・・・・11月場所 千秋楽 11月27日 福岡
朝青龍が千代大海を豪快に吊りあげ、土俵に勢いよく叩きつける
朝「オイオイ〜、これじゃあモンゴルのガキの方が強かったぜ!!」
突然足を上げ土俵に這う千代大海の顔面をグシャリと踏みつけて高笑いする
「うわあぁぁッ・・・」
「キャーッ!」
横綱の突然の暴挙に騒然とする場内。
観客の悲鳴を心地良さげに聞きながら土俵下に目をやり不敵な笑みを浮かべる
朝「はるばる東の島国まで来たが、日本の相撲ってのはこんなに弱いのかよ。
強い奴はいねーのかっ!!」
土俵につばを吐く朝昇龍
その光景を目にし、ゆっくりと土俵際の一人の男が立ち上がった・・・
無言のままおもむろに帯をほどき紋付袴を脱ぐ男
貴「親方ッ!いったい何を・・・・」
傍らにいた貴乃花が声をかける
男「強い奴・・・、か・・・」
勢いよく投げ捨てられた上着が映る
男「貴様に・・・」
手に持った長い帯が映る
男「伝統の重さというものを・・・」
着物の下からは筋骨隆々の肉体が現れる
男「・・・、教えてやる・・・」
貴「そ、その身体は・・・、まさか・・、ウルフといわれた全盛期のままだ・・・」
ゆっくりと漆黒のまわしを締め、土俵に上る男ッ
その男・・・、 第58代横綱 千代の富士
高砂「貴様ッ!何をする気だ!!親方とはいえ許さんぞ!!
土俵から引きずり落とせ!!!!」
高砂部屋の若い衆が千代の富士を土俵から引きずり落としにかかる
千「・・・どいていろ」
素早い動きで瞬く間に豪快な上手投げを決める千代の富士
千「お前達はまだ相撲を取っていたいだろう」
高砂部屋の若い衆はその千代の富士から出る威圧的なオーラに動けずにいる
千代の富士は仕切り線まで進み、垂直に足を上げる美しい四股を踏んだ
朝「クックック・・・、なンだ・・・ヤル気満々じゃないっスか・・・
俺は老人にも、手加減なんてする気ないっすよ・・・・」
千「貴様の望み叶えてやろう・・・、その相撲人生と引き換えにな・・、さあっ来いッッ!!朝昇竜」
土俵に手を着き構えを取る千代の富士
朝青龍もただならぬ気配を感じ、真剣な顔つきになる
朝「殺すつもりで行くぜ!、千代の富士!!」
朝昇竜も土俵に手をのばし構えを取った
その瞬間、事の成り行きを無言で見守っていた場内は総立ち。
朝青龍コール、千代の富士コールで会場が揺れる。
同時刻〜NHK放送センター〜
AD「ど・・・どうなってんスかこれ・・・」
ディレクター「止めましょう!それにもうニュースの時間が・・・」
プロデューサー「いや、このまま流せ・・・」
ディレクター「いや、しかし・・・」
プロデューサー「馬鹿野郎ッ!この勝負を見たくないヤツが日本のどこにいるッ!!
ニュースなんてどうだっていいッ!俺が全責任を取るッ!!このまま流せッ!!!」
NHKはニュース延期でこの世紀の一番の放送を決定。
同時刻〜観客升席〜
老人「青年よ、この勝負どちらが勝つと思う?」
青年「へっ?そりゃあ朝青龍でしょう、なにせ現役横綱だし、
相撲通の間じゃ史上最強とも呼ばれてるとか・・・」
「フフ・・・史上最強か・・・」
「それに知ってますよ。千代の富士ってここ一番って時に勝ち星を買ってたんですよね」
「フフフ・・・そうか・・・アレは今・・・そのように伝わっておるのか・・・」
「昔な・・・横綱となった千代の富士は相手を壊さないように気を遣って相撲を取っておった」
「まともにやり合えば相手が壊れてしまうことを奴は知っておったのじゃよ」
「じゃが、ここ一番という時には自分を抑えきることが出来ず、
何人もの力士の相撲生命を絶ってしまっていた・・・」
「そんな千代の富士にここ一番で当たると知り、恐怖に震えた相手力士はどうしたと思う?」
「さ・・さあ・・・」
「フフ・・・彼奴らは訪ねたのじゃよ、取り組み前日に千代の富士を・・・札束を携えてナ・・・」
「そんな・・・それじゃあ・・・」
「そう、彼奴らは千代の富士に星を売っていたンじゃあ無い・・・
買っていたンじゃよ・・・自らの身の安全をナ・・・」
「まあ、信じるも信じないもお前さんの勝手じゃがな・・・」
再び土俵上
怒号にも近い歓声の中、睨み合う二人。
千「どうした・・・来ないのか?ならばこちらから行くぞッ!」
朝「クククッ・・・あンたの伝説も今日で終わりだッッッ!!!」
と同時に、二つの肉体が凄まじい音を立てながらぶつかりあう。
滴る汗が弾け飛び、光を反射して一瞬二人の姿が見えなくなった。
勝負は一瞬・・・
観客が目にしたものは土俵に崩れ落ちる肉体と、
土俵上にしっかりと立つもう一つの肉体だった。
土俵上から観客の大歓声に応える事も無く、どこか悲しげに天を見上る男がいた
その男の名は・・・
曙太郎