霊的な力で閉じ込められそうになったら、対抗できるのは一ノ瀬しかいないし」
三剣「あと一人くらいいるかな。もしものときには一ノ瀬を呼びたいし。どうする?」 誰を選ぶ? 1.二階堂 2.八坂 3.それ以外で選ぶ
1.3人で話す機会なんかないもん。やっぱり二階堂君にしよう。
大騒ぎしながら三剣君たちは体育館の奥の方へ消えていった。私たちは三人で顔を見合わせる。
一ノ瀬「久しぶり・・・だな、二階堂」 歯切れが悪い。無理もない。かつての親友はすでにこの世の人ではないのに、今こうして再会しているのは奇妙としか言いようがない。
「あぁ」二階堂君は短く返事をして一ノ瀬君をチラリと見ると、すぐに黙ってしまった。 一ノ瀬「お前は?お前も野球は・・・」
二階堂「腰を痛めたんだ。中学の野球部のトレーニングが適切じゃなくて」手持ち無沙汰な様子で彼は眼鏡を服のすそで拭いた。
二階堂「それに、あの学校には球を受けたいと思えるような選手がいなかったし」私立の進学校に行ったと聞いていたけど、あまり楽しくなかったのかな・・・。
「ま、色々あってさ。俺みたいにトレーニングでダメになっちまう選手を出さないよう、今は頑張って勉強してるってところだ」 二階堂は気を取り直したように、明るく言った。
二階堂「なあ一ノ瀬。お前と離れてからもう随分経って、俺たちは状況も体も、全部変わっちゃったけど、みんなそれぞれ一生懸命なんだ。だからがっかりしないで欲しい」
一ノ瀬くんは少し驚いたような顔をして、ため息をつくように言った。「俺だって、まさか全員プロになってるなんて思ってなかったよ」
一ノ瀬「でも俺、悔しくて。お前みたいに判断力も基礎体力もあるヤツが、俺の知らない間に野球ができなくなってるなんて」
一ノ瀬くんは、見た目は大人でも、未だに野球が世界の中心だったあのころのままだ。だからこそ割り切れてしまう私たちが納得できなくて苦しいのだろう。
私「ねえ一ノ瀬くん。・・・野球じゃ3割打てば強打者だよね。もちろん、全部打って全部ホームランに越したことないけど」
私「かなわなかった希望に折り合いをつけて、少し近いところで満足する幸せってあると、私は思うよ」
そのとき、体育館の奥から声が響いた。「おーい!一ノ瀬、ちょっと来てくれ!!」
「じゃ、ちょっと行ってくる。二階堂、早乙女頼むな」 暗がりへ足を進める一ノ瀬君の背中を見送りながら、私はふと言いようのない不安に襲われた。…さっき一ノ瀬君を呼んだ声は一体誰だった?
私「二階堂く・・・」確認しようと二階堂君に話しかけると、ふいに彼は私を抱きしめて床へ伏せた。驚いているとすぐ側に弓道に使う弓のようなものが刺さっている。
私「これ・・・」 二階堂「しっ!また来る」弓がつぎつぎと姿勢を低くした私たちの周りに刺さる。私は二階堂君にぎゅっとつかまったまま、目を凝らして暗闇の中を見た。
静けさに包まれた奥では何が起こっているのだろう。二階堂君の腕に力が篭った。「…こんなの尋常じゃねえよ。矢ならともかく、弓が刺さってんだぞ。人間の力じゃ普通ありえねえ」
暗闇の中から、馬に乗った若武者のような子供が青白い光を放ちながら現れた。・・・これ、どこかで見たような気がするんだけど・・・
二階堂「那須与一だ」そういえば、私たちの学芸会の演目にそういうのがあったような。・・・この顔、知ってる。でも誰だっけ・・・。
二階堂「那須与一は一ノ瀬がやった」 私「でもこの子、一ノ瀬君じゃないじゃない」
三剣「覚えてないかな。一ノ瀬は代役。本来の主役があまりにも弓が下手で、運動神経のいい一ノ瀬が抜擢されたんだ」 じゃあ、この子は?
気づくと三剣君がすぐそこまで戻ってきていた。三剣「今、俺が祓うよ。二階堂、早乙女さんをしっかりかばっていてくれ」
三剣君が呪文を唱えだすと、彼の手元が光りだし、暗闇だったあたり一面を照らした。神経質な印象のする彼の整った顔が浮かび上がる。
369 :
名無しって呼んでいいか? :2007/10/28(日) 18:27:07 ID:qCuU1Nxf
若武者の顔は暗くて誰か分からないが、また弓を構え狙いを定めた
鈍く光る矢が向いている先には一ノ瀬君がいた。狙いは一ノ瀬君なのだろうか? 私は矢が突き刺さった場所を見る。私達から少しずれたその場所は、一ノ瀬君が立っていたところだった。
このままでは三剣君が祓う前に一ノ瀬君にあたってしまう。
「一ノ瀬君っ危ない!!」体が勝手に動いて私は一ノ瀬君を庇うように突き飛ばした。直後、肩に鋭い痛みが走る。
「早乙女さん!」三剣くんが詠唱をしながらふいに私のほうを見る。 私「ダメ!ちゃんと見て!!」 若武者は三剣君に狙いを定めている。
三剣「邪魔だっ!」三剣君は若武者を先ほどとは比べ物にならないくらい大きな光で薙ぎ払った。若武者はこの世のものとは思えないような悲鳴を上げて消えた。
荒い息を繰り返す三剣君は振り向いて私の無事を確認すると本当に安心したように息を吐いた。
三剣「二階堂、早乙女さんの傷を。」二階堂君はもちろんだとばかりに私の方に駆け寄って来てくれた。
私は上着とカーディガンを脱いでキャミソールだけになった。二階堂君が赤くなったので、「下着じゃないから大丈夫だよ」と言った。
「早乙女」呼ばれたのでふと見上げると一ノ瀬君が立っていた。 一ノ瀬「なんで俺をかばった?」
一ノ瀬君の声が震えている。そんなの・・・理由なんてないよ。ただ・・・
私「なんでって・・・」 一ノ瀬「俺はもう死んでるんだ!それなのになんでかばったりするんだよ。俺なんか撃たれたっていいんだよ!」
私「あの・・・あの矢には・・・ものすごい悪意を感じたの。だから、それに撃たれたら・・・一ノ瀬君、またいなくなっちゃうって思った」
私「もう会えないって思ったときの絶望感、わかんない?二回もあんな想いしたくない。私もう、一ノ瀬君に会えなくなるのイヤだよ!それがそんなにおかしい?」
皆が静まり返る中、私は泣きそうな一ノ瀬君を見て熱いものがこみ上げてくるようだった。「一ノ瀬君のバカっ・・・いいわけ・・・ないじゃない。」
言いながら涙が止まらなくなる。二階堂君は私の頭をゆっくりとなで、一ノ瀬君に言う。「俺も同じ気持ちだ。お前をもう失いたくない。たとえ実体がなくても、大事な友達だから」
五島「みんなそう思ってるんだよ、一ノ瀬。ボクだってあの距離にいたら同じようにしたさ。だからそんな風に言わないでもらえるかな」
真っ赤な顔をして一ノ瀬君が拳を握り締め、絞り出すような声で言った。「わかったよ・・・みんなありがとう。俺、どうかしてた。もう死んじまってることに卑屈になってたんだ」
「まあまあ、気にすんなや。にくいなあ人気者」九衛が一ノ瀬の背中をパンパン、と叩く。「・・・それにしても」
九衛「二階堂は役得やなー。名無子ちゃんにあんなにくっつけて。正直うらやましいわ」 二階堂「お前・・・!」 二階堂君は何か言いかけて口を閉じ、私のほうを見た。
二階堂「・・・ああ、役得だったな。小さくて柔らかくていい匂いがした」 眼鏡のブリッジを押さえながら、一ノ瀬君と三剣君を見る。その顔は少し笑ったように見えた。
「でも、二度とこんな無茶はしないでくれ。・・・いや、あいつの狙いが分からなかった俺の責任だな」 三剣君は私の肩をちらりと見た後、わずかに俯いた。「ごめん、早乙女さん」
二階堂「一連の現象で思ったんだが・・・一ノ瀬を恨んでいる誰かの仕業じゃないだろうか」
私「一ノ瀬君は恨まれるような人じゃ・・・」 三剣「いや、一ノ瀬は運動神経もいいし、かなり目立ってた。ありえない話じゃないな」
六条「一ノ瀬自身は恨まれるようなことしてなくても、逆恨みする奴はいるもんだ。・・・一ノ瀬は野球推薦で名門大学に入ったからな。そっち関係か?」
一ノ瀬「いや、正直わからない。けど俺が恨まれてこんなことになっているなら俺の責任だ。」
落ち込む一ノ瀬君を慰めながら私たちはまた一旦教室に戻ることにした。
その途中で私は皆から一人離れていく三剣君の姿を見た。皆は気がついていないみたい。
四谷「名無子・・・ちょっと話があるんだけど・・・」そのとき四谷君に呼び止められた。
どうしよう・・・ 1、三剣君を追いかける 2、四谷君の話を聞く 3、二人ともどうでもいいや 1、
1,気になる。三剣君を追いかけよう。四谷君ごめん!
何となく声をかけそびれたまま、三剣君の後をこっそりついていく。彼の足には迷いがない。目的地は決まっているようだった。
一目につかない体育館の裏についたとたん彼の体がグラっと傾いた。そのまま壁を背にずるずると座り込む三剣君。
「三剣君!」私は急いで彼の傍に駆け寄った。三剣「早乙女…さん?」彼はいつものように無表情だったが顔色が悪く冷汗をかいていた。
「三剣君・・・どうして?」三剣「何が?」三剣君は本当に何でもないように聞いてくる。私「何が、じゃないよ・・・我慢してたんだね。」
三剣「大丈夫、いつものことだから。」いつもって…いつもそうやって苦しむの?私「霊を祓ったからなの?」
三剣「…三剣の家はずっとそういう家系なんだ。霊を祓う力を使う代わりに自らの命を削る。でもそれは誰かがやらなければならないことだ。」
私「どうして!どうして三剣君がやらなければならないの?こんなにボロボロになって・・・」私は汗を拭うためハンカチを三剣君の頬に当てた。
三剣「俺は本家の嫡男で、今は当主だから。春に母が死んでもう三剣は分家を除いて俺しかいないから。」
そう言うと三剣君はそっと私の手を取り頬からハンカチを外した。三剣「汚れる。」
私は八坂君の言葉を思い返していた。一人縁側で猫とじゃれていたという三剣君。私は元気だった三剣君の厳格なお父さんと美人なお母さんのこともよく覚えている。
こんな短い間に彼は全てを失って、一人ぼっちで自分の命を削りながらも闘っているんだ。
私「で、でもさっきので霊はもう払ったんだよね。もう大丈夫なんでしょ?」 そうであってほしい……と願いながら、三剣君の顔を見た。これ以上、彼に負担をかけたくない。
三剣「悪い念が分散して、まだ残っている。さっき言った、プールと音楽室にも」
三剣「それを全部倒さなければ、この校舎の呪いは晴れない。一ノ瀬が現世に引き戻されたのは、その呪いを解くためだ。奴が原因でもあって、呪いを解く鍵でもあるんだ」
三剣「君は、一ノ瀬と再会できて喜んでいるようだけど、深入りしないほうがいい。なぜなら、すべての呪いを解いたとき、…一ノ瀬は消えてしまうから」
三剣「もう一度言っておく。死者に魅入られたものは、闇へ落ちてしまう。俺も救えない、深い心の闇の中へ」
彼は辛そうに私の肩の傷に視線を落とす、「心臓、凍るかと思った、また失うかと。早乙女さんが一ノ瀬を失うのが怖いように、俺も君を失うのがすごく怖い。」
三剣「もう傷つけさせたりしない、早乙女さんも皆も生きてここから出なければいけないんだ。」
じゃあ、あなたは・・・?私「・・・三剣君はどうなるの?」
三剣「俺はもう長く生きられない。」彼はそういうと何の言葉も出ない私に戻ろう、と言って手を差し伸べる。
三剣君の線の細い顔は、何度もデッサンを重ねられたように丁寧な美しさだ。男の子にしては長い睫毛が、頬に影を落としている。話のせいか、今はいっそう儚く見える。
私はその手を取る事ができなかった。取ってしまえば、その言葉が本当になってしまう気がして。
誰もいなくならないで欲しい。誰一人欠けたくない。三剣君も、一ノ瀬君も。私に今、できることはなんだろう・・・
三剣「そんな顔をしないで欲しい」 三剣君が私の髪をなでる。私はその大きな手の心地よさに目を閉じる。守られるような、あたたかい手。
私はそっと視線をあげて、彼の顔を見た。「私には、何もできないのかな?守ってもらうだけなんて、悔しい」
三剣君はこちらをじっと見つめると、私の髪を撫でていた手を首元まで滑らせ、私の顔を引き寄せ―キスをした。
私「…三剣君?」 三剣「悪い。言葉にならなかったんだ」
私は三剣君を大切に思っている。失うと思うと胸が張り裂けそうだけど、でも恋と呼べるかはわからない。
三剣「側にいて欲しい。俺の手の届かないところに行かないで欲しい」彼はゆっくりと私の背に手を回すと、包み込むように抱きしめる。
私の中で、複雑な気持ちが渦巻いた。友情のような、愛情のような、あるいは先が短いという彼への同情のような。だから私は、抱きしめるその腕をほどくことができなかった。
初恋の人・・・一ノ瀬君が戻ってきているから?でも、彼はもうこの世の人ではない。”死者に魅入られた者は闇へ堕ちてしまう”三剣君の言葉が胸に刺さる。
たとえようもない不安と心の痛み。三剣君の胸の鼓動と温もり。心地よさと苦しさの間でどうしたらいいかわからず、その晩は彼に抱きしめられたまま、朝を迎えた。
眩しい朝日で目が覚める。あ・・・昨日私寝ちゃったんだ。
肌寒いはずの朝なのに温かいぬくもりを感じて見てみると、三剣君が私を包み込むように後ろから抱きしめて眠っていた。
「ん・・・」私が動いたからか、三剣君を起こしてしまったみたい。包み込んでいてくれた腕がゆっくりとほどけ、体が朝の冷気に晒される。
三剣「おはよう、・・・早乙女さん・・・?」少し寝ぼけているみたい。 私「・・・おはよう」 私は昨晩のことを思い出してしまい、振り向けないでいる。
一ノ瀬君は呪いを解けば消えてしまうこと。三剣君の命が短いのを知ったこと。・・・三剣君にキスをされたこと。どんな顔をしていいかわからない。
三剣「昨日はごめん。その・・・ごめん。早乙女さんの気持ちを無視するようなことして」
起きたてのガラガラ声で、一生懸命言葉を紡いでいく。「怖かっただろ・・・?俺、どうかしてた」
「・・・怖くないよ」私は前を向いたまま言った。 「三剣君を怖がったり、嫌いになったりするはずないじゃない」
この気持ちは恋ではないと思う。けれど、私は彼を突き放せない。
彼のためなのか、自分のためなのか・・・いくら考えても答えはでない。ただ、私は今、三剣君の側にいよう。彼の望むとおりに。
三剣君は一瞬辛そうな顔をしたあと少し微笑みながらこういった。「ありがとう、もうその言葉だけで十分だから。」
行こう、と言って今度は私の手を迷わず取ると彼は教室に向けて歩き出す。
教室の前に着いたとき彼は突然口を開いた。「昨日俺が言ったこと忘れて」
三剣君はこっちを見ないまま続ける。「俺のそばじゃなくてもいいから。」それは・・・どういう意味?と私が聞く前に繋いでいた手は空しく離され、教室のドアが開いた。
二階堂「おまえら、どこ行ってたんだよ!! 何ともないのか? 急にいなくなるから心配してたんだぞ」
私「ごめんなさ・・・」九衛「二階堂、ヤボなこと聞いたらあかん。大人の男女が二人で消えたんや。察しろや」
「・・・いい加減にしろよ」教室の隅から押し殺すような声がした。六条君だ。
六条「よくそんな冗談言えるな、九衛。空気読めよ。こんなときくらいもっと真面目になれよ!!」
九衛「断頭台のユーモアも必要やんか、そないに怒らんでも」 六条「断頭台!?僕たちが死ぬっていうのか、冗談じゃない!」
六条君は九衛君につかみかかり、今にも殴りかかろうとしている。冷静な六条君の目が充血していた。
「誰も死なせはしない」 三剣君の声が重く響く。そして彼は皆に向かって、軽く頭を下げた。「・・・すまない。元はと言えば、単独行動を取った俺のせいだ。軽率だったよ」
九衛「・・・何や、やるんか六条?そっちがその気なら相手になってやってもええで。」九衛君の口元から笑みが消えた。
私「やめて!やめてよ。謝るからケンカなんか・・・」 二階堂「・・・三剣。早乙女と何をしてたんだ?」
二階堂くんは眉間にしわを寄せて三剣君を睨みつけている。「もし早乙女に何かおかしなことをしてたら、俺はお前を許さない」
三剣君は私を一瞬見て、目を合わせる前にもう一度二階堂君に向き直った。「気分が悪くなったんだ。早乙女さんは俺の様子を見ていてくれた」
二階堂「じゃあ何もないんだな?」 三剣「・・・ああ、何もないよ」
八坂「そうだよなー、お前オバケ退治したもんな!カッコよかったぜ!あんなの疲れるに決まってるよなー!!」
そんなやりとりの横で、一ノ瀬君が自分の手をしきりに握ったり開いたりしている。 私「どうしたの?」
一ノ瀬「うん?…何か、一瞬手の先が透けて見えたような気がしたんだ。気のせいだった」
私はどきりとした。呪いの一つを解いたからだ。三剣君の言うことは本当だった。彼の体は、再び消えてしまう準備を始めている。
呪いを解かなければ、一ノ瀬君は存在していられる。三剣君の命を縮めることもない。しかし、ずっとここにいればやがて全員が力尽きて死ぬことになる。
全員で生きて帰る。当たり前の願いなのに、その可能性はどう考えてみてもゼロだ。それは変えようもない現実。
でも一ノ瀬君がこのまま存在することがいいことだとは思えない。彼自身は感じていないみたいだが、無理矢理引き寄せられたのだろう。これはあってはならないことなのだ。
六条「それで、次はどこに呪いを解きに行けばいいんだ?音楽室とプールだよな、どっちを先にする?」 1.音楽室 2.プール 3.他に気になるところはないか
2、プールに行こう 皆の空気が悪くなってきた。だんだん皆が苛立ってきているのがわかる。
三剣君は私を一瞥すると、すたすたと先頭をきって歩いていってしまった。追いかけようとすると、肘の辺りを誰かに掴まれた。二階堂君だ。
二階堂「さっきは嫌な言い方をして悪かった。疑ってたわけじゃない・・・いや・・・」
二階堂「疑ってたというか、不安だったんだ。早乙女が、三剣にとられるようなことがもしあったら、って」
二階堂「俺は・・・俺が早乙女を守っていきたい。誰にも渡したくないんだ」
二階堂「好きなんだよ」 メガネのブリッジを指で押しながら、視線を下に落とした。いつも穏やかな二階堂君が耳まで赤くなっている。
私「…今そんな事言われても困るよ」 二階堂「そうじゃない。俺が言いたかっただけなんだ。今言わないと、きっとずっと不安なままだから」
私「そんなの勝手すぎるよ!私はこんなときに言われたくない。こんな…こんな状況で落ち着いて答えなんか出せない!」二階堂君の腕を振り払う。私も苛立っていたのかもしれない。
どうして、こうなってしまったんだろう。大好きな仲間と昔を懐かしみながら、少しキャッチボールでもできたら嬉しいと思っていた。それだけだったのに。
色々なものが壊れてしまった。知りたくなかったことを知ってしまった。変わらないものなんかないのかもしれない。でも、変わって欲しくない物だってある。
二階堂「俺は答えなんか欲しくない。ただ、知っておいてくれればいいんだ。早乙女が困ったとき、一番に思い出して欲しいんだよ」
「昨日俺が言ったこと忘れて」「俺のそばじゃなくてもいい」三剣君の言葉が胸に突き刺さって抜けない。
私「頼りたい人が、好きな人だっていうなら」私は軽く息を吸って、二階堂君を見つめた。「私は、誰も好きになったりしない。誰の負担にもなりたくない」
「私にとって、ここにいるみんなは大事な仲間だから」 私は二階堂君から視線を外すと、踵を返した。
プールはさび付いたフェンスの向こうにあり、水を抜かれて薬剤の白い粉が汚くこびりついていた。
ここも入り口にはきっちり鍵がかけられていた。それを見て四谷が言う。「俺、抜け道知ってるぜ。夏休みによく忍び込んだんだよな〜。ちょっと行ってくるから、皆はここで待っててよ」
六条「怖がりのくせにムダに冒険したがるんだからしょうがないよな。いつも付き合わされて大変だったよ」肩をすくめる。
このふたり、そういえば仲いいんだよね。二人練習ではいつも組んでたし。いつもだいたい他の皆も組む相手って決まってた。
四谷君と六条君。私と二階堂君。五島君と三剣君。八坂君と九衛君。あと・・・ 「おーい!開いたから入ってこれるぜ!」四谷君が中から呼んでいる。
ふと、何かがおかしいような気がした。うまく言えない違和感。何かが記憶と食い違っているような、そんな気がしていた。
釈然としない気持ちを抱えながら、私は四谷君に導かれるまま、フェンスの向こうへ入った。
昨日の体育館とは違い、屋外のプールは解放感がある。それに今はまだ午前中。多少曇ってるとは言え、射し込む太陽の光は私達に安心感をもたらした。
九衛「こんな真っ昼間っから幽霊なんか出るんか? 三剣、どないなん?」 だが三剣からの応えはない。周囲の気配を探るのに集中しているようだ。
「・・・来た。」ゆっくりと視線をあげて三剣君が言い放つと途端に雲が渦巻きながら集まり辺りは急にどんよりとした空気になった。
二階堂「あれは・・・」 干からびたプールの底から水が湧き上がってくる。いっぱいになってもなお水面は上がり続け、私たちのいるプールサイドのほうまであふれてきた。
「逃げろ!なんかヤバそうだそれ!」すでに八坂は金網を上りきり、はるか上から私たちを見下ろしている。水は墨汁のようなどす黒い色に変わり、私たちを飲み込もうとする。
三剣「八坂駄目だ、戻れ!」三剣君がはっとして叫ぶ、彼の右手からは既に白い光が溢れその光が私達を守るように覆っていた。
もう水だとも思えない黒い液体は思惑どうりとばかりに一気に方向転換し、八坂の方に襲い掛かる。
「なんの!」八坂は猿のような身のこなしで、すんでのところでそれをかわす。金網につかまり、反動でフェンスの上に立ち上がり、その上を走り始めた。
八坂の身の軽さにみとれていると、何かがフラッシュバックした。こういいうこと、前にもあったような。そう、そのとき八坂は・・・
私「危ない!!」 私が叫ぶのとほぼ同時に、八坂はバランスを崩してフェンスから落下した。頭を下にして、濁流へまっさかさまに落ちる。
「八坂!!」 真っ黒な水が八坂を飲み込み、黒い渦潮が巻き起こる。その中心から、水でかたどった様な人間が現れる。八坂ではない。子供だ。
一ノ瀬「あの子供は・・・」 三剣「ああ、体育館のときのあの那須与一と同じ気配がする。同じ念が分散したものだろう」
五島「と、とりあえず、これで八坂を引っ張り上げられないかな」 五島が手にしているのは、古ぼけた放水用のホースだった。
三剣「無理だと思う」 静かな声だった。 「10年前、八坂がこうして落ちて溺れた時、助けたのは・・・一ノ瀬だった」
三剣「ここは一ノ瀬があの霊と戦う必要がある。そうでなければ、八坂は救えない。同じ道を選ばなければいけないんだよ」
私「違う道は選べないの? 今は私達全員がここにいるんだよ。あの時のように、八坂君に手を伸ばせるのは一ノ瀬君だけじゃない。それなのに、ただ見ているしかないの!?」
三剣君は私をじっと見つめたあと一ノ瀬君に向き直って言った。「八坂を引っ張りあげるだけでもいい。できるか?一ノ瀬。無理なら俺がやる。」
一ノ瀬「大丈夫だ。俺がやる。あの日と同じように、八坂を救ってみせる」凛とした表情でこちらを振り返ると言った。「三剣、このバリアから俺を出してくれ」
三剣君は一ノ瀬君の手を握ると、もう片方の手のひらで彼をゆっくり外へ押し出した。「俺の気を送り込んだ。多少の助けにはなるはずだ」
「八坂!八坂!!」一ノ瀬君は濁流に胸までつかり、八坂君の名前を呼び続ける。その時、子供の霊のちょうど手前が噴水のように吹き上がった。
「八坂!?」水中からぐったりとした八坂が現れ、子供の霊がそれを「お姫様抱っこ」のように支える格好になった。
一ノ瀬「そいつを離せ!お前の目的は俺なんだろ?」 耳鳴りのような高い不快な声が響く。「・・・レヲ・・・ワ・・・レタ・・・コイツモ・・・」
「忘れた?」私のすぐ横で三剣君が険しい顔をしている。「忘れた、って何だ?」「忘れたことで八坂君も恨まれているってこと?」
九衛「八坂が忘れっぽいのんは昔からやからなぁ、どのことかはつきとめられんなあ。アイツ、七原のことも呼ぶの忘れとったし、重症やで」
六条「七原?九衛、知らないのか?七原は中学に上がってすぐ事故にあって、今も眠ったままなんだぞ」
三剣君がはっとしたようにつぶやく。「そうか、やはりな。今まで懐かしい気配がしたわけだ。」
三剣「一ノ瀬!八坂をそいつから奪い取れ!そいつはただの影だ。お前が八坂を奪った瞬間に俺が気を叩き込む。」
一ノ瀬「いいよ三剣。お前もう、俺にくれて気なんか残ってないだろ。俺だってこっち側の人間だからわかるんだ」一ノ瀬君はプールサイドのデッキブラシを手にとった。
デッキブラシを構え、一ノ瀬君は霊に向かって突進していった。八坂に引けを取らないほどの俊足。水上スキーのように水しぶきが上がる。鋭い走りだ。
濁流が足元から爆発のように吹き上がり、一ノ瀬君を飲み込もうとする。彼はそれをとっさの瞬発力でよけ、デッキブラシの先を持ってリーチを最大にし、霊を斬りつける。
五島「やっぱり一ノ瀬はすごいね。あの運動神経はギフトだよ」 私も頷く。走っても打っても投げても、彼にはかなわなかった。一ノ瀬君は今も私の憧れだ。
二階堂「ああ。俺だって毎日努力したけど、あの域には遠く及ばない。本当に、あいつはひとにぎりの人間だったんだ」二階堂君は目を伏せた。
一ノ瀬君のデッキブラシからは、何かオーラのようなものが出ている。これが三剣君の「気」なのか?
