首都移転

このエントリーをはてなブックマークに追加
 現在はややトーンダウンした感があるが、ここ十年ほど首都機能移転に関する議論が活発だ。
首都機能移転の第一の目的は「東京問題」の解決であり、過度に東京に諸機能が集中したために、
集中による混雑が集積の経済を上回ってしまったというのが一般的な見解である。
また、危機管理の面からも東京一極集中が危惧されている。
1.新首都の条件

・地方分権の徹底
 せっかく、首都機能移転を行っても、地方分権が徹底されず、現在の中央集権的な国と
 地方の関係が残ってしまえば、新首都に新たな集中を招いてしまう。国の試算では新首都の
 人口は60万人となっているが、徹底した地方分権を行えば、移転の規模はかなり
 小さくできるのではないか。

・良好な交通アクセス
 首都へは海外からも含め、長距離の移動が大半であるので空港及び高速輸送機関が
 必要不可欠になる。航空機での移動が大半であり、また地方分権が徹底され、首都への
 頻繁な移動が不要であるという前提にたてば、仮に新首都が日本の端であっても、
 空港が域内に整備されていればそれほど問題はない。むしろ、日本の中心に位置していても
 空港まで2時間かかる方が問題である。
 陸上交通は周辺ブロックだけからのアクセスを考えて整備すべきであり、日本各地
 と首都を高速交通網で結ぶのは無意味であり、無駄な投資である。首都を起点にツリー構造
 の高速交通網を築けば、首都の立地条件が好転し、政治機能だけでなく、経済の中枢機能の集中をもたらす結果になる。

・東京圏外
 新首都が東京圏内にあれば東京一極集中の解消にはつながらないので、新首都は東京から離れてなければならない。
 また、同様に大阪、名古屋からの距離も十分考慮すべきである。
・災害に対する安全性
 新首都は国の中枢管理機能であり、災害に強くなければならない。
 特に地震に対しては十分な配慮が必要である。

・環境に配慮した開発
 新首都は21世紀のまちづくりを象徴する都市であり、建設に際しては環境保全に
 十分配慮すべきである。丘陵を削って、海を埋め立てるやり方は20世紀でやめるべきだ。

・低コスト
 国の財政状況を考えれば、大がかりな投資は困難である。
 できるだけコストのかからない都市建設を行うべきである。

・インフラの整備
 新首都に必要な交通、商業施設、住居、上下水道等は当然整備しなければならない。
 しかも、環境への負担、コストを考えれば無理せず整備できる場所が望ましい。

・良好な都市環境
 新首都には首都にふさわしい住環境、景観が求められる。

・国際性
 新首都は日本の顔にふさわしい国際性を備えるべきである。

・ヒューマンスケール
 筆者はつくばに4年間いたが、とかく新都市は無機質で生活感が感じられないものになりがちだ。
 道路、公園等は機能的に整備されていたが、街並みはコンクリートの単体の集まりであり、
 その雰囲気は職人や駄菓子屋のおばちゃんの存在を拒否するようで、日本の原風景とはかけ離れたもの
 であった。一般に都市は人間の営みによって自然発生的に生じるものであり、人と人のふれあいや
 コミュニティの存在は都市での居心地を良くしてくれる。新首都が身の丈にあったスケールで、
 人間味を感じる自然発生的な雰囲気を持つものであれば、より愛着のわく街になるのではないだろうか。
2.現在の有力候補地

 現在有力候補地としてあがっているのは北東地域(阿武隈、那須・・)、東海地域(遠州、三河、東濃)、三重畿央地域(伊勢、関西学研都市・・)である。
 有力候補地はあがっているが、範囲が広すぎ具体性に欠けるため、上記の新首都の条件に照らしてどこがどう有利なのか見えてこない。
活発に誘致に動いている自治体もあるが、岐阜県知事の動きを見ていると、新首都のあるべき姿を論じるのではなく、オリンピックのような感覚で、
 ただ単に地元経済の浮揚ばかりを考えて、誘致活動を行っているようにうつる。また、半年ほど前、福島県の新聞広告も目にしたが、
 阿武隈高地の森林を開発して用地を確保し、港湾はいわき市、新潟市、空港は福島空港を利用するというのが概要であった。
 森林を切り拓き、自然破壊を行うことが前提なのに、豊かな自然に恵まれた環境をうたっているし、利用する港湾や空港への距離感は全くない。
 一度福岡空港に行ってみた方がよい。「利便性が高い」という言葉の意味が分かるはずだ。
 各候補地について熟知していないが、どこも大した理由はないように思われる。
 そこで、上記の新首都の条件にもっとも適していると思う(個人的に知っている範囲で)
 北九州を候補地にして、新首都としてのメリットを論じてみる。
3.北九州選定の理由