その時、一ノ瀬のフルスイングで霊がはじき飛び、八坂が床に放り出された。
「・・・ッ・・・オイテ・・・オレヲ・・・」 またあの高い声が耳を貫く。私の記憶がフラッシュバックする。
九衛「よっと!」そこへちょうど九衛君が滑り込み八坂君を受け止めた。
「おい、二人練習の時間もう少しあるだろ」「もう100球投げたからいいんだよ、入れてくれ」「じゃあ三角形で」「やっぱり強い球が投げられる奴だといいよなー」
好きだった三人の練習・・・そうだ、私たちは三人で練習していた・・・あの子は一人、残されていたんだ・・・
「三剣君、あれは・・・」話しかけると、さえぎるように三剣君が言う。「ああ」鋭い目を細めて、睨みつけるような厳しい表情をする。「間違いない。七原の生霊だ」
そうだ。那須与一に最初に選ばれたのは七原君だ。立候補した男子たちがジャンケンで主役を決めていて、ものすごい倍率の中、主役を勝ち取ることができた。
六条「生霊って…なんで七原がこんなことするんだよ。俺達はあいつが目を覚ますの、もう何年も待ってんだぞ…くそっ!」 六条はやり場のない怒りを金網に叩き付けた。
でも、七原君は弓がうまく使えなかった。与一の一番の見せ場、扇の的で、いくら練習しても的にかすりもせず、本格的な練習の前に彼は降ろされた。
そして代わりに選ばれたのが一ノ瀬君、ということだ。私は仲のいい一ノ瀬君が主役に選ばれたことで浮かれてしまい、七原君のことなどすっかり忘れてしまっていた。
二階堂「練習のときに一人になったとか・・・学芸会の主役をとられたとか・・・そんなことで、どうしてここまで一ノ瀬を憎めるんだ?」
四谷「俺、なんかわかる」ぽつりと言った。「チームの奴らはみんないい奴だけどさ、すげえ奴ばっかで、俺いつも忘れられちゃわないかって不安だった」
四谷「名無子みたいにすげえ球投げられないし、二階堂みたいに頭も良くない。三剣みたいに打撃も得意じゃない。六条みたいに判断力もないし、九衛みたいに高くも飛べない」
四谷「八坂みたいにも走れないし、五島みたいに反射神経良くないし・・・まして一ノ瀬みたいには絶対なれないから、俺は敵のデータを収集することで、自分の居場所を見つけてた」
四谷「そういう劣等感って、卑屈な気持ちって、お前みたいな奴にはわかんないんだよ、二階堂」
九衛「せやけど、何年前の話やっちゅーねん。恨みがましいにもほどがあるやろ。死後の世界から甦ってまで、こんなことさせられるなんて、一ノ瀬も気の毒やな」
六条「九衛っ!!てめぇ!」六条君がついに九衛君に殴りかかった。九衛君はすんでの所でそのこぶしを受け止める。
バシッという乾いた音が響く中、六条君は怒鳴るのを堪えたような震える声で言った「七原がどんなやつか・・・お前はっ忘れちまったのかよ・・・」
六条「あんな人一倍優しくって、誰よりも俺達仲間をを大切に思っていたあいつが、もしこんなことをしているとするなら。あいつがどれだけ苦しんでそうなって、今もどれだけ苦しみ続けているのかとかお前にはわかんねぇかよっ!」
六条の拳を受け止めたまま、九衛は冷静に言い放つ。「お前、何か勘違いしとらんか?俺はこんな真似しくさる七原を許せへん。はっきり言って、同情なんか出来へんで」
六条「っ九衛、そんな、言い方は・・・頼むからやめてくれよ。七原自身で、もうどうにもできないところまできてるんなら、仲間の僕達が何とかして・・・何とかしてあいつを助けてやればいいじゃないか・・・。」
三剣「・・・九衛は何年も前のことだって言うが、七原の時間は事故に遭った中学1年で止まってるんだ。現に霊は子供の姿だろう」
三剣「この場所に悔いが多かったんだろう。その意識を俺たちが校舎に入ることで呼び覚ましてしまったんだ。お前が同情するしないにかかわらず、責任は俺たちにある」
それまで寝ていた八坂が身体を起こした。「…でもよ、ちょっとシャレになんねーよな。俺、溺れ死ぬかと思ったぜ。体育館では名無子だって怪我したしさ」
三剣「もうあれは、俺たちの知ってる七原じゃない。負の残留思念が凝り固まって、周りにある他の悪い霊を吸い込んでしまっている」
三剣「おそらく、三つ目の呪いを解いたとき・・・本来の七原の霊に戻る」
そのとき、鼓膜を切り裂くような咆哮が響いた。一ノ瀬君が放った一撃が霊を倒したのだ。黒い水はみるみる引いて、もとの干からびたプールに戻った。
目に見える水の脅威がなくなって、私はホッと息をついた。まさか七原君が関係していたなんて…まだどこか半信半疑だ。
七原君が何を伝えたいのか…それは分からない。でも一ノ瀬君が喚び戻され、三剣君の命も削られている。そしてみんなの精神も限界に来ている、この状況を歓迎は出来ない。
全ては次の呪いが解ければ解決するのだろうか? この先に待ち受けるものに不安を抱きながら、私達は校舎の三階にある音楽室へ向かったのだった……
しかし一階から二階へ上がる踊り場で、三剣君が急に胸を押さえて苦しみだした。
「三剣君っ!」それに気づいたのは最後尾の私だけですぐさま彼の元へ駆け寄る。
私に気づいた三剣君は「大丈夫っ・・・」というと乱暴に口元を拭うと私を見ないまま行こうとする。
教室の前での言葉が思い出される。やっぱり・・・私を避けているの?私の中で何か不安な想いが膨れ上がり、思わず声を荒げて彼の腕を掴む「っどうしてこっちを見ないの?!」
三剣「早乙女さんが心配しても仕方のないことだ。遅かれ早かれ、いつかこういう日は来る」
何・・・言ってるの。呆然とする中私はふと視線を私が掴んだ彼の手に落とす。そこには赤い赤い彼の血が付着していた・・・今しがた付いたばかりのように赤い。
私「三剣君…!」 三剣君は気まずそうな顔をしながら、私の腕をそっと放した。「大丈夫だから気にしないで。今すぐどうこうってわけじゃない。心配しなくても、最期の霊を払う力はある」
あのとき、一ノ瀬君が自分で戦ってくれていなかったら・・・考えただけで背筋が寒くなった。
心配って、私が今一番心配なのは・・・いやだ・・・三剣君もうやめてよ・・・。言葉がうまくまとまらず視界がぼやける。
三剣「早乙女さんが何を言いたいのか、何となく想像つくよ。でもやめるわけにはいかないんだ。みんなや一ノ瀬・・・七原のためにも、俺は自分に出来ることをするだけだ」
私「だけどお願い。今は行かないで。今行ったら本当に死んじゃう…」 そこまで言いかけたとき、前のほうで悲鳴が聞こえた。
急いで駆けつけると四谷君が腰を抜かしている。「一ノ瀬が・・・一ノ瀬が透けてる!!」
見ると、先ほどまで私たちと変わらなかった一ノ瀬君の体の、腰から下が半分透けて向こうが見えている。
一ノ瀬「俺・・・」 私は心当たりがあった。やはり呪いを解けば彼は消えてしまうんだ。 私「いっぱい戦ったんだもん、疲れたんだよ」
私「私もなんか見てるだけで疲れちゃったー!音楽室、後にして一回休もうよ!ね、ね!!」我ながら不自然なほどに私は休憩をねだった。
消えていく一ノ瀬君も心配だったし、何より三剣君の体が心配だった。今すぐに呪いが解決するよりも、そのほうがずっと重要なことのように思えた。
五島「名無ちゃんもレディだものね。わかった、休憩にしようじゃないか。ねえみんな」 九衛「そりゃ、名無子ちゃんに言われたら断れんわー」
六条「休憩か・・・そうだ、視聴覚室があるよ。電気が通ってるんだから、テレビもつかないかな?」
六条君に反対する意見も出ず、そのまま視聴覚室に向かった。視聴覚室は音楽室と同じ三階にある。私はホッとしながら、これがただの時間稼ぎであることにも気付いていた。
視聴覚室に着くなり、三剣君は倒れこむように椅子に座った。いままで歩いていたのが不思議なくらいだ。
二階堂「お、おい、三剣。大丈夫か?」 三剣「ああ、ちょっと疲れただけだ。二階堂、手分けしてこれを入り口や壁に貼ってくれ」 三剣君は懐から数枚のお札を二階堂君に渡した。
三剣「その札が結界となって、ここを守ってくれる。頼んだぜ。・・・悪いけど、しばらく休ませて貰う」 そうして机に伏せた後、三剣君はあっという間に眠ってしまった。
五島君がショールを取り出し、三剣君の肩にかけた。「負担をかけてしまったね」 そして一ノ瀬君のほうへ向き直る。「キミはどうなんだい?」
一ノ瀬君は透けてしまった足をさすりながら目を上げる。「ああ。体は辛いって感じはない。ただ、半分透けてるのは我ながらいただけねえな」
一ノ瀬君は眉を寄せて自嘲するように笑った。「俺、本当に幽霊なんだな・・・」
その声にみんな何も言えずに黙った。生きている私達が彼に何を言えるだろう。「あ…!お前らそんな顔すんなよ。ただ現状を再確認しただけだからさ」空気を察した一ノ瀬君が慌てて言う。
一ノ瀬「なんていうか、その、俺に気遣うような真似はやめてくれよ。こう見えても、覚悟…みたいなものは出来てるんだぜ。不思議とな」
一ノ瀬「じゃ、ちょっと俺外とか見てくるわ。三剣が眠ってる今ここが安全な場所だとは言い切れないからな。」
一ノ瀬君はドアに向かう途中振り返って私達に言った。一ノ瀬「あ、便所行くときは一応俺に言っていくことっ。名無子がいるんだから間違ってもそこらのビンとかですんなよ!」
九衛「するかアホ!あ、ほんまにそんなんせぇへんで名無ちゃん。まぁ、八坂はわからんけどな…」
八坂「おまっしねーよ!俺をいくつだと思ってんだー!」八坂と九衛がじゃれだして少し雰囲気が軽くなった。一ノ瀬君はおかしそうに笑いながら教室を出て行く。
私「あっ…。」私は三剣君の方をみる。彼は一見普通に見えるが、無意識のうちに苦しそうに五島君のショールを握りしめて眠っていた。
三剣君ごめん、少し離れるね。私は一ノ瀬君を追いかけて教室を出て行く。
二階堂「あっ早乙女…!」二階堂君の声が聞こえた気がしたが私はそのまま教室のドアをそっと閉めた。
教室の外に出るとあたりはもうすっかり夕方で血のように赤い夕日が校舎を染めていた。
私達にとって慣れ親しんだ校舎のはずなのに今は恐ろしく不気味な場所のように感じる
窓辺から差し込む夕日の中に、一ノ瀬君は立っていた。ドアの開閉音に気付いたのか、こちらを振り向く。「お前…!何で出てきたんだ。教室の中の方が安全なんだぞ。戻れよ」
私は黙って一ノ瀬君の横に並んで立ち、窓の外を覗いた。グラウンドもオレンジに染まり、ひんやりした夕方の風が吹きはじめている。
そのまま私たちは少しの間無言で暮れゆくグラウンドを眺めていた。何もないあの広い空間に、色々なものがつまっていた。
「・・・名無子」 一ノ瀬君が口を開いた。「俺、たぶんもう少しで消えるんだと思う」
私は驚いて彼の顔を見る、精悍な顔立ちに憂いが浮かんでいる。 「体育館の霊を祓ったときから、だんだん、思い出してきた。お前と別れてから、事故の前までのこと」
一ノ瀬「俺が転校したあの日から、ずっとお前に伝えたい気持ちがあった。だんだん、思い出してくるたび辛くて・・・いっそ言えたらと思った」
一ノ瀬「だけど俺には、その資格がないんだ。誰でも与えられてるはずの資格が、俺にはないんだ」
一ノ瀬君は私の憧れの人だ。私が今まで見てきた中で、一番素敵な男の子だ。それはずっと変わらないと思う。たとえ、私がこれから誰を好きになっても。
だけど私もそれを伝えることはできない。彼のためか、自分のためなのかはわからない。だけど、生と死に世界が分かれてしまった今、想いはかなわなくなった。
お互いの気持ちはそれぞれが手を伸ばせば通わせることができそうなのに。私は一言も発することができないまま涙を流した。我慢しようとしても、止まらなかった。
一ノ瀬「泣くな。俺、お前の笑った顔が好きなんだ」 彼はあの日と同じセリフを言い、私の頭を撫でた。透けてはいるけれど、まだ人間のぬくもりがある。
私「約束、守ってくれたね」 私は笑顔を作って言った。一ノ瀬君は私の頬の涙をぬぐいながら少し笑って肯く。
「天国にも、メジャーリーグってあんのかな」彼がつぶやいた。「いや、野球、できんのかな・・・。うん、野球ができれば、なんでもいい」
私は急に恥ずかしくなった。ソフトじゃメジャーに行けないとか、そんなことで拗ねていた自分。私は別にメジャーに行くために野球を始めたんじゃない。楽しいからだ。
私「また野球、しよう。何年先になるかわからないけど、いつか必ず」私は小指を一ノ瀬君とからめ、指切りをした。
本当はキスがしたかった。あの日のように、頬でもいい。でもそれは許されないことだ。一線を越えてはいけない。私たちはゆっくりとつないだ指を離した。
早乙女名無子は「南波リトルリーグ」の出身のメンバーでの同窓会のため、出身の小学校へ訪れた。 そこで様々な怪奇現象が起き、霊を祓う能力のある三剣を中心に調査する。 死んでしまったはずの一ノ瀬がよみがえり、彼をメンバーに加えて順調に学校の呪いを解いていくが 三剣は霊を祓うのに自分の命を削っていて、もう先が長くない、 さらに一ノ瀬は全ての呪いを解けば消えてしまうと言う。 三剣は名無子にキスをしてそばにいて欲しいと言うが、初恋の人である一ノ瀬との間で 複雑な思いの名無子。彼はそんな気持ちを知ってか、「忘れて欲しい」と告げる。 そんな矢先、名無子は二階堂に告白される。しかし「誰も好きにならない」と言ってしまう。 呪いの主は、かつてのメンバーだった七原の生霊ということが判明。 様々な負の霊を巻き込んでもはや別人となった彼だが、すべての呪いを解けば本来の姿になれるという。 最後の呪いを解きに向かう途中、視聴覚室で休憩をするメンバーたち。三剣の体力はもう限界だ。 さらに一ノ瀬の体は呪いを解いたために透け始めていた・・・。 早乙女 名無子・・・投手。変化球が得意。主人公。 一ノ瀬・・・投手。ストレートに定評がある。明るい人気者。野球の推薦で大学に入るが事故死。 二階堂・・・捕手。学校一の秀才。現在は地元の医大でスポーツ医学を専攻。眼鏡がトレードマーク。 三剣 ・・・三塁手。四番打者。飄々としたクールな性格。東京の大学生だが、本業はゴーストハンター。 四谷 ・・・左翼手。涙もろくやや小心でアクションが大きいお調子者。データ収集が得意。 五島 ・・・遊撃手。細やかな気遣いと優しい物腰で、少しキザ。長い髪の毛が自慢。反射神経がいい。 六条 ・・・二塁手。慎重で超常現象などは苦手。来て早々間接を外されるなど色々不憫な人。 七原 ・・・一塁手。中学時代に事故に遭い現在植物状態。一ノ瀬を恨んで、生霊となり攻撃してくる。 八坂 ・・・中堅手。小柄だがチーム一の俊足を誇る。脳天気で人懐っこい。実家は酒屋。 九衛 ・・・右翼手。軽いノリで単独行動を好み、サボりぐせがあるらしい。関西弁。 跳躍が得意。
そのとき床が揺れた。・・・と、思った瞬間、それは激しい揺れとなって名無子を襲う。「わ、わわっ! なに? じ、地震?」 名無子は立っていられず、床に四つん這いになった。
「大丈夫か!?」一ノ瀬君が私に手を伸ばして抱き起こす。揺れはいっそう激しくなり、私は一ノ瀬君に必死でしがみついた。
急いで視聴覚室まで戻ったが、ドアは立て付けが悪くなってしまい開かない。視聴覚室の窓は防音ガラスのため割れはしていないが、やはりゆがんでしまっていて開かない。
一ノ瀬君が窓枠ごと外れた窓から下を覗き込む。「名無子、お前ここから飛び降りて体育倉庫の屋根に着地できるか?」
運動神経は自信があった。だけど私だって怖い。まだ揺れは続いているし、体育倉庫だってそう大きいわけじゃない。私は首を横に振った。
すると、一ノ瀬君は私を抱き上げて窓枠に足をかけた。「ここから飛ぶぞ」
「無理!無理だからやめて!私、重いし…」「ウチの犬のほうがよっぽど重いよ。大丈夫大丈夫」
廊下の窓ガラスがまた割れた。電灯も破裂している。一ノ瀬君は笑って言った。「信じて」…そして、三階の窓から私を抱えてふわりと飛び降りた。
一瞬の出来事なのに、永遠のようだった。景色はスローモーションのように私の目に映った。
ふと一ノ瀬君の顔を見ると、かすかに笑っていた。こんなときなのに、夏の小川に飛び込む子供のような顔をしていた。
一ノ瀬君はいつも楽しそうだった。試合の点差が開いて追い込まれても、かえってそれを楽しむようにキラキラしていた。
この人にはやっぱりかなわない。思い出の中だけじゃなく死んでしまった今も理不尽なほど魅力的だ。
ダン!! 激しい衝撃が身体に走る。恐る恐る目を開けると、そこは体育館倉庫の屋根の上だった。無事着地できたことに、ほっと胸をなで下ろす。
と、一ノ瀬君の身体が前に傾いだ。慌ててバランスを取りつつ、足場を確保する。一ノ瀬君はその場に膝をつくと、ひとつ大きなため息をついた。「…悪い、何かちょっと疲れちまった」
「ここも危ないから、早く降りよう」 そう言って、一ノ瀬君は私を促した。三階からは無理でも、ここからなら私でも何とか飛び降りられる。
地面に到着すると、もう揺れは感じられなかった。どうやらただの地震ではなく、校舎だけが揺れているらしい。隣に立った一ノ瀬君を見て、ふと先程の様子が気になった。
私「一ノ瀬君、大丈夫? 疲れたって言ってたけど…」 一ノ瀬「ん? いや、平気だよ。さっきは何だか急に力が抜けてく感じがしたけど、もう何でもない。何だったんだろな」
言葉に詰まった。もともと彼はここにいるべき人ではないのだ。疲れるのも仕方がない。でも私はそれを口にしたくなかった。存在を否定してしまうような気がして。
私「みんな・・・閉じ込められたみんなは・・・」 一ノ瀬「あの部屋には三剣の結界が貼ってある。この地震が呪いに関係するなら、守られているんじゃないか」
一ノ瀬「必ず合流できる。この揺れがおさまったら、探しに行こう」一ノ瀬君は私をなだめるように背中をポン、と叩いた。
「うん・・・。」私は皆のことを心配しながらも私の手を引いていく一ノ瀬君に身を任せ体育館倉庫を後にした。
夕日もだんだん沈みはじめ、また夜が訪れようとしている。
私達は今無言で廊下を進んでいる。彼の透けた右手をじっと見つめる。強く握ればすり抜けてしまいそうだ。
「早乙女は」静寂を破り、一ノ瀬君が声をかけてきた。「あれからどうしてた?野球はやめちゃったって聞いたけど」
私「中学で、シニアに行こうとしたんだけど女子はダメだって言われて。学校の野球部ももちろんダメだし、ソフトを始めたんだけど、合わなくて」
私「女子ばっかりの面倒な人間関係も苦手だった。リトルのときが一番楽しかった。そこからは何もやってないんだ。誘われはしたけどね」
私「同じ中学だった八坂君や九衛君は心配して、いろいろ勧めてくれたんだけど。でも、何かやってれば良かったかなあ」
一ノ瀬「もったいないな」 重い言葉だった。幾重にも意味があるように思えた。 「やっぱり、その・・・彼氏とかできて、そっちがよくなったとか?」
私「ううん、そんなのないから。男の子とつきあうとか、全然。変かな」私があわてて否定すると、一ノ瀬君は少し笑って、そっか、と言った。
「一ノ瀬君は?」 私もおずおずと聞く。 「ずいぶんモテたでしょ?野球うまいし、かっこいいし」
一ノ瀬「両立とか俺そんなに器用じゃないから。それに・・・」 私を少し見て、再び前に視線を落とす。 「そんな風に思える奴、近くにいなかったし」
二階へ上がろうと階段まで来たものの、さっきの地震で踊り場を大きな柱がふさいでいて通れなくなってしまっていた
一ノ瀬「非常用のはしごが用務員室にあったと思うけど・・・どうする?」 1.はしごで二階に登ろう 2.ここでみんなが来るのを待とう 3.少し無茶して踊り場を突破しよう
1,用務員室は一階の保健室の隣だ。皆のことも心配だし急ごう
はしごをとりに用務員室へ入ると、私たちはあるものを発見した。
それはボロボロになった用務員室には不釣合いすぎるほど、真新しいグローブだった。埃が舞い散る中、グローブは汚れひとつなく、机の上にひっそりと座していた。
一ノ瀬「いいものだな。こんなところに捨てておくのはもったいない・・・持っておこう」
私たちは梯子を使って二階へあがった。上った先は偶然にも、私のもといたクラスだった。
私「ふたクラスしかなかったけど、一緒になったことなかったね。二階堂君なんて六年間一緒だったんだけど」
一ノ瀬「そうだったな。まあ、俺勉強できないし一緒じゃなくてよかったかも。遠視だからでっかいメガネかけててダサかったし」
そういえば、昨日来たばかりの時にメガネを拾った。私はバッグからメガネを引っ張り出して、彼に見せた。「これ?廊下で拾ったんだけど」
すると一ノ瀬君の顔色がかわった。「これ、なくしたやつだ。何でいまさら・・・」
一ノ瀬「これをなくしたとき、俺・・・うっ」 何かを思い出そうとしていた一ノ瀬君が、急に頭をおさえてかがみこんだ。
「どうしたの?一ノ瀬君!」私は必死で彼に問いかける。 一ノ瀬「何か・・・何か思い出せそうなんだ。大事なことが」
しかし、しばらく苦しんでいたものの、結局何も思い出せずに終わってしまった。 一ノ瀬「・・・もう少しで思い出せそうなのに」
そのとき、廊下からすさまじい音が聞こえた。「何?今の音・・・」私たちは教室から飛び出した。
廊下に長身の男の人が倒れている・・・九衛くんだ。
651 :
名無しって呼んでいいか? :2007/11/20(火) 00:37:35 ID:p+nuwvfn
九衛「さっきの地震で結界がおかしなって・・・三剣が一人で・・・」
それを聞いたとたん私は一気に血の気が引いた。三剣君がまた力を使ったら・・・。私は教室に向かって走り出す。
階段を駆け上がり視聴覚室にたどりつくと三剣くんが腐りかけた人間のようなものと対峙していた。
私「あれも七原君なの?」 一ノ瀬「いや、七原が巻き込んだ別の低級霊だな。あんなのにやられる三剣じゃないだろうが、数が多すぎる」
三剣君を一人で戦わせたくない。…でも、私には何も出来ない。闇雲に飛び込んでいっても、彼の足手まといになるのがオチだ。
一ノ瀬「三剣、結界をもう一度はれないのか?」 三剣「札を書いている暇がないんだ。気を張っていないと襲われる」
その言葉を聞いて霊の中に飛び込もうとした一ノ瀬君をさえぎるように一本の矢が目の前を横切った。