 新首都は、新規に自然破壊をして開発した土地にではなく、既存の都市に組み込む形の方が、
環境や、そこに住んで生活する人のことを考えれば望ましい。それには市街地に空地を持つところ
がよく、空洞化しており、しかもまとまった土地が入手しやすい工業都市が有利である。
空洞化しているということは、かつてそこに多くの住民が生活していたということであり、
新規に道路、上下水道、公園等のインフラを整備する必要がほとんどない。
 これらの条件に合うところは旧4大工業地帯の中にいくつかあると思う。しかし、北九州以外の
他の地域(東京・大阪・名古屋)は都市圏の規模が大きすぎて、混雑を加速する恐れがある。
また、地価、自然環境においても北九州に比べ圧倒的に不利である。
107あぼーん:あぼーん
あぼーん
4.新首都“北九州”の概要

 北九州は5市(門司・小倉・戸畑・八幡・若松)の合併により誕生した街であり、
他の都市に比べると求心的な都心を持たず、いくつかの中心市街地が東西に帯状に連なる
都市形態である。各地区は個性を持っており、首都機能を移転するとすれば、
1箇所にまとめて整備するのではなく、数地区にそれぞれの特色に応じて分散する形が適当である。
国会や、最高裁など枢要な機関は小倉の官庁街や駅北口に、外務は門司に、
環境は戸畑、経済産業は八幡にという具合に配置すれば、現在の線形の都市構造を崩すことなく、
既存の都市高速、国道3号、199号、JR鹿児島本線によって各地区は相互に結ばれる。
鹿児島本線には平行して貨物線が走っており、旅客の乗り込みが可能であれば、複々線化は容易である。
 どの候補地でも問題となる用地取得であるが、前述したように市中心部にはまとまった
工場跡地等の空地が存在しており、土地利用の転換が進んでいる。スペースワールドもその一つである。
また、北九州の工場群はかなり年代が経っていることもあり、今後も工場の移転に伴う低未利用地の発生が見込まれる。
5.新首都“北九州”のメリット
 ここでは、上記「新首都の条件」に照らし合わせて、北九州のメリットについて検討する。

良好な交通アクセス
 空港は2005年開港予定の新北九州空港が利用できる。新北九州空港は関門航路の浚渫土砂で埋め立てられた海上空港であり、24時間運用が可能である。
また、隣接する下関市には自衛隊の小月基地、芦屋町には芦屋基地があり、民間機の利用が可能になれば、域内に3つの空港を持つことになる。
 陸上交通は、九州と本州の結節点であり、西日本各地とは高速道路、新幹線と高速交通機関で結ばれている。
東北、北海道方面から離れてはいるが、航空機が利用できるのでまず問題ない。港湾は北九州港(外国航路:韓国、中国等 月175便)が整備されている。


東京圏外
 東京とは約1,000km離れており、東京問題の解決につながる。大阪からも約500km離れており、三大都市圏への影響はない。


災害に対する安全性
 一番甚大な被害をもたらす大地震の恐れはまずない。豪雪地帯でもない。


環境に配慮した開発
 市内中心部に散らばる工場、社宅、貨物駅跡地等を主な開発地と考えているので、新たに環境を破壊することはない。


低コスト
 インフラは既存のものが利用できるので低コストで済む。地価は、都市規模の割には安く、取得する地目が工業用地であればさらに安価で済む。

西日本主要都市の地価比較(H12)  
単位:円/u 市町村名 住宅地 商業地 工業地
北九州市 81,500 338,000 55,600 福岡市 156,200 648,500  
広島市 163,200 733,500 神戸市 218,400 727,600 大阪市 329,200 985,400
キャパシティの確保
 首都圏で特に問題となる水資源は、工場用水の再利用、工場の移転等により工業用水に
かなり余裕がでており、これを飲料用に転用すれば十分まかなえる。


良好な都市環境
 新首都は日本の顔であり景観は重要な要素である。北九州は大都市ではあるが
自然環境には恵まれており、市内には瀬戸内、玄海、北九州の3つの国立・国定公園があり、
海峡と都市と山が一体になった景観は他の都市にないものである。
 
国際性
 北九州はソウルから500km、上海から1,000kmの距離にあり、古くから大陸に開かれていた。
明治以降も門司には多くの商社が立ち並び日本のアジア貿易の拠点であった。
現在では公害を克服した環境技術を活かして、アジアへの技術支援を積極的に行っており、1992年には国際地方自治体表彰を受けた。今後、日本がアジアに重点を置いて外交を進めるのであれば、東京までの半分の距離でソウルに行ける北九州への移転は象徴的なものになる。


ヒューマンスケール
 首都機能移転は、新都市を開発するのではなく、既存の市街地に組み込む形を想定しているので、
つくばのような疎外感を覚える街並みではなく、旧来の市街地と連続した自然な街並みの形成が可能である。
残念ながら路面電車は廃止になったが、もう一度復活させ、街を車から人に取り戻す試みも必要である。


 以上、新首都の条件を北九州にあてはめてみた。
他の候補地との優劣は全てを認識していないので判断は難しいが、
少なくとも偶然新聞広告を見た福島よりも有利であると思う。
また、他の候補地も基本的には福島同様、新規に開発する方式であると
思われるので、自然保護、コスト、住環境の面から見て疑問が残る。