矢は霊を次々と射抜き、あれほどいた霊たちはすべて消えてしまった。振り向くとそこには、体育館で倒したはずのの若武者姿の七原君が立っていた。
一ノ瀬「お前、俺たちを殺しに・・・」 しゃべろうとする一ノ瀬君を三剣君が押さえ、身構える。
私たちはここで七原君に倒されてしまうのだろうか?身をかたくして七原君の出方を待つ。・・・しかし、彼は弓をしまい、きびすを返し・・・消えてしまった。
三剣君は壁にもたれると、そのまま座り込んだ。 一ノ瀬「おい、大丈夫か?」 三剣「…ああ」 一ノ瀬「……なんか七原に助けられた形になっちまったな」
私「でもどうして?七原君は私たちを殺そうとしているんじゃないの?」私は二人に問いかけた。
三剣「わからない・・・ただ、七原にも俺たちが仲間だという意識が残っているんだろうか」
一ノ瀬「あいつは優しい奴だ。誰かがエラーしても、いつも真っ先に声をかけてくれた」
いつだったかの試合のことを思い出した。直前まで降っていた雨でできたぬかるみに足を取られ、六条君が送球ミスをした。
それで一度に二点も失点し、みんな明らかにがっかりしたムードになったところを、七原君が懸命にはげまして、チームをたてなおしてくれた。
三剣「・・・優しい奴だった。でもその分、自分の気持ちを押し殺してしまうことも多かったんだろうな」
一ノ瀬「俺別に、あいつと練習するのがいやなわけじゃなかったんだ。なのに・・・」 一ノ瀬君は下を向いてくやしそうな顔をした。
確かに七原君はチームの中でもそれほど運動ができるほうじゃなかった。一ノ瀬君の練習相手には物足りなかったのだろう。
三剣「自分を責めるな。できるやつにはわからないこともあるんだ。それは仕方がないことだ、お前のせいじゃない」
無邪気すぎた天才少年と、そのすぐそばでいつも自分が普通であることを思い知らされてきた優しい少年。10歳そこそこの子供には残酷すぎる構図だ。
ふと横を見ると三剣君が玉のような汗を額にかいていた。一ノ瀬君が目ざとくそれを見つける。
一ノ瀬「三剣、お前かなりつらいんじゃないのか?顔色がどんどん悪くなってるぞ」
三剣「問題ない。俺は大丈夫だ。お前こそ・・・」 三剣君は一ノ瀬君の透けてしまった身体を見て、語尾を濁す。
この二人が向き合って話すのは、意外だけど実はとても珍しい。行動も別々だし、今思うとなんとなくライバル意識があったのではないかと思う。
全てのことを得意としていた一ノ瀬君だけど、打撃だけは三剣君に及ばなかった。当時は身体が小さかったせいもあった。
一ノ瀬の気遣う視線を振り払うように、三剣は立ち上がった。「それより、他のみんなを探さないと…。さっきの地震で屋根が崩れてきて、みんなバラバラに逃げてしまったんだ」
そうだ。九衛君も倒れていた。大怪我をしている人もいるかもしれない。
私は一ノ瀬君と三剣君を見る。形は違えども自らの残り時間があまり長くないことを互いに悟っている二人。
もしこの二人ともを失うようなことがあれば私は…耐えられるはずがない。でも私に一体何ができるだろうか…私は…
私は両隣の二人の手を何も言わずに握った。すり抜けてしまいそうな手ととても冷たい手を感じた。
私を包み込む大きな手。それがこれほど心細く感じるなんて・・・二人の負担にならないよう、何か存在意義を見つけなければ。私はそう思った。
そういえば四谷君が運動で秀でた部分がないからデータを集めて自分の存在意義を確立したと言っていた・・・きっと彼もこんな気持ちだったんだろう。
「五島!」 三剣君が叫んだ。廊下奥の瓦礫の下から艶のいいきれいな長い髪と、オフホワイトの柔らかそうなショールが見えている。
私たちは五島君の上に落ちた瓦礫をどかし、五島君を救い出した。「しっかりしろ、五島!」
五島「う・・・ん。三剣?」けだるそうに目を上げる。 三剣「大丈夫か?」 五島「ああ、ちょっと頭をぶつけただけだ」
五島「あの柱が急に倒れてきたからよけたんだ。そしたらこっちの壁も崩れてきちゃって」 五島君が指した方向には大きな柱があった。あれの下敷きになっていたら危なかった。
「…気のせいかもしれないんだけど」 体中の砂埃を払いながら、五島は言い辛そうに言葉を発した。「避けようとしたときに、なんか声が聞こえて…」
三剣「声?」怪訝な声を出しながらも、視線は私たち二人にしっかり向けられている。まるで、何かを確かめるように。
七原君は攻撃する反面、私たちを守ろうとしてくれている。不思議な話だけど、きっとそうだ。
さっきの九衛君がいたポイントまで戻ると、二階堂君が九衛君を抱え起こしていた。
九衛「大丈夫やって・・・」 二階堂「ダメだ。腕の骨が折れてる。添え木をして安静にしないと」
添え木になるもの・・・周りを見回すと、「3年2組」の札が差し出された。 「そこに落ちてた。これがちょうどいいと思う」 六条君だった。
私のハンカチで結びつけて、なんとか処置がすんだ。 九衛「お前に助けられるとはな。なんか後が怖いわ」
六条「こんな時くらい協力するさ」 そして少し照れたように視線を外して言う。「・・・別に、俺お前のこと嫌いってわけじゃないし」
九衛君が驚いたように目を丸くした。いつもの彼からは珍しい表情だ。それから少し微笑むと、穏やかな声で「ありがとな」と言った。
「おーい、みんな無事か?」 見上げると、かろうじて崩れなかった梁の上に八坂君が乗っている。
きょろきょろとお互いに顔を見合わせる。「・・・四谷がいない」六条君が険しい顔をして言った。そういえば姿が見えない。
三剣「手分けして探そう。・・・そうだな、30分後、ここにまた集合で」 私は誰と行こう? 1.一ノ瀬・二階堂 2.三剣・五島 3.六条・八坂・九衛
2.やはり顔色の悪い三剣君が気になる。…が、ふと見ると、九衛君の顔色も青い。無理もない、腕を骨折しているのだ。三剣君と九衛君にはここで待機していて貰うことにし、私は五島君と共に、四谷君の捜索に出た。
五島君の隣を歩くのは居心地がいい。彼はいつも隣の人に歩調を合せてくれる。キザなところはあっても誰よりも気配りのできる人だ。
五島「ねぇ、名無ちゃん。」唐突に五島君が口を開く。「こんなときに聞くのはあれかもしれないけど、今でも一ノ瀬が好きかい?」
私「わ、わからないよ!何で今そんなこと・・・」何でそんなこと聞くんだろう・・・。負担になりたくないって思っているのに。だから誰も好きにならないって決めたのに・・・。
五島「うん、そうだね。けど昔の君はずっと一ノ瀬を見てたよ、他には目もくれないで。あれは君に少なからず好意を持っていた野郎共からしたら切なかったね、ほんとに。」
五島君は懐かしそうに目を細める。「僕も君が好きだった。」そういうと彼はにっこり笑った。
五島「子供ながら一人前に嫉妬していたよ。君に僕の方を向いて欲しくてたまらなかった。他の奴らも今思うとそうだったんだろうけどね。」
私はただただ黙って聞いていた。五島君の言葉は柔らかく心に染みていくようだった。
五島「ある日ね、気づいたんだ。君を見ている一人の男のこと。そいつは何にも言わないし、何も表情に出さないけど本当に君のことが好きだった。」
五島「君の気持ちが誰に向いていて、自分に向くことはないってことも、理解した上で。君が遠くで笑っているだけで安心するような奴さ。」
五島君はくすくす笑った。「小学生でだよ?ほんっと信じられないよね。・・・でも僕は負けたと思ったよ。」
「あいつは、いつになったら君に好きだと言えるんだろう。」五島君の表情が少し憂いを帯びた。
五島「名無ちゃん、君は本当にわからないのかわかりたくないのか、どっちなんだい?」
確かに私は、一ノ瀬君に夢中だった。彼の笑顔も、話す声も、他の人なんか目に入らないくらい大好きだった。
好きだということは素敵なことで、誰かがそんな思いをしているなんて考えもしなかった。あのころは。
三剣君が私にした優しいキスを思い出した。そばにいてほしいと言った。それは本音だろう。あの後、覆されてしまったけれど。
私「・・・わからないわけでも、わかりたくないわけでもないよ」私はやっとのことで声を絞り出した。
私「でも今は、答えを出せないんだ。本人からはっきり言われたら、その時初めてわかる気がする」
一ノ瀬君を見ると今でも胸が高鳴る。だけど三剣君のことを考えるとどうしようもなくせつなくなる。二人とも大好き、ではすまされない。…大人なのだから。
だが、それは恋愛感情なんだろうか?一ノ瀬君に対するこの思いは、小さい頃の憧れを引き摺っているだけなんじゃないだろうか。
三剣君に対する感情も然りだ。大事な仲間という関係に付随する、この感情は・・・余命幾許もない彼への、同情・・・なのかもしれない。
「・・・ごめん、名無ちゃん」 五島君が沈黙を破った。「君にだけ求めるのは、筋違いだね。・・・そうだね、何も言わないくせに分かってもらおうなんて、確かに虫が良すぎるよ、うん」
五島君の長い髪がふわりと揺れる。この人は優しすぎる。親友を気遣いながら、私のことも気遣ってくれるなんて。
いつも細やかに気を配ってくれる五島君も、余計なことを言わない三剣君も、二人とも本当に優しい。接点がないようでいて、彼らは似た者同士なのだ。
そのとき、どこか遠くで瓦礫の崩れる音が聞こえた。 1.現場に急行する 2.気にせず、このまま進む 3.怪しいので他の仲間を呼ぶ
1.誰かが怪我をしたかもしれない。とりあえず見に行こう
五島「たぶん、ボクたちがもといた地点のあたりだよ」 五島君はすごく目も耳もいい。それが反射神経の基礎となっている。
私達は急いで戻ろうとした。教室に近づいた時だ。どこらから呻き声が聞こえる
「四谷?」私には聞き分けられなかったが、五島君が一点を見つめ、そちらへ向かってきびすを返し歩き出した。
私「気をつけて!まだこのあたり、崩れてくるかもしれな・・・」 その時だった。私の背後が暗くなったかと思うと、大きな壁が崩れてきた。
それは一瞬の出来事だった。私は後頭部に熱を感じた。・・・いや、痛みだ。
「・・・痛・・・」助けを呼ぼうとしたがしだいに朦朧としていく。混濁した意識の下、誰かの姿を見たような気がしたが、そのまま私は気を失ってしまった。
薄れゆく意識の中、 ・私達は物音を聞いて引き返してきた ・教室の近くで呻き声がした ・五島が「きびすを返して」そちらに向かった 以上の3点から私を襲ったのは五島であると推測して、気がついてからの行動を起こすことにした。
しかし冷静に考えると
>>730 で私の背後の壁が崩れただけだった。五島君ごめんなさい。
「・・・しっかり、大丈夫か!」 頬を軽く叩かれて意識が戻った。私を起こしたのは・・・
「あれ…?五…島君…?三剣…君?」
五島「名無ちゃん、三剣が来てくれたよ。遅い僕らを心配して探しにきてくれたんだ。」
三剣君・・・?私はぼんやりと彼を見上げる。あ、また心配そうな顔してる。笑わなくちゃ・・・けど頭が痛い。
なんで頭……痛いんだろ?それに……私どうして寝てたのかな?
崩れた壁の向こうに見えるのは、初日の出……?
741 :
名無しって呼んでいいか? :2008/01/12(土) 03:48:06 ID:+jtDzgqy
三剣「早乙女さん、無理に起き上がらないで。頭を打ってる」三剣は自分の荷物を五島のショールでくるみ、私の頭の下に敷いた。
そこは……らめぇっ
三剣「もうちょっと上?」
私の頭を抱き起こし、三剣君の胸が近づく。まるで壊れ物を扱うような優しさだ。
ふと、私は本当に壊れている感じがした。
何故こんなことになったのか、私はただ同窓会に来ただけだったのに。突然私の中に黒い感情が生まれる。
「名無ちゃん、まだ動いちゃだめ」五島の制止を振り払い、私は上半身を起こした。
中からつきあげるような衝動に駆られ、気づけば私は五島君をつきとばし、三剣くんの顔を拳で殴っていた。
三剣「不意打ちはずるい。」彼はぺっと口の中の血を吐き出し私に向き直った。
あれ?なんで…?私は呆然と、振り下ろされる自分の拳を見つめていた。
私はなおも三剣君を殴り続ける。自分で自分が信じられない。まるで自分の体じゃないみたいだ。
三剣君は何度か殴られたあと、私の拳をそっと受け止めた。「お前・・・早乙女さんに憑いたのか」
憑く?何が私に?体中が急激に冷え、自分の意志と裏腹に私は三剣君たちに背を向けて走り出していた。
どうして?どうして体が勝手に…私はひとしきり走ると、窓際まで来て追ってきた三剣君たちを振り返った。
三剣「待てよ。その子の体から出て行ってもらおう」鋭い眼光で彼は私を見つめている。
「断る」私の口から私のものではない低い声が洩れる。「お前の弱点はこの女なことはわかってる。おれを祓おうとするなら、ここから飛び降りてやるよ」
三剣「くそっ・・・!」三剣君はくやしそうに端正な顔をゆがめ、構えを解く。そのタイミングで、私の腕が三剣君の喉元を掴む。
私の身体が三剣君に馬乗りになり、彼の細い喉を力いっぱい締め付ける。 五島「やめなよ、名無ちゃん!名無ちゃん!!」
(やめて・・・何でこんなこと・・・私やりたくないっ!)しかし体は私の意志に従わず、薄ら笑いを浮かべながら彼の首を締め続ける。
しかし本当は苦しいはずなのに三剣君はろくな抵抗もしない。そしてそんな私から少しも目を逸らすことなくこう言った。
三剣「俺を殺してもかまわない。だが、彼女の体からは出て行ってくれ。その体で、人を殺したりしないでくれ」
「たいした思いやりだな」また低い声が洩れる。「お前の大好きなこの女は、お前なんかただのオトモダチとしか思っちゃいないのによ」
「命をかけて守ろうとしたところで、この女の頭の中はあの幽霊の男のことでいっぱいなんだぜ、みじめなもんだな」
三剣君はその言葉に一瞬目を伏せたけれど、すぐに私の目をまっすぐ見つめて言った。「俺は、それでもかまわない。早乙女さんが幸せなら、それでいい」
(君の気持ちが誰に向いていて、自分に向くことはないってことも、理解した上で。君が遠くで笑っているだけで安心するような奴さ…)五島君の言葉が頭をよぎった。
ぽとり。三剣君の顔に、何かの雫が落ちる。彼は私を驚いたように見ている。それでも落ち続ける雫。
三剣君の視線が私を優しくいたわるようなものに変わる。 三剣「泣かないでくれ。そんな顔をされると、辛い」 …私は泣いていた。胸の痛みに。彼の深い優しさに。
私の気持ちに反するように、指に力がこもる。三剣の顔はいっそう青ざめ、いよいよ苦しそうだ。彼は私を見つめたまま、乾いた唇を開いた。
三剣「最後になるかもしれないなら、今言おう。ずっと言えなかったけど」長い睫毛が揺れ、ゆっくりと、彼は言葉を紡いだ。「君が好きだ」
三剣「本当・・・に大好き・・・だっ・・・。」そして私の頬の涙を指で優しく拭うと今まで見たことのないくらい綺麗に微笑んだ。
「ありがとう」と自然に言葉が出た。「でも、だめだよ…だって彼を殺したのは」
「この女から、一生あの男を忘れさせないため。お前はずっと叶わない思いで焦がれればいい。それがおれたちを嬲り殺してきたお前への復讐なんだ」
私の胸が鈍く深く痛んだ。息もできないくらいに。私・・・私は・・・その刹那、「三剣君!!」あの低い声ではない。私本来の高い声だ。
一瞬、三剣君の首を絞める私の指の力が弱まる。するとどこからか強風が吹いて私の体は壁に強く叩きつけられた。
激しく軋むような体の痛み。私がそっと起き上ると、漆黒の獣のようなものが、誰かと…一ノ瀬君と対峙していた。
一ノ瀬「戻りが遅いから心配してたら、五島が来てくれたんだ」強張った顔のまま、私を横目に見ながら言う。そして視線を元に戻す。「名無子に憑くなんて、いい度胸だ」
あの獣が私に憑いていたなんて… 三剣くんが咳をしながら身を起こした。「こいつは心のちょっとした闇に住みつくんだ」
私がこんなことになってしまった運命を恨んだから?思わずうつむくと、三剣君は優しい口調で言った。「大丈夫。君は悪くない」
三剣「さて」三剣君は額から髪を後ろへかきあげ、鋭い視線を獣に向ける。「とっととやっつけようか」
獣「おれに手出しはしないんじゃ・・・」 三剣「早乙女さんさえ無事なら関係ないね」そういうと彼は小声で呪文のようなものを詠唱しだした。
三剣「オン アビラウンケンソワカ、オン アビラウンケンソワカ…」
獣は激しく光を放ち、荒々しい毛並みに火が付いた。苦しそうに数回身をよじり、あおむけに倒れると、三剣君を充血した瞳でにらみつける。
三剣「恨むならいくらでも俺を恨めばいい。この命尽きるまでお前達と戦ってやる。それが俺の運命だ。だから・・・」
「俺はお前を倒す」 強い光があたり一面に満ち、獣は激しい叫び声とともに光の粒に変わった。
私はほっと胸をなでおろす。蒼白な顔のまま、三剣君は立ち尽くしている。 私「今のが七原君と融合していた悪い霊なの?」
三剣「・・・七原の霊はいろんなものを巻き込んでいるから、もしあいつがその霊のひとつだったとしても、他にもまだとりついているだろうな」
一ノ瀬「ただ、俺思うんだ」一ノ瀬君が会話を遮るように言う。「視聴覚室での七原、あれは体育館で見た七原とは違ってた気がした」
三剣「ああ」険しい顔をあげた。 「きっと俺たちが霊を祓うごとに、七原も浄化されているんだ」
三剣君の顔を見上げる。ふと視界をよぎったものに、私は戦慄した。…三剣君の首にうっすらと残る痣……それは私がつけたものだ。この手で…!
まだ手には首を絞めたときの感覚が残っているようだった。「…ご、ごめ…っごめん……ごめんなさい、三剣くん…」
三剣「早乙女さん……きみのせいじゃない。それに性質の悪い奴に憑かれてしまった、きみの方が苦しかったはずだ」
私達は見つめあった。お互いの気持ちを確かめるように。私覚えてる。朦朧とした意識の中でもあの言葉だけは。
彼は私に初めて好きだといってくれた。
彼は見返りを求めないどころか、私に殺されてもいいと言った。私のことだけを思って。
私は一ノ瀬君を想っていた。小さい頃から憧れていた。彼を大切なのは今でも変わらないけど、私の中でそれとは別に新しい感情が生まれていた。
三剣君を失いたくない。今までそのことに目をそむけていたけれど、私は彼のことが本当に愛しい。
私は恋をしている。彼のことを好きになってしまったんだ。
もしも全てが無事に終わって、ここを出ることが出来たら、三剣君にこの気持ちを伝えよう。今はまだ言うべきじゃない。彼の心を無駄に揺らがせてはいけない。
私達は一旦、他のメンバーと合流することにした。悪霊に取り憑かれる危険を考慮して、祓える三剣君が傍にいた方がいいと意見が一致したからだ。
もといた地点に戻ると、ぐったりした様子の四谷君をほかのメンバーが囲んでいた。
私「四谷君、大丈夫?」 二階堂君がマッサージをしている。「ああ、足をひねったようだけど、大した怪我じゃない」 そう言うと眼鏡を押し上げ、三剣君の喉を見た。
二階堂「三剣、お前その喉どうしたんだ。・・・早乙女も顔が蒼いじゃないか」
「あ・・・私・・・」 何と言っていいのかわからず、しどろもどろに口を開くと、五島君がさえぎる。 「まあいいじゃない。みんな無事だったんだから」
二階堂「俺はいつも何も知らないんだよな」 そう小さく自嘲気味につぶやくと、立ち上がって一ノ瀬君に言った。「次は音楽室だけど、覚悟はできてるのか?」
次の呪いを解けば、一ノ瀬君は消えてしまう。透けてしまった逞しい背中。今ここにいるのも夢のような出来事なのに、私は再び彼が消えるのが怖い。
そういえばあの獣が気になることを言っていた。一ノ瀬君を殺したのは、私が一生彼を忘れないため、三剣君の思いを叶えないためだと。
自らの命を削り悪霊を退治して、悪霊に人生を阻まれる。それが三剣家の運命だとしたら、あまりにも残酷だ。
一ノ瀬「俺はみんなとこうしてまた会えたことに感謝してる。それだけで十分だ。あとはみんなが無事に帰れるなら・・・もう思い残すことはないよ」
そうして一ノ瀬君はあの頃のように笑った。このまま音楽室に行けば、彼と話す機会はもうないかもしれない……そんなことを予感させる笑顔だった。
だけど、私たちは前に進むしかない。時間がたてばたつほど、ここからの脱出は絶望的になるのだから。
「それにしても、ウザいなぁあいつ…」「え?」
九衛が六条の文句をブツブツ言っていたので、一ノ瀬はそれをたしなめた。「お前らこんな時までケンカすんな。ほらほら。さっさといくぞ」
そういって二人を教室から押し出すと、彼は私のほうへ向きなおって言った。「俺・・・思い出したんだ。事故の日のこと」遠い目で、ゆっくり語り始める。
一ノ瀬「たぶんこれが思い出せる最後の記憶だ。だから、きっとこれで最後なんだ。いい話じゃないけど、嫌な顔をしないで聞いてほしい」
「俺が練習から帰る途中、車道の向こうにお前を見つけたんだ。今考えるとお前があんなところにいるわけないのに。それで車もいないし、急いで渡ろうとした」
「走ってる途中、もう少しって時にお前の姿が急に消えて・・・俺のすぐそこに、トラックが迫ってた。・・・記憶はそこまでだ」
私「それって・・・」 一ノ瀬「ああ、俺は幻覚を見せられたんだ。さっきの悪霊が話してたように、俺は殺されたんだ」
聞こえていたんだ。私は目を伏せた。 一ノ瀬「責めているわけじゃない」
一ノ瀬「俺が言いたいのは・・・七原の俺を恨む思念が、三剣を恨む悪い霊と最悪の形で融合してしまったんじゃないかってことだ」
一ノ瀬「だから俺は、霊を倒して一刻も早く七原を元に戻したいんだ。苦しいだろう。三剣も、七原も」
消えてしまうのが辛くないはずないのに。この人もまた、仲間を想っている。泣き出しそうな気持をこらえて、私は一ノ瀬君に言った。「行こう」
一ノ瀬「ああ。」彼はにっこりと笑った。あの頃と同じように。
音楽室の前では三剣君が扉と対峙していた。ドアの取っ手には九衛くんの手がかかっている。「ええか?いち、にい、さんで開けるで」「ああ。いつでもいい」
九衛くんがいつになく緊張した面持ちで、額に汗をかいている。少しとまどった顔をしたが、こちらを見るとニヤリと笑い、声をあげた。九衛「せぇの・・・いち、にい、さん!!」
「?」 音楽室は埃をかぶったピアノと、使い物にならない机椅子がバラバラに置いてあった。そこには何の気配もない。
九衛「なんや、誰もおらんのかいな」 五島「しっ!なにか聞こえるよ。耳を澄まして」 ゆるんだ気を引き締めるように五島君が注意を促す。
そっと耳を澄ますと、どこからか泣き声のようなものが聞こえる。「・・・グスッ、・・・ひっ・・・」 声の主を探そうと、きょろきょろとあたりを見回すけど、誰も見えない。
一ノ瀬「あいつが・・・いるな。」三剣君は一ノ瀬君に頷くとゆっくりと奥のほうに歩いていく。
窓際の一番後ろ、ぼろぼろになったカーテンの隙間に声の主はいるようだった。風もないのに、カーテンが揺れている。その隙間から見えるのは・・・
一ノ瀬「・・・誰もいない」 カーテンの向こうは無人だった。ほっと胸をなでおろしたが、すぐに三剣君は構えを戻した。「!」
よく見るとカーテンの向こうの窓ガラスに、泥だらけの子供がぼんやりと浮かび上がっている。それはだんだんと濃くなり・・・「 来 た ん だ ね ・・・」
「キャアアアアアア!!」私のすぐ後ろに泥だらけのユニフォームを着た子供が立っていた。
彼は充血した瞳で私たちをゆっくり見回すと、ニヤリと笑った。その口の中からドス黒い血があふれ、床を汚す。
三剣君は独特の構えを取ると、小声で呪文を唱えた。窓ガラスに写る子供の動きが止まると、私達の目の前にいる子供も同じように動きを止めた。
三剣「こいつはガラスに写っている方が本体なんだ。そっちはフェイク。写し身だ。・・・本体を叩けば、全て終わる!」
「そうはさせない」 ガラスに映る子供の数が倍々に増え・・・いつしか目で追えないほどの数になった。 一ノ瀬「これじゃ誰かわからないな」
私たちは顔を見合せた。ガラスいっぱいに映った子供は不気味な顔で微笑んでいる。 そんな静寂を、六条が破った。 「七原。どうして、音楽室なんだ」
考えると、体育館もプールも、理由があった。一ノ瀬との因縁が。けれど音楽室は一見何にも関係ないように見える。六条は冷静に語りかけた。「どうしてだ?」
するとにやにや不気味に笑っていた窓の顔が一斉に真面目な顔になった。
ノイズがかかったようにぶれて後全ての顔が消え去った。残ったのは、一つだけ開け放した窓から吹き込む夜風に揺れる赤いカーテンの音だけ。
彼はその窓枠に腰をかけ、黒い長めの髪が風に揺れるのをそのままに外を見おろしていた。私達に背を向けたまま。
七原「ここからだけなんだ・・・グラウンドが見えるの。」静かだがよく通る声で彼が呟く、私達の質問答える内容だったが彼の独白のようにも聞こえる言い方だった。
そうだ。リトルリーグは私たちの学校の生徒が多かったので、学校のグラウンドを借りて練習していた。緑の深いうちの学校だけど、ここからなら全体が見渡せた。
七原「いつも、俺たちの練習の終わった後、一ノ瀬は早乙女と二階堂と練習してたよね」目にかかる長い前髪が風に揺れ、鋭い視線が私たちを捉えているのが見えた。
七原「俺が相手で、不満だったんだろ。踏み台にもなってない。あのチームのお荷物なんだ。監督が知り合いだからレギュラーになってただけだしな」
七原「俺はお前らの練習、ここから見てたよ。だってそうだろ。俺のいないあいだ、どんな練習してるのかさえわからないなんてみじめじゃないか」
ふと彼は視線を逸らすとまた窓の方を向いた。七原「でも・・・なによりそんな自分が情けなくて、かっこ悪くてどうしようもなく苦しかった。そのうちグラウンドに顔を出すのも・・・辛くなった。」
七原「事故にあった後、気づいたらここにいた。何でここに戻ってきたのか自分でもわからない・・・いや・・・。」七原君はゆっくりと頭を振るとこちらに向き直った。
彼はトンッと靴音を立てて音楽室に降り立つ。七原「お前ら俺を殺しに来たんだろう?だったらさっさとやった方がいいぜ。そうしなきゃ・・・」
彼は俯くと苦しそうに言葉を吐き出した。七原「俺がお前らを殺しちまう。」
私は思わず叫んだ。 1.「本当にそんなこと思ってるの!?」 2.「七原君、あなたはまだ生きているんだよ!」 3.「ふざけたこと言ってんじゃないわよ!」
2「七原君あなたはまだ生きているんだよ!」私は一歩前に出て悲痛な思いで叫んだ。
七原「俺はもう死ぬ。何年もここにいて少しずつ何かに心が蝕まれていくのがわかった。あいつらは俺の命を使って力を得ている。俺が生と死の間にいる絶好の餌だからだ。」
七原「そしてお前らがここに来たことで動揺した俺の心にあいつらは今容赦なく入ってくる・・・。もう・・・抑えることが・・・できないんだ。」
一ノ瀬「あきらめるな!お前は霊を祓えば本来のお前に戻れるんだ」そう叫ぶと、七原君ははっとそちらを向き、彼が持っている用務員室で拾ったグローブに目をとめた。
七原「一ノ瀬・・・それは・・・」 一ノ瀬「ああ?さっき用務員室で拾ったんだ」 七原「ああ・・・やっぱりそれはお前のところに行く運命だったんだな」
二階堂「どういうことだ?」怪訝な顔で二階堂君がたずねる。 七原「一ノ瀬が四谷とケンカして、グローブをダメにされたときがあっただろう」
七原「あのときの一ノ瀬辛そうで、なんとかしてやりたいって思ってた。俺、その時使ってたののほかにばあちゃんにもらった新しいグローブ持ってたから、それを渡そうとしたんだ」
七原「渡そうと思って行ったら・・・一ノ瀬は先生に新しいグローブをこっそりもらってたよ。大事なエースだから特別だ、みんなには言うなって。俺見たんだ」
七原「お前はいつも好意をふみにじるんだ。当然みたいな顔でみんなに引き立てられて、何の疑問もなく特別扱いされてるんだよ!」
彼の周りにゴォォと黒い靄が立ち上る。私はその禍々しい風に思わず目を覆いたくなった。
そんな私を庇うように立ち塞がるのは。「下がって、早乙女さん。」三剣君だった。彼はさっきとはまるで違う空気を纏った七原君を真っ直ぐに見据えている。
三剣「七原、俺はお前を死なせない」凛とした、意志の強い声が響く。「お前は俺たちの仲間だ。俺がお前を救ってみせる」
三剣君が手をかざすと、黒い靄が蒸気のように消えていく。それを見て、七原君が少し怯んだように見えた。「そしてみんなも守る。誰も殺させやしない。・・・俺も、死なない」
七原「そうはいくか」今までとうってかわった、低くくぐもった声があたりに響く。「仲間を殺され続けた俺たちの積年の恨みだ」
ガシャン!!窓ガラスが一斉に割れ、三剣君に降りかかる。上着の背中は裂け、首にも痛々しい傷がたくさん刻まれた。
七原「この卑屈な男と俺たちは、波長が合うんだ」にやりと笑う。心の底から凍るような、冷たい笑いだ。
三剣君は首からだらだらと滴り落ちる血をぬぐう。 二階堂「頸動脈の付近まで切れてる。一回、手当を・・・」 三剣「そんな時間はない。七原がこのまま向こう側へ取り込まれる」
三剣君はよろよろと後ろへ下がると、壊れた椅子を持ち上げ、床にたたきつけて脚を外した。両手でそれをかまえると、呪文を唱え始める。
四谷「三剣・・・! くそっ・・・俺たちは黙って見てることしか出来ねーのかよ」 五島「でも知識のない僕たちじゃ、却って足手まといになるかもしれないし・・・」
一ノ瀬「みんな、俺に気を送ってくれないか。俺の力は生の気から生まれてるんだ・・・俺は霊だからあいつに触ることができる。俺なら、三剣の手伝いができると思う」
八坂「気ってなんだ?」 一ノ瀬「俺に触れてくれ。そして念じてくれ。自分の得意なこと、できることをたくす気持ちで」
私「私達の七原君への思いも一緒にね。」私はにっこり笑って一ノ瀬君の手を握る。一ノ瀬くんは頷いて言った。「必ず伝える。」
一人、また一人と彼に触れるたび、薄くなっていた彼の体が濃く実体化していく。彼に力が漲るのがわかる。 一ノ瀬「ありがとう。それじゃ、行くぜ」
三剣君の手にした鉄パイプから繰り出される気を、七原君は巧妙にかわし、無数のガラスの破片を三剣君めがけて降らせる。吹き出物ひとつない頬が傷つき、また血が流れる。
七原「今度は皮膚じゃなくて目をつぶしてやろう」ククク、と笑い、髪が逆立った。積み上がった机が持ち上がり、三剣君めがけて鋭く飛びかかる。
一ノ瀬「三剣ー!!」皆から力を得た一ノ瀬君が一瞬の間に三剣君の前に出ると彼に向かってくる机を弾き飛ばした。
すると目にも止まらないスピードで一ノ瀬君がその間に滑り込み、腕で机をブロックした。「させるか!!」
一ノ瀬「七原、聞こえるか?俺は別に、お前との練習が足りないとか、そんなつもりじゃなかった。お前だって、大事な仲間だったんだよ」
七原「・・・うるさい・・うるさいうるさいうるさいっ!!一ノ瀬、お前の優等生面したその態度は、もううんざりなんだよ!」 さっきまでの声とは違う…これは七原君自身の声だ。
七原「お前は自分さえ納得できれば、それでいいと思ってるんだろ!そうやっていつも無条件で許して……だから俺はずっとお前に謝れないままなんだよ!」
七原「謝る必要なんかあるもんか」また急に顔つきが変わる。「お前はこいつに傷つけられてきたんだ。やっと復讐ができたんだぞ」
七原「俺とお前は利害が一致してる。お前はこの男が憎い。俺は三剣家の末裔を苦しめたい。そのためにはこの男を痛めつける必要あった。簡単な話だ、罪悪感なんかいらない」
(死者に魅入られたものは、闇へ落ちてしまう)三剣君の台詞が頭をよぎった。「七原君、しっかりして!そんな話に耳を傾けちゃだめだよ!!」
七原「うるさい!!」私は積み上がった机へ叩きつけられた。体を強く打ち、そのはずみで頬が少し切れた。血が出ているみたい。
しかし体を強く打ったはずなのにあまり痛みはひどくない。不思議に思っていると私は背中に温かいぬくもりを感じることに気がついた。
三剣「っ・・また・・・怪我させた。」彼は私を後ろから抱きしめながら苦しそうに呟いた
平気だよ、と言うのとほぼ同時くらいに、一ノ瀬君は七原君に飛びかかり、拳で強く七原君を殴りつけた。「名無子を傷つける奴は許さない」
七原「いいのか。俺と七原は一心同体だ。俺を殴れば七原も傷ついて、死に近づくんだぜ」 その言葉を聞いて、一ノ瀬君は悔しそうに唇をかんだ。
七原君は拳を振り上げて一ノ瀬君を殴った。彼はその痛みにじっと耐えている。「七原、なぁ七原。俺達、ちゃんと話し合ったことなかったよな?ずっと一緒に練習してきたのに」
一ノ瀬「いまさら信じないかもしれないけど、俺、ずっとお前と仲良くなりたかったんだ。だれよりも優しいお前のこと、ちゃんと好きだったんだ」
一ノ瀬君は依然殴られ続けている。それでも話すことをやめない。「思い出したよ、移動教室の時・・・俺、買ったばっかりのメガネなくして。一緒にいたみんな探すの飽きてどっか遊びに行っちゃってさ」
一ノ瀬「でも、七原。お前だけは、最後まで一緒に探してくれたじゃん。心細くて泣いてた俺のそばで、ずっと一緒にいてくれたよな。俺、すごく嬉しかったんだ」
七原君が振り上げた腕をピタッっと止める。その表情からは感情が読み取れないが振り上げた手は震えていた。
「お前は優しい奴だ…それは昔も今も変わらない。俺はそう信じてる」 音楽室の中に響く一ノ瀬君の声。腕を振り上げたまま、七原君は考え込むように俯いてしまった。
一ノ瀬「ずっと仲間だったのにお前の悲しみに気づいてあげられなくってごめんな。お前は俺にとって大切な友達だ。皆だってそう思ってる。」
しん…とした静寂の中、誰一人として動けないまま短い時が過ぎる。 「………て」 その時、微かに聞こえてきた声に、私は耳を澄ませた。 「…………たすけて」
(これは七原君の声?) 「な、七原君・・・?」 その瞬間、七原君は崩れ落ちるようにその場に倒れた。七原君の身体を纏っていた黒い靄が剥離されるように浮かびあがる。
やがてそれが人の形になり、人間よりも遙かに禍々しい気を帯びた長い髪の男の姿が現れた。「よぉ、三剣の。」男がニタッと笑い三剣君の前に立つ。
男「随分ボロボロになってくれたみたいで嬉しいぜ。俺のこの姿か?これはお前を恨んでいる霊が集まってできた姿だ。どうも単体じゃあ敵わないみたいだからな。俺らも頭使ったわけ。」
男「それに・・・」男はチラッと一ノ瀬君にグッタリと圧し掛かるように倒れている七原君を見て笑いながら言い放った。「この馬鹿な餌にたっぷり力を貰ったから容易にできたんだぜェ、ヒャハハ!」
三剣君は静かに男を見つめている。私は恐怖で無意識に彼の服を握ってしまっていた。そんな私に彼は大丈夫だとでも言うように私を自分の後ろに下がらせる。
男「まさかコイツが抵抗してくるとは思わなかったけどな。それは計算外だったぜ」顎の先を動かしていまいましそうに七原君のほうを指す。 こんな時なのに三剣君はそれを聞いて、少し笑ったように見えた。
三剣「いくら集まったって、ザコには変わりない」首からも顔からも血が流れ続けているのに、その表情には余裕さえ感じられる。彼は先程から気をため続けていた鉄パイプを、すっと正面にかまえた。
「喰らえ!!」そう言うと三剣君は鉄パイプを男めがけて鋭く投げた。大きな気をまとったそれを、男はすんでのところでかわしたが首元が大きく裂け、長い髪が分断されて宙に舞った。
髪の先から靄が蒸発するように立ち上り消えていく。「数を揃えたところでこうやって末端から崩すことはできるさ」三剣君は、ブーメランのように戻ってきたパイプを再び構えて不敵に微笑んだ。
そのやり取りを見ていて、私は閃いた。「三剣君!これ、その鉄パイプであいつに打ち返して!!」 私は近くに落ちている手頃な瓦礫を拾うと、球出しの要領で三剣君に向かって投げた。
三剣「…!」 私の言葉をすぐ理解してくれたのか、三剣君は少し身体を引いて、飛んできた瓦礫を思い切り打ち返した。パイプから伝わる三剣君の気が、瓦礫へと移ったのが分かった。
チームの四番打者の弾丸ライナーが、鋭く男の脇腹をえぐる。その衝撃でさっきよりもたくさんの靄が立ち上り、ゆらりと消えていった。
「やるじゃねえか」男はニヤリと笑いながら言う。「調子に乗ってられるのも今のうちだ…そろそろ効いてくるころだな」
三剣「!?」先ほど切られた三剣君の首の傷から、染み出るように黒い柄が広がっていく。「これは…呪い!?」端正な顔をゆがませながら首を押さえ、その感触を確かめるように何度も触っている。
三剣「くそ・・・痺れて・・・動かなく・・・」男は苦しそうな三剣君の前に立ち、冷たい瞳でじっと彼を見下ろした。「ざまあねえな。お前もひと思いにパパやママのとこに送ってやるぜ」
男は三剣君の持っていた鉄パイプをもぎとり、頬を足で踏みつける。そのままパイプをみぞおちに押し当て、力をこめた。綺麗な顔が苦しみに歪む。
誰か。誰か助け・・・「一ノ瀬!」外野から声が飛び、上空の影にはっと気づく。一ノ瀬君が高く跳び上がり、男の背中へ垂直に落ちるように強く蹴りを入れた。
三剣君は男がひるんだ一瞬のすきに、まだ動かせる左手で男の喉を掴み、呪文を唱え始めた。男は悶絶しながら、体全体から黒い靄が次々と蒸発させていく。
男「ぐがっ!!はなっ・・・っぐああああああああああああ!!」男は凄まじい悲鳴をあげながら靄とともに消えていく。三剣「これで終わりだ。全部なにもかも。」
いつまでも耳に残るような断末魔の叫びだった。私たちは靄が全て消えてからも、その場で動けず、黙りこくっていた。
「・・・七原が」 沈黙を破り、一ノ瀬君が口を開いた。「七原が、力をくれた」 見回すと、七原君はすでに消えていた。 私「七原君は・・・」
三剣「浄化されて、自分の身体に戻ったみたいだ」三剣君も安心したように微笑む。広がっていた黒い模様は消えていき、それは戦いが終わった証拠にも見えた。
「じゃあ、俺も」ふっと一ノ瀬君が眼を伏せた。「そろそろ、消えるんだな。・・・楽しかったな。大変だったけど、みんなとまた会えて、本当に良かった」
一ノ瀬「でも最後に、野球・・・やりたかったなぁ」 さびしそうに微笑む彼に、横から八坂君が飛びついた。「なんだよ、まだいるんだから、やろうぜ野球!俺、道具持ってきてんだから!」
私たちはグラウンドに出て、ポジションについた。ファーストが無人なことに気付いたが、誰も自分のポジションを変わる気はない。何よりそこは、七原君の場所だ。
一ノ瀬君がバットをかまえ、私に言った。「名無子、お前が投げてくれよ。俺、打ちたい気分」さわやかな笑顔だ。
私はマウンドに立ったまま、バッターボックスに向かう一ノ瀬君を見ていた。彼はミットをかまえた二階堂君と笑いながら言葉を交わし、腰を低く落としてバットをかまえた。
ふ、と視界がぼやける。胸に沸き起こる感情は複雑なものだったけど、それでも気分は晴れ晴れとしていた。袖口で涙を拭いながら、私は大きく振りかぶった。「一ノ瀬君、行くよ!」
一球目のスライダー。一ノ瀬君は見向きもしない。二球目のシュートも見送った。何かを待っているみたいだ。
一ノ瀬「名無子、あれ投げてよ。決め球のフォークボール!俺あれ、大好きなんだ」無邪気な笑顔をこちらに向けた。
私は涙をこらえながら、首を縦に振り、全身の力を振り絞ってフォークボールを投げた。
一ノ瀬君の顔つきが変わり、私のボールの軌道に焦点が合う。そして、力強く振られたバットがボールの中心を捉え…ボールは大空を舞った。
ボールが高く高く飛んでいくのを、私達は見送っていた。内野はもちろん、外野ですらも・・・。そのままボールはゆっくりと弧を描いて、学校の外へ落ちていった。
「場外ホームランだね!」 私は笑顔で、ホームへ声をかける。だが、そこに一ノ瀬君の姿は見えなかった。・・・塁を回ってる?サッと見回すが、どこにもいない。
まさか・・・三塁の三剣君と目が合うと、彼はそっと肯いた。それを見て我慢していた涙があふれてきて、思わずその場にへたり込む。
「早乙女」皆が心配して私の周りに集まってくる。そう、投球の調子の悪い時も、こうして集まって励ましてくれた。泣きじゃくる私の肩に、三剣君がそっと手を置いた。
三剣「一ノ瀬はいつでも俺たちを見守ってる。消えてしまっても、いつまでも仲間だ」そう言って私の頬の涙をぬぐう。私は頷きながらも彼の胸に顔をうずめ、涙を流し続けた。
それから私達は荷物をまとめ、校門を出た。私達を閉じ込めていた奇妙な結界も、綺麗に消え去っていた。
私「今度、七原君に会いに行こう。目が覚めなくても、顔を少し見るだけでもいいから」 それぞれに別れて、私は帰り道の同じ三剣君に話しかけた。
三剣「ああ」傷がまだ痛々しい。飄々とした顔で、短く答える。「一ノ瀬の墓参りもしよう」私は小さく肯いた。
三剣「早乙女さん」 急に立ち止まった三剣君につられるように、私の足も止まる。振り返って彼の顔を見上げると、三剣君の手が伸びて私の頬をそっと撫でた。 「……無事でよかった」
私は涙を堪え切れずに三剣君に抱きついた。彼は驚いたようだったが突然飛び込んできた私を軽々と受け止めてくれた。
私「っそうやって・・・いつも私のことばっかり!無事でよかったじゃないよっ・・・三剣君ボロボロじゃない・・・。」私は泣きながら彼の胸を叩く。本当に心配した。彼を失うと思うと怖かった。
彼は大きな手で私の髪を優しく撫でる。「俺は早乙女さんさえ大丈夫ならそれでいい」 私は泣きながら答える。「大丈夫じゃない。そんなの私が大丈夫じゃないよ」
私は涙を拭うと、呼吸を落ち着けた。そして正面から、三剣君の目をしっかりと捕らえる。「簡単にいなくなろうとしないで。ここに…私の傍にいてよ。ずっと……これから先も」
三剣君の目が驚いたように開かれる。「わ、私……私も三剣君のこと、す、好き…です」 私は今の気持ちを彼に伝えた。口に出してしまうと、自分が彼のことをどれだけ思っていたか知らされる。
「だって俺はもう…長くないし…君は一ノ瀬が」耳まで真っ赤になってしどろもどろになる彼の口を、私は自分の唇でふさいだ。
私「ねぇ、三剣君、私はこれからずっとあなたの側から離れないよ。春も夏も秋も冬もあなたを一人になんかしない。だから一緒に幸せになろう?いろんな人たちの想いの分もいっぱい二人で幸せになろう。」
驚いたように私を見つめる彼の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。その涙はやがてポタポタと落ちて地面にシミをつくる。彼は自分が泣いていることにも気づいていないようで、ただただ私を見つめている。
私は彼の溢れる涙をどうにか止めてあげたくて彼の涙の跡に口付ける。「遅くなってごめん。鈍感でごめん。好きになってくれて本当にありがとう。私もあなたが大好です。」
「今、幸せだ。見守ってくれてるみんなの分も、一生懸命生きる。そばに居てほしい」背中に回された腕に力がこもり、私を強く引き寄せた。
これからの私たちは決して楽しいことだけじゃないかも知れない。だけど私はこの奇跡に感謝したい。
そしてこれからもたくさんの奇跡を起こしていこう。私たちの生きている世界は、こんなにも綺麗なんだ。 終
乙でした
お疲れー もう過疎ってなくなるかと思ったけど完走したね
乙でしたー、なんとか終わって良かった 次は前スレでも出てたように戦隊ものがいいな 今回ドシリアスだったからギャグとシリアス両方な感じで 攻略対象は今回より少なめがいいね
アク禁でエンディングに間に合わんかった・・・ 自分は一ノ瀬が好みだったなあ。 次回自分もギャグまじりのテイストがいい。 攻略対象は4〜5人くらいで。
攻略対象以外は空気になりがちだからな あといつも気になるんだが、何故付き合ってもいないのにキスさせるんだろう? 勝手にキスしてくる男とか、正直引いてしまうんだが
× 攻略対象以外 ○ 恋愛フラグ立ったキャラ以外
今回は野球にしちゃったからな。バスケならよかったんだろうか。 でもメンバーの一人が敵なのはけっこうよかったかも。 あと二階堂のかませっぷりに泣いたw 確かに勝手チューは少女漫画だとありがちだけど 実際やられたらドン引きだよな
戦隊ものなら、最初からメンバーじゃなくスカウトされるところから始めてほしいな
いいな、日常は学園ものみたいにして
イケメンだけど変態で有名な先生がスカウトとか
キャラの個性がはっきりしてるのがいい
>>957 自分もw何やっても全くフラグが立たなかったなw
二階堂はヤンデレになると思ったが病む暇もなかったw
戦隊物か
もし黄色と恋愛ED迎えるなら神
>>959 二階堂は意外とキャラ立たなかったな
三剣が御祓い出来るキャラだったから、どうしても中心になっちゃうしね
このスレはたぶん譲が好きな人がいるなw 自分は窓から一ノ瀬と飛び降りるところで一ノ瀬押したくなったけど 死んじゃってること考えると押せなかった。残念 このスレは970位まで次のあらすじ(戦隊もの)の基本設定考えて そこからスレ立て、それ以降は次スレの絡みスレにするのはどうだろう
主人公はスカウトされるなら一芸に秀でたタイプ(運動部の主将とか)かな? あまりにも凡人だと目に留まらないし。
主人公はつっこみタイプがいいな
うん、運動神経でもいいし何か秀でた能力を持ってたほうがいいよね
あと敵にも一人くらい攻略対象欲しいな
>>961 何かしら眼鏡が出てきてワロタw
そうそう、眼鏡多かった。 眼鏡は一人だけでいいと思う。 テンプレだと クラスメイト・秀才・不良・後輩 あと先生と敵? イメージでは主人公は剣道とか合気道とかやってて 校内の有名人。
>>961 おk
>>961 そんな感じでいいと思う
後輩は個性的なメンバーの中の唯一の常識人で苦労人
不良は無理やり黄色をやらされてるといいよw
じゃあとりあえずスレ立ててみるか 以下絡みながら修正していくってことで。
>>967 乙!
テンプレ分かりやすくしてくれてありがとう
そういえば、300、600あたりで登場人物とあらすじを書いてくれた姐さん
目欄にこっそり乙と入れるくらいしか出来なかったけど、改めてありがとう
的確に纏め上げてくれていて、とても読みやすかったです
>>967 乙です!みんなコツ?みたいなのがわかってきたのか
ちゃんと話になってきてるよね。
個人的には3と4が好きだ。
>>969 自分は600をやったんだけど300の姐さんがかなり頑張ってくれた
>>970 乙でした、姐さん
自分はそういうのうまくできないから感謝してます
3とか普通に面白かったしこのスレ好きだ
4はホラーだからあまりギャグは入れられなかったんだろうけど 3の満足度が高かったのはバカな王子がいたからかも 王子可愛いよ王子
5の絡みレス 出来れば、主人公は女の子らしい喋り方で書いて欲しい テキストのみだから、男同士の会話かと思っちゃうんだよね 男勝りな性格でもいいけど、主人公が女だと分かるようにしてほしい
5の話、進み始めてるけどキャラはもう少し小出しでもいい気がする メンバーが集められたあとに、「あの有名なあいつも入ってるのか」的な要素も欲しい
まぁ、先は長いしね。のんびり行こう でも早く秀才蒼出てこないかなー 真面目な奴が戦隊ものってミスマッチで萌える
後輩が主人公より乙女な件
過疎スレで無茶ぶりイクナイ
確かに、難しかったり凝った展開にしたいなら、前振りだけじゃなくてそこまで書いてほしいね。 3の最終決戦の時に条件だけいくつも出されて丸投げとかきつかった。 (冷気魔法とペガサスとなんとかが必要なんだーってやつ) 終盤だったし、好きなスレだったからへたれた展開にしたくなくて頑張って考えたけど。 誰かのレス待つのもありだけど、もっと条件厳しくなったらもうだめだと思ったから 苦しみながらこじつけた覚えが・・・
>>974 そりゃそうだろ。三国志は日本の戦国時代に関する文献が基になってるんだから。日本での人気の方が高くて当然なんだよ。
戦後の中国人ともなるとほとんどその価値を解かる者がいないみたいだね。
特に類似した記述が多いのが太閤記で、あれだけの巨人を一人の人物として描く事はよほど難しかったらしく秀吉の様々な要素が曹操・劉備・孔明に分配されている。
呉の孫堅・孫策は秀吉ではなく織田信長・信忠父子が基ではないかと言われるがもしそうならかなり誤った描写も多い。
まあこれは例によってお得意の劣化コピーって奴だろう。
関羽なんか稀に韓国でも神のように崇めてる奴がいるそうだがモデルが誰なのか知ったらどうなっちゃうんだろうね。
きっと火病で卒倒してそのまま絶命しちゃうんじゃないかな